非白人女性がシリコンバレーでベンチャー投資を獲得した秘訣

世界のデジタル化が進むと、生身の付き合いがより渇望されるようになる。Squad(スクワッド)は、Z世代やミレニアル世代のための密接な人間関係をキュレートすることにより、招待者専用のコミュニティーとアプリで、オフラインでのつながりを満たそうとしている。

「リアルな人生で人間関係を築く方法を模倣しています」と創設者でCEOのIsa Watson(イーサ・ワトソン)氏は言う。

このアイデアには、すでに投資家のバックアップがついている。Squadは350万ドル(約3億8000万円)のシード投資を手にし、2020年の初めにはシリーズA投資が確定する予定だ。ポッドキャスト「How I Raised It」(私はいかにしてそれを調達したか)で、ワトソン氏は、苦難の末に資金調達を実現した独特な方法の話を聞かせてくれた。

資金調達の前に数年間かけて信頼関係を築く

彼女は、家族からの支援も含めた自己資金を元手に事業を立ち上げた。そして、公式にシードラウンドを開始する前の段階で、シリコンバレーで200回を超えるミーティングを行い、企業創設者としての信用を積み重ねていった。そこが何よりも重要だと彼女は強調する。

「MITを卒業していても、JPモルガン・チェイスで10億ドル規模のプロジェクトのマネージャーを務めていても、巨大なデジテル製品を作り上げていても、私はまだシリコンバレーではよそ者でした」とワトソン氏は話す。

米国の一流大学の卒業生なら、シリコンバレーに行けば即座に受け入れられると考る人もいるが、実際にはそんなことはないとワトソン氏は言う。

「苦労に苦労を重ねて高い信用を築かなければなりません」と彼女。「公式にシードラウンドを始める前の数年間に、私たちが実際に行ったことです。シードラウンドを始めるときには、すでに私の評判が、いわば私に先回りしていて、すっかりおなじみになっていたんです」。

SquadのCEOであるイーサ・ワトソン氏

冷たい売り込みはしない、必ず温かい紹介を通す

シリコンバレーに割って入るためのに200回以上ものミーティングを重ねたワトソン氏だが、血の通わないミーティングは一度もなかった。「多くの企業創設者は、無機的な売り込みを戦略にしているようですが」と彼女。「有効な関係は、人と人のつながりから生まれます」と語る。

自分で築いた人脈が、ワトソン氏が実際の投資家たちとのつながりを得る上で決定的な役割を果たした。「みんなが、次に会うべき3人を紹介してくれます」とワトソン氏。「それが木の枝のように広がって、人脈が乗法的に成長するのです」

Squadに最初に投資したのは、当時GoDaddy(ゴーダディー)で最高製品責任者を務めていたSteven Aldrich(スティーブン・アルドリッチ)氏だった。アルドリッチ氏もワトソン氏も、ともに北カリフォルニアで子ども時代を過ごしていて、アルドリッチ氏の父親が、彼女と同じ街の出身だった。それが最初のつながりを作るきっかけとなった。

「そうした人脈作りを、私はずっと続けてきました」と彼女は話す。「スティーブンは3人の人に私を紹介してくれました。そしてその3人は、それぞれ2人の人に私を紹介してくれました。基本的にそうやって私はボールを回してきたのです」。

すべてのミーティングがコーヒーやランチを必要としていたわけではない。ワトソン氏は電話も大いに活用してネットワークを広げていった。しかし重要なのは、まずそのような人に出会う段階だ。そのため最初の2年間は「まさに粉骨砕身で突き進みました」という。

助言を求めるときは可能な限り具体的に

シリコンバレーの人たちに会ったり、投資してくれそうな人たちの人脈を広げようとするとき、ワトソン氏は投資をねだったり、目的のあやふやな会合を求めたりはしなかった。

ネットワーク作りでは、彼女はまず、鍵となる2つの要素のリサーチを心がけた。本当に強力な製品を作るために必要となる人は誰か、そして、安定した供給とグロースマーケティングを実現するために必要となる人は誰かだ。そのような人を特定すると、個人的に接触し、その人たちの専門分野の具体的な助言を求める。

「『お金が欲しいときは助言を求めろ、助言が欲しいときはお金を要求しろ』とよく言われます」とワトソン氏は話す。「非常に重要となる彼らの時間と頭脳の利用方法を、実にわかりやすく説明した言葉」であり、「ちょっとお知恵を拝借」などという曖昧な要求に付き合っていられるほど、彼らは暇ではないということだ。

誰かとつながりが持てたなら、グロースマーケティングや製品など特定分野の専門家への推薦を必ず依頼する。何人かの名前を挙げてもらえたら電子メールを送るので、紹介状を添えてその人たちに転送してくれないかと頼む。

紹介をもらっても、それで一件落着ではないと彼女は言う。紹介をもらって、その人に会えたなら必ず相手にミーティングの感想と感謝の気持ちを伝える。

「これは本当に本当に親密な人間関係のマネージメントなのです。そしてこれは、心の知能指数がとても高い人たちが得意とすることです」とワトソン氏。「私は、必要なことを特定して具体的な質問をします。そして、力になってくれそうな私たちがやっていることに興味を強く持ってくれそうな3人を紹介してもらえなかったとき、必ずはっきりと聞きます」

秘密兵器は資金調達のクォーターバック

Squadの資金調達を開始する時期だと感じたとき、彼女の最初の一手は資金調達のクォーターバック(司令塔)を見つけることだった。同社の場合は、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)のCharles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏がその役を担った。 ワトソン氏によれば「キッチンには料理人は多すぎないほうがいい」という。意見が多すぎて収集が付かなくなるからだ。

その当時、ハドソン氏はすでに同社に少額の投資をしていたが、それからすぐにワトソン氏は、自分のピッチの感想をハドソン氏に聞くようになった。ハドソン氏は、プロセス実行に関するさまざまな側面で彼女にアドバイスしてきた。

「資金調達について、そのときチャールズが教えてくれたのは、成功を目標の核心に据えることで成功に近づくということでした」とワトソン氏。「受け身ではできないことです」。

そこでハドソン氏とワトソン氏は、ターゲットとする35人のベンチャー投資家のリストを作成した。彼は、話が合わないと彼女が考えていた5人の投資家を紹介した。彼らはまず、その完璧な組み合わせにはなりそうもない投資家たちに会った。スクワットが実際に投資対象として準備ができているかどうかを見極めるために、その投資家たちの意見を参考にしようとしたのだ。

この最初の5つのミーティングでは、1人か2人は「ぜんぜんダメだった」という。あからさまにSquadは拒絶された。しかしワトソン氏は、残る3人とのミーティングを、パートナーミーティングにすることができた。その投資家たちが同社を真剣に考えてくれた証だ。

そのフィードバックをもとに、ハドソン氏はワトソン氏に10人のベンチャー投資家を紹介した。その直後に、シードラウンドを主導したHarrison Metal(ハリソン・メタル)のMichael Dearing(マイケル・ディアリング)氏と出会った。

シード投資家は慎重に選べ

ディアリング氏が300万ドル(約3億3000万円)の条件規約書を提示すると、すぐさま他の投資家からもオファーが届くようになった。

「おかしいですよね。私は2か月半ほど、資金調達で市場を必死に走りまわって、やっとマイケルからイエスを引き出せたんです。それまでお金の話は一切なかったのに」と彼女。「それで、300万ドルの条件規約書を受け取ったと人に話してからほんの数日後に、600万ドルとかの話が来たんです。ベンチャー投資家って、ほんとうに追随型なんですね」。

ディアリング氏に続いて数多くのオファーが出そろうと、彼女はまさにシードラウンドに参加する投資家を選ぶ側になった。どうやって選んだのだろう?

「まずは付加価値です」とワトソン氏は言う。彼女はこう自問した。「必要とする価値はきちんと揃っているだろうか。製品にものすごく強い人が欲しくなるかもしれない。グロースハックに、マーケティングにすごく強い人が欲しくなるかもしれない」。

選択のための2つめの基準は、レジュメから少し離れることだった。単純に、自分の感覚を信じることだ。「投資家たちが、本当に本当に軽視しているのは、その人が人間として善良であるか? ということです。私は、いちばん気持ちよくやっていける人たちを選ぶことにしました。人間関係を通して信頼できると感じられる人たちです。いつでも力になってくれる人たちです」。

【編集部注】著者のNathan Beckord(ネイサン・ベコード)氏は2016年より20億ドル以上の資金調達を行った起業家のための資本調達と投資家管理のためのプラットフォームFoundersuite.com(ファウンダースイートコム)のCEO。また、ファウンダースイートのポッドキャスト『How I Raised It』のホストも務めている。

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(翻訳:金井哲夫)

シリコンバレーは分散可能か?ビジネスは最前線でパーティは遠隔地で

長い間、シリコンバレーの魅力は、この地にやって来ることができるかどうかにかかっていた。そのエコシステムは遠隔地からは機能しなかったからだ。Google VenturesのJoe Kraus(ジョー・クラウス)氏は、私が初めて参加したDisruptイベントで、Y Combinatorを含むほぼすべてのVCを代表して、「私たちは何処に居るのかがとても大切であることを知っています。シリコンバレーに来るべきです」と語ったものだ。

米国人ならそれは簡単だ。だがもしここに来るためにビザが必要な場合は、はるかに大変なことになる。今だにシリコンバレーは遠隔地から機能させることはできないのだろうか?それとも最近は、遠く離れた国々のスタートアップたちに、別の道があるのだろうか?先週私はInitialized CapitalのパートナーであるAlexis Ohanian(アレクシス、オハニアン)氏と、彼の祖先の故郷であるアルメニアの地で、この件について話す機会を持った。

最近は、どんな国でも自国のインキュベーターとシード投資家がいるようだ。アルメニアも例外ではない。私がオハニアン氏と会ったのは「アルメニアとアルメニア人のための」VCファンドである、Aybuben Venturesのローンチイベントでの事だった。私が先週報告したように、アルメニア人のディアスポラ(世界的な民族離散)は多大な効果を発揮している。

さて、もし真剣にシリーズAに取り組む必要が出てきたのに、地元の市場があなたのスタートアップを支えられるだけの規模がない場合には、次はどうなるだろうか?

ほんの5年前でさえ、シリコンバレーと関係を築くためには大変な苦労を強いられていたはずだ。しかし、その後事情は変化した。ベイエリアの人材と(そして不動産)の高騰が、Andreessen HorowitzのAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏の命名による、いわゆる「マレット・スタートアップ」(Mullet Startup)の台頭を促したのだ。そうした会社たちは、シリコンバレーを活用するために、その本社をベイエリアに置いているが、彼らの技術チームはもっと安くスペースも広い場所に置くのだ。つまり「ビジネスは最前線で、パーティは遠隔地で」ということだ。

オハニアン氏が指摘した点は、このマレットモデルが逆方向に働かない理由はないということだった。すなわち、どこか遠隔地で強力な技術チームを持った会社を起業し、ある発展段階に達したらベイエリアオフィスを開設して経営チームを移動し、マレット・スタートアップへと転じるのだ(もし企業として米国にやってくるのなら、ビザのオプションとして例えばEB-5移民投資家ビザを選べるようになるといった事実にも助けられる)。このスタイルを「リバース・マレット」と呼ぼう。PicsArtは、その好例のひとつだ。

このモデルは、遠隔地の技術チームが継続的な競争上の優位となるので、エンジニアリングや技術の厚い才能を抱えている国にとってはとりわけ実現可能なやり方なのだ(これこそが、オハニアン氏がアルメニアの滞在中ずっと、故国の人たちに対してコードを書くことを学ぶことの重要性を説き続けていた理由の一部だ。これはすでにチェスを必修科目としている国にとっては比較的取り組みやすいことだろう)。これらはすべて、理屈の上では素晴らしいもののように聞こえる。

とはいえ、今はまだリバース・マレットのユニコーンたちの群れがいるようには見えない。しかし、もしそれが実現すれば、多大な影響を持つ新しい成長モデルとして、非常に興味深いものとなるだろう。実質的にシリコンバレーが世界中に転移する方法のひとつとなるからだ。だが皮肉なことに、多くの非中央集権化の声は挙がりながらも、そのモデルの成功はやがてシリコンバレーの世界のテック産業の中心としての優位な地位を(すべての惑星を周回軌道上に従える太陽のように)強化することになるだろう。これから3年以内に生まれるリバース・マレットのユニコーンを数えてみよう。ほんの数個以上あれば、答えがわかるだろう。

【編集部注】「Mullet」というのはもともとは魚の「ボラ」を指す単語だった。そこから派生してトップの写真にあるようなヘアスタイル(前が短く襟足が長い)を「Mullet Hairstyle」と呼ぶようになった。それが転じて「立派なトップページは用意されているものの、それ以外の部分はそれほど手間のかかっていないウェブサイト」のデザインを「Mullet Strategy」(マレット戦略)と呼ぶようになっている。上記の「マレット・スタートアップ」という名称はそれがさらに転じたものである。

トップ画像クレジット:Tony Alter/Flickr より CC BY 2.0 ライセンスによる

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(翻訳:sako)

イノベーションのサプライチェーン:アイデアは大陸を横断し経済を変革させる

[著者:Alex Lazarow]
公共、民間、社会分野の投資とイノベーションと経済発展の交差点で活動している。Cathay Innovationのベンチャー投資家であり、ミドルベリー国際大学院MBAプログラムの非常勤教授を務める。

西欧では、微積分を発明したのはアイザック・ニュートンとゴットフリート・ライプニッツなどの17世紀の天才学者だとする考えが一般的だが、理論的な基礎はその数千年前に遡る。基礎的定理は、紀元前1820年の古代エジプトで登場し、その後、その影響がバビロニア、古代ギリシャ、中国、中東の文献に見られるようになる。

世界最大級のアイデアとは、こうした性質を持つ。つまり、世界の片隅で生まれたコンセプトが、未来の発展の足場となるのだ。そのアイデアの本当の価値がわかるまでには時間がかかる。また、さまざまな文化や視点からのインプットも必要になる。

技術革新も例外ではない。

今日のテクノロジー界では、それを次の3つの基本方針にまとめることができる。

  • アイデアはグローバルになったときに改善される。
  • よいアイデアは次第に国際的になる。
  • グローバルに試すことが差別化戦略となる。

グローバルに拡大されたときにアイデアは磨かれる

微積分と同じく技術革新も国際的な切磋琢磨によって磨かれる

たとえばライドシェアは、サンフランシスコのUberとLyftによって先導された発明としてスタートしたが、これらのスタートアップは、すぐさまそのビジネスモデルをグローバルに展開した。そしてそれは、地方のニーズに応える形で進化した。今やインドネシアで独占的な地位を誇るライドシェアアプリ「Go-Jek」の場合を見てみよう。Go-JekはUberとLyftのビジネスモデルをそのままコピーしたのだが、そのコンセプトをジャカルタに昔からある未認可のバイクタクシー「オジェック」に適用させる高度なローカライズを行った。

Go-Jekは、オジェックのドライバーには人を運ぶだけでなく、それ以上の可能性があることに気がついた。同社はドライバーの1日の稼働率を最大限に高めるために、人の移動だけでなく、食事の出前、荷物、サービスの配送もできるマルチサービス・アプリを立ち上げた。Go-JekのCEO、Nadiem Makarimはこう話している。「朝は人を家から職場に送り、昼時にはオフィスに食事を配達し、夕方には人を家に送り、夜には食材や料理を配達します。その合間には、電子商取引や金融商品や、その他のサービスを行っています」

ひとつのライドシェア・プラットフォームで幅広いサービスを提供するというモデルは、明らかにシリコンバレーのオリジナルとは異なる。シリコンバレーでは、「Uber for X」(訳注:人以外のものを運ぶUberのようなサービスの総称)を提供する企業が次々と現れているが、UberEatsのようなUberの最新カテゴリーは、東南アジアのモデルに近い。

シリコンバレーは
イノベーションのアイデアと
製造と流通を独占してきた
しかし
その時代は終わった

さらに言えば、Go-Jekのビジョンは、他の地域のアイデアも採り入れている。中国だ。中国では、TencentのWeChatのようなプラットフォームが、相乗りサービス、買い物、食事の出前、そしてもちろん決済など、自社またはサードパーティーのさまざまなサービスを提供している。WeChatの決済機能(Antに相当する)は、中国の主要都市なら、ほぼどこでも使える。

Go-Jekは、競合相手のGrabと同様に、アプリの一部として決済プラットフォームを組み入れることで、そのモデルを進化させた。Uberが金融サービスに参入したときは驚いた。最近開始したUberクレジットカードがそのひとつだ。

これらのモデルは、他の地域の教訓を学び、採り入れて進化してゆく。

種は次第にグローバルになる

歴史的に、シリコンバレー以外の起業家は物真似だと批判されてきた。サンフランシスコやパロアルトで成功したモデルをコピーして流用しているだけだと。

時代は変わっている。

影響力の強い技術革新は、その多くがシリコンバレーの外で生まれている。アメリカ産ですらない。2018年でもっとも成功した新規公開株の一部を見ただけでも、スウェーデンのSpotify、ブラジルのStone、Cathay Innovationの投資先企業である中国のPinDuoDuoなどとなっている。

起業家は、世界各地のイノベーションを真似ることに務めている。モバイル決済を例にとれば、ケニアのM-Pesaがある。今やケニアのGDPの50パーセントに及ぶ決済額を誇る、ケニア中で使える決済プラットフォームだが、これがグローバルに展開された。現在、世界の275以上の国々に普及している。

何かに特化した地域がある。トロントとモントリオールは人工知能のハブとして成長している。ロンドンとシンガポールはフィンテックのハブとして健在だ。イスラエルは、サイバーセキュリティーと分析技術で知られている。また、地域に根ざす活動が、触媒となってそれをさらに発展させている。たとえば、Rise of the Restは、アメリカの起業家を支援している。Endeavorなどの団体は、世界の起業家のハブの発展に尽力している。

黎明期のイノベーションのサプライチェーンでは、新しいアイデアの発生は、次第にグローバル化されてゆく。

エコシステムが理想的な実験場となる

ブロードウェイは、小さな劇場でショーの人気を試し、それから大きな劇場にかけるという方式で知られている。同じようにイノベーターも、新しく生まれた市場でモデルをテストし、やがてスケールアップしてゆく。

地震の早期警戒システム「SkyAlert」は、その好例だ。地震の揺れ自体で亡くなる人は少ない。倒壊した建物に閉じ込められたり押しつぶされたりする事故が、死因の大半を占めている。理論的に地震は、震源地付近で最初に発生した揺れが外に伝搬する段階を捕らえて、早期警報を出すことが可能だ。SkyAlertは、分散された地震センサーのネットワークを使って、建物から外に避難するよう警報を出す。また、企業と協力することで、安全確保のための手順(ガスの遮断など)を自動化することもできる。

SkyAlertは、サンフランシスコ生まれではない。創設者のAlejandro Cantuは、彼がイノベーションの研究所と呼ぶメキシコシティーで起業した。初期バージョンは、商品化よりもむしろ研究開発を目的としたものだ。メキシコシティーで開発することで、製品のイノベーションのコストがずっと抑えられる。人件費は安いし、企業買収も安い。現在のメインターゲットはアメリカだが、メキシコは事業の初期段階の本拠地であり、実験場となっている。

イノベーターのコミュニティーとして
私たちはそうした流れを
活用する好機に恵まれている

シリコンバレーの技術者が、Amazonの家庭向けドローン配送の話を聞き慣れているが、それと同じように、遠くの新興市場で面白いドローン関連のイノベーションが起きていることは、あまり知られていない。インフラが未整備な開発途上国では、ドローンが人々の命を支える可能性を持っている。Ziplineなどのスタートアップは、インフラが破壊されたり、まったく整備されていない地域で、ドローンを使って一足飛びに問題を解決しようとしている。彼らはルワンダにおいて、保健省と協力しながら、日持ちのしない薬剤や血液を配送している。すでに、彼らのドローンは60万キロメートルをカバーし、1万4000ユニットの血液を運んでいる(これは緊急時の必要量の3分の1に相当する)。

起業家たちは、こうしたイノベーションを、より低コストで、需要が逼迫している市場でテストを行っている。やがて、これらのモデルはスケールを拡大して、先進国に戻ってくる。こうして、イノベーションのサプライチェーンは進化する。

この先にあるもの

Economist誌は、「Techodus」(テクオダス)を予測している。シリコンバレーからのイノベーションの大移動が続くということだ。この話には、深い意味がある。

シリコンバレーは、イノベーションのアイデアと製造と流通を独占してきた。しかし、その時代は終わった。クリエイティブは火花は世界各地で発生し、イノベーターたちは低コストで需要が逼迫した市場でアイデアを試す。そうして、そのモデルは、世界中の体験によって磨かれ完成される。

イノベーターのコミュニティーとして、私たちは、そうした流れを活用する好機に恵まれている。根底から変革に対応できる新製品のアイデアを持っているかだろうか? よろしい。それをグローバルに行える人が他にいるか? 新しいアイデアを試してみたいか? それぞれの土地での利点と欠点は何か? 海外でのイノベーションの体験を、その土地に合わせて導入するにはどうしたらよいか?

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(翻訳:金井哲夫)

裕福な観光客を哀れむバーニングマンの本当の価値

私が、バーニングマンでいちばん面白いと感じる点は、ポスト希少性社会の叩き台になっているところだ。ただ、膨大な費用と資源を必要とし、非常に過酷で不便な場所で行われる実験というのも皮肉な話だ。そこまで行かなければ、世界の金銭的または希少性の階級構造から抜け出すことはできないというわけだ。

もちろん、それだけではない。世界最大級の、もっともクレイジーでもっとも壮大なパーティーであり、巨大なエレクトロニック・ダンス・ミュージックのフェスティバルであり、圧倒的な野外アートギャラリーであり(はかなく、同時に永遠で、美術館のキュレーターも足を運び、コレクションに加える作品を物色する)、実験的コミュニティーであり、世俗的異教徒の儀式であり、幻覚剤の「セットとセッティング」であり、友人との再会、または共に過ごす休日、などなど。これをヒッピーのイベントだと、からかい半分に誤解している人は多い。火炎放射器とギターの比率は100対1で、「安全第三」や「バーニングマンは常に死と隣り合わせであるべき」といった言葉がモットーになっている。またときには、大変に奇妙なことだが、シリコンバレーの休日のハッカソンの延長だと誤解している人もいる。

その最後の誤解は教訓的だ。今年のイベントリストには、いわゆる「ベンチャー投資家および起業家ネットワーキング・イベントとピッチセッション」というものがあった。私は参加しなかったが、親しい友人が参加して教えてくれたところによると、「あれは究極のポーの法則イベントだったよ。……それがジョークだとわかったとき、大勢の人間が本当にがっくりしていた」とのことだった。どうやら、現状の外の世界の社会的階級構造にはあまり反発する様子がないようだ。むしろ興味深いのは、それを真横から見ていることだ。人によっては、理解が難しいところだ。

たしかに、このStanford Newsの素晴らしい記事が伝えているように、バーニングマンはシリコンバレーに大きな影響を与えている。驚くべきテクノロジーがそこで見られるのは事実だ。壮麗な600機ものドローンが群をなして飛んだり、6メートルの高さのテスラコイルが2基並んでいたり、ロボットが勢揃いしていたり。しかし、その作者たちは、自分たちのコミュニティーに作品を見せたいだけであって、不浄な金儲けを企んでいるわけではない。

勘違いしないで欲しいのは、この砂漠の実験的コミュニティーにも、独自の階級構造があり、独自の社会資本があり、そこにたかろうとする者もあり、独自の不文律が大量にあり、大変に人気の(みんなの誇りになっている)独自のロゴもある。しかし少なくとも、みんなで働く、みんなで建てる(テント一張でもいい)、みんなが砂埃と戦って、そして負けて、みんなで物や行動を、受け取るのではなく寄付して社会資本を増やす、そしてみんなが、火を吐く巨大なアートカーの上に乗ったり、バスでやってきて寝る場所がない人たちに狭いテントの寝場所を分け与えたりする同等の参加者となり、近くにいる知らない人を助けたり、協力し合ったり、またはみんなが楽しめるアート作品や技術プロジェクトを作ったりする、という理想はある。

外の世界の階級社会に直交すること、つまり奪うのではなく与える競争は、その他の実験的コミュニティーの中でも、ポスト希少性社会の実質的な叩き台としては魅力的だ。だからこそ、そこに来てコミュニティーにまったく参加しようとしない人は、ひどく軽蔑され、嫌われ、侮蔑される。

もちろん私は、あの悪名高い「ターンキー・キャンプ」のことを言っている。金持ちの(ときには大金持ち)の人たちが、お金を払って六角形のユルトを建てさせ、食事を用意させ、ガイドや学芸員を雇って見物してゆく。あの壮大な光景の傍観者となるためにだ。バーニングマンの参加者とは異質の存在だ。外の世界での高い階級をプラヤに持ち込み、我々の叩き台に、古い退屈な資本主義を感染させようとしている。

裕福な人たち、とくにシリコンバレーから来た人たちが、バーニングマンで大そう贅沢な時間を長々と過ごしていくのは事実だ。2001年、Googleの共同創設者ラリーとセルゲイがエリック・シュミットをGoogleのCEOに選んだ理由のひとつは、候補者のなかで、彼が唯一バーニングマンの参加経験を持つということだった。マーク・ザッカーバーグは、一度、ヘリコプターで飛んで来て、グリルチーズ・サンドウィッチを無料で配って午後を過ごしていったことがある。イーロン・マスクは、彼がバーニングマンで見たようなシリコンバレーの側面が描かれていないと、れテレビ番組『シリコンバレー』を批判した。それでも彼らは、自分で行動している。その体験が、パッケージとして販売されるようになった(とされている)のは、ここ数年のことだ。

それには、みんな非常に腹を立てている。思うに、その最大の理由は、恐れだ。資本主義は「ボーグ」と同じだ。接触したものすべてに感染して、仲間に組み入れてしまう。バーニングマンは、ただの大きな祭になってしまう。それが恐ろしい。実験的なコミュニティーでも、ましてやポスト希少性社会の叩き台でもなくなってしまう。

それなのになぜか私は、とても清潔で裕福な、ターンキー・キャンプから来た大勢の人たちと土曜日の夜を共に過ごすはめになった。短パン姿の老人たちや、染みひとつないピカピカの何千ドルもしそうなバーニングマン風衣装を着た若者たち、それに、「こっちを見ないで、私はセレブなんかじゃありません」的な特注の黄金の面をつけた女性もいた。彼らは昔ながらのツアー観光客のように振舞っていた。ただ違うのは、ガイドが掲げる彼らの目印は旗ではなく、持っているのは旗ではなく、先端に点滅するLEDのハートを付けた長さ3メートルの6ミリ径鉄筋だったことだ。

そして、最初に抱いた彼らへの怒りが収まったあと、私がいちばん強く感じたのは、彼らへの哀れみだった。私は、前述のバスキャンプの中の、砂だらけのみすぼらしい場所で一人でキャンプをしていた。だが、それが何よりもずっと面白く、楽しい時間だった。たしかに、私は(比較的)このイベントを多く経験したベテランだが、初めてだったとしても、そうしていただろうと思う。それに、ここに集まった7万人の人たちの中には、とても裕福で、ターンキー・キャンプに泊まれる人たちも大勢いるのだが、それでもあえて大変な苦労や実験に身を投じ、巨大な像を作ったり、複雑な機械を組み立てたり、比類なく立派なアート作品を創造したりしていた。それは、大きな喜びという報酬を期待しているからだ。あの嫌われ者の観光客たちにも、そこをわかって欲しかった。

だから、そんな観光客は気にしない。バーニングマンは資本主義のボーグと戦う強力なレジスタンスとして生き残ると、私は期待している。だからそこは、文化、コミュニティー、テクノロジーのための、そして近未来のための、面白い実証実験の場所なのだ(同時に、完全にいかれた人たちに埋め尽くされた完全にいかれたパーティーという側面も、またその顔のひとつ)。ターンキー・キャンプの観光客たちが改心することなど、私は期待していない。彼らはその階級にしがみついているからだ。それに対して私たちは、テクノロジーによって可能となる文化とコミュニティーの非常に面白い実験の時と生きている。そして、バーニングマンがそう見える、また現にそうであるように、馬鹿みたいに弾け過ぎたそうした実験が、真実の価値を持つと私は強く信じている。

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(翻訳:金井哲夫)

シリコンバレーはいかにレイバー・デーを祝うべきか

25歳のエンジニアに、「あなたにとってレイバー・デーとは何か」と聞くとしよう。すると彼もしくは彼女は、こう答えるかもしれない。夏の休暇のあとにくるおまけの3日間。あるいは、ドローレス公園でバーベキューをする日。はたまた、学生生活を再び体験するために毎年恒例のタホ旅行をするための日。

いや、シンプルに、普段激務だからゆっくりする日、かもしれない。

スタートアップ業界の創設者や従業員は、週80時間労働を誇るくらい間違いなくよく働いている。エアコンの効いたコワーキングスペースに陣取って電話会議でディールを終わらせようとするさまは、レイバー・デーが最初に祝われた1880年代のひどい労働環境とはまるで違う。

ここシリコンバレーで働く人は、ひどい労働問題は自分とは関係ないと独りよがりな考え方でこの祝日をビールを飲んだりホットドッグを食べたりして得意げに祝うべきではない。その代わり、我々の職場や会社をどれだけ公平でダイバーシティに富み、包括的で、そして倫理的責任のあるものにできるかと考えるのに、この祝日を使うべきだろう。

血塗られた始まり

1882年9月5日、労働者1万人が、生活するに足る賃金を得るために1日12時間、週7日働かなければならない過酷な労働環境に抗議する目的で“モンスター・レイバー・フェスティバル”に集結した。“5歳、6歳という幼い子供ですら国の至るところの製粉所や工場、鉱山で骨折って働いていた。

この抗議の動きは、アメリカ鉄道労働組合が全国的なストライキを行って郵便を運ぶ列車も含む国の輸送インフラに混乱をもたらした1894年にクライマックスを迎えた。Grover Cleveland大統領はこれは連邦犯罪だと宣言し、ストライキ鎮圧のため連邦正規軍を派遣。その結果、30人死亡、けが人多数という労働史上最も血塗られた事件の一つとなった。

それから数カ月後、休まることのなかった労働者の傷を癒やし、安らぎを与えようと、レイバー・デーは国家の祝日に制定された(これは都合よくもCleveland大統領の再選をかけた選挙戦と同時に行われた)

戦いはまだ勝利を勝ち取っていない

今日のシリコンバレーでは、公正な労働条件や生活賃金にかかる戦いというのは、うたた寝や益の多い株式報酬といった現実から程遠いものだ。誰の話からしても、深刻な労働問題の数は大幅に改善をみせている。長時間労働が依然として懸案ではあるが、多くの人が自ら必要以上に働くことを選んでいると認めるだろう。我々の労働環境は完璧ではないが(たとえばスタンディングデスクは完璧に人間工学的ではないかもしれない)、それは命を脅かしたり健康を著しく損なうというものではない。また、平等賃金も懸案だが、スタートアップでの“失敗”後の最悪なシナリオが、テック大企業に入って6桁の給料をもらいながら中間管理職として働くことを意味するのなら、最低生活ができるだけの賃金を稼ぐというのは特に懸案ではない。

今日の職場における課題は墓場的でもなければ死を意味するようなものではない。だが、戦いはまだ終わっていないのだ。我々の職場環境は完璧には程遠い。企業と従業員の力関係は全く平等ではない。

テック業界では無数の問題を抱え、それらは変化を生み出すために従業員から始まる大衆的な動きを必要としている。以下に挙げる問題はいずれも、個別に記事を書けるくらいの複雑さや微妙な要素を抱えているが、なるべく手短にまとめてみた。

1. 平等な労働に対する平等な報酬ー男女間の賃金格差は、他の産業と比較してテック業界はましだが(テック業界では平均4%vs他の全産業平均は20%)、テクニカルな職務において女性の賃金の不一致は、テック業界での他の職務の2倍にのぼる。

2. ダイバーシティー調査ではダイバーシティは改善されているが、それでもテック専門職の76%は依然男性に独占されていて、テック企業で働く人に占める黒人・ヒスパニック系の割合はわずか5%だ。Atlassianによる最新の調査で特に注意したいのは、調査に回答した人の40%超が、自分が働く会社のダイバーシティ・プログラムは改善する必要はない、と感じていることだ。

3. 包括性ー包括的な職場というのは基本的な人権だが、ハラスメントや差別がまだ残っている。Women Who Techによる調査では、テック企業で働く女性の53%がハラスメントを経験したと報告している(多くは、性的なもの、攻撃的な脅し、セクハラ)。男性では16%だった。

4. 委託請負/契約社員ーAmazonのような企業の従業員が福利厚生や上昇する株の恩恵を享受している一方で、企業組織の外辺にいる倉庫で働く労働者の現実は辛いものだ。ジャーナリストJames Bloodworthが出した最新の本によると、英国にあるAmazonの倉庫で働く人は“遠く離れたところにあるトイレの代わりにボトルを使っている”。別の調査では、そうした労働者の55%がうつに苦しんでいて、80%が再びAmazonでは働きたくない、と言っている。類似するケースとしては、自殺や未成年の労働、職場での事故といった次々に出てくる一連の懸案問題にさらに賃金不平等も加わったFoxconnが再び非難を浴びている。Foxconnは世界最大の電気機械メーカーで、AmazonやApple、その他多くのテック企業の製品をつくっている。

5. 企業の社会的貢献と倫理ーシリコンバレーはバブルだが、そこでつくられたプロダクトはそうではない。FacebookとCambridge Analyticaの情報流出があったが、こうしたものは多くの人の生活に大きな影響を及ぼす。オートメーションやAI応用に伴う不確実さや不安は、世界における配置転換の可能性として現れている(Forresterによると、米国だけでも2025年までに2270万人が影響を受ける)。

このように、ここ半年の反シリコンバレーの感情は大きくはっきりと響き渡るべきメッセージを送っているーシリコンバレーで我々がつくるプロダクトや、ディスラプトした産業は、真剣に考慮されるべき労働者にとって本当に重要性を持っている。

より良い労働環境へ

こうした問題を解決するのに、シリコンバレーで働く人々は結束する必要がある。しかしながら、従来の労働組合がその手段とならないかもしれない理由はたくさんある。

まず初めに、単純に、テック企業と労働組合というのはソリが合わない。特に、米国で最も大きい組合の一つ、AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)はシリコンバレーの自由な精神に距離を置いてきた。労働階級とテック産業のエリートの間に明らかにラインを引いている。AFL-CIOのプレジデントは、いかにテクノロジーが労働を変えたかについての最近のスピーチで「過去数年の出来事で、社会が取るべき選択肢はシリコンバレーの億万長者の自由なパラダイスではないことがはっきりした。人種差別的で、権威主義的だ」などと歯に衣着せずに語った。

しかしおそらく、シリコンバレーにおける結集した動きがどんなものになるのかということと、従来型の組合の動きがどんなものになるのかという違いなど大多数の人の興味を引くところではない。関心はいかに少数派を保護するかにある。1880年代、劣悪な労働条件や標準以下の給与はほとんどの人ー男性、女性、子供に影響を及ぼした。組合は多くの人にとって現状を変えるための手段だった。

しかし今日、平均的な25歳のエンジニア男性にとって、ダイバーシティや包括性を進めること、オフショアの従業員の不当な待遇について発言することは、給与や雇用マーケットにおける好ましさ、労働条件にまったく影響しない。彼は競争の激しい雇用マーケットでの貴重な“つて”としてへつらわれるという特権を謳歌するだろう。しかしオンデマンドサービス的に仕事を請け負う人はそうではないだろう。また、威圧的なボスを持つ女性もそうだろう。これこそが、我々が目を覚ますことがかつてなく大事な理由だ。彼らの味方やパートナーになるだけではなく、特権階級ではない同僚や、我々の会社やプロダクトを使う人々に影響を及ぼす要因を克服する者となるべきなのだ。

だから今度のレイバー・デーは、ビールやホットドッグを楽しみながらも、全ての人のためのより良い労働環境を勝ちとろうと戦い、血を流した人々のことに思いを馳せてほしい。そして火曜日、将来に向けてダイバースや包括性、そして倫理的責任のある会社にするための戦いをいかに継続できるかということに備えてほしい。

イメージクレジット: Hero Images / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

ジャーナリストから投資家への転身――元TechCrunch社員がたったひとりで立ち上げたVCファンドDream Machine

5年ほど前、Alexia Bonatsos(旧姓Tsotsis)はTechCrunchの共同編集長として働いており、スタートアップ界では名のしれた存在だった。さまざまなスタートアップやファウンダーとも顔見知りだったBonatsos。しかし彼女が本当にやりたかったのはスタートアップ投資だった。

「私はかなり早い段階でPinterestやWish(当時はまだContextLogicという名前だった)、Uber 、Instagram、WhatsAppの記事を書いていた。そのため、自分はいいタイミングにいい場所にいる(つまりラッキーだった)か、うまく自分に情報が流れるようになっているんじゃないかと感じるようになり、『もし投資したらどうなるんだろう?』と考えずにはいられなかった」と語るBonatsos。

それから彼女は複数のベンチャーキャピタル(VC)と話をしたが、それが具体的な仕事につながることはなかったため、やりたい仕事を自分で作ろうと考えた。まずBonatsosは2015年にTechCrunchを去り、スタンフォード大学ビジネススクールの1年制修士プログラムへの参加を決める(Bonatsosいわく、他の投資家と「対等に話せるくらいの知識を身につけたかった」とのこと)。そして修士課程在籍中も修了後も、Bonatsosはさまざまな起業家と面談を繰り返し、ストーリーの伝え方や情報発信のやり方、多くのフォロワーを抱える人の説得方法など、彼女がTechCrunchで培ったスキルを彼らに伝えていった。

彼女は単にネットワークを広げようとしていたわけではなく、それと同時に個人投資家から資金を集め、徐々に第一号ファンドの準備を進めていたのだ。そして昨年12月、Bonatsosは遂にサンフランシスコにDream MachineというVCを立ち上げ、2500万ドルをファンドの目標金額としSEC(証券取引委員会)への登録も完了させた。

しかしたとえ2500万ドルという調達目標に近づこうが到達しようが、(元ビジネスジャーナリストらしく)規制上のリスクを考慮して彼女は資金調達に関する情報を公にするつもりはないようだ。とは言いつつも、先日話したときに彼女はすでに7社に投資した(うち1件はトークンセールへの参加)と教えてくれた。さらに投資先の共通点については、未だに成長を続けるシェアリングエコノミー、そして最近盛り上がっている非中央集権というトレンドがヒントだと語った。

そんなDream Machineの投資先のひとつが、先週TechCrunchにも関連記事が掲載されたTruStoryだ。CoinbaseやAndreessen Horowitzでの勤務経験を持つPreethi Kasireddyが最近立ち上げたこの会社は、ブログやホワイトペーパー、ウェブサイトの情報、ソーシャルメディアの投稿などをファクトチェックできるプラットフォームを開発している。彼らは「ブロックチェーンを使い、情報のヒエラルキーを確立するシステム」を構築しようとしているのだとBonatsosは言う。なおTruStoryの株主には、True VenturesやCoinbaseの共同創業者Fred Ehrsamなども名を連ねている。

さらにDream Machineは、サンフランシスコを拠点にオンデマンドの貸し倉庫サービスを提供する、設立4年目のOmniにも投資している。倉庫に持ちものを預けるだけでなく、Omniのユーザーはプラットフォーム上で所有物を貸し借りできるため、家でホコリを被っているものを使ってお金を稼ぐことができるというのが同社のサービスの売りだ。Bonatsosも最近Omniを利用し、投資家仲間が一度着たきりクローゼットの奥にしまっていたドレスを借りたのだという。なおプラットフォームに掲載される写真はOmniが撮影し、ユーザーは知り合いだけに貸し出すか、赤の他人にも貸出を許可するか選べるようになっている。

そして3社目となる投資先がFable Studiosだ。おそらくこの企業がBonatsosの夢でもある「サイエンスフィクションを現実にするチーム」にもっとも近い。Oculus Story Studio出身者で構成されFable Studiosは、一言で言えばAR・VRコンテンツ専門のクリエイティブスタジオ。彼らは今年のサンダンス映画祭でそのベールを脱ぎ、会場では同社の初期プロジェクトのひとつである三部作構成のアニメシリーズ『Wolves in the Walls』が上映された(トレーラーはこちら)。

Fable Studiosはこれまでの調達額を公開していないが、Dream Machineの他にもShasta Venturesや起業家兼投資家のJoe Lonsdaleらが同社に投資している。

普段どのように投資先を見つけるのか尋ねたところ、Bonatsosは自分がネットワーキングをまったくためらわないタイプであることが助けになっていると答えた(実は先日ある業界イベントに参加した彼女の様子を私たちは観察していた)。

さらにBonatsosは、彼女のように唯一のジェネラル・パートナーとしてファンドを運営する人が、まだわずかではあるものの最近増えてきており、彼らとの協業や情報交換も役立っていると話す。

Product Huntの創業者Ryan Hooverもそんな“ソロVC”を立ち上げたひとりだ。現在彼はWeekend Fundという300万ドル規模のファンドを運営しており、昨年の設立以来、10社前後のスタートアップに投資している。他にもProduct Huntの初期の社員で、現在はShrug Capitalで300万ドルを運用するNiv Dror、「技術面には明るいがネットワーキングが不十分な起業家」を支援するプレシードファンドのBoom Capitalを立ち上げたCee Cee Schnugg(Boom Capital以前は、Google元CEOのエリック・シュミットが立ち上げたInnovation Endeavorsファンドで4年半勤めていた)がいる。

さらに今年に入ってからシードファンド22nd Street Venturesを設立したKatey Nilanは、ファンド立ち上げ以前、さまざまな分野でマーケティング・広報関連の仕事に6年間携わっていた。

Dream Machineをはじめとするこれらのシードファンドが、今後成長はおろか生き残れるかどうかも、もちろんまだわからない。有名なシードファンドで働くあるベンチャーキャピタリストは、シードステージ投資が「狂乱状態」にあると話す。現在、大手のシードファンドやアクセラレータープログラム、新進気鋭のファンドなどから膨大な資金が流入しており、日を追うごとに将来有望なスタートアップに投資するのが難しくなっているというのだ。

しかしBonatsosは特に心配していないようだ。ちなみにDream Machineの初回投資額は平均30万ドルほどで、投資先候補の創業者の起業経験は問わないのだという。

というのも彼女には、起業家との広大なネットワークやシード投資家の知り合いからのサポート、そしてTechCrunch時代から培ってきた直感がある。またBonatsosは、他の投資家よりもずっと早い段階での投資もいとわないと語る。

「心配するのをやめ、野心的なビジョンを持って投資に臨むだけ」とBonatsosは言う。何年間もスタートアップ界にいる彼女がよく知っている通り「不確実性が高い投資こそリターンが期待できるのだ」。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

あるVCがファンドの規模を急激に拡大しないワケ――業界の流れに逆行するEmergence Capital

テック業界への投資を強化しようとする機関投資家が増えたことで、シリコンバレーでは実績のあるベンチャーキャピタル(VC)が資金調達で困ることはない。今年の3月にはSECに提出された書類によって、General Catalyst13億7500万ドルのファンドを立ち上げたことがわかった。これは同社の18年におよぶ歴史の中でも最大規模だ。設立から35年が経つBattery Venturesも、今年に入ってから2つのファンドを組成し、合計調達額は同社史上最大だった。さらにSequoia Capitalは、複数のファンドを通して合計120億ドルを調達中だと報じられており、これは同社だけでなくアメリカ中のVCを見渡しても、これまでになかった規模だ。

設立から15年のEmergence Capitalもやろうと思えば彼らのように巨額の資金を調達できただろう。同社はエンタープライズ向けのプロダクトやSaaSに特化したアーリーステージ企業への投資を行っており、その実績には定評がある。Emergence CapitalのポートフォリオにはストレージサービスのBox(上場済み)やソーシャルネットワーキングのYammer(2012年にMicrosoftが12億ドルで買収)、生命科学や医薬業界向けのCRMで有名なVeeva Systemsなどが含まれている。Veevaにいたっては、2013年の上場でEmergenceに300倍以上ものリターンを生み出したと言われている(Emergenceは650万ドルの投資で手に入れた31%の株式をIPOまで保有し続けた上、彼らはVeevaの株主の中で唯一のVCだった)。

そんなEmergenceであれば、第5号ファンドで何十億ドルという資金を調達できたはずなのに同社はそうしなかった。カリフォルニア州サンマテオに拠点を置く彼らは、その代わりに2015年に設立された3億3500万ドルのファンドから調達額を30%だけ増やし、先週の金曜日に4億3500万ドルの投資ビークルを設立した。

先日、Emergenceの共同創業者Jason Greenと話をする機会があった。彼は4人いるジェネラル・パートナーのひとりでもあり、同社の要と言える存在だ。私たちが特に聞きたかったのは、なぜ在シリコンバレーの他のVCのように、前回のファンドから調達額を大きくひきあげなかったのかという点。この質問に対しGreenは「私たちは プロダクトマーケットフィットを目指すアーリーステージ企業のなかでも、一緒に仕事がしやすいコアメンバーがいる企業に絞って投資を行っている」と答えた。このターゲット像が変わっていないため、ファンドの規模も変える必要がないと彼は言うのだ。

とは言っても社内ではいくつかの変化があった。2016年にはKaufman FellowsからEmergenceに移って3年のJoe Floydがパートナーに昇格。なお、Kaufman Fellowsは2年間におよぶベンチャーキャピタリスト育成プログラムを運営している。またEmergence Capital共同創業者のBrian Jacobsは、このたび新設されたファンドにはタッチしないのだという。そこでGreenにJacobsは仮想通貨投資を始めようとしているのか(最近よくある動きだ)と尋ねたところ、彼は「Jacobsはそれよりも慈善活動に取り組もうとしている」とのことだった。

Emergence初の投資先はSalesforceだった。それ以外にも、2016年にServiceMaxをGEへ9億1500万ドルで売却し、昨年にはIntacctをSage Groupに8億5000万ドルで売却。新しい企業への投資は年に5〜7社といったところだ。続けて私たちはEmergenceがどうやってその5〜7社を選んでいるのかという問いを投げかけた。

するとGreenはまず、Emergenceは「テーマを重視している」のだと答えた。そして、同社は設立当初からSaaSやクラウド、ホリゾンタル(業界を問わない)なアプリケーション、そしてエンタープライズ向けプロダクトに特化してきたが、今後は関連分野の中でもう少し業界を絞っていこうとしているとのことだ。最初のターゲットは「コーチングネットワーク」とGreenが呼ぶプロダクト群で、これはエンタープライズ向けの機械学習テクノロジーと読み替えることができる。たとえば彼らの投資先でシアトル発のTextioは、AIを搭載したツールでビジネスライティングの可能性を広げようとしている。また、営業電話の音声を分析し、営業チームにリアルタイムでフィードバックを送るシステムを開発するChorusもEmergenceの投資先だ。Greenがこのようなプロダクトを総称して「コーチングネットワーク」と呼ぶのは、システムが人間を代替するのではなく、人間の仕事のパフォーマンスを上げるための手助けをしているからだという。

またEmergenceは、“デスクレス”労働者にも注目している。デスクレス労働者とは、世界の労働者の80%にあたる、オフィスの外で仕事をしている人たちのことを指す。これは決して新しいトレンドではないが、「早いイニング」だとGreenは語り、関連テクノロジーは「世界中のチームで徐々に浸透し始めている」のだという(急成長を続けるビデオカンファレンスシステム企業Zoomへの投資も恐らくこのカテゴリーに入るのだろう)。

Greenは具体的な投資額については明言しなかったが、従来のVCのようにEmergenceは投資先の株式の20%以上を保有するようにしており、「シリーズAから(イグジットまで)通して」企業をサポートしているのだという。

また最新のファンドで新たに加わった投資家がいるのかという問いに対しては、「財団法人や基金への寄付など、リターンを世のために使うだろうと私たちが信頼できる何社/人かをリミテッドパートナー(LP)に選出した」と答えた。

現在の流れとして、巨額の資金を調達しないことが「だんだんと珍しくなってきている」とGreenは語る。「今は簡単に多額の資金を調達して思いっきり投資できてしまうため、かなりの自制心がいる。そんななかEmergenceはずっと軸をブラさずにいることを誇りに感じている」

結局のところは「自分がやっていて楽しいことがすべて」だと彼は続ける。「私たちは単にお金を賭けているわけではなく、事業に直接関わるのを心から楽しんでいるのだ」

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(翻訳:Atsushi Yukutake

シリコンバレーを有効活用するためのサテライトオフィスという選択

Silicon Valley from above

【編集部注】執筆者のAndrew GazdeckiはBizness Appsのファウンダー兼CEO。

スタートアップのエコシステムが、ユタ州シアトルダラスデンバーシカゴニューヨークシティなどアメリカ中の街で根付き始めている中、全ての街がシリコンバレーの成功の法則をコピーしようとしている。SSTIのデータによれば、ベンチャーキャピタルによる投資も以下のようにアメリカ中に広がっている。ニューヨーク州(の企業に対する投資額):44億ドル、コロラド州:8億ドル、ジョージア州:8億3600万ドル、アリゾナ州:1億1300万ドル、デラウェア州:9800万ドル、ネバダ州:4500万ドル、オハイオ州:3億ドル、イリノイ州:10億ドル、アイダホ州:200万ドル、カンザス州:5000万ドル、インディアナ州:5400億ドル、フロリダ州:8億6400万ドル、コネチカット州:5億6300万ドル。

全国のスタートアップエコシステムが広がりを見せている一方で、ベンチャーキャピタルによる投資総額の47%を占める、272億ドルという投資額を誇るシリコンバレーと肩を並べるような街は存在しない

しかし、シリコンバレー以外で事業を展開することにはメリットも多くある。人材獲得や事業の確立のしやすさ、自分のビジネスを脅かすような数十億ドルの評価額を誇る企業がいないことなどが、その例として挙げられる。

とは言っても、シリコンバレー優位の状況は変わらない。そこで、前述の街やこれから自分たちのテクノロジーハブを成長させようと考えている地域は、「どのようにシリコンバレーのリソースを活用して自分たちのエコシステムを成長させることができるのか?」という問いに答えていかなければならない。

シリコンバレーのリソースの活用

次のAppleやGoogle、Facebookを育てることで、各地域は何千というテック系の雇用を創出することができ、短期的には地元経済へも大きな変化をもたらす可能性がある。しかし投資家やメンターから得られる適切なリソース無しでは、その実現は極めて困難だ。

まず投資家は地元企業へ投資したがる傾向にある。地元が同じであれば、スタートアップがプレゼンを行う際のハードルが下がり、投資家も共同出資がしやすくなる。300を超えるベンチャーキャピタルが何千ものエンジェル投資家と共に、ベイエリアに拠点を置いていることを考えると、シリコンバレー以外のスタートアップは資金調達において不利な立場にいると言える。

スタートアップはシリコンバレーにいなくとも、その恩恵にあずかることができる。

かと言って、スタートアップはシリコンバレーでだけ成功できるというわけではない。さらに、エンジニアやベンチャーキャピタルからの投資を必要としている企業は、シリコンバレーに拠点を移さなければならないと言うつもりもない。そもそもそんなことは不可能だ。

スタートアップエコシステムを成長させようとしている地域は、むしろベンチャーキャピタルや投資家の知識をひきつけるような施策をとらなければいけないのだ。

例えばサンディエゴは独自の取り組みを行い、投資誘致に成功した。同市は11億5000万ドルもの投資を受け、そのほとんどが成長著しいバイオテクノロジー企業への投資だった。しかしこれはサンディエゴにとって良い兆候なのだろうか?

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もちろんだ!しかし11億5000万ドルという投資額自体は目を見張る数字である一方、これはアメリカ全体のベンチャーキャピタルによる投資額の2%にしかならない。サンディエゴはこの(ベイエリアと比較した際の)偏りに気づき、シリコンバレーと協力してエコシステムを成長させるための新しい取り組みをはじめた。

究極的には、国中のテクノロジーハブを育てるために重要なのは、各地のテックスタートアップとシリコンバレーのリソースを結びつけるような方法をみつけることなのだ。

シリコンバレーとの溝を埋める

シリコンバレー以外の地域に拠点を置く企業への投資を考えるベンチャーキャピタルにとって、他地域のスタートアップとシリコンバレーとの溝を埋めることがひとつの命題となっている。さらなる経済成長やイノベーションが、シリコンバレー外の企業からもたらされる可能性があるということが明らかになる中、多くの企業はアメリカ中のテクノロジーハブにサテライトオフィスを設立しだした。そしてこれは両者の溝を埋めるための理想的な方法だと考えられている。

他地域の企業とシリコンバレーを繋げる「橋」としてのサテライトオフィスをつくることで、スタートアップは両者の良い所をうまく利用できるのだ。地元でオペレーションを行うことで彼らは(ほぼ間違いなく)オペレーションコストを下げることができ、「橋」を利用してプレゼンスを持つことで、シリコンバレーの恩恵にあずかることもできる。

多くのベンチャーキャピタルが、チャンスさえあればシリコンバレー外のスタートアップにも喜んで投資するとさえ言っている。投資家のKarim Farisは、他地域のスタートアップへの投資は「新鮮な空気を吸い込む」ようだと言い、「各エコシステムは違った考え方を持っています。さらにそれぞれの地域が、他の地域には無い強みを持っているので、そこから新しいことを学んでいくのも魅力のひとつです」と話していた。

San Diego Venture GroupMike Krennは、サンディエゴの企業とシリコンバレーの投資家の結びつきを強めるための新たな施策を打ち出している。彼らはカリフォルニア州南部に拠点を置く企業のために、シリコンバレーにSan Diego Business Hubを開設中で、地元企業が拠点を移さずにシリコンバレーに眠る資本へアクセスできるような仕組みをつくろうとしている。

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他の地域も、このような「サテライトオフィス」をシリコンバレーにつながる窓のようにとらえ、サンディエゴのような施策を検討した方が良いだろう。そうすれば、シリコンバレーの人材やリソースを直接目にすることができ、もしかしたらシリコンバレーの人材や投資家も彼らに目を向けるかもしれない。サンディエゴはシリコンバレーを競合としてではなく、リソースとして見ており、他の地域も彼らに学ぶべきなのだ。

そうすることで、地元企業はシリコンバレーでのオペレーションに伴う多額のコストを負担する必要もなくなり、多額の資本へもアクセスできるようになる。ベンチャーキャピタルやテック系の人材は川のようにシリコンバレーを流れていると知られており、その流れを変えるよりも、直接今ある川にアクセスする方が賢い戦略だと言える。

実際にスタートアップはシリコンバレーにいなくとも、もっと良い方法でその恩恵にあずかることができる。サテライトオフィスを開設して、両方の利点を享受すれば良いのだ。サテライトオフィスを置くことで、どの地域にいるスタートアップも全てをまとめて西に移動することなく、シリコンバレーの人材や資本にアクセスすることができる。

なぜサテライトオフィスがWin-Winの状況を生み出せるのか

他地域の企業に対して、シリコンバレーのリソースにアクセスするための窓を用意するというのは、激化する競争への回答になるかもしれない。評価額は誰かがコントロールできるものではなく、投資家は自分たちが拠点を置く地域以外へも投資を分散させようとしているのだ。

しかしほとんどの投資家は、自ら外に出て投資チャンスを探そうとまではしていない。実際のところ、シリコンバレー外の企業へ投資を行うことに興味を持っている投資家以上に、有能な人材の少なさを理由に他の地域に拠点を置くスタートアップへの出資を嫌がる投資家の数は多い。

つまり各地域のスタートアップは、投資家をわざわざ引っ張ってくるのではなく、彼らが居る所に向かうような戦略をとらなければならない。投資家が他地域のスタートアップと会いやすく、地元の魅力を感じられるような戦略だ。シリコンバレー外のスタートアップは、投資家が自分たちと会うハードルを下げ、彼らが真剣に投資を考られるような施策をとることができる。

そうすることで他地域のスタートアップは、シリコンバレーでのオペレーションにお金をかけずに、人材や投資を狙うことができる。テック系の人材は自然とシリコンバレーに集まるようになっており競争も激しいため、シリコンバレーは人材採用のハブとしても素晴らしい利点を備えている。

サテライトオフィスという手段をとることで、他地域のスタートアップは地元の良さを利用しながら、シリコンバレーのベンチャーキャピタルや人材にもアクセスできるようになる。これこそが新しいエコシステムを成長させるためのレシピであり、投資家もこのようなアドバンテージを持つ企業に目を向けはじめるようになるだろう。

全員にとってWin-Winな状況をつくる

アメリカ中の各地域はシリコンバレーのリソースを活用すべき、というのが本記事の結論だ。そうすることで他地域のスタートアップの道が拓け、投資家をひきつけることができる。その結果、シリコンバレーの影響力がさらに広がり、各地域はその恩恵にあずかることができる。

また各地域をシリコンバレーと結びつけるということは、関係者全員にとって良いことだ。シリコンバレーの投資家にとっては、新たな投資チャンスがまとめて家の前まで来るようなもので、各地域も新たな人材や資本の流入によって地元経済を活性化することができる。

シリコンバレー以外に拠点を置くスタートアップは、自分たちがどのくらいのシェアを握っているのかだけを心配するのではなく、シリコンバレーとの溝を埋めようとすることで、地域経済の成長を促進することができるかもしれない。これこそが、スタートアップ各社が全米に活動範囲を広げ続ける中、現在起きていることなのだ。そして、この動きから全員が何かを得ることができる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

シリコンバレーでは、スタートアップ経験が履歴書代わりになりつつある

WE ARE HIRING, vector. Card with text in hands. Message on the card WE ARE HIRING, in hands of businessman.  Isolation on background. Vector illustration flat design style. Template.

編集部:筆者のSaeid FardはCrunch Network Contributorで、Sokanuのデジタル・デザイナー兼プロダクト担当。

エンジニア5人とその仲間が集まってエンジェル投資をいくらか募り、スタートアップを設立したと思ったら、ほとんどもしくは全く収益もないまま1000万ドルで売却。一体どういうことなんだ? ありがちな解釈ならば、ITバブル、思慮のない”アクハイヤー”(買収による人材獲得)、あるいは不合理な共同幻想ということになるだろう。

しかし、もう少し大きな視点から見れば、たとえば超一流の人材が報酬を得る方法が根本的に変化したとか、何か別の現象なのかもしれない。

約10年前、最後のITブーム以前には、最も優秀な新卒学生はウォール街でキャリアをスタートしたものだった。今日では、ますます多くの新卒者が、アメリカの新たな経済的中心地であるシリコンバレーに照準を合わせている。そこでは理想主義や「世界を変えてやろう」というカルチャーを押し出してはいるものの、実際にはウォール街と同様、優秀な若手を魅了する金と権力への約束がまん延している。

両者の似通った点はそれだけではない。テクノロジーの世界でも、成功は売上規模と短期での投資回収にかかっている。何十億ドル規模のヘッジファンドの運営陣は、5~6人程度のことが多いのと同様に、2~3人のエンジニアで何十億ドルも生み出すプロダクトを開発することができる。これら2つの産業はどちらも労働効率が非常に良い。よく言うように、優秀なエンジニア1人は、良いエンジニア10人分に匹敵するのだ。

効率の追求は、一流の人材を獲得するための巨額のインセンティブにつながり、その結果、皮肉にも使えない人材を高い費用で雇ってしまうことになりがちだ。今こうして技術革命の黎明期にあるシリコンバレーは、いうなれば「開拓時代の西部の荒野」のようなものだ。大企業が生き残りと長期的な市場シェアをかけて戦いを繰り広げる世界では、どの人材を雇うかはずっと先まで影響をもたらし続ける重要事項だ。

しかしテクノロジー業界は金融業界とは異なり、価値ドライバー、つまりエンジニアやデザイナー、その他プロダクト担当者を評価し、能力に見合った報酬を出すのはもっと難しい。MBA用語的に言えば、これはバンカーやトレーダーがレベニューセンター(収益に責任を負う部門)なのに対して、エンジニアとデザイナーがコストセンター(費用だけが集計される部門)であることが原因だ。金融業ならば社員の純益への貢献は簡単に評価が可能で、スター社員を見分けたければ「いくら儲けたか見せてみろ」と尋ねれば済む。

一方でエンジニアの場合、プロジェクト全体への貢献や、プロジェクトの成功が事業の存続にどれだけ貢献したかをはっきりと測るのは困難だ。トレーダーの場合なら、先の取引で上げた利益がその人材の価値になる。では「インフラストラクチャ分析チーム在籍の某エンジニア」の価値は一体どれだけだろうか。

どの人材を雇うかは、ずっと先まで影響をもたらし続ける重要事項だ。

テクノロジー業界は、いまだにエリート人材への報酬はどうあるべきかを模索中だ。なぜなら、これまでにコストセンターが業界全体の収益に対して影響力をふるったことなどなかったからだ。たとえば製薬業界の場合でも、事業の命運はプロダクト(の研究開発)にかかっている。しかし製薬関連でスタートアップを立ち上げる手間とコストは一般に高すぎるため、ガレージで何かを作るようなことは不可能だ。その結果、研究開発チームの貢献度は高くても、経営側に対する発言力は高くはならない。

こうした事情と背景は、興味深いインセンティブ・システムを創りだした。雇用側は一流の人材を確保したいし、高額な報酬も喜んで支払う気でいるが、情報の非対称性とエリート社員の持つ交渉力の問題がある。世界中のGoogleのような企業は、業界トップレベルのプログラマーになら法外な金額を支払うことができるし、実際にそうするだろう。しかし、たとえばスタンフォード出の新卒学生の場合になると能力自体は測定不能なので、その人材が今後トップ・プレイヤーになるかは「予測」しかできない。しかし少なくとも、100万ドルの契約金を正当付けるだけの説得力がないことは明らかだ。

テクノロジー業界では、頭が良くて野心のある若手へのインセンティブは、従来の労働モデルと同列に考えることはできない。大手企業に入社して、実力を証明したり、自分の価値が認められるよう社内政治に精を出したりすることに何年もの年月を費やしたとしても、本来桁外れであるべき報酬が十分に支払われない可能性も高い。だが代わりにスタートアップを立ち上げて成功すれば、一生分の給料をものの数年で稼ぐこともできるだろう。

スタートアップの評価は、売上のような従来型の指標に依存しないことも特徴だ。なぜなら、そもそもスタートアップというものは、事業やプロダクトとしての成熟など全く意図していないからだ。最高のケースでは、もっと大きな企業の製品ラインナップにニッチなプロダクトとして加わり、営業チームが代わりに広めてくれる。最悪のケースでも、その人材がプロダクト開発ができることの証明にはなるだろう。スタートアップでの経験は「生きた履歴書」となり、採用時には履歴書と実力のギャップを縮めてくれるだろう。

このようにして、スタートアップは人材市場の空洞を埋めはじめている。「スタートアップを立ち上げる」という行為そのものが、自分は雇われる価値があると証明し、自らが創出した価値をさらに増幅するための影響力を得る手段になるのだ。企業側としても、人材の過去の実績そのものは入手できなくても、だれかが何年もかけて開発したプロダクトと、それを生み出した頭脳を活用する権利は獲得できることになる。

では、スタートアップがたどる最も一般的な道のりとはどのようなものだろう? 率直に言うなら、それは「失敗」だ。さまざまなサクセス・ストーリーはあっても、大成功を収めるビジネスはほんの一握りだ。加えて、どのスタートアップも口をそろえて自社の使命や世界の変革のようなことを振りまくけれども、ファウンダーの多くはただ単に何百万ドルかを稼いで、自分のエゴと財布を満たしたいだけなのだ。

注目を浴びる大ヒット・ビジネスのたどった道のりだけを見てスタートアップの価値を判断したならば、シリコンバレーで起きていることの多くは正気の沙汰には見えないだろう。けれども一部のスタートアップを人材市場にとっての「機能の追加」として捉えるなら、少しは理にかなっているかもしれない。

画像提供: ANASTASIIA_NEW/GETTY IMAGES

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(翻訳:Ayako Teranishi / website