ロシア、アップルとグーグルに対し「野党支援アプリの削除か刑務所送り」と脅迫との報道―2021年秋から抑圧の下地作り

ロシア、アップルとグーグルに対し「野党支援アプリの削除か刑務所送り」と脅迫との報道―2021年秋から抑圧への下地作り進行

Mikhail Klimentyev/TASS via Getty Images

ウクライナ侵攻が続くなか、ロシア当局のハイテク大手に対する規制も強まり、プロパガンダを抑制しようとしたFacebookやTwitterも国内でブロックされました。そうした圧力は侵攻以前からあり、アップルやGoogleにプーチン政権にとって不都合なアプリを消すよう脅迫していたことが報じられています。

これはロシアの野党指導者で投獄されているアレクセイ・ナワリヌイ氏が構想したアプリ「Smart Voting」をめぐってのことです。本アプリはロシア政府や与党「統一ロシア」に選挙で対抗するために、最も有利な候補者を支援するものでしたが、ロシア当局はアップルとGoogleにアプリストアから削除するよう要請。はじめ両社とも従いませんでしたが、結局は圧力に屈してどちらも削除しています

米The Washington Postによると、アップルとGoogleのモスクワにいる幹部らは、このプーチン大統領が嫌っているアプリに関して、9月に直接脅迫されたとのこと。それぞれの幹部の自宅に捜査官が現れ「24時間以内にアプリを削除しないと刑務所に入れるぞ」と脅したと伝えられています。

そのうちGoogleは宿泊客と警備員が近くにいればある程度は守られると考え、速やかに幹部を偽名でホテルに移したそうです。が、捜査官は部屋に現われて「まだ時間は残っている」と告げたとのこと。この人物は、秘密警察KGBの流れを汲む治安機関FSB(ロシア連邦保安庁)の職員だと見られています。

この脅迫戦術は功を奏し、アプリは数時間のうちにGoogle PlayとApp Storeから削除されたと報じられています。その後にアップルを初めとしたハイテク大手に現地オフィスを開設を命じた(各企業や従業員らがロシアの法制度や政府の要求に対してより脆弱になる)ことも合わせて、The Washington Postは「現在ロシアで進行中の、ソ連式に表現の自由を抑圧する下地となった」と分析しています。

アップルはロシア政府の要求通りに現地オフィスを開設したとの報道もありましたが、他にも様々な圧力がかけられていたとすれば、やむを得なかったのかもしれません。

(Source:The Washington Post。Via AppleInsiderEngadget日本版より転載)

EUによるロシア国営メディア「ロシア・トゥデイ」と「Sputnik」への禁止令が発効

EU(欧州連合)がRussia Today(ロシア・トゥデイ、RT)とSputnik(スプートニク)に対する禁止令を正式に採択し発効した。メディア規制当局は今後、その遵守状況を監視することになる。EU各国の監視当局は、プラットフォームがロシア政府とつながりのあるメディア企業のコンテンツの配信を続けているということがわかれば、罰金を科す可能性がある。

RTおよびSputnikとそれらの子会社の配信に対する広範な制裁であり、TechCrunchが以前報じたように、従来の放送チャンネル(衛星放送など)だけでなく、オンラインプラットフォームやアプリも対象としている。

現時点では、2社に属するジャーナリスト個人は制裁の対象外だが(RTの編集長はすでに制裁の対象)、この法的文書には迂回防止条項が含まれており、両チャンネルに対する規制を回避しようとしているとみなされた場合などは、最終的に個人がターゲットになる可能性がある。

EU当局者によると、この意味するところは、インターネットプロバイダーは、RTやSputnikのコンテンツが自分たちのプラットフォームに表示されないように積極的な措置を取ることが期待されているということだ。

つまり、根本的には、単に公式チャンネルを禁止するだけでは十分ではないかもしれないということだ。他のユーザーやアカウントが制裁対象のコンテンツをアップロードした場合、ソーシャルメディアやその他のテックプラットフォームには、禁止措置回避行為を防ぐためにさらなる措置を取ることが期待されるかもしれない。

EU当局によると、ソーシャルメディアネットワークやビデオストリーミングサービスに加え、原則としてインターネットサービスプロバイダーも対象となる。

さまざまなデジタル配信チャンネルがあることから、欧州委員会関係者は、両チャンネルの地域配信を直ちにすべて終了させることが困難であることを認めており、ある程度の「漏れ」は予想されると示唆している。ただし、法的には、禁止事項の遵守はもはや当然のことだということも強調している。

EUは、RTとSputnikに対する制裁は期限付きだと述べているが、実際のところ制裁解除には条件が付されているため、少なくともロシアのウラジーミル・プーチン現大統領がクレムリンにいる間は、制裁解除を想像することは困難だ。

というのも、欧州委員会は、制裁解除には、ロシアがウクライナでの侵略をやめ、EUとその加盟国に対するプロパガンダをやめる必要があると定めているからだ。そして、多くのメディア関係者は、RTのようなチャンネルの第一の目的は、まさに反欧米のプロパガンダを制作・増幅することだと指摘する。

なぜEUはRTとSputnikを特別視しているのか。EUは、RTとSputnikを親クレムリンの道具箱の中の重要な偽情報ツールであり、プーチン大統領が西側に不安定化を引き起こす「情報戦争」を展開するために利用していると見ているからだ。

例えば、欧州委員会関係者は、RTとSputnikに与えられている巨額の国家予算(2021年には推定13億ユーロ=約1668億円)などの国家支援について言及し、また、これらのチャンネルの編集の独立性に対する疑念を指摘している。

また、欧州委員会関係者らは、この規制は慎重にバランスをとっているとしている。すなわち、対象としているのは、ロシアが国家として対外的な情報操作や干渉を行うために利用している手段であり、それらの手段の中でも最も際立っておりその責任も明らかな2つだということを強調した。

そしてその主張を裏付けるように、欧州委員会関係者らは一例として、ロシアの「偽情報とプロパガンダのエコシステム」におけるRTとSputnikの役割を分析した米国務省の報告書を引き合いに、この2つの組織は明らかにプーチン大統領のプロパガンダマシンに「不可欠であり、力を与えている」部分だと主張している。

EUの対応、すなわち両メディアの配信を対象とした制裁措置は、意見を検閲するものではない、とも主張している。

さらに、欧州委員会は、過去1年間におけるロシア国内の独立系メディアに対する大規模な弾圧を取り上げ、とりわけ政府に批判的と見られる独立系メディアやジャーナリスト個人の口を封じるために、強硬な国内法、特に「外国の代理人」に関する法律が用いられていると指摘し、プロの記者に対するロシアの脅威を容認できないとしている。

欧州委員会の確固たるメッセージはこうだ。ロシアのウクライナ侵攻によって、欧州委員会の評価は不可逆的に変わってしまった。プーチン大統領のプロパガンダ機関に対するEUの寛容はもう終わった。

EUのUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)委員長は、制裁措置の正式な採択を表明した際の声明で、次のように述べた。「この戦時下においては、言葉が重要です。自由で独立した国に対するこの非道な攻撃をめぐり、大規模なプロパガンダと偽情報を目の当たりにしています。私たちは、クレムリンの擁護者たちが、プーチンの戦争を正当化する有害な嘘を流したり、私たちの連合に分裂の種をまくことを許しません」。

また、EUのJosep Borrell(ジョゼップ・ボレル)外務上級代表は、別の採択を支持する声明の中でこう付け加えた。「クレムリンによる組織的な情報操作と偽情報は、ウクライナへの攻撃における作戦ツールとして利用されています。また、EUの公序良俗と安全保障に対する重大かつ直接的な脅威でもあります。今日、私たちはプーチンの情報操作作戦に対して重要な一歩を踏み出し、EUにおけるロシア国営メディアの蛇口を閉めようとしています。私たちはすでに、Margarita Simonyan(マルガリータ・シモニャン)編集長を含むRTの経営陣に制裁を加えており、この組織がEU内で行っている活動も対象とするのは当然のことです」。

フォン・デア・ライエン委員長は現地時間2月27日、欧州連合(EU)が「欧州における(ロシアの)有害な偽情報を禁止するためのツールを開発している」と述べたことから、欧州委員会の担当者は、今後さらに規制が強化されるか聞かれたものの、特定の政策についてのコメントを避けた。

しかし、欧州委員会関係者らは、民主化行動計画やオンライン偽情報の拡散に対処するための行動規範など、EUが何年にもわたり策定してきたさまざまな施策を挙げた上で、EUは、状況認識や回復力の強化といった分野を含む、一貫した一連の政策アプローチと施策を構築しつつあり、特に外国の情報操作をターゲットとする意向だと付け加えた。

RTとSputnikに対する制裁は、こうした幅広い戦略の一環だとEU当局者らは付け加えた。

RTとSputnikに対する制裁の法的根拠は、欧州委員会によると、共通外交・安全保障政策規則(第29条)に基づく欧州理事会の全会一致による決定と、制限的措置を定めた欧州連合機能条約第215条だ。

情報への自由なアクセスはEU憲章に明記されている基本的権利だ。しかし、欧州委員会は、これらの対象措置はいかなる法的異議にも耐えられると確信していると述べている。

EUの既存のメディアに関する規則は、今回の制裁措置と並行して通常通り運用されることをEU当局者は確認した。

制裁を受ける6社は、RT-ロシア・トゥデイ・英語版、RT-ロシア・トゥデイ・UK、RT-ロシア・トゥデイ・フランス、RT-ロシア・トゥデイ・ドイツ、RT-ロシア・トゥデイ・スペイン語版、そしてSputnikだ。

画像クレジット:picture alliance / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

フロリダ州の「禁止の禁止」令はSNS企業の言論の自由の試金石となる

フロリダ州のRon Desantis(ロン・デサンティス)知事は、ソーシャルメディア企業が州議会候補や報道機関による利用を禁止する行為を制限する法案に署名した。これは企業に与えられた言論の自由の権利に真っ向から挑戦するものだ。同法が法廷で異議を唱えられることはほぼ確実であり、違憲であるだけでなく連邦法とも直接衝突する。

その法律、フロリダ上院法案7072は、テック企業とソーシャルメディア企業に新たなチェック項目をもたらす。いくつか例をあげると以下のとおりになる。

  • プラットフォームは州議会候補の利用を禁止あるいは優先度を下げてはならない
  • プラットフォームは一定の規模要件を満たす報道機関の利用を禁止あるいは優先度を下げてはならない
  • プラットフォームは管理プロセスに関して透明でなくてはならず、ユーザーに管理行為の通知を送る必要がある
  • ユーザーおよび州は同法に違反する企業を訴訟する権利をもつ。一部の違反に対しては1日当たり最大25万ドル(約2700万円)の法定罰金が課される。

この法律が該当企業の管理手続きに影響を与えることは明らかだ。しかし、そうすることが検閲(政府による実際の検閲であり、しばしばこの用語が使われる一般的概念における制約のことではない)につながるかどうかは定かではない。明白なケースであれば、上院法案7072に対する法的行為によって強制される可能性は高い。

これに関する状況の前例と分析は膨大な数に上るが「ソーシャルメディアによる管理プロセスが憲法修正第1項によって保護されるかどうか」の問題はは未解決だ。法学者や判例は強く「イエス」に傾いているが、Facebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)が例示できるような決定的な前例は存在しない。

この言論の自由論争の要点は、ソーシャルメディアは新聞や出版社とは大きく異なるが、政府の介入からは概ね同じように憲法によって保護される、という主張に始まる。「言論の自由」は驚くほど自由に解釈される用語であるが、もし企業がお金を使うことがアイデアの保護された表現の1つであるとみなされるなら、その同じ会社がコンテンツを公開するか否かのポリシーを適用することも同様であるべきだと容易に想像できる。もしそうであれば、当局は保護されない言論の非常に狭い定義(満員の劇場で「火事だ」と叫ぶことなど)を越えて介入することは禁止される。これはフロリダ法の憲法に基づく根拠を崩すものだ。

もう1つの衝突の相手は連邦法、具体的にはかなり話題になった通信品位法230条で、企業を発信するコンテンツの責任から守る(代わりにクリエイターが責任を持つ)ものだ。さらに、企業自身の選んだルールに基づいてコンテンツを削除することも選択できる。同法の共同提起人であるRon Wyden(ロン・ワイデン)上院議員(民主党・オレゴン州)が指摘するように、これは企業に盾と剣の両方を与え、彼らはそれを使ってプラットフォームにおけるリスキーな発言と戦うことができる。

しかし上院法案7072は、その剣と盾の両方を奪う。誰を管理できるのかを制限し、さらには残された管理行為に対する法的行為に関する新たな条項を加えている。

連邦法と州法とはしばしば矛盾をきたし、両者を調停する方法の教科書は存在しない。一方では、州で合法化されているマリファナ店舗や栽培者が連邦当局の手入れを受けている。もう一方では、強力な州レベルの消費者保護法が、もっと弱い連邦法に先んじらずにいる。なぜならそうすることが人々を危険に晒すからだ。

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第230条については、誰が誰を保護しているのか容易にはわからない。フロリダ州の現行州政府は「真のフロリダ人」を「シリコンバレーのエリート」から保護していると言っている。しかし、そんなエリートたち(率直に言ってまさしくそのとおり)はこれを、明白な政府の勇み足であり、文字どおりの検閲であると主張するだろう。

こうした強力な法的異議申し立ては、影響を受ける企業からの必然的な訴訟を引き起こし、おそらくその法律が発効される前に提起され、覆されることを目標とするだろう。

興味深いのは、同法の影響を受けないであろう2つの会社は、世界で最も大きく最も妥協しない会社、Disney(ディズニー)とComcast(コムキャスト)だ。なぜだろうか?それはこの法律には、一定規模の「テーマパークまたはエンターテインメント集合施設を所有する」企業に対する特別免除条項があるからだ。

そう、この法律にはネズミの形をした穴があり、Universal Studios(ユニバーサルスタジオ)を所有するComcastは、たまたまそこにぴったりはまっただけだ。注目すべきはこれが修正条項として付け加えられたことであり、州内の二大雇用者が、自分たちのいかなるデジタル財産に対してでも新たな責任を負わされるアイデアを喜ばなかったことが推察される。

地元献金企業に対するこの露骨な迎合は、同法の推進者たちをエリートとの正義の戦いで倫理的に不利な立場に追い込むものだが、その効果も、数カ月後に現在起草されているであろう訴訟が起きた時には、上院法案7072対する禁止命令が施行意味をなくすだろう。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:フロリダSNS言論の自由

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

私は言論の自由の擁護者だがその意味がわからなくなった、技術と言論の自由に待ち構えているものとは?

米国の大統領はおそらく世界最強だといわれている。その彼がTwitter(ツイッター)に投稿できない。そしてFacebook(フェイスブック)にも。それだけでなく、先週私たちが目撃したように、その他の多くのソーシャルネットワークに対してもだ(まあ彼はまだ核ミサイルの発射コードを手にしているので、それはそれで熟考すべき興味深い力だが)。

先週行われた禁止の数々は異例のものだった。しかし、Donald Trump(ドナルド・トランプ)大統領だって異例だ。今世紀にはもう、ホワイトハウスの現在の占有者のような口調で、公にわめき立てる大統領は登場しないかもしれない(少なくともそう願うことができるだけだが)。しかし、トランプ大統領の危機全体が本当に例外的なものであるならば、それは単に無視することができる。ルールというものは、言論の自由に関するルールでさえも、例外的な状況に対処するための例外を常に持っていたのだ。大統領が暴力的な抗議を挑発して、その結果追放される。米国の行政リーダーシップ史における、ユニークな瞬間であることは間違いない。しかし、主役は別として、最高裁の判例の下で、暴力的な脅迫が何十年もの間禁止されてきたテック業界や出版社たちの反応は特に異例なものではない。

では、なぜそれを私たちは無視しないのか?何か大きなものが足元に埋まっていることを、実感しているからではないだろうか?私たちの世界の情報アーキテクチャ全体が変化して、現代の米国を支配してきた言論の自由をめぐるルールの構造を、完全に覆してしまったのだ。

言論の自由は、科学と合理性と実証主義をともなう人間の進歩主義と、深く絡み合っている。「marketplace of ideas(アイデアを公開討論する場)」の目的は、議論が相互の対話として行われ、自分たちの事実と推論が検証され、悪いアイデアがより良くより実績のあるものによって洗い流されるようにすることだ。もちろん時には論争になることもあるが、最終的には挑発よりも解明を目的としたポジティブな論争なのだ。

私が言論の自由に対する「絶対主義者」なのは、そうした人類の進歩を信じているからであり、「アイデアを公開討論する場」という概念が、世界を探求し自己を内省するために、人類が種として歴史的に構築してきた最良のメカニズムであると信じているからなのだ。だが、先週の出来事を目撃した今、私たちの情報共有地がうまく機能しているふりを続けることもできない。

どうやら、それは矛盾しているようなのだ。私は言論の自由を支持しているものの、「真の意味」では支持していないのだ、という意見は理解できる。それでも、システムの何かの間違いに対して、いくつかのより深い、より基礎的な質問をするためにの合理的な判断一時休止をすることはあるだろう。私の苦しみは、ACLU(米国自由人権協会)が公式声明で見せた苦しみと同じものだ。

それは「我々は(トランプ大統領を)非難するが、(ネット企業の対応も)懸念している」というような、生ぬるいどっちつかずの意気地なしの反応だ。言論を取り巻く環境が急速に変化する中での穏当な対応の1つではある。同じいい方をするなら、私は「アイデアを公開討論する場」の強い擁護者だ、しかし残念ながら、それはもう今は潰えてしまった「アイデアを公開討論する場」の「1つ」に過ぎなかったということだ。ともかく、うまくいってないことを全部考えてみよう。

  • 情報が多すぎて、どんな合理的な人間でもすべてを処理することは不可能だ
  • 溢れる情報の多くはゴミであり、明らかな詐欺であり、さらに悪いことにそれが配布されている情報システムそのものを、混乱させ弱体化させるためにデザインされた秀逸な心理的プロパガンダの断片だったりする
  • 私たちはこれまで、これほどまでに多くの人たちが、公共の場所に対してこれほど制限もほとんどなしに信念や、戯言や、侮蔑を撒き散らすことを許してこなかった
  • 対話の中にアイデアはほとんど残されていない。構成主義的な思考と同様に、協調関係は死にかけている。今や「ストア」は同じ公共の広場の中ではなく、それぞれの個人のフィードの中に置かれているので、もはや「公開討論する場(marketplace)」は存在しない
  • ひと握りの支配的な独占プラットフォームからの強制的な誘導がコミュニケーションのやり方を荒々しく傷つけ、慎重な議論や論争よりも、有力な「クリックベイト」の方を奨励している
  • テックプラットフォームで見られるユーザーのエンゲージメント数が非常に多いことを考えると、大多数の人がこれを気に入っているようだ

私たちは、何十年も前からこうした事態が訪れることには気がついていた。人間が処理できない、現代の工業化された世界の複雑さをテーマにした、Alvin Toffler(アルビン・トフラー)の「Future Shock(未来の衝撃)」が出版されたのは1970年のことなのだ。1980年代から1990年代にかけてのサイバーパンク文学やSFは、この迫りくる猛攻撃に向かって広範囲に応戦してきた。インターネットが急速に拡大する中で、Nicholas Carr(ニコラス・カー)の「The Shallows(ネット・バカ)」のような本が、インターネットがいかに私たちが深く考えることを妨げているかを問いかけていた。それが出版されたのは10年前だ。現在は、地元の書店に行けば(もし書店がまだ存在していて、読者が実際に1000ワード以上の文章を読む能力がまだあるとするなら)、メディアと通信の未来を分析し、インターネットが認知的に私たちに何をしているかを分析しているさまざまな書籍を見つけることができる。

私の「言論の自由」に対する絶対的な信念は、米国で言論の自由がどのように機能すると考えられているかに対する、いくつかの明確な仮定に基づいていた。残念ながら、それらの仮定がもはや成り立たないのだ。

私たちはもはや、市民が自分たちが直面している問題について、おそらく怒りながらでも議論を交わすことができるような、おなじみの公共の広場があると仮定することはできない。私たちはもはや、クズ情報が編集者によって、または出版社によって、または読者自身によってフィルタリングされると仮定することはできない。私たちはもはやメッセージを携えて私たちに接触してくる人たちが、ある程度身辺調査済で、真実や事実を基に語っていると仮定することはできない。

私たちはすでに公開討論の場のあらゆる場所が、ありのままに機能しているのだと仮定することはできないのだ。

それこそが仕事の場でも生活の場でも、言論の自由の権利に日々頼っている私たちにとって、この時代を厳しいものにしているものなのだ。そうした基本的な仮定がなければ、言論の自由の権利は、私たちが期待しているような、人間の進歩主義と合理性の砦とはならない。私たちの情報共有地は、必ずしも最高で質の高いアイデアが最上位に浮上し、私たちの全体的な議論を推進してくれることを保証してはくれない。

私は寛容な米国人の感覚として、言論の自由を心から信じている。なので私と同じように、私たちの「公開討論の場」の危険な状態を本当に心配している友人も多い。しかし私たちはみな、目の前にある現実に直面する必要がある。システムは現実として本当に壊れていて、単に「言論の自由を!」と叫ぶだけでは、それを変えることはできない。

今後とるべき道は、言論の自由をめぐる会話を、私たちの世界の情報アーキテクチャをどのように改善していくべきかというより広い問いかけへと転換させることなのだ。クリエイターや、アイデアを生み出す人や、それらを分析する人が、適切な経済状況の下にそれを行うことを保証するにはどうすればよいのか?それは、作家、映画製作者、小説家、研究者、その他のすべての人が質の高い仕事ができるようにすることを意味する。おそらく長期間にわたって、収入が減らないようにするために「トップに留まり」続けようと、新しい写真や考察を10分ごとにアップロードしなくてもいいようにするということだ。

事実と「真実」が常にすぐにではないにしても、徐々にでも最終的には勝利をおさめることを確実にするためには、コミュニケーションの各階層におけるインセンティブをどのように整えていけば良いのだろうか?情報の大量流通にともなう力が、正確性や合理性に対する公の義務という概念を少なくとも何らかのかたちで体現している人たちによって、きちんと持たれるようにするにはどうすればよいのだろうか?

何よりも重要なのは、読者や視聴者の1人ひとりが、自分の目にした情報を処理する能力を高め、主体的な行動を通じて合理性に向かって議論を進めていくにはどうしたらよいのだろうか?賢く勤勉な顧客がいなければ、どのような市場も生き残れない。情報のための市場も例外ではない。人々が嘘を要求するならば、世界は彼らにそれを与えるだろう。すでに私たちが目にしたように容赦なく。

テクノロジーだけではこの問題を解決することはできないが、テクノロジーがその解決の一部となることは絶対にできるし義務づけられてもいるのだ。適切なインセンティブを備えた代替プラットフォームは、人類が世界を理解する方法と、現在、起こっていることを完全に変えることができる。これは非常に重要で知的に興味深い問題であり、野心的な技術者や創業者にとっては取り組むに値する魅力的な対象となるはずだ。

言論の自由は必ず守る決意だが、今、目の前にあるような状態のシステムでは擁護できない。ならば唯一の防御策は、このシステムの再構築を行い、上手く機能し続けているコンポーネントを強化し、機能していないコンポーネントを修理または交換することだ。魂の救済への道筋が誤った情報で埋めつくされているべきだとは思わない。私たちはみな、このシステムをあるべき姿にするための道具と力を持っているのだ。

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(翻訳:sako)