Palantirの新型コロナモニタソフトを米CDCやNHSが利用中、EUにも採用働きかけ

多くのスタートアップが新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによって苦境に追い込まれている中、政府の感染抑制策を助けることによって事態が追い風となっている企業もある。その1社が謎めいた巨大企業、Palantirだ。

政府機関と密接な関係をもつ同社はビッグデータ処理を専門とし、膨大な情報を分析して個人を追跡し、トレンドを視覚化することができる。新型コロナウイルス感染の拡大が医療システムを崩壊させ社会、経済を混乱させる危険に直面している現在、極めて有用な能力だ。

3月中旬の Wall Street Journalの記事によれば、Palantirはウイルス感染の拡大をモデル化するためにCDCに協力したという。 Forbes(フォーブス)はCDCは現在新型コロナウイルスの流行状況を視覚化し、医療ニーズを予測するためにPalantirのアプリを使っている」と報じている。

記事によれば、Palantirはコロナウイルス関連のシ処理では個人を特定可能なプライバシー情報の取り扱いを避け、病院、ヘルスケア、研究機関、メーカーからの匿名化されたデータを分析しPalantir Foundryに集約している。

英国における新型コロナウイルス対策ではNHS(National Health Service、国民健康保険サービス)に同社のFoundryプラットフォームを通じてデータ分析を提供している。イギリス政府はブログ記事 で、Palantirとの提携に触れ、同社のFoundry ソフトウェアを利用するとして、「(このFoundryは)主として英国で開発されたものであり、異種データを組み合わせ、クリーンアップし、総合することにより意思決定に役立つ単一かつ確実性の高い情報源を提供する」と述べている。

Bloomberg(ブルームバーグ)によれば、Palantirはフランス、ドイツ、スイス、オーストリアの政府に対して同社の分析ソフトウェアの採用を働きかけている。同社はFoundryだけでなくデータ分析ツールのGothamも売り込んでいるという。このツールは政府の情報機関や捜査機関が個人を追跡するのに役立ていることでよく知られている。米国でICE( 移民税関捜査局)が不法滞在者を摘発するために用いているのがいい例だ。 FoundryとGothamは多数の情報源からデータを統合して新型コロナウイルスによるパンデミックの鳥瞰図を得られるとして各国政府の保健機関に提案されている。

危機に対応して監視テクノロジーへの関心が高まる中、プライバシー活動家は早くも警鐘を鳴らしている。 EFF(電子フロンティア財団)は「世界の政府はウイルスと戦うために並外れて強力な監視権限が必要だとしている。パンデミックから生じる政府と民間企業の間の新しい関係については綿密に検討しなければならない」と警告している

たとえばPalantirの共同創業者会長のPeter Thielピーター・ティール)氏は、テクノロジー界における最も強力はトランプ政権支持者の一人だ。ティール氏の推進するプロジェクト投資は、広く注目を集めると同時に賛否の議論を引き起こしているが、Palantirもその1つだ。

ICEの不法滞在者摘発強化に協力する謎めいたテクノロジーの巨人という一般のイメージがあることにPalantir自身も気づいており、プロダクトが多くの人々のプライバシーに影響することを認めている。Wall Street Journalへのコメントで、Palantirのプライバシー担当の責任者、Courtney Bowman(コートニー・ボーマン)氏は「新型コロナウイルス対策においてもプライバシーと市民的自由はわわれの指導的原理であり、付録のようなものであってはならない」と述べている。

Palantirは、米国の新型コロナウイルス対策でも大きな役割を担っているようだが、同社と米政府は長年にわたって協力して感染症の脅威に取り組んできた。たとえばCDCは2010年にハイチにおけるコレラの流行をモニターする同社のソフトウェアを利用している。

ごく最近の例もある。 この1月下旬、PalantirはHHS(保健社会福祉省)と360万ドルの契約を結び、PEPFARにソフトウェアを提供した。 PEPFAR(統領緊急エイズ救済計画)は HIVの感染者を援助するための啓蒙、救済活動だ。

画像:デンバーの新型コロナウイルス検査センター Michael Ciaglo/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

米疾病対策管理センターは社会に必須のインフラ従業員に「コロナ疑いがあっても無症状なら業務継続すべき」

米CDC(疾病対策管理センター)は新型コロナウイルス(COVID-19)流行抑制に関するガイドラインをアップデートした。これにより「社会に必須のインフラ業務」に従事する人々については新型コロナウイルス患者に接触した後の予防的隔離が緩和される。 これは多数の労働者、特にギグエコノミーやテクノロジー企業の社員に大きな影響を与える可能性がある。

新ガイドラインは、新型コロナウイルスにさらされた可能性のある従業員の隔離を緩和し、以前のように自宅での隔離を強制するよりむしろ職場での予防策の徹底に重点を置いている。

CDCの発表によれば、新ガイドラインは「社会的に重要な機能の継続を確保する」こと目的としている。CDCは、社会的に必須な業務に従事している人々の場合、新型コロナウイルスにさらされた可能性があっても無症状であるなら職場に留まって業務を継続すべきであるとしている。「さらされた疑い」は家族が新型コロナウイルスに感染した場合、または感染したか感染の疑いがある人々から2m以内にいたことが確認された場合を含む。

もちろんCDCはそうした人々が通常どおり勤務していいと助言しているわけではない。 この種のリスクにさらされた人々は勤務に就く前に検温と症状の有無の確認の必要があり、自身でも健康状態に注意を払わねばならない。また少なくとも14日間、勤務先でマスクを着用する必要がある。適切な防護機能を備えたマスクが品不足のために入手できない場合は布マスクでもよいという。また他の従業員から物理的に距離をとる必要があり、使用したり接触した器具等は定期的に消毒される必要がある。

CDCはさらに雇用者に対して「勤務中に体調の悪化があった人々はただちに帰宅させること、 症状が現れる前の2日間にさかのぼって接触した可能性のある人のリストを報告すること」を求めている。

CDCのガイドラインの変更は、水曜日のホワイトハウスのコロナウイルス・タスクフォースの記者会見で発表され、インフラを機能させるために必要な措置だとされた。「新型コロナウイルスの流行中、社会的に必須な重要サービスの中断を防ぐことは極めて重要だ」とホワイトハウスは考えている。新ガイドラインは、常勤社員だけでなく「契約社員」にも適用される。これはAmazonのフルフィルメントセンターの従業員やInstacart、Uber Eatsなどの宅配サービスの配送スタッフなどが含まれるのだろう。

ガイドラインのアップデートに先立って、新型コロナウイルスに関連した多数の労働問題が起きていた。これには労働条件に対する契約労働者の抗議ストライキ重要なサービスの中断などが含まれている。

画像クレジット: CHRIS DELMAS/AFP / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

米国でも布マスク推奨へ、米疾病予防管理センターが一般人に布マスク着用の要請を出す見込み

米国時間4月2日にホワイトハウスは、症状のない非医療従事者がマスクを着用することを奨励していなかったこれまでのガイドラインを、間もなく変更する可能性が高いことを発表した。この変更はCDC(米国疾病予防管理センター)から「ガイダンス」(要請)として発行されことになると思われるが、新型コロナウイルス(COVID-19)危機の中で、連邦政府の権力を行使することを躊躇し続ける大統領はそれを義務化する予定はない。

なお医療グレードのマスクの供給は、新型コロナウィルスの被害を受けた場所、あるいは程なく被害を受けるであろう場所で供給が極めて厳しくなっている。そうした不足が続いているため、新しいガイダンスの中で使うことを要請されるのは、布製マスクおよび非医療用の顔面カバーのみが対象となることが予想されている。

4月2日のホワイトハウスの記者会見で、コロナウィルス対策本部の渉外コーディネーターであるDeborah Birx(デボラ・バークス)博士は、新しいガイダンスは「追加の」保護手段を与えるもので、置き換えるものとして意図されたものではないと強調した。「要請が出たとしたら、もし出たらの話ですが、それは追加の対策になるでしょう」とバークス博士は語った。

バークス博士は、ホワイトハウスとCDCが新しいマスク要請を出すことをためらった理由は、そのことで人びとに、米国の封じ込め活動の鍵となる重要なソーシャルディスタンシング(ウイルスに感染しないために他人と距離を空けること)対策に対する気の緩みを招きかねないからだったと語る。「私たちは皆さんに決して『さあ、マスクをしたぞ、だから自分は大丈夫だし、他の人にも感染させたりしない』と思って欲しくないのです」。

バークス博士が布製マスクによる新しい予防策の背後にある考え方を説明した際に、トランプ大統領も自身の根拠のない情報の解釈を発表した。「マスクをつけたかったら、つければいい」とトランプ大統領は言った。だが残念なことに「多くの場合は、スカーフのほうがいいだろうね、なにしろもっと厚いから」という誤った情報も付け加えた。

新しいガイダンスは今後数日のうちに、CDCから発表される予定だ。 ワシントンポストが入手したメモによれば、症状のない人がウィルスを感染させているという証拠から、CDCは布マスクの推奨を検討し始めたということである。ポリシーのドラフトには、CDCが「周りの人へのウィルスの蔓延を防止するために人々が取ることができる追加の公衆衛生対策として、コミュニティに対して布マスクの使用を推奨する」と書かれている。

米国時間4月1日にロサンゼルス市長のEric Garcetti(エリック・ガルセッティ)氏は、N95とサージカルマスクは医療従事者に直接渡されるべきであることを強調しながら、住民に対し公共の場では顔を覆うよう促した。

適切な個人用保護具(PPE)を入手できない医療従事者や、保護対策を講じたい人たちのために、自家製マスクを作る草の根職人たちの運動がすでに全国的に広がっている。多くのオンラインリソースが、マスクの作り方や縫わずに作る方法に関する、パターンやハウツーを提供している。これから出される布マスクに関する新しい連邦要請は、多くの企業が耐え忍ぶために創造的な動きをしている中で、企業が新型コロナウイルスとの闘いに役立つリソースを生み出す機会を提供することもできるだろう。

日本や韓国のような国では、パンデミック時以外でもマスク着用は日常的に行われているが、欧米諸国では一般的にマスク着用はあまり好まれていない。米国人に対して発せられている、医療従事者に医療用マスクを寄付するように促すメッセージと、同時に発せられているマスクは日常的な状況でウィルスに対する保護を提供しないことを示唆する当局からの混乱したメッセージによって、社会規範は混乱するかもしれない。

「皆さん、心からのお願いです。マスクの購入をやめてください!」、米国公衆衛生局長官 Jerome Adams(ジェローム・アダムス)氏は、2月下旬にこのように ツイートした。「マスクは一般市民が#Coronavirusに感染することを防ぐのには効果的ではありませんが、もし医療提供者が患者のケアをする際にマスクを入手できない場合には、医療従事者と私たちのコミュニティを危険にさらします!」。

米国人が行う個人用のマスクを買いだめは、すでに逼迫していた医療従事者のための個人用保護具の供給を、さらに悪化させる可能性があったため、危機の初期段階ではこのようなメッセージは意味があったかもしれない。

布製マスクは医療用マスクほど効果的ではないが、たとえ不完全であったとしても、ウィルスの蔓延を制限するためには何もないよりはましだ。インフルエンザが大流行した場合の自家製マスクの有効性を検証するために、2013年に行われた先見性のある小さな研究によれば、研究者たちは布製マスクを「最後の手段としてのみ考慮されるべきである。しかし、何も保護しないよりはマシだろう」という表現で推奨している。

ケンブリッジ大学出版局が発表した研究によれば、手作りの布製マスクと従来の外科用マスクの両方で、着用者が排出する感染性のある飛沫の量は「有意に」減少したが、感染防止効果は外科用マスクの方が3倍優れていたという。自家製マスクは医療用マスクのように使い捨てられることが少ないため、使用後に洗浄して感染性の飛沫を取り除く必要がある。

木曜日に保健当局は、マスクを使用することは、物理的な距離対策を緩和しても良いという意味ではないことを、注意深く強調した。

「マスクを使うことが、現在皆さんにお願いしている全ての対策の代替になるものではないということを肝に銘じておいてください!」とバークス氏はコメントした。

画像クレジット: SeongJoon Cho/Bloomberg via Getty Images / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:sako)

米国のCDCが同国向けに新型コロナの自己チェックボット「Clara」をローンチ

米疾病管理予防センター(CDC)は先週末、COVID-19こと新型コロナウイルス感染症の潜在的な症状がある場合に、どうすべきかを判断するためのボットを導入した。Claraと呼ばれるこの「新型コロナウイルスセルフチェッカー」は、CDC財団およびMicrosoft AzureHealthcare Botサービスとのパートナーシップで作成された。

新型コロナウイルスは世界保健機関(WHO)によって世界的なパンデミック(大流行)だと宣言されているが、Claraは現在、米国に滞在している人の使用を想定している。CDCによると米国時間3月22日の現在、同国では1万5200人以上が同ウイルスに感染し、200人が死亡しているという。

Microsoft(マイクロソフト)は声明の中で、風邪やインフルエンザに似た症状を持つ患者をスクリーニングし、誰が「限られた医療資源へのアクセス」を必要とするかを判断することは「危機に対処する医療システムを圧倒する脅威へのボトルネックとなる」と述べている。同社のヘルスケアボットはAI(人工知能)を使用しており、CDCがより多くの質問に回答するのを助け、医療従事者が救急治療を必要とする患者の世話をできるようにすることを意図していると、同社は表明している。

しかし、Claraは診断や治療目的での使用を意図したものではない。質問を元にユーザーに症状を説明し、治療が必要な場合には推奨事項を提供する。

マイクロソフトは声明の中でまた、同社のHealthcare Botのカスタマイズ版は現在プロバイダーにより使用されており「新型コロナウイルスの感染を懸念する一般市民からのメッセージは、毎日100万件を超えている。この数は、増大するニーズに対応して急速に増加することが予想される」と述べている。

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(翻訳:塚本直樹Twitter