ペットテックのシロップが2億円調達、データを軸に飼い主とペットに最適な情報提供へ

保護犬猫のマッチングサイト「OMUSUBI」やペットライフメディア「ペトこと」を展開するシロップは1月29日、複数の投資家を引受先より総額2億円を調達したことを明らかにした。今回の投資家にはジェネシアベン チャーズ、セレス、コロプラネクスト、三浦崇宏氏(GO代表取締役)のほか、社名非公開の上場企業や匿名の個人投資家も含まれる。

シロップは2015年設立のペットテックスタートアップ。今回調達した資金を活用して人材採用を強化するとともに、蓄積したデータなども活用して既存事業のサービス拡充を進める計画だ。

なお同社では昨年4月に既存投資家やチュートリアル・徳井義実氏ら複数の個人より8000万円を調達。それ以前にも複数回に渡って数千万円規模の調達を実施済み。今回も含めると累計調達額は約3.5億円となった。

ペット版Pairs「OMUSUBI」は会員1万人突破

現在シロップの事業の軸となっているのは冒頭で触れた2つのサービスだ。

保護犬猫と飼い主をつなぐOMUSUBIは「ペット版のPairs」と言えばわかりやすいだろう。仕組み自体は非常にシンプルなマッチングサービスではあるが、保護団体の完全審査制を取り入れ、密なカスタマーサポート体制を構築することで譲渡トラブル回避や譲渡率向上を目指してきた。

審査済みの登録保護団体数は昨年4月から約2倍に増え、100団体を突破。会員数も1万人を突破している。

大きなアップデートとしては昨年8月にデータレコメンド機能「相性度診断」を追加。ユーザーからライフスタイルや好きなタイプなどの嗜好データを収集し、犬や猫のプロフィールデータと照合して相性度を可視化する仕組みを導入したところ、月間応募件数が2倍以上になったという。

「犬や猫は100種類以上いて種別の特徴や性質はそれぞれ異なる。それを度外視してしまうことがミスマッチにも繋がるが、事前に全てを把握することは難しいのでデータを活用してマッチングをサポートしている。たとえば最初は何となく猫を希望していたが、嗜好データなどを踏まえると実は犬の方が相性が良く、実際にマッチングに至ったケースもある」(シロップ代表取締役の大久保泰介氏)

現在は保護犬猫を対象にしているが、ゆくゆくはそれ以外の犬猫と飼い主のマッチングにも広げていくことを検討しているそうだ。

このOMUSUBIが人とペットとの“出会い方”を変えるサービスであるのに対し、ペトことはメディアを通じてペットの“育て方”を変える。獣医師などペットの専門家150名以上が執筆・監修している点が1つの特徴で、オススメのお出かけスポットやグッズから、獣医療や栄養知識まで幅広いコンテンツを提供。最大時のMAUは160万人だ。

ビジネスの観点ではタイアップ広告やOMUSUBIと連動したソーシャルグッド・SDGs文脈のプロモーションのほか、記事経由での宿泊施設の予約やAmazonでのグッズ購入によるアフィリエイトも一定の規模に達しているというのは前回も紹介した通り。現在は正式展開に向けて準備中ではあるものの、昨年にはフード領域の新サービスとしてドッグフードのD2C「PETOKOTO FOODS」を開発した。

昨年9月にベータ版をスタートしたものの、事前予約申し込みが600名を超えるなど継続的な安定供給が難しくなったため販売体制の構築に向けて中断。まずは限定的に販売を再開し、春頃を目処に規模を拡大していく計画だという。

データ活用で飼い主とペットに最適化した情報を提供へ

大久保氏が今後の注力ポイントにあげていたのが、前回に引き続きデータの活用だ。特にペトことにおいては春頃からデータを用いたパーソナライズ機能を実装する予定。「蓄積されてきた飼い主やペットのデータを活用するフェーズ」(大久保氏)に差し掛かり、ユーザーごとにマッチした情報を配信していく。

まずは情報(記事コンテンツ)とフードが中心。ペトことで得られたデータから最適なカロリー量を提案し、フードを定期配送することでペットの健康をサポートできる仕組みを作りたいという。

今回調達した資金もペトことの情報コンテンツの拡充や開発強化、D2Cフードの体制強化に向けた人材採用に投資をしていく計画。また少し先の話にはなるが、OMO文脈の取り組みとしてリアルなドッグカフェを開設するような構想も大久保氏の中にはあるようだ(まずはポップアップ型で)。

「ペトことを使えば自分とペットに最適化された情報が出てくるという体験を作っていく。いずれは自分たちに合ったキャンプ場がレコメンドされ、その予約まで一気通貫でできるようにしたいと考えている。ペットライフにおいて点となる機能をどんどん増やしながら、それらをデータを軸につなぎ合わせて線にしていきたい」

「社内のメンバーは全員が犬や猫の飼い主で思いは強い。『人が動物と共に生きる社会をつくる』というミッションを掲げているが、犬・猫自身や飼い主を含む動物を好きな人だけでなく、苦手な人も支え合える社会を作るのが目標。信念を持って取り組んでいきたい」(大久保氏)

近大なまずも素材に、ドックフードD2Cサブスク「PETOKOTO FOODS」が予約受付開始

シロップは7月8日、国産素材を使ったドッグフード「PETOKOTO FOODS」(ペトことフーズ)のサブスクリプション(定額)サービスの予約受付を開始した。

PETOKOTO FOODSは、獣医師が監修したヒューマングレードのドックフードで、販売形態はメーカー直販、いわゆるD2C(Direct To Customer)だ。予約受付開始を記念して、7月21日までに申し込んだ利用者の中で、先着150名は初回配送のサブスクリプション料金が70%オフになる。

同社は、ペットライフコミュニティ「ペトこと」や保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」を運営している2015年3月設立のスタートアップ。同社が運営するサイト(メディア)では、がん専門獣医師などペットの専門家が140名以上執筆しており、今回のフードはこの専門性を生かして食材・製法・栄養に徹底的にこだわったという。なお、PETOKOTO FOODSの売り上げの1.2%はOMUSUBIに登録する動物保護団体へ寄付される。

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今回発売されるのは、全米飼料検査官協会(AAFCO)の栄養基準(7月取得予定)を満たしたグレインフリーの総合栄養食で、「ビーフレシピ」「ポークレシピ」「チキンレシピ」「フィッシュレシピ」の4種類を用意。ドックフードの製造は、ペットフードだけでなく、食肉や水産物の加工、卸売りなどを手がける鹿児島を拠点とするNフードサービスが担当する。

ビーフレシピの原材料は、牛肉、卵、米、ブロッコリー、人参、りんご、米麹、フィッシュオイル、米油。

ポークレシピの原材料は、豚肉、卵、米、人参、ブロッコリー、りんご、米麹、フィッシュオイル、米油。

チキンレシピの原材料は、チキン、チキン(皮)、さつまいも、卵、ブロッコリー、人参、りんご、フィッシュオイル、米麹。

フィッシュレシピの原材料は、さつまいも、近大ナマズ、卵、ブロッコリー、人参、りんご、米麹、フィッシュオイル、米油、しいたけ、えのき、のり。いずれのフードも、人工甘味料、香料、保存料、着色料、遺伝子組み換え作物は使用していない。なお、フードの原材料はNフードサービスが拠点する九州産のものを中心に利用する。
初回配送の参考価格は、2.5kgの小型犬だと300gのフード×12パック(3.6kg)となる。通常料金は5500円だが、先着150名の70%オフを適用すると約1650円だ。水分量が同程度のウェットフードの価格を比較すると、シーザーのパウチタイプが3.6kg換算で4000円弱なので若干割高になる。

初回配送後は、それぞれの犬のカロリー量に合った頻度で配送される。配送されるごとに自動課金されるが、契約期間に縛りはないのでいつでもキャンセル可能だ。フードは、300gパック12個入り(3.6kg)もしくは、300gパック24個入り(7.2kg)などの単位で届く。

ペットフード協会はペットフード(総合栄養食)を「ドライ」「ソフトドライ」「セミモイスト」「ウェット」の4つに分類しているが、PETOKOTO FOODSは厳密にはどの分類にも属さない。ウェットで定義されている水分量と同じ75%程度ながら保存料を使用していないのが特徴で、同社はこのフードを「フレッシュ」と定義している。ちなみにウェットでは、品質保持のために殺菌工程を経て缶詰やレトルトパウチなどに充填される。

一方従来のドライフードは、常温保存を可能にするために水分量を10%以下まで落とす加熱発泡処理が施されており、栄養価やビタミンがどうしても失われてしまう。PETOKOTO FOODSでは、必要最低限の加熱処理によって食材の栄養価を損なうことなく摂取できるという。

同フードを監修した獣医師は、世界小動物獣医師会(WSAVA)のグローバル栄養委員会創立メンバーであり、ニュージーランド・マッセー大学博士のニック ケイブ氏。国内ではなく海外の獣医師に監修を依頼した理由としては「栄養学に関しては海外のほうが研究が進んでいるのが現状で、最新の栄養学を基にフードを開発するため」とのこと。

犬種や体格、体重によって与えるフードの量は異なるが、ニック医師と作成した独自の計算式によって最適な1日のカロリー量を提案。カロリー量に合った配送頻度で指定した宛先に届く。フードは、Nフードサービスの工場で、製造後にすぐに瞬間冷凍で密封殺菌された状態で配送される。

フードを与える際は、事前に冷蔵保存で解凍したあとに40度の湯で温めることで香り豊かなフードになる。冷蔵保存ではなく、40度の湯で30分温めて直接解凍することも可能だ。

今度の展開として同社は、フードのカロリー量と犬の体重の変化をモニタリングし、データを蓄積していくとのこと。また、目黒にある同社のオフィスをドッグラン&ドッグカフェとして開放する予定。この反響を検証して、街中へのポップアップストア、店舗開設を検討するそうだ。

フードに関しては、アレルギーフリーやフリーズドライなどさまざまなメニューを開発予定で、ジャーキーなどおやつも用意したいとのこと。将来的には犬の食生活すべてをデータで管理する方針で、同社は療法食やヴィーガン食などにも注目している。

なお日本では猫の飼育数が犬を上回っているが、猫用フードの開発・販売については「時間がかかります」との回答。猫は犬と食習慣が異なり、嗜好性が高いためだそうだ。まずは犬用フードのクオリティーをさらに上げることに専念するという。

「自分も何かできないか」という想いが強かった——チュートリアル徳井氏がスタートアップに出資したワケ

昨日紹介したように、お笑いコンビ・チュートリアルの徳井義実氏がペットテック企業のシロップに“エンジェル投資家”として参画した。

最近ではスタートアップがテレビCMを実施することなども増えてきているから、芸能人とスタートアップがコラボレーションすること自体はそこまで珍しくないのかもしれない。徳井氏自身もかつて家計簿アプリを展開するマネーフォワードのテレビCMに出演していたことがある。

ただ、テレビ番組を始め様々なメディアで活躍する芸能人が自ら出資してスタートアップと関わる事例は、アメリカはまだしも日本ではまだまだ少ないだろう。

徳井氏にとっても投資家としてスタートアップに加わるのは今回が初めてのこと。人気芸人である同氏がなぜシロップに投資をしたのか、その背景やこれからの取り組みについて紹介したい。

動物番組に関わる中で感じた“楽しさ”と“違和感”

動物番組に関わる中で感じた「ある種の違和感」や、自分もペットのためにもっとできることがあるんじゃないかという「もどかしさ」。今回の出資の背景には、徳井氏が以前から抱えていたというそんな想いが関わっているようだ。

最初の出会いは、徳井氏がシロップのペットライフメディア「ペトこと」の取材を受けた約1年前にさかのぼる。

その記事でも明かされているように、徳井氏は現在2匹の猫を飼っているだけでなく、昔から身の回りに動物がいる生活をずっと送ってきた。仕事でもペットのエピソードをバラエティで披露したり、猫好きとして番組に出演したりするのはもちろん、約4年ほど動物番組のMCを勤めた経験もある。

そんな徳井氏にとって動物番組に関わることは当然やりがいのある仕事であったが、その一方でどこかしっくりこない感覚も持っていたそうだ。

「動物番組ではどうしても“ペットの素晴らしさ”や“ペットとの暮らしの楽しさ”を紹介する方向に行きがちだけど、一緒に暮らしていれば必ずしも楽なことばかりじゃない。一面だけを伝えていることに対して、『時には大変なこともあんねんけどな』とある種の違和感を抱えていたんです」(徳井氏)

その点でシロップの動物に対する考え方には共感できる部分が多いと感じていたという。特に犬や猫の目線に立って考えながらも、必要以上にストイック・ヒステリックになりすぎず「人間も動物も無理なく、継続的に付き合えるような温度感」を大事にしている点が、徳井氏の感覚と近かったようだ。

シロップは「人が動物と共に生きる社会をつくる」をミッションに掲げるペットテックスタートアップ。飼い主向けのペットライフメディア「ペトこと」、保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI」を運営している

LINEで出資の打診をしたところ、1時間で承諾の返答

ペットに対する考え方が似ていると思っていたのは、シロップ代表取締役の大久保泰介氏も同様だ。

「共に暮らす犬や猫は商品ではないし、かといって人間と同じでもない。その捉え方のバランスが難しい部分ですが、根本的な部分で考え方がかなり近いと感じました。だからこそ仲間に入って欲しいと思ったし、徳井さんの発信力だけでなく『人を笑顔にする力』や斬新な発想力を借りながら、面白いことができないかとメッセージを送ったんです」(大久保氏)

写真右はシロップ代表取締役の大久保泰介氏。

ペトことでの取材から約1年。その間は特に両者で連絡を取り合うこともなかったが、実際に大久保氏から「出資してもらえないか」とLINEでメッセージを送ったところ、1時間も経たないうちに徳井氏から承諾する旨の返信があったそう。もちろん契約面の細かい調整などは別で行ったというけれど、かなりのスピード感だ。

「4年ぐらいやっていた動物番組が終わってからも、SNSに『猫を保護しているのでなんとか助けてもらえませんか』『◯◯のペットショップが倒産して行き場を失っている犬猫がいます』と連絡を頂くことが多くて。それでも変に間違った情報を発信すると却って問題が生じてしまうし、動物の命にも関わるので中途半端な対応もできない。だから基本的には応じないようにしていたのですが、どこかで『自分にできることがあったんじゃないかな』と気にかかる部分がありました」

「そんなもどかしい気持ちがあった時に声をかけてもらい、これはもう『やれ』ということなのかなと思ったんです。テレビに出て動物の話をしている立場でもあるので、何か動物に恩返しができればという考えもあって。もともと(シロップの)考え方には共感していたし、縁も感じたので何か一緒にやってみたいなと」(徳井氏)

自分としてはあまり「投資」という感覚を持っていない

そのような経緯だったから、徳井氏の中では「ビジネスライクには考えていないし、あまり『投資!』という感覚も持っていない」そう。純粋に、SNSなどを活用しながらシロップの想いや取り組みを少しでも多くの人に届けていきたいという。

徳井氏は今回の出資を機にシロップのCAT(Chief adoption, TOKUI)に就任している。「adopt」(アダプト)は保護犬・保護猫に関して使う際、「里親になる」ことを指す。日本に保護犬猫から迎える文化をつくることで、犬や猫、そして共に暮らす人達のペットライフをより豊かにするべく、今後共同で情報発信やサービス開発に取り組む計画だ。

「イメージとしては広報担当のような役割。もちろん芸人としての顔が本業なのでそことのバランスはあるけれど、力になれることがあれば積極的にチャレンジしていきたいと思っています。発信力のある一般の飼い主として、飼い主の目線で企画を考えたり、情報を届けていきたいです」(徳井氏)

まずは共同プロジェクトの第1弾として、読者参加型の連載小説「徳井義実の『猫と女』」をペトこと上でスタートする。

これは猫と一緒に写っている女性の写真1枚を読者から募集し、徳井氏がその女性と猫の物語を妄想する短編読み切りの連載小説企画。水面下では他にもいろいろなアイデアが出ているようで、今後も徳井氏×シロップならではの企画が次々と生まれていきそうだ。

出資をすることで踏み込んでやれることもある

少し余談になるけれど、昨今、海外では芸能人がスタートアップに投資する「セレブ投資」が珍しくなくなってきた。有名どころだと共同で立ち上げたベンチャーファンドを通じてAirBnbやUberなどに投資をしている俳優のアシュトン・カッチャーのほか、レオナルド・ディカプリオジャスティン・ビーバーらも新興企業への投資経験がある。

日本だとお笑い芸人ではロンドンブーツ1号2号の田村淳氏がBASEやProgateなどに出資。最近ではサッカーの本田圭佑氏が投資家としてスタートアップの資金調達記事に名前を連ねることも増えてきた。

徳井氏は以前から“家電芸人”として新しい機器の情報をバラエティ番組で紹介したり、AIの仕組みを解説する教養番組で司会を勤めたりもしている。だから今回の話を聞いた時、もしやこれからエンジェル投資をバリバリやっていくのかと思ったのだけど、今のところはそういう訳でもないようだ。

「ものすごく自分が興味があったり、ちょうどやりたいと感じることであればあり得ると思いますが、現時点ではあまり積極的にやっていこうとは考えていません。やっぱり芸人としてネタを考えること、創作をすることに少しでも多くの時間を使いたいんですよね」(徳井氏)

「(それでも今回シロップに出資を決めたのは)それだけ自分としても『何かやりたい』という想いが強く、考え方に共感できたから。出資をするということは責任も生じるし覚悟もいりますが、そうすることで一歩踏み込んでやれることもあるんじゃないかなと思うんです」(徳井氏)

徳井氏自身が広報担当のような役割を担いたいと話し、CATに就任しているように、今回の取材を通して「1人のメンバーとしてシロップの考え方を多くの人に届けていきたい」という気持ちが強いのだと感じた。

日本のスタートアップ界隈も起業家・投資家ともに色々な人が関わるようになり、エンジェル投資の形も多様化してきている。今回の徳井氏のケースのように、今後さらにスタートアップコミュニティの輪が広がっていきそうだ。

ペットテックのシロップがチュートリアル徳井氏らから資金調達、ペット領域でD2Cコマースの展開も

写真右からシロップ代表取締役の大久保泰介氏、チュートリアル徳井義実氏

ペットテック領域で2つの事業を展開するシロップは4月23日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資と融資を合わせ、総額で8000万円を調達したことを明らかにした。

今回のラウンドには既存投資家であるFFGベンチャービジネスパートナーズ、ミラティブCFOの伊藤光茂氏、エウレカ共同創業者の西川順氏、獣医師の佐藤貴紀氏に加えて、新規の投資家としてお笑いコンビのチュートリアル・徳井義実氏ら3名の個人投資家が参加している。

過去に調達した金額も含めると、シロップの累計調達額は約1億5000万円。今回の8000万円については前回資金調達を行った2017年12月以降、複数回に分けて集めたものとのことだ。

これまで保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI」とペットライフメディア「ペトこと」を運営してきたシロップ。今後は人材採用を強化しながら両サービスのアップデートを進めるほか、新たなチャレンジとして5月〜6月を目処にD2C事業もスタートする。

また個人投資家として加わった徳井氏は同社の広報担当のような役回りで、共に情報発信やサービス開発に取り組むそう。まずは第1弾として4月24日より読者参加型の連載小説をペトこと上で展開する予定だという。

徳井氏によるとスタートアップに出資するのは今回が初めてとのこと。出資の背景や今後の取り組みについては本人に直接話を聞くことができたので、そちらは明日詳しく紹介したい。

ペット版のPairsと飼い主向けメディアを展開

前回も紹介した通りシロップは「蓄積したデータを用いて、個々の犬猫に最適な情報や商品を提供するペットライフ・プラットフォーム」の構築を目指しているスタートアップだ。

その軸となるのが現在運営するOMUSUBIとペトこと。位置付けとしてはOMUSUBIが人とペットとの“出会い方”を変える役割、そしてペトことが“ペットの育て方”を変える役割を担う。

保護団体と保護犬猫を飼いたいユーザーを繋ぐOMUSUBIの特徴は「保護団体の完全審査制を採用していること」と「転職エージェントのように密なカスタマーサポートを実施していること」の2点だ。譲渡トラブル回避や譲渡率向上のために、保護団体の現地調査や資格調査、運営状況調査などを実施しつつ、お迎えコンシェルジュとしてユーザーのサポートを手厚くすることで細かいニーズを汲み取る。

シロップ代表取締役の大久保泰介氏によると、従来は「例えば1人暮らしはNGなど、条件が厳しいことで応募が入っても実際に譲渡される確率は10〜20%くらいだった」そう。OMUSUBIの場合は上述した特徴などによって、この割合を43%まで高めているという。

現在は募集団体の数が全国で50団体を超え、募集数も増加傾向にあるとのこと。ユーザー側にも主に検索エンジンやソーシャルメディア経由でリーチしていて、2年間で約150件のマッチングを実現。累計応募数は前年比で258%増加、累計譲渡数も160%増加するなど「まだまだ数は小さいが、徐々に成果に結びついてきた」(大久保氏)状況だ。

もう一方のペトことは飼い主向けにお出かけやアウトドアといったライフスタイル系の情報から、獣医療のように専門性の高いトピックまで、幅広いコンテンツを提供するペットライフメディア。「信頼性にこだわっていて、獣医師でも“がん専門医”など領域に特化した専門家が執筆段階から関わっている」(大久保)のがウリで、直近では月間約160万UU、400万PVほどの規模に成長している。

大久保氏の話では記事を読んだユーザーが次のアクションとして、コンテンツ経由でペットと泊まれる宿泊施設を予約したり、グッズをAmazonで購入する事例が多いそう。1ヵ月の流通総額(記事経由の購入金額 / 2019年1月時点)は約9000万円になるという。

蓄積してきたデータやナレッジを活かして事業を加速

今後シロップでは、これまで蓄積してきたデータやコンテンツをもっと活用することで、事業をさらに加速させる方針だ。

OMUSUBIでは以前から大久保氏が「ペット版のPairs」を目指すと言ってきたように、データを用いたレコメンドマッチングの強化に向けてリニューアルを実施する。

「従来は見た目の好みで選びがちだったが、応募者と向き合う中で『前に飼っていた犬と同じ名前だから』『シュナウザーが好きなので(雑種でも)タイプが似ているから』など、様々な要素でマッチングできる可能性があることがわかった。データを上手く使うことで、今までは気づかなかった犬猫との出会いのチャンスを提供し、ペットショップに行かずとも正しくペットを迎えられる窓口を作りたい」(大久保氏)

現在のOMUSUBI。今後は犬猫と飼い主の相性度がスコアリングされる機能を実装し、データを活用したマッチングを実現する計画だ

具体的には飼い主がユーザー登録時に簡単な質問に回答すると、サービス上の犬猫との相性度が表示される機能を実装。そのスコアに基づいて犬猫をレコメンドしていく仕組みを構築する。

「犬猫の種類は300種を超えていて、それぞれがどんな性格で、どのような育て方をするのが適切なのか分からないことがミスマッチを引き起こしている。それが最終的には飼育放棄に繋がり、保護犬猫が増える原因にもなっていた。自分に合った犬猫と出会えるシステムを作ることで、結果的には殺処分問題の解決などにも繋げていきたい」(大久保氏)

OMUSUBI同様にぺトことでもデータの活用を進める。直近ではペットと一緒に行けるスポットを検索できる機能やマイページ機能、各ユーザーごとにパーソナライズしたレコメンド機能などを実装予定。中長期的にはライフログやコミュニティ機能を加えるほか、獣医療など新たな領域にも進出していく計画だという。

D2Cに進出、「ペットライフスタイル企業」として拡大へ

OMUSUBIとペトことに続く「新しい領域」という意味では、5〜6月ごろにリリースを予定しているD2C事業がまさにそうだろう。

1.5兆円のペット市場の中でコマースは半分近くの7200億円を占める重要な領域。今までは大量販促型の生産モデルが基本で、ホームセンターやペットショップといったオフラインの小売店舗でペット用品を購入するケースが多かったが、若い飼い主も増えオンラインでの購買体験のニーズも高まっている。

大久保氏は前回もコマース領域での事業展開については言及していて、ペトことを通じて厳選したグッズを販売する取り組み(販売はBASEを活用)にも着手済み。今後はメディアで蓄積したデータやニーズを基にペトことブランドでオリジナル商品を手がけつつ、自分たちで作らないものはパートナーとタッグを組みながら販売していくモデルを検討しているそうだ。

ペトことの「GOODS」カテゴリではシロップが厳選したグッズが販売されている

「第1弾として、まずはオンラインとも相性の良いフードから始める予定。既存事業が地固めできてきた中でD2Cコマースをしっかり育てていきたい」(大久保氏)

現在シロップの収益源となっているのはOMUSUBIとペトことで連動した広告(アドセンス、タイアップ、アフィリエイト)だが、ゆくゆくはコマースが大きな柱になることを見込んでいる。

加えて大久保氏の頭の中には、国内の1.5億円市場に留まらず事業を広げていく構想があるようだ。成長市場であるアジアへのサービス展開はもちろん、国内でも新たな可能性が見え始めているという。

「ペット市場だと1.5兆円だが、『ペットを飼っている人のライフスタイル』という文脈では電力や保険、自動車、アウトドア、住宅といった周辺の市場も関わってきて、より大きなポテンシャルがある。実際(15才未満の)子供よりペットの数の方が多くなっていることもあり、自分達のクライアントにもこれまでペット市場に入っていなかったような企業が増えた。ペット企業ではなく、ペットライフスタイル企業としてさらなるチャレンジをしていきたい」(大久保氏)

未開拓のペットテック市場に挑むシロップが資金調達、次なる構想はペットライフ・プラットフォーム

ペット関連のサービスを複数展開するシロップは12月27日、福岡銀行系のベンチャーキャピタルであるFFGベンチャービジネスパートナーズ、獣医師の佐藤貴紀氏など複数の個人投資家を割当先とする第三者割当増資を実施。融資と合わせて総額3800万円を調達したことを明らかにした。

シロップのメンバー。写真中央が代表取締役の大久保泰介氏

今回の資金調達は2016年12月に続くもの。前回はサイバーエージェント・ベンチャーズやiSGSインベストメントワークス、エウレカ共同創業者の西川順氏を含む個人投資家から数千万円規模と見られる金額を調達している。

今後は運営体制を強化しながら、飼い主とペットのデータを活用して最適な情報や商品を提供する「ペットライフ・プラットフォーム」を目指していく。

専門メディアとマッチングサービスを展開、単月黒字化も

現在シロップが展開しているのは、ペットの飼い主向けメディア「ペトこと」と保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI(おむすび)」の2つ。

2016年5月リリースのペトことは、ペットの健康管理やしつけなどを中心に飼い主に必要な情報に特化したメディアだ。既存のペットメディアではかわいい動物のコンテンツなどライトな記事も多いが、ペトことの場合は獣医師やトレーナーなど専門家が病気やしつけに関する記事を執筆。

シロップ代表取締役の大久保泰介氏いわく「マニアックだけど、飼い主にとっては絶対に必要な知識」を届けることで差別化を図っている。

もうひとつのOMUSUBIは犬猫の殺処分問題を解決する目的で2016年12月にベータ版をリリース。保護犬猫の飼い主を募集する団体と、飼いたい人をマッチングする。2017年9月からは提供範囲を拡大し登録団体が28団体、累計の会員数が1300名。累計の応募数も200を超えた。

大久保氏の話では2017年12月には黒字化も達成の見通し。「記事や動画制作、リアルイベントやソーシャルグッドのプロモーションなどタイアップ案件に加えアフィリエイトも好調。たとえばペットと泊まれる宿を紹介した記事からは月間総額で1600万円の予約が発生している」(大久保氏)という。

ペット関連事業者だけではなく自動車や住宅メーカーからの関心も高まってきていて、今後はこのような間接企業とのタイアップも拡大していく方針だ。合わせて今後は広告収入以外のマネタイズ手段の開発に向けた取り組むも強化する。それがペトことを軸としたメディアコマースだ。

メディアを軸にコマース事業を開始、サプリなど自社ブランドも

ペトことでは2018年の3月に大幅なリニューアルを実施する予定。スポット検索やQ&Aなどコミュニティとしての機能を搭載するとともに、自社ブランドや外部の商品を購入できるコマース機能を追加。コンテンツを読んで終わりではなく、ユーザーの行動や商品購入までつなげる狙いだ。

すでにペット向けのサプリメント「SUPPY」の開発に着手していて、2017年11月にはクラウドファンディングを通じて約140万円を集めた。2018年1月から国内と東南アジアで一般販売を開始する予定で、今後はサプリに加えてフードやおもちゃなどの開発も検討していくという。

OMUSUBIでもレコメンド機能の開発や団体管理ツールの開発に加えて、保護犬猫だけでなく優良なブリーダーと飼い主をマッチングすることにも取り組む。ブリーダーとのマッチングについては仲介手数料をとることも検討する。

同サービスについてはエウレカ共同創業者の西川氏の存在も大きいそう。エウレカはマッチングサービスの「Pairs」を提供しているが、そこで培った知見も生かしていくことで成長を見込む。

シロップが掲げるペットライフ・プラットフォーム構想

シロップが今後見据えているのは、既存サービスを通じて蓄積されたデータをもとに、個々の犬猫に最適な情報や商品を提供するペットライフ・プラットフォーム「PETOKOTO」の展開だ。OMUSUBIでペットを迎え、ペトことを通じて飼育するといったように、飼い主がペットを迎えてから飼い終わるまでをサポートするプラットフォームを目指していく。

その上でカギを握るのが「オーダーメイドに近い情報や商品を提供すること」であり、そのための基盤となるデータの蓄積だ。

「この業界で起業してから約3年かかって、飼い主にとって必要な情報は属性によって異なることがわかってきた。たとえばトイプードルがかかりやすい病気があるように、犬種などによっても欲しい情報は変わる。年齢やペットの状況、飼い主の生活環境なども加味すると、オーダーメイドに近いレコメンドサービスが必要になる」(大久保氏)

今後の展望としてはまずペトことやOMUSUBIを通じて会員のデータを蓄積していく。ある程度データが溜まった段階で、そのデータを活用して個々に最適化された情報や商品を提供するというのが次のステップだ。コマース事業を本格化するのもこのタイミングになるという。そしてその先には獣医療の改革などペットヘルスケア領域でも事業を展開する。

写真右は株主でもある獣医師の佐藤貴紀氏

大久保氏の話では、獣医療の需要が増えている一方で供給が不足しているのが現状。ひとりの獣医師が幅広い専門領域のニーズに応えるのは難しいことに加え、動物病院の7割が獣医師ひとりで経営しているそう。たとえばAIを活用した画像解析やIoTプラットフォームなど、獣医の負担を減らすサービスにも取り組む方針だ。

海外ではBARKのようにメディアやマッチングプラットフォームで集客をしてコマースで売り上げを作っているペットテックスタートアップもあるが、日本ではまだまだ開拓の余地が残されている領域。ペットヘルスケアとなるとなおさらだ。

「この業界は課題も山積み。事業をきちんと伸ばしながらも発生する売り上げの一部をOMUSUBIの登録団体に寄付するなど、まずは保護犬猫というところからペット産業全体を健全化し、業界を盛り上げるチャレンジをしていきたい」(大久保氏)

“ペット系”スタートアップのシロップ、CAVやiSGSから資金調達——保護犬猫マッチングサービス強化

左からエウレカ共同創業者 取締役副社長COO兼CFOの西川順氏、シロップ共同創業者兼代表取締役の大久保泰介氏(と社員犬のコルク)、シロップ共同創業者兼CTOの市川俊介氏、iSGSインベストメントワークスの五嶋一人氏、サイバーエージェント・ベンチャーズの竹川祐也氏

左からエウレカ共同創業者で取締役副社長COO兼CFOの西川順氏、シロップ共同創業者兼代表取締役の大久保泰介氏(と社員犬のコルク)、シロップ共同創業者兼CTOの市川俊介氏、iSGSインベストメントワークス代表取締役 代表パートナーの五嶋一人氏、サイバーエージェント・ベンチャーズ シニア・ヴァイス・プレジデントの竹川祐也氏

ペットを軸にしたサービスを展開するスタートアップのシロップ。同社は12月15日、サイバーエージェント・ベンチャーズ、iSGSインベストメントワークス、エウレカ共同創業者で取締役副社長COO兼CFOのの西川順氏ほか個人投資家を割当先とした第三者割当増資を実施した。金額は非公開だが、関係者によると数千万円規模と見られる。

シロップは2015年3月の設立。同年7月にペットとの思い出を保存・管理するアルバムアプリ「HONEY」をリリース。12月からはペットの健康管理やしつけなどの情報を伝えるメディア「ペトこと」を公開している。また2016年11月には保護犬猫と飼いたい人を結ぶマッチングサービス「OMUSUBI(おむすび)」の提供を開始した。

OMUSUBIでは、シロップが独自の基準で認定した保護団体の保護する犬猫情報のみを掲載。サイトを見て飼いたいと思った犬猫がいれば、サイト上で申請を行うことができる。その後譲渡会や面談、トライアル飼育期間を経て正式に譲渡を行う。譲渡自体には団体が任意で設定した譲渡金(寄付)がかかるが、一般社団法人「つむぎ」(12月設立予定)と提携する動物病院やペットサロンのサービスを割引料金で受けることができるとしている。

同社では今回調達した資金をもとに、OMUSUBIのサービス改善、機能開発を進めることで、殺処分問題(2015年度で犬猫合わせて8万匹以上が殺処分されているのだそう)の解決とペットを保護犬猫から飼う文化の醸成につなげるとしている。ただ正直なところ、それだけではビジネスが回るかというと難しそうだ。同社ではOMUSUBIによってペットの殺処分問題解決や保護犬猫を飼うという文化を醸成していく一方、2017年以降はペットのヘルスケア領域の課題解決に取り組むことで本格的なマネタイズを進めるとしている。

具体的には、来年夏頃をめどにHONEYとペトことのアップデートを行うほか、ペットのライフログを集積し、最適なタイミングで最適な情報や物品を提供する「飼育のトータルサポートサービスを提供していく」(シロップ)としている。