ボイスメディアVoicyが月額課金機能「プレミアムリスナー」を公開、インターネットから「声のプロ」の輩出目指す

ボイスメディアや企業向けボイスサービスを開発・運営するVoicyは9月8日、月額課金機能「プレミアムリスナー」を公開したことを明らかにした。すでに9月1日よりサービスは始まっており、1カ月あたり100円~3万円で自分のチャンネルにプレミアムリスナー価格を設定できるというもの。

プレミアムリスナー限定の放送と無料のレギュラー放送は自由に切り替え可能で、自分に合ったスタイルでプレミアムリスナーとの関係性を構築できるのが特徴とのこと。具体的な活用例としては、ファンクラブ・オンラインサロン、講演会、声のコミュニティなどを想定している。

プレミアムリスナーは、現在一部のパーソナリティからスタートしており、対応チャンネルは今後順次拡大される予定だ。

同社代表取締役CEOの緒方憲太郎氏は自身のnote記事でプレミアムリスナーついて「インターネットから『声のプロ』を出したい」と語る。同氏によると「メインコンテンツは基本無料で、自分のメインコンテンツを有料にした時点で負ける時代が来ている」というのが現状で、「プレミアムリスナー機能は、無料のメイン放送でリスナーの心をつかんで舞台裏で対価をもらうという、コンテンツ課金ではなく関係性課金として考えた」とのこと。同氏は「Voicyを音声発信者にとって最高のプラットフォームにすることで、声で活躍する人を増やし、声を楽しむ文化を浸透させたい」という意気込みも語っている。

TechCrunch Tokyo「ボイスメディア」パネルにVoicyの緒方氏が登壇決定

Voicy代表取締役CEO、緒方憲太郎氏

今年は11月14日と15日に渋谷ヒカリエで開催される、日本最大級のスタートアップとテクノロジーの祭典、TechCrunch Tokyo 2019。本日は、「ボイスメディア」パネルの開催、そして同パネルにVoicyの代表取締役CEO、緒方憲太郎氏が参加することが決定したので、皆さんにお知らせしたい。

緒方氏は2015年、医療ゲノム検査事業のテーラーメッドを創業し、3年後に事業売却。2016年には、ボイスメディア「Voicy」を運営するVoicyを創業した。Voicyはビジネスの専門家やミュージシャン、インフルエンサーなどの「声のブログ」や、ニュースならびに天気予報のような情報、加えて事業会社のオリジナルチャンネルを含む、250チャンネル以上を無料で放送してきた。

以前、ドライブシェアアプリ「CREW」を運営するAzitがVoicyをつかった「社内ラジオ」のような取り組みを行なっていることがダイヤモンドに報道されるなど話題になったが、Voicyは10月21日、同メディアの可能性を更に広げるため、企業向け音声ソリューションの「VoicyBiz」をリリースした。同ソリューションでは聞きてを限定できるため、社外や社内への情報発信のほか、採用広報、コミュニティ形成などに活用できる。

なお、同パネルには緒方氏の他に、米VC、Betaworks Venturesのパートナー、Matthew Hartman氏の参加も決定している。Zoomでミーティングを行なった際、Hartman氏は「ほぼ常に」AirPodsを着用し、ポッドキャストなどを聞き漁っていると話した。Betaworks VenturesはSpotifyに買収されたAnchorやGimletなどに投資しており、2017には音声テクノロジーを追求するスタートアップを集めた「Voicecamp」を実施。また、1月からはオーディオ領域を追求する「Audiocamp」を開催する予定だ。

以前、CNET Japanの山川晶之記者は「完全ワイヤレスイヤホンは音楽再生デバイスの域を超え、『各社のサービスを音声で利用するためのウェアラブルインターフェイス』いう色合いが濃くなってきている」と綴っていたが、全くその通りだと思う。緒方氏、Hartman氏には、そんな新時代、ボイスメディアにはどのようなポテンシャルがあり、どのような進化が見込まれるのか、詳しく話を聞きたい。また、個人的にはマネタイズを含む配信者(社)にとってのメリットや、誤情報の拡散の恐れについて、両者がどのような考えを持っているのか、記者として気になっているところだ。

現在発売中のTechCrunch Tokyo 2019のチケットは後述のとおり。

  • 学生向けの「学割チケット」(1万8000円)
  • 5人以上の団体向けの「団体チケット」(2万円×5枚以上)
  • 「前売りチケット」(3万2000円)
  • 専用の観覧エリアや専用の打ち合わせスペースを利用できる「VIPチケット」(10万円)
  • 設立3年未満のスタートアップ企業の関係者向けの「スタートアップチケット」(1万8000円)
  • 設立3年未満のスタートアップ企業向けのブース出展の権利と入場チケット2枚ぶんがセットになった「スタートアップデモブース券」(3万5000円)

チケット購入はこちらから

音声メディアVoicyが「ヤング日経」開始、パーソナリティには現役大学生も

Voicyと日本経済新聞社は、音声メディアVoicyに専用チャンネル「ヤング日経」を8月12日に開設することを発表した。若年層向けに「これだけは知っておきたい」ニュースを月〜金曜の21時から配信する。

パーソナリティは、月曜から金曜まで日替わりで、オーディションで選抜された現役大学生から20代後半までが務める。

日本経済新聞社とVoicyは今年1月に業務提携。今回の「ヤング日経」は、7月から放送が始まった「ながら日経」に続く第2弾のサービス。両社は今後も順次、年齢層や時間帯に応じたコンテンツ配信を進めていくという。

スタートアップ創業者がチーム育成・評価・採用を赤裸々に語る:TC School #15レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた(キーノート講演のレポートはこちら)。

本稿では、パネルディスカッションの模様をお伝えする。登壇者はVoicy代表の緒方憲太郎氏、空CEOの松村大貴氏、STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名。モデレーターはTechCrunch Japan 編集統括の吉田博英が務めた。

パネルディスカッションでは、チーム育成に関わる悩みや問題点について、起業家やVC、それぞれの立場から議論が行われた。まずは各氏から自己紹介があった(STRIVEおよび堤氏の紹介はキーノート講演レポートを参照してほしい)。

寺田氏はエン・ジャパン執行役員および「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャーLENSAの代表取締役を務める。企業が無料で採用ページ作成から求人情報の掲載・管理までできる採用支援ツール「engage(エンゲージ)」に立ち上げから関わり、現在も運営を中心になって行っている。

「求人媒体には求人同士を比較する役割はあるが、それとは別に企業の詳しい情報、採用情報を見るためには、独自の発信の場があるべき」との思いから、2016年にengageを立ち上げた寺田氏。「クックパッドにレシピを投稿できる人なら、誰でも採用ページを作れるようなUIにしている」ということで、手軽に始められることから利用を伸ばし、現在の利用企業数は20万社に上るという。

engageでは、採用情報、求人情報を掲載できるほか、IndeedやGoogle しごと検索など、求人情報のメタ検索サービスに対応したマークアップを実装し、これらのサービスへ求人情報の自動掲載が可能だ。

また付随サービスとして、求職者と録画面接ができるビデオインタビュー機能や、オンライン適性テスト「TalentAnalytics(タレントアナリティクス)」、入社した人の離職リスクを可視化して、対策を提案する「HR OnBoard(エイチアールオンボード)」といったツールを提供。起業したばかりであまり費用がかけられないスタートアップも、採用に加えて入社後活躍まで使えるサービスを無料で利用開始できる。

緒方氏が創業したVoicyは、音声×テクノロジーをテーマとするスタートアップだ。直近のラウンドでは合計8.2億円の資金調達を実施。現在、4つのミッションを持って事業を進めている。

音に関わるインフラ・デザイン・メディア・ビッグデータの4つを通じて、「音声で生活のどこにでもリーチすることができるようになり、今まで端末がなければ情報が得られなかった世界から、普通に生活しているだけで情報を得られる世界を実現しようとしている」と緒方氏は説明する。

もっとも知られている事業はボイスメディアのVoicyだ。「できるだけ簡単に発信ができて、聞けるように、と心がけている。人の生声が聞けることで、その人らしさが一番届けられるメディアになっているのではないかと自負している」と緒方氏は語る。

Voicyには企業チャンネルも多く開設されている。会社のイメージアップや採用活動にも利用されているそうで「組織づくりにも応用できる」と緒方氏は述べている。

外部に発信するチャンネルやコミュニティとは別に、Voicyでは社員だけに届く「声の社内報」もサービスとして提供する。このサービスはVoicy内でも運用されており、30名ほどいる社員の評判もよいとのこと。Voicyでは社長の日報や週次報告などを音声で届けているそうだ。

声の社内報は2000名規模の企業にも実証実験として導入され、社長の音声が何分で離脱されるか、誰が何時に聞いたか、といったデータも収集されつつあるという。緒方氏は声の社内報が「カルチャー共有とエンゲージメント向上につながる」と話している。

はホテル価格のダイナミックプライジングを実現するサービス「MagicPrice」を開発・運営する。CEOを務める松村氏は「空を立ち上げるまではヤフーに勤めており、起業は初めて。部下も持ったことがなかった」と語る。「だから僕は、どうしたら、少なくとも僕が楽しく働けるかを考えた。僕と近い考え方の人がここにいたら楽しいだろう、とか、何人ここにいたら楽しいだろう、といったところを、ゼロベースで考えながら組織を作っている」(松村氏)

そんな松村氏の空が掲げるビジョンは「Happy Growth」だ。「みんな、日々幸せに生きたいはずだが、それを続けていくのは大変。そのために空に集まる個人の人生でも、空という会社自体でも、一緒に実現しようという考え方が『Happy Growth』だ。超楽しく働いて、超幸せと思いつつ、経済的にもすごく伸びているというのを実現して、還元し、社会にも『そうやって生きていっていいんだ』ということを示していく」(松村氏)

「プロダクトを通じてクライアントのHappy Growthも支持する。プロダクトも人事制度も採用の仕方もカルチャーも、ゼロベースで、どうすればベストかを考えながらつくっている」と松村氏は述べている。

空がミッションとするのは「世界中の価格の最適化」。MagicPriceはそのうち、ホテルの料金設定を最適化するプロダクトとしてSaaSで提供されている。

SaaSを運営するには、カスタマーサクセスがカギとなる。松村氏は「カスタマーサクセスには、文化が必要で、大事」と話す。空では、社員のエンゲージメントを確認する組織サーベイを月に1度実施しているそうで、結果は良好だということだ。「特に人間関係や、戦略・理念への共感の値が比較的高いので、より伸ばしていきたい」(松村氏)

松村氏によれば、入社した人材へのオンボーディングプログラムは実施しているが、評価制度の運用や入社後の育成プログラムはまだ実施していないという。松村氏は「アーリーステージだけかもしれないが、組織文化や組織の状態は採用で9割が決まると考えている。また成果・評価を短期的報酬とは連動させないとかたくなに決めている。もうひとつ、完璧な評価はムリという前提で考えるようにしている」と空の評価に対する考え方を語る。

スタートアップでは評価制度はリスクになることも

登壇者紹介の後、ディスカッションが始まった。最初の話題は「メンバーを評価する基準」について。自己紹介で「完璧な評価はムリ」と語った空の松村氏は「評価とはなぜ必要なのかというところから考えたい」と問いかけた。

「起業家は誰からも評価されなくてもモチベーション高く働ける。同様に評価がなくても働ける人はいる。誰も楽しくない評価に時間を割いて、それは何の役に立つのか。空では形だけの評価はせず、成長支援や本人の気づきになる評価だけをするようにしている。コアバリューへの寄与など、定性的で自己判断が難しい部分については数値化して分かりやすくしてはいるが、基本的にはそれほど評価を行っていない」(松村氏)

また松村氏は「チームがワークしていないことを、評価制度やマネジャーのせいにしない方がいい」とも述べている。

「それは採用ミスマッチの問題。それを評価制度で補おうとするのはキツいのではないか。だからスタートアップこそ、1人目の採用からしっかりやらなければ、後で気づいてやり直そうとしても辞めてもらうしかなくなる。採用でマッチングすることを僕の会社では心がけている」(松村氏)

Voicyの緒方氏も、評価を実施すること自体の価値について、このように述べている。

「大企業に所属していたこともあるので、組織で人を動かすためには評価が必要かもしれないとは思う。ただスタートアップの場合は、そもそもやる気満々で来ている人たちが働いている。だから評価によってさらにお尻をたたくことで、燃え尽きてしまう恐れがある。またスタートアップには『がんばっていることを認めてもらいたい』という自己承認欲求の強いメンバーが集まりがちで、『評価が平等じゃない』といってもめる可能性の方が高い。だから評価を取り入れることで起こるリスクの方が高いというのが僕のイメージ」(緒方氏)

緒方氏は「基本的には評価と報酬は連動させない」と話している。「スタートアップでは外部との相場が全然違う。そこで評価と報酬を連動させるとおかしなことになってしまう」(緒方氏)

これらの前提を踏まえた上で、Voicyでは「評価は本人にしてもらっている」と緒方氏はいう。

「自分で自分を評価することは必要。僕が今までいた会社では、評価する側とされる側に共通の尺度がないことが多かった。評価する側のリテラシーが低いことも多く、低いレベルで仕事の評価が行われている。Voicyでは、今いるメンバーに、3年後には会社を支えられる強いメンバーになってほしいと考えている。だから、自分で自分のことを評価できる力を付けてほしい」(緒方氏)

自己評価に対しては「なぜそう評価したのか」を確認し、「僕はこう思う」とフィードバック。「個人の能力アップのための評価」になるようにしていると緒方氏は説明する。

「Voicyはフィードバックをする文化がすごく強い。1日体験に参加した人からびっくりされることもあるほど。行為を判断することはよいことだ。ただ、それにより、その人を査定する必要はないと思っている」(緒方氏)

STRIVE共同代表パートナー 堤達生氏

STRIVEの堤氏は、VC組織での評価について、以下のように打ち明ける。「プロフェッショナルファームなのでスタートアップとは環境が少し違うと思うが、日本人に比べて外国人がすごく評価してもらいたがるので、いつも悩む。フィードバックだけでなく、次の給与など、具体的に明確に評価しなければならない。コミュニケーションのひとつとして、評価を行わなければすぐ辞めてしまうこともある」(堤氏)

評価基準については「VCは個人事業主の集まりと思われがちだし、もちろん個人の力は大きいが、実はチームにどれだけ貢献しているかという点を最も大事にしている」という堤氏。「投資件数が多くても、チームに貢献していなければ『自分のことしか考えていない』として、評価がディスカウントされる」と話している。

エン・ジャパンはすでに日本で1500人、世界で4000人規模の従業員を抱える規模となっていることから「評価を回さなければ(組織が)立ち行かない」と寺田氏。評価で気になることは「みんな評価されるとなった途端に、急に『俺のことをどう思っているのか』という“for me”、自分のことになる点」だという。

エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏

「同じミッションや目的に向かって仕事をしていく中で、個人の評価とはある意味、プロダクトや事業への評価と同じ。そこと連動して初めて評価が決まるというのが本来の姿。『事業やプロダクトに対して自分は何ができるのか、何をやっていくべきか』という視点で目標設定を行い、言語化することで“for me”から“for product”“for business”へ目線が向かうようにすることを繰り返して、評価への納得度が高まるようにメンテナンスはしている」(寺田氏)

寺田氏には、緒方氏から「評価制度を設計するときに、参考にしたい」と質問があった。質問は「本来は絶対評価で、その人の行為に対する評価が望ましいはずだが、『あの人より自分の方ががんばった』といった相対評価の方がやる気が出る、という人が相当多い。相対評価的な要素も加味して取り入れるべきか」というものだ。

寺田氏は「最終的には相対評価も入ることは否めない」としながら、「でも評価の対象はがんばったか、がんばっていないかではない。自己基準ではなく、設定されているものに対しての評価」と説明している。

エン・ジャパンでは、業績に対する評価と、ミッションやビジョンへのコミットやスキルへの評価を分けているという。「業績評価への報酬については、良かったタイミングでボーナスとして支給する。考え方やカルチャー、スキルの部分については能力・グレードとして基本給に反映している」ということだった。

メンバーのグループ分けとコミュニケーション

続いての話題は「メンバーをグループに分けていくときに気をつけていること」、そして「グループ間のコミュニケーション」についてだ。

「Voicyではプロダクトで3つに部署を分けている。法人向け、個人向け、そして会社自体もひとつのプロダクトと考えて『自社向け』の3グループだ」と緒方氏は現在の体制について説明。部署間での人材ローテーションは積極的に行っているそうだ。

「グループ意識が付かないように、安心している暇がないぐらいに、どんどん変えている。ただし能力が偏っている人は1部署にとどまることもあるので、その場合は役割を変えるようにしている」(緒方氏)

緒方氏は「会社というコミュニティを『七輪』に例えて考えている」という。「七輪の上でうまく焼き肉を焼きたいと考えて、火が盛んに付いている炭があったら少し端の方によけておいて、その隣にまだ火が付ききっていない炭を置く。これから赤くなりそうだな、という炭は風通しのよいところに置く。そんな感じで人を配置していくようにしている。『いま一番燃えているな』という人をサポート側にさっと回す、ということは意識してやっている」(緒方氏)

空CEO 松村大貴氏

空の松村氏は「SaaSビジネスをやっていると、マーケティング、セールス、広報、デザイナー、エンジニアと、本当に多様な職種の人が集まる」と話す。

そんな中で「人に気を遣わないグループ分けを心がけている」という松村氏。「誰かへの温情で今のポジションに残す、といったことにならないように、合理性を重視している」と話している。合理性重視で意思決定をする会社だということは、入社の際にも伝えているそうだ。「役割が変わってもいいよね」と採用時に確認した上で、グループ分け、配役をしているという。

松村氏には、コミュニケーションについては悩んでいる点があるらしい。「SaaSは総力戦。どれか1つだけがよくてもうまくいかず、プロダクトからマーケティング、カスタマーサクセス、全部整って初めて伸びていくサービスだ。そうした中で、公式なミーティングをどう持つかで、少し悩んでいる」(松村氏)

一方で「非公式なコミュニケーション」は勝手にやってくれていると松村氏。「そこは職種や意見は違っても、根底でビジョンには共感しているからだと思う。人生観・価値観が合う人を面接で採用することによって、意見は割れることがあっても、基本的には信じられる人の集まりになっている」(松村氏)

堤氏のSTRIVEには、投資とバリューアップの2つのチームがある。「小さい組織だからカルチャーフィットを大事にしている」という堤氏は「VCでは論文採用などが進んでいるが、僕らは時代に逆行している(笑)。面接の回数は多いわ、ケーススタディーは実施するわで、会食も内定前提でなくても、飲んだりしながらその人の生い立ちを聞くといったことをやっている。最初の採用時点でのセレクションはすごく大切にしている」と語る。

コミュニケーションに関する堤氏の最近の悩みは、投資チーム以外にも人が増えていくステップで、「一般的な会社っぽい」人たちといかにプロジェクト単位でうまく融合させるか、それぞれをどう盛り上げていくか、という点だそうだ。

寺田氏からも「グループ分けで悩むことは確かにある。ただ採用の段階で先に悩んでおいた方がいい」と採用時の選択の重要性について発言があった。「カルチャーフィットしない人を入れると、どうしてもうまく回らなくなってしまう。そこを基準にしてチームを考えると、本質的でないところへ意識がいってしまうので、まず採用の段階でカルチャーフィットや目的に対する共感を第一指標にすべき」(寺田氏)

その上でグループを分けるとき、寺田氏は「メンバーシップ型の『人に仕事を割り振っていく』形で組織を作るケースと、ジョブ型の『仕事に人を付けていく』ケースとで、分け方を多少変えている」という。

「メンバーシップ型の場合は、人の性格・価値観のバランスを見て、チームとして協調しながら進むようにグループ分けをしていく。ジョブ型でそれぞれのミッションが決まっている場合は、パフォーマンスの塊で分けている」(寺田氏)

採用・育成・評価、それぞれの考え方

最後のお題は「会社の規模によって評価基準は変わるかどうか」。松村氏は、今後規模が大きくなっても「どこまでそういった制度なしで、今のまま伸ばせるかチャレンジしたい」と語っている。

「当然、採用と育成のコストパフォーマンスは変わっていく。今は採用の方がコスパがよいが、確かにそのうち育成の方がコスパがよいような人数拡大ベースになっていくかもしれない。ただ、評価制度が必要なほどコミュニケーションがうまく回らなくなってきた、とか、評価制度が浸透していないとみんなの方向性が分からなくなる、というのは全て、採用時点の妥協からスタートすると思っている。だから、どこまでこだわりの採用を、手を緩めずにやれるか粘ってみたい」(松村氏)

こうした観点から、空では「新卒はしばらく採らない」という松村氏。育成しなくてもスター、という人材を集めるスタイルを当面続けていく考えだと話す。

人材採用においては、空は「21歳から59歳まで多様。年齢に関係なく、ビジョンに共感してくれる人を採用している」と松村氏。今は「マネジメントだけができる経験者はいない。人材をケアしてくれる人と、仕事のディレクションをする人、重要な意思決定を責任を持ってやってくれる人、これらの役割は必ずしも全部同じ人がやらなくてもよいのではないかと考えているので、『マネジャー職』ではなく、役割分担をしている」と話す。

「ただ、長期間、多くの人数や予算を使って成果を出すときに、ディレクター的な役割は必要かと考えている。それができる人を今増やそうとしている段階だ」(松村氏)

Voicy代表 緒方憲太郎氏

松村氏とは対照的に、緒方氏は「育成する気満々」だそうだ。新卒でも1名採用を行ったという緒方氏は「自分の会社でみんなが伸びたらうれしい」と述べている。

「うちで育てる、という会社が増えないと、日本の経済が伸びない。新卒から、日本経済まで支えて『税金を多めに払ったってかまわない』というぐらいのマインドを持つ人たちをつくるということは、スタートアップが一番やらなければならないんじゃないかと思う」(緒方氏)

緒方氏は、社員には「全部の時間を3分の1ずつに割って、3つの時間の使い方をしてくれ」と話しているという。「1つは自分のアウトプットとバリューを出すこと、1つは組織に対してバリューを出すこと。最後の1つは会社の投資として、本人の成長につながり、個人では受けられない挑戦の場を提供している。挑戦にトライすることで、自分のアウトプットとバリュー、組織へのバリューを増やせれば、会社としてはもっと挑戦できる。挑戦をどれだけ提供できるかが、Voicyの価値だと思っている」(緒方氏)

「評価についても既に変えようとしている」という緒方氏。30人規模となり、平均年齢もぐっと上がる今のタイミングで、海外でも戦えるように集まる人に合わせて「評価が必要」と判断した。ただし「評価をすることが大事なのではない」と緒方氏は続ける。

「日本型の評価は『後払い』っぽい。今までがんばってきたことに『がんばってきたよね』とするものだが、Voicyではそれをする気は全くない。今まで100の仕事をしていた人に『あなたは120の仕事ができるから、次の給料はこれ』として、次にお願いする仕事に対して報酬なり立場なりを提供する形が正しいと思う。『この給料でこの仕事』と任せておいて、その人がアンダーパフォームだったとすれば、それは経営者の投資ミス。プレイヤーの方に責任を負わせるのは違う。だからこそ、与える仕事の評価、能力値算定ができなければいけないと思っている」(緒方氏)

緒方氏からは、「会場に来ている人の参考になれば」ということで「スタートアップの組織論」についても話が挙がった。緒方氏はスタートアップの組織を「火が付いたろうそくで調理をしている状態」と例える。

「一番適正な火の量で料理ができるわけで、ガンガン火をたいたところで料理はできないかもしれないけれども、火力が小さくてもダメ。そこで火力を大きくしようとすると、ろうそくはどんどん減っていく。みんなに給料をすごく出して『いい会社です』なんてやっていても、火だけが強くなって、すぐにろうそくはなくなってしまうかもしれない。それを上にある料理にピッタリな火力にして、そのときのろうそくの量で上にできた料理を見せながら『もうちょっとろうそくを足したい』と訴えてろうそくを足す、という強弱の調整をしているのが経営者だ」(緒方氏)

緒方氏が起業しようと考えて、社長の話を参考にしたスタートアップのうち、もう半分ぐらいはいなくなっているという。「どんなにきれい事を言っていても組織として成り立たなければ意味がない」と緒方氏はいい、「社長がやるべき方向性は大きく2つある」と話している。

「ひとつは適正なバランスで事業モデル、組織モデルをつくっていくこと。もうひとつは圧倒的に粗利率の高い事業をつくること。見ていると『圧倒的に粗利の高い事業で売って、きれい事を言う人』と『きれい事は言わずにバランスをすごくチューニングしていく人』の話しか、ほとんど参考にならない」(緒方氏)

こうした考え方は組織づくりでも大切だと緒方氏は訴える。「今ファイナンスがどれくらいできるか、人事マーケットがどれくらい逼迫している、または余裕があるかによって、ろうそくの火力を変えていく必要がある。今でいえば、エンジニアがいなければ事業がつくれないという世の中になってきていて、エンジニアが全然足りないというリスクがある。いわばエンジニアが巨神兵みたいなもので、入れないと戦えないが、扱いが難しいといったところ。だが、ビジネスサイドだけでなんとかしようとしても、事業としてのアップセルは望めない」(緒方氏)

そこで人に費用を投下していくのだが「その時に、ろうそくを火に変えてその場の熱とするフローに使うことのほかに、ストックとして組織の体力のほうに持っていくことも考えなければならない」と緒方氏。「長期的に、将来もっと大きくなったときのための仕込みが必要になってくる。フローの部分だけ見てうまくいっているように見えるところでも、ストックの部分がスカスカという事業もすごくある」と語る。

緒方氏は「今、自分たちのステージがどこなのかを考えて、ストックに積み込むモデルでやっているからこそ、人を育てること、育てる力がある人をつくるということを大事にしている」とVoicyでの組織づくりについて言及する。

「スタートアップの中で組織を考える場合、ビジネスモデルにメチャクチャくっついている。また、労力をつぎ込んでも、スカることもある。そんな中で僕が気をつけていることは『事業が分からない奴に組織はつくらせない』ということだ。組織をたくさん見てきただけで『組織については任せろ』といってジャブジャブ採用だけしているような人を入れると、いつの間にか会社がスカスカの骨だけになってしまう状況になるので、そこは気をつけた方がいい」(緒方氏)

ボイスメディア「Voicy」に3つの新機能、ユーザープロフィールの設定が可能に

ボイスメディア「Voicy」を展開するVoicyは、VoicyのiPhone版、Android版、ウェブ版に3つの新機能が追加されたと発表した。

「未聴・既聴機能」では、放送・チャプターごとに未聴・既聴がわかるように。

「放送並び替え機能」では、各チャンネルの放送を「新しい順」「古い順」「人気順」の3つの順番で再生できるように。

 

そして「プロフィール設定機能」では、ユーザープロフィールの設定が可能となった。ユーザープロフィールにはアイコン、名前、自己紹介文やメッセージ、そしてフォローしているチャンネルの一覧が表示される。

 

Voicyいわく、プロフィール設定機能により「Voicyの双方向性を利用して、パーソナリティとリスナー、リスナーとリスナーの新しいコミュニケーションを生み出していく」。

同社は3月に1.2億円の追加調達を発表。今後は、より多くのデバイスメーカーやコンテンツメーカーと連携していく。

声のブログ「Voicy」がダウンロード機能実装、オフラインで楽しめる

Voicyは6月5日、ボイスメディア「Voicy」のiOS版Android版にて自動音声ダウンロード機能をリリースした。

同機能により、利用者がVoicyでフォロー中のチャンネルの最新放送などをスマホ本体に自動的にダウンロードできる。通勤や通学などで通信環境に影響されず、音声コンテンツを楽しめるようになる。特に、地下鉄を利用しているビジネスパーソンや学生にはうれしい新機能だ。

自動ダウンロード機能は、オン/オフの設定が可能。Wi-Fi環境下のみダウンロードを有効にするといった設定もある。

なおVoicyは今後、デバイスメーカーやコンテンツメーカーと連携を予定しており、同社独自の音声配信技術やデータ解析、パーソナライズなどの音声技術を駆使することで、新しい音声体験を提供することを目指す。

ボイスメディア「Voicy」が1.2億円を追加調達、朝日放送系や文化放送などから

TechCrunchでも何度か紹介している“声のブログ”「Voicy」。同サービスを展開するVoicyは3月26日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資により約1.2億円を調達したことを明らかにした。

今回同社に出資したのは朝日放送グループホールディングスの子会社であるABCドリームベンチャーズ、文化放送に加えて千葉功太郎氏や田端信太郎氏を含む複数の個人投資家。Voicyにとっては2019年2月に7億円を調達したラウンドの追加調達という位置付けで、本ラウンドの調達額は8.2億円となった。

声のブログを謳っているように、Voicyは個人がパーソナリティとして音声コンテンツを公開できるメディアプラットフォームだ。

現在開設されているチャンネルは200を超えていて、起業家やインフルエンサー、ミュージシャンなど様々なパーソナリティが参加。日々の出来事をブログ風に伝えるコンテンツからニュースや天気予報まで、放送内容も幅広い。ユーザーは全てのコンテンツを無料で楽しむことが可能だ。

同社の発表によると「ユーザーの一日の平均利用時間が40分」ほどとのこと。僕自身は移動中や作業中にVoicyの放送を聞いてることが多いのだけれど、耳さえ使えれば気軽に楽しめるのが音声コンテンツの良いところだ。ちょっとした空き時間に「とりあえずVoicyを開いてみる」という使い方も徐々に広まっていくのかもしれない。

Voicyでは調達した資金を活用して、技術組織の強化や音声メディアとしてのブランディング強化を進める方針。加えてデータを利用した新たな音声コンテンツや、既存メディアなどとの事業提携を通じた新サービスの開発にも取り組む計画だ。

今回のラウンドでは冒頭で紹介した朝日放送グループホールディングスの子会社と文化放送だけでなく、TBSイノベーション・パートナーズ、電通イノベーションパートナーズ、中京テレビ放送、スポーツニッポン新聞社らがVoicyの投資家となった。1月に業務提携を締結している日経新聞社も含め、これから各メディアとVoicyのコラボレーションも加速していきそうだ。

声のブログ「Voicy」がTBS、電通、中京テレビなどから7億円調達

声のブログ「Voicy」を提供するVoicyは2月18日、グローバル・ブレインをリードインベスターとする資金調達ラウンドで、約7億円を調達したと発表した。今回のラウンドに参加した投資家は以下の通りだ。

  • グローバル・ブレイン
  • D4V
  • TBSイノベーション・パートナーズ
  • 電通イノベーションパートナーズ
  • 中京テレビ放送
  • スポーツニッポン新聞社

2016年9月にリリースしたVoicyは、「声のブログ」として注目を集める音声メディアだ。インフルエンサーなどが「パーソナリティ」としてラジオのようにアプリに声を吹き込み、それをコンテンツとして公開する。内容としては、日々の生活を日記のように話すものから、他社のメディアコンテンツを声で読み上げるものまでさまざま。チャンネル数は現在約200ほどで、ユーザーはすべて無料でコンテンツを楽しめる。

同社はこれまでに2017年と2018年にそれぞれ2000万円と2800万円のエンジェル出資を受けていて、VCを含む本格的な資金調達ラウンドはこれが初めてだ。Voicyは今回調達した資金を利用して、新サービスの開発やそれに必要な人材の確保を進める。

TechCrunch JapanではVoicyに取材を実施し、今回の資金調達の背景やラウンドに参加した事業会社との連携により目指す世界観などを紹介する記事を近日中に公開する予定だ。

声のブログ「Voicy」が日経新聞社と業務提携、新しいメディアとサービスを共同開発

TechCrunch Tokyo 2017卒業生で、音声放送プラットフォーム「Voicy」を運営するVoicyは1月9日、日本経済新聞社(以下、日経新聞)との業務提携を発表した。これにより、今後両社は共同で新サービスの開発に取り組む。

2016年9月にリリースしたVoicyは、「声のブログ」として注目を集める音声メディアだ。インフルエンサーなどが「パーソナリティ」としてラジオのようにアプリに声を吹き込み、それをコンテンツとして公開する。内容としては、日々の生活を日記のように話すものから、僕たちTechCrunch Japanのような活字メディアの記事をサマリーして配信するものまで様々だ。

Voicyはこれまでにも毎日新聞などからコンテンツ提供を受けるなどしていたが、今回の日経新聞との提携では、単なるコンテンツ提供以上のものを準備しているとVoicy代表取締役の緒方憲太郎氏は話す。同氏は共同サービスの具体的な内容については明かさなかったものの、Voicyはプレスリリースの中で、新たなメディアサービスの開発、およびVoicyがもつコミュニティやパーソナリティと連携した新サービスの開発を進めるとしている。

米著名キャピタリストのMarc Andreessenは自身が運営するポッドキャストのなかで、(音声というフォーマットは「とてつもなく重要なもの」になると表現した。ポッドキャストの流行から長い時間を経て、スマートスピーカーの普及により「音声の価値」がもう一度見直される時期にきているように思う。そして、そのトレンドは遅かれ早かれ日本にも上陸することだろう。

そんななかVoicyは、“新聞業界の本丸”とも言える日経新聞との業務提携により「従来テキストや画像を中心とした『目からの情報摂取』に加え、音声による『耳からの情報摂取』を融合したサービスを実現」するとコメントし、音声フォーマット時代の新しいコンテンツ消費のあり方を模索していく構えだ。

“声のブログ”として注目集める「Voicy」が16人の投資家から2800万円を調達

僕の周りにいるのは、比較的新しいアプリやWebサービスを試すのが好きな人が多いからなのかもしれない。周囲でボイスメディア「Voicy(ボイシー)」を使い始めたという話を聞く機会が増えた。実は僕も1年ほど前から始めて、今では移動中を中心にほぼ毎日何かしらのコンテンツを聞いている。

最近はインフルエンサーや著名な起業家も配信を始めて、一気にユーザー層が広がっているように思えるVoicy。同サービスを提供するVoicyは2月19日、16人の個人投資家を引受先とした第三者割当増資により、2800万円を調達したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはヘイ代表取締役社長の佐藤裕介氏やDeNA共同創業者の川田尚吾氏のようにTechCrunchの記事でもたびたび個人投資家として登場するメンバーもいれば、ホリプロ代表取締役の堀 義貴氏のようにあまりスタートアップ界隈では名前を聞かないような起業家もいる。各投資家は事業メンターとしてVociyをサポートする予定だということだ。

なお同社は2017年3月にも12人の個人投資家から数千万円の資金を調達している(公開されている株主については末尾で別途紹介)。

「声と個性を楽しむこれからの放送局」というテーマで2016年の9月にリリースされたVoicy。当初は大手メディアや雑誌などから提供を受けた「活字」コンテンツを、音声に置き換えて届けるという色が強かったように思う。

ただ最近はこれまでになかった「声のブログ」として使われ始め、活字メディアをベースとはしない、自由な形式のコンテンツが増えてきた。配信者も多様化してきていて、ブロガーのはあちゅう氏やイケダハヤト氏、起業家の家入一真氏や佐藤裕介氏もチャンネルを開設する。

この点についてはVoicy代表取締役CEOの緒方憲太郎氏も「声のブログという世界観を年始に立ち上げて、家入さんやはあちゅうさんがはじめたところ『声で聞くとこんな感じなんだ!』と話題になった。発信者も思いを十分に届けることができるし、最後まで聞いてくれるリスナーはポジティブな人も多いので喜んでもらっている」と話す。

また今後スマートスピーカー市場が拡大を見込まれている点も同社にとっては追い風になるだろう。すでに「Google home」上ではニュースコンテンツの配信を開始。「Amazon Ehco」でもアルクの外国語教材の配信支援を行うほか、中京TVとの新しい音声体験の開発を進めているという。

Voicyでは今回調達した資金をもとに組織体制を強化し、「VoiceTechカンパニー」として成長する音声市場でさらなるサービス拡大を目指す。

なお、公開されているVoicyの株主陣は以下の通りだ。

  • 秋山勝氏(ベーシック代表取締役)
  • 伊藤将雄氏 (ユーザーローカル 代表取締役社長)
  • 川田尚吾氏 (DeNA 共同創業者)
  • 佐渡島庸平氏(コルク代表取締役社長)
  • 佐藤裕介氏(ヘイ代表取締役社長)
  • 島田亨氏 (USEN-NEXT HOLDINGS 取締役副社長COO)
  • 高梨巧氏 (favy 代表取締役社長)
  • 為末大氏 (侍 代表取締役)
  • 千葉功太郎氏(個人投資家)
  • 平澤創氏 (フェイス 代表取締役)
  • 堀義貴氏(ホリプロ 代表取締役)
  • 松本大氏(マネックスグループ 代表執行役CEO)
  • 山田尚貴氏 (エニドア 代表取締役)
  • 柳澤大輔氏 (カヤック 代表取締役CEO)

「声」のスタートアップ「Voicy」がエンジェルラウンドで数千万円の資金を調達

文字コンテンツを読み上げるパーソナリティーをフォローすることで、細切れの音声コンテンツを定期的に受け取れるクラウド放送局ともいうべき「Voicy」については2016年9月のローンチ時にお伝えした。そのVoicyがエンジェルラウンドとして12人の個人投資家から資金調達をしたとTechCrunch Japanに明らかにした。

金額は非公開というが、関係者らの話によると数千万円前半とみられる。出資したのは平澤創氏(フェイス代表)、島田亨氏(楽天常務執行役員)、谷家衛氏(お金のデザイン創業者)、高野真氏(Forbes Japan編集長)ほか8人。Voicyとシナジーのある事業会社のCEOや技術顧問が含まれるそうだ。

「声で新しい文化を創る」という狙いで2016年2月に創業したVoicyは現在iOSアプリを提供中で、資金調達に合わせてアプリのアップデートもアナウンスしている。ちょっと使ってみた感じ、1.5倍・2倍速再生、ジャンル分け・タグ機能の追加、ランキング表示、写真投稿機能の追加、コメント返信機能の追加など、プラットフォームとして進化している。

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正直、ランキングを上から見ていっても今のところぼくが聞き続けようと思うコンテンツはない。だけど、容れ物としてのVoicyは面白い感じに進化している。

例えば、1.5倍速で細切れに毎日新聞のニュースを読み上げてくれる機能なんかはせっかちなぼくには実用的でいいなと思った。最近AirPodsを耳から外さないぼくには音コンテンツが足りていないので、もう少し幅広いジャンルのチャンネルが出てくればと思う。

テレビやネットでニュースに触れたとき、家族や友人、同僚と「困ったもんだよね」というような感慨を述べるようなことはみんなやっていると思う。ちょうどそんな感じで、Voicyの多くのニュースチャンネルは「ニュース→コメント→ニュース→コメント」(すべて声での読み上げ)という構成になっていて、「体温のある情報を届けるプラットフォーム」と掲げるVoicyの狙い自体は、十分に分かるような形ができてきている。チャンネルごとにコメント欄があって、ざっと眺めただけでもコミュニティーが発展する可能性を感じるところだ。例えば、妊活・妊娠・出産・子育て情報を扱うメディアのコンテンツを読み上げて、ママの日常や悩みを語るチャンネルにはママコミュニティーが生まれつつあるのは良い例だと思う。

「ベンチャーニュースで言いたい放題」というチャンネルもなかなか興味深い。「ベンチャー支援家K」を名乗る、かすかな関西弁なまりのある人物(誰だろうか?)が結構突っ込んだコメントをしている。

テキスト情報に比べると音声コンテンツは「炎上耐性」があるように思う。テキストは断片的な切り出しや伝播が非常に容易だし、ピンポイントに誰かの発言にコメントを付けるようなことも簡単だ。このためソーシャル上で「炎上」が日常化しているが、ポッドキャストは案外燃えない。10分とか30分のコンテンツに対して、その中で誰か何かエグいことを言っていたとしても、ちゃんと聞いた人以外には分からないので延焼速度が遅いのではないかと思う。もちろんテレビ番組での著名人の発言がニュースサイトで炎上するのは日常光景だが、それは数千万人、数百万人がみているチャンネルの話。ロングテールの小さなコミュニティーが多数ある世界だと「ぶっちゃけ話」がやりやすいのではないだろうか。

プラットフォームビジネスにとって容れ物とコンテンツは鶏と卵の関係があるだろう。Voicyは良い感じの容れ物ができつつあるように見える。ポッドキャストとも違うし、YouTubeとも違う何かが生まれるのかもしれない、と感じるさせるには十分に機能はできてきている。

Voicyの緒方CEOによれば、コンテンツ面でも新しい取り組みを続けている。

サービスリリース時には提携メディアとしてスポニチ、毎日新聞、THE BRIDGE、ぴあ映画生活など8社からスタートしていたが、現在は西日本新聞やアルク、松竹などと新たに提携し、25社へと拡大いている。ランキングで見るとアルクのキクタン英会話がトップになっている。チャンネルを持つことができるのはオーディションを通過した人だけだが、この「パーソナリティー」も40人から140人に増え、オーディションは継続して実施している。ユーザー1人あたりのアプリ使用時間は1日平均10分を超えたそうだ。

文字コンテンツ読み上げ・フォロー型のクラウド放送局「Voicy」がローンチ

今さらネットでラジオなの? という人がいるかもしれない。逆に、やっぱりいま音声系サービスが来そうだよね、という人もいるかもしれない。2016年2月設立のVoicyが今日ベータ版としてiOS版をローンチしたクラウド放送局アプリ「Voicy」は「みんなで作る放送局」とでもいうべきアプリだ。

利用者はコンテンツ(記事)の読み手である「パーソナリティ」と、その聞き手である「リスナー」に分けられる。パーソナリティはチャンネルを開設して個性を活かした音声コンテンツを発信でき、リスナーはパーソナリティをフォローする。コンテンツは大手メディアや雑誌などから提供を受けるモデルだ。いまは立ち上げ期ではあるものの、Voicyを創業した緒方憲太郎CEOは「活字メディアを放送にしていく」という説明が旧来のメディア関係者に響いていて、すでに毎日新聞やスポニチなどがコンテンツ提供をしている。

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「2次元だった活字メディアを、クラウドの発信者の力で放送網に乗せます。活字メディア+声の表現者+フィードバックするリスナーという、みんなで作る放送局になります。今まで放送局が1社で全部やってたネタ収集、編集、企画、放送、アンケートまでをいろんなプレイヤーで分担してやります」(緒方CEO)

ジャンルは経済、社会、グルメ、エンタメなどの幅広くする。当初パーソナリティは40アカウントでスタート。最初のうちは申し込みと審査が必要で1週間に5〜10人ペースで増やしていく。パーソナリティとなるのはアナウンサーや声優志望者など「声のプロ」やセミプロだけでなく、全くの未経験者や特定ジャンルに熱意を持った人なども入れていくという。例えば、すでに元乗馬の選手をしていた人が競馬を語るチャンネルがある。

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コンテンツは「プレイリスト」という単位で配信される。プレイリストには記事などを読み上げる音声コンテンツが複数入っている。コンテンツの平均の長さというのは今のところない。1つの記事を15秒から30秒で読み、テンポ良く次々とその日のニュースダイジェストもあれば、もっと長いものを10分〜20分で読んで1つのプレイリストとする人もいるという。

ここまで読んだ読者は、誰が、何の目的で、どういうタイミングで聞くのか想像が付かないのではないだろうか。ぼくは想像が付かなかったし、今も正直よく分からない。

これまで限定ユーザーでサービス運用をしてきた緒方氏によれば、視聴時間帯は主に3つあるそうだ。朝すぐの支度や通勤時間帯。それから帰宅後の時間。そして「思った以上に寝る前に聞いている」(緒方CEO)のだそう。ながら視聴よりも、むしろプッシュ通知が来たらテーブルにスマホを置いて座って聞いている人が多いという。

一般ニュースや業界ニュース、趣味の情報をスマホ上で文字で読む人は多いと思う。Voicyでは読み手の個性やちょっとした意見に魅力が感じられる視聴スタイルを実現する。「活字は知性にしか訴えて来なかった。でも声ならハートに訴えられる」(緒方CEO)。電波と違って双方向なので、リスナーはパーソナリティに対してコメントを送ることもできる。

Voicyのパーソナリティとなる人のうちアナウンサー志向の人であっても「キレイにしゃべる」ことを良しとするキャスター的な人と「個性的にしゃべる」パーソナリティ的な人がいて、人によってその比率が異なる、ということらしい。リスナーのほうも総合ニュースを聞きながら、ゆるいノリのものも同時に聞きたい人もいれば、朝はテキパキ系を好む、という人もいるそうだ。

なぜ今さら音声なのか?

なぜ今さら音声なのか? 動画ではダメなのか? この点について聞くと緒方CEOは、何点か理由を挙げた。

1つはコスト構造上有利だから。音声なら「20分のコンテンツが25分で作れる」(緒方CEO)が、動画はなかなかそうはいかない。そして文字コンテンツを持っている出版社や、企画や編集ができる人材というのは多い。「コンテンツを作って編成をする人や取材ができる人をレバッジできる気がしています。どういう番組構成がいいのか、それをみんなで探っていく」(緒方CEO)。

ネタと発信者(読み上げるパーソナリティ)を分けているので、コラボ企画もやりやすく、テレビ局の新人アナウンサーやアナウンサー学校のエースをスポーツチャンネルでマネタイズするなどできるのでは、という。サービス開始当初こそ「リスナーがいるのが嬉しいという人たちを集めたい」としているものの、「プレイヤーがCMを取れる、営業ツールになるものを提供したい」という。法人チャンネル提供も考えているという。

もう1つ、動画より音声がいいという理由は「感性に伝わるものが一番いい」からだそうだ。「声というのは大きすぎても小さすぎても不快。映像では、そういうのはあまりない。それだけ心に刺さるのが声なんです」。

声って今さら? これから?

クラウド分業放送局というのは新しいアイデアだが、音声系サービスのVoicyをみて「今さら音声?」と思った人は多いだろう。逆に「そうだよね、声が来そうだよね」という人もいるかもしれない。

今さら、という人は日本国内の音声系サービスに動向に詳しい人もいるだろう。2007年にカヤックで生まれて2014年にサイバーエージェントに事業譲渡された「こえ部」は2016年9月末のサービス終了を発表しているし、同じくサイバーエージェントの「ラジ生?」も8月末と、立て続けにサービスを閉じる。動画系サービスが伸びる一方で、音声系サービスはオーディオブックも含めて日本国内では立ち上がっていると言える状況にない。ただ、「こえ部もラジ生もネタがなかった」からサービスが伸びなかったのではないか」というのが緒方CEOの見立てだ。

国内で声系サービスが伸びない一方で、米国ではいま「音声(会話)こそ次のインターフェイス」として、がぜん注目を集めている。先日のTechCrunch Disrupt SFでデビューした「Pundit」は音声版Twitterというべきサービスだし、2016年2月にローンチした「Anchor」はVoicyに少し似ている。Anchorはホストとなる人に対して参加者が随時乱入して声でコメントができるポッドキャストの進化版という感じのサービスだ。

音声認識の精度が95%から99%となって遅延も実用レベルになった。だから今後コンピューターへの入力インターフェースとしては音声こそが最も効率的だと指摘したのはKPCBパートナーの著名VC、メアリー・ミーカー氏だ。

ミーカー氏が指摘したのは入力やGUIに変わる操作手段としての音声だが、今後人々がデバイスに向かってしゃべることが増えるのだとしたら、2016年が声系サービスの立ち上げに適している可能性もあるだろう。なにより、AppleがワイヤレスのiPhone向けイヤホン「AirPods」を出したことで、オーディオコンテンツに追い風が吹くという期待感もある。

もう1度。なぜ声を選んだのか?

Voicyは現在、フルコミットのエンジニアが1人いて、それ以外に8人が手伝う「草ベンチャー」だ。草ベンチャーとはビズリーチ創業者の南壮一郎氏の造語だが、就業時間後や土日に仲間が集って実験的なプロダクトや事業を作っていくような活動を指している。Voicyのチームにはテレビ局や広告代理店関係者が入っている。

「バーンレートゼロでリリースまで漕ぎ着けた」と、ちょっとスゴいことを言っている緒方CEOだが、体制は整えつつある。すでに確定金額ベースで数千万円規模のシード資金の調達をしつつあって、アプリのローンチと前後して渋谷に新たにオフィスを構えたそう。

緒方CEOは会計士としてキャリアをスタートして、起業前は、監査法人トーマツの社内ベンチャーであるトーマツベンチャーサポートに2年間所属。これまでスタートアップ企業、数百社を支援してきたという。「顧問として入っていた企業だけで資金調達額は30億円を超えています。今年の調達額だけでも6億円」というスタートアップ起業家を支援する側にいた人物だ。会計士ではあるものの、実際には「会計士業務はやっていませんでした。主に社長の相談役で、ビジネスモデルの相談から、嫁が逃げたという相談までやっていました(笑)」という。

「ミイラ取りがミイラになった感がある」と起業の背景を語る緒方CEO。ただ、大量の事業アイデアとダメ出し、事業計画とオペレーションの実際を見てきた36歳という目のこえた立場を考えると、なぜ2016年時点でVCウケの悪そうなアイデアでの起業を選んだのかは、ちょっと腑に落ちないところもある。実際「こんなにも否定されるものか」というほどVoicyのアイデアに対して否定的な意見や、頼んでもいない思い付きにすぎない「アドバイス」をもらっていて、支援側と起業家の立場の違いを身にしみて感じているそうだ。

それでも緒方CEOがこだわっているのは、「誰もやっていないサービスを出すこと」だそう。「何か既存のものを安くするというのではなくて、大きな付加価値を生む企業をやりたいんです」。もし声のメディアプラットフォームに可能性があるのだとしたら当たれば大きいのかもしれない。もし声系コンテンツサービスにはやっぱり市場がなかったとなれば、たぶんゼロ。ホームランか三振か。バッターボックスに立つなり「大振り」することにしか興味がない、と言い切る緒方CEOのチャレンジを見守りたいと思う。