IPO果たしたChatwork、スペースマーケットの組織づくりと採用:TC School #17レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第17回が1月23日、開催された。スタートアップのチームビルディングを一連のテーマとして展開する今シーズンの4回目、最終回となるイベントでは「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

この記事では、パネルディスカッションの模様をお伝えする(キーノート講演のレポートはこちら)。千葉道場ファンドで取締役パートナーを務める石井貴基氏は、キーノートに続いてパネルディスカッションにも登壇。Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏、スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者の佐々木正将氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏を加えて、IPO前後の社内組織づくりや人材採用などについて聞いた。

Chatwork、スペースマーケットの設立からIPOまでの軌跡

まずは登壇者それぞれの自己紹介と、各社事業の簡単な紹介があった(石井氏の紹介については、キーノート講演レポートをご覧いただきたい)。

トップバッターは、Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏。Chatworkは2000年、大学在学中に兄の山本敏行氏と正喜氏が兄弟で創業した企業で、実は20年事業を続けている。創業当時は兄・敏行氏がCEOで、正喜氏はCTOだった。

設立から11年目に、ビジネスコミュニケーションツールの「Chatwork」を正喜氏が中心となってリリースし、プロダクトの成長に合わせて社名も変更。2018年に正喜氏がCEO兼CTOに就き、2019年9月に東証マザーズへの上場を果たした。

2019年12月末時点での従業員数は106名。大阪本社、東京オフィスのほかにベトナム、台湾に拠点を置くChatwork。「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げる同社は、Chatwork以外にも、セキュリティソリューションのESETを扱っている。

「我々はChatwork以前から行っていたセキュリティ事業で収益を上げて、そこからChatworkへ投資していたので、外部から資金調達を行ったのは、結構後になってからのことだった」(山本氏)

代表取締役CEO兼CTO 山本正喜氏

Chatworkは2011年、国内ビジネスチャットプロダクトのパイオニアとして誕生した。電話やメールに代わるビジネスコミュニケーションツールとして、グループチャットのほか、タスク管理、ファイル共有、ビデオ・音声通話といった機能を提供。ビジネスチャットツールとしての利用者数は国内ナンバーワン、導入社数は24万6千社以上(2019年12月末日現在)に到達している。

IPOまでの売上の軌跡も紹介してくれた山本氏。設立から10年で既存事業が踊り場に来たときに、新たに投入されたプロダクトがChatworkで、「しばらくは苦しい時期が続いたが、2015年のシリーズAラウンドで資金調達を行い、そこからぐっと売上が伸びた」と説明する。設立以来の売上の比率は、集客支援(SEO関連)、ESET事業と移り変わり、長く会社を支えてきたが「いつまでも他社製品に頼っていてはいけない。自社製品をつくろう」として開発されたChatworkが、現在は売上の中心となっているそうだ。

続いては、2019年12月20日に東証マザーズへの上場を果たしたばかりのスペースマーケット佐々木氏からの自己紹介・事業紹介だ。佐々木氏は、スペースマーケットでCFOとしてファイナンスを担当しながら、人事責任者を兼任する。2017年にベンチャーキャピタルからの紹介で代表取締役CEOの重松大輔氏と出会い、ジョインした。入社後はコーポレートの組織構築、上場準備開始から着手し、ファイナンス、組織、経営管理を主に担当している。

スペースマーケットは、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできる、スペースシェアリングのプラットフォームを運営するスタートアップだ。「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」をビジョンに掲げ、「世界中のあらゆるスペースをシェアできるプラットフォームを創る」ことをミッションに、2014年、代表取締役CEOの重松大輔氏が創業した。現在は約50人の従業員を擁し、1万2000件以上のスペースをサイトに掲載する。

スペースを借りたいゲストと貸したいホストをマッチングし、ゲスト手数料を5%、ホスト手数料を30%として、双方から手数料を得るビジネスモデルを採るスペースマーケット。現在は「全国47都道府県にある、種類もさまざまなスペースを掲載している」と佐々木氏は説明する。

「家を一軒貸すケースもあれば、部屋を一部屋、使っていない時間帯だけ貸すケースもある。住居だけでなく、オフィスの空き会議室や、空き時間の飲食店、スポーツ施設などもある。スペースマーケットで特徴的なスペースとしては廃校や、お寺といったものも提供されている」(佐々木氏)

スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者 佐々木正将氏

利用用途として多いのは、パーティーなどの会合で使われるケースだそうだ。会議や撮影などにも使われるほか、ボードゲームの集まりで使われることも。「実現している世界としては、ママ会などが有用に使われる例となっている。子ども連れでも安心・安全に、レストランなどと違って気を遣わずに使える場として活用されている」(佐々木氏)

貸す側のニーズとしては「古民家で、全く使っておらず、維持費はかかるが壊すのはもったいないので、誰かに使ってほしい」という事例や、「取り壊し予定のビルで新たな賃貸契約は結べないが、壊すまでの間は時間貸ししたい」といった事例があるという。「少子高齢化で浮上している空き家問題解決の対策にも貢献できるのではないか」と佐々木氏は言う。

事業は2019年9月(2019年度3Q)時点でGMV(流通取引総額)が16億円規模まで伸張。GMVを因数分解し、「利用されているスペース数」と「スペース当たりの平均利用金額」も主要KPIとしているそうだ。全社総取扱高・営業損益については、「数値・コストを厳しく管理して、3Q時点で黒字転換。黒字でIPOを果たせるよう進めてきた」と佐々木氏は述べている。

佐々木氏は「今後、広告媒体としてのスペース活用により、法人向けイベントプロデュースやプロモーション支援なども強化していきたい」と話している。

シェアリングエコノミー業界に属する企業として、スペースマーケットには「業界全体の発展推進にも貢献したい」という意向もあり、代表の重松氏は、シェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事も務める。「スペースマーケットではこれからも、新たなスペース利用の可能性を創造し、スペースシェアのモデルを確立していきたいと考えている」(佐々木氏)

TechCrunch Schoolの一連のシリーズのスポンサーとして登壇してきた、エン・ジャパン執行役員の寺田氏。今回のディスカッションでは、モデレーターを務めるTechCrunch Japan 編集統括・吉田博英とともに、進行役として参加してもらっている。

寺田氏はエン・ジャパンで2016年8月に、採用支援サービス「engage(エンゲージ)」を立ち上げ、中心となって運営している。engageは「誰でも採用が始められて続けられる」(寺田氏)ことをコンセプトに誕生したサービスだ。

「engageでは、エン・ジャパンが求人サービスを提供する中で得たエッセンスやノウハウを応用し、企業独自の採用ページを、クックパッドのレシピが投稿できる人なら誰でも作成できるようにした。また採用情報がつくれても、応募が集まらなければ続けられないので、オンラインの採用マーケティング機能も強化してきた。IndeedやYahoo!しごと検索、Google しごと検索といった求人のメタ検索エンジンにも自動連携し、求職者にリーチすることができるようにしている」(寺田氏)

寺田氏は「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャー、LENSAの代表取締役も務めており、LINEキャリアへの求人情報掲載無料も実現している。

engageは2020年1月現在、25万社が利用。スタートアップから大手企業まで多くの企業の採用に活用されている。スタートアップでは「本業にデザイナーやエンジニアのリソースを集中したいというニーズが大きい一方、採用広報やHR担当者にはテクニカルスキルが十分でなく、情報発信が難しいことも多い。そういう方でも簡単に採用情報を発信できるということで利用されている」とのこと。

また、大手企業の場合は「会社としての採用情報は公開されているが、セールス部門とエンジニアリング部門ではカラーがかなり違う、といったこともある。そういう各部署でチームメンバーを募集するために利用されることもある」そうだ。

事業の信頼性、安心感がIPOで社会に広く伝わる

ディスカッションではまず、昨年マザーズ上場を果たしたばかりの2社に「なぜ、このタイミングで上場したのか」という質問が投げかけられた。

Chatworkの山本氏は「自己資金で黒字経営でずっと来ていたので、元々は上場する気はなかった」としながら、「Chatworkのビジネスをきっちり成長させるには、資金調達やIPOというモデルが合っていた」と話している。

「成長するSaaSほど、初期は赤字になると言われている。Chatworkはユーザー数も大変増え、チャーンレートも低く、伸びるとは分かっていたが、エンジニアをたくさん採用すると大赤字になっていた」(山本氏)

同社には黒字経営のポリシーがあり、Chatwork事業も「ほかの事業を食い潰しながら、我慢しながらやっていた」という山本氏。だが、2015年ごろ、ビジネスチャットのカテゴリが盛り上がりを見せ、サンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップエコシステムの中でも資金調達が活発になる。日本では先行していた同社としては「Chatworkを利用する顧客のためにも、会社のポリシーよりプロダクトの成長にコミットすることを決断した」そうだ。

「ビジネスチャットはコミュニケーションの根幹を預けるインフラビジネス。そこへの信頼性という点でも上場は向いていたし、モデルとしてもエクイティで成長させるというのが向いていた。資金調達から、順調に背徴させて、無事上場することができた」(山本氏)

スペースマーケットの佐々木氏は、上場を前提にCFOとして同社に入社している。「投資契約の上場ターゲットが2019年だった。私が2017年に入社した後、一番最初にやった仕事が、主幹事会社の選定だった」と振り返る。その後も事業計画の変更など、2019年の上場を目指して準備を進めていったという佐々木氏だが、「最後の最後、上場承認が発表される1〜2週間前になって、バリュエーションなどの話で社内で議論となり、(ボードメンバー間で)悩んだ」と明かす。

それでも上場したのは「スペースシェア、シェアリングエコノミーについて、個人のデリバリーサービスへの不安やアメリカの民泊サービスでの事件などがあった中で、スペースマーケットは『安心・安全に使ってもらえるサービスだ』と社会に知ってもらいたい」(佐々木氏)との思いからだったそうだ。

石井氏が創業したアオイゼミでも「IPOストーリーで考えてはいたが、具体的に上場を考える手前でM&Aとなった」とのこと。石井氏自身は「IPOという世界を見たことがない」として、2人の話に「勉強になる」と述べていた。

IPOまでの社内組織の変化・変更点

続けて「IPO前後の社内組織の変化や、変更した点はあるか」との問いに、佐々木氏が答えた。

「IPO後の方は1カ月ほどしかないが、前について言えば、アーリー・ミドル期からレイターへ移るころに変化はあった。ミドル期ぐらいまでは、何もできていない状態なので、チャレンジをすれば当たる確率が高く、やれば伸びる、という状況だった。そこから上場を見据えて利益づくりに動くようになると、施策の精度や予算達成が求められるようになる。だから去年1年間ぐらいは、社内的には閉塞感を感じていたメンバーもいたかもしれない。それが上場承認を社内で発表した途端に雰囲気が明るくなり、『また新しいチャレンジをしていこう』というモードになっている」(佐々木氏)

組織変更については「IPO後の1月から早速、権限委譲を始め、部長職の擁立などを進めている」と佐々木氏は話している。

山本氏も「うちもIPOからそれほど間がない」と前置きしつつ、上場前後で「あまり大きな変化はなかったように感じる」と述べている。「よく言われることだが、IPO申請期は事業計画の蓋然性の証明がきつい。売上・利益を計画の上下5%に収めるように、というかなりの『無理ゲー』をみんなクリアしなければいけない。ただ僕らはそれほど大変ではなかった。そこはSaaSビジネスの強みだが、変動が小さく、数字が読みやすいこともあって、計画周りではそれほど苦労しなかった」(山本氏)

組織については「上場というよりは、資金調達前後で変わっている」と山本氏は言う。「もともと30人ぐらいのスモールビジネスで15年やってきて、社員満足度が大事という『ファミリー』なカルチャーだった。資金調達後は、Excelで言えば2次曲線を描くような成長を求められ、後半は特に新規事業づくりなど、やり遂げるためのプレッシャーがかかる。以前は知り合いの紹介で社員が入社して、離職も少ない会社だったところを、18億円調達して『使わなければならない』ということで採用を活発にして、1年でそれまでの倍の50人になった」(山本氏)

急な人数増、というだけでなく、「それまでのファミリーなカルチャーの人に対して、少し山っ気のある『一発当ててやろう』というような人も入ってくるようになり、カルチャーの衝突が起きた」と山本氏は振り返る。「会社としては、スケールさせる組織のカルチャーや事業の仕組みにアップデートしていかなければならないので、アジャストするんだけれども、変わりきれない部分もあり、そこがぶつかって組織崩壊も何度か経験し、2016〜17年ぐらいはしんどかった」(山本氏)

その後「アップデートの仕方を経営陣も学んで、50人の壁を乗り越えるメドがつく頃には組織も落ち着き、IPO前後には安定していた」(山本氏)ということだ。

IPOに関連して寺田氏が「社員が盛り上がったタイミングはいつだったか」と聞くと、佐々木氏は「上場承認日だった」とのこと。「15時に有価証券届出書がウェブで公開されるのだが、これが社内での発表前だったので、社内はザワザワしていた。15時半ごろに、社内でも正式に公表した」(佐々木氏)

一方の山本氏は「IPOの発表は盛り上がったことは盛り上がったけれども、盛り上げすぎないように気をつけていた」そう。「スタートアップの失敗談として、IPOを目標にしすぎると、IPO後ヤバいと聞いていたので、離脱や燃え尽きが起きないように、発表前から繰り返し『IPOはゴールではなくてスタートだ』と話していた。『IPOは、運転免許が取れたようなもの。我々はやっとクルマに乗れるようになったところ』と社員には説明していて、上場当日も意図的に盛り上がらないようにして、『社会的責任が出たから、これからもがんばろうね』という話をした」(山本氏)

IPOに向けた採用・事業での取り組み

IPOに向けて、集中して取り組んだ採用や事業についても、2人に聞いた。

佐々木氏がスペースマーケットに入社したのは2017年1月だが、「直前の2016年冬は業績が良かったのに、入社後の1月から3月はあまりよくなかったので、騙されたと思った(笑)」という。そして3月、千葉道場に参加した佐々木氏は、あるスタートアップのCEOにKPIの生データを見せてもらい、やり方を持ち帰って細かいKPI管理を行うようになった。

「スペースマーケットの掲載物件には、いろいろな場所、用途がある。ユーザーも法人、個人ともにいて、エリアもさまざま。料金も数百円から100万円まで幅広い。そうしたサービスを数字で判断するということを、2017年から始めた。2017年4月から6月は毎日KPIをみるようにしたところ、夏ごろから施策の精度が段々上がっていった」(佐々木氏)

千葉道場ファンド取締役パートナー 石井貴基氏

ここで石井氏から「KPIをゴリゴリ管理するようになって『社風が変わる』ではないが、既存メンバーから嫌がられなかったか」と佐々木氏に質問があった。

佐々木氏は、「確かに当初は嫌がられたが、重松氏が『新しいことをやろう!』という部分を担当した」と回答。自身が数字管理などの「厳しい方」を担当することで棲み分けを行ったということだった。

山本氏も、IPO前の数字の管理については「かぶるところがある」と話す。「IPOに向かう前は、事業が当たって勝手に伸びていく、といった具合で、フィーリングで経営していた。しかしVCからの投資が入ってからは、『ケーパビリティを超えることをやろうとしているのに、科学的にやらなければ実現は無理だ』ということで、なぜうまくいっているのか、数字を解明することから始めた。ひたすらデータ化し、分解しまくって、巨大なスプレッドシートに何百個というデータを最初は手作業で入力し、それを徐々に自動化して、データの見える化に3年ぐらいかかった」(山本氏)

山本氏は見える化によって「ようやくファクトで議論できるようになった」といい、「経営や事業は、科学しないとスケールしない」と語っている。

また山本氏は、役員からのトップダウンで組織で経営するにあたっては「経営会議をしっかり開くことも有効だった」と話している。ボードメンバーは5人。経営の意思決定が進まないという課題に対し、経営会議を週3回の頻度で開催するようにしたが、「話すことはなくならなかった」と山本氏はいう。

監査役も入った正式な会議を週2回、週1回はボードメンバーだけで集まって、よもやま議論を行っていくことで「ボードメンバーの結束が高まった」と山本氏。「今は週2回実施となったが、今でもまだまだ話すことがある。経営会議の頻度で、経営陣、社長と役員が一枚岩になったことは、100人の組織の壁を乗り越えるためのひとつのプラクティスでもあるのかなと考えている」(山本氏)

CEOでもあり、CTOでもある山本氏には「経営会議ではCEO、CTOのどちらの立場として発言するのか」との質問も投げかけられた。山本氏は「話題によって、帽子をかぶり分けている」と答えている。

「これは結構難しいのだけれども、経営会議ではCEOの帽子をかぶらざるを得ないときが多い。ボードメンバーのひとりに開発本部長、VPoE的な役割のメンバーがいるので、必要なときには、彼にCTO的な立場を取ってもらって、自分は結構厳しいフィードバックをするようにしている」(山本氏)

目的達成に影響を与えたキードライバーは?

エン・ジャパンの寺田氏からは2社に「どんなKPIを見て、それをどう上げていったか」という問いかけがあり、それぞれの目的達成に強く影響を与えた「キードライバー」について、佐々木氏、山本氏に聞いていくことになった。

スペースマーケットの佐々木氏は、同氏の入社以前の2016年までは「なぜ事業が伸びているのかは、しっかり分析できていなかった」という。そして「特にどの指標がキードライバーだったとは言えないが、要因分析をすることは重要だ」と話している。KPIのレポーティングは、「エンジニアやデザイナー、PMがそれぞれ行っている」そうだ。「CVRや利用率、利用額、高額利用の金額など、四半期ごとに確認するKPIを変えているので、追う数値が何かによって担当を変えている」とのことだった。

Chatworkの山本氏は「事業のキードライバーは、2つのエンジン。ひとつはフリーミアムモデルで、もうひとつがダイレクトセールスモデル」と答える。

「Chatwork事業は、無料利用のユーザーが機能を開放して有料コースを使うようになる、フリーミアムモデルでスタートしている。最初はそれしかなかったが、資金調達前は、それで自然成長していた」(山本氏)

しかし自然成長だけでは「VCが要求する成長に間に合わない」タイミングが来る。資金調達後はそこから成長をさらに加速するために、フリーミアムモデルに加えて、ダイレクトセールスモデルを立ち上げたと山本氏はいう。

「BtoB、SaaSモデルではむしろこちらがメインだと思う。マーケティングチームが見込み客のリードを展示会などのイベントで集めて、そこから電話でアポイントを取り、セールスが訪問して、1〜2カ月のトライアルはあるが、はじめから有料でサービスが始まる、直販モデル。それをやることを前提に調達したので、調達後に我々がまずやったことは、営業がゼロの状態から、営業部、マーケティング部を作ることだった」(山本氏)

もともとはエンジニア中心のChatworkには、営業、マーケティングで入った人材とは「カルチャーが全然違う」状況だったが、それを両方やる、あるいは営業側を推していかなければならない。山本氏は「フリーミアムでいいものを作ればプロダクトが広がる、というのはアーリーアダプターまで。そこから先のマジョリティ層は、自分で良いものがないかとプロダクトを探したりはしない。プッシュマーケティング、プッシュセールスが必要」として、開発と営業の両部門を担当し、「知ってもらわなければ」という文化へカルチャーの変革に乗り出した。

「カルチャーを変えることはすごく大変だったが、4〜5年かけて、フリーミアムとダイレクトセールス、両方のエンジンがあったからこそ、成長が2次曲線になった」(山本氏)

採用時の体験入社は強くおすすめしたい

キードライバーを加速させるための採用戦略について聞かれて、山本氏は次のように答えている。

「Chatworkの調達資金の使途は、マーケティングと開発が多く、エンジニアとビジネス系人材をほぼ同数、採用していた。調達しているスタートアップでは、ビジネス系人材の採用ではエージェントを使うのがスピードが早いと思う。ただし紹介を依頼すればいい人が採れるかというと、そういうわけでもない。ただ候補者リストが流れてくるだけで、ヒットする人材が見つからず、うまくいかないことも多い。エージェントを使いこなさなければ、いい採用にはつながらないだろう」(山本氏)

山本氏はエージェントを活用した採用でうまくいったケースとして「小さな人材紹介会社の社長と仲良くなって、こちらの思いを語り、ファンになってもらったことをきっかけに、向こうも『うちを人事部と思って使ってくれ』と言ってくれるようになった」という例を紹介した。

「どういう人が欲しいかが伝わると、とても(質の良い)熱いリストを用意してくれるようになる。そうして2〜3社と濃く付き合うようになった」(山本氏)

ちなみに「初期には採用計画といったものは特になかった」と山本氏は言う。石井氏も投資家の立場から考えても「採用計画は用意してもらうとしても、必ずしも当てにはならず、そこまで厳密にはできないと思う」と述べている。

「上場が近づくとようやく、計画通り採用できるようになる」という山本氏。スタートアップがスケールするときの人材採用について、「シニアマネージメントや、マーケティングスペシャリスト、スーパーエンジニアといった、成長にとって欠かせないケーパビリティを持つキーパーソンに、いかにいい人が採用できるかが肝。そういう人が採用できれば、その人の下にメンバーを入れていけばいいので、組織はスケールする。そこで失敗すると、半年、1年遅れてしまう」と語っている。

佐々木氏は、経営管理チームだけでなく、エンジニアでも数字も読みながら開発の優先順位が決められるという人材を重視していたということで、「エンジニアとコーポレートの採用については注意していた」と話す。一方で「キーマンを採用した後は、カルチャーフィットを重視しながら、ほぼ未経験の人も採用してきた」そうだ。

スペースマーケットでは、経理未経験で営業事務として入社した人材が、入社3年で決算までできるように成長した例もあるという。財務担当者も新卒2年目で、エンジニアにも未経験者を採用しており、うまくいっているそうだ。

人材エージェントについては「コミュニケーションがうまく取れなくて、50人の候補で1人しか入社しないといった結果になった」と佐々木氏。「給与水準が高くない上に、選考中に1日インターン体験を組み込んでいて、選考ステップが重いことも理由としてある。課題をハックしてもらい、たくさんの社員と面談してもらう1日体験を実施することにより、採用ミスマッチは少なくなるが、早く採用を決めたいエージェントからすると、あまりうまみがないだろう」(佐々木氏)

採用の窓口としては「Wantedlyが6〜7割、次いでGreenとリファラルで2〜3割ぐらい」と佐々木氏は言う。そのほかに「ブログや勉強会などで発信を行い、新しい技術導入もアピールし、スタートアップに興味のあるエンジニア界隈を引きつけることで、採用フィーをかけずに人材を獲得するようにしている」(佐々木氏)

体験入社では「マーケティングならダミーデータを用意して、マーケティング施策を2時間で考えて、といった課題を出す。実際に近い仕事を実践してもらうことで、入社する人にとっても業務がイメージしやすくなる」(佐々木氏)

体験入社については、Chatworkでも実施しているとのことで、山本氏も「体験入社は、カルチャーギャップや入社時のミスマッチが本当になくなるので、メチャクチャおすすめする」と話していた。

クラウドファクタリングのOLTAがChatworkと共同で中小企業の資金繰り支援へ、2億円の調達も実施

オンライン完結型のクラウドファクタリング事業を展開するOLTAは12月5日、ビジネスチャットツールを手がけるChatworkと共同で中小企業の資金繰りをサポートするサービスを開始した。

今回リリースされた「Chatwork 早期入金 powered by OLTA」は「Chatwork」上にて展開されるサービスだ。請求書の入金待ちによって足元の資金繰りに苦しむ中小企業がChatwork上で早期入金の相談をすれば、その後OLTAのクラウドファクタリングと接続。OLTAを通じて入金待ちの請求書(売掛金)を売却することで、運転資金を調達できる。

前回も紹介した通りOLTAの特徴は請求書を売却するまでのフローが簡単かつスピーディーで、手数料もリーズナブルな点だ。本人確認書類や売却する請求書などの必要書類をオンライン上で提出すると、24時間以内に審査を実施。条件に同意して契約すれば即日ないし翌営業日には買取金額を受け取れる。

契約に至るまでの一連の手続きがすべてオンライン上で完結するため、対面での面談や紙の書類の記入なども不要。約20万社のデータに基づくAIスコアリングモデルを軸にした審査などによって従来よりも人的コストを削減することで、手数料も業界最安水準の2〜9%に抑えた。

国内では現在も商取引において掛売の形態を取られていることが多く、その商慣習が中小企業の経営者が資金繰りに頭を悩ませる原因の1つにもなっている。短期・少額の運転資金を調達したいというニーズはあるものの、それを満たせる選択肢が少ないのが現状だ。

ファクタリングサービス自体は以前からあるものの、そこにテクノロジーを絡めることでユーザーにとってさらに便利で使いやすい資金調達手段を確立していこうというのがOLTAの取り組み。同社としては中小企業の利用も活発なChatworkと連携することで、より多くの企業にクラウドファクタリングを広めていくことを目指す。

一方のChatworkとしてもOLTAと組むことでユーザーの経営課題を解決する仕組みを取り入れ、自社サービスの付加価値を高められる可能性があるだろう。

約2年で申し込み総額は150億円を突破、今後は他社との連携強化へ

OLTAではChatworkとの事業連携の発表に先駆け、11月27日に日本郵政キャピタルから2億円の資金調達を実施したことを公表している。この調達は5月に実施したシリーズAラウンドの追加調達という位置付けで、同ラウンドの調達額は約27億円(第三者割当増資が約20億円)、2017年4月の創業以降の累計調達額は約32億円となった。

5月には第三者割当増資と融資を合わせて25億円の資金調達を発表。今回新たに投資家として日本郵政キャピタルが加わり、シリーズA全体では27億円の調達となった。

2017年末からクローズドβ版の運用を始め約2年で申し込み総額は150億円を突破。5月の時点では100億円を突破したということだったから、だいたい半年で新たに50億円ほどの申し込みがあった計算になる。

取締役CSOの武田修一氏によると「マーケットのポテンシャル自体が膨大なので、何千億、何兆円という規模まで拡大していきたい」という思いが強いそう。山を登るスピードをさらに上げていくべく、5月の調達以降は人材採用の強化とともにマーケット拡大に向けて他社との連携を強化してきた。

特に現在進めているのが地銀を始めとした既存金融機関との連携と、SaaSを展開するスタートアップとのサービス連携だ。

今回のChatworkとの連携はまさに後者の取り組みの1つ。OLTAでは6月にもクラウド会計ソフトのfreeeと「freee」上で請求書を早期に資金化するプロダクトをローンチしているが、同社がメインターゲットとする中小企業のユーザーが多いSaaSと組んで事業の拡大を目指す動きは今後も続けていく方針だ。

一方でSaaSが徐々にさまざまな企業に導入され始めているとはいえ、日本全体で見るとまだまだ広く浸透しているとは言えないだろう。クラウドファクタリングの認知度を上げていくためには、オフライン・オンライン双方で既存金融機関と密に連携を取っていくことも重要になる。

この座組みについてはケースバイケースで企業ごとに柔軟に決めていくとのこと。たとえば西武信用金庫とはビジネスマッチング契約(西武信用金庫の顧客にOLTAを紹介してもらう形式)という形で協業を発表した。OLTAとしてはスコアリングモデルやプロダクト開発の仕組みなどをまるっとOEMとして提供し、金融機関のブランド・資金でファクタリングを普及させていきたいという構想もある。

OEM提供先の拡大はクラウドファクタリングのマーケットを拡大していく上ではもちろん、データを通じてスコアリングモデルの精度を高めていく上でも重要だ

以前取材した際も武田氏や代表取締役CEOの澤岻優紀氏は銀行の融資とクラウドファクタリングは用途が異なるため、競合するのではなく上手く棲み分けられるのではないかと話していた。前回はまだ仮説ベースだったというが、実際に金融機関と話を進める中で今はその手応えがつかめているそう。来年にはいくつかのタイアップ事例を発表できる予定だという。

「各金融機関の店舗で融資を受け付ける場合、1件あたりの金額があまりに少額だと採算が合わずに難しいことも多い。そういった際に小口であればクラウドファクタリングを1つの選択肢として紹介してもらい、まとまった金額が必要になったら融資で対応という形で上手く連携・棲み分けができる。既存の金融企業が応援してくれることは事業を広げていく上でも大きい」(武田氏)

まずは上述した他社との連携も進めながら、引き続き中小企業を中心にクラウドファクタリングの仕組みを展開していく計画。ゆくゆくは以前もちらっと触れたようにデータやスコアリングモデルを活用して、ファクタリング以外のプロダクトも手がけていく方針だ。

「戦い方としては一般的なSaaSビジネスとは逆になるかもしれない。スタートはSMB向けでも徐々にエンタープライズにシフトしていくSaaSも多いが、自分たちの領域の場合エンタープライズ向けには洗練された金融ソリューションがいくつもあって、そこにはあまりペインがないと考えている。中小規模の企業にこそ大きなペインやニーズがあって、マーケットも大きい。(ファクタリングに限らず)ロングテールのSMBのペインをいかに解決し、ビジネスとしても確立していくかが今後のチャレンジだ」(澤岻氏)

Chatworkの上場初日は最高値1521円で終値1400円の安値引け、時価総額は512億円超に

ビジネスチャットツール「Chatwork」(チャットワーク)を開発・提供しているChatworkは9月24日、東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場した。公開価格は1600円だったが初値は1480円となり、公開価格より7.5%下回った状態で取引がスタートした。取引開始からすぐの9時11分に1521円の高値となったものの、その後は1400円前半台で株価が推移。終値が最安値の1400円となり初日の取引が終了した。9月24日の終了時点の時価総額は512億4000万円となった。なお、安値引けとなったので明日は売り先行で株価が推移すると予想される。

Chatworkが東証マザーズ上場、山本代表が語る今後の事業戦略

ビジネスチャットツール「Chatwork」(チャットワーク)を開発・提供しているChatworkは9月24日、東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場した。主幹事証券会社は大和証券で、そのほかみずほ証券、SMBC⽇興証券、SBI証券、マネックス証券、楽天証券、松井証券などが株式を取り扱う。初値は1480円で2019年9月24にち9時11分に1521円の高値となり、その後は1450円台で株価が推移している。公開価格は1600円だったので初値で7.5%下回ったことになる。発行済株式数は3660万株。

ChatWorkは2000年7月の設立。2015年4月にGMO VenturePartnersから3億円、2016年1月にGMO VenturePartners、ジャフコ、新生企業投資、SMBCベンチャーキャピタルから15億円を、第三者割当増資で調達していた。

大手企業への導入、サイボウズやBoxなど他社サービスとの連携など進め、2018年6月にはChatworkの生みの親でもある取締役兼専務執行役員CTOだった山本正喜氏が、代表取締役兼CEO/CTOに就任。今年2月にはマネーフォワードとの資本提携も発表。3月には、取締役1名と執行役員を2名、監査役を1名を選任する新経営体制を発表していた。

ChatWorkで代表取締役兼CEO/CTOを務める山本正喜氏

今回の上場の目的について山本氏は「社会インフラとして定着させるには事業の継続性や信頼性を担保する必要がある。その手段として上場を選んだ」と語る。山本氏によると「当初は上場や外部資本の導入は考えていなかった」とのこと。

2014年にChatWorkで大規模な障害が発生した際に、顧客のツイートや問い合わせなどでChatworkがビジネスのライフラインとして活用されていることを痛感し、翌年の2015年に腹をくくって資金調達を始め、開発体制の強化を進めたそうだ。具体的には前述したように、2015年4月にGMO VenturePartnersを引受先とした第三者割当増資で3億円、2016年1月にジャフコ、新生企業投資、SMBCベンチャーキャピタル、GMO VenturePartnersを引受先とした第三者割当増資で15億円、総額18億円の資金調達を実施している。

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ChatWork15億円を追加資金調達、打倒Slackで北米市場進出なるか?

ちなみに、先月8月23日に発生したAWSの障害により、コード決済やEC、オンラインゲームなどがさまざまなサービスが一時利用できなくなったが、「ChatWorkのメッセージング機能はAWSの障害の影響を受けませんでした。メッセージ検索機能は一時使えなくなりましたが、すぐに復旧しました」と山本氏。「障害に強いシステムを作るには冗長性を持たせる必要がありますが、そのぶんコストがかかります。ChatWorkでは、2014年の教訓からコアサービスであるメッセージング機能は障害に強い設計に作り変えた」と続ける。

セキュリティ面での取り組みも進めており、社内で検証するホワイトボックステストはもちろん、外部アクセスで検証するブラックボックステスト、脆弱性や不具合などを発見した場合に報奨金を支払うバグバウンティプログラムも実施している。「重要度の高いものは速攻で直し、軽微なものは定期メンテナンスでまとめて直しています」とのこと。

ビジネスチャットといえばSlackの勢いが増している印象だが、山本氏は意外にも「あまり競合していないと」語る。「ビジネスチャットは普及率は23%程度で、まだまだ開拓の余地があります。ChatWorkは、Slackが登場する2013年8月より前の、2011年3月からサービスを開始していたこともあり、国内企業の普及率は高いそうだ。IT業界ではSlackの普及率も高いが、ChatWorkは300名以下の非IT業界で採用が増えているという。具体的には、士業、介護、建設、製造、小売り、医療などの現場で使われているそうだ。

ChatWorkの優位性としては「社内と社外で同じアカウントを利用できるため、シームレスな運用が可能」と話す。例えば、Slackでは企業単位でチャンネルを作成した場合、社外の利用者とやり取りする場合は専用のゲストアカウントを利用するか、企業のチャンネルとは別のチャンネルを作成する必要がある。実際は1画面でチャンネルを切り替えられるのでさほど手間ではないが、取引先ごとにチャンネルを作るとなるとかなり煩雑になる。

今後の海外戦略については「まずは日本企業の現地法人があるベトナムやマレーシアに注力する」と山本氏。新興国は安価で労働力が手に入るため、ITへの投資熱はまだまだ低いですが、日本企業が進出している地域では利用頻度は上がっています。当面は日本9割、海外1割のぐらいで事業を拡大していきます」と話す。当面の主戦場は日本とアジア諸国になるが、中国については「グレートファイアーウォールの問題がありメッセージを暗号化できないため、進出の優先順位は低い」そうだ。

米国進出については「調査のためにシリコンバレーに事務所を作ってスタッフを5人ほど常駐させていたが現在は撤退している」とのこと。その理由として、日本資本で日本の会社が英語圏でのエコシステムに乗るのは難しく、ハードルは高かったと話す。

今後のサービス展開として山本氏は「まだまだ普及率の低いビジネスチャットを当たり前にし、次にチャットを利用した商取引を当たり前にする」と語る。将来的には、請求書や決済などもChatWork上で済ませられるマーケットプレイスの構築を考えている」と語ってくれた。

ビジネスチャットツールのChatworkが東証マザーズ上場へ

チャットツール「Chatwork」(チャットワーク)を開発・提供しているChatworkは8月15日、東京証券取引所マザーズ市場への新規上場を承認されたことを発表した。上場⽇は9⽉24⽇を予定しており、同⽇以降は同社の株式の売買が可能となる。主幹事証券会社は大和証券。そのほか、みずほ証券、SMBC⽇興証券、SBI証券、マネックス証券、楽天証券、松井証券などが株式を取り扱う。

ChatWorkは2000年7月の設立。2015年4月にGMO VenturePartnersから3億円、2016年1月にGMO VenturePartners、ジャフコ、新生企業投資、SMBCベンチャーキャピタルから15億円を、第三者割当増資で調達していた。

同社は大手企業への導入やサイボウズやBoxなど他社サービスとの連携など進め、2018年6月にはChatworkの生みの親でもある取締役兼専務執行役員CTOだった山本正喜氏が、代表取締役兼社長執行役員CEO兼CTOに就任。今年2月にはマネーフォワードとの資本提携も発表。3月には、取締役1名と執行役員を2名、監査役を1名を選任する新経営体制を発表していた。

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“非エンジニア向けSlack”を開発するOneteam、ニッセイ・キャピタルから約2億円の資金調達

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非エンジニア向けのコミュニケーションツールを開発するOneteam。2015年5月にサイバーエージェント・ベンチャーズから資金調達を実施した際、プロダクトの一部の機能のみを提供していた同社が間もなくサービスを一般公開するという。それに先かげて1月26日、同社はニッセイ・キャピタルを引受先とした総額約2億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。今後は人材の強化や東南アジア地域を中心としたマーケティングを強化する。

Oneteamが開発するのはビジネス向けのコミュニケーションツール「Oneteam」。「各トピックに紐づくリアルタイムチャット」「各種クラウドサービスの連携と横断検索機能」の2点が大きな特徴だという。

僕らが取材などでコミュニケーションをとるスタートアップの話を聞くと、多くが(主に開発時の)コミュニケーションツールとしてSlackやChatWorkを使ってるのだけれども、Oneteamは冒頭でうたったように非エンジニア向けのコミュニケーションツールだ。トピックごとにリアルタイムチャットが可能な構造のため、ほかのコミュニケーションツールに比べてストレスなく履歴を追うことができるのだという。

一方で五月雨式にメッセをやりとりできるSlack等は、着席してリアルタイムに内容を確認できるエンジニアには最適であり、競合ではなく想定ユーザーが違うサービスというのが同社の認識だ。そういえば以前の取材で、Oneteam代表取締役の佐々木陽氏は、「非エンジニア向けの、GithubとSlackを組み合わせたようなツール」といった説明をしていた。

コンセプトは「手のひらにチームを持ち歩く」。コミュニケーション機能だけでなく、チームを知るプロフィール共有機能なども備えている。

同社は2015年2月の設立。サイバーエージェント・ベンチャーズから約6000万円の資金を調達してサービスを開発。東南アジア地域をターゲットに提供(プロフィール共有機能を「Profike Book」として切り出して先行リリース。利用企業は800社・海外比率は85%だという)してきた。2016年1月からは一部企業にOneteamを試験的に提供開始。2月中にもオープンベータ版として公開する予定だという。

ChatWorkが15億円を追加資金調達、打倒Slackで北米市場進出なるか?

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ビジネス向けチャットアプリ「ChatWork」を提供するChatWorkが今日、総額15億円の追加資金調達を実施したことを発表した。今回のラウンドで第三者割当増資を引き受けたのはジャフコ新生企業投資SMBCベンチャーキャピタルGMO VenturePartnersだ。出資比率やバリュエーションは非公開だが、レイターではないステージとしては、GMO VenturePartnersを除く3つのVCの投資金額としては過去最大規模といい、ビジネス向けチャットプラットフォームに対する関係者の期待感をうかがわせる。ChatWorkは2015年4月にGMO VenturePartnerから3億円の資金調達を実施していて、これで資金調達額は合計18億円ということになる。

ChatWorkは「チャットアプリ」を提供している日本発のスタートアップ企業という分類になるかもしれない。だから、もしかしたら渋谷・六本木系のスタートアップと思う読者もいるかもしれないが、ChatWorkはいろんな意味でユニークだ。

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なぜ他人資本を入れないと掲げた社是を反故にしたのか

ChatWorkは2000年7月に創業していて(創業時の社名はEC Studio)、すでに会社自体は16期目。14年連続で黒字を続けた。借入も投資も受けずに、「他人資本を入れない」ことを会社の「しないこと14カ条」としてきた。社員第一主義を掲げて、「顧客に会わない」、「電話がない」、「10連休が年4回」、「iPhone支給制度」など、かなり変わった取り組みで中小企業向けのIT効率化関連サービスを提供して事業を伸ばしていた。

14カ条の中には「売上目標に固執しない」「会社規模を追求しない」「株式公開しない」というものもあった。これらはエクイティによる資金調達で一気に事業規模をスケールする「スタートアップ」とは真逆の選択だった。規模や急激なスケールを追求することで社員や顧客に負担が増えるという判断からで、実際、リンクアンドモチベーションによる外部第三者調査などでもChatWorkの社員満足度は高く、経営自体は順調だったという。

それがなぜ、この1年ほどで18億円という日本のスタートアップとしては大きめの資金調達するに至ったのか。ChatWork創業者でCEOの山本敏行氏は、「2005年から出張でシリコンバレーに行くようになり、日本から出たのがきっかけだ」と話す。

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ChatWork創業者でCEOの山本敏行氏

ChatWorkをローンチした2011年は、まだLINEが出る前だった。ビジネスでチャットを使うという発想も一般ユーザーの間にはなかった。2009年に出たGoogle Waveが派手に転んで撤退した頃だったこともあり、ビジネス向けチャットは、グローバルに打って出るチャンスだと山本氏は考えたのだそうだ。2012年には、それまでEC Studioとして展開していた事業を全て譲渡して社名をChatWorkに変更。山本氏自らシリコンバレーに移住した。1社1プロダクト体制にしたのも、シリコンバレーの影響だという。

ビジネス向けチャットといえば、TechCrunch Japan読者ならSlackを真っ先に思い浮かべるだろう。飛ぶ鳥を落とす勢いの同社だが、実は2011年スタートのChatWorkより後の2013年にローンチしている。Slackは開発者を中心に熱烈なファン層を広げつつあり、あっという間に競合を駆逐。著名VCのAndreessen HorowitzやKPCBなどから7回の資金調達ラウンドで合計3億4000万ドル(約400億円)を調達し、2015年4月の直近ラウンドで28億ドル(3290億円)という評価額となるなど大きな注目を集めている。2015年12月にはSlackが複数VCから8000万ドル(約93億円)を集めてサードパーティーを巻き込むプラットフォーム創出に向けてアプリディレクトリをローンチしたことは、TechCrunch Japanでもお伝えしている。シリコンバレーのVC勢は一気呵成にプラットフォームを作ろうとしているのだ。

こうした様子を横目にみていたからか、山本氏はChatWorkの資金調達について、「どっちにしても資金調達をやらざるを得なかったと思う」と話す。「プロダクトにものすごい投資をしないといけない。次々と競合が出てくる」。Slack以外にも、2015年末にIPOしたAtlassianが提供する人気チャットサービス「HipChat」など、同じビジネス向けチャット市場には競合が多い。

Facebookが各国・地域にあったSNSを蹴散らして世界中に普及していったように、Slackが多くの市場を席巻する可能性はあるだろう。それがネットワーク外部性によるものなのか、ソフトウェア・エンジニアやデザイナーの層の厚みよるものなのか分からない。ただ、シリコンバレーで勢いづくスタートアップに対抗するのに、社員数約60人の日本のスモールビジネスチームというのは分が悪い、ということだろう。

山本氏はシリコンバレーに移住して「2年間で戦い方が見えてきた」という。そして2014年初頭に「ちょろちょろでやって行くのか、あるいは大きくアクセル踏むのか」を考えたそうだ。それまで面会すら断っていたVCや証券会社に会い、知人のIT企業経営者にも話を聞いて資金調達を決断。社是を根本的に反故にすることになる意思決定だったが、実はほかの経営陣も口にしなかっただけで、アクセルを踏むべきときだと考えていたのだという。

ChatWorkに勝ち目があるのか?

いま現在、ChatWorkはバックエンドの全面的な書き換えを行っているという。これまで積み上げてきたPHPによる実装をScalaを使ってフルスクラッチで書き換えている最中だ。ただ、エンジニアによるブログを見る限りアプリのモデル自体は変わらないのでユーザーから見た場合の「新バージョン」という意味ではなさそうだ。

UI/UXで見ると、正直ぼくの目にはChatWorkはSlackの洗練度には及ばないし、APIの整備・利用度でも、おいそれとキャッチアップできるように見えない。この論点は、ぼくは重要だと思う。Slackがエンジニアに愛されている理由は、ユーザー認証やアプリ認証のスムーズさやAPIの使いやすさ、それから2016年現在のUI/UXのベストプラクティスが詰まっているように外部から触っているだけでも感じられるからだろう。

Twitterの登場当初がそうだったように、APIが使いやすことは、非エンジニアが考えるよりも、はるかに重要なことだ。なぜなら開発者というのはAPIが使いやすいと、何でもかんでもプラットフォームにつなぎ込みたくなるものだからだ。Twitterはサードパーティーのエコシステムで成長したし、Slackも公式・非公式のボットやアプリがあるのが強みだ。今やチャットは多くのサービスや自動化サービスのUIとなりつつある。今後のAI関連サービスの発展を考えると、この傾向はますます強まるだろうと思う。

ということを考えると、グローバル市場でChatWorkがSlackと互角に戦っていくのは、容易なことと思えない。この点について山本氏に聞いてみたところ、いくつか回答が返ってきた。

1つは、Slackが急成長しているといったところで、DAUはまだ170万程度(2015年10月)に過ぎないでしょう、という指摘。B向けチャットのレースは始まったばかりだ、ということだ。あるとき気づくと「バーレーンのタクシー会社がChatWorkを使っていたり、ブラジルで売れたりするんですよ」(山本氏)と、ChatWorkはオーガニックにユーザーベースが拡大しているのだという。特に台湾やベトナム、フィリピンではその傾向が強く、営業拠点がなくてもサービス利用者が伸びているという。これらの地域は日本人が行き来することが多く、例えばベトナムであればオフショア開発での日本との繋がりが強い。そうした人間のネットワークをベースに利用が広がっているのではないかと推測しているという。

もう1つ、SlackとChatWorkの違いとして、Slackが開発者向けであるのに対して、ChatWorkがビジネス向け機能を充実させていることを山本氏は挙げる。「ビジネスの人たちが求めているものを提供する。オールインワンで、チャットでタスク管理ができたり、その場で相手を(ビデオチャットで)コールしたりできる」。そもそもSlackとはターゲット層が違うということだ。ChatWorkはファイル共有機能や、組織を超えた人同士でのチャット機能もある。特に後者はSlackとの大きな違いで、電話やメール、会議に代わるツールを提供するというChatWorkの思想的な違いが感じられる。Slackは内線電話をなくすかもしれないが、ChatWorkは代表電話すらなくすのかもしれない(まだ読者の勤める会社にそんな20世紀的な骨董品が置いてあればの話だが)。

現在、ChatWorkは204の国・地域で約8万6000社が利用している。サービスはフリーミアムモデルで、チャットでグループをたくさん作って14個を超えると課金を選ぶユーザーが多いそう。「使っていると、だんだん消せないグループチャットが残っていく。かなりヘビーな利用者が課金している」(山本氏)。

C向けチャットアプリではLINE、WhatsApp、WeChatと地域ごとに市場が分断している。もしB向けでも似た状況が今後生まれてくるのだとしたら、ChatWorkには大きなチャンスがあるのかもしれない。シンガーポールのPieが120万ドル、タイのEkoが570万ドルを資金調達するなど、各地域でその芽が出てきているようにも見える。昨日もFacebook傘下で10億ユーザーを抱えるWhatsAppがビジネス向け強化を発表してB2Cメッセージング市場にフォーカスするというニュースが流れたばかり。ビジネス向けチャット市場はまだこれから大きく動きそうだ。

山本氏は「中国で力を蓄えてアメリカで上場して、アマゾンに戦いを挑んでいくアリババのようなイメージ」と、ChatWorkのグローバル展開の構図を説明する。ただ、すでに山本氏自身が移住して拠点をシリコンバレーに置いている通り、アジアから北米市場へという流れではなく、「最初からアメリカを見ながら北米を攻め続ける」ということ。日本発でグローバル市場を狙えるスタートアップ企業として注目だ。

ビジネスチャットシステムを手がけるChatWork、GMO-VPから3億円の資金調達

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国産のクラウド型チャットシステム「ChatWork」を提供するChatWorkが資金調達を実施した。同社は4月27日、GMO VenturePartnersを引受先とした総額3億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。今回の調達をもとにエンジニアの採用や新機能開発、プロモーション、アライアンスパートナーの開拓を進める。

ChatWorkは2000年の設立(当時の社名はEC Studio)。これまで一貫して自己資金でサービスを運営し、14年間黒字での経営を行ってきたという。なおプロダクトとしてのChatWorkは2011年3月のリリース。キャッチコピーは「メールの時代は終わりました」というなかなか過激なモノだった。すでに米国にも進出し、子会社ChatWork Incをシリコンバレー置いている。今後は日米あわせて積極的な採用を実施する予定。国内については、現在35人の社員数を2〜3年で100人以上まで拡大するとしている。

ChatWorkは現在、中小企業や大企業、教育機関、官公庁など約6万6000社、世界183カ国で利用されている。とはいえクラウド型のチャットシステムは競合も多い領域。スタートアップだけ見ても海外のSlackHipChat、国内のTalknoteco-meetingなどがある状況だ。