【コラム】技術支配をめぐる世界的な衝突が激化、敵対国はルール・制限・終わりがない戦略的競争とスパイ活動を展開している

国家の支援を受けた企業スパイ活動に関しては、一見無関係に見える行動を、無作為なもの、重要でないもの、あるいは意味のないものであると一蹴しがちである。

次のことを考えてみて欲しい。中国は、AI、バイオテクノロジー、自動運転車、量子コンピューティング、半導体への数十億ドル(数千億円)規模の投資でシリコンバレーを席巻している。これらの領域の基礎研究開発に巨額の資金を投じているのである。米国に本拠を置く大学の教授たちが中国の研究機関とのつながりを隠しているのではないかという懸念が高まっており、2021年12月にはハーバード大学の教授が連邦法違反で有罪判決を受けたばかりである。

また、これらのセクターに属するテクノロジーCEOの多くが認識しているように、中国とつながりのある企業は、国民、ネットワーク、システムに不正アクセスをしようと絶え間ない活動を続けている。悪意のある行為者たちは、大小を問わず企業に侵入し、エマージングテクノロジー(将来実用化が期待される先端技術)の進歩に関する情報を入手するために、非従来型の情報収集活動を組み込んだ混合オペレーションを採用している。

中国が軍事部門と民間部門を問わず、テクノロジーセクター全体の支配権を獲得しようと世代的な取り組みを行っていることを理解すると、パズルのピースが適切な位置に配置され始める。

今日、私たちの敵対国は、ルールのない、制限のない、終わりのない戦略的競争とスパイ活動という、致命的で深刻なゲームを展開している。近年中国は、自国の戦略目標を推進する目的で、外国の技術とそれに従事する科学者、技術者、企業を分析し、標的にし、獲得するグローバルなシステムを構築してきた。

米国と西側諸国は、この脅威にようやく気づき始めたところである。米国家防諜安全保障センター(National Counterintelligence and Security Center、NCSC)は最近になって「中国は、米国やその他の国々から技術やノウハウを得る目的で、さまざまな合法的、準合法的、違法な方法を用いている」ことを認めている。

一方、米連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、FBI)は、10時間に1件の割合で中国政府の行動に関する捜査に着手していると報告している。カナダ政府は、政府の資金が敵対的な研究開発プログラムを支援していないことを確認する目的で、すべての科学者へのスクリーニングの実施を義務づける方針である。そして日本は先ごろ、経済スパイ活動に対するサプライチェーン、知的財産、重要インフラの安全性の確保を視野に入れ、内閣レベルのポストである経済安全保障担当大臣を新設した。

NATOでさえ最近、この戦いに介入し、同盟国に中国からの投資を阻止するよう呼びかけており、同盟の設立条約には回復力のある「重要なインフラと産業」が謳われていると指摘した。これは歴史的な宣言といえよう。今日の地政学的な戦いにおいて、企業は好むと好まざるとにかかわらず、その最前線に置かれている。

これを受けて、ワシントン、ブリュッセル、東京は、中国のアーリーステージのテック系スタートアップ、特に「エマージング」や「フロンティア」領域の技術を開発するスタートアップのアクセス制限に対する取り組みを徐々に強化する公算が大きい。これはテック系スタートアップやベンチャーファンドの資金調達にも影響を与えるであろう。米国政府はすでに、FIRRMAおよび2018年輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)の形で、米国の技術への中国によるアクセスを阻止または取り消す手段を導入している。規制当局はこれらのツールを本格的に用いて、アーリーステージのテック企業への投資、M&A、技術移転を見直す予定である。

しかし、これでは十分とはいえない。自由世界の政府と企業は、脅威に対抗するために、積極的、持続的、かつ効果的な措置を講じなければならない。

最初のステップは、西側諸国政府がこの難題に立ち向かい、産業を戦場として認識することである。そうすることで、企業の取締役会の考え方の変化が促進されるであろう。過去10年間、多くの米国企業が、欧米の価値観を前進させる上で、名目上の利害関係でグローバル精神を採用してきた経緯がある。

次のステップでは、この競争に勝つために不可欠な戦略的産業とエマージングテクノロジーについて、政府が定義する必要がある。米国商務省(U.S. Department of Commerce、DOC)は、2018年輸出管理改革法で、この方向に一歩踏み出した。企業に同様のことを要求することは、重要なノウハウや知的財産が敵対国に拡散することのない統一された官民ブロックを確保する上で、不可欠である。研究開発のための資金を増やし、パブリックセクターを含む市場を創出することは、企業が負担する短期的なコストを相殺することにつながるであろう。

最後に、米国が欧州とアジアの同盟国の参加を促し、投資審査と輸出管理のための統一的な法的枠組みを構築しない限り、既存の、そして今後予定されている法的、政策的処方箋はすべて無意味なものとなる。これは米国にとって真のリーダーシップを発揮する機会であり、難局に際してうまく対処し、自由世界を結集させなければならない。

結果的に、この地政学的な対立は、一部のITエグゼクティブ、スタートアップ創業者、ベンチャーキャピタリストの間にフラストレーションを生み出すことになる。これは、戦略的競争が、あるレベルでは、人、資本、アイデアの自由な流れというテック世界のモットーに反するからである。

しかし、こうしたアイデアを生み出したのは、西洋の価値観と法の支配である。それらは、私たちの継続的な利益のためだけではなく、将来の世代のためにも、私たちが保護するに値するものであるといえよう。

編集部注:本稿の執筆者Greg Levesque(グレッグ・レベスク)氏とEric Levesque(エリック・レベスク)氏はともに企業が技術、人材、サプライチェーンを地政学的脅威から守るための実用的なデータを提供するStriderの共同設立者。

画像クレジット:David Sacks / Getty Images

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(文:Greg Levesque、Eric Levesque、翻訳:Dragonfly)

米国は半導体不足の解消からほど遠いとライモンド米商務省長官が警告

米商務省は米国時間1月25日、半導体市場の供給不足がどの程度広がっているかを把握するために150社を対象に行った調査の結果を発表した。自動車産業と医療産業は、この供給不足の影響を大きく受けている。

この調査結果を受けて行われた記者会見においてGina Raimondo(ジーナ・ライモンド)商務長官は、問題を厳しい言葉で表現し「半導体の供給問題に関しては、まだ脱却したとは言えない」と指摘。さらに「この問題は2022年後半まで、いや、もっと長く続きそうだ」と述べた。

ライモンド氏は、現在下院が起草しているU.S. Innovation and Competition Act(USICA)に、米国内での半導体生産増強のための520億ドル(約5兆9236億円)の資金が含まれていることを挙げ、議会の通過を強く要請した。

調査では、2019年から2021年にかけて需要が17%増加したことを指摘しており、この数字は今後さらに増加することが予想される。さらに、予期せぬ事態に直面した場合、破滅的な結果をもたらす可能性がある薄利多売についても述べている。

チップの在庫の中央値は、2019年の40日から5日未満に減少している。この在庫は、主要産業ではさらに少なくなってしまう。つまり、新型コロナウイルスの流行や自然災害、政情不安によって海外の半導体施設がわずか数週間でも混乱すれば、米国内の製造施設が閉鎖される可能性があり、米国の労働者とその家族が危険にさらされることになる。

ほとんどの製造施設は現在90%以上の生産能力で稼働しており、上工場を増やさなければこれ以上生産量を増やすことは不可能だという。特にIntelは、オハイオ州の2工場への大規模な投資を発表しているが、最初の工場が稼働するのは2025年だ。おそらく、現在行われている措置の多くは、将来の供給不足を回避することを目的としているのだろう。

「2021年初頭からの進展にもかかわらず、半導体不足は続いている。「半導体のサプライチェーンが複雑であることが一因だ。生産者は常に需要を明確に把握しているわけではなく、チップ消費者は必要なチップがどこで生産されているのかを常に把握しているわけではない。こうした障壁が、ソリューションの開発を難しくしている」と商務省の調査報告では述べられている。

画像クレジット:Joshua Roberts/Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米商務省への半導体データ提供、韓国サムスン・SKが11月8日の期限までに提出

韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)SK Hynix(SKハイニックス)が、一部の半導体データを米国政府に開示すると、韓国企画財政部(財務省に相当)が発表した。

企画財政部が米国時間7日に発表した声明によると、韓国に拠点を置くチップメーカー各社は、内部データを米国に引き渡す「任意提出」を準備しているという。

しかしロイターの報道によると、SamsungとSK Hynixは、ワシントンにデータを提出するにあたり、企業秘密を守るために機密情報は提供しないとのこと。地元メディアも、世界の2大メモリーチップメーカーである両社は米当局に「部分的に従う」と報じている

米商務省は9月23日、世界の半導体メーカーおよび自動車メーカーに対し、チップの在庫、販売、注文、顧客情報などのサプライチェーンに関するアンケート調査を「任意で」実施した。提出期限は11月8日だ。

Gina Raimondo(ジーナ・ライモンド)商務長官は、9月にロイターとのインタビューでこう述べていた。「我々は、彼らがデータを提供することを要求する他のツールを持っています。そのようなことにならないことを願っています」。しかし、企業が自主的な要請に応じなかった場合、「必要であれば、要求します」とも。

ライモンド氏は、自主的な情報提供の目的は、世界的な半導体不足の中で、グローバルサプライチェーンのボトルネックを特定し、課題を予測するための透明性を高めることにあると述べている。

世界的なチップ不足は、自動車、コンピューター、携帯電話、家電などの複数の分野に被害を及ぼしている。4月には、チップ不足の解決策を議論するために、グローバルなハイテク企業や自動車メーカーの幹部がホワイトハウスで会議を行った。

匿名の業界情報筋によると、半導体メーカーにとっては、この要求に従う以外の選択肢はないようだ。

経済財務省の声明によれば、韓国のチップメーカー各社は、データ提出問題について韓国政府と協議したという。

韓国企画財政部は、同国政府は米国との半導体サプライチェーンのパートナーシップを強化し、11月8日の期限後も米国側との緊密なコミュニケーションを継続するとしている。

10月には、世界最大の半導体製造ファウンドリであるTaiwan Semiconductor Manufacturing(台湾積体電路製造、TSMC)が、顧客の詳細情報を含まない回答をすでに米国に提出したと発表した。

SamsungとSK Hynixにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

画像クレジット:Torsak Thammachote / Shutterstock

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

米政府が中国とロシアへのハッキングツール販売を禁止

米国商務省は、人権侵害をはじめとする悪質なサイバー活動を抑制するため、権威主義政府へのハッキングツールの輸出を禁止すると発表した。

ワシントンポスト紙が最初に報じ、その後商務省が確認したこの規則は、国家安全保障上の理由から、中国やロシアなどの懸念国へのハッキングソフトウェアや機器の輸出や転売を、同省産業安全保障局(BIS)のライセンスなしに事実上禁止するものである。

これは、バイデン政権が3月に中国とロシアへの国家安全保障上の強硬姿勢を継続するために、先進半導体や情報セキュリティのための暗号化を用いたソフトウェアなど、米国の技術の輸出を制限したことを受けた動きだ。

今回の制裁は90日後に発効する予定で、イスラエルのNSOグループが開発したスパイウェア「Pegasus」などのソフトウェアが対象となる。このスパイウェアは、いくつかの権威主義的な政府が、ジャーナリスト、活動家、政治家、企業経営者など、最も声高な批判者の携帯電話をハッキングするために使用してきた

関連記事:45カ国と契約を結ぶNSOのスパイウェアによるハッキングと現実世界における暴力の関連性がマッピングで明らかに

一方、サイバー防衛を目的としたソフトウェアについては、米国のサイバーセキュリティ研究者が海外の研究者と共同研究を行ったり、ソフトウェアメーカーに欠陥を開示したりすることを妨げるものではないため、輸出許可が免除される。BISが2015年に初めてこの規則案を発表した際には、300件近くのコメントが寄せられ、正当なサイバーセキュリティの研究やインシデント対応活動に与える影響について「大きな懸念」が示された。

この規則により、米国は、軍事的安全保障・デュアルユース(軍民両用)技術に関する自主的な輸出管理方針を定めたワッセナー・アレンジメント(Wassenaar Arrangement)に加盟する欧州の42カ国および同盟国と足並みを揃えることになる。

Gina M. Raimondo(ジーナ・M・ライモンド)商務長官は次のように述べている。「米国は、多国間パートナーと協力して、サイバーセキュリティや人権を脅かす悪意のある活動に使用される可能性のある特定の技術の拡散を抑止することに尽力しています。特定のサイバーセキュリティ品目に輸出規制を課す商務省の暫定最終規則は、悪意のあるサイバーアクターから米国の国家安全保障を守ると同時に、合法的なサイバーセキュリティ活動を確保する、適切に調整されたアプローチです」。

2020年、ロシアに起因するSolarWindsハッキングの最初の被害者の1つとなった商務省は、この規則について45日間、一般からのコメントを募集する。同省はコンプライアンスの潜在的なコストと、合法的なサイバーセキュリティ活動に与えうる影響についてのコメントを求めている。規則が最終的なものとなるまでには、それからさらに45日間の修正期間が設けられている。

画像クレジット:Jack Guez / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)