スマートキッチン・サミット・ジャパン 2018開催――デモスペースは大混雑、飛び入りプレゼンも

デジタル事業のコンサルティング企業、シグマクシスと食産業のスペシャリスト、シアトルのNextMarket Insightsがミッドタウン日比谷でスマートキッチン・サミット・ジャパン 2018を開催した。8月9日の2日目に参加できたので簡単にご紹介したい。昨年のスマートキッチン・サミットに比べ講演者、参加者、デモ、いずれも倍以上に増え、食のデジタル化、スマート化がメインストリームになりつつあると実感した。

クックパッドはAWS、SHARP、LIXILなどパートナー企業10社を発表しOiCy事業を本格化させることを発表した。OiCyはクックパッドに集まった膨大なレシピをアルゴリズムによって標準化し、スマートキッチン家電と連携させていく試みだという。パナソニックも社内ベンチャー、「ゲームチェンジャー・カタパルト」がさらに前進していることを発表した。

このカンファレンスはNextMarket Insightsがスタートさせたもので、アメリカ発のカンファレンスらしくグローバルな視点が特長だ。今年も機械学習を利用した生鮮食品トラッキングサービスのChefling、オンライン・レシピ・アシスタントのSideChefのファウンダーとクックパッドの吉岡忠佑氏によるパネルではNext MarketのCEO、Mechael Wolf氏がモデレーターとなってさまざまな意見を聞き出していた。SideChefのKevin Yu氏が「データ処理はもちろん重要だがさらに重要なのはユーザーのエンゲージメント」だとして吉岡氏らも賛同した。

Yu氏によればEU市場は日米市場よりセグメントが細かく、いっそうきめ細かいローカライズが必要だという。われわれ日本人はヨーロッパが言語、文化とも非常に多様であることを忘れがちだが、現実にビジネスをする上では重要なポイントになるはず。

しかし今年のSKSでは日本の大企業、ベンチャーのスマートキッチン事業が大きく勢いを増していると感じた。ランチブレークのデモスペースは朝の電車なみに混み合っていて、デモの手元を見るには頭上に流されたライブ映像を見るしかないほどだった。デモではパナソニックの社内ベンチャーで開発された「おにぎりロボット」が面白い。パナソニックで「ごはんひとすじ」で来たという担当者の説明によれば「外はしっかり、中がふわり」というおむすびの理想形を作れる装置だという。

 

ちなみにライブストリーミング用のデジタル一眼のプラットフォームにTechCrunch Japanでも最近紹介したDJI Roninジンバルが使われていた。

セッションの合間に飛び入りのプレゼンを募ったところ、主催者の予想を超えてたちまち5、6チームが登場した。「ひっこみ思案で黙り込んでいる」という日本人のステレオタイプはスマートキッチンに関しては過去のもののようだ。とかく後向きといわれがちな行政からも農水省、経産省、総務省から若手官僚が登壇した。総務省の岸氏が「数字だけみていくのではダメ。まず明るい未来のビジョンを作り、そこに到達するためにどういう具体的な方策があり得るか考えるのでなければ」と力説していたのが印象に残った。

 

最後に昨年に続いて、外村仁氏が登壇。外村氏は元Apple Japan、元Evernote Japan会長などを歴任したシリコンバレーの連続起業家であるだけでなく食のエバンジェリストでもあるというスーパーマン。外村氏はAnovaの低温調理ヒーターの最新版を会場で紹介しながら、食がますますスマート化、サイエンス化しているグローバルなトレンドに日本が遅れかけていることに注意を促し、「これはやっていけないコトなのかもしれないと、自己規制してしまうのが一番いけない。最初から明示的に禁止されたこと以外は全部やっていいんです。どんどんやりましょう」とベンチャー・スピリットを力強く応援した。

 

カンファレンスの詳しい内容についてはシグマクシスのサイトFacebookページに詳しく紹介されている。Facebookページにはスピーカー、参加者全員の写真も掲載されている。

クックパッドの新サービス「Holiday」は、お出かけプランの投稿・共有サービス

クックパッドといえば料理レシピの共有サービスをすぐに思い浮かべるが、同社が9月11日から本格稼働する新サービス「Holiday」は、休日の「お出かけプラン」を投稿、共有できるというものだ。

Holidayでは、テーマを決め、登録されているスポット情報を検索し、一言コメントしていくことで、お出かけプランを作成し、投稿することができる。

スポット情報には住所やURLが付与されており、名前を検索して登録するだけで自動的に地図にマッピングされて表示される。スポット数は非公開だが、同社が独自に集めた上で住所やURLを付与しているという。もちろん登録されていないスポットを新たに追加することもできる。7月にPC版のみを公開してテスト的に運営してきたが、今回のタイミングでスマートフォン対応もした。現在数百件のプランが投稿されており、数週以内に1000件に達する予定だそうだ。

マネタイズやユーザー数の目標は現状公開していない。まずは外部APIに頼らないスポット情報のデータベース構築、質の高いお出かけプランが登録されるようなサービスの活性化などを進めるという。

主要メンバーは新卒、学生起業家をチーム採用

クックパッド Holiday事業室のプロジェクトリーダーである友巻憲史郎氏は、4月にクックパッドの入社したばかりの新卒だ(厳密には一度大学を退学し、現在は京都造形芸術大学に編入しており現在4年生だが、クックパッドでは新卒として採用したとのこと)。実は同サービスに関わる5人全員が新卒であり、さらに友卷氏を含む4人は学生起業を考えて活動していたチームなのだという。

友卷氏らが学生時代に提供していたのは、アクティビティの予約サイト。メンバーの拠点であった関西を中心に営業をかけたところそれなりの手応えもあったそうで、友卷氏は大学を中退して事業に専念。法人化してベンチャーキャピタルなどから資金調達を実施しようとしていたが、途中でエンジニアがチームから抜けてサービスの開発が続けられなくなってしまったのだという。

一時は就職活動もしたというメンバーだったが再度奮起。サービスもアクティビティ予約からお出かけプランの共有サービスへとピボットし、さらにはエンジニア任せだったコーディングも自ら行い、「心の底から作りたいものを作ろうとした」(友卷氏)という。そしてベンチャーキャピタルや事業会社と資金調達の相談をしている中でクックパッドから、「事業を譲渡して、チームでクックパッドの新卒でサービスを開発しないか」という打診を2013年末にもらった。

クックパッドで新規事業を手がける意味

「雑念を捨てて集中しないといけないと思っていたので、最初はまず調達から解放されて仕事できるのが嬉しかった」と本音を漏らす友卷氏だが、クックパッドに入社して半年。何よりも「ブレない」ということの大事さに気付いたのだそうだ。

「ブレがあると怒られる。目先のKPIより何より、いかにユーザーの課題を解決するか。派手なことをする、スピードアップのテクニックを考える、いろんな雑念が出てくるが、ユーザーの課題を解決することで価値を出せば結果は必ずついてくるものだとみんな本気で考えている」(友卷氏)。研修としてクックパッドのレシピを管理する部署の業務をした際にも、1つずつ投稿されたレシピを見て、情報不足や問題があればつどユーザーにコミュニケーションを取る姿勢に感動したのだという。クックパッドの月間利用者は約4500万人。それだけ利用されるサービスの理由はこういった姿勢や1つ1つの対応によるものだろうか。

実はクックパッドは「レター」を手がけるROLLCAKEのように子会社で新事業を作ったり、漢方デスクのように分社化を前提にクックパッド内でサービスを開発していたり、起業や新事業の立ち上げに柔軟な姿勢を見せる会社だったりする。ただし、学生起業家をチームで新卒採用したのは「結果的にではあるが、そういった取り組みは初めて」(クックパッド)だそうだ。

起業することと新規事業を社内で立ち上げることは、リソース面でもリターン面でも大きく違うので、どちらが正しいというものでもないし、むしろまったくの別物ではないかと思っている。ただ、クックパッドの姿勢は若い人がサービスを始める上で1つの選択肢を提示してくれているのは間違いないし、何より経験の少なかったHolidayのチームにとっては大きな価値になっているようだ。


クックパッドに雑誌掲載の「プロのレシピ」、月額360円で見放題

レシピサイト「クックパッド(COOKPAD)」が1日、オレンジページやレタスクラブなどの料理雑誌に掲載されるレシピが月額360円(税抜き)で見放題のサービス「プロのレシピ」をスタートした。これまでユーザーの投稿が主体だったクックパッドだが、新たな月額課金サービスでは出版社や有名料理家と提携し、料理雑誌やレシピ本のジャンルでプラットフォームになろうとしている。

各雑誌のレシピを同じフォーマットで

プロのレシピは、料理・生活雑誌や書籍のレシピを閲覧できるサービス。最新号やバックナンバーに掲載されるレシピ約1万品が対象。食材名や料理名で横断的な検索が可能となっている。月額360円の有料ユーザーは見放題で、お気に入りのレシピを3000件まで保存できる。無料ユーザーは毎月3品まで閲覧可能だ。クックパッドの有料ユーザーでも、プロのレシピを利用するには別途、月額料金を支払う必要がある。

クックパッドと提携するいくつかの出版社は、独自にレシピを公開している。プロのレシピはこれらのレシピや、雑誌のみに掲載されているレシピを同一のプラットフォームで閲覧できるのが特徴だ。各社の雑誌は写真やレイアウトでレシピ内容を伝えることがあるが、プロのレシピでそれを再現するのは難しい。そこで、誌面のレシピを出版社の意向を損なわないよう、クックパッド側で編集しているそうだ。「慎重に言葉を選んで編集するのが地味に大変な作業だった」と、同社執行役員の加藤恭輔は振り返る。

通常のクックパッドの写真と比べると、プロのレシピの写真は随分と洗練されているのにも気づく。素人のユーザーが投稿するレシピの中には、いわゆるメシマズ写真が掲載されていることもあるが、プロのレシピは雑誌や書籍と同様に、写真を見て「これ作ってみたい」という気をそそられそう。クックパッドが「冷蔵庫の材料ありき」のプル型でレシピを探すサービスだとすれば、プロのレシピにはプッシュ型でレシピを提案する一面もありそうだ。

月額課金でプロのレシピを見放題にした理由

「生活者の料理実態に目を向けると、料理を作る人が365日クックパッドだけを見ているわけではない。雑誌のレシピも参考にしている」。プロのレシピは、ユーザーの利用シーンを網羅するために作られたサービスだと、加藤は語る。それに加えて、料理の腕が上達した利用者にとっては、クックパッドの必要性が低くなる課題もあったと指摘する。プロのレシピは、クックパッドを卒業した料理上級者に向けて、彼や彼女らが挑戦したくなるレシピを提供する側面もあるのかもしれない。

従来もクックパッドは、「レシピストア」という有料サービスで有名料理家のレシピを提供してきた。しかし、「20品500円」といった都度購入形式では多くのユーザーに利用してもらいにくかったことから、月額課金で見放題のサービスを開始するに至ったのだという。

出版社のメリットは2つある。1つは、のべ月間利用者数4400万人に上るクックパッドユーザーにリーチする機会が得られることで、雑誌や書籍の認知度や売り上げの向上が見込めること。もう1つは、クックパッドとレベニューシェアするプロのレシピ経由の売り上げだ。

「本は紙からウェブに移行されつつあると言われるが、こと、レシピの分野は紙に勝てない部分もある。例えば、料理写真のシズル感はウェブよりも紙に分がある。実際、クックパッドのレシピ本は60万部以上も売れ、改めて紙の強さを実感した。だったら、手を組めばいいというのが今回の新サービス。レシピの魅力だけでなく、雑誌や本そのものの魅力も伝え、パートナーの出版の市場も拡げることを目指したい。」

クックパッドと提携した出版社は以下の通り。今後も随時、提携先を増やしていく予定だ。

クックパッドは、レシピの人気順検索などが可能なプレミアム会員サービスを月額280円(税抜)で提供している。2014年4月末時点の会員数は130万人を突破。純増数は前年比2倍の36万人と、順調に推移しているようだ。2014年4月期の会員事業の売上高は39億6800万円に上るが、プロのレシピが会員事業の新たな収益源になるか注目だ。


弁当版Uber「bento.jp」とクックパッドが協業、レシピを商品化

スマートフォンで注文してから20分以内に弁当が届く「bento.jp」とクックパッドが協業する。bento.jpで本日から期間限定で、クックパッドに投稿されているレシピの中から、「暑い夏に弁当でおいしく食べられるレシピ」を日替わりで販売する。販売期間は8月4日から8日まで、および18日から22日まで。金額は800円で、配送地域は渋谷と六本木の一部地域となっている。

クックパッドはこれまで、カレーの人気レシピを大手スーパーの総菜として販売したり、パスタの人気レシピを大手コンビニで商品化するなど数々のコラボを行っている。bento.jpを運営する小林篤昌氏によれば、今回の協業で金銭的なやりとりは発生しないそうだが、「好評であれば新たなレシピも弁当化したい」と意気込んでいる。「つくれぽ1000人超え」のレシピが弁当になって注文後20分以内に届けば、かなりの反響があるかもしれない。

弁当版Uberを目指すというbento.jpは今年4月に渋谷と六本木でサービスを開始。当初は予想を上回る注文が殺到し、一部で配送が遅延したことから、いったんは対象エリアを渋谷に限定していた。その後、常時10人以上のスタッフで配送する体制を整え、7月30日に六本木エリアでの配送を再開している。

最近では、法人単位で販売する「シャショク」が好調のようだ。法人は福利厚生の一環として100円単位で弁当代を負担し、残りを社員が負担するというもの。会社が300円を負担すれば、社員は500円で弁当が買えることになる。これまでに、BASEやクラウドワークスをはじめとするスタートアップなど50社が導入している。bento.jpは50社突破を記念し、9月末まで300円の会社負担を0円にするキャンペーンを実施中だ。


「50分議論するだけ」リブセンスとクックパッドが始めた起業家支援の狙いとは

アルバイト求人サイト「ジョブセンス」を運営するリブセンスとクックパッドが、スタートアップを支援するプログラム「STARTUP50」を1月に始動する。米国のインキュベーター「500 Startups」を意識したような名称だが、代表を務めるリブセンスの村上太一社長によれば、その取り組みは意外にも「起業家と50分間ディスカッションするだけ」。村上氏に発足の経緯や狙いについて聞いた。

リブセンスの村上太一社長

STARTUP50では原則、村上氏とクックパッド代表執行役兼取締役の穐田誉輝氏らが起業家と50分間、無料のディスカッションを1回行うのみ。500 Startupsのように投資を前提とせず、起業家の事業プランについて「上から目線でなく」議論するという。「穐田さんは様々なウェブサービスを見てきているし、僕も人材サービス以外の領域も把握しているので、必要に応じて技術面や事業運営のノウハウをアドバイスします。起業家にとって最良の選択肢であれば投資や協業もするというイメージ。とにかく濃い50分間を共有したいです」。

支援の対象となるのは、起業準備中の学生や社会人などスタートアップ段階の起業家。国籍や年齢、性別、学歴は一切不問、事業の領域や規模も問わない。まずは1月8日から2月16日まで、専用サイトからエントリーを受け付け、書類選考や面談を経て3月中に5〜10人の起業家を絞り込む。選考基準は「やりたい度の高さ」。市場性や事業継続性だけでなく、「こんな世界を作りたいというモチベーションを持っていて、それを実現するために行動している起業家」を求める。今後は年2回のペースで起業家を公募していく。

ところでなぜ「50分」なのか。

掲載料0円の成功報酬と採用決定者にお祝い金を支払う求人サイトで業績を伸ばし、2012年10月に当時25歳という史上最年少の若さで東証一部上場を果たした村上氏。順風満帆な道のりを歩んできたようにみえるが、早稲田大学在学中の2006年2月に創業してから2009年頃までは「行き詰っていた」と振り返る。そんな状況の中、元カカクコム社長で当時クックパッド社外取締役だった穐田氏との出会いが人生を大きく変えたのだという。

「ジョブセンスで苦戦していた頃に穐田さんと出会い、50分間のアドバイスを受けたことが、その後の事業成長や史上最年少上場へつながる大きな転機になりました。ひとことで言うと『シンプルにユーザーのことだけを考えろ』というアドバイスなんですが、机上の空論ではなく、穐田さんの経験と実績を踏まえたシンプルな思想が心に刺さったんです。悩んでいる起業家や起業を志す人にもこんな体験をしてもらいたいと、穐田さんに声をかけたのが発足の経緯です。」

投資を前提としないフラットな空気感の「マネーの虎」のようにも思えるSTARTUP50。起業家支援を前提としているため収益目標は設定していない。「目標人数は決めていませんが、とにかく起業家を増やしたいですね。挑戦する人が増えれば日本が良くなりますし、友達も増えますし(笑)。僕がそうだったように、人生に影響を与えたベスト10に入るような出会いが生まれれば。将来的には、流行っているサービスにはことごとくSTARTUP50出身者が関わっているようになればうれしいですね」。