老化速度のモニターと対策を可能にするHumanity

いまやほとんどの人が、歩いた歩数、心拍数、体重などを記録できるウェアラブルデバイス、いわゆる「デジタル・バイオマーカー」を監視するアプリに慣れ親しんでいる。近年では比較的簡単な方法で、コレステロールのレベルなどの「生物医学マーカー」の監視を可能にするというスタートアップも現れている。まだ数は少ないが、彼らはバイオマーカーと生物医学マーカーの両方を監視することで、私たちの体の状態を全方位の視野で監視できる手段を探っている。

その中間の位置に、まさにその2つの合体を目指すHumanity(ヒューマニティー)が躍り出た。2人の経験豊富な起業家によって創設された同社は、デジタルおよび生物医学のバイオマーカーを統合した一般消費者向けアプリを、来年本格的にローンチさせる予定だ。

米国時間8月20日、同社は最初のシード投資となる250万ドル(約2億6000万円)を調達したと発表した。このラウンドは、ボストンのファンドOne Way Venturesと、長年のヘルステック系エンジェル投資家として高名なEsther Dyson(エスター・ダイソン)氏をはじめとする投資家たちが主導している。

歴史あるソーシャルネットワークWAYN(ウェイン)の共同創設者でもあり、多くの企業を立ち上げてきた起業家Peter Ward(ピーター・ウォード)氏と、元Badoo(バドゥー)のMichael Geer(マイケル・ギア)氏は、AIを駆使して人の健康寿命を最大限に延ばす健康と長寿のための企業で「人類の生活をより健康に、より長生きにしたい」と考えている。

彼らの狙いは「実際の老化速度」をモニターできる能力をユーザーに与え、どの行動が有効でどれが無意味かを示し、どうすれば老化プロセスを逆転させられるかを教えることにある。

彼らは、George Church(ジョージ・チャーチ)氏やAubrey de Grey (オーブリー・デ・グレイ)氏など、遺伝学と老年学の世界的権威をも引きつけ、同社の科学諮問委員会に招き入れた。

デ・グレイ氏は、老化防止技術の研究を奨励するMethuselah Mouse Prize(メトセラマウス賞)の運営団体Methuselah Foundation(メトセラ財団)の共同創設者として有名だ。

声明の中で、デ・グレイ氏は「世界の科学者は、ますます老年学に注目するようになっています。そのお陰で、画期的な大発見が加速度的に増えています。しかしながら、我々にはまだ、それらの発見を人々に直接届ける手段がありません。それを解決しようとしているのがHumanityであり、私が勇んで彼らの使命を支援するのは、そのためです」と語る。

Humanityの筆頭投資企業であるOne Way Venturesの業務執行社員Semyon Dukach(セミョーン・ドゥカチ)氏は「我々はこのラウンドを、一般消費者向け技術と健康分野の主要ファンドやエンジェルといった数多くの素晴らしい投資家とともに主導できたこと、そしてこの類い希なチームを支援できることを誇りに思います。我々はHumanityの使命を信じ、人々にこうした製品を提供するには今以上の好機はないと確信しています」とコメントしている。

ウォード氏は「病気を避けて老化を遅らせることに関して、多くの人が無力感を覚えています。世界に新型コロナウイルスが蔓延する中で、老化と体の不調がリスクを大幅に高めることを、我々はみなはっきりと認識しました。人々の最大の関心は、日々どのような行動をとれば健康を長期にわたって維持できるのか? という当然のものです」と付け加えた。

ギア氏は「人はこれまで、健康のために行っていることが本当に役に立っているのかどうかを知るための、正確で明確なフィードバック・ループを手にしたことがありません。我々は、まさにそのスーパーパワーを提供したいのです」と説明する。

Humanityは現在、その製品のアルファ版を「数百人のユーザー」を対象にテストしているところであり、いち早く使いたい人たちが「数千人」待っているという。アプリは、2021年の早い時期に英国と米国でローンチされる。2020年には世界医展開される予定だ。
画像クレジット:Humanity

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(翻訳:金井哲夫)

MITが複数の人工臓器をペーパーバックサイズで相互作用させる装置を開発

開発中の薬が人間の生理にどのように影響するのかを見たい場合、選択肢は限られている。多くの場合はマウスを使うことになるが、様々な意味で人間との類似度は高いものではない。薬理学者はどうすれば良いのだろうか?MITの研究者たちが新しい解を見つけた:数百万個の生きた細胞を使って、相互に接続された最大10個の人間の臓器をシミュレートする、「身体チップ」(body on a chip)を開発したのだ。

マウスは人間ではないという、そもそもの問題を理解するのは難しくない。そしてそれを使った試験にも必然的に限界があることも容易に想像できる。「臓器チップ」(organ on a chip)プラットフォーム(より正確には「微小生理システム」(microphysiological systems)だが)は既に、相当数のものが存在している。それらは有益なものだが、臓器は単体で存在しているわけではない。個人ごとに異なる複雑なシステムの一部なのだ。

例えば、肝臓の細胞に対して薬のテストを行っていて、実は腎臓で産生されている物質への影響を考慮に入れていなかったらどうなるだろう?あるいは、薬の副産物が複数の臓器間の重要な相互作用を妨害してしまうとしたら?答に窮すると思う。私も医者ではないが、今回のアイデアはここから生まれたのだ:こうした複雑さを考慮しなければ、テストは不完全である。マウスについて良い点は、少くとも彼らは完全な生物であることだ。

身体をより良くシミュレートするために、MITの研究者たちは、10の臓器組織を別々の区画に入れ、それらの間の物質および薬物の流れをリアルタイムで制御できる、より複雑なプラットフォームを作成した。

MITのニュースリリースでは、これを「身体チップ」(body on a chip)と呼んでいるが、本日Science Advancesに掲載された論文によれば、研究者たちはその呼び方を気に入ってはいないようだ。彼らが好むのは「微小生理システム」(microphysiological system)という名前だが、その理由は「こう呼ぶことで、あたかも全ての臓器がチップ上に再構成されているという誤った印象を避けることができる」からだ。まあ読者はお望みの名前で呼べば良い。どうぞご自由に(「フィジオームチップ」(Physiome on a Chip)というのも人気のあるオプションだ)。

論文にも示されているように、少数の臓器組織を用いてこうしたことを行うことは珍しいことではない、しかし10もの臓器組織を用いて何週間も維持させることは前例がなかった。そしてこの種のシステムの能力に関する大きな飛躍を示しているのだ。それだけでなく、これまでの微小生理システムでは、実験途中で組織を採取したり操作したりすることが困難だった。

論文で研究者たちは、肝臓、肺、腸、子宮内膜、脳、心臓、膵臓、腎臓、皮膚、そして骨格筋といった、最も一般的に試験される臓器を多数テストしている。そうすることで、薬剤を腸に投与して、他の臓器に渡す前に正常に処理を行わせ、その後各臓器で処理を行ったあと、さらに物質を渡していくという操作が可能になる。

複数の実験やシステムを必要としていたものがより迅速に、そしてより体内での作用に近い方法で実施できるようになる ―― マウスを使うことなしに。

「私たちのプラットフォームの利点は、それをスケールアップしたり、スケールダウンしたりすることで、さまざまな構成に対応できることです」と説明するのは、論文の主要著者の1人であるLinda Griffithである。「私は、3臓器や4臓器のシステムからより多くの情報をとり始めるようにこの分野が移行するだろうと考えています。取得する情報の価値が非常に高いため、コスト競争力を持つようになるでしょう」。

これは良い知らせだ。結局のところ、すべてを動かすのはコストだからだ。もしこの仕掛が上手く動いたとしても、大勢のインターンを使って行う簡単な実験よりもコストが20倍掛かるなら、大手製薬会社はインターンを使い続けることだろう。

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(翻訳:sako)

DARPAが小型で並列性の高い双方向脳コンピューターインターフェイスの開発に6500万ドルの研究資金を提供

DARPAは6500万ドルの新規ファンドを用いて、人間の脳がコンピュータインタフェースと直接対話することを可能にする神経インプラントの開発を目指している。Neural Engineering System Design( NESD:神経エンジニアリングシステム・デザイン )プログラムの一環として、DARPAは5つの学術研究グループとサンホセに本社を置く1つの小さな企業に資金を提供し、その目標をさらに進める。

DARPAが興味を持っていることの雰囲気を味わってもらうなら、例えばブラウン大学のチームは、大脳皮質の上または中にインプラントとして装着することのできる「ニューログレイン」の広大なネットワークに編み込むことのできるインターフェイスを作成しようとしている。これらのセンサーは、脳がどのようにして音声言語を処理し、解読しているかを理解する目的のための、リアルタイム電気通信を行うことができる。これに関わる脳の働きは極めて複雑で自動的なもので、この側面はいまだに研究者たちを悩ませている。

資金提供を受ける6組織のうち4つは視覚知覚に興味があり、残りの2人は聴覚知覚と発話に関する研究を行っている。MIT Technology Reviewによれば、資金調達ニュースに含まれている唯一の企業であるParadromicsが、約1800万ドルを受け取ると報じている。ブラウン大学のチームと同様に、Paradromicsは資金を利用して、音声を解読し、解釈することができる補助装置を開発する予定だ。

受け取り側の組織は皆、熱烈に目指している高い目標のリストを持っている。DARPAにとって開発が最優先されるテーマは、1度に100万ものニューロンからの信号を記録することのできる「高分解能」神経インプラントを開発することだ。さらに加えて、デバイスは双方向通信を提供することを要求している。信号を受信するだけでなく、信号を送信することも可能にするのだ。そして、もはや2枚の硬貨が重ねられたようなものではないパッケージングが求められている。

「NESDは、高度な神経インタフェースの能力を増強し、100万以上のニューロンを並行して扱うことにより、脳の豊かな双方向コミュニケーションを、その器官の基礎となる生物学、複雑さ、機能の理解を深めるのに役立つスケールで実現することを目指しています」と、NESDの立案プログラムマネージャであるPhillip Alveldaは述べる。

NESD資金受給者の全リスト:

研究チームは、4年間のプログラム期間中、DARPAの夢のインプラントを人間の脳内および脳表面に装着することによる、長期的な安全性の影響について、FDAと調整を行なう予定だ。

しばしば脳コンピュータインターフェース(BCI)と呼ばれるこのテクノロジーが、なんらかの進展をみせた場合、広大な可能性の世界が開かれる。例えば外傷性脳傷害からのリハビリへの利用から、WhatsAppメッセージを考えただけで入力できるようになるまで、BCIは現代技術のあらゆる面に革命を起こす可能性がある。しかし、たとえ資金が流入しても、このような技術を開発する際の課題は無限に残る。日常身に付けることができるほど、ハードウェアはどれほど小さく非侵襲(ひしんしゅう)的なものにできるだろうか?人間の脳への直接的なリンクを作るというプライバシー上の悪夢を考えたとき、どうすればそれらを保護することができるのだろうか?

実用的な脳とコンピュータのインターフェースを作り出すことは、最も難しいハードウェアと最も難しいソフトウェアの問題をなんとか織り交ぜて行くことが必要な挑戦だ。そしてもちろんDARPAは、近未来の双方向性脳インプラントの橋を建設することに関心を持っている唯一の資金潤沢な組織ではないが、その防衛予算と学術的なコネクションを考えれば、間違いなく私たちが賭けるに値する馬だ。

DARPA

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(翻訳:Sako)

Spirocallは専用アプリなしで世界の誰もが肺の検診を受けられるサービス

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最近のスタートアップの多くは利己主義で近視眼的だと批判されることがある。そうした時代に「今までなぜこういうテクノロジーの応用がなかったのか?」と思えるほど画期的で、しかも実際に人々のために役立つサービスを発見するのはすばらしい経験だ。

Spirocallはまさにそのような例だ。無料通話番号に電話するだけで世界中の誰でも肺の健康診断を受けることができる。そう聞けば話がうますぎると思われるかもしれない。しかしこれは現実のサービスで、しかも実際そのとおりに機能する。

肺の疾患は世界で毎年何十万という命を奪っている。しかも喘息のような慢性疾患の患者は何百万人にもなる。途上国の遠隔地では状況は一層悪い。検診を実施できる医師も設備もほとんど存在しないからだ。

プロジェクトのニュースリリースで、サービスを開発したチームのメンバーであるワシントン大学の博士課程の大学院生、Mayank Goelは「一部の地方ではそのような検診を受けるために何日も旅行しなければならないことがある」と述べている。

Spirocallは肺機能の検診で重要な役割を果たすスパイロメーター(肺活量計)という機器の機能を再現する。このサービスは肺がどれほどの空気を吸入、保持できるかを音響によって測定し、これによってさまざまな重要な診断が可能になる。しかも診断を受けるためには普通の電話で息を吐き出すだけでよい。

チームを指導したワシントン大学のShewak Patel教授は「われわれはこのサービスをスマートフォン、フィーチャーフォン、固定回線、公衆電話、その他あらゆる種類の電話に対応させた」と述べた。

プロジェクトがスタートした2012年だが、まずスマートフォンのみに対応するアプリが開発された。しかしその後チームはアメリカ、インド、バングラデシュで4000名以上の患者からデータを収集し、サービスをクラウド化することに成功した。

ユーザーは 1-800の無料通話番号に電話するだけでよい。電話の指示にしたがって息を吸い込み、強く吐き出す。.この音がサーバー側で過去のデータと照合、分析され、肺活量が測定される。原理はシンプルだ。

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テストの結果、Spirocallの測定は商用医療機器である肺活量計の測定との誤差が6.2%であることが判明した。誤差の範囲として十分に実用的な数値だった。強く息を吐き出すことができない患者や十分に感度の高い電話にアクセスできない人々のために3Dプリンターで出力可能な一種のホイッスルも用意された。このデバイスは息を吐き出す音を増幅して診断に役立てる。

われわれの取材に対し、Goelはメールで「さまざまな種類の電話のさまざまなマイクに対応させることがシステムの精度を高める上で非常に重要な意味を持った」と書いている。このシステムは電話の種類と性能をその場で判断することができる。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+