【コラム】離陸間近なeVTOLにまつわる2021年4つのトレンド

数十億ドル(数千億円)の資金と数十件の契約と1件の法廷闘争。2021年はeVTOL(電動垂直離着陸機)にとって忘れがたい1年だった。大手航空セクターが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる落ち込みから徐々に回復するのに忙しい中、スタートアップはスピードを上げている。

以下に、第一線アナリストと投資家に追いつくべく、2021年eVTOLが巻き起こしたトレンドを紹介していく。これらのトレンドは今後数年も影響を与え続ける可能性が高い。

誰がSPACといった?

Archer Aviation(アーチャー・アビエーション)、Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)、Lilium(リリウム)、Vertical Aerospace(バーチカル・エアロスペース)。eVTOLを開発している、という以外の共通点は何か。4社とも、2021年白地小切手会社との合併を発表あるいは完了した。そしてこの生まれたばかりで、現実離れしているとさえ思えるテクノロジーに、あきれるほど巨額な資金が注入されている。

もし2021年が、eVTOLの世界で何かしら記憶に残る年になるなら、巨額な資金がこの業界に流れ込んだことが主な理由だ。3つのSPAC案件だけで(JobyArcher、およびドイツのデベロッパーLilium)総額25億ドル(約2852億円)以上の資金を獲得し、Jobyの調達額はその半分近い11億ドル(約1255億円)に上る。垂直離着陸機は、SPACを挙って公開市場への乗り物に使った唯一のモビリティテクノロジーではないが、そのおびただしい案件数は、2021年の傑出したトレンドの1つであることに間違いない。

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「現在のeVTOL業界が、以前、例えば1年前と何が違っているかといえばそれは資本の入手です」とMorgan Stanley(モルガン・スタンレー)の航空宇宙・防衛上級アナリストであるKristine Liwag(クリスティン・リワグ)氏は説明した。

この並外れた資金流入が意味しているのは、これらの企業は自社の飛行機が商業運用に必要な連邦航空局の認可を得るための、長くて徹底したプロセスを通過するための重要な資金を手にしているということだ。それが十分であるかどうかは別問題であり、各企業の進捗と費用効率による。

テクノロジーを商業化するための高いコストが、SPACトレンドへと走らせた可能性は高い。航空産業は資本集約的ビジネスであり、eVTOLの設計から生産、認可までには10億ドル(約1141億円)程度必要だと多くの人は考えている。

「私にとって最大の驚きは、第一線スタートアップの多くが、自社製品を認証完了までもっていくための予算を獲得する方法を見つけたことです」とIDTechExのテクノロジーアナリスト、David Wyatt(デビッド・ワイアット)氏はいう。「今ある数多くのテスト機がプロトタイプ状態から確固たる本格的eVTOLへと飛躍する大きな一歩であると感じています」。

SPAC以外でも、eVTOL企業へのベンチャー投資は少なくなかった。2021年は巨額の調達ラウンドが見られた年でもあった。たとえばBeta Technologies(ベータ・テクノロジーズ)の3億6800万ドル(約420億円)のシリーズAやXpeng(シャオペン)が支援するHT Aero(HTエアロ)の5億ドル(約571億円)のシリーズAなどだ。

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「2021年は、『認証はとれるのか?』を質問するだけの年でした」とSMG Consultingのファウンダー・パートナー、Sergio Cecutta(セルジオ・セクッタ)氏がいう。「これからの質問は、認証はいつとれますかです。『本当に飛べるの?認証は取れるの?」という段階は過ぎました。いずれも可能です。あとは、気合を入れと取りかかるだけです」

地上での動き

エアタクシー開発者が力を入れているのは飛行機だけではない。電動飛行機の市場を現実にするためには必要なことがたくさんある。地上インフラ、すなわちバーチポート(垂直離着陸要飛行場)あるいは空港内の専用エリア、および十分な電力を供給するための充電ポイントだ。

この部分でやるべきことは「やまほど」あるが、2021年にeVTOL運用会社らが、商業運用開始に必要な基盤を5年以内に確立するための作業開始に向けてスタートを切ったことは注目に値する。たとえばLiliumとABB E-mobilityは、Lilium Jetのための充電インフラストラクチャ提供で提携し、JobyとArcherは駐車場所有者のREEF Technologyと提携、Verticalとヒースロー空港は、空港運用にeVTOLを組み込む方法を共同で検討している。

Archer、Joby、Volocopter(ボロコプター)の3社もロサンゼルスのUrban Movement Labs(アーバン・ムーブメント・ラボ)と協力して、都市型エアモビリティを既存のインフラや輸送ネットワークに統合する方法を探っている。

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「各空港がこの問題を本気で考え始めていることを私は知っています」とJetBlue Technology VenturesのプレジデントであるAmy Burr(エミー・バー)氏はいう。「空港で何らかのインフラストラクチャー・プロジェクトに携わっている人なら誰でも、バーチポートを置く必要があるかどうかを考えています」。

(不確定な)発注

最後に、2021年に我々は、eVTOL機の大量発注が始まったのを見た。もちろん、United(ユナイテッド航空)がArcher Aviationに10億ドルの発注を行ったというニュースのためだ。その後、Embraer(エンブラエル)が支援するエアタクシーデベロッパーであるEve Urban Air Mobility(イブ・アーバン・エア・モビリティが発注、UPS(ユーピーエス)がBeta Technologiesに発注、そしてVertical Aerospaceが1350台の条件付き先行予約を受けるなど次々と注文が続いた。

はっきりしておく必要があるのは、どの発注も確定ではないことであり、商業製品が未だ実在していないことを考えれば当然である。開発、認証の完了が条件であり、他にも性能面の条件がある可能性が高い。

それでも、たとえ個々の企業にとっては気を抜けない状況であっても、業界にとっては有望な兆候だ。

「これらの飛行機に明確な市場が存在していることは、有望だと思っています。航行許可を得て、飛べるようになりさえすれば、市場は十分な関心を持っている、という確信を与えるものです」。

伝統的メーカーも参入を伺う

2021年で注目すべき最後のトレンドが、活発化する伝統的自動車メーカーの動きだ。ほとんどの見出しはスタートアップが占めていたかもしれないが、古くからいる伝統的企業も電動飛行機の可能性に気づき始めている(中でもBoeing[ボーイング]やAirbus[エアバス]をはじめとする伝統的航空機会社は、eVTOへの強い関心を示している。BoeingはKitty Hawk[キティ・ホーク]とWisk Aero[ウィスク・エアロ]とのジョイントベンチャー、AirbusはCityAirbus NextGenのeVTOLコンセプトを発表している)。

自動車メーカーでは、Hyundai(現代、ヒョンデ)が目立っている。この会社は2020年のCESでeVTOLのコンセプト・デザインを披露し、2021年はSupernal(スーパーナル)の名前で都市型エアモビリティ事業を正式発表した。Honda(ホンダ)はハイブリッドeVTOLの開発計画を正式発表した。同社はこれを、つながるアプリやHondaの自動車を含む「モビリティー・エコシステム」の一環と位置づけていることが注目の理由だ。そして、もちろん、中国の自動車メーカー、Xpeng Motors(シャオペン・モーターズ、小鵬汽車)は10月末、都市型エアモビリティ子会社、HT Aero(HTエアロ)が、eVTOL機コンセプト開発のために5億ドルを調達したと発表した。

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いずれの動きも注目に値する。なぜなら主要自動車メーカーはeVTOLプロジェクトを進めるために必要な資本と生産基盤の両方を持っているからだ。それは成功を保証するものではもちろんなく、これらの大企業にスタートアップと同じようなプレッシャー(もモチベーション)もないが、今後注目し続けるべきであることは間違いない。

画像クレジット:Bryce Durbin

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

電動航空機メーカーLiliumがアズールブラジル航空と総額約1100億円の受注に向け交渉中

ドイツの電動航空機メーカーであるLilium(リリウム)は、ブラジル最大の国内航空会社の1つであるAzul Brazilian Airlines(アズールブラジル航空)と、総額10億ドル(1092億円)におよぶ220機の受注に向けた条件交渉を行っていると、両社は米国時間8月2日に発表した。アズール航空との契約が進めば、Liliumにとって創設以来最大規模の受注であり、南米市場への初進出を果たすことになる。

Liliumの広報担当者は「タームシートには調印しており、今後数カ月以内に最終合意に向けて動き出します」とTechCrunchに語った。

この220機の航空機は、ブラジルで運航される新しい共同ブランドの航空会社ネットワークの一部として飛ぶことになる。両社が合意に達した場合、アズール航空は7人乗りフラッグシップ機の運航とメンテナンスを行い、Liliumは交換用バッテリーを含むカスタムスペアパーツと機体の健康状態を監視するプラットフォームを提供する。

納入は2025年に始まる予定だ。これはLiliumが計画している欧州と米国での商業運航開始から1年後にあたる。ただし、これらのタイムラインは、Liliumが各国の必要な航空宇宙規制機関から、主要な認証承認を得ることが前提となっている。アズール航空は今回の契約の一環として「ブラジルで必要な規制当局の承認プロセスにおいてLiliumをサポートする」と述べている。

仮に契約が成立したとしても、Archer Aviation(アーチャー・アビエーション)がUnited Airlines(ユナイテッド航空)から10億ドルの注文を受けた際の条件と同様に、Liliumが一定の性能基準やベンチマークを達成することが条件となるだろう。しかし、このような金額の受注があるということは、市場や投資家に対して、電動垂直離着陸機(eVTOL)がまやかしではないという肯定的なシグナルであると考えられる。

また、これもArcherと同様に、LiliumはSPAC(特別買収目的会社)方式での上場を計画している。同社は2021年3月、Qell Acquisition Corp.(ケル・アクイジション)と合併して「LILM」というティッカーシンボルでNASDAQに上場する意向を明らかにした。SPAC方式は、交通機関業界全体で一般的な上場手段となっているが、特に資本集約的なeVTOLスタートアップには人気がある。

この合併は、同社の事業継続のために必要なものと思われる。ドイツのニュースサイト「Welt(ヴェルト)」によると、Liliumは2019年の貸借対照表に、SPACとの合併が完了しない場合には2022年12月に資金が枯渇すると記したリスク警告を追加したとのこと。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:LiliumeVTOLドイツブラジルAzul Brazilian AirlinesSPAC

画像クレジット:Lilium

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Liliumの電動ジェット機のバッテリーは同じくドイツのCustomcellsが供給

電動エアタクシーのLiliumは、ドイツのメーカーCustomcellsと提携、同社フラグシップ機Lilium Jetのバッテリーを提供してもらうことになった。

Liliumによると、そのバッテリーのIPは複数の企業などが保有するが、製造そのものはCustomcells一社の仕事になる。両社の協定の一部であるバッテリーシステムの数をLiliumは明かさなかったが、Customcellsは2026年までに保証容量を生産する契約だ。

Customcellsは、航空機や自動車、海運業などのために高性能のリチウムイオンバッテリーを開発している。同社は最近、高級スポーツカーのPorsche AGとCellforce Groupという合弁事業を興し、レーシングカーやパフォーマンスカー用バッテリーの少量生産を行なうことになった。

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Liliumはこのところ、部品と機体のテストに向けて準備を進めているが、その中にはいくつかのパートナーシップもあり、Customcellsはその1つにすぎない。ミュンヘンのeVTOL企業であるLiliumは、パートナーシップの国際的なネットワークを築いており、その中には炭素繊維複合素材で日本の東レ、ジェット機の機体ではスペインの航空宇宙サプライヤーAciturri、ソフトウェアサービスでは同社の投資家でもあるPalantir Technologiesなどがいる。2021年6月にLiliumは、ジェット機の航行制御とアビオニクスのために、航空宇宙の大メーカーであるHoneywellをその名簿に加えた。

主要部品を既成のメーカーにアウトソースするLiliumの決定は、エンジニアリングと生産の大部分を内製することを選んでいるJoby Aviationといったその他の多くの主要eVTOL開発企業のやり方との訣別となる。Liliumのやり方には利点もある。何よりもまず、生産とテストのための設備機器に対して長期間、費用を使う必要がない。しかしLiliumの役員たちがほのめかすもっと重要な利点は、公的認可の過程かもしれない。

他のeVTOLメーカーと同じくLilium Jetも、商用運行のためには、EUの航空安全局と米国の連邦航空管理局からの認可が必要だ。Liliumも、その主要競合他社も、商用運用の開始を強気に2024年としている。既成の航空宇宙サプライヤーは、その最小限の性能規格に関して規制当局の認可をすでに得ている部品を使えるかもしれない。それによって、認可までの時間を節約できるだろう。

LiliumのチーフプログラムオフィサーであるYves Yemsi(イヴ・イェムシ)氏は、2021年初めにTechCrunchに対して次のように語っている。「エキスパートや航空宇宙のパートナーたちとのコラボレーションは、私たちの意図的な選択です。市場化までの時間を短縮できるだけでなく安全です」。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:エアタクシーLiliumバッテリーCustomcellseVTOLドイツ

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)