暗号資産でB2B決済の高速化、手数料の抑制も目指すPaysailが4.4億円調達

企業は、材料費から外注費に至る主要なコストの多くを、請求書に基づき支払っている。依然として大多数の企業は、国境を越える支払いの際、銀行振込やクレジットカードを基盤とするソリューションに依存している。完了するまでに通常2~5日かかる、この国境を越える支払いは、世界で130兆ドル(約1京5000兆円)の市場を形成している

法人向け決済のスタートアップであるPaysail(ペイセイル)が、シード資金を調達した。同社は、国境を越える決済のプロセスを5秒未満に短縮するツールを開発する。同社のソリューションはステーブルコインを活用している。ステーブルコインについて同社は「商品または法定通貨にペッグ(連動)し、価格が安定するよう設計された暗号資産」と説明している。

Paysailによると、請求書の支払いにステーブルコインを使うことで、第三者の仲介を排除し、企業の取引手数料を削減することもできるという。Paysailの共同創業者であるNicole Alonso(ニコル・アロンソ)氏はTechCrunchのインタビューに対し、従来の銀行インフラを前提として決済を効率化するこの分野の他のスタートアップは、速くて安い決済手段を提供する点で限界に達していると語った。仲介業者が課す手数料が原因であり、特に定期的に決済が発生しない国同士の間ではそうだという。

Paysailの共同創業者であるニコル・アロンソ氏とLiam Brennan-Burke(リアム・ブレナン・バーク)氏(画像クレジット:Paysail)

「例えば米国・カナダ間の決済を大幅に安く、早くする大きな進歩がありました。しかし、米国からアフリカの国々への送金はまだ本当に難しく、法外な手数料がかかることもあります」とアロンソ氏は話す。

国境を越える決済にBill.comのようなレガシーシステムを使う場合のコストには通常、仲介業者が請求する取引手数料と為替手数料が含まれる。これに対し、Paysailによる送金では、ブロックチェーン上で取引を検証するためにかかる「ガソリン代」だけがかかり、現在のところ1セントの10分の1以下だとアロンソ氏はいう。

Paysailは現在、米ドル価格に連動するCeloのCUSDステーブルコインを使用して決済を行うが、将来同社が成長していけば、各国の不換通貨を裏付けとする他のステーブルコインにも拡大する予定だ。また、事業の収益を上げるために0.9%程度の取引手数料を検討している。アロンソ氏は、取引手数料が各企業の取引量に応じた段階的な設定となる可能性があり、価格面で「非暗号資産の既存の競合他社を大幅に下回る」ことが理想だと述べた。

同社は米国1月13日、Uncork Capitalがリードし、Tribe Capital、Pear VC、Mischief Capitalが参加した、400万ドル(約4億4800万円)のシードラウンドを発表した。このラウンドには、Google Payの事業開発・戦略責任者であるNik Milanović(ニック・ミラノビッチ)氏と、Eburyの創業者でCEOのJuan Manuel Fernández Lobato(フアン・マヌエル・フェルナンデス・ロバト)氏もエンジェル投資家として参加した。

Paysailの現在のユーザーは「少数」の企業で構成され、そのほとんどはすでに暗号資産で取引しているか、この分野に精通していると、共同創業者であるLiam Brennan-Burke(リアム・ブレナン・バーク)氏はTechCrunchに語った。同社は、暗号資産を使用したことのない顧客にも拡大する前に、暗号資産の利用に慣れている顧客向けのソリューションを微調整したいと考えていると同氏は付け加えた。

アロンソ氏とブレナン・バーク氏は2021年、クレアモント・マッケナ大学の学生として出会い、その後Paysailを立ち上げた。現在、Paysailの正社員は彼らのみだ。今回の資金をもとに、フルタイムのエンジニアリングチーム、法律顧問、そして最終的には営業チームを雇用する計画だ。

Paysailは、既存の暗号資産ウォレットを持たないユーザーが、サードパーティのウォレットプロバイダを通じ、同社のプラットフォームで取引を開始できるような技術を構築している。同社がユーザーに代わってノンカストディアルウォレットを用意する。ブレナン・バーク氏によると、最終的にはこの機能をプラットフォームに導入したり新機能を追加したりして、ユーザーが、保有するステーブルコインからPaysailウォレット内で利回りが得られるようにすることを目指している。ナイジェリアのように、現地通貨の下落が大きなリスクとなる国では、企業は変動の少ない通貨にペッグされたステーブルコインで資産を保有し、好きなときに現地通貨に移すことを好むかもしれないと、同氏は付け加えた。

ブレナン・バーク氏は「このプラットフォームの最終的な目標は、暗号資産決済を、暗号資産の経験がない企業や個人にとって、本当に消化しやすく、また使いやすくし、比較的やさしいものにすることです」と語った。

画像クレジット:Olena Poliakevych / Getty Images

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】暗号資産による送金は世界で最も弱い立場にある人々の生命線

アフガニスタンからの米国の突然の撤退により、Western Union(ウエスタンユニオン)が一時的に業務を停止し、国内の銀行も引き出しを厳しく制限するなか、暗号資産(仮想通貨)による送金がアフガニスタンの人々の生命線となっている。

米国や英国などの送金側の規制当局は暗号資産に目を向けている。彼らは、世界で最も弱い立場にある人々にとって、暗号資産がどれほど欠かせないものであるかを忘れてはならない。

アフガニスタンだけでなく他のどの国であっても、現地通貨が入手困難になり、価値の貯蔵手段としての信頼性が低下すると、暗号資産はますます不可欠なものとなる。紛争はインフレを招き、通貨の価値を下げ、時には無価値にしてしまう。

もし、国内の暗号資産タカ派をなだめるために暗号資産の送金を規制したら、この資産クラスを最も必要としている人々、つまりアフガニスタンの人々やその他多くの人々に(再び)背を向けることになる危険性がある。

タリバン占領後、アフガニスタンの金融システムも凍結されてしまった。世界銀行によると、アフガニスタンのGDPの約4割を占める海外からの援助が止まった。同様に、アフガニスタン中央銀行の外貨準備も凍結された。その額は約90億ドル(約1兆円)

さらに、タリバンによる占領と欧米諸国による対外援助停止を受け、Western UnionやMoneyGram(マネーグラム)などの国際送金会社がサービスを停止した(今のところ再開しているケースもある)。そのため、一般のアフガニスタン人は世界の金融システムにアクセスできず、そしてここが重要だが、海外の親族からの送金を受け取れなくなった。

送金とは、豊かな国から「母国」にお金を送ることで、アフガニスタンのGDPの約4%を占める。現金に大きく依存する経済において、現地の金融インフラが突然崩壊することは、多くのアフガニスタン人にとって生死を分けることになり得る。

送金が生命線であり続けるためには、迅速でなければならない。お金が必要なときは、すぐに必要になることが多い。例えば、国内で避難生活を送る人々は、資金が決済されるまで3~5日も待つことはできない。彼らは今すぐにでも食料、燃料、医薬品を必要としている。

ビットコイン「過激主義者」は、暗号資産が世界の経済システムをいかに変えるかについて、目を輝かせて主張する。彼らを信じるかどうかは別にして、私たちの前で、暗号資産は不安定で紛争が絶えない場所での送金に、すでに革命を起こしている。アフガニスタンは、破綻した国家における暗号資産の教科書的な使用例を示している。

時として、切迫する必要性が新技術導入の強力な論拠となる。アフガニスタンは、ブロックチェーンのデータプラットフォームであるChainalysisのGlobal Crypto Adoption Indexで、154カ国中20位に位置している。ピア・ツー・ピアの取引(送金を含む)を加味すると7位だ。2020年には、アフガニスタンはリストにすら入っていなかった。

アフガニスタンだけではない。レバノン、トルコ、ベネズエラでは最近、暗号資産の使用率が急増した。人々は一攫千金を狙っているわけではない。海外の親族から資金を受け取り、高インフレ時に資産消滅を防ごうとしているだけだ。

ベネズエラを拠点とする暗号資産コンサルタントのJhonnatan Morales(ジョナタン・モラレス)氏は「多くの人々は、モノを手に入れるためではなく、ハイパーインフレから身を守るために暗号資産を採掘したり取引したりしています」と見ている

インフレ率が世界で最も高いベネズエラ(3000%に向かっている)では、経済が不安定になるにつれ、暗号資産の導入が進む。

レバノンもその一例だ。リラがその価値の80%を失う中、例えばビットコインウォレット「BlueWallet」のレバノン人によるダウンロード数は、2020年に前年比1781%増加した

だがアフガニスタンは、グローバルサウス(南半球の発展途上国)が暗号資産を必要とする理由を示す、最も緊急かつ悲劇的なケースかもしれない。現金が不足し、物価が高騰し、タリバンがこれまで頼りにしていた外国からの援助を失うと、すでに崩壊しているアフガニスタンの通貨はさらに弱くなる。アフガニスタンの人々が自らの富をビットコインで受け取り、保管し、使うことができるようになれば、破綻国家の最悪の影響から自分たちを守ることができるかもしれない。

そしてこれこそが、欧米で暗号資産を規制する際に忘れてはならないことだ。規制は投機家に影響を与えるだけでなく「母国」に送金したい人にも打撃を与える。最も失うものが大きいのは送金を受け取る人々だ。

米連邦準備制度理事会(FRB)のJerome Powell(ジェローム・パウエル)議長が、暗号資産規制の次の段階に関する報告書を発表する際には、暗号資産を最も必要としている人々、つまりアフガニスタンの人々や、彼らのような世界中の何百万もの人々のことを忘れないで欲しいと思う。

欧米はアフガニスタンの人々に背を向けたのかもしれないが、私たちは自国の法律が彼らを暗闇に置き去りにしたままにすることがないようにしなければならない。暗号資産の規制は、重要な金融の生命線が失われないようにしなければならない。さもなければ、暗号資産を最も必要とする人々の希望の扉をまた1つ閉じてしまうことになる。

編集部注:本稿の執筆者Joshua Jahani(ジョシュア・ジャハニ)氏は、コーネル大学およびニューヨーク大学の講師であり、中東・アフリカを専門とする投資銀行Jahani and Associates(ジャハニ・アンド・アソシエイツ)のボードアドバイザー。

画像クレジット:EDUARD MUZHEVSKY/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Joshua Jahani、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】暗号資産の流動性はクロスボーダー決済というランチを食べる準備ができている

伝統的な金融機関が暗号化戦略の策定を急ぐのを日常的に目にするが、その理由は明白だ。暗号は主流意識の転換点を過ぎており、クロスボーダー決済のようなユースケースは、サンドボックスの段階の域を確実に脱している。

クロスボーダー決済は、明らかな理由から、暗号資産の最も初期のユースケースの1つと言える。公的なブロックチェーンとそのネイティブな暗号資産は、本質的にグローバルであり、安全で検閲に強く、安価に取引できるように構築されている(トークンにもよるが)。そして(おそらく最も重要な点として)24時間365日即時決済が可能だ。

しかし、送金関連企業や大手銀行などの既存企業が独占してきた年間130兆ドル(約1京4430兆円)規模のこの業界で、暗号資産が大きな影響力を発揮するまでには数年を要した。例を挙げると、Western Union(ウエスタンユニオン)の収益の大部分は、クロスボーダー決済による個人取引手数料から来ている。

結局のところ、フィアット(法定通貨)やすぐに利用可能なオン / オフランプ(法定通貨との交換サービスを提供する場)と同じかそれ以上のレベルの世界的な流動性を、暗号資産が持つことが決め手となる。朗報として、どちらのラインもポジティブなトレンドを示している。

大手銀行を優遇する時代遅れのシステム

伝統的な外国為替(FX)の世界は何年もの間、かなり停滞している。決済は通常の銀行取引時間内にしか行われず、メッセージはSWIFT経由で送信されるが、実際には数日後まで決済されない。

この時代遅れのコルレス銀行システムでは、少なくとも2つの異なる段階を経なければならない。誰もが痛感しているように、取引は遅く、間違いを起こしやすく、コストがかかり、非効率的である。米国やメキシコなどの回廊ではより大きな決済の流れがあるが、消費者へのコストは依然として存在している。

G20以外の通貨に移行する際には、ある国から次の国へいつ送金されるかは誰にもわからないし、5%から10%の手数料を支払うことになる。このシステムは、長年にわたり数兆ドル(数百兆円)規模で流動性へのアクセスを独占してきたビッグマネー中心の銀行に、長らく貢献してきた。

2017年以前の数年間は、暗号資産の流動性はひと握りの取引所に限られており、全資産の取引高は数百万ドル(数億円)だった。それがここ数年で大きな変貌を遂げている。

画像クレジット:Asheesh Birla

Ripple(リップル)は早くから次のような主張に焦点を当てていた。1. 暗号資産が世界中で量的に成長し(取引所の流動性のレベルで測定)、2.それを使ってより多くの決済が可能になれば(オーダーブックのサイズで測定)、伝統的な法定通貨よりも暗号資産を使ったクロスボーダー決済のための流動性を調達する方が安くなる。2015年に崇高なビジョンであったものが、今では現実となっている。

暗号資産の流動性へのアクセスに必要なオンランプとオフランプ

クロスボーダー決済に暗号資産を使用するために必要なキーファクターは、法定通貨から暗号資産への移行とその逆の移行を提供し、暗号資産の流動性へのアクセスが得られる、スムーズなオンランプとオフランプだ。筆者はかつて、利用可能な方法を片手に数えることができたが、今日では、ステーブルコインや取引所など、暗号資産の出し入れを行うさまざまな場所が急速に拡大している。主要な送金会社やカードネットワークからグローバルな暗号資産取引所まで、あらゆる組織がトークン化を利用してこの最初のハードルに対処している。

法定通貨の裏づけのあるステーブルコインは、最もポピュラーなオン / オフランプの1つとして台頭してきた。決済の際の法定通貨への即時の換金を必要とせずに暗号資産へのアクセスを得る比較的簡単な方法を確保し、変換税の問題や暗号資産の高いボラティリティを排除するものとなっている。

このことは、ステーブルコインの時価総額が増加していることにも表れており、2019年の40億ドル(約4440億円)から2021年7月には1000億ドル(約11兆円)を大きく上回った。ステーブルコインは、暗号資産取引所、分散型金融プラットフォーム、流動性の低いフィアット・ツー・フィアットの回廊へのアクセスと流動性を提供しており、トークン化された資産ができることの力を示している。世界があらゆる種類の価値(フィアット、暗号資産、アイデンティティ、ローン、NFTなど)をトークン化しつつある中、1つの資産から次の資産への移行をサポートするシステム内の流動性が高まっている。

データを見る

ここで定量的な理由に目を向けると、暗号資産から流動性を調達する方が、時間の経過とともに費用対効果が高くなることがデータで示されている。根本的な疑問は、暗号資産からの調達が伝統的なフィアット外国為替(FX)よりも一貫して安くなるデータポイントはどこかという点だ。

下のグラフを見ると、より大規模な暗号資産市場のプロキシとなるBitstamp上の時価総額上位5つの暗号資産(ビットコイン、イーサリアム、リップル、ライトコイン、ビットコインキャッシュ)を使用することで、流動性の指標である暗号資産のボリュームが過去5年間でどのように増加したかが確認できる。これらの資産の組み合わせは、2016年から2021年まで一貫してすべての暗号資産ボリューム(ステーブルコイン以外)の約85%を占めている。

画像クレジット:Asheesh Birla

具体的には、2016年4月から2021年6月までのUSDとEURのスポットとインプライドのFXレートの平均差、およびUSDとEURのオーダーブックのサイズと比較した、5つのトークンのUSDとEURの月次ボリュームが示されている。スポットレートは、その特定の時点における即時為替レートを示し、インプライドレートは、仲介者(暗号資産をブリッジとして使用するなど)を使用して、送信通貨から宛先通貨へのブリッジから達成されたFXレートを表す。

年数が経つにつれて、スポットレートとインプライドレートの差はゼロに近くなり、平均的なトレンドラインから明らかなように、暗号資産を介して決済の流れを行う方が、法定通貨を使用した場合よりも同等または安くなっている。

トレンドラインをさらに推定すると、今後2年間でトレンドラインが0を超えて負の差になることを予測できる(現在のレートで暗号ボリュームが2倍になり続ける場合)。PayPal(ペイパル)やWestern Unionのような決済プロバイダーは、法定通貨取引ごとに手数料を請求する(0.2%から1%のマージン)など、他のファクターが作用していることも注目に値する。

画像クレジット:Asheesh Birla

同じ期間で、上のグラフはオーダーブックのサイズが急速に増加していることを示している。つまり、2021年にこれら5つの暗号資産で合計400万ドル(約4億円)もの決済をサポートするのに十分な流動性があるということだ。

伝統的な取引ベースの決済収益は廃れていく

FX取引手数料から収益の大部分を得ているすべての送金関連企業にとって、このデータは警鐘を鳴らすものになるだろう。

企業がクロスボーダー決済に暗号資産を利用しようとしている理由はここにある。もはやブロックチェーンと暗号の特性だけではなく、グローバルな流動性が本当の意味で大規模な決済を支えている。消費者がより多くの選択肢を利用できるようになれば、従来型の企業は市場シェアを維持するために取引手数料を引き下げなければならなくなる。これにより問題はある程度は緩和されるだろう。

これまでPayPalなどを利用してクロスボーダー決済を行ってきたすべての消費者に向けて問いかけたい。暗号資産を利用することが、より安く、より迅速で、より安全ではないにしても、同等であるなら、それにこだわる必要があるだろうか?

これらの企業は、現在取引手数料に大きく依存している収益モデルを変更するか、さもなければ時代遅れになるリスクを負うことになる。一部は反対方向に向かっているが(例えば、PayPalはすでに欧州でのクロスボーダーのマーチャント決済の取引手数料を引き上げており、Western Unionは競合他社を回避するためにデジタル決済にさらに力を入れている)、この周知の波はすでに崩壊しつつある。これらの企業が提供する他のサービス(コンプライアンス、アドレッシングなど)は、いずれも企業を救うことにはつながらないだろう。多くの暗号資産企業はすでに、強力なマネーロンダリング対策を実装しており、顧客(AML/KYC)を把握している。

少数の回廊におけるBTC(ビットコイン)、ETH(イーサリアム)、XRP(リップル)、LTC(ライトコイン)、BCH(ビットコインキャッシュ)使用のデータは、市場全体のプロキシではあるが、トレンドラインは方向的に明らかである。今日の暗号資産の時価総額は2兆ドル(約220兆円)を超えている。5兆ドル(約550兆円)から10兆ドル(約1100兆円)になれば何が可能になるか想像して欲しい。

暗号流動性は、ゲームを変えつつある。「もしも」の段階を過ぎ、今や「いつ」の領域に入っている。

編集部注:本稿の執筆者Asheesh Birla(アッシュ・バーラ)氏は、RippleでRippleNetのGMを務める。

画像クレジット:Jonathan Knowles / Getty Images

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(文:Asheesh Birla、翻訳:Dragonfly)

暗号資産で国境を越える面倒な「クロスボーダー決済」を簡単、迅速にできるようにするMercuryo

国境をまたぐ決済のネットワークを作ったMercuryoが、シリーズAのラウンドで750万ドル(約8億3000万円)を調達した。

ロンドン生まれの同社は、「デジタル資産の決済ゲートウェイ」によってブロックチェーンをビジネスにとって便利なものにすることを目的とする「暗号資産のインフラストラクチャ企業」と自らを説明している。具体的には同社は、さまざまな決済ソリューションを集積して、法定通貨と暗号資産による決済や支払を提供する。

もっと簡単にいうと、Mercuryoの狙いは、次世代の国境を越えた送金を暗号資産をツールとして使って推進することだ。同社はそれを「どんな企業でも金融業務の面倒な知識や経験なしでフィンテック企業になれる」と説明する。

Mercuryoの共同創業者でCEOのPetr Kozyakov(ペトル・コジヤコフ)氏は「迅速で効率的な国際決済を、特に企業はこれまで以上に必要としている」と語る。多国間決済サービスを提供している企業はすでにたくさんあるが、暗号資産をその軸に据えることが、同社の差別化要因だ。

コジヤコフ氏は「私たちのチームには、低料金の簡単な手続きで暗号資産を至るところで使えるようにする、という明確なプランがあります。そうなれば、暗号資産という資産を使って、グローバルな送金や大量一括支払などさまざまなサービスを得られるようになります」という。

左からAlexander Vasiliev(アレクサンドル・ワシリエフ)氏、Greg Waisman(グレッグ・ワイズマン)氏、ペトル・コジヤコフ氏(画像クレジット:MercuryO)

Mercuryoが営業を始めたのは2019年の初頭だが、それ以降大きく成長して、4月には年間経常収益が5000万ドル(約55億4000万円)を超えた。顧客ベースは100万に近く、また同社は、暗号資産の大手であるBinanceやBitfinex、Trezor、Trust Wallet、Bithumb、そしてBybitなどとパートナーしている。2020年に同社は売上が50倍に増加し、2021年4月には年商が25億ドル(約2770億円)を超えたという。

この勢いに乗じてMercuryoは、米国などに向けて新市場の開拓を開始し、特に米国では2021年初めにすべての州で、B2Bの顧客のための暗号資産による決済サービスをローンチした。今後は、アフリカや南米、東南アジアなどへの「漸進的」拡張を計画している。

Target GlobalがMercuryoのシリーズAをリードし、またエンジェル投資家たちのグループが投資に参加して、2018年の創業以来の総調達額は1000万ドル(約11億円)を超えた。

同社が今度の資金の用途として考えているのは、暗号資産のデビットカードを立ち上げることと、ラテンアメリカやアジア太平洋地区への市場拡大の継続だ。暗号資産のデビットカードがあれば、世界中どこでも自分のウォレットの暗号資産残高から直接、支出できる。

Mercuryoの多様なプロダクトの中には、複数通貨のウォレットがあり、それには暗号資産の取引機能が内蔵されている。他にもデジタル資産の購入機能やウィジェット、暗号資産の大量取得機能、そしてOTCサービスなどのプロダクトがある。

コジヤコフ氏によると、同社は複数通貨間の換金手数料を取らず、その他の「隠れ料金」もないという。

「パートナーにも、またその顧客にも、瞬間的で容易な、国境をまたぐ送金処理を提供できる。送金サービスには中間搾取者がおらず、取引終了までに余計な手続きがない。私たちが提供するサービスは、わずか2種類に絞られます。1つは送金時の法定通貨から暗号資産への交換であり、もう1つは資金を受け取る際の暗号資産から法定通貨へという変換です」とコジヤコフ氏はいう。

Mercuryoには、暗号資産のためのSaaSプロダクトもあり、そこでは顧客が自分の法定通貨の口座から暗号資産を手に入れ、そのデジタル資産の管理を同社に委託する。

コジヤコフ氏によると「それがバーチャルアカウントであっても、あるいは顧客のサードパーティのウォレットであっても、私たちが扱うのは銀行のための暗号資産関連処理のほとんどすべてであり、顧客は自分たちの本来の仕事に集中できます」という。

Target Globalの共同創業者であるMike Lobanov(マイク・ロバノフ)氏によると、彼の会社はBitcoinを購入する場合の各社のソリューションを実験的に試してみた。ロバノフ氏は「投資家のデューデリジェンスとして我々が計測したのは、暗号資産への変換に要する時間、すなわちApp Storeへ行ってアプリをダウンロードするところから、ウォレットにデジタル資産が収まるまでの時間を計測した」という。

トップはMercuryoの6分間だった。KYCに始まり、送金から暗号資産が得られるまでの時間だ、とロバノフ氏はいう。「2位は20分でしたが、我々のトランザクションを処理するのに時間が無限にかかっているアプリもあった。Mercuryoはこの分野のゲームチェンジャーです。私たちが初期から同社を支援してきたことは、本当に喜ばしいことです」。

同社が次のリリースとして予定しているプロダクトは、大量の複数の顧客とかギグワーカーなどに同時に一瞬にして大量決済ができるサービスだ。受取人は、地球上のどこにいてもよい。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:Mercuryo資金調達暗号資産送金クロスボーダー決済

画像クレジット:Liyao Xie/Getty Images

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Hiroshi Iwatani)

PayPalの中国における野心と苦戦、クロスボーダー決済に注力

過去数カ月、PayPal(ペイパル)は中国での事業拡大に向けて静かに準備してきた。

最近開催された、ダボス会議の中国版Boao Forumで、米国の決済大手PayPalは同社の中国での戦略がAlipayとWeChat Payの複占に挑むというものではないと述べた。その代わり、PayPalはクロスボーダー事業にフォーカスし、中国の小売業者が集金したり、中国の消費者が海外の商品購入の代金を支払ったりするためのゲートウェイを提供する。

これはもちろん儲けが多い分野だ。マーケット調査会社iResearchによると、中国のクロスボーダーeコマースのマーケット規模は2016年の約3兆元(約50兆円)から2021年には6兆元(約100兆円)近くへと急増した。

しかしこの分野は近年競争が激しくなっており、PayPalの参入は遅かったかもしれない、と中国で米テック大手に勤めるとあるマネジャーは話した。この人物はメディアに話すことを許可されていないため、匿名を希望した。

オンラインで商品を販売する中国の輸出業者にとって最大のマーケットプレイスの1つであるAmazonでは、小売業者が集金するための確立されたオプションがすでにある。高額な送金手数料はいうに及ばず、海外での銀行口座開設は小さな中国の輸出業者にとっては難しい。よって、そうした業者は往々にして、米国のPayoneer、中国のPingpongLianlianなどサードパーティの送金決済ソリューションに頼る。こうしたサービスの業者の売り上げを母国の銀行口座に振り込む手数料は比較的少額だ。

中国は外国為替と電子決済に関し、厳格な規定を設けている。しかしPayPalはすでに規制当局の認可を得ている。同社は中国の決済会社の株式を購入したのち、2021年1月に中国でオンライン決済の事業許可を得た初の海外企業となった。

政府からの認可の取得は最初のステップにすぎない。PayPalのアピールは主に、中国のeコマース輸出業者にどんなサービスを提供できるのかによるところが大きい。中国ではAmazonやeBayのような企業が溢れかえっている。

「最終的には、顧客はどのサービスが一番安くて使いやすいかを重視します」と前述のマネージャーは話した。

「中国のクロスボーダー決済ソリューションはプロダクト、スケール、手数料の点ですばらしい成果を上げました。PayPalに可能性があるとは思いません」。

それでも、PayPalアプリの広範なリーチを考えたとき、主要なマーケットプレイスで販売する代わりに自社オンラインストアを構築した輸出業者は、顧客からの支払いを受けるためのツールとしてPayPalを必要とするかもしれない。

クロスボーダー決済に関しては、PayPalはずいぶん前から中国で広く使われてきたTencentのWeChat Pay、Ant GroupのAlipayと競合している。WeChat Pay、Alipayいずれも中国の海外旅行客が中国国内と同様に海外の小売店でも決済できるよう、グローバル提携を積極的に進めてきた。そうした海外商品の国内での買い物では往々にして中国企業のeコマースアプリを使う。それらのアプリでは決済処理業者としてAlipayやWeChat Payを使う傾向にある。

現在保留されているAntのIPO目論見書によると、クロスボーダー決済はAntの主な成長目標にもなっている。同社の2020年上半期の売上高における海外事業の割合は約5%にすぎなかった一方、その大半はクロスボーダー決済によるものだった。目論見書を提出した当時、AntはIPOから得られる純利益の40%、額にして528億香港ドル(約7400億円)をクロスボーダー決済と業者サービス、海外での機能性の拡大にあてる計画を持っていた。

「PayPalがAntよりも安い手数料を提供できるかどうかにかかっています」と以前中国企業のクロスボーダーウォレット部門で働いていた人物は語った。「しかしPayPalは安い手数料では知られていません」。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:PayPal中国クロスボーダー決済Ant Group

画像クレジット:Yichuan Cao/ NurPhoto / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

ウルグアイ初のユニコーン、クロスボーダー決済「dLocal」が166億円の調達で評価額は4倍の5535億円超に

クロスボーダー決済のスタートアップdLocalは、前回12億ドル(約1328億5000万円)の評価額で2億ドル(約221億4000万円)を確保してから7カ月も経たないうちに、このたび50億ドル(約5535億3000万円)の評価額で1億5000万ドル(約166億円)を調達した。

これは、設立5年目になるこのウルグアイの企業が、わずか数カ月の間に評価額を実質4倍にしたことを意味する。

今回のラウンドはAlkeon Capitalがリードし、BOND、D1 Capital Partners、そしてTiger Globalが参加した。前回のラウンドはGeneral Atlanticが主導し、2020年9月にクローズした。このラウンドによりdLocalはウルグアイ初のユニコーンとなり、ラテンアメリカで最も企業価値の高いスタートアップの1つとなった。

dLocalは、グローバル企業のマーチャントと、アジア太平洋、中東、ラテンアメリカ、アフリカの29カ国にいる「何十億もの」新興市場の消費者を結びつける。eコマース事業者、SaaS企業、オンライン旅行業者、マーケットプレイスなど、325社以上のグローバル企業がdLocalを利用して、600以上のローカルな支払い方法に対応している。またこれらの顧客は請負業者や代理店、販売者への支払いにも同社のプラットフォームを利用している。dLocalの顧客には、Amazon(アマゾン)、Booking.com(ブッキング・ドットコム)、Dropbox(ドロップボックス)、GoDaddy(ゴーダディ)、MailChimp(メールチンプ)、Microsoft(マイクロソフト)、Spotify(スポティファイ)、TripAdvisor(トリップアドバイザー)、Uber(ウーバー)、Zara(ザラ)などが含まれる。

今回のラウンドの発表とあわせて、dLocalはSumita Pandit(スミタ・パンディット)氏をCOOに任命した。パンディット氏は元JP Morganのフィンテック担当グローバルヘッド兼マネージングディレクターで、Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)にも在籍していた経験がある。

dLocalのCEOであるSebastián Kanovich(セバスチャン・カノビッチ)氏は、声明の中でこう述べた。「スミタ(・パンディット)は、フィンテック分野の投資銀行家として高い評価を得ており、彼女は、世界で最も成功しているフィンテック企業がグローバルリーダーになる過程でのアドバイスを行うという重要な役割を果たしてきました」。

一方、前COOのJacobo Singer(ヤコボ・シンガー)氏はdLocalの社長に昇格した。

同社は新たな資本を活用して技術を強化し、地理的な拡大を続けていく予定だ。

AlkeonのジェネラルパートナーであるDeepak Ravichandran(ディーパック・ラヴィチャンドラン)氏は、新興市場はデジタル決済分野で最も急速な成長が期待できる機会だと考えている。

「しかし、グローバル企業がこれらの市場にアクセスしようとすると、ローカルな支払い方法、国境を越えた規制、その他の運用上の障害など、複雑な問題に直面することが多くあります。dLocalのユニークなプラットフォームは、単一の統合された決済ソリューションにより、数十億人の顧客にリーチし、支払いを受け付け、送金を行い、グローバルに資金を決済できるようにすることで、マーチャントに力を与えます」。

カテゴリー:フィンテック
タグ:dLocal資金調達ユニコーンウルグアイクロスボーダー決済

画像クレジット:Cattallina / Shutterstock

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Aya Nakazato)