マイクロソフトがZ-Codeを使ってAI翻訳サービスを改善

Microsoft(マイクロソフト)は米国時間3月22日、同社の翻訳サービスを改訂したことを発表した。新しい機械学習技法によって、多数の言語間における翻訳が著しく改善されるという。「spare Mixture of Expert(Mixture of Expertを出し惜しみする)」アプローチを使用するという同社のProject Z-Code(プロジェクト・ズィー・コード)を基盤とする新モデルは、盲検法評価で同社の以前のモデルより3~15%高いスコアを記録した。Z-CodeはMicrosoftのXYZ-Codeイニシアチブの一環で、複数の言語を横断してテキスト、視覚、音声を組み合わせることによって、これまで以上に強力で有効なAIシステムを作る。

「Mixture of Experts」はまったく新しい技法というわけではないが、翻訳の場面では特に有効だ。システムはまず、タスクを複数のサブタスクに分割し、それぞれを「expert(エキスパート)」と呼ばれるより小さい特化したモデルに委譲する。次に、どのタスクをどのexpertに委譲するかを、独自の予測に基づいてモデルが決定する。ごく簡単にいうなら、Mixture of Expertsは複数のより特化されたモデルを内包するモデルと考えることができる。

画像クレジット:Microsoft

「Z-Codeを使うことで、驚くほどの進展が見られました。それは、単一言語と複数言語のデータに対して転移学習(transfer learning)とマルチタスク学習の両方を使って最先端の言語モデルを作ることができたからです。これで品質と性能と効率性の最善の組み合わせを顧客に届けることができます」とMicrosoftのテクニカルフェロー兼Azure(アジュール)AI最高技術責任者のXuedong Huang(シュードゥン・ホァン)氏はいう。

この結果、例えば、10種類の言語間で直接翻訳することが可能になり、複数のシステムを使う必要がなくなる。すでにMicrosoftは固有表現抽出、文章要約、カスタム文章分類、キーワード抽出など、同社AIシステムの他の機能の改善にZ-Codeモデルを使い始めている。しかし、翻訳サービスにこのアプローチを利用したのはこれが初めてだ。

翻訳モデルは伝統的に著しく巨大で、製品環境に持ち込むことは困難だった。しかしMicrosoftのチームはsparse(スパース)アプローチを採用し、タスクごとにシステム全体を動かす代わりに、少数のモデルパラメータのみを起動する方法を選んだ。「これによって大幅にコスト効率よく実行できるようになります。家の暖房を1日中全開されるのではなく、必要な部屋を必要な時だけ暖めるほうが安くて効率がよいのと同じことです」とチームがこの日の発表で説明した。

画像クレジット:Keystone/Getty Images / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Nob Takahashi / facebook

突然文章が書けなくなる……、Sudowriteの強力なツールがあなたに代わって筆を走らせる

オフィスビルや工場、高層ビルが林立し、光と影が織り成す光景は、夜の街に生命の息吹を感じさせる。この都会のジャングルに生息するのが我々の卑劣なヒーロー、Amit Gupta(アミット・グプタ)だ。彼から漂うのは洗濯物とヘアジェル、そしてかすかなペパーミントの香り。シルクのスーツにはたっぷりのコロンと、革とムスクの柔らかくて暖かな香りがブレンドされている。ウールハットは明るいトーンのベージュ、ネクタイはダークトーンのピンク色だ。スタートアップ創業者である彼の肌は、生まれたての赤子のように柔らかで温かい。握手は力強く、物腰は柔らかである。深い信念を持つ彼の会社の名はSudowrite(スドウライト)だ。共同創業者の名はJames Yu(ジェイムス・ユー)。ユー氏はParse(パース)を設立し、後にFacebook(フェイスブック)に売却した人物でもある。同社は名だたるエンジェルの数々を投資家として持ち、資金調達額は3百万ドル(約3億4000万円)におよぶ。

クルマの騒音、子どもの遊ぶ声、テレビの音、ラジオの音、火災報知器の音、パトカーのサイレンの音、酔っぱらいのつぶやきなど、都会の不協和音と膨大なシンフォニーが流れる中、グプタは血も涙もないニュースを受け取った。白血病と診断されたのだ。彼の人生は完全に狂ってしまった。自分の人生を見つめ直し、自分にとって何が大切なのかを真剣に考える時が来たのだ。彼は深呼吸をしてみる。自分にはもう時間が残されていないのか、それともこれは単なる警告なのか。

Sudowriteにスタートアップとは何かを説明してもらうと、息が止まるほど笑える結果となった。実におもしろい(画像クレジット:Sudowrite)

ドローンのレンタルカメラ用の奇妙なアクセサリークリエイティブな写真マウントのアイデアで知られていた既存のスタートアップ、Photojojo(フォトジョジョ)もいまや昔のこと。会社を売却した彼は、次に何をすべきかを考えなければならなかった。会社を売却して得たお金は、薄い黒い葉のように貧弱で、悪魔の翼のようによじれている。紙のように薄く、煙のように薄く、絹のように薄く、まるで蜘蛛の巣のようだ。

ここまでの記事が奇妙に感じるのは、筆者がSudowriteというツールを使って説明文を書いたからだ。爆笑ものだが、信じられないほど強力なツールでもある。常に意味をなすとは限らないが、重要なのはそこじゃない。このツールはライターに完全に取って代わるものではなく、要約したり拡大したり、時には執筆過程で不足している創造力に火をつけるためのものなのである。この記事の最初の部分が完全に狂っていることからもわかるように、そういう意味でこのツールは非常に良く機能している。

「2014年に病気になり、人生を見つめ直すことになった時にPhotojojoを売りました。私はシリコンバレーを完全に離れて旅に出ました。自分の死ぬまでにしたいことリストにあったことはすべてやりました。しかし移植から5年が経過し、おそらく白血病で死ぬことはないだろうということになったのです」とSudowriteの創業者でCEOのグプタ氏は振り返る。「それで、じゃあこれから人生で何をしようかと考えました。しばらくはコーチングをしていました。そして、ここ数年はSF小説を書いていて、それに夢中になっていました。どん底から這い上がっていくのはとても楽しいことでしたし、私にとってはとても新しいことでした」。

SF作家としての道を歩む中で、グプタ氏はほとんどの作家が経験する問題に直面した。「ライターズブロック」である。書くという作業はここまで難しいことだっただろうか?

「Sudowrite はさまざまな問題を解決してくれると思いますが、その具体的な内容は作家ごとに異なります。私が感じるところの執筆作業における問題点の1つは、非常に孤独であるということでした。すべてが協力的なスタートアップの世界から来たためなおさらでしょうか。役に立っているのかもよくわからない週に一度の読書グループ以外には何の出口もなく、キーボードの前にただ座って行き詰まると机に頭を叩きつけ、とても孤独に感じていました。私たちが最初に考えたのは、隣に座っている創造的なパートナーのような役割を果たすものを作れないか、ということでした。行き詰まったときに彼らに向かって『これが解明できないしうまくいかない。アイデアをくれないか』と相談できる何か。それが当初の目的でした」とグプタ氏は説明する。

創業者のアミット・グプタ氏とジェイムス・ユー氏は、山頂で発見された。彼らは一般的な家猫よりも少しだけ大きく成長することで知られている。墓というよりはゴミ山のような土の中に人骨がごちゃごちゃと横たわっていて、眼窩はまっさらな空を見つめている。創設者らは下駄についた泥を払い、戦いに備えて知恵を絞る。ドラゴンの息づかいがすぐそこに迫っている(写真のキャプションはSudowriteによるもの。キャプションの正確性については確認していない)

「人間のリーディングパートナーのように、うまくアイデアを出し合える相手を作りたいと考えたのです。また、脚本家などのエンターテインメント業界の人々と話をしているうちに、特定のニーズがあることに気がつきました。例えば自分が書いた脚本があって、それの1ページ版と3ページ版を作成しなければならない場合などがあります。非常に特殊な業界の仕事ですが、AIにとってはとても簡単なことです。これはあまりクリエイティブな作業ではないため、Sudowriteのようなツールを使えば彼らがしなければならない嫌な作業を何時間も省くことができるのです。用途はたくさんあると思いますが、インスピレーションを刺激して仕事の流れを良くするのが主な目的です」。

1つの文章をSudowriteによって創造的に膨らませてみた。より細かく描写したものや、心の葛藤を表したもの、またはより簡潔に説明したもの(筆者の最も苦手とするもの)など、AIの力によってシンプルな文章からいくつものバージョンが出来上がる

グプタ氏は作家の孤独感を解消するためにSF小説のライティンググループに参加していたのだが、そこで出会ったのが共同創業者で元Parse創業者のユー氏である。2人はGPT-3をベースにしたアプリの初期バージョンをともに作りあげ、有料の顧客を獲得し始めたところで資金調達を決意した。

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「当初このプロジェクトを立ち上げるために100万ドル(約1億1300万円)程度の資金を集めようと考えていました。最終的には300万ドル(約3億4000万円)を調達しましたが、そのほとんどが個人投資家によるものでした。これは意図的なものです。ベンチャーキャピタルからのプレッシャーを感じることなく、自分たちのペースで実験したり、奇妙なことに挑戦したりするのを許容してくれる人たちが欲しかったのです」とグプタ氏は話している。

同社のエンジェル投資家リストはそうそうたる顔ぶれで、Medium(ミディアム)およびTwitter(ツイッター)の創業者であるEv Williams(エヴァン・ウィリアムズ)氏、Gumroad(ガムロード)の創業者であるSahil Lavingia(サヒール・ラヴィンギア)氏、Parse(パース)の創業者であるKevin Lacker(ケヴィン・ラッカー)氏、WordPress(ワードプレス)の創業者であるMatt Mullenweg(マット・マレンウェッグ)氏、Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)の創業者であるPatrick Lee(パトリック・リー)氏などが名を連ねている。また、Big Fish(ビッグフィッシュ)やAladdin(アラジン)の脚本家であるJohn August(ジョン・オーガスト)氏、Bourne Ultimatum(ボーン・アルティメイタム)やOceans Twelve(オーシャンズ12)の脚本家兼監督であるGeorge Nolfi(ジョージ・ノルフィ)氏など、エンターテインメント界の名だたるメンバーが揃っている。

現在、同社のユーザー数は300人から400人で、プラットフォームの利用料は月額約20ドル(約2300円)だ。今回の資金調達ラウンドにより、創業チームはチーム規模を少し拡張することができたようだ。

「今回の資金調達で実現したことは、何といっても人材の確保です。当社にとって初となる機械学習担当者、開発者、リードデザイナーを採用しました。この3つのポジションを確保することができましたが、しばらくはこの規模を維持するつもりです。当社のユーザーは皆、口コミで集まってきた人たちで、幅広いジャンルの方がいます。小説や脚本を書いている人もいれば、Substack(サブスタック)のニュースレターを作っている人もいます。また、職業として文章を書いているユーザーもいます。変わった使用例もあります。Sudowriteを使って説教を作る宗教指導者や、瞑想のための文書を書く人、また、ロールプレイングゲームを作るユーザーもいます。非常に幅広い層に支持されています」。

Sudowriteは、これまでクローズドベータ版を提供していたが、これからは自身でベータ版に登録して試すことが可能だ。

以下に、グプタ氏が記録したデモビデオを添付しておく。数カ月前のものだが、このツールがどう機能するのかをより詳しくおわかりいたけると思う。

画像クレジット:Sudowrite

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

【インタビュー】数学者が紐解く偽情報の世界

偽情報に誤報、インフォテイメントにalgowars(アルゴワーズ)。メディアの未来をめぐるここ数十年間の議論に意味があるとすれば、少なくとも言語には刺激的な痕跡を残したということだろう。個人の心理的状態や神経学的な問題から、民主主義社会についてのさまざまな懸念まで、ソーシャルメディアが我々の社会にもたらす影響に関するあらゆる非難と恐怖がここ何年もの間、世間を渦巻いている。最近Joseph Bernstein(ジョセフ・バーンスタイン)氏が語った通り「群衆の知恵」から「偽情報」へのシフトというのは確かに急激なものだったと言えるだろう。

そもそも偽情報とは何なのか。それは存在するのか、存在するとしたらそれはどこにあるのか、どうすればそれが偽情報だとわかるのか。お気に入りのプラットフォームのアルゴリズムが私たちの注意を引きつけようと必死に見せてくる広告に対して我々は警戒すべきなのか?Noah Giansiracusa(ノア・ジアンシラクサ)氏がこのテーマに興味を持ったのは、まさにこのよう入り組んだ数学的および社会科学的な疑問からだった。

ボストンにあるベントレー大学の教授であるジアンシラクサ氏は、代数幾何学などの数学を専門としているが、計算幾何学と最高裁を結びつけるなど、社会的なトピックを数学的なレンズを通して見ることにも興味を持っていた。最近では「How Algorithms Create and Prevent Fake News(アルゴリズムがフェイクニュースを生み、防ぐ仕組み)」という本を出版。著書では今日のメディアをめぐる課題と、テクノロジーがそれらの傾向をどのように悪化させたり改善したりしているかを探求している。

先日筆者はTwitter Spaceでジアンシラクサ氏をお招きしたのだが、何とも儚いTwitterではこのトークを後から簡単に聴くことができないため、読者諸君と後世のためにも会話の中で最も興味深い部分を抜き出してみることにした。

このインタビューはわかりやすくするために編集、短縮されている。

ダニー・クライトン:フェイクニュースを研究し、この本を書こうと思った理由を教えてください。

ノア・ジアンシラクサ:フェイクニュースについては社会学や政治学の分野で非常に興味深い議論がなされています。一方でテック系サイドではMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が「AIがすべての問題を解決してくれる」などと言っています。このギャップを埋めるのは少し難しいのではないかと感じました。

ソーシャルメディア上の誤報について、バイデン大統領が「誤報が人を殺している」と言ったのを耳にしたことがあるでしょう。このように、アルゴリズムの側面を理解するのが難しい政治家たちはこのようなことを話しているのです。一方、コンピューターサイエンスの専門家らは細部にまで精通しています。私は筋金入りのコンピューターサイエンスの専門家ではないので、その中間にいると言えるでしょう。ですから一歩下がって全体像を把握することが私には比較的簡単にできると思っています。

それに何と言っても、物事が混乱していて、数学がそれほどきれいではない社会との相互作用をもっと探究したいと思ったのです。

クライトン:数学のバックグラウンドを持つあなたが、多くの人がさまざまな角度から執筆しているこの難しい分野に足を踏み入れています。この分野では人々は何を正しく理解しているのでしょうか。また、人々が見落としているものとは何でしょうか。

ジアンシラクサ:すばらしいジャーナリズムがたくさんあります。多くのジャーナリストがかなり専門的な内容を扱うことができていることに驚かされました。しかし、おそらく間違っているわけではないのですが、1つだけ気になったことがあります。学術論文が発表されたり、GoogleやFacebookなどのハイテク企業が何かを発表したりするときに、ジャーナリストたちはそれを引用して説明しようとするのですが、実際に本当に見て理解しようとすることを少し恐れているように見えました。その能力がないのではなく、むしろ恐怖を感じているのだと思いました。

私が数学の教師として大いに学んだことですが、人々は間違ったことを言ったり、間違えたりすることをとても恐れています。これは技術的なことを書かなければならないジャーナリストも同じで、間違ったことを言いたくないのです。だからFacebookのプレスリリースを引用したり、専門家の言葉を引用したりする方が簡単なのでしょう。

数学が純粋に楽しく美しい理由の1つは、間違いなどを気にせずアイデアを試してみて、それがどこにつながっていくのかを体験することで、さまざまな相互作用を見ることができるということです。論文を書いたり講演をしたりするときには、詳細をチェックします。しかし数学のほとんどは、アイデアがどのように相互作用するかを見極めながら探求していく、この創造的なプロセスなのです。私は数学者としての訓練を受けてきたので、間違いを犯すことや非常に正確であることを気にかけていると思うかもしれませんが、実はそれはとは逆の効果があるのです。

それから、これらのアルゴリズムの多くは見た目ほど複雑ではありません。私が実際に実行しているわけではありませんし、プログラムを組むのは難しいでしょう。しかし、全体像を見ると最近のアルゴリズムのほとんどはディープラーニングに基づいています。つまりニューラルネットワークがあり、それがどんなアーキテクチャを使っているかは外部の人間として私にはどうでもよく、本当に重要なのは予測因子は何なのかということです。要するにこの機械学習アルゴリズムに与える変数は何か、そして何を出力しようとしているのか?誰にでも理解できることです。

クライトン:アルゴリズムを分析する上での大きな課題の1つは透明性の低さです。問題解決に取り組む学者コミュニティの純粋数学の世界などとは異なり、これらの企業の多くは、データや分析結果を広く社会に提供することについて実際には非常に否定的です。

ジアンシラクサ:外部からでは、推測できることには限界があるように感じます。

YouTubeの推薦アルゴリズムが人々を過激派の陰謀論に送り込むかどうかを学者チームが調べようとしていましたが、これは良い例です。これが非常に難しいのは、推薦アルゴリズムにはディープラーニングが使われており、検索履歴や統計学、視聴した他の動画や視聴時間など、何百もの予測因子に基づいているためです。あなたとあなたの経験に合わせて高度にカスタマイズされているので、私が見つけた研究ではすべてシークレットモードが使用されていました。

検索履歴や情報を一切持たないユーザーが動画にアクセスし、最初におすすめされた動画をクリックし、またその次の動画をクリックする。そのようにしていけばアルゴリズムが人をどこへ連れて行くのかを確認することができるでしょう。しかしこれは履歴のある実際のユーザーとはまったく異なる体験ですし、とても難しいことです。外部からYouTubeのアルゴリズムを探る良い方法は誰も見つけられていないと思います。

正直なところ、私が考える唯一の方法は、大勢のボランティアを募り、その人たちのコンピューターにトラッカーを取り付けて「インターネットを普段通り閲覧して、見ている動画を教えてください」と頼む昔ながらの研究方法です。このように、ほとんどすべてと言っていいほど多くのアルゴリズムが個人のデータに大きく依存しているという事実を乗り越えるというのはとても困難なことです。私たちはまだどのように分析したら良いのか分かっていないのです。

データを持っていないために問題を抱えているのは、私やその他の外部の人間だけではありません。アルゴリズムを構築した企業内の人間も、そのアルゴリズムがどのように機能するのか理論上はわかってはいても、実際にどのように動作するのかまでは知らないのです。まるでフランケンシュタインの怪物のように、作ったはいいがどう動くかわからないわけです。ですから本当の意味でデータを研究するには、そのデータを持っている内部の人間が、時間とリソースを割いて研究するしかないと思います。

クライトン:誤報に対する評価やプラットフォーム上のエンゲージメントの判断には多くの指標が用いられています。あなたの数学的なバックグラウンドからすると、こういった指標は強固なものだと思いますか?

ジアンシラクサ:人々は誤った情報を暴こうとします。しかし、その過程でコメントしたり、リツイートしたり、シェアしたりすることがあり、それもエンゲージメントとしてカウントされます。エンゲージメントの測定では、ポジティブなものをきちんと把握しているのか、それともただすべてのエンゲージメントを見ているのか?すべて1つにまとめられてしまうでしょう。

これは学術研究においても同様です。被引用率は研究がどれだけ成功したものかを示す普遍的な指標です。例えばウェイクフィールドの自閉症とワクチンに関する論文は、まったくインチキなのにも関わらず大量に引用されていました。その多くは本当に正しいと思って引用している人たちですが、その他の多くはこの論文を否定している科学者たちです。しかし引用は引用です。つまり、すべてが成功の指標としてカウントされてしまうのです。

そのためエンゲージメントについても、それと似たようなことが起きているのだと思います。私がコメントに「それ、やばいな」と投稿した場合、アルゴリズムは私がそれを支持しているかどうかをどうやって知ることができるでしょう。AIの言語処理を使って試すこともできるかもしれませんが、そのためには大変な労力が必要です。

クライトン:最後に、GPT-3や合成メディア、フェイクニュースに関する懸念について少しお話したいと思います。AIボットが偽情報でメディアを圧倒するのではないかという懸念がありますが、私たちはどれくらい怖がるべきなのか、または恐れる必要はないのか、あなたの意見を教えてください。

ジアンシラクサ:私の本は体験から生まれたものなので、公平性を保ちながら人々に情報を提供して、彼らが自分で判断できるようにしたいと思いました。そのような議論を省いて、両方の立場の人に話してもらおうと思ったのです。私はニュースフィードのアルゴリズムや認識アルゴリズムは有害なものを増幅させ、社会に悪影響を与えると思います。しかしフェイクニュースを制限するためにアルゴリズムを生産的にうまく使っているすばらしい進歩もたくさんあります。

AIがすべてを解決し、真実を伝えて確認し、誤った情報を検出してそれを取り消すことができるアルゴリズムを手に入れることができるというテクノユートピア主義の人々がいます。わずかな進歩はありますが、そんなものは実現しないでしょうし、完全に成功することもありません。常に人間に頼る必要があるのです。一方で、もう1つの問題は不合理な恐怖心です。アルゴリズムが非常に強力で人間を滅ぼすという、誇張されたAIのディストピアがあります。

2018年にディープフェイクがニュースになり、GPT-3が数年前にリリースされた際「やばい、これではフェイクニュースの問題が深刻化して、何が真実かを理解するのがずっと難しくなってしまう」という恐怖が世間を取り巻きました。しかし数年経った今、多少難しくなったと言えるものの、予想していたほどではありません。主な問題は何よりも心理的、経済的なものなのです。

GPT-3の創造者らはアルゴリズムを紹介した研究論文を発表していますが、その中で、あるテキストを貼り付けて記事へと展開させ、ボランティアに評価してもらいどれがアルゴリズムで生成された記事で、どれが人間が生成した記事かを推測してもらうというテストを行いました。その結果、50%に近い精度が得られたと報告されています。すばらしくもあり、恐ろしいことでもありますね。

しかしよく見ると、この場合は単に1行の見出しを1段落の文章に展開させたに過ぎません。もしThe Atlantic誌やNew Yorker誌のような長文の記事を書こうとすると、矛盾が生じ、意味をなさなくなるかもしれません。この論文の著者はこのことには触れておらず、ただ実験をして「見て、こんなにも上手くいったよ」と言っただけのことです。

説得力があるように見えますし、なかなかの記事を作ることは可能です。しかしフェイクニュースや誤報などについて言えば、なぜGPT-3がさほど影響力がなかったかというと、結局のところそれはフェイクニュースがほとんどクズ同然だからです。書き方も下手で、質が低く、安っぽくてインスタントなものだからです。16歳の甥っ子にお金を払えば、数分で大量のフェイクニュース記事を作ることができるでしょう。

数学のおかげでこういったことを理解できるというよりも、数学では主に懐疑的になることが重要だから理解できるのかもしれません。だからこういったことに疑問を持ち、少し懐疑的になったら良いのです。

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画像クレジット:Valera Golovniov/SOPA Images/LightRocket / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

人前で話すことから声帯麻痺まで、Expressableは5億円を投じて遠隔での言語聴覚療法を提供

全米では少なくとも4000万人が言語に障害を抱えているが、このたび新しいスタートアップが大規模な解決策を打ち出す。オースティンを拠点とするExpressable(エクスプレッサブル)は、新たにシードラウンドで450万ドル(約5億円)を資金調達し、患者と言語聴覚士(SLP)を遠隔医療サービスと非同期サポートで結びつけるデジタル言語聴覚療法(スピーチセラピー)を展開する。

Expressableは、米国でコミュニケーション障害を抱える約500万人の子どもたちにサービスを提供することに重点を置いて、早期にセラピーを開始して子どもたちの将来を守ることを目指している。最初は吃音が時々あるだけだったとしても、時間が経てばコミュニケーション障害になってしまう可能性があるからだ。

共同創設者(かつ夫婦)であるNicholas Barbara(ニコラス・バーバラ)Leanne Sherred(リーエン・シェアード)が2019年に立ち上げたExpressableは、これまでに数千もの家庭にサービスを提供してきた。彼らは米国時間5月7日、Lerer Hippeau(レラーヒッポー)とNextView Ventures(ネクストビューベンチャーズ)が共同で主導し、Amplifyher Ventures(アンプリファイハーベンチャーズ)が参加するシードラウンドで資金調達することを発表する。この資金は、プロバイダーネットワークの拡大、ネットワーク化、EdTechサービスへの取り組みに使用されることになる。

事業内容

Expressableが提供するのは、子どもたちが言語聴覚士のセラピーを定期的に受けられるサービスだ。セラピーは、医療向けZoomを介して、Expressssableがフルタイムで雇用している資格を持つ専門家がライブで行う。人前で話すことから声帯麻痺まで、クライアントが必要とする分野の言語聴覚士がマッチングされる。保護者は、安全なSMSを通じて、言語聴覚士と連絡を取り、セラピーの調整や質問、スケジュールの変更などを行うことができる。

Expressableでは、リアルタイムのサポートに加えて、非同期型のサービスも用意されている。言語聴覚士が用意した宿題やレッスンをSMSで提供するeラーニングプラットフォームが構築され、言語訓練プランを強化することができる。

クルマで買い物に行くとき、夕食を作るとき、庭で遊ぶときなどに使える小さく分割されたアクティビティは、子どもとの対話に合わせて作成されている。レッスンは、子どもがジュースを頼む場面を作ったり、まねっこゲームで二語発話を練習したりといった簡単なものから始まる。

Expressableによる安全なSMSのデモ画面(画像クレジット:Expressable)

ExpressableのこのユニークなEdTechは、セラピーのプロセスに保護者が大きく関与することを求めている。保護者の協力がプラスの結果につながることはわかっているが、低所得者や労働者階級の家族が置き去りにされてしまうことがある。サービスの価格は平均して週に59ドル(約6400円)。現在は保険による補助がなく、全額自己負担となっている。

「言語聴覚士による言語聴覚士のためのコンテンツはたくさんありますが、言語聴覚士による保護者のための使いやすいコンテンツはあまりありません。これは大きなチャンスであり、市場のギャップであると感じました」とバーバラ氏は話す。

現状よりも優れている、というのはExpressableの価値の一部だが、現状には驚くほど無意味なものが多い。米国国立聴覚障害研究所によると、米国内の子どもの約8~9%が構音障害を持っているとされているが、実際に治療を受けているのは半数程度。Expressableが、子どもたちの将来を守るために早期にセラピーを受けさせたいと考える理由は、時折の吃音から始まる障害は、時間の経過とともにコミュニケーション障害に変わる可能性があるからだ。

「公立学校は小児言語学の第一の提供者ですが、残念ながら資金不足であることはご存じでしょう」とシェアード氏は話す。学校で言語サービスを受けることができた子どもたちはラッキーだが、グループでのレッスンでは上達するまでに時間がかかってしまう、と同氏は続ける。

シェアード氏は言語療法士として、学校でのセラピーのギャップがもたらす「信じられないほどのフラストレーションの連鎖」を身をもって体験している。同氏はキャリアの大半を在宅医療に費やし、家庭やデイケアで子どもたちと直接関わる仕事をしてきた。

Expressableのユーザーの多くは子どもだが、約35%は大人で、言葉の問題が大人になっても続くことがわかる。

Lerer HippeauとExpressabbleの取引を仲介したMeagan Loyst(ミーガン・ロイスト)はその一例だ。ロイスト氏は、2020年後半に言語と音声に問題があると診断され、リモートの言語療法サービスを見つける必要があったが、その際に質の高い言語療法士を見つけることの難しさを知ることになった。

「Expressable以前には、コミュニケーション障害を持つ個人のためにこれらの課題を解決する消費者向けのサービスは存在しませんでした」とロイスト氏は話す。「Expressableはすでに最高の言語療法士を雇用し、子どもたちがより良い結果を出せるように保護者や教育をプロセスに組み込んでいます。さらにこれらをバーチャルにすることで、コスト効率の高い手軽な方法を提供しています」。

工夫を凝らした遠隔医療

遠隔医療の利用率はパンデミック前の水準を上回っているが、訪問診療は減少傾向にある。Expressableに限らず、デジタル遠隔医療の新興企業にとっての課題は、パンデミック後に、医療や介護を完全にバーチャル化することをいかに説得力を持って提案できるかということだ。

Expressableの共同設立者たちは、競争上の優位性として、社内外での一貫性を挙げている。

まず、言語セラピーは、多くの患者が週に一度、毎月、何年にもわたって利用する継続的なサービスである。バーバラ氏は「他の遠隔医療サービスの多くは、迅速で簡単かつ直接的なプライマリーケアを提供するものです」「私たちは、提供者と患者の密接な関係を必要とする、より長期的な治療計画を提供しています」と話す。

第二に、多くの遠隔医療関連の新興企業とは異なり、Expressableは専門家を正規の従業員としてフルタイムで雇用する。同社には、現在50名の正規雇用の言語療法士が在籍しているが、言語療法士との長期的な関係を顧客に保証するための戦略的な選択である。

「私たちは、言語療法士のキャリアパスを構築し、言語聴覚士に対価として得られる価値を提供しています。彼らは自宅で時間を設定しながら仕事ができ、全国平均を上回る報酬を得られ、業務委託では得られないような福利厚生も受けられます」。

従来の業務委託モデルに依存しないことは差別化につながるかもしれないが、課題にもなり得る。Expressableはさまざまな言語の問題に対応できる言語療法士を迅速に(そして効率的に)採用する必要があり、新しい市場に進出する際は、個々の療法士の免許を取らずに類似企業のスタッフを支援するというホワイトラベルの手法を利用するのではなく、地域ごとの免許要件という面倒な法的プロセスを経る必要がある。

Expressableは、現在は15の州で事業を展開。そのすべての州で免許を持つ言語療法士を雇用し、今後全米規模の事業になることを目指している。

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カテゴリー:EdTech
タグ:言語聴覚療法Expressable遠隔医療コミュニケーション障害資金調達言語

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)