Jason Green(ジェイソン・グリーン)氏はベンチャーキャピタリストとして揺るぎない評価を得ている。同氏が17年前に共同創業した、企業を対象とするファンドであるEmergence Capital(エマージェンスキャピタル)はSaleforce、Box、Zoomなど多くの企業に投資している。いまやあらゆるファンドがサービスとしてのソフトウェア(Software-as-a-Service)のスタートアップに投資している一方で、同氏のファンドは法人向けの製品やサービスを販売する多くのトップ創業者が頼りにする存在だ。
グリーン氏の投資分野に影響を与えるトレンドについて詳しく知るため、先週の終わりに、SPAC(特別買収目的会社)からバリュエーションまで、また現在競合している多くのライバルとの差別化について同氏と対談を行った。以下は、その内容を短く編集した抜粋版だ。
TechCrunch(以下、TC):SPACは十分な収益を生み出していないがために従来のルートで公開できない企業向けだという評価についてどう思いますか。
ジェイソン・グリーン氏(以下、JG):ええ、そうですね、これからが本当におもしろいと思います。SPACにとって2020年は特筆すべき年になりました。正確な数は覚えていませんが、今年SPACが調達した資金は500億ドル(約5兆2000億円)に上ります。すべてのSPACが今後12~18カ月以内にその資金を目的に沿って投入する必要があります。投入できなければ返還されます。そしてSPACが買収したいと考える対象には信じられないほどに蓄積された需要があります。チャートのトップに顔を出す企業、つまり高成長で収益性の高い企業は、おそらく従来のIPOを選択するだろうと私は想像します。
SPACの(合併)候補企業は、急速に成長していて将来の公開企業としての魅力を備えてはいるが、チャートのトップに躍り出るほどではない企業になるでしょう。スポンサーが狙うのは、おそらく上位四分位(25%)の公開企業よりも少し成長は遅いが利益を計上している企業か、成長は速いが多額のキャッシュをどんどん使っており従来のIPO投資家を軒並み怖がらせてしまうような企業だろうと思います 。
TC:CEOらと、その道を選ぶべきか話し合っていますか。
JG:我々はそうした会話をちょうど始めたばかりです。ポートフォリオには、おそらく来年または2年以内に公開企業になる企業がいくつかあるため、検討すべき選択肢になることは間違いありません。ポートフォリオには近々何かが起こりそうな企業はありません。ほとんどの起業家は、従来の方法による公開を多少なりとも夢として持っていますが、SPACは若干魅力が劣ると思われます。公開前にもう1つプライベートラウンドを検討する可能性がある企業にとっては、「プライベートプラス」ラウンドといったところです。いわば、どっちつかずの位置づけですので、検討中の企業があるとすればまだ公開の準備が整っていない企業でしょう。
TC:SPACによる資金調達の多くは、パブリックウィンドウ(公開市場からの調達の機会)が閉じられてしまうかもしれないという時期における不確実性への対応のようにも見えました。選挙が終わったいま、不確実性は減ったと思いますか。
JG:選挙以降もリスクと不確実性は減少していないと思います。現在、政治的には依然として不確実性が存在します。最近、ワクチンやその候補に関していくつかの本当に良い発表がありましたが、パンデミックが再び著しい規模で出現しました。ですから、物事はさまざまな方向性に進む可能性があるといえます。
一般に公開市場というのは、より質の高い機会に引き寄せられる傾向がある環境です。その結果、企業の数は少なくなりますが、質は高くなります。そこにSPACが役割を果たす余地が生じます。2021年の前半には、SPACの方が公開企業に転じる可能性が高くなることが容易に想像できます。来年も後半に入り、ワクチンが投入され、人々がそれなりに通常の状態に戻ったと感じれば、従来のIPOが復活することになると思います。
TC:約1年前にお会いした(未訳記事)とき、Emergenceは年間1000件の取引を検討し、25件のデューデリジェンスを行い、資金を提供するスタートアップは毎年ほんひと握りだとおっしゃいました。2020年に入り、どう変化しましたか。
JG:過去5年間でほぼ完全に変わったと思います。現在の我々はデータ主導、仮説主導のアウトバウンドファンドであり、起業家が会社を設立しまたはシードファイナンスを獲得した後に、連絡を取ります。我々が行った直近の3つの投資はすべて、実際の資金調達プロセスを始める1年から18カ月前には関係を構築していました。信頼関係を築くために必要なのはそれだと思います。なぜなら、その結果、資金調達を非常に迅速に行うことができたからです。
2020年はおそらく、我々のファンドの歴史の中でかつてなかったほど多くの投資を行うと思います。新型コロナウイルスを考れば驚くべきことです。我々はパイプラインを積み上げ、確信を得るために必要な能力を磨くことができたと思います。そしてこの市場環境で、我々の投資対象を拡大するのにZoomが本当に役立っています。我々が見ている会社はおそらく50~100%増加しました。時間をかけて会社の数を減らしていき、チームとして深掘りしたい20~25社に絞ります。
TC:あなたの考えを理解したい創業者のためにお聞きします。いま、あなたにとっておもしろいものは何ですか。
JG:我々のファンドは一度に3つの主要なテーマに焦点を当てる傾向があります。1つは「コーチングネットワーク」と呼ばれています。これはAI、機械学習、人間同士の相互作用の重なる領域です。セールスエンゲージメントプラットフォームのSalesLoft、ナレッジマネジメントシステムのGuru、手動の工場組立ラインのビデオ分析を提供するDrishtiなどの企業は、このカテゴリーに分類されます。
2番目のテーマは、個々の業界にもっと深く入り込むものです。Veeva(Bloomberg記事)は、ヘルスケアとライフサイエンスの分野の初期の最良の例でした。現在、輸送の分野でp44と呼ばれる企業があり、非常に順調です。ヘルスケア分野のDoximityは医師向けのLinkedInのように深く浸透しており、いくつかのリモートヘルス機能を備えています。そして金融サービス分野には融資会社のBlendがいる。これらの企業はクラウドソフトウェアを採用しており、業界の最も重要な問題に深く取り組んでいます。
3番目のテーマはリモートワークの周辺領域です。Salesforceが何年かかけてプラットフォームになったように、Zoomもほとんどプラットフォームとなりました。Zoomは明らかに我々の投資の中でも最高のものでした。我々はClassEDUという会社に資金を提供しました。これはZoom上で提供される教育市場向けサービスです。Snowflakeもプラットフォームになりつつあります。新しい機会は単に次のコラボレーションツールを考え出すことにあるわけではありません。特定の用途または業種に深く入り込むことにあります。
TC:ここ数年であなたが見逃した会社と得た教訓について教えてください。
JG:我々には恥の殿堂があります(笑)。我々が同じ会社に投資していたとしても、同じことが起こったと考えるのは危険だと思います。交渉のテーブルに同席したその投資家だったからこそ、会社の結果に違いをもたらしたのだと私は信じています。私は逃した機会に関して自分をあまり責めないようにしています。会社が成功するにあたり、(我々が関与するよりも)良い組み合わせや投資家に出会ったかもしれないからです。
しかし、CoupaのRob Bernshteyn(ロブ・バーンシュタイン)氏は、彼がSuccessFactors(同社の製品マーケティング担当副社長だった)にいたときから知っていて、私はいつも彼を尊敬し、気に入っていました。我々は常に同社のバリュエーションの推移を追いかけていました。確か8000万ドル(約83億円)か1億ドル(約104億円)のバリュエーションだといわれて我々は断りました。現在は200億ドル(約2兆800億円)で評価されています。夜、眠れなくなるには十分の経験です。
その時点では、(投資対象の)事業に関してリスクや懸念があったり、より積極的になることをいとわない人々が他にいたりして、機会を逃すことがあります。我々のビジネスの素晴らしいところは、ゼロサムゲームではないという点です。
関連記事:学校向けのZoomアドオンに数億円を賭けるZoom創生期の投資家たち
画像クレジット:Emergence Capital
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)