小さい家に住むブームがナノサイズにまで過激化–光ファイバーの先端に家を

今や世界中で、ヒップな若者たちは、だれがいちばん小さくて奇抜でかわいい家に住んでるかを競っている。でも今回のそれは、彼ら全員に勝つ。ナノサイズのロボットが大工道具の代わりにイオンビームを使い、折り紙の技法で作ったこの世界最小の家は、奥行きが20ミクロンだ。比較のための参考としては、それはほとんど、マンハッタンのロワーイーストサイド(Lower East Side)のスタジオみたいに小さい。

これを作ったFemto-ST Instituteが所在するフランスは、とくにちっちゃい家ブームが激しいが、でもここの研究者たちは遊んでるわけではない。ナノサイズの複雑な構造物は、いろんな産業で必要とされている。たとえば特殊な放射線センサーやバイオセンサーを光ファイバーの先端に取り付ければ、これまで見れなかったところを調べられるだろう。

この家は、同社が開発したツールの実用精度をデモするために作った。組み立てを行ったロボットはμRobotexと呼ばれ、それ自身はナノスケールではない。しかしその作業精度は2ナノメートルととても小さい。

μRobotexのオペレーターはまず、切断した光ファイバー(人間の毛髪より細い)の先端にシリカの薄層を置く。それからイオンビームを使って壁の形を切り抜き、窓やドアを加える。壁は、一部を切り取り、そのほかは切れ目をつけるだけなので、そのとき加える力により折りたたんで両端を合わせられる。

それらの部材が完成したら、μRobotexは道具をガス噴射システムに持ち替えて、各面を互いにくっつけていく。最後に、屋根の上にタイル状のパターンを“射出”することまでする。

概念実証としてこの家を作ったチームは、今度はカーボンナノチューブの先端という、もっと小さい構造物をねらっている。この家の窓を楽に通り抜けるぐらいの。

研究者たちのペーパーは、Journal of Vacuum Science and Technologyに載っている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Google[x]、ナノ粒子を飲んでガン細胞を早期発見する画期的検査方法を開発中

近い将来、カプセルを飲むだけでガン細胞を発見することができるようになるらしい。Wall Street JournalのDigitalカンファレンスで、Googleのライフサイエンスの責任者、Andrew ConradはGoogleの秘密研究所、Google[x] がナノテクノロジーとウェアラブルデバイスを結合した疾病検査テクノロジーを開発中であることを発表した。

「われわれは受け身の検査から能動的な検査への転換を図ろうとしており、そのためのツールを開発中だ」とConradは説明した。このナノテクノロジーによる医学的検査はGoogle[x]のライフサイエンス部門として、糖尿病患者の血糖値をモニタするスマートコンタクトレンズ、Parkinson病患者の手の震えを軽減するデバイスに続く3つ目のプロジェクトだ。

このシステムでは疾患特有の細胞と結合する抗体で覆われたナノ粒子を利用して疾患の早期発見を行う。検査を受ける人はカプセルに入れた粒子を経口服用する。吸収された粒子は体内を循環し、異常な細胞があればそれと結合する。粒子はその後専用のウェアラブルデバイスによって「呼び戻され」、分析されて疾患の有無、種類が判定される。

「ナノスケールの『自動運転車』のようなものだ。われわれはこの粒子をコントロールして望む場所に駐車させようとしている」とConradはGoogle[x]のもうひとつのさらに大規模なプロジェクトを引き合いに出して説明した。Conradによれば、現在の医療システムは「エンジンが焼き付いて壊れてから初めてオイル交換をするようなもの」と述べた。

Bikanta’s tiny diamonds luminesce cells in the body.

Y Combinatorが支援するBikantaが開発中のダイヤモンドのナノ粒子を用いたガンの早期発見システムと同様、Googleのナノ粒子もガン細胞をMRIスキャンに写りやすくする特性を持たせることができるという。これにより今までよりずっと早期にガンを発見できるようになる。

またこのテクノロジーの応用範囲はガンの発見にとどまらず、医療のあらゆる分野に及ぶ。今日(米国時間10/28)のGoogle[x]のコメントによれば、 「動脈壁に蓄積したプラークが発する酵素を検知して心筋梗塞や脳卒中の早期発見に役立てることができるだろう。またサードパーティーがガンの手術や化学療法を受けた患者に対して感度の高い再発監視システムを開発するかもしれない。これは非常に需要の高い分野だ。付言すれば、われわれはこのテクノロジーの実用化を自ら行うことはせず、医療分野の専門企業にライセンスする計画だ。特定の疾病の検査手法の開発や安全性を確認する臨床検査などはすべてそのサードパーティーが実施することになる」という。

Conradによれば、われわれは病院に出向いて尿や血液を医師に提出する必要はなくなるという。Googleのナノ・ピルを服用し、専用デバイスを身に着けて結果を日々モニタすればよい。そのデータはクラウドにアップロードされ、医師が判定を行う。すると医師は「これまでは順調でしたが、2月ほど前からこれこれの病気の兆候が現れています」などと診断することになる。

医療分野ではプライバシーとセキュリティーがことの他重要になる。Googleはこのところアメリカ政府の要求に応じて情報を引き渡したとして非難されている。Conradは上記のように、Googleは実施面にはタッチせず、サードパーティーの医療専門企業が実用化を行うことを強調した。「(X線装置を製造している)GEが患者のX線写真を扱わないのと同じだ」とConradは例を挙げた。

ナノテクノロジーに関してはアメリカ政府もきわめて熱心で、2013年には200億ドルを研究開発に投資している。

Conradはこのナノ検査テクノロジーが10年以内にすべての医師が利用できるようになると期待している。またConradのチームは単に異常細胞を検知するだけでなく、そうした細胞を破壊する薬剤を運搬できるナノ粒子の開発も目指している。「ただし、正しい細胞を破壊するのでなければ危険なので、一層慎重な研究が必要になる」とConradは付け加えた。

現在、Google[x]では医学、物理学、化学、電気工学などの専門家100人がナノ粒子プロジェクトに携わっている。Conradは「不必要な死をできるかぎり退けるのがわれわれの目標だ」と語った。

画像:Flickr USER bfishadow

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


日立がWesternに売ったHGSTがハードディスクにナノテクを応用して容量を倍増

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モバイルプロセッサに詳しい人は、Qualcommなどが作る現世代のチップを比較して論じるとき、32nm vs. 28nm(nmはナノメーター)なんて話をよく聞いているだろう。それはプロセッサのサイズを言い表す言葉で*、この数字が小さいほど電力消費が少なく、素子を小型化でき一定スペースに多量の回路を詰め込めるので機能も性能も上がる。〔*: この数字はVLSIの配線の太さ(幅)ないし配線間の間隔の幅のこと。〕

またディスクドライブでは、一つのビットを記録する磁性体単位の大きさ(パターンサイズ)を20nmよりも小さくするのは難しい、と言われている。ディスクドライブも、プロセッサと並んで、ムーアの法則が当てはまる分野だったが、どちらもそろそろ、限界に突き当たろうとしている。ところが今日、Western Digitalが日立製作所から買収したハードディスク企業HGST発表した画期的な技術によれば、10nmのパターンを作ることが可能だという。その工程は“ナノリソグラフィー(nanolithography)”(ナノサイズの平版印刷)と呼ばれ、これによりハードディスクドライブの最大容量を今の倍にすることができる*。〔*: 2×2=4倍ではない。原文のコメント参照。〕

HGSTのこのナノプロセスは、テキサス州オースチンのシリコン加工スタートアップMolecular Imprints, Inc.との共同開発で、これまで広く使われていたフォトリソグラフィー(photolithography)(写真製版平版印刷)技術を使わない。感光剤を用いる写真的な製版では、プロセスのサイズを光の波長より小さくすることはできない。HGSTの研究担当VP Currie Munceによると、HGSTの技術では将来的に10nm以下にすることも可能、という。

HGSTは今の2010年代内に一般市販製品の完成を目指している。そのための低価格化と安定性能を達成できれば、‘ストレージ欲’に限度のない今日の顧客たちが、こぞって採用するだろう。とくにWebは、クラウドサービスの増加と、Facebook、Apple、Amazonなどのビッグ企業のデータセンターの大型化がこれからも続くから、ストレージの費用効率とスペース効率はきわめて重要だ。HGSTのナノリソグラフィープロセスでは、磁性体の同じ面積のストレージ能力が従来の倍になるのだから、ざっと言って、効率も倍になることになる。

このプロセスは、顕微鏡レベルのちょっとした粗(あら)を冗長性によって回避できるディスクストレージに向いているようだ。Munceによれば、HGSTのナノリソグラフィーはモバイル用プロセッサなど、ナノレベルのVLSIの製造には向いていない。

“プロセッサでは、回路パターンに粗(あら)があることは絶対に許されない。ハードディスクドライブでは、つねにエラー修正コードが動いているし、パターンの欠陥を特殊な信号処理で補うこともできる”、と彼は説明する。

しかしそれでも、ハードディスクとメモリの方面では、今から5〜6年先にHGSTの画期的な技術が、クラウドコンピューティングやモバイルデバイスを中心として、テク業界全般に大きな影響を与えていくだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))