米西海岸と急接近、中国深圳や香港、台湾に根付くハードウェアスタートアップの今

編集部注:この原稿は土橋克寿氏(@dobatty )による寄稿である。土橋氏は海外ハードウェアスタートアップに特化したブログ「Build Something!」を書いており、現在は東アジアや北米を主軸に活動している。

米西海岸のハードウェアスタートアップにとって、中華圏都市は身近な存在となっている。シリコンバレーのスタートアップエコシステムと結びつく形で、中国深圳や香港、台湾などが興隆しており、ハードウェア特化のインキューベーターも続々と出てきている。各都市にはそれぞれ異なる良さがあり、中華圏のスタートアップコミュニティといっても欧米人が多い。彼らはその違いを感じ取った上で、自らが最適と選んだ地へ足を運んでいる。

深圳の電気店が集約しているモール内の様子

独特のエコシステムを形成する深圳

香港の中心街から電車で40分ほど北上した所に位置する中国都市・深圳。名立たる電機メーカーの発注をこなす巨大工場から、試作や量産の相談がすぐにできる中小規模の製造工場、マニアックな部品を扱う売店まで集積しており、高い利便性を誇る。現在の深圳では、数個、数十個、数百個、数千個と幅広い単位での発注が可能だが、以前はこれが叶わなかった。

ハードウェアに特化したアクセラレータプログラム「HAXLR8R」ファウンダーのCyril Ebersweilerは「5年前に『これを1000個作ってほしい』とお願いしても断られていましたが、今日では問題ありません。現地のハードウェアスタートアップにとって深圳が本当に好都合なのは、プロトタイプ製作が迅速にできるからです。モノによっては24時間以内、しかも非常に安く。これらの変化がスタートアップにとって重要です」と話す。

HAXLR8RファウンダーのCyril Ebersweiler氏

HAXLR8Rのプログラム全体は111日間で構成されており、メンターの指導内容は創案・製造・梱包・戦略・流通・財務など、多岐に及ぶ。参加者は6割アメリカ、2割ヨーロッパ、2割アジアで構成されており、中国出身者は意外と少ない。要因の一つとして、深圳にはテンセントなどの巨大企業が本拠を構えており、優秀なエンジニアを高額給与で大勢雇い入れていることが影響している。その一方で、深圳に住むエンジニアたちは、スタートアップへ正式参加する代わりに、平日夜や週末に技術的サポートを行うことが多い。

「大企業の仕事だけでは物足りないのでしょう。深圳のスタートアップのエコシステムは、北京などと比べるとまだ発展途上ですが、深圳は他都市とは異なる、新たなエコシステムを形成する可能性を持っています。ハードウェアに携わる日本の皆さんには、是非もっと深圳へ足を運んでもらいたいです。恐れることはありません」

深圳視察研修を組み込むSFインキュベーター

HAXLR8Rは深圳を本拠としており、プログラムの最後にはサンフランシスコで製品発表を行う。一方、それとは逆アプローチのインキュベーターも存在する。ハードウェアのリスク縮小を目標とした4カ月のプログラムを提供するHighway1だ。サンフランシスコを本拠としており、参加希望者の合格率が7%という狭き門である。Highway1は各業界の有識者で構成されたメンターと共に、プロトタイピングプロセスやビジネスについてのブートキャンプを行い、参加者のプロダクト・ブランド・戦略がより強固になるよう手助けしている。

Highway1 VPのBrady Forrest氏

Highway1を運営するのは、世界的に製造・物流を手掛けているサプライチェーンマネジメント企業PCH Internationalだ。そのため、参加者はプログラム中に入居する施設で工作機械を自由に使えるだけでなく、Appleなどを顧客に抱えてきたPCHのノウハウも活用できる。

4カ月のプログラムには、深圳の工場を2週間巡る視察研修が含まれている。その思いについて、Highway1 VPのBrady Forrestは「中国の製造の現場について、サンフランシスコのスタートアップにもよく知ってもらいたい」と話す。滞在中、プログラム参加者は多くの工場を訪れる。直接メカニックと話し合うことで、プロダクトや製造プロセスについての助言を受けられる。そこでの議論が気に入り、視察研修の後半には製造パートナーを変更するチームも出るほどだ。

香港で醸成されるスタートアップコミュニティ

深圳のすぐ隣に位置する香港を本拠に選んだハードウェアスタートアップも少なくない。香港のスタートアップコミュニティStartupsHK共同ファウンダーであり、3Dプリンターを開発するMakibleファウンダーでもあるJonathan Bufordは、その魅力についてこう語った。

「私は2000年から14年間、香港に滞在しています。もし起業家が深圳で全てをまかなおうとしたら、中国の様々な規則を遵守する必要があります。顧客とのコミュニケーションやファイナンス面においても、余分なコストが掛かるでしょう。対して、香港では税金が安く済む上、ビジネスを行うためのプロセスが簡略化されています」

StartupsHK共同ファウンダーでMakibleファウンダーでもあるJonathan Buford氏

Ambi Labsも香港に魅力を感じたハードウェアスタートアップの一つだ。彼らは快適な気温へ自動調整するエアコン制御器「Ambi Climate」を開発しており、アジア最大級テックカンファレンス ECHELON 2014 でPeople’s Choice Awardを受賞した。8月末頃には、Kickstarterでのキャンペーン掲載も予定している。Ambi Labs CEOのJulian Leeは「香港には中国のサプライヤーをよく知り尽くし、国際基準に則って動ける人材が多く、世界各地への販路構築にも役立つ」と話す。実際、同社はまだ少人数だが、イギリス、シンガポール、アメリカ、スイス、カナダ、日本の出身者で構成されている。

Ambi Labs CEOのJulian Lee氏(右)

昨今、ハードウェア特化型インキュベーターに参加するスタートアップが増えているが、Ambi Labsはその道を選択していない。同社の場合、時間をかけてハードウェアと機械学習技術を融合させつつ、大量のデータを集めていく必要があった。アジア市場を調査したり、コンセプトを繰り返し考え直すことに9カ月、さらにそこからデータ分析やモデルタイプ製作に15カ月掛けている。

「この2年があったからこそ、私たちはAmbi Climateを納得した水準で世に送り出せました。ハードウェアインキュベーターが一般的に要求する約3ヶ月という時間フレームに縛られていれば実現できなかったでしょう。インキュベーターから受けられる製造面でのサポートは、ここ香港のスタートアップコミュニティからの助言で十分でした」

長期ビジネスを支える台湾のサプライチェーン

数カ月という比較的短期間で構成されがちなハードウェアインキュベーターのプログラムに疑問を抱き、1年以上の長期支援に対応するところも出てきた。クラウドファンディングサービスや製造業アドバイザリープラットフォームを提供する台湾のHWTrekである。ドイツやシリコンバレーに拠点を持ち、参加者の5割がアメリカ、3割がヨーロッパ、 2割が台湾で構成されている。

HWTrekはサービス開始当初から80名以上のデジタルデバイス専門家と連携してきた。製造やコスト管理、資材調達、流通問題に関するアドバイスを行い、限られた期間・予算内で良い製品を作るサポートを行う。HWTrekを運営するTMI台灣創意工場社CEOのLucas Wangは「ハードウェアは長期ビジネスであり、スケジュールも思い通り進行しません。そんな中、台湾にはハイレベルなサプライチェーン・マネジメントがあり、モノを作ることに関して本当に便利な場所だ」という。

HWTrekを運営するTMI台灣創意工場社CEOのLucas Wang氏

同社はこのほど、アイデアを製品化し、効果的に市場まで繋ぐプロジェクトマネジメントツール「HWTrek Project Development Hub」を公開した。Foxconnなどの大手EMS企業との直接的なチャネルを活かし、国際的なハードウェアメーカーコミュニティの繋ぎ手を目指す。

「例えば、アップルストアのようなお店で自らの製品を販売したいと望んだら、彼らは非常に多くの審査プロセスを課すでしょう。その時、世界的に知られた工場で製造している事実は信頼関係を強くします。名が通っていない工場で製造した場合、一定の品質を保てるか、リコールを生じないかと心配され、審査が難航するでしょう。つまり、世界的な製造工場と関わることは、販売面でも非常に役立つのです」

今回は深圳、香港、台湾と駆け足で紹介してきた。各都市のコミュニティが形成されていく中で、ハードウェアスタートアップにとっては様々な選択肢が生まれてきている。日本のスタートアップにもハードウェアを組み合わせたものが増えているので、この辺りは注目しておいた方がいいだろう。


日本にハードウェアスタートアップの芽はあるか? IVSで当事者たちが議論

テク業界にいるとIoTという言葉を聞かない日がないぐらい、ハードウェアのスタートアップに注目が集まっている。日本にもいくつも登場してきているが、果たして日本はハードウェアプロダクトで起業するのに向いているのだろうか? 輝かしかった電機系製造メーカー時代が不調をきたして長いが、次世代のハードウェア企業が出てくる土壌はあるのだろうか?

今日札幌で始まったInfinity Ventures Summit 2014 Sprintのパネルディスカッションの中盤、モデレーターを務めたITジャーナリスト林信行氏が発した問いかけに、ハードウェアスタートアップの現場にいる4人のパネラーが回答した。

まず最初にこの問いに答えたのは、優しい明かりと独特のミニマルなフォルムを持つLED照明「STORKE」で2011年に起業し、「ひとりメーカー」で知られるBsize代表取締役社長の八木啓太氏。

「日本にハードウェアスタートアップの芽はいっぱいあると思います。何年か前まで日本の製造業は世間を席巻していましたよね。その企業群の下には工場がいっぱいあった。町工場がいい技術を持っています。彼らはまだデジタル化されていなくて、ネットとも繋がっていないという問題があります。だけど、Bsizeは、町工場とコラボしながら高度な製品を提供できていると思う。日本は町工場が優れていて、ハードウェアスタートアップをアクセラレートすることができる」

「ネットと繋がっていない」と八木氏が指摘するのは、たとえば起業時の次のような経験のこと。元々八木氏は富士フィルムで医療機器の設計や開発を行っていた。レントゲンや、胎児の超音波エコー検査機などを担当していた。そんなとき、ある商社の担当者がLEDを紹介してくれた。手術灯にどうですか、と。このLEDモジュールを富士フィルムは不採用とした。八木氏は、自宅でプロトタイプを作ってみて、「これはいいな、量産すれば売れる。1年間、1000万円あればできる」と、会社を辞めて全財産をはたいて作り始めた。こういうLEDモジュールはネットで検索しても出てこない。その後、町工場の協力を得てプロトタイピングを進めたが、どこの町工場が良い加工技術を持っているかということについても、詳しいヒトに聞くしかないのが現状という。一方、Bsize創業時はハードウェアスタートアップ一般に吹く追い風を背景としている。「電子基板も電灯自体も設計は無料のCADソフトを使っている。いまはデータを送れば基盤にして送り返してくれるサービスもある。3Dプリンタもあり、完全に家内制手工業で最初は作った」。2014年現在はソニーやパナソニックの技術者を採用しているが、「ひとりメーカー」と呼ばれるように、今の時代は個人で家電スタートアップをすることもできるのだと改めて指摘した。

日本にハードウェアスタートアップの芽はあるか? 次にこの問いに答えたのは、ユカイ工学代表の青木俊介氏だ。ユカイ工学は、実は多くのスタートアップ企業のプロトタイピングを請け負うなど、関係者の間では裏方としても知られる。たとえば、テレパシー・ワンの最初のモックアップや、スマフォでロック・解除ができる南京錠の「loocks」(ルークス)などは、ユカイ工学が請け負ったそうだ。大企業とのコラボも多くこなすユカイ工学の青木氏は、実は創業時に本社を置く場所を日本を選んだ理由を次のように話す。

「今の会社を作る前には中国に住んでいました。中国で会社を作ることもできたんですが、そうしなかった。日本社会には凄くいい製品がたくさんある。住んでる人が、いい暮らしをしている。そういうところでこそ、いちばん良い物って生まれるはず。大量生産するだけなら、中国にいたほうが有利かもしれません。でもプロダクトって、みんながいいなって思うような、ライフスタイルと結び付いているので、(今の中国からは)良い物って生まれないと思う。米国西海岸って、まさにそうなんだと思うんですね。夏休み中サーフィンをしている人がいる場所だから、GoProが生まれてくる」

パネルディスカッションの聴衆側にいたハードウェアスタートアップのCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏が、会場から同様の意見を投げ入れた。

「豊かな国で作るべきというのはぼくも言ってます。世界でいちばん巨大家電メーカーが多い国は、どこですか? 韓国にはサムスンがあるかもしれないけど、それだけ。家電業界に従事してる人の数がいちばん多いのはどこか? それは日本です。(製品は)人が作るもの。優秀な人がいる国が強いと思うんですよね。先ほどネットで検索しても出てこないって言ってましたけど、確かにそう。出てこない。結局、人の中にノウハウが眠っている。そういう人の数がいちばん多い国って日本ですよ。いまCerevoの売上は、すでに半分が海外だけど、本社を国外に動かす気はないですね」

ロボットの向けの汎用の制御ソフトウェアを開発するスタートアップ、V-Sido代表の吉崎航氏は、ちょっと違うアングルからの回答を持っていた。

「(新しい技術は)ちゃんと使ってる姿が想像できるのが重要だと思ってる。スマフォって使うのがイメージしづらい。最後までガラケー使ってた人たちってそういう人たちだったわけですよね。使ってみたら、何だ案外使えるじゃんと。じゃあ、ロボットがいる生活に馴染む、そういう生活が思い描けるのはっていうと日本人。世界で最もロボットアニメを見ている国民」

V-Sidoはマウスや身振りで人型を動かせるロボットのための「ロボット用のOS」。ロボットは物理的実装ごとに重心やアームの自由度が違うが、V-Sidoを間に入れると、種類の違いを超えて動作を直接的にロボットに伝えて操ることができる。「人間の動きを見ているので、人間が動かしているように見えるけど、実際は人間の動きに合わせてロボットが動いてあげている。大小のロボットが同じバイナリで動く」(吉崎氏)という。V-Sidoで動くロボットの動画が会場に流れると聴衆から歓声が湧いた。

吉崎氏は「ロボットの開発競争が始まった」という。愛知万博を始め、日本国内では過去に何度か(あるいは何度も?)ロボットブームがあって、そのたびにブームは去った。しかし「今回はホンモノ」という。GoogleがAndroidの次にやろうとしていることの1つがロボットで、一挙に7社の買収が話題になることもあったように、世界中が「そろそろ作ってみるか」という状況にあるからだ。その吉崎氏が目指すのは「用途を狭めない、全ての分野でロボットが活躍できる下地を作ること」。今だと、すでに工事現場のショベルカーのような重機をヒューマノイドロボットで操作するという検証を始めていたりするそうだ。人型だから応用範囲は広い。ひょっとすると自分の分野でも活躍するロボットがあるのではないかと想像できる国民が全国にいるのが日本、ということだろう。

ロボットの開発はまだ売れる段階にない。これはロボット開発の課題が人間を作るのに近いからで、ソフトウェアも力学もネットワークも人工知能もと多岐にわたる専門知識が必要になるが、そういうものを全て併せ持つ企業はまだ存在しないからだという。一方、V-SidoはPCにおける汎用OSのようなものを作ることで、誰もが全ての開発をする必要がない世界を作るという。

ハードウェアのプロトタイプやテクノロジーを使った空間演出などデザイン面から企業とのコラボやコンサルティングを多く手がけるtakram desigin engineering代表の田川欣哉氏も、創業時の会社設立の地として、明示的に東京を選択したという。

「どこで会社やるか悩んで、シリコンバレーじゃなく東京にした。それはハードウェアから離れたくなかったから。インテグレーションをやるのは東京がいいな、と。日本人の特性として、いろんな物事をすりあわせて作るって好きというのがありますよね。ハードウェアを作れる国に日帰りで行けるっていうことも含めて東京が良かった」

田川氏は、ネットやソフトウェアが必ずしも得意でない上の世代の製造業の人々ときちんとコミュニケーションする新しい世代が出てきてムードが変わってくると、アメリカとはニュアンスの違うものが出てくるのではないか、という。


「苦痛を感じるほどの課題はあるか?」、MoffがハッカソンからHWスタートアップで起業するまで

告知通り、TechCrunch Japanは大阪市と共催で先週末の2日間、大阪でハッカソンを開催した。ハッカソン初日冒頭にはウェアラブルなスマート・トイ「Moff」代表取締役 高萩昭範氏が参加者向けに20分ほどのトークを行った。高萩氏の話は「ハッカソンからスタートアップ企業として起業するまで」の1つの体験談として起業家志望の予備軍にとって示唆に富むものだったと思うのでお伝えしたい(Moff自体については、こちらの記事をどうぞ)

高萩氏は京都大学法学部を卒業後、経営コンサル企業のA.T.カーニーと、メルセデス・ベンツ商品企画部のプロダクトマネージャーを経て、2013年にハッカソンで知り合った仲間とともにMoffを起業している。元々自分でWebサービスを作ったりするなど起業に関心があったというが、本当に起業する最初のキッカケとなったのはハッカソンだったという。

2013年1月に大阪市が主催した「ものアプリハッカソン」で、たまたま主催者側が役割(企画、エンジニア、デザイナー)に応じて決めたチームの仲間が、実はいまMoffチームのコアにいるメンバーなのだという。

ハッカソンでプロトタイプを作ってから、実際のハードウェア製品を作るようになるまでの道のりはどんなものなのか? 「ハッカソン後に待ち受けていること」として高萩氏は次のように語った。

「ハードウェア・スタートアップというのはモバイルアプリなんかと違ってお金がかかるんですね。しかもプロトタイプと製品とでは全然違う。どうやって工場を見つけるの? どうやって仕様を決めるの? 各種認証ってどうするの? 生産過程でロスが出たらどう改善していくの? 在庫管理どうすんの? 会社潰れたらどうなるの? ユーザーが怪我したらどうする? アメリカで裁判起こされたらどうなんの?」。多くのことを考えてクリアしていく必要がある。ただ、多くの関門があるものの、こうしたことは「事業として成り立つという確信があれば、なんとかなる」とも言う。

では、事業として成り立つ確信はどこから来るのか?

「最初、Moffは基板むき出しのプロトタイプを学童保育に持っていったんですね。無茶苦茶完成度が低かった。子どもってめっちゃ厳しいじゃないですか。だから、どんな反応するのかなってビビってたんですよ。ところが、いざデバイスを出して遊ばせてみた瞬間に、もうバカ騒ぎですよ。みんなが取り合うように遊んだんです。遊び終わった後に、これ、ほしいんですけど売ってくださいというんです。パパに買ってもらうと。4000円なら買うという親も出てきた。そのときに、あ、これはイケるなと思った」

ハッカソンでできたチームとして高萩氏らは最初から腕に巻き付けるスマート・トイのMoffを作っていたわけではない。最初はカエルの人形をスマフォに繋いだコミュニケーション系のプロダクトを作っていた。このカエルのプロダクトにしてもMoffにしても、そこには共通する問題意識があった。「画面ばかり見つめるUIじゃない、もっと優しいインターフェースがあっていいのではないか、家族のコミュニケーションの問題を解決したい」という思いがあったという。

ただ、カエルには市場性がなかった。

「それなりに課題だけど、苦痛があるほどの課題じゃないということだったんです。カエルを買いますかっていうと、買わない。だから、ぼくらはカエルを捨てたんです」

「結局、苦痛を感じているほどの課題があるのかどうか、ということです。解決策にお金を払うかどうか。そもそもその課題って本当にあるんだっけ、という話で、課題があるかどうかです。困ってるんだよねー、という程度では全然だめ。課題を発見できるかどうかが重要だと思ってます」

カエルからMoffへ、というのはいわゆるピボットだが、それは容易なことではなかったと高萩氏は言う。新プロダクトを思い付くよりも先にカエルを捨てることを決めたというが、悶々と悩む時期が1カ月ほどあったという。たまたまハッカソンで出会ったメンバーが集まった「即席チーム」という側面があったからだ。2013年1月末のハッカソンの後、3月に海外のピッチコンテストに出ることを決めてからはチームが一丸となれたが、一旦そのプロダクトを失えば求心力やモーメンタムを失いかねないと思ったからだ。

「ピボットすりゃいいじゃんって言うけど、そんなに簡単じゃない。何のためにチームが集まってるのか? 何を作るのか? という話です」。作るべきものを失ったとき、各メンバーの向かいたい方向性が違えばチームがバラバラになる。Moffはそうならなかった。「そもそも、なぜぼくらがチームとなったのかというと、それは画面インターフェースって人間に優しくないよねという問題意識を共有してたから。それから家族をテーマにという課題意識。画面インターフェースの常識を変えたいという課題意識は一致してたのでチームが続いたんです」

Moffのアイデアを得て、その市場性を検証するために40家族ほどにインタビューをしたという。そうした中から子ども部屋に関する「苦痛を感じるほどの課題」を見つけた。

それは例えば「子どもが、ずっとタブレット画面ばかり見ていてヘドが出る」という母親の声だったり、「部屋にオモチャが溢れかえっている。子どもは直ぐに飽きるのに捨てられない」という父親の声だった。

インタビューを繰り返していくうちに見出したのは「子どもはオモチャに直ぐ飽きるが、捨てるのはエコじゃない」「顔を合わせるコミュニケーション、フィジカルな遊びを実現したい」という(親が持つ)子ども部屋に関する2つの課題だったという。そして調べてみると、世界的にオモチャ市場は変革期にあることも分かった。米国2.2兆円市場、日本6700億円という大きな市場で、創造を楽しむオモチャというジャンルは今後も30%の成長性があるということなどから、Moffのアイデアに至ったという。そして投資家などと話をしていく中で分かってきたのは、ハードウェア単体ではダメで、ソフトウェアで儲ける仕組みというのがあるということだった。そしてKickstarterでキャンペーンを開始し、2万ドルの目標に対して48時間で7万8871ドル、1157人の支援者を集めた。「これなら市場やニーズがあると思い、製造する決心をした」。Moffは2014年7月に出荷予定だ。

これは高萩氏自身も認めていることだが、Moffは順調な滑り出しとはいえ、まだハードウェアスタートアップとして「成功」といえる段階にはない。しかし、会社員がハッカソンに参加したことをキッカケにして、ハードウェアでスタートアップを起業し、最初の登竜門ともいえるKickstarterでキャンペーンが成功して一般発売へ近づいているというのは、起業家志望の人にとって参考になる話ではないかと思う。

そうそう、Moff自体はスマート・トイということでオモチャだが、高萩氏の問題意識は「画面UIではないものを提供したい」というもの。ただ、課題ありきでなければ普及もビジネス化もないという認識からMoffに取り組んでるという。Moffが一定数以上に普及して多くの家に転がっている状態になれば、そのユーザーベースを起点にして身振りによるインターフェースを使ったオモチャ以外の応用を提供したい、と話している。


Kickstarterに登場した299ドルのオイル缶ギターがばか売れ…独特の共鳴音が魅力

おもしろい記事ネタに慢性的に飢えているわれわれは、Kickstarter詣での常連だ。もちろん、人気と宣伝につられてライターが自分のポケットマネーを投ずることも多い。この前見つけたおもしろいKickstarterプロジェクトは、Bohemian Guitar Companyの“オイル缶”ギターで、目標額32000ドルを大きく上回る54000ドルを集めた。ジョージア州の同社から今日、その巧妙なデザインのギターが送られてきたので、早速試してみた。

そのギターは、ピックアップが一つ、それをボリュームとトーンのダイヤルでコントロールする。底に木製のブリッジがあり、メープルウッド製の上質なネックが缶の底まで達している。ボディーは、いかにもリサイクル品に上塗りしました、という風情だが、人がピックした弦に優れた共鳴音(ビヨォ~~~ン)を加える。ヘッドはよくできているが、ぼくのはややきつかった。ピックアップは、シンプルだが最良の共鳴と音質が得られる場所にある。

音はこんな音だが、ぼくのギターのヘタクソは我慢していただきたい:

音は共鳴倍音の多いビヨンビヨンだが、そのため、アコースチックのスチールギターとしても通用する。名人のギタリストなら、これを最高に効果的に使えるだろう。Iron City JazzのCharlie Appicellaに見せたら、軽くて弾きやすいがプロのジャズギタリストが使うには、ちょっとかわいいすぎる、と言った。でも。サーフバンドやカントリーの人なら、逆にステージ映えするだろうし、Bo Diddleyっぽくすらなるだろう。

お値段は299ドルだが、一部は子どもたちを音楽好きにするためのボランティア活動に寄付される。それは立派な目標だし、作者のAdamとShaun Lee兄弟はKickstarterで見事にビジネスを作り上げた。今はどのモデルも売り切れだが、現在はヒップスター的なデザインの缶を使ってBohoファッションに挑戦している。なにしろ、写真を見ただけでも強い説得力のある、そして意外にもクールなプロジェクトだ。ビジネスとして好調なことも、おもしろい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))