レンタカー大手のHertz(ハーツ)は今週、伝えられたところによると42億ドル(約4785億円)でTesla(テスラ)車10万台を購入するというニュースを発表し、倒産からの復活を市場に強くアピールした。その2日後、HertzはUber(ウーバー)がその注文の最大半分を自社のドライバーに貸し出すことを約束したと発表し、再び話題となった。
しかし、この取引で最大の勝者となるのは、結局のところTeslaかもしれない。Teslaは、レンタル市場での先発的な優位性と、他の自動車メーカーが直面している在庫の制約を利用して、増えつつあるEV(電気自動車)に興味を持つドライバーを取り込めるかもしれない。
Edmunds.comの自動車アナリストIvan Drury(イヴァン・ドラリー)氏は、今回の契約の規模について次のように説明する。「レンタカー会社は、EVを大量に購入しているわけではありません。従来の車両注文のような大量発注の話ではありません」(Hertz、Enterprise Holdings、Avis Budget Groupの3社は、自社の車両に占めるEVの割合を公表していない)。
「Hertzが10万台のTesla車を購入し、さらに5万台をUberのドライバーに向けるというのは、これまでのレンタカー会社とはまったく異なる動きです」とドラリー氏は付け加えた。
TeslaのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は認めたが、今回の車両販売は明らかに定価でのものであり、同社が2022年末までにModel 3の大規模注文に応える準備ができていることを示す明確な指標でもある。一方、従来の自動車メーカーは、新規顧客向けのEV予約の未処理に悩まされているのではないかとCox Automotiveのアナリスト、Michelle Krebs(ミッシェル・クレブス)氏は話す。「自動車メーカーは、パンデミックとそれにともなうチップや車両の在庫不足の間、レンタカー会社への販売を行わず、一般消費者への小売販売に注力してきました」と述べた。
大規模な「買う前に試す」
メリットは金銭的なものだけではない。Enterprise Rent-A-Car、National Car Rental、Alamo Rent A Carの親会社であるEnterprise Holdingsが2015年に実施した調査によると、回答者の約62%が特定のモデルのレンタル体験が良かったことで、自分でも購入を検討するようになった、と答えた。
従来のレンタカー市場では、EVはこのような潜在的な消費者の関心に応えることができていなかった。これまでは、EVをレンタルして旅行を楽しみたい人々のために、スタートアップがそのギャップを埋める役割を果たしてきた。ドイツのNextmoveとFuture.renは、EVのみを扱うレンタカーサービスを提供しており、米国のP2P(ピア・ツー・ピア)レンタカー市場であるTuroはEVと内燃機関のモデルを組み合わせてサービスを提供している。
少なくとも、P2Pレンタル・マーケットプレイスのTuroによれば、需要はあるとのことだ。Turoでレンタル用にリストアップされているTesla車両の数は、過去5年間で爆発的に増えているという。2014年にTuroのマーケットプレイスに掲載されていたTesla車は67台だったが、2021年はこれまでのところ2万1599台に急増している。EV全体では、同時期に196台から2万6956台に増加している。
Turoに車を登録している人の多くは、自分のTesla車を旅行用ではなく、長期の試乗用として貸し出しているという。Turoの広報担当者は「多くの人にとって、(試乗のために)Tesla車に乗るのに1時間では十分ではありません」と話す。「購入を検討している人の中には、航続距離に不安があり、Tesla車で長距離の移動を試してみたい人もいます。多くのホストは、ゲストが車両を長期間所有できるようTuroでTeslaを試していると話しています」。
HertzによるTesla車レンタル市場には、旅行中のTesla車オーナーだけでなく、Tesla車に試乗してみたいと思っている消費者や「EVに興味がある」消費者も含まれるとクレブス氏は話す。
「広告を買わないTeslaにとって、これはすばらしいマーケティング状況です」と同氏は付け加えた。「その代わり、Hertzはスーパーボウルで7回優勝しているTom Brady(トム・ブレイディ)氏を使って広告を出しており、Teslaはその尻尾に乗っているのです」。もちろん、Teslaはクルマを販売するのに伝統的な広告を使っているわけではく、マスク氏はツイッターで5400万人のフォロワーを抱え、自分(と会社)の名前を売り込むのに長けていることは注目に値する。
ドラリー氏はまた、自動車メーカーがレンタカー会社を、最も高機能なクルマを売り込むためのマーケティング手段として利用することが多いと指摘する。「ですのでTeslaにとっては、レンタカー会社が試乗センターになるのです」
反レンタル偏見のリスク
もちろん、濡れ手で粟ではない。ドラリー氏によると、Teslaにとっての主なリスクは、Model 3がレンタカーや、場合によってはUberの乗車に使用されるクルマは、非レンタカーのクルマよりも価値が低いという認識の犠牲になることだ。「レンタルの汚名を着せられてしまうのでしょうか、それとも、今回の取引でそれが払拭されるのでしょうか」。
Hertzは、TeslaのEVに対して「プレミアムで差別化されたレンタル体験」を提供するとしており、レンタル価格はHertzの既存のラグジュアリーセグメントに匹敵するものになるとして、プレミアムなイメージを維持できる可能性を示唆している。Uberで予約したTesla車は、プレミアムサービスであるUber Blackに限定されず、UberXで予約した人も利用できるようになる。
また、最終的には、中古市場での販売台数が増えれば、Tesla車のリスクになる可能性もある。Edmundsの2017年のレポートによると、レンタカーとして使われた中古車は、そうでないものに比べて中古市場での販売価格が9%低くなっている。これはTeslaにとって重要なことだ。というのも、Hertzに販売される10万台のModel 3は、最終的にオークション(またはHertzとの新たな契約によりCarvana)にかけられ、中古車市場が飽和してブランドや特定のモデルの価値が下がってしまう危険性があるからだ。今回の注文は、そのような事態を招くほどの台数ではなさそうだが、それでもTesla Model 3と中古車市場の間に、これまでにはなかった新たな力学が生まれる
一般的な認識がどうなるかは別にして、今後、大手自動車メーカーがトラックやSUVなどセダン以外の部門の生産台数を増やすにつれて、そうした車両のEVを注文する際に同様の取引が行われる可能性がある。
画像クレジット:Hertz
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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi)