アドビのProject Sweet Talkは肖像画に命を吹き込む

Adobe MAXで最も興味深いセッションの1つは、伝統的なSneaks基調講演だ。Adobe(アドビ)のさまざまな部門のエンジニアが登場して、最先端の仕事を見せびらかす。そこから製品化されるものもある。もちろん、そうならないものもある。最近は、やはりAIに焦点を当てた仕事が多くなっていて、Adobe Senseiプラットフォームもよく利用されている。今年は、まだ初期の段階のProject Sweet Talkがお披露目された。今回のイベントの注目の1つだ。

画像クレジット:Lisa Werner/Getty Images

アイデアは非常に単純なものだが、それを実現するのは難しい。これは、スケッチでも絵画でもいいが、肖像画を入力すると、そこに描かれた顔のパーツを認識し、ナレーションに合わせて口の動きをアニメーション表示するというもの。すでに、同社のCharacter Animatorでも似たようなことができる。Stephen Colbert(ステファン・コルバート)のThe Late Showのようなショーで見た人もいるだろう。ただし、アニメーションのコマ数に制限があるので、最高のアニメーターの手にかかっても、常にリアルに見えるとは限らない。少なくとも、この製品を使って線画をアニメーション化するような場合にはリアリティに欠けるきらいがある。Project Sweet Talkは、それよりはるかによくできている。ナレーションを分析し、AIを使用して、キャラクターの口と頭の動きをリアルにアニメーション化できるのだ。

このチームは、アドビの研究者のDingzeyu Li(ディンゼユ・リ)氏がリーダーとなり、マサチューセッツ大学アマースト校のYang Zhou(ヤン・チョウ)氏、ともにAdobe ResearchのJose Echevarria(ホセ・エシュバリア)氏、Eli Shectman(エリ・シェクトマン)氏がメンバーとなっている。実在の人々がカメラに向かって話している何千時間ものYouTubeの映像を、独自のモデルに入力した。驚くべきことに、そのモデルは、スケッチや絵画に非常にうまく適用できる。その顔が、単純な動物の顔のスケッチのように、人間の顔には似ても似つかないものであってもだ。

「アニメーションは難しいものだということを、私たちはみな理解しています」と、リ氏は私に語った。「顔の動きを、与えられたオーディオトラックに揃えたいとすれば、さらに難しいものになります。Adobe Character Animatorには、すでに「自動リップシンク」と呼ばれる機能があり、動きをオーディオに合わせることができます。しかし、実際に使ってみると、限界も見えてきます」。現在のCharacter Animatorで動かすことのできるのは口だけ。他のすべての部分は静止したままだ。それでは、もちろんリアリティのある動きは再現できない。この記事に埋め込んだProject Sweet Talkの作成を見れば、自動的に顔を巧みにゆがませて、うまくリアルに見せていることがわかる。これらの元になっているのは、すべて普通のJPEG画像だ。

だたし、この顔の輪郭をゆがませる処理のため、Project Sweet Talkは、写真に対してはそれほど優れた効果を発揮できない。単純に結果の見栄えがよくないのだ。しかしそのせいで、このプロジェクトがディープフェイクに悪用される心配はないということになる。「リアルに見えるディープフェイクを生成するには、多くの学習データが必要となります」とリ氏は言う。「私たちの場合は、目印となるものだけに注目しています。画像の中から抽出できるものです。そして、このようなアニメーションには、目印だけで十分なのです。しかし、私たちの実験によれば、目印だけでは、写真を使ったアニメーションには不十分だということもわかっています」。

将来的にアドビは、この機能をCharacter Animatorに組み込んでくる可能性がある。リ氏は、現在のCharacter Animatorでも可能となっているような、リアルタイムシステムを開発することは、チームの優先順位の上位にあると語った。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

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アドビがデザインツール「Adobe XD」にリアルタイム共同編集機能を追加

今週は、毎年恒例となったAdobe(アドビ)のCreative Cloudイベント「Adobe Max」の週だ。そして例年どおり、同社のさまざまな製品に対して各種のアップデートが発表される。ものによっては、わずかな変更や、小さな機能の追加にすぎない場合もある。しかし、ウェブとアプリ開発用のデザイン/プロトタイピングツールAdobe XDについては、注目に値する興味深いアップデートが目白押しだ。

中でも最も目立ったアップデートは、ドキュメントをリアルタイムで共同編集できるようにするもの。これにより、離れた場所で作業するデザイナーの仕事がかなり効率的になる。この新しい共同編集機能は現在ベータ版だが、複数のデザイナーが1つのドキュメントに対して同時に作業できるようにするもの。AdobeのCreative Cloudバックエンドを使用して変更をリアルタイムで同期する。1つのドキュメントを共同編集できるようにするには、まずそのドキュメントをクラウドに保存してから、一緒に作業するチームメイトを招待すればいい。

またXDチームは、既存の共有機能もXDに取り込んだ。デザイナーがフィードバックを集めたり、アセットを分配できるようにするものだ。そうした機能を集めて「共有」という独立したモードにまとめ、既存の「デザイン」、「プロトタイプ」モードに並べて配置した。

「共有モードは、他の人と作業を共有する必要があるときに行く場所です」と、同社は説明する。「そこでは、対象となる作業への、共有可能なウェブリンクの作成と管理が可能です。その際には、共有される新しいプリセットを使用して、さまざまに異なるユースケース用の共有体験のカスタマイズもできます。そうしたユースケースとしては、デザインレビュー、開発の移管、プレゼンテーション、ユーザーテストなどが含まれます」。

XDは、Creative Cloudアプリケーションの中でも、完全に無料のモードを含む希少なものの1つ。無料モードのユーザーも、2020年4月までは、この新しい共同編集機能にアクセスできる。そして、他のすべての新たな共有、コラボレーションツールは、期限なしで、「XDスタータープラン」に加入している無料ユーザーにも使える。

XDの他の新機能も挙げておこう。まず、コンポーネントのステートのサポートが強化された。これによりデザイナーは、一貫したユーザーインターフェイスの作成が容易になる。また、ホバートリガーが追加され、デザインしたアイテムの上にホバーするとアクションを起動できるようになった。さらに基本的なインタラクションのプロトタイプを開発する新しいツールも加わっている。また、再設計されたプラグインマネージャによって、Jira Cloud、UI Faces、Stark、Arrangerなど、200以上のプラグインをサポートしている。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

アドビのPremiere RushからTikTokに直接投稿できる

米国時間11月4日、Adobe(アドビ)はCreative Cloudのビデオ製品のアップデートを多数発表した。ほとんどはプロ向け、あるいはプロではないにしてもYouTuber向けの製品だ。しかしPremiere Rushは、ビデオで楽しみたいすべての人のためのツールと位置付けられている。だから、短いクリップの共有プラットフォームとして人気のTikTokに、Premiere Rushからビデオを直接共有できるようになったと発表されたことは驚きではないだろう。TikTokに直接投稿できる他社製のアプリは、これが初めてだ。

Rushは2018年10月に提供が開始され、よく使われているビデオ公開サービスへの共有をサポートしていた。今回のTikTokとのパートナーシップにより、TikTokユーザーも自動ダッキング、トランジション、カラーフィルター、タイムラプス、スローモーションなど、Rushの簡単なビデオ編集機能を活用できるようになる。

アドビの機械学習により、ビデオプロデューサー、特にTikTokで好まれる縦長のビデオをふだん撮らない人々も、ボタンをクリックするだけでアスペクト比を変更できる。するとPremiere Rushは自動でショットのフレームを調整する。

アドビはこの日の発表で「世界各地のビデオクリエイターと対話を重ねるなかで私たちが最も頻繁に耳にした要望は、スピード、使いやすさ、そして投稿のしやすさだった。そこで人気のプラットフォームのTikTokでもビデオを共有できるようにした」と述べた。

Premiere Rushの新機能は、無料バージョンも含めCreative Cloudの全ユーザーにすでに公開されている。

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(翻訳:Kaori Koyama)

アドビからARオーサリングアプリ「Aero」が登場

Adobe(アドビ)が、拡張現実(AR)に真剣に取り組んでいることは、よく知られている。ARデベロッパーのための優れたデザインツール開発するための、十分なポテンシャルを備えていることも間違いない。昨年のMaxイベントで、同社はAero ARというオーサリングアプリを初めて披露した。そして米国時間の11月4日、そのアプリをリリースした。iOS版は無料アプリデスクトップ版は今のところプライベートベータとなっている。

Aeroの基本的な方針は、デザイナーがプログラムを書くことなくAR体験を開発できるようにすること。ビジュアルなUIによって、ARシーンを構築する手順を1ステップずつ指示してくれる。また、ユーザーのCreative Cloudライブラリから、2Dや3Dのアセットを取り込むことができる。完成したシーンをエクスポートするのも数ステップで済んでしまう。

「ARは、マーケティングやブランディング、小売や商取引全般、旅行やレジャー、学習や芸術など、あらゆる業界に広がっています。しかしながら、現状では、高品質のARコンテンツの作成は、多大な費用、長大な時間がかかる複雑な作業となっています。私たちのビジョンは、このプロセスを変革し、すべてのデザイナーが、3DとARの可能性を探求できるようにすることです」。

iOS版のアプリを使えば、基本的なAR体験を作成できるが、ARデザインツールとしてのフル機能を利用するには、デスクトップ版のアプリが必要となる。アドビによれば、デスクトップ版を使うことで、対話的なインターフェースを使って、カスタムな体験を設計できるという。

私が見たデモでは、もちろんAeroはかなり使いやすそうだった。たとえば、レイヤーを含むPhotoshopファイルを背景として取り込み、必要に応じてレイヤーの間隔を空けるように配置して、3Dっぽいシーンにすることも簡単にできる。オブジェクトの操作は、メニューなどを使わずに、タッチ操作だけで可能だ。基本的なアニメーションを追加したり、動きのトリガーを設定することもできる。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

ドローイングアプリ「Adobe Fresco」のWindows版が登場

9月にAdobe(アドビ)は、iPad用の次世代ドローイングペインティングアプリのAdobe Frescoをリリースした。

そして米国時間11月4日、FrescoのWindows版が公開された。まずはMicrosoft(マイクロソフト)のSurfaceシリーズ(Surface Pro 4、Surface Go、すべてのSurface StudioとSurface Book)、およびWacom(ワコム)のMobileStudioデバイスに対応する。iPad版と同様に、Fresco for Windowsにはアドビのベクターとラスターのツールが備わり、ペインティング、ドローイング、スケッチに使える。

アドビによれば、Fresco for Windowsはゼロから開発したという。同社はこの日の発表の中で「アプリを作るのは簡単ではなかったが、マイクロソフトおよびインテルと緊密に連携して、ブラシが適切に動作するようにし、ハードウェアとソフトウェアのパフォーマンスをできる限り引き出した」と説明している。iPad版と同様にWindows版もアドビのクラウドストレージと深く統合されるため、デバイス間でシームレスに作品を移動でき、PhotoshopやIllustratorにも持っていける。

ただしFresco for Windowsは今のところ、iPad版より機能が少ない。アドビは「Frescoの機能は重要でプラットフォームを問わず使えるようにするため、早急に未搭載の機能を実装できるよう取り組んでいる」としている。

Windows向けの無料版もある。機能は制限されるものの、このアプリで何ができるかを試すには適しているだろう。

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(翻訳:Kaori Koyama)

Adobe Illustrator for iPadが2020年にリリース

Adobe(アドビ)はデスクトップクラスのグラフィックアプリをもう1つ、iPad向けに提供する。米国時間11月4日、Adobe Max 2019でiPad版のIllustratorを2020年にリリースすると発表した。昨年、同社はPhotoshop for iPadについて今回と同様の計画を発表し、同アプリは米国時間11月4日にApp Storeで公開された。

アドビによればIllustrator for iPadはまだ開発の初期段階とのことで、デスクトップ版と比べてどのようになるかはまだわからない。しかし、iPadならではのタッチ操作とApple Pencilベースの入力に重点が置かれるようだ。Photoshopと同様に、あるプラットフォームで作られた作品はCreative Cloudを介してほかのプラットフォームでも忠実に編集できるようになるだろう。

Illustrator for iPadはまもなく限定版のプライベートベータが公開される予定だが、開発が進むまではベータ版を利用できるのはごく限られた人々になる模様だ。ただし関心があれば登録をすることはでき、おそらく正式リリース前に試せるとみられる。

アドビはすでに「多数のデザイナー」と接触し、仕事で使うタブレット版のIllustratorはどのようなものが最適かを研究してきたという。Photoshop for iPadが公開された過程と照らし合わせて考えると、来年のIllustrator for iPadの登場時にはすべての機能は搭載されないかもしれないが、アドビの作業環境を愛用するプロのクリエイターがiPadでまさに何でもできるようになるための出発点となるだろう。

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(翻訳:Kaori Koyama)

アドビがSensei AI利用の写真編集アプリ「Photoshop Camera」を発表

InstagramやSnapchatの普及で人々の写真との関わり方が大きく変化した。しばらく前まで写真を編集するには高価なソフト、ハードが必要でユーザーは写真家、デザイナーなどのプロやセミプロが主だった。ところが今では誰でもスマートフォンで写真を加工している。とはいえ、スマートフォンアプリに付属しているフィルターの機能は初歩的で、PhotoshopやLightroomを代替するものではない。あくまでスマートフォンでセルフィーを撮ってその場でちょっと明るさを補正して投稿するというような用途向けの「そこそこ」のプロダクトだった。

Adobe(アドビ)はこのことを認識しており、米国時間10月4日に米国ロサンゼルスで開幕したAdobe Maxで手を打ってきた。

それがPhotoshop Cameraだ。 これはAdobeのAI、Senseiを利用した写真編集のためのモバイルアプリでiOSとAndroidで利用できる。Photoshop Cameraを起動し、写真を撮影するかカメラロールから選択する。アプリはAIで内容を判断し多数の編集オプションを提供する。明るさや色などの基本的修正から複雑な背景から空を入れ替えるなどの高度な編集まで可能だ。

Photoshop Cameraは食べ物、人物、遠くの山並みなど被写体を認識し、最も適切と考えた「レンズ」(他のアプリでいうフィルター)を提示する。こうしたレンズも他の編集もすべて非破壊的だ。つまり元の画像を変更しないのでどんな状態からでもオリジナルにロールバックすることができる。

こうしたAI活用が可能になったのはAdobeが長年蓄積した何億枚にもおよぶ膨大な写真データによるものだという。おそらくいちばん重要なのはAdobeが写真をAの状態からBの状態に変えるためにどのような編集処理を行えばいいか判断できるという点だろう。

私は先週、アドビを取材し、アプリが実際に動作することを見ることができた。短いデモではこのアプリの能力をフルに紹介するのは難しかったと思うが、私は強い印象を受けた。アプリはごく普通の風景写真を処理してネイチャー雑誌のカバーフォトのように仕上げた。また料理の写真を見るなり1秒もかけずに「どの部分が料理か」を認識し、その部分だけを処理してシズル感を高めた。

アドビの担当者によれば、こうしたフィルター処理が可能になったのはBilly Eilish(ビリー・アイリッシュ)氏のようなフォトグラーやデザイナーと緊密に協力してきたからだという。このときアドビのCTOであるAbhay Parasnis(アブヘイ・パラスニス)氏は「地域、時期限定のカスタムレンズというのも面白いかもしれない」 と語った。つまりあるコンサート会場に行ったユーザーだけに提供されるレンズといったものだ。

このPhotoshop Cameraをすぐに使いたいユーザーはアドビに登録してプレビューモードへの招待を受ける必要がある。一般公開は2020年に入ってからとなるらしい。登録はこちらから

【Japan編集部追記】 日本からも上記リンクで申し込みは可能だがアプリのダウンロードができるようになるまでにはしばらく待つことになる。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook