視覚障がい者にとってのテクノロジーの未来を予想することは、おそらくあなたが考えるよりも簡単だ。2003年に私はAmerican Foundation for the Blindが出している「Journal of Visual Impairment & Blindness」に「あなたの手の中で」というタイトルの記事を書いた。iPhoneが登場する4年前だが、支援技術の中心はデスクトップPCからスマートフォンへ移行すると私は自信をもって予想することができた。
彼女の外出の用件はフェニックスですでにサービスを開始しているWaymoの自動運転タクシー開発におけるアクセシビリティへの取り組みについて話すことだったので、私たちは皆笑ってしまった。WaymoはフェニックスのFoundation for Blind Children(FBC)と緊密に連携して体験のフィードバックを集め、サンフランシスコのLighthouse for the Blindにも助言を求めている。12月2~3日に開催されるバーチャルイベントのSight Tech Globalでは、Waymoのアクセシビリティへの取り組みを紹介する。このイベントは、AI関連テクノロジーが障がい者支援技術やアクセシビリティに今後どのような影響を与えるかをテーマとする。参加は無料で現在登録を受け付けている。
Waymoのアクセシビリティのセッションには重要な人物が3人登場し、Waymoの取り組みを紹介する。Clement Wright(クレメント・ライト)氏(LinkedIn)はWaymoでユーザーエクスペリエンスとアクセシビリティを担当するプロダクトマネージャーだ。ライト氏は、障がいを持つ人も含めてすべての利用者が安全で快適で便利にWaymoの完全ドライバーレスサービスを利用できるよう努めている。Marc Ashton(マーク・アシュトン)氏(LinkedIn)は、フェニックスに本拠地を置くFoundation for Blind ChildrenのCEOで、視覚障がい児教育のリーダーとして全米で知られている。自身の息子に視覚障がいがあることからアシュトン氏はこの分野に関心を持ち、2007年にCEOになった。Bryan Bashin(ブライアン・バシン)氏(Lighthouse for the Blindサイト)はサンフランシスコにあるLighthouse for the BlindのCEOだ。このNPOはカリフォルニアのほか世界中の視覚障がい者に教育、トレーニング、支援、コミュニティを提供している。バシン氏は大学生の頃から視覚に障がいがあり、キャリアの大半を視覚障がい者の平等、アクセス、トレーニング、メンタリングに捧げてきた。
視覚障がい者にとって、驚くほど高度なコントロールと読み上げおよび点字の出力精度を備えたJAWSは、Windows PCを操作する自由の代名詞だ。JAWSはキーボードドリブンのアプリケーションで、ウェブサイトやWindowsソフトのGUIベースのインターフェイスを操作できるようにする。JAWSを使いこなす人がPCを操作する様子を聞けば、操作する人のスピードとJAWSから返ってくる機械音声の早口に驚嘆するはずだ。ちなみにJAWSはJob Access With Speechの頭文字をとった名前である。
障がい者支援技術の新時代を迎え、オフラインで動作する軽量のOrCam MyEyeのアプローチは挑戦的なものだ。このデバイスはTIMEのBest Invention of 2019に選出されている(TIME記事)。高度なセンサーと電子機器の小型化は、支援技術の基盤となるこじんまりとしたセンサーアレイにつながるだろうか?AIベースの自然言語処理は必要に応じて連携して動作する、多目的でカスタマイズ可能なパーソナルアシスタントにつながるだろうか?
Microsoft Research Cambridgeでヒューマン・コンピュータ・インタラクションやAIについて研究しているモリソン博士は「ユーザーが自分の体験をパーソナライズできるような新しいAIテクノロジーが登場するだろう」と言う。「一人ひとり、すべての人が異なる。障がいがあるというラベルは、同じラベルを持つ別の人と同じニーズを持つという意味ではない。それぞれに固有のニーズに合わせて体験をパーソナライズするために、新しいテクニックによって障がい者の情報のニーズをごくわずかなサンプルでAIに教えることができる。テクノロジーは障がいというラベルのためのものではなく、パーソナルなニーズのためのものになる」。
視覚障がいの子を持つ母親としてモリソン博士は「違う視点で世界を見てきたし、他の立場では見ることも参加することもなかったであろうコミュニティに参加してきた」という。このことは間違いなく博士の研究を後押ししてきた。インクルーシブデザインのプロジェクトであるProject Torino(Microsoftブログ)は、視覚障がいを持つ子どもたちがプログラミングを学ぶというニーズから発想を得ている。このプロジェクトから、視覚の程度を問わず7〜11歳の子どもが計算論的思考と基本的なプログラミングを学ぶための物理プログラミング言語が作られた。この取り組みがCode Jumperというプロジェクトにつながり、視覚障がい者の教育や自立支援に取り組むNPOのAmerican Printing House for the Blindから有料で販売されている。
Sight Tech Globalはスポンサードを受けて開催するイベントで、これまでにWaymo、Google、Wells Fargo、TechCrunch、Verizon Mediaがパートナーとなっている。収益はすべてNPOのVista Center for the Blind and Visually Impaireの収入となる。スポンサーシップについての問い合わせはsponsor@sighttechglobal.comまで。
テクノロジーに関わる者にとって視覚にハンディキャップがある人々を助けるツールの開発に挑戦することはこの上ない喜びだ。シリコンバレーの伝説的なビジョナリーであるRay Kurzweil(レイ・カーツワイル)は1976年にテキスト読み上げデバイスを発表している。この種の製品として商業的に初の試みだった。視覚障害者団体、NFB(National Federation of the Blind)のプレスカンファレンスで卓上に置く複写機のような箱型の機械であるカーツワイル・リーディン・マシンが披露された。 当時の価格で5万ドルだった。
いろいろな意味でSight Tech Global カンファレンスはTechCrunchがこの4年間、マサチューセッツ工科大学やカリフォルニア大学バークレー校と提携しAIやロボティクスをテーマに開催してきたカンファレンス(未訳記事)のフォーマットに大きなヒントを得ている。こうしたカンファレンスではTechCrunchの編集者、ライターがトップエクスパートに厳しい質問をぶつけるという形をとってきた。 質問はオートメーションの将来から機械の自律化、職が奪われるという副作用のリスク、AIモデル作成にあたっての人間のバイアスなど広く分野のすべてに及んだ。TechCrunchの編集者、ライターは他のエキスパートと並んで今回のカンファレンスでもモデレーターを務める。
スポンサーからの協賛金およびチケットの売り上げはシリコンバレーで75年前から視覚障がい者のために活動してきたNPOであるVista Center for the Blind and Visually Impairedの収入となる。Vista CenterはSight Tech Globaイベントの主催者であると同時に同団体の執行理事長であるKarae Lisle(カレー・ライル)氏がイベントの実行委員長を務める。我々はプログラムの企画と運営にあたって経験豊富なボランティアチームを編成しており12月の2日と3日は濃密な意義ある時間となるはずだ。
シェイク氏は「AI について言えば障がいを持つユーザーは最も有望なアーリーアダプターだと思う。視覚障がい者は何年も前から本を音声録音によって利用してきた。人間の読み上げに代わるものとしてOCRやテキスト読み上げのテクノロジーなどが開発された。これらは初期のAIの応用といえる。現代ではコンピューターは高度な AI を利用して視覚的認識によって、文章化して読み上げることができる。このテクノロジーには数多くのユースケースが見出されている。しかし最も有望な分野は視覚障がい者に対して周囲の状況を認識し音声で教えるものだ。これは視覚障がい者の能力を信じがたいほどアップさせる」と説明する。下のビデオはマイクロソフトが2016年にリリースしたものでシェイク氏とSeeing AIプロジェクトをフィーチャーしている。
Seeing AI はAI テクノロジーがほとんど知性を持つように振る舞うツールを実現できるという例のパイオニアだろう。 このアプリは単に文書を読み上げるだけではなく、文章を正しく読み取れるようにするためにスマートフォンをどちらに動かせば良いかユーザーに教えてくれる。また目の前に誰かがいることを教えてくれるだけでなく(事前に名づけていれば)名前や簡単な見た目も教えてくれる。
Americans with Disabilities Act of 1990(1990年障害のあるアメリカ人法)が制定されて以来、数十年にわたり、建物、企業、法律は、さまざまな障害を持つ人たちに合わせて、徐々に変化を遂げてきた。今週で施行30周年を迎える同法がテック業界に与えてきた影響は極めて大きいが、やるべきことはまだ山積みだ。
一方、テック業界に不足している部分について、ヘリンガー氏は次のように説明してくれた。「レプリゼンテーション(自分が社会の構成員として認識されている状態や感覚)とインクルージョンは必要不可欠だ。アップルは、障害者コミュニティでよく言われる『Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)』というスローガンが真実だと確信している。アップルはアクセシビリティ専任チームを1985年に設置したが、インクルージョンに関するすべてのことがそうであるように、アップルではアクセシビリティもすべての社員の仕事だ」。
アクセシビリティは「まだ閉じたままだが、何が何でも早急に開けなければならない扉」の1つだとレイフレリー氏は言う。「Seeing AIはAIの大きな可能性を示していると思うが、今後、AIとML、およびARmによって、身体障害の分野で広く何ができるようになるのか、今後が楽しみだ。マイクロソフトは、障害者が直面している最大の課題のいくつかをAIによって解決できると確信している。AI for Accessibilityプログラムが、インクルージョン改革を推進するためのマイクロソフトの取り組みで重要な役割を果たしている理由もそこにある」と同氏は続ける。
「アクセシビリティを避けて通ることはできない。それは、ビジネスとエコシステムに組み込まれていなければならず、管理と調整を必要とする。アクセシビリティを実現するにはまず人だ。我々は、インクルーシブな文化と人材のパイプラインをどのように創り上げるかに注力してきた。まだ成長と学習を続けている段階だが、Autism Hiring Playbook(自閉症を持つ人材の採用ガイド)、Accessibility at a Glance(アクセシビリティ早わかり)トレーニングリソース、Supported Employment Program Toolkit(援助付き雇用プログラムツールキット)、Inclusive Design Toolkit(インクルーシブ設計ツールキット)といったリソースを介して学習した内容を、他の組織と共有するという対策も講じてきた」と同氏は言う。