タカラトミーとJAXAなどが共同開発した変形型月面ロボSORA-Qが月着陸実証機SLIMに搭載決定

タカラトミーとJAXAなどが共同開発した変形型月面ロボSORA-Qが月着陸実証機SLIMに搭載決定

変形型月面ロボット「SORA-Q」。画像中央部分左側が変形前、右側が変形後

タカラトミーは3月15日、JAXAなどと共同開発した超小型変形型月面ロボットが、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」に搭載され、月面でのデータ取得を行うことになったと発表した。これでこのロボットは、ispace(アイスペース)の月着陸船「HAKUTO-R」による月面探査と合わせて、計2回の月面ミッションを実施することになる。またこれまでのLEV-2という名称に代えて、「SORA-Q」(ソラキュー)という愛称が与えられた。

SORA-Qは、運搬時(変形前)は直径約8cm、重量約250gの球体だが、月面の放出されるとすぐに、走行可能な形態に変形する。球体が左右に開いて車輪となり、中央には前方撮影用カメラがせり上がり、後方には後方撮影用カメラと尻尾のようなスタビライザーが展開される。車軸を偏心させることで、レゴリス(月面の細かい砂)に覆われた傾斜地も乗り越えることができ、転倒しても起き上がれるようになっている。撮影した画像はSORA-Q自身が選別して、ペアで行動するもう1つの小型ロボット「LEV-1」にBluetoothで送られ、着陸船を介さず、そこから直接地球に送信される。

ミッションは、レゴリス上を移動して走行ログを取得して保存すること、着陸機周辺を撮影して画像を保存すること、画像データ、走行ログ、ステータスを「LEV-1」経由で地球に送ることなどとなっている。将来の月面有人自動運転技術や走行技術の検討に必要な月面データを集めることが狙いだ。ミッション実行時間は、1〜2時間が予定されている。

タカラトミーとJAXAなどが共同開発した変形型月面ロボSORA-Qが月着陸実証機SLIMに搭載決定SORA-Qという名前には、宇宙を意味する「宙」(そら)に、Question(問い)、Quest(探求)を表す「Q」をつなげているが、「Q」には「球」の意味もある。運搬時の体積を最小限にでき、着陸の衝撃に耐え、どの角度に放出されても展開できることから、球体が選ばれた。そこから月面活動ができる形態に変形させる技術には、変身ロボットやメカニズムの小型化といったオモチャの開発で蓄積されてきたタカラトミーの知見が活かされている。JAXAと共同で20回以上もの試作を重ねた末、ようやく完成させた。そもそもこのプロジェクトは、JAXAの「宇宙探査イノベーションハブ」共同研究提案公募の枠組みで2016年に開始したものだが、2021年にはソニーグループ同志社大学も参加している。

画像クレジット:
JAXA
タカラトミー
ソニー
同志社大学

千葉工業大学の宇宙塵探査衛星ASTARISC、大面積膜型ダストセンサーを展開し軌道上実証に成功

展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像。センサーが固定されたパドル面には、千葉 工業大学の校章とPERCのロゴが印字されている

展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像。センサーが固定されたパドル面には、千葉
工業大学の校章とPERCのロゴが印字されている

千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は2月15日、宇宙塵探査実証衛星「ASTARISC」(アスタリスク)がJAXAのイプシロンロケット5号機で高度約570kmの地球周回軌道に打ち上げられ、初期運用に移行したことを発表した。

ASTARISCは、宇宙塵や微小なスペースデブリを観測するための、サイズが30×10×10cmというU3超小型衛星。世界初の方式による、展開すると30×30cmになる膜状の粒子観測装置(ダストセンサー)を搭載している。ダストセンサーは、ポリイミド製の膜に圧電素子を接着したもの。この膜に宇宙塵やスペースデブリが衝突すると、そのとき発生する弾性波を電気信号としてとらえ、独自の信号処理によりリアルタイムで粒子を観測できる。粒子が膜に衝突しさえすれば検出できるので「膜の面積を大きくするだけで大面積のセンサーを容易に実現できる画期的な技術」とのことだ。

千葉工業大学の宇宙塵探査衛星ASTARISC、大面積膜型ダストセンサーを展開し軌道上実証に成功

ASTERISC外観写真。写真左は、展開前の衛星外観。写真右は、30×30cmの膜型ダストセンサー(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の衛星外観。膜型ダストセンサーの膜面には、受信用の8個の圧電素子と2個の試験信号用の圧電素子が接着されている

 

千葉工業大学の宇宙塵探査衛星ASTARISC、大面積膜型ダストセンサーを展開し軌道上実証に成功ダストセンサーは、センサーの健全性と展開実施の要件を確認したあと、ニュージーランド上空付近で展開された。タイマーコマンドにより自律的に展開されたが、オンボードカメラの映像などによって、設計通りの形状で展開されたことが確認できた。すでに「真の粒子観測イベント」と判定できるデータが得られているとのこと。観測された粒子は、0.1〜1μm(マイクロメートル)程度のサイズと推定され、センサーが設計通りの感度を有していることも実証された。今後は、長期的な観測により、軌道上の粒子の量・飛来方向・運動量などを明らかにできるとしている。

宇宙塵は、太陽系の形成に大きく関わる重要な微粒子で、原始の地球に降り注いだ宇宙塵由来の有機物が生命の起源ともいわれている。また、スペースデブリの定量的な観測と評価も、今後の宇宙開発において重要な意味を持つ。しかし、宇宙塵や微小なスペースデブリを地上から観察することはきわめて難しく、その分布や量などの特性を調べるには、直接宇宙で観測しなければならない。

ただ、宇宙空間での宇宙塵や微小スペースデブリは存在が大変に希薄であるため、それらを観測するには大きな検出面積を持つダストセンサーが必要となるが、これまでの方式ではコストの面などで大型化が困難だった。そこで惑星探査研究センターは、容易に大面積化できるこのダストセンサーを開発した。

ASTARISCは、惑星探査研究センターと東北大学が共同で開発したもの。今回は同時に、将来のミッションを視野に入れた国産の衛星バス技術(電源系、通信系、データ処理制御系、姿勢系)の軌道実証も行い、成功している。

アークエッジ・スペースがJAXA「『⽉⾯活動に向けた測位・通信技術開発』に関する検討」委託先に選定

アークエッジ・スペース、JAXAの「『⽉⾯活動に向けた測位・通信技術開発』に関する検討」の委託先に選定、コンソーシアムにて開発計画を検討

アークエッジ・スペースは1月11日、JAXAの公募型企画競争(コンペ)「『⽉⾯活動に向けた測位・通信技術開発』に関する検討」の委託先に2021年12月22日に選定されたこと、同時にKDDIや東京大学などとコンソーシアムを組織し、月探査のための測位・通信システムの総合アーキテクチャーなどの開発検討を行うことを発表した。

アークエッジ・スペースは、超小型衛星の製作運用などを行う東京大学発の宇宙企業。コンソーシアムのメンバーは、アークエッジ・スペースの他、ispace、AAI-GNSS技術士事務所、清原光学KDDIKDDI総合研究所東京大学大学院工学系研究科三菱プレシジョンの7団体となっている。そこで、2022年1月初旬から3月25日まで、月探査の基盤となる測位・通信システムの総合アーキテクチャー、月測位衛星システム、月と地球を結ぶ超長距離通信システムなどの開発計画を検討する。これを通して、国際的な技術調整の場で提案できるアーキテクチャーの設定や、そのアークテクチャーに必要なキー要素技術の研究開発を加速するという。

アメリカが中心となって進められている国際宇宙探査計画「アルテミス計画」の中で、日本は測位や通信といった基盤を「早期に整備し、リードしていく」ことが求められているとのこと。産官学連携でスピーディに技術開発や実証を推進し、「日本の持続的な月・月以遠の深宇宙探査や月面産業の構築に貢献していきます」とアークエッジ・スペースは話している。

「はやぶさ2」が持ち帰った試料の初期記載データが公表、リュウグウは水と有機物に富む原始的な小惑星だった

はやぶさ2が持ち帰った試料の初期記載データが公表、リュウグウは水と有機物に富む原始的な小惑星だった

2020年12月に小惑星リュウグウから帰還した「はやぶさ2」が持ち帰った試料の初期記載(カタログ化)に関する論文が、12月21日、イギリスのオンライン科学雑誌「Nature Astronomy」に掲載された(「Preliminary analysis of the Hayabusa2 samples returned from C-type asteroid Ryugu」「First compositional analysis of Ryugu samples by the MicrOmega hyperspectral microscope」)。同試料から、リュウグウが水と有機物に富む原始的な小惑星であることがわかってきたという。

リュウグウが、炭素、有機化合物、水を含む炭素質のC型小惑星であることは、地上からの観測でわかっていた。この小惑星を探ることで、原始的な太陽系の様子がわかり、今の地球の成り立ちや生命の発生に関する手がかりがつかめる。地球には、炭素質コンドライトというC型小惑星とほぼ同じ組成の隕石が少数飛来していて、それを調べて太陽系形成期のプロセスを解明しようとする研究がなされている。だが、炭素質コンドライトはC型小惑星から飛来したと考えられるものの、物的証拠はこれまで得られていない。「はやぶさ2」ミッションの目的は、それを確かめるために、C型小惑星のリュウグウから直接試料を採取してくることだった。

JAXAでは、リュウグウの2カ所の表層から採取した計5.4gの試料を、フランス宇宙天体物理学研究所(IAS)で開発された赤外分光顕微鏡マイクロオメガを使って分析した。近赤外線の波長帯で試料を観察することで、それを構成する鉱物や、そこに存在する分子を調べることができるというものだ。それによると、地上観測で得られていた小惑星全体の特徴が反映されていることがわかった。リュウグウは、水や有機物に富む原始的な小惑星だったということだ。だが既知の隕石との比較では、炭素質コンドライトの中のCIコンドライトにもっとも似ていたが、密度が小さいことと反射率が低い点で異なっていたという。

この帰還試料は「実験室で入手できる最も始原的な試料の一つであり、太陽系の起源と進化の概念を再考させることになるであろう、唯一で貴重なコレクションである」とJAXAでは話している。今後は、初期分析、2次キュレーション分析、公募分析とより詳細な分析が行われる予定だ。

画像クレジット:JAXA

「地球外文明からのメッセージかも」と話題になった謎の電波信号BLC1が分析される

「地球外文明からのメッセージかも」と話題になった謎の電波信号BLC1が分析される

ESA/Hubble & NASA

オーストラリアのパークス天文台の観測データから検出され、「地球外文明からのメッセージかも」と話題になった謎の電波信号BLC1(Breakthrough Listen Candidate 1)ですが、残念ながら宇宙からのメッセージではなかったことが判明しました。2021年10月25日付の科学ジャーナル「Nature」が報じています。

BLC1は、ロシアの資産家が出資して行われた地球外生命体を探査するプロジェクト「ブレイクスルーリッスン」で発見されました。同プロジェクトは、複数の天文台で得られたデータから「地球外生命体が存在する痕跡」を探しており、オーストラリアのパークス天文台の観測データを調べたところ、謎の電波信号が検出されたといいます。

パークス天文台の観測データは「プロキシマ・ケンタウリ」という星の観測プロジェクトで得られたもので、地球の環境下で得られるものとは異なる電波信号でした。また、プロキシマ・ケンタウリには「プロキシマ・ケンタウリb」「プロキシマ・ケンタウリc」という2つの惑星があることも、「地球外文明からのメッセージでは」という期待に拍車をかけました。

宇宙から飛来した電波と期待される一方で、BLC1は解析が進んでも同様の信号を再び捉えられることはありませんでした。また、パークス天文台では過去に家電製品の電波干渉がデータに取得されていたこともあり、「天文台内や近辺からの電波干渉」という可能性も高まります。

「ブレイクスルーリッスン」はBLC1を解析する中で、過去のプロキシマ・ケンタウリの観測データも調査。するとBLC1に似た信号が約60も検出され、プロキシマ・ケンタウリとは別の方向からのものも中にはありました。

さらに、BLC1の周波数は、一般的に使用される発振器が持つ周波数と同様であることも分かり、BLC1は宇宙からのものではなく、地球由来であるという結論に至りました。

残念ながら宇宙からのメッセージではなかったと結論付けられたBLC1ですが、同プロジェクトでは今後もプロキシマ・ケンタウリの観測を続けるといいます。また、BLC1のデータはより多くの科学者が研究できるよう一般公開するとのこと。さらに研究が続けば、いつかは本物の宇宙からのメッセージが検出されるかもしれません。

(Source:NatureEngadget日本版より転載)

JAXAが有人与圧ローバー実現に向け変形型月面ロボットによる月面データ取得の実施決定、タカラトミー・ソニー・同志社大と共同開発

JAXAが「有人与圧ローバー」実現に向け変形型月面ロボットによる月面データ取得の実施を決定、タカラトミー・ソニー・同志社大と共同開発

変形型月面ロボット(左:変形前、右:変形後)

JAXAは5月27日、月面での人の移動に使われる「有人与圧ローバー」の実現に向け、月面でのデータ取得を行うと発表した。これには、JAXA、タカラトミー、ソニー、同志社大学と共同開発する変形型月面ロボットが使われ、月面投入はispace(アイスペース)が2022年に打ち上げを予定している月着陸船が使われる。

JAXAは、2019年から有人与圧ローバーの概念検討を行っており、自動運転技術や走行技術の詳細を検討するためには月面の画像データなどが必要だと判断した。そこでispaceの月着陸船で変形型月面ロボット1機を月面に送り込み、レゴリス(月面の砂)の挙動や画像データを月着陸船経由で地上に送ることを決めた。取得したデータは、有人与圧ローバーの自己位置推定アルゴリズムの評価、走行性能へのレゴリスの影響評価などに用いられる。ispaceの月着陸船は、変形型月面ロボットを月に送り込みデータ通信を行わせる目的で、競争入札により選定され2021年4月に契約を締結したもの。

ispaceの月着陸船

変形型月面ロボットは、2016年に実施された第1回JAXA宇宙探査イノベーションハブ(Tansax)の研究提案公募でタカラトミーによって提案された重量約250gの自走型の超小型ロボット。月着陸船には、直径約8cmの球状になって搭載され、月面に展開された後に走行用の形状に変形して活動を行う。

2016年よりJAXAとタカラトミーが筐体の共同研究を開始し、2019年にソニー、2021年に同志社大学が参加した。タカラトミーと同志社大学の筐体の小型化技術、ソニーによるSPRESENSEを使った制御技術、JAXAの宇宙環境下での開発技術と知見がそれぞれ生かされている。

関連記事
日本の宇宙企業ispaceの月着陸船がカナダ宇宙庁とJAXAからペイロード輸送を受託
JAXAと鹿島建設が月面有人拠点建設のための遠隔施工実験を実施、好成績を確認
日本の宇宙開発スタートアップispaceが月着陸船「HAKUTO-R」の最終デザイン公開、2022年の初ミッションに向け

カテゴリー:宇宙
タグ:ispace(企業)宇宙(用語)SPRESENSE(製品・サービス)Sony / ソニー(企業)JAXA / 宇宙航空研究開発機構(組織)タカラトミー(企業)同志社大学(組織)日本(国・地域)

NASAが木星の衛星エウロパの「氷の海」探査ミッションを正式発表

NASAは、木星の衛星エウロパの探索ミッションを実施することを正式に発表した。同ミッションは2017年からNASAが実現方法を探求していたが、このほど計画の詳細を設計するは運びとなり、実際に使用する宇宙船および搭載する科学実験装置などの製造へと進む。

エウロパ・クリッパーと呼ばれる探査計画のゴールは、木星を周回する氷で覆われたこの衛星の気候下で生命の維持が可能であるか、居住、植民が可能であるかどうかを調べることだ。加えて、人間が接近して直接探査することで、エウロパをもっとよく知ることができることは間違いない。

エウロパは巨大ガス惑星である木星の知られている衛星79個のひとつで、太陽系全体で6番目に大きい衛星だ。われらが地球の月よりわずかに小さく、主に氷からなる地殻を持つ。その氷の地殻の下には海があると信じている科学者もおり、もしそんな海が存在するのであれば、太陽系の中でも生命が存在する可能性の高い場所になる。

NASAの同ミッションの目標は、早ければ2023年までに打ち上げることだが、そのためには大型打ち上げシステム(SLS)が完成している必要がある。延長された計画では2025年までの打ち上げを見込んでおり、現在のさまざまな状況を踏まえるとその方が現実的だ。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook