心臓発作防止プラットホームのAliveCorが製品をAI化、Omronなどから$30Mを調達

心電図のデータを利用して心臓発作を防止するアプリKardiaを作っているAliveCorが、Omron HealthcareとMayo Clinicから3000万ドルの資金を調達し、また、Kardiaの医師用バージョンKardiaProを発表した。

すでにFDAの承認を得ているAliveCorのモバイルアプリKardiaは、99ドルの心電図読み取り機と併用するが、昨年Mayo Clinicとのパートナーシップにより、4500名の患者に対して心臓発作に関する大規模な調査を行い、その結果として新しいプラットホームの開発を迫られた。今度のKardiaProは、発作など心臓の諸症状のリスクを抱える患者の心電図をモニタしたい、と願う医師向けの高度な製品だ。

KardiaProは、リスクを抱える患者の体重、活動、血圧など複数の要素を調べて、それらのデータをAliceCorのAIに分析させ、医師が気づかないかもしれない兆候を見つける。そしてAliveCorのCEO Vic Gundotraが患者の“パーソナル・ハート・プロフィール”(personal heart profile)と呼ぶものを作り、そのデータを元に、医師が次の診療内容/方針を決めるための注意情報(アラート)を送る。

AliveCorはこの前、Khosla Ventures, Qualcomm, そしてBurrill and Companyから1350万ドルを調達した。今回の資金と合わせると、調達総額は4540万ドルになる。しかしより重要なのは、今回、Mayo Clinicという、数百万の患者を対象としている大手のヘルスケア企業とパートナーしたことだ。またOmronも、血圧計などのヘルスケア製品を世界中に提供している企業なので、貴重な情報が得られるだろう。

[循環器疾患による死亡率(人口10万人あたり)]

心臓疾患は世界の死因のトップであり、血圧計や心電図などを定期的にチェックすることは、心臓病の早期発見と有効な症状管理に寄与する。その部分でKardiaProのAI成分は、不規則な心電図などの異状を、ほとんどリアルタイムで医師に伝えることができるだろう。

KardiaProはAliveCorの新製品だが、同社はApple Watch用の心電図読み取りバンドAliveCorのKardiaバンドも発売した。すでにヨーロッパでは使われているが、アメリカではFDAの承認待ちだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

オムロンのインキュベーションプログラムでは”ものづくりの匠”が技術支援をしてくれる

もはやIT系のメディアで「IoT」という単語を聞かない日はないんじゃないだろうか。実際IoTを含むハードウェア関連スタートアップのニュースに触れることは多くなっている。

そんな中、2014年に立ち上がった京都の老舗メーカー、オムロンのCVCであるオムロンベンチャーズがハードウェアに特化したインキュベーションプログラムを開催する。名称は「コトチャレンジ」。締め切りは週明けの2月2日。ちなみにプログラム名の「コトチャレンジ」だけれども、コトには事業の「事」、古都京都の「古都」、琴線に触れるものをという「琴」の3つの意味をかけているそうだ。

プログラムの参加対象となるのは、ハードウェアがキーになるようなサービスを作っているスタートアップ。プログラムが始まる3月からの3カ月でプロトタイプの完成を目指す。プログラムは京都での開催を前提としており、京都市内の「京都リサーチパーク」にオフィススペースを用意するほか、オムロンの事業企画担当者によるメンタリング、オムロンのものづくりの匠たちによる技術サポートなどが行われる。プログラムの最後にはデモデイを開催し、3カ月の成果を披露する。優秀なプロダクトに対してはオムロンベンチャーズからの投資も検討する。

ただ、「ディールソーシングのためのイベント」というよりかは、まずはテクノロジーを持つハードウェアスタートアップの掘り起こしという側面が強いのだそう。オムロンベンチャーズ代表取締役社長の小澤尚志氏は、「フルサポートするかというとまた違うかもしれないが、我々のようなメーカーの能力を持ったところがハードウェアスタートアップののエコシステム作りをしていきたい」と語る。

小澤氏はメーカーという立場から、「ホビーとしてはいいが、BtoB、BtoG(government:政府、官)に対してシビアに応えるには、さらなるテクノロジーの精度が必要。リアルなビジネスと組むのはこれからだ」と世のハードウェアスタートアップについて語る。プログラムでは、BtoB、BtoGのニーズにも応えられる製品の企画や設計での支援をするのだそうだ。

小澤氏いわく、オムロンにはスタートアップが簡単に使えない試験器もあるし、「歴史がある企業だからこそできるアドバイス」もあるそうだ。例えば今では一般的な血圧計も、ただ「血圧計を作りました!医療機器です」なんて言っても認められるワケではない。膨大な臨床試験や学会、WHOなどへの働きなど、さまざまなステップを経て初めて血圧計と認められたのだ。こういった経験に基づいたノウハウは、正直スタートアップだけではどうにもならないものだろう。

メーカーの技術者を巻き込んだハッカソンなどは時々見かけるようになったが、インキュベーションプログラムはそうそう多いものではない。スタートアップが集まる東京からすれば開催場所の遠さなどの課題はあるが、老舗メーカーだからこそできる支援には期待したい。


“活動量計もどき”はいらない–オムロンが30億円規模のベンチャー投資

京都府京都市に本社を置く大手電機メーカーのオムロンが、7月1日付で投資子会社のオムロンベンチャーズを設立。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として、2016年までの3年間で30億円規模のベンチャー投資を実施することを明らかにしている。

オムロンと言えば、コンシューマ向けの健康医療機器から制御機器や電子部品、車載電装部品などさまざまな事業を展開している。時価総額ベースで1兆円近い大企業がこのタイミングでベンチャーと組むことを決めた理由はどこにあるのか。

実は日本最古の民間VC設立にも関わったオムロン

実はオムロンは、日本最古の民間VCの設立にも関わっているそうだ。オムロン創業者で当時の代表だった故・立石一真氏が、京都経済同友会のメンバーとともに1972年に立ち上げた「京都エンタープライズディベロップメント(KED)」がそれだ。同社は日本電産などへの投資を行い、1979年に解散している。ちなみにKEDの設立から約2週間後、東京ではトヨタ自動車などが出資する日本エンタープライズ・デベロップメント(NED)が設立されているそうだ。

オムロンベンチャーズ代表取締役社長の小澤尚志氏

最近では通信キャリアだってテレビ局だってCVCを立ち上げているが、オムロンもそんな流れを受けているのだろうか。オムロンベンチャーズ代表取締役社長で博士の小澤尚志氏に率直に聞いたところ、「(オムロンベンチャーズを)立ち上げる中で知ったのだが、案外世の中ではやっていたとは知らなかった」と語る。

オムロンでは、2011年から10年間の長期経営計画「VG2020」を掲げており、その中でも2014年以降では「地球に対する『新たな価値創出』へつながる新規事業づくりに取り組む」としている。この経営計画の中で、ベンチャー投資の可能性を模索していたのだそうだ。

「オムロンは『ソーシャルニーズの創造』を掲げてきた会社。世の中で解決しないといけない課題を技術というよりはコアバリューとして提供してきた。例えばオムロンが世界で初めて提供した自動血圧計。これによって、これまで病院に行って看護師を必要としていた血圧測定が、家庭にいながら実現できるようになった。これは健康状態を手軽に見られる、より長く健康に生きたいという課題を解決しようとしたもの」(小澤氏)

オムロンは「課題解決のための会社」と語る小澤氏。もちろん自社に技術があればそれは活用するが、技術がなければ世の中の別の場所から獲得してくることもいとわないという考えだという。「本質的には、持っている要素技術でどんな課題を解決できるかを考えるのではなく、まず先に課題とその解決方法を考えている」(小澤氏)

しかしそうは言っても大企業の中でイノベーションを起こすのは難しいのは小澤氏も認めるところで、「いいモノを安く作るのは得意だが、新しいモノを作るのはなかなか大変」と語る。そこでオムロンベンチャーズを立ち上げ、速いスピードで投資し、協業できる体制を作る狙いがあるという。

オムロンベンチャーズは、ファンドを組成せず、オムロングループの資本をもとに投資を行う。対象とするのは「安全・安心センシング」「ライフサイエンス」「ヘルスケア」「ウェアラブルデバイス」「IoT」「環境・エネルギー」「農業関連」といった分野。オムロンベンチャーズがオムロングループ各社の新規事業のニーズをヒアリングし、協業の可能性のあるスタートアップを中心に、数千万円から数億円程度の出資を行う予定だ。すでにセンシングや農業関連の分野では具体的な話が進んでいるとのことで、第1号案件については、早ければ9月にも決定する予定だ。

モノづくりのノウハウをスタートアップに開放

小澤氏によると、今後は加工機や成形機など、自社グループの設備に関しても投資先に開放することを検討しているそうだ。「例えばfoxconnのようなEMS(Electronics Manufacturing Service:電子機器の受託生産サービス)がハードウェアベンチャーを助けているところがある。我々もハードウェアを安く製造できるノウハウや検品のノウハウなど、一通りの『モノづくり力』を持っている。そしてグローバルなネットワークもある。逆にベンチャーマインドやそのスピード感、テクノロジーは弱い。ならば我々がやるべきなのは、自分たちの能力やアセットをシェアすることだ」(小澤氏)

例えばスマートフォンアプリであれば、ここ数年のクラウドの普及によってスケールのための課題はある程度解決されたかも知れない。だがモノづくりとなるとQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が求められる。その課題を解決するパートナーとしては最適だと小澤氏は語る。

ハードウェアのQCDまでケアできる連携体制と聞けば、ハードウェアスタートアップにとっては期待が高まるかも知れない。実際、ハードウェアスタートアップ関係者から、部品の調達や組み立てに苦労したという話を聞くことは多い。

しかしこの取り組み、M&A先の発掘のための施策にも見えなくもない。小澤氏も「本音を言うとそれがないわけではない」と可能性については否定しないが、あくまでM&Aありきという話ではないと続ける。「M&Aは場合によりけりだと思っている。パートナーという距離のままのほうがいいケースとよくないケースがあると思っている。グループに入った瞬間、大企業のしがらみだってあるはずだ」(小澤氏)

「活動量計もどき」のウェラブルデバイスはいらない

さて、オムロンベンチャーズの投資領域には「ウェラブル」とあるが、オムロンと言えばこれまでにも歩数計や活動量計など、(今時のウェアラブルデバイスとは方向が異なるが)ヘルスケア関連のウェアラブルデバイスを提供してきたメーカーだ。どういうスタートアップと連携する可能性があるのか、改めて聞いてみたところ、小澤氏は以下のように語った。

「血圧、活動量、睡眠時間については、(デバイスを)持っているのでもういいんじゃないかなと思っている。だがこれらのデータを使ってアプリを開発してもらう、さらには身体的な情報だけではなくて、意思やメンタルに関する情報までを取得しないと総合的な健康というのは見ることができないと思っている。活動量計もどきのウェラブルには正直興味がなくて、もっと先を一緒に考えたい」