人気クリエイターがファンに素に近いリアルな姿の写真を有料で公開するアプリ「Roll」

米国時間1月18日、新アプリRoll(ロール)が発売された。このアプリはクリエイターがファンに対して、より素に近いありのままの姿を公開し、それにより簡単にお金を稼げるようにするというものだ。すでに、Instagram (インスタグラム)の親しい友達向けストーリーやSnapchat(スナップチャット)のプライベートアカウント、Discord (ディスコード)の秘密サーバーへのアクセスを通し、メインのページに載せるほど作り込まれてはいないものの、やはりそれなりに外向けでブランド力のあるものを公開することで一部のクリエイターは課金を行っている。こういったものではクリエイターのPatreon(パトレオン)が介されているが、Rollはこの戦術を合理化し、すべてをRollアプリで完結できるようにしている。同アプリはiOSとAndroidで利用可能だ。

「お気に入りのクリエイターのカメラロールにアクセスできる、というのが弊社の謳い文句です」と創業者兼CEOのErik Zamudio(エリック・ザムディオ)氏はいう。「購読したファンは他では決して見ることのできないクリエイターのコンテンツを見ることができるのです。クリエイターはこれにより、最もリアルな自分自身を表現できるのではないでしょうか」。

もちろん、実際にクリエイターのカメラロールにアクセスできるようになるわけではない。そんなことが起きたらそれこそ大問題である。Rollはクリエイターがよりカジュアルな方法でファンとつながりながら、お金を稼ぐ機会を提供しようとしているのである。ソーシャルメディアへの投稿が仕事だとしても、カメラロールにあるものすべてをアップロードしているわけではない。上手くできたオムレツの写真、失敗した自撮り、気に入ったミームのスクリーンショット、散歩中に見かけた変なものなどさまざまな写真が存在し、こういった写真は慎重に計画されたInstagramのグリッドにはフィットしなくとも、Rollのようなプラットフォームではその魅力を発揮するかもしれない。本物のカメラロールと同様、Rollの投稿に「いいね!」を付けたりコメントを付けたりすることはできない。

クリエイターはRollで月額5ドル(約570円)から50ドル(約5700円)の間で課金することができ、収益の80%を受けとれる仕組みだ。ザムディオ氏によるとほとんどのクリエイターが5ドル程度の課金を選んでいるが、より専門性の高いコンテンツを作っているクリエイターなら高めの価格設定でもいけるだろう。例えばTikTok(ティックトック)のシェフが特別なレシピを動画で紹介すれば、月に数枚の舞台裏写真を投稿する人よりもより高い料金を請求することができるはずだ。OnlyFans(オンリーファンズ)のような競合他社とは異なり、Rollはアダルトコンテンツを許可していない。

携帯電話でRollのアカウントを開いている人気クリエイターのタナ・モジョ氏(画像クレジット:Roll)

ローンチ時には約20名のクリエイターが登録されているが、クリエイター向けポータルを一般公開するまでの間、毎週10〜15名のスターを追加していく予定だという。現在、ミュージシャンのDillon Francis(ディロン・フランシス)氏「Stranger Things(ストレンジャー・シングス)」の俳優Noah Schnapp(ノア・シュナップ)氏の他、Tana Mongeau(タナ・モジョ)氏、Sommer Ray(ソマー・レイ)氏、Stassie Karanikolaou(スタッシー・カラニコラウ)氏などのソーシャルメディアパーソナリティ、そしてユーチューバーのDavid Dobrik(デビッド・ドブリック)氏などが登録されている。

ドブリック氏が写真ベースのソーシャルスタートアップに関わるのは今回が初めてではない。ドブリック氏は後にDispo(ディスポ)となったアプリDavid’s Disposable(デビッズ・ディスポーザブル)を共同設立したことがある。ザムディオ氏をはじめとするRollのスタッフ3人もDavid’s Disposableの構築に貢献したのだが、ザムディオ氏はアプリがDispoにリブランドされる直前の2020年半ばに退社しており、また同氏や同僚が去った理由については回答を避けている。

2021年3月に発売され、大きな話題となったアプリDispoだが、そのわずか1週間後、Insider(インサイダー)がドブリック氏のYouTubeいたずらグループ「Vlog Squad」のメンバーに関する性的暴行疑惑を報じた。ドブリック氏のチャンネル用にグループセックスに関するビデオを撮影しているときに起きたこの暴行疑惑。Vlog Squadの元メンバーで黒人のSeth Francois(セス・フランソワ)氏はドブリック氏のビデオで経験した人種差別についてまとめたYouTubeビデオを投稿し、ドブリック氏のセットで性的暴行を受けたとも話している。Insiderの記事が掲載された直後、ドブリック氏はDispoの役員を退任している。

このような論争の中、Dispoの初期の投資家であるSpark Capital(スパーク・キャピタル)、Seven Seven Six(セブンセブンシックス)、Unshackled(アンシャックルド)などは、アプリへの投資から得られるであろう利益を全額、性的暴行の被害者のために取り組む団体に寄付することを約束した。ドブリック氏はさまざまなブランドとの契約を失ったものの、YouTubeの登録者数は1880万人から1830万人に減少しただけで、今でも週に3本の動画を投稿し、それぞれ約600万から1000万回の再生回数を記録し続けている。そして今回再びドブリック氏が消費者向けテクノロジーに舞い戻るわけだが、この物議を醸したユーチューバーは、Dispoの共同創業者には違いないものの、RollにとってはRollアプリを利用するクリエイターの1人に過ぎないとザムディオ氏は伝えている(同社の宣伝コンテンツにも登場する)。

「Rollをサポートしてくれた大物クリエイターは、デビッドが初めてではありません」とザムディオ氏はTechCrunchに話している。「これは絶対に誤解されたくないことですが、デビッドがDispoを辞めて今ここで別のことをやっている、というようなことではないのです。彼は創業メンバーの1人ではありません」。

後に、ザムディオ氏はさらにメールで詳しく説明してくれた。「デビッドはクリエイティブで賢い人物です。他のすばらしいクリエイターとともに、彼を起用できることをうれしく思います。私たちは全メンバーを対等な立場で見ており、彼らの意見を大切にしています。デビッドはDispoに関わっていたので、Dispoと関連付けられるのは当然かと思いますが、前にも伝えたように彼は(創設者やチームメンバーではなく)単にRollのクリエイターです」。

DispoとRollはありのままの投稿を促すという点で似たDNAを持っている。Dispoでは使い捨てカメラの性質を真似て、翌朝まで撮った写真を見ることができない。ただしDispoがソーシャルネットワークであるのに対し、Rollはクリエイターのマネタイズプラットフォームである。

「David’s Disposableが大成功した後、私たちはクリエイターエコノミーの世界を掘り下げるようになりました」とザムディオ氏はTechCrunchに話している。「そして多くのクリエイターと親しくなり、彼らが経験していることをより深く知るようになるにつれ、みんながコンテンツを有料化したいと考えていることがわかったのです」。

これまでRollは、Airwing Ventures(エアウィング・ベンチャーズ)のDan Beldy(ダン・ベルディ)氏が率いるエンジェル投資家ラウンドで50万ドル(約5700万円)を調達している。

画像クレジット:

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

写真SNS「Dispo」が自分の写真をNFTとして販売することに対するユーザーの関心を調査中

使い捨てカメラを模した写真共有アプリ「Dispo(ディスポ)」は、写真をNFT(非代替性トークン)として販売することに対するユーザーの関心を記録するためのテストを、米国時間9月13日より展開している。一部のユーザーは、自分の写真に「Sell(販売)」ボタンが表示されるようになり、それをタップすると、Dispoの写真を販売する機能が導入された際に通知を受けるための登録をすることができる。

Dispoの共同創業者でCEOを務めるDaniel Liss(ダニエル・リス)氏が、TechCrunchに語ったところによると、DispoはNFT販売をどのようにアプリに組み込むか、まだ決めかねており、そのためにユーザーを対象としたテストを先行して実施しているところだという。現時点では、Dispoがどのブロックチェーンを使用するのか、どこかのNFTマーケットプレイスと提携するかどうか、Dispoが売上の一部をどれだけ取るのか、ということなどはまだ決まっていない。

「このテストの結果から、Dispoアプリのネイティブな体験になると言っていいと思います」と、リス氏はいう。「いくつかの方法は考えられますが、Dispoの中にネイティブな体験として導入し、それがAPIを通じて他のプラットフォームに接続されるという形になるでしょう。そのプラットフォームは我々のパートナーとなるわけですが、コミュニティにとってはDispoアプリのネイティブな体験となります」。

画像クレジット:Dispo

NFT販売は、このソーシャルメディア・アプリの新たな方向性を示すものだ。Dispoというアプリは、翌朝9時にならないとユーザーが撮影した写真を見られないようにすることで、写真共有の体験を再定義しようとした。Dispoの視点によれば、このギミックはユーザーがより本物に近い形で写真を共有することに役立つという。1枚の写真を撮ったらそれでおしまいだからだ。何十枚も自撮りして、それらの中から自分の「最高の1枚」を投稿するという行為には適さない。しかし、このアプリは2019年12月に登場したばかりだが、すでに爆発的な人気と破壊的な論争の両方に直面している。

関連記事:性的暴行疑惑で写真SNS「Dispo」取締役ドブリック氏が退任、VCは「一切の関係を断つ」と決定

1年ほど前まで、このアプリは共同創業者でYouTuber(ユーチューバー)のDavid Dobrik(デヴィッド・ドブリック)氏にちなんで「David’s Disposables(デヴィッドの使い捨てカメラ)」と呼ばれていた。このアプリはリリース後1週間で100万回以上ダウンロードされ、App Store(アップストア)のチャートで1位を獲得。2021年3月には招待制を廃止し、ソーシャルネットワーク機能を搭載してリニューアルしたが、それからわずか数週間後、米国のメディア「Insider(インサイダー)」が、ドブリック氏のYouTubeでの悪ふざけ集団「Vlog Squad(ヴイログ・スクワッド)」のメンバーによる性的暴行疑惑を報じた。これを受けて投資会社のSpark Capital(スパーク・キャピタル)はDispoとの関係を絶ち、ドブリック氏はDispoを離れることになった。また、同社が2000万ドル(約22億円)を調達したシリーズAラウンドに出資したSeven Seven Six(セブン・セブン・シックス)や、Unshackled Ventures(アンシャックルド・ベンチャーズ)などの他の投資家は、Dispoへの投資で得た利益を、性的暴行の被害者を支援する団体に寄付すると発表した。

DispoがシリーズAの資金調達を認めた6月に、リス氏がTechCrunchに語ったところによると、ドブリック氏の同社における役割はマーケティング・パートナーであり、CEOはリス氏が当初からを務めているとのことだった。この騒動を受けて、同社は製品自体の改善に注力し、プロモーションからは一歩引いたとリス氏は述べていた。

アプリ分析会社SensorTower(センサータワー)のデータによると、Dispoは配信開始以来、全世界で推定470万インストールに達しているという。アプリのダウンロード回数が最も多かったのは、100万回以上インストールされた2020年1月だったが、次に多かったのは招待性を廃止した2021年3月で、同月には約61万6000人がDispoをダウンロードした。3月から8月末までの間に、このアプリは約140万回ダウンロードされており、2020年の同時期と比較して118%増となっている。ただし、2020年はこのアプリのメンバーシップが招待制によって限定されていたため、2021年1年の数字はさらに伸びると予想される。

画像クレジット:Dispo

今回、NFTを取り入れると発表したことで、Dispoは単に人々の写真を投稿するやり方を変えるだけでなく、プラットフォームとユーザーが作成するコンテンツの関係を変えることができると、リス氏は期待している。

「なぜNFTなのか?私たちの人生で最も強力な思い出には価値があります。それは私たちが作ったものだからこそ、経済的価値がある。これまでのソーシャルメディアは、そのことを認識していませんでした」と、リス氏はTechCrunchに語った。「その結果、多くのフォロワーを持つクリエイターが報酬を得るためには、企業に直接売り込むしかありませんでした。それはコンテンツ自体から利益を得ることとは対照的です」。

NFT販売をアプリに追加することは、Dispoにユーザーの売上から利益を得る方法を提供することになる。だが、これまでコミュニティを中心としてきたDispoの雰囲気に、それがどのような影響を与えるのかという疑問が残る。

「非常に大きな好奇心と関心があると思います」と、リス氏はいう。「しかし、このような問題や疑問もあるため、私たちはより多くのデータを必要としているのです」。

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画像クレジット:Dispo

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

性的暴行疑惑で写真SNS「Dispo」取締役ドブリック氏が退任、VCは「一切の関係を断つ」と決定

ベンチャーキャピタルのSpark Capital(スパークキャピタル)は、人気YouTuberのDavid Dobrik(デビッド・ドブリック)氏が共同開発した写真SNSアプリであるDispo(ディスポ)との「一切の関係を断つ」ことを決定した。米国時間3月21日深夜に同社が発表したこの動きは、Business Insiderによる最近の調査で、ドブリック氏を中心とするYouTuberグループ / 動画キャスト、Vlog Squadのメンバーから性的暴行を受けたという女性の主張が明らかになったことがきっかけとなっている。

【更新】初期投資家であるUnshackled VenturesとSeven Seven Sixも同様に同社から手を引き、それぞれの投資から得た利益を、性的暴行の被害者に焦点を当てた組織に寄付することを約束した。

Spark Capitalはツイートでこう述べた。「Vlog SquadとDispoの共同創業者であるデビッド・ドブリック氏に関する最近のニュースを考慮して、当社はDispoとの関係を一切断つことを決定しました。我々は取締役の地位を退き、Dispoへの最近の投資から利益を得ないように手配しているところです」。

その数時間後、The Informationが最初に報じたように、ドブリック氏はDispoの取締役を辞任した。Dispoは、TechCrunchへの声明で次のように述べた。「デビッド(・ドブリック)は、会社の成長を妨げないために取締役から退き、会社を去ることを選択しました。Dispoのチーム、製品、そして何より重要な私たちのコミュニティは、多様性に富み、包括的で、人々に力を与える世界を構築するものです」。

VC視点

Spark Capitalの「Dispoへの投資から一歩退く」という決断は今までに類を見ないものであり、少なくとも非常に珍しいことだ。これは、同社に出資している他の投資家が同じことをするきっかけになるかもしれない。

Spark CapitalがシリーズAを主導し、Dispoが2億ドル(約218億円)の評価額で2000万ドル(約21億8000万円)を調達してからまだ1カ月も経っていない。今回のSparkの声明は、投資がDispoから引き揚げられたことを示してはいない。

Spark Capitalは、このプロセスがどのようなものになるのか、また、株式がDispoに戻されるのか、あるいは別の買い手に売却されるのかに関して、すぐにはコメントを差し控えた。今回の決定のメカニズムは不明だが、Spark Capitalがつい最近まで取引を主導していたという事実は、同社に撤退する裁量を与えたのかもしれない。

ドブリック氏の他のスポンサーであるHelloFreshやDollar Shave Clubなどは、同氏とのパートナーシップを終了した。

【更新】この記事は、ドブリック氏のDispoからの離脱、およびアプリの他の初期投資家が投資から手を引くことを反映して更新された。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Dispo

画像クレジット:dem10 / Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Aya Nakazato)

話題の次世代写真SNS「Dispo」創業者デビッド・ドブリック氏インタビュー、完璧な世界から抜け出して今を楽しもう

【Japan編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する「Off Topic」の投稿の転載だ。Off Topicでは、最新テックニュースの解説やスタートアップについてポッドキャストYouTubeも配信している。ぜひチェックしてみてほしい。

はじめに

米国時間2月12日あたりからシリコンバレーや米国のテック業界でバズり始めた次世代写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」のベータ版だが、2月14日、日本からの大きな関心が集まりTestflightの利用可能人数である上限の1万人を超えてしまった。

今回は、Off Topicの宮武がDispoのCEOであるDaniel Liss(ダニエル・リス)氏とChief Fun OfficerのDavid Dobrik(デビッド・ドブリック)氏に直接Zoom上でDispoの創業物語、サービスが描いているカルチャー、そして日本に対しての思いについて話を伺った(Testflight版ではアプリのスクリーンショットの共有をしないようにユーザーにお願いしているが、今回は特別に許可を得てスクリーンショットを共有している)。

デビッド・ドブリックとは何者か?

Dispoを理解するにはまず人気YouTuberでDispo創業者のデビッド・ドブリック氏を理解しなければいけない。彼は元々Vineで人気になり、上手にYouTubeへ移行し、Vlog形式で現代版のシットコムを作った。メインチャネルだけで1880万人の登録者がいるが、コロナの影響で2020年4月25日以降、YouTubeに投稿していない。デビッド氏の動画スタイルは外に行って友達の人生を見せることでもあるため、新型コロナ期間中は動画を出せないと発表している。

しかし、彼の魅力はYouTube動画の制作だけではない。Off Topicでもたびたび「クリエイターが次世代ブランドである」と発言しているが、デビッド氏はこの仮説の理想的な事例である。デビッド氏は、YouTube動画以外にもInstagram、TikTok、Twitch、ポッドキャストなどのSNS以外にも、グッズ販売、テレビ番組の司会者、香水ブランドの立ち上げ、パズル商品の開発、ピザ屋、そしてアプリ開発の展開をするというマルチビジネスを行うクリエイターだ。

そんな中、デビッド氏は2019年6月から使い捨てカメラだけで写真を撮るInstagramアカウントを立ち上げた。

画像クレジット:davidsdisposable Instagram

この使い捨てカメラを使う理由は、後ほどDispoのアプリ展開に繋がるストーリーだとデビッド氏は語る。

LAのパーティーで使った使い捨てカメラ、「この瞬間を楽しむこと」の重要性

新型コロナ前にLAの友達のパーティーによく参加していたデビッド氏(Vlog撮影のため)は、ある行動が頻繁に行われていることに気づいた。それは、パーティーの途中にInstagram好きの女の子たちが50個ぐらいの使い捨てカメラを持って、「写真をとりあえずたくさん撮って!明日の朝に集めに行くね」とパーティー参加者に伝えてた。みんな飲んでワイワイして、翌日の朝に女性たちがいろんな場所に置いてある使い捨てカメラを回収して、その写真を参加者全員に送る流れがあった。

デビッド氏はこの話をしているときに、特に強調したのはパーティー中の使い捨てカメラの使われ方だ。スマホのカメラだとどのフィルターを使うか、ライティングの調整、顔の角度などを気にする人たちが、使い捨てカメラだと確認できないので撮ってすぐにみんながワイワイしている現場に戻ってくる。これは、彼が言う「Living in the moment(この瞬間を生きる)」が本当に実現されている瞬間だった。この瞬間、友達との楽しい時間を満足できるのはすぐに映えた写真が撮れるスマホではなく、使い捨てカメラなんだと気づいた。

同時に、映画「The Hangover(ハングオーバー!)』のエンディングで主人公たちが1つのデジタルカメラの周りに集まって、その日の夜の写真を一緒に振り返るシーンがデビッド氏の頭に残っており、その結果、この非同期の写真現像コンセプトが生まれたという。

デビッド氏は仮説として、写真を撮った瞬間その写真を見て「Instant gratification(瞬間的な満足)」よりも「Delayed gratification(待ってからのお楽しみ)」の方が強い感情を抱けるのかと考えた。そして「今」を失わない、邪魔しないことが大事だと話した。そこで生まれたのがアプリ「Dispo」だ。

「Dispo Beta」リリースまでの道のりとチーム体制

2019年末にリリースした「David’s Disposables(後にDispo)」はソーシャルアプリではなく、使い捨てカメラアプリだった。UIとしては使い捨てカメラと同じで、小さいカメラレンズ、常に点灯するフラッシュ、そして自撮りをするためのフロントカメラへの切り替えが使えないようになっている。特定のフィルターしか使えず、写真は使い捨てカメラっぽく少しレトロで色合いが粗くなる設定になっている。さらに使い捨てカメラと同じく、その瞬間では写真を見れず、次の日の朝9時に写真ができ上がるのを待たなければいけない仕組みとなっている。

画像クレジット:Tubefilter

ローンチしてからすでに260万回ダウンロードされたアプリだったが、デビッド氏はアプリを進化させたいと考え、アプリをSNS化できるチームと資金調達を行うことを決めた。

2020年10月初旬に新しい体制と400万ドル(約4億2000万円)の資金調達をWall Street Journalなどで発表した。デビッド氏と彼のアシスタントのNatalie Mariduena(ナタリー・マリドゥエナ)氏を含めて6名体制のチームは、元VCファンドを立ち上げFabFitFunのCo-CEOのコンサルを行っていたDispo CEOのダニエル・リス氏、写真編集ツールのAdobe Lightroomの作ったデザイナーの1人であるBriana Hokanson(ブリアナ・ホカンソン)氏(通称、Bhoka)元Twitterの機械学習エンジニアのRegynald Augustin(レジーナルド・オーガスティン)氏、そして動画系のスタートアップで経験があるiOSエンジニアのマローン・ヘッジズ氏となる。デビッド氏は「Chief Fun Officer」として加わり、アシスタントのナタリー氏は「Treasurer」の役割だ。

チームの写真もDispoらしく、少しレトロなイヤーブックっぽい写真にした。

画像クレジット:Business Insider

そして、ショート動画SNSプラットフォームのByteの創業デザイナーであるMichael S.(マイケル)氏もジョイン。

Dispoの400万ドルの資金調達は、元Reddit創業者で現在、Seven Seven Sixファンドを運営しているAlexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏がリードした。その出資額を活用して既存のDispoアプリにソーシャル機能を追加した結果、今回の「Dispo Beta」が誕生した。

そのため現在、Appleのアプリストアには「Dispo」というアプリは存在するが、このアプリはソーシャル機能が搭載されていない以前のカメラアプリとなる。今回、シリコンバレーや日本で話題になったのは、ベータ版を簡単にユーザーに試してもらえる招待制の「Dispo Beta」というアプリとなる。

Dispo Betaの使い方

アプリを開くと元のバージョンと同じくカメラ機能の画面が表示される。Dispo Betaでは、アプリ外で撮った写真以外をアップロードすることはできず、Dispo Betaカメラで撮影した写真だけがプラットフォーム内で使うことができる。

写真を撮ると、Dispoのオリジナルアプリと同じく、次の日の朝9時まで待たなければいけない。


プロフィールを開くと、下のような画面となる。ここで重要なのは、写真を単体ではなくRoll(アルバム)で表示していること。Dispoのダニエル氏とデビッド氏いわく、何かしらのテーマやイベントをRollとしてグルーピングして、そのテーマやイベントに参加している仲間たちを特定のRollに入れて、お互いRollに写真を追加する「共同アルバム機能」がRollとなるという。

このRoll機能は、Dispo Betaの最も象徴的な機能だ。Rollsを作った人がRollのモデレーターとなり、アルバムに参加している人や写真を取り除くことができる。Public(公開)Rollの場合は参加しているメンバーは誰でも他の人にそのRollに参加する招待を送ることができる。Private Rollの場合は。Rollを作った本人のみが招待を送ることができる。

Rollは、デビッド氏がLAのパーティーや「ハングオーバー!」のエンディングをアプリで再現しようとしている機能だ。友達同士が1つのイベントに対していろいろな角度や思い出を投稿し、それをみんな次の日の朝9時まで待って、同時にすべての写真を見ることができる。離れていても一緒の時間帯で写真を見るということは、今までにない強い体験でもあり、当事者全員を同じ時間軸とタイムラインに合わせる役割を果たしている。全員で一斉に開くからこそ、ダニエル氏とデビッド氏はこの瞬間を「クリスマスプレゼントを開ける時」に似ていると発言している。

さらにRoll内には。ソーシャル機能がある。それが「Scoreboard(スコアボード)」。スコアボードでは、各Rollのスコアボードで誰が最も写真を撮ったのかがわかる。


そのほかのRollについての質問や招待枠についての質問は、こちらのスレッドをご覧いただきたい。

イースターエッグが隠されてる楽しいUI/UX

このように、Dispoは「今、この瞬間を生きる想い」と「楽しく、良い人であること」を抱えながら「ある程度のスピードを持って開発する」という3つが同社のモットーとなっている。

画像クレジット:Dispo Notion

特に最初の棒線が引いてある2つ、「Don’t be evil」と「Move fast and break things」はGoogleとFacebookのモットーであり、Dispoは今までの「硬い、魂のない」大手企業とは真逆の楽しいUI/UXの設計を考えている。実際にDispoのアプリを見ると、いろいろな小さな評価されるべきUIやイースターエッグが隠されている。

まずはDispo Betaアプリを立ち上げた時のこのアニメーション。

また便利な機能として、自分のプロフィール概要欄に「Twitter」や「Instagram」の後にユーザー名を入れるだけでDispo Betaが自動的にアカウントへリンクしてくれるというものもある。


さらに、まだ知られていない機能もある。上記写真の「 」はSnapchat内で連続で特定の友達とSnapを送り合う機能と似ているとダニエル氏は話すが、どう計算されているかは教えてくれなかった。すべてのアイコンや機能がわからないのがアプリのおもしろさでもあるという。

Off Topicとして一番気に入ったイースターエッグは、アプリの設定画面を開くと「Baby Animals」というタブがあり、それをタップすると癒される、かわいい動物の写真が待ち構えているというものだ。


まだ見つけられていない機能やイースターエッグが隠されているとダニエル氏は言う。それを見つける楽しみも含めて、Dispo Betaは今までとは違う、若手層に合ったポジティブなメッセージやサプライズを組み込んだアプリ設計をしている。

日本市場への思いとリスペクト

ダニエル氏とデビッド氏に聞くと、アプリデザインへのこだわりは日本を参考にしているとのこと。デビッド氏は元々富士フイルムのカメラを愛用していることもあって、昔から日本が好きだという。オンボーディングで評判の高かったアニメーション自体も日本のモノやデザインからインスピレーションを受けたとダニエル氏は語る。

日本に対するリスペクトがあったものの、今回の日本からの需要にはかなりびっくりしたと2人とも話していた。LA時間の朝1時から2時の間に大量の日本ユーザーが入ってきてビックリした、と。ただ、それは非常にうれしいもので、今後も日本のユーザーがアプリをどう使うか気にしているという。2人は、日本は文化、デザイン、そしてSNSの力が強いと認識しているため、日本ユーザーへの期待値は高いとのことだ。

Off Topicからの感想

ダニエル氏は他社との比較はしたくないと語っていたが、個人的にはDispo Betaは今のZ世代とミレニアル世代にピッタリなサービスに見える。Instagram美学が求める理想的な世界からバーンアウトしているミレニアル世代に対して、少し昔を思い浮かばせるような使い捨てカメラを提供することによって、Dispo Betaはより自分らしい表現の仕方、友達とのプライベートな時間(世の中からの評価を受けなくていい)、そしてノスタルジアが組み込まれたアプリになっている。

Z世代では、「完璧な世界」を壊す動きがすでにTikTokやYouTube上で行われている。TikTokは変わった自分を表現しバズれるプラットフォームであり、YouTubeではスッピンでリアルな自分を見せるEmma Chamberlain(エマ・チェンバレン)氏が流行っているのは、このトレンドを証明している。だからこそ、Off TopicではDispo Betaのようなサービスを「次世代版Instagram」と呼んでもいいのかと感じる。

フェイク、ありえない映え、フォロワー集めではなく、友達や知り合いと一緒に何か1つの体験やイベントに没頭しながら、後で一緒に思い出を振り返るアプリこそ今流のSNS。プライベートとパブリックをうまく組み合わせて、リアルな自分をポジティブな面で見せられる。Dispo Betaはまだ新しいアプリだからこそいろいろなユースケースが生まれる。元々予想されていた何かのイベントや家族ディナーでの写真をまとめたRollもあれば、学生同士が学校のプロジェクトのメモを集めるユースケースもある。ダニエル氏いわく、インターンの採用もDispo Betaで決まったらしい。

Dispo Betaにはまだたくさんの課題があり、これからどうスケールするか、どう進化するかは定かではない。ソーシャルグラフやディスカバリー機能もまだ改善できるポイントではあるし、同じフィルターがどこまで流行るのかは疑問点としてある。ただ、新型コロナ後でも十分伸びることができる、ミレニアル世代とZ世代にフィットするアプリであることは間違いない。SNS上で大量のコンテンツを目にする中、今、この瞬間を楽しむことをプッシュするDispo Betaは特にZ世代の思いに響くはず。そしてDispo Betaは、何よりVine、YouTube、TikTok、Twitchなど数々のSNSプラットフォームを理解したZ世代のデビッド・ドブリック流のアプリである。彼は過去2〜3年ほど、Z世代の中で好きなオンラインのパーソナリティーの調査をすると、必ず1位になる人でもある。

画像クレジット:Piper Sandler

Off Topicは、今後もDispo Betaがどのように使われて、どう成長するかをウォッチしていきたいと想う。

最後に

ダニエルさん、デビッド氏、本当にインタビューさせていただき、ありがとうございます。サービスが進化するのを楽しみにしています!

Fortune favors the brave.

Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikikusano)

カテゴリー:ネットサービス
タグ:コラムDispo BetaSNS

(文:Tetsuro / @tmiyatake1、Miki / @mikikusano