あらゆるスペースを貸し借りできる「スペースマーケット」が新たにワークスペース特化シェア開始

スペースマーケットWORK

あらゆるスペースを貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」運営のスペースマーケットは8月4日、オフィス・会議室など働くシーンに特化したスペースをマッチングする新サービス「スペースマーケットWORK」を開始した。年内めどに、全国3000件を超えるワークスペースの掲載を目指す。

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スペースマーケットは、スペースシェアにより人々の「はたらく」「あそぶ」「くらす」のあらゆるシーンにおける選択肢を広げるとともに、遊休スペースの有効な活用・収益化に貢献。2014年のサービス開始から約6年半で、掲載スペース数は現在1万3000件を超えたという。スペースのジャンルは、イベントスペース、会議室、撮影スタジオ、映画館、住宅など多岐にわたる。

新サービスのスペースマーケットWORKでは、スペースを借りる企業・個人(ゲスト)は、テレワーク・打ち合わせ・会議・セミナーなどの用途で、最短1時間から15分単位で借りることが可能。また、スペースを貸す企業・個人(ホスト)は、所有・管理している不動産の遊休時間を貸し出し、収益化できる。オフィスの会議室やイベントスペース、コワーキング、飲食店舗の個室など、空いている日や時間帯を限定して貸し出すこともできる。

さらに、ゲストは、オフィス家具や備品が揃ったスペースを月・週単位での契約(オンライン完結)も可能。一般的なオフィスビルの契約で必要となる敷金・礼金などの初期費用やオフィス家具の設置費用、原状復帰費用などのコストを低減しつつ、オフィスを開設できる。そのため、既存オフィスや従業員の居住エリア付近に設置するサテライトオフィス、災害などの緊急時セカンドオフィスなど、オフィスの分散化を柔軟に行えるとしている。

一方、リモートワーク活用により稼働率が低下したオフィスの会議室やワークスペースがある企業は、ホストとして一定期間「間貸し」するなど、遊休オフィススペースの有効活用できる。長期間でも安心して貸し出しができるよう、eKYC対応のデジタル身分証アプリ「TRUST DOCK」を導入することで、ゲストの個人情報確認を強化している。

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さらに、新しいオフィスの開設、分散型オフィス、居抜きオフィスなどの貸し借りを検討する方に対して、ペースマーケットオフィス仲介のIPPO・ヒトカラメディアと連携し、スペース選定・契約に関する相談などを受け付け、利用前の不安点を解消する。

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「スペースマーケットWORK Plus」

ネットワークや、スマートロックを始めとしたICT設備の導入により、高い利便性を担保できるスペースに限定した新シリーズ「スペースマーケットWORK Plus」の提供を8月4日から開始。東日本電信電話株式会社(NTT東日本)と業務提携し、設備環境や入退室方法を統一。安定的な高速インターネット環境を担保することで、企業の利便性向上を目指す。スマートロックと入退室管理については、フォトシンスの「akerun」を採用予定という。

まずは、首都圏を中心に提供を開始し、今後はテレワークスペース、サテライトオフィスとして活用できるスペースをパートナー企業の協力のもと拡大し、他地域にも展開予定。

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「OKAMURA×スペースマーケット」コラボスペース

企業コラボスペース第1弾としてオフィス家具メーカーのオカムラとのコラボスペースを都内3ヵ所に設置。ゲストは、自宅のワークスペースなどに置きたくなるような機能的かつデザイン性の高いオフィスチェア、コンパクトデスクをスペース利用時に体験できる。期間は12月31日まで。

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災害時におけるオフィスのBCP(事業継続計画)対策の実行を支援するサービス提供

新型コロナウイルスのような感染症や自然災害などの発生、企業が緊急事態に見舞われた際のBCP(事業継続計画
Business Continuity Planning)対策として、JTBと連携し、ビジネス利用できるスペースが少ないエリアでの企業の対策本部やサテライトオフィスの手配を行う。BCPとは、急事態時に重要業務への影響の最小化し、企業運営を滞らせないための行動指針をいう。

また、通常時においてはテレワークスペースとして分散型オフィスの提供も共同で支援するとしている。

まずは、新型コロナウイルスの感染拡大のほか、直下型地震が想定される東京都を中心に2020年8月27日よりサービス提供を開始する。

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IPO果たしたChatwork、スペースマーケットの組織づくりと採用:TC School #17レポート2

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第17回が1月23日、開催された。スタートアップのチームビルディングを一連のテーマとして展開する今シーズンの4回目、最終回となるイベントでは「チームを拡大する(拡大期の人材採用)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

この記事では、パネルディスカッションの模様をお伝えする(キーノート講演のレポートはこちら)。千葉道場ファンドで取締役パートナーを務める石井貴基氏は、キーノートに続いてパネルディスカッションにも登壇。Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏、スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者の佐々木正将氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏を加えて、IPO前後の社内組織づくりや人材採用などについて聞いた。

Chatwork、スペースマーケットの設立からIPOまでの軌跡

まずは登壇者それぞれの自己紹介と、各社事業の簡単な紹介があった(石井氏の紹介については、キーノート講演レポートをご覧いただきたい)。

トップバッターは、Chatwork代表取締役CEO兼CTOの山本正喜氏。Chatworkは2000年、大学在学中に兄の山本敏行氏と正喜氏が兄弟で創業した企業で、実は20年事業を続けている。創業当時は兄・敏行氏がCEOで、正喜氏はCTOだった。

設立から11年目に、ビジネスコミュニケーションツールの「Chatwork」を正喜氏が中心となってリリースし、プロダクトの成長に合わせて社名も変更。2018年に正喜氏がCEO兼CTOに就き、2019年9月に東証マザーズへの上場を果たした。

2019年12月末時点での従業員数は106名。大阪本社、東京オフィスのほかにベトナム、台湾に拠点を置くChatwork。「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げる同社は、Chatwork以外にも、セキュリティソリューションのESETを扱っている。

「我々はChatwork以前から行っていたセキュリティ事業で収益を上げて、そこからChatworkへ投資していたので、外部から資金調達を行ったのは、結構後になってからのことだった」(山本氏)

代表取締役CEO兼CTO 山本正喜氏

Chatworkは2011年、国内ビジネスチャットプロダクトのパイオニアとして誕生した。電話やメールに代わるビジネスコミュニケーションツールとして、グループチャットのほか、タスク管理、ファイル共有、ビデオ・音声通話といった機能を提供。ビジネスチャットツールとしての利用者数は国内ナンバーワン、導入社数は24万6千社以上(2019年12月末日現在)に到達している。

IPOまでの売上の軌跡も紹介してくれた山本氏。設立から10年で既存事業が踊り場に来たときに、新たに投入されたプロダクトがChatworkで、「しばらくは苦しい時期が続いたが、2015年のシリーズAラウンドで資金調達を行い、そこからぐっと売上が伸びた」と説明する。設立以来の売上の比率は、集客支援(SEO関連)、ESET事業と移り変わり、長く会社を支えてきたが「いつまでも他社製品に頼っていてはいけない。自社製品をつくろう」として開発されたChatworkが、現在は売上の中心となっているそうだ。

続いては、2019年12月20日に東証マザーズへの上場を果たしたばかりのスペースマーケット佐々木氏からの自己紹介・事業紹介だ。佐々木氏は、スペースマーケットでCFOとしてファイナンスを担当しながら、人事責任者を兼任する。2017年にベンチャーキャピタルからの紹介で代表取締役CEOの重松大輔氏と出会い、ジョインした。入社後はコーポレートの組織構築、上場準備開始から着手し、ファイナンス、組織、経営管理を主に担当している。

スペースマーケットは、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできる、スペースシェアリングのプラットフォームを運営するスタートアップだ。「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」をビジョンに掲げ、「世界中のあらゆるスペースをシェアできるプラットフォームを創る」ことをミッションに、2014年、代表取締役CEOの重松大輔氏が創業した。現在は約50人の従業員を擁し、1万2000件以上のスペースをサイトに掲載する。

スペースを借りたいゲストと貸したいホストをマッチングし、ゲスト手数料を5%、ホスト手数料を30%として、双方から手数料を得るビジネスモデルを採るスペースマーケット。現在は「全国47都道府県にある、種類もさまざまなスペースを掲載している」と佐々木氏は説明する。

「家を一軒貸すケースもあれば、部屋を一部屋、使っていない時間帯だけ貸すケースもある。住居だけでなく、オフィスの空き会議室や、空き時間の飲食店、スポーツ施設などもある。スペースマーケットで特徴的なスペースとしては廃校や、お寺といったものも提供されている」(佐々木氏)

スペースマーケット取締役CFO兼人事責任者 佐々木正将氏

利用用途として多いのは、パーティーなどの会合で使われるケースだそうだ。会議や撮影などにも使われるほか、ボードゲームの集まりで使われることも。「実現している世界としては、ママ会などが有用に使われる例となっている。子ども連れでも安心・安全に、レストランなどと違って気を遣わずに使える場として活用されている」(佐々木氏)

貸す側のニーズとしては「古民家で、全く使っておらず、維持費はかかるが壊すのはもったいないので、誰かに使ってほしい」という事例や、「取り壊し予定のビルで新たな賃貸契約は結べないが、壊すまでの間は時間貸ししたい」といった事例があるという。「少子高齢化で浮上している空き家問題解決の対策にも貢献できるのではないか」と佐々木氏は言う。

事業は2019年9月(2019年度3Q)時点でGMV(流通取引総額)が16億円規模まで伸張。GMVを因数分解し、「利用されているスペース数」と「スペース当たりの平均利用金額」も主要KPIとしているそうだ。全社総取扱高・営業損益については、「数値・コストを厳しく管理して、3Q時点で黒字転換。黒字でIPOを果たせるよう進めてきた」と佐々木氏は述べている。

佐々木氏は「今後、広告媒体としてのスペース活用により、法人向けイベントプロデュースやプロモーション支援なども強化していきたい」と話している。

シェアリングエコノミー業界に属する企業として、スペースマーケットには「業界全体の発展推進にも貢献したい」という意向もあり、代表の重松氏は、シェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事も務める。「スペースマーケットではこれからも、新たなスペース利用の可能性を創造し、スペースシェアのモデルを確立していきたいと考えている」(佐々木氏)

TechCrunch Schoolの一連のシリーズのスポンサーとして登壇してきた、エン・ジャパン執行役員の寺田氏。今回のディスカッションでは、モデレーターを務めるTechCrunch Japan 編集統括・吉田博英とともに、進行役として参加してもらっている。

寺田氏はエン・ジャパンで2016年8月に、採用支援サービス「engage(エンゲージ)」を立ち上げ、中心となって運営している。engageは「誰でも採用が始められて続けられる」(寺田氏)ことをコンセプトに誕生したサービスだ。

「engageでは、エン・ジャパンが求人サービスを提供する中で得たエッセンスやノウハウを応用し、企業独自の採用ページを、クックパッドのレシピが投稿できる人なら誰でも作成できるようにした。また採用情報がつくれても、応募が集まらなければ続けられないので、オンラインの採用マーケティング機能も強化してきた。IndeedやYahoo!しごと検索、Google しごと検索といった求人のメタ検索エンジンにも自動連携し、求職者にリーチすることができるようにしている」(寺田氏)

寺田氏は「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャー、LENSAの代表取締役も務めており、LINEキャリアへの求人情報掲載無料も実現している。

engageは2020年1月現在、25万社が利用。スタートアップから大手企業まで多くの企業の採用に活用されている。スタートアップでは「本業にデザイナーやエンジニアのリソースを集中したいというニーズが大きい一方、採用広報やHR担当者にはテクニカルスキルが十分でなく、情報発信が難しいことも多い。そういう方でも簡単に採用情報を発信できるということで利用されている」とのこと。

また、大手企業の場合は「会社としての採用情報は公開されているが、セールス部門とエンジニアリング部門ではカラーがかなり違う、といったこともある。そういう各部署でチームメンバーを募集するために利用されることもある」そうだ。

事業の信頼性、安心感がIPOで社会に広く伝わる

ディスカッションではまず、昨年マザーズ上場を果たしたばかりの2社に「なぜ、このタイミングで上場したのか」という質問が投げかけられた。

Chatworkの山本氏は「自己資金で黒字経営でずっと来ていたので、元々は上場する気はなかった」としながら、「Chatworkのビジネスをきっちり成長させるには、資金調達やIPOというモデルが合っていた」と話している。

「成長するSaaSほど、初期は赤字になると言われている。Chatworkはユーザー数も大変増え、チャーンレートも低く、伸びるとは分かっていたが、エンジニアをたくさん採用すると大赤字になっていた」(山本氏)

同社には黒字経営のポリシーがあり、Chatwork事業も「ほかの事業を食い潰しながら、我慢しながらやっていた」という山本氏。だが、2015年ごろ、ビジネスチャットのカテゴリが盛り上がりを見せ、サンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップエコシステムの中でも資金調達が活発になる。日本では先行していた同社としては「Chatworkを利用する顧客のためにも、会社のポリシーよりプロダクトの成長にコミットすることを決断した」そうだ。

「ビジネスチャットはコミュニケーションの根幹を預けるインフラビジネス。そこへの信頼性という点でも上場は向いていたし、モデルとしてもエクイティで成長させるというのが向いていた。資金調達から、順調に背徴させて、無事上場することができた」(山本氏)

スペースマーケットの佐々木氏は、上場を前提にCFOとして同社に入社している。「投資契約の上場ターゲットが2019年だった。私が2017年に入社した後、一番最初にやった仕事が、主幹事会社の選定だった」と振り返る。その後も事業計画の変更など、2019年の上場を目指して準備を進めていったという佐々木氏だが、「最後の最後、上場承認が発表される1〜2週間前になって、バリュエーションなどの話で社内で議論となり、(ボードメンバー間で)悩んだ」と明かす。

それでも上場したのは「スペースシェア、シェアリングエコノミーについて、個人のデリバリーサービスへの不安やアメリカの民泊サービスでの事件などがあった中で、スペースマーケットは『安心・安全に使ってもらえるサービスだ』と社会に知ってもらいたい」(佐々木氏)との思いからだったそうだ。

石井氏が創業したアオイゼミでも「IPOストーリーで考えてはいたが、具体的に上場を考える手前でM&Aとなった」とのこと。石井氏自身は「IPOという世界を見たことがない」として、2人の話に「勉強になる」と述べていた。

IPOまでの社内組織の変化・変更点

続けて「IPO前後の社内組織の変化や、変更した点はあるか」との問いに、佐々木氏が答えた。

「IPO後の方は1カ月ほどしかないが、前について言えば、アーリー・ミドル期からレイターへ移るころに変化はあった。ミドル期ぐらいまでは、何もできていない状態なので、チャレンジをすれば当たる確率が高く、やれば伸びる、という状況だった。そこから上場を見据えて利益づくりに動くようになると、施策の精度や予算達成が求められるようになる。だから去年1年間ぐらいは、社内的には閉塞感を感じていたメンバーもいたかもしれない。それが上場承認を社内で発表した途端に雰囲気が明るくなり、『また新しいチャレンジをしていこう』というモードになっている」(佐々木氏)

組織変更については「IPO後の1月から早速、権限委譲を始め、部長職の擁立などを進めている」と佐々木氏は話している。

山本氏も「うちもIPOからそれほど間がない」と前置きしつつ、上場前後で「あまり大きな変化はなかったように感じる」と述べている。「よく言われることだが、IPO申請期は事業計画の蓋然性の証明がきつい。売上・利益を計画の上下5%に収めるように、というかなりの『無理ゲー』をみんなクリアしなければいけない。ただ僕らはそれほど大変ではなかった。そこはSaaSビジネスの強みだが、変動が小さく、数字が読みやすいこともあって、計画周りではそれほど苦労しなかった」(山本氏)

組織については「上場というよりは、資金調達前後で変わっている」と山本氏は言う。「もともと30人ぐらいのスモールビジネスで15年やってきて、社員満足度が大事という『ファミリー』なカルチャーだった。資金調達後は、Excelで言えば2次曲線を描くような成長を求められ、後半は特に新規事業づくりなど、やり遂げるためのプレッシャーがかかる。以前は知り合いの紹介で社員が入社して、離職も少ない会社だったところを、18億円調達して『使わなければならない』ということで採用を活発にして、1年でそれまでの倍の50人になった」(山本氏)

急な人数増、というだけでなく、「それまでのファミリーなカルチャーの人に対して、少し山っ気のある『一発当ててやろう』というような人も入ってくるようになり、カルチャーの衝突が起きた」と山本氏は振り返る。「会社としては、スケールさせる組織のカルチャーや事業の仕組みにアップデートしていかなければならないので、アジャストするんだけれども、変わりきれない部分もあり、そこがぶつかって組織崩壊も何度か経験し、2016〜17年ぐらいはしんどかった」(山本氏)

その後「アップデートの仕方を経営陣も学んで、50人の壁を乗り越えるメドがつく頃には組織も落ち着き、IPO前後には安定していた」(山本氏)ということだ。

IPOに関連して寺田氏が「社員が盛り上がったタイミングはいつだったか」と聞くと、佐々木氏は「上場承認日だった」とのこと。「15時に有価証券届出書がウェブで公開されるのだが、これが社内での発表前だったので、社内はザワザワしていた。15時半ごろに、社内でも正式に公表した」(佐々木氏)

一方の山本氏は「IPOの発表は盛り上がったことは盛り上がったけれども、盛り上げすぎないように気をつけていた」そう。「スタートアップの失敗談として、IPOを目標にしすぎると、IPO後ヤバいと聞いていたので、離脱や燃え尽きが起きないように、発表前から繰り返し『IPOはゴールではなくてスタートだ』と話していた。『IPOは、運転免許が取れたようなもの。我々はやっとクルマに乗れるようになったところ』と社員には説明していて、上場当日も意図的に盛り上がらないようにして、『社会的責任が出たから、これからもがんばろうね』という話をした」(山本氏)

IPOに向けた採用・事業での取り組み

IPOに向けて、集中して取り組んだ採用や事業についても、2人に聞いた。

佐々木氏がスペースマーケットに入社したのは2017年1月だが、「直前の2016年冬は業績が良かったのに、入社後の1月から3月はあまりよくなかったので、騙されたと思った(笑)」という。そして3月、千葉道場に参加した佐々木氏は、あるスタートアップのCEOにKPIの生データを見せてもらい、やり方を持ち帰って細かいKPI管理を行うようになった。

「スペースマーケットの掲載物件には、いろいろな場所、用途がある。ユーザーも法人、個人ともにいて、エリアもさまざま。料金も数百円から100万円まで幅広い。そうしたサービスを数字で判断するということを、2017年から始めた。2017年4月から6月は毎日KPIをみるようにしたところ、夏ごろから施策の精度が段々上がっていった」(佐々木氏)

千葉道場ファンド取締役パートナー 石井貴基氏

ここで石井氏から「KPIをゴリゴリ管理するようになって『社風が変わる』ではないが、既存メンバーから嫌がられなかったか」と佐々木氏に質問があった。

佐々木氏は、「確かに当初は嫌がられたが、重松氏が『新しいことをやろう!』という部分を担当した」と回答。自身が数字管理などの「厳しい方」を担当することで棲み分けを行ったということだった。

山本氏も、IPO前の数字の管理については「かぶるところがある」と話す。「IPOに向かう前は、事業が当たって勝手に伸びていく、といった具合で、フィーリングで経営していた。しかしVCからの投資が入ってからは、『ケーパビリティを超えることをやろうとしているのに、科学的にやらなければ実現は無理だ』ということで、なぜうまくいっているのか、数字を解明することから始めた。ひたすらデータ化し、分解しまくって、巨大なスプレッドシートに何百個というデータを最初は手作業で入力し、それを徐々に自動化して、データの見える化に3年ぐらいかかった」(山本氏)

山本氏は見える化によって「ようやくファクトで議論できるようになった」といい、「経営や事業は、科学しないとスケールしない」と語っている。

また山本氏は、役員からのトップダウンで組織で経営するにあたっては「経営会議をしっかり開くことも有効だった」と話している。ボードメンバーは5人。経営の意思決定が進まないという課題に対し、経営会議を週3回の頻度で開催するようにしたが、「話すことはなくならなかった」と山本氏はいう。

監査役も入った正式な会議を週2回、週1回はボードメンバーだけで集まって、よもやま議論を行っていくことで「ボードメンバーの結束が高まった」と山本氏。「今は週2回実施となったが、今でもまだまだ話すことがある。経営会議の頻度で、経営陣、社長と役員が一枚岩になったことは、100人の組織の壁を乗り越えるためのひとつのプラクティスでもあるのかなと考えている」(山本氏)

CEOでもあり、CTOでもある山本氏には「経営会議ではCEO、CTOのどちらの立場として発言するのか」との質問も投げかけられた。山本氏は「話題によって、帽子をかぶり分けている」と答えている。

「これは結構難しいのだけれども、経営会議ではCEOの帽子をかぶらざるを得ないときが多い。ボードメンバーのひとりに開発本部長、VPoE的な役割のメンバーがいるので、必要なときには、彼にCTO的な立場を取ってもらって、自分は結構厳しいフィードバックをするようにしている」(山本氏)

目的達成に影響を与えたキードライバーは?

エン・ジャパンの寺田氏からは2社に「どんなKPIを見て、それをどう上げていったか」という問いかけがあり、それぞれの目的達成に強く影響を与えた「キードライバー」について、佐々木氏、山本氏に聞いていくことになった。

スペースマーケットの佐々木氏は、同氏の入社以前の2016年までは「なぜ事業が伸びているのかは、しっかり分析できていなかった」という。そして「特にどの指標がキードライバーだったとは言えないが、要因分析をすることは重要だ」と話している。KPIのレポーティングは、「エンジニアやデザイナー、PMがそれぞれ行っている」そうだ。「CVRや利用率、利用額、高額利用の金額など、四半期ごとに確認するKPIを変えているので、追う数値が何かによって担当を変えている」とのことだった。

Chatworkの山本氏は「事業のキードライバーは、2つのエンジン。ひとつはフリーミアムモデルで、もうひとつがダイレクトセールスモデル」と答える。

「Chatwork事業は、無料利用のユーザーが機能を開放して有料コースを使うようになる、フリーミアムモデルでスタートしている。最初はそれしかなかったが、資金調達前は、それで自然成長していた」(山本氏)

しかし自然成長だけでは「VCが要求する成長に間に合わない」タイミングが来る。資金調達後はそこから成長をさらに加速するために、フリーミアムモデルに加えて、ダイレクトセールスモデルを立ち上げたと山本氏はいう。

「BtoB、SaaSモデルではむしろこちらがメインだと思う。マーケティングチームが見込み客のリードを展示会などのイベントで集めて、そこから電話でアポイントを取り、セールスが訪問して、1〜2カ月のトライアルはあるが、はじめから有料でサービスが始まる、直販モデル。それをやることを前提に調達したので、調達後に我々がまずやったことは、営業がゼロの状態から、営業部、マーケティング部を作ることだった」(山本氏)

もともとはエンジニア中心のChatworkには、営業、マーケティングで入った人材とは「カルチャーが全然違う」状況だったが、それを両方やる、あるいは営業側を推していかなければならない。山本氏は「フリーミアムでいいものを作ればプロダクトが広がる、というのはアーリーアダプターまで。そこから先のマジョリティ層は、自分で良いものがないかとプロダクトを探したりはしない。プッシュマーケティング、プッシュセールスが必要」として、開発と営業の両部門を担当し、「知ってもらわなければ」という文化へカルチャーの変革に乗り出した。

「カルチャーを変えることはすごく大変だったが、4〜5年かけて、フリーミアムとダイレクトセールス、両方のエンジンがあったからこそ、成長が2次曲線になった」(山本氏)

採用時の体験入社は強くおすすめしたい

キードライバーを加速させるための採用戦略について聞かれて、山本氏は次のように答えている。

「Chatworkの調達資金の使途は、マーケティングと開発が多く、エンジニアとビジネス系人材をほぼ同数、採用していた。調達しているスタートアップでは、ビジネス系人材の採用ではエージェントを使うのがスピードが早いと思う。ただし紹介を依頼すればいい人が採れるかというと、そういうわけでもない。ただ候補者リストが流れてくるだけで、ヒットする人材が見つからず、うまくいかないことも多い。エージェントを使いこなさなければ、いい採用にはつながらないだろう」(山本氏)

山本氏はエージェントを活用した採用でうまくいったケースとして「小さな人材紹介会社の社長と仲良くなって、こちらの思いを語り、ファンになってもらったことをきっかけに、向こうも『うちを人事部と思って使ってくれ』と言ってくれるようになった」という例を紹介した。

「どういう人が欲しいかが伝わると、とても(質の良い)熱いリストを用意してくれるようになる。そうして2〜3社と濃く付き合うようになった」(山本氏)

ちなみに「初期には採用計画といったものは特になかった」と山本氏は言う。石井氏も投資家の立場から考えても「採用計画は用意してもらうとしても、必ずしも当てにはならず、そこまで厳密にはできないと思う」と述べている。

「上場が近づくとようやく、計画通り採用できるようになる」という山本氏。スタートアップがスケールするときの人材採用について、「シニアマネージメントや、マーケティングスペシャリスト、スーパーエンジニアといった、成長にとって欠かせないケーパビリティを持つキーパーソンに、いかにいい人が採用できるかが肝。そういう人が採用できれば、その人の下にメンバーを入れていけばいいので、組織はスケールする。そこで失敗すると、半年、1年遅れてしまう」と語っている。

佐々木氏は、経営管理チームだけでなく、エンジニアでも数字も読みながら開発の優先順位が決められるという人材を重視していたということで、「エンジニアとコーポレートの採用については注意していた」と話す。一方で「キーマンを採用した後は、カルチャーフィットを重視しながら、ほぼ未経験の人も採用してきた」そうだ。

スペースマーケットでは、経理未経験で営業事務として入社した人材が、入社3年で決算までできるように成長した例もあるという。財務担当者も新卒2年目で、エンジニアにも未経験者を採用しており、うまくいっているそうだ。

人材エージェントについては「コミュニケーションがうまく取れなくて、50人の候補で1人しか入社しないといった結果になった」と佐々木氏。「給与水準が高くない上に、選考中に1日インターン体験を組み込んでいて、選考ステップが重いことも理由としてある。課題をハックしてもらい、たくさんの社員と面談してもらう1日体験を実施することにより、採用ミスマッチは少なくなるが、早く採用を決めたいエージェントからすると、あまりうまみがないだろう」(佐々木氏)

採用の窓口としては「Wantedlyが6〜7割、次いでGreenとリファラルで2〜3割ぐらい」と佐々木氏は言う。そのほかに「ブログや勉強会などで発信を行い、新しい技術導入もアピールし、スタートアップに興味のあるエンジニア界隈を引きつけることで、採用フィーをかけずに人材を獲得するようにしている」(佐々木氏)

体験入社では「マーケティングならダミーデータを用意して、マーケティング施策を2時間で考えて、といった課題を出す。実際に近い仕事を実践してもらうことで、入社する人にとっても業務がイメージしやすくなる」(佐々木氏)

体験入社については、Chatworkでも実施しているとのことで、山本氏も「体験入社は、カルチャーギャップや入社時のミスマッチが本当になくなるので、メチャクチャおすすめする」と話していた。

スペースマーケットがイベント幹事の負担減らす新サービス、参加者管理・会場手配・集金決済など1か所で

企画、ページの作成、参加者の募集・管理、会場の手配、集金決済。それが比較的規模の大きいカンファレンスやセミナーであれ、こじんまりとした勉強会であれ、いざイベントを開催するとなると主催者や幹事がやらなければいけないことは多い。

今回紹介する「スペースマーケットEVENT」はそんなイベント幹事の負担を軽減するサービスだ。参加者募集・会場予約・集金決済といったイベントの準備が1か所で完結する仕組みを構築し「もっと気軽にイベントを開催できるようにすること」が目標だという。

本日8月19日に正式ローンチを迎えたこのプロダクト、その名前からもわかるように様々なスペースを貸し借りできるプラットフォームを展開するスペースマーケットの新しい取り組みだ。

参加者募集、会場予約、集金決済が1サービスで完結

上述したようにスペースマーケットEVENTの最大の特徴は「イベント開催時の基本的な準備事項が1つのサービスに集約されている」こと。ページの作成や有料チケットの販売、参加者の管理・集金はもちろん、スペースマーケットを通じた会場の手配も同一アカウントで実行することができる。

イベント準備にまつわる一連のフローを1つのサービスで完結できるのが特徴。スペースマーケット本体と繋ぎこみ、同一アカウントでそのままイベント会場の予約も可能

「イベントを企画したところであまり参加者が集まらないかもしれない」という幹事の不安を解消する機能として「興味あり機能」も搭載。これはFacebookのイベントページにある興味ありボタンと似たような仕組みで、イベントの企画段階から周囲の興味関心を把握するためのものだ。

スペースマーケットEVENTの場合はFacebookを使っていないようなユーザー層向けにイベントを開く際や、実名を公表したくない人に対してイベントの情報を伝えたい場合などにも使いやすい。イベントページはサイトに公開されるパターンと、URLを知っている人だけがアクセスできるパターンを選ぶことが可能だ。

同サービスは4月よりプライベートβ版として運用をスタート。これまではスペースマーケットを使って場所を借りた人のみが使えるものだったが、本日よりレンタルスペースを予約していなくても使えるようになった。

イベントページの作成画面と、実際に作成されたページのイメージ。PCやスマホからサクッとイベントページの作成・編集ができる

現時点ではシンプルなプロダクトなので、たとえば法人が主催する大規模なカンファレンスや展示会、フェスなどにはより幅広い機能を備える「Peatix」や「EventRegist」を始めとした既存プロダクトの方が適している場合もあるだろう。

一方でスペースマーケット取締役CPO兼CTOの鈴木真一郎氏が「従来はバリューチェーンごとにそれぞれツールが存在し幹事も複数のツールを併用していた。意外と1つのプラットフォームにまとまっているものはなかったので、同じサービス上で滑らかにイベント準備ができるのはメリット」と話すように、複数のツールをまたぐ手間がないのはスペースマーケットEVENTのウリ。

来場者のトラッキングや独自のアンケート、座席の指定など高度な機能を求めない代わりに「とにかく少しでも準備の負担を無くしたい」人や「初めてイベントを主催する」人には特に向いているサービスと言えそうだ。

主な利用例としては、個人法人問わずエンジニア向けの勉強会やミートアップ、セミナーのほかコスプレイヤーの撮影会を始めとしたプライベートでのイベントなど。すでにこのような用途でスペースマーケット上のスペースが利用される事例はいくつもあり、今回のプロダクトによって会場探しの両側までカバーすることでスペースシェアの利用自体も加速させたいという。

スペースマーケットの付加サービスとして提供することで手数料を安くできる点もポイント。スペースマーケットEVENTでは有料チケット販売時の手数料を「3.99%+99円/1枚」に設定していて(無料チケットの場合は完全無料)、「業界でも最安価格帯で利用できるようにした」とのことだ。

また本日から2019年12月31日まではスペースマーケット上で会場予約をした上で有料チケットを販売した場合には決済手数料が無料になるキャンペーンも実施し、より多くのイベント開催を支援する。

データの活用でイベントの開催をもっと簡単に

鈴木氏やスペースマーケット代表取締役CEOの重松大輔氏によると、ゆくゆくはスペースマーケットならではの「データ」を軸に、イベントの開催をさらに簡単にする仕組みを考えているという。

具体的には「豊富なレンタルスペースのデータベース」というスペースマーケットの資産と、スペースマーケットEVENTを通じて蓄積されたイベント実績のデータや参加者によるイベントのレビューを活用した、独自のレコメンド機能を構想しているようだ。

「今までオーガナイザーの価値の1つは、イベントに適した場所やサービスのベストプラクティスを知っていることだった。スペースマーケットEVENTでは『どの会場でどのようなイベントが開催され、参加者からどのような反応を得たのか』をデータとして集めて解析することで、その知見を誰でも使えるようにしたい」(鈴木氏)

「オーガナイザーとしてはイベントを失敗させたくないので、各会場で過去にどんなイベントが開催されたかは絶対に知りたいはず。それがプラットフォーム上に蓄積されているだけでも負担は軽減されるし、満足度の高いイベントを実施することにも繋がる」(重松氏)

これまでもスペースマーケットでは勉強会や撮影会などのイベント用途でスペースを利用される事例が多かったそう。イベント開催のハードルを下げることで、スペースシェアの利用自体を加速させる狙いもある

今後はケータリングやファンディング(イベント資金を集められる仕組み)などへの対応も計画。イベントにマッチしたスペースのレコメンドからスタートし、中長期的には「新宿エリアでケータリング付きのミートアップを開催したい」といったようにイベント概要を入力すると、オススメの場所やケータリングサービスがパッケージとしてレコメンドされるような世界観を実現したいという。

「場所探しのハードルを下げたいという思いからスペースマーケットを運営してきたが、当然ながら場所を借りたい人には何かしらの目的があり、その中にはイベントを開催するためという人も多い。イベント主催者が『思いついたらパッと場所や必要なサービスを手配し、スムーズに準備できる仕組み』を整えることで、気軽にイベントにチャレンジできるようにしたい」(重松氏)

「今まではイベントの知見が人に帰属して可視化もされてこなかったため、PDCAを回すことも難しく、結果的に上手い人に幹事の役割が集中しがちだった。幹事の負担を少しでも軽減することで、イベントを開催する際の足かせをなくしていきたい」(鈴木氏)

「東京の陳腐化を避けたい」東京メトロとスペースマーケットがシェアエコで沿線地域を盛り上げる

写真右から東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当課長の池沢聡氏、スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏、東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当主任 工藤愛未氏

4月11日、東京地下鉄(東京メトロ)スペースマーケットが沿線地域を盛り上げることを目的に資本業務提携を締結した。

先日紹介した通り、東京メトロがスタートアップに直接投資をするのは初めて。同社が保有する遊休スペースをスペースマーケットと共に有効活用することで、東京の魅力や活力の共創を目指していく計画だ。第1弾の取り組みとして千代田線綾瀬駅から徒歩2分の場所に、鉄道車両部品を取り入れたシェアリングスペース「むすべやメトロ綾瀬」をオープンしている。

今回は両社のキーパーソンに直接話を聞く機会を得たので、前回紹介しきれなかった協業の背景や今後の取り組みについて紹介したい。

鉄道大手×スタートアップで沿線地域に新しい風を

もともと東京メトロでは「スタートアップとの協業」の形として2016年からアクセラレータープログラムに取り組んでいる。

背景にあるのは東京の人口減少だ。都内の人口は現時点で増加しているものの2025年ごろにはピークを迎え、その後は減っていくとされている。人口と関連性の高い鉄道事業の今後を見据えた時に、先手を打って動き出したいという意向があった。

「従来は自前主義のカルチャーがあったが、自分たちだけでは先進的な取り組みをやるのは難しく、リソースも必要になる。いわゆるオープンイノベーションの文脈で、他社とタッグを組み新しいことにチャレンジできないか。そんな思いからアクセラレータープログラムを始めた」(東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当課長の池沢聡氏)

スペースマーケットとの出会いも2016年。東京メトロの開催した勉強会にスペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏が登壇したのが最初のきっかけだ。

東京メトロでは中期経営計画の中でオープンイノベーションの推進についても言及していて、その中で「健康の維持・推進」「“つながり”の創出」「働き方の多様化に伴う新たな移動の価値提供」という3つの柱を打ち出している。

今回の協業は特に「つながり」に関する連携を見据えたもの。遊休スペースの時間貸しを進めてきたスペースマーケットと協力することで、地域沿線の賑わいを創出し活性化に繋げたいという考えだ。

東京メトログループ中期経営計画「東京メトロプラン2021」より

協業に関してはスペースマーケット側から打診をしたそう。同社のシリーズCラウンドには東京メトロや東京建物を始め業界大手のプレイヤーが複数社参加しているが、日本国内でシェアリングエコノミー市場を盛り上げていく上では、既存産業を巻き込んでいくことが大きなポイントになるという。

スペースマーケットが鉄道系のパートナーを探す中で、東京メトロがその提案に乗る形で今回の提携が実現した。

「スペースマーケット上にも沿線のスペースは掲載されているが、鉄道会社とタッグを組んで戦略的に仕掛けていくところまでは踏み切れていなかった。沿線の活性化は当社のビジネスとの相性も良く、コンセプトや内装が良いスペースであれば、渋谷や新宿のような中心エリアから少し遠い場所でもしっかりと使ってもらえる。その点は過去のデータからもわかっていた」(スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏)

立ち上げのスピード感やハードルの低さはレンタルスペースの特徴のひとつ。沿線の活性化として空いた土地に老人施設や保育園を立ち上げるようなケースもあるが、それに比べると運用開始までの時間はかなり短縮でき、用途も幅広い。

スペースマーケット執行役員の端山愛子氏によると「公民館」のように活用される事例も増えているそう。同社でも「レンタル花見」のような新しい体験を創出する取り組みに力を入れているが、使い方の余白が多いレンタルスペースには、沿線地域のつながりを深める手段としても大きな可能性がありそうだ。

「スペースマーケット」には1万件以上の多様なレンタルスペースが登録。様々な用途で活用されている

両社の知見を持ち寄り“遊休スペース”を人が流れる空間へ

先日スタートした「むすべやメトロ綾瀬」

さて、今後両社では具体的にどのような取り組みを実施していくのか。

基本的には、むすべやメトロ綾瀬のように東京メトロが保有するスペースを発掘。それをスペースマーケット上で運用することによって、沿線に人が流れる仕組みを作る。その中で「双方の資産やナレッジを有効活用すること」で新しい価値を生み出していきたいという。

たとえば、むすべやメトロ綾瀬の場合は綾瀬駅徒歩2分の高架下スペースを活用。1年半ほど前までは地元の店舗が30年近く入居していたが、退去後はしばらく遊休スペースとなっていたためにリノベーションしてレンタルスペースに変えた。

特徴的なのは、優先席の座面やつり革など“使わなくなった鉄道車両部品”を取り入れていること。「自分たちにとってみれば、見飽きるくらい身近にあって、そこまで大きな価値があるとは思っていなかった」(東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当主任 工藤愛未氏)ものが一般のユーザーにとっては魅力的な要素となり、すでに複数件の予約も発生している。

高架下のスペースはその特性上、細長い場所が多く電車の音が気になるなどのネックもあるが、その反面駅からのアクセスが良いなどの利点もあり、むすべやメトロ綾瀬のようにプロデュースの方法次第ではコンスタントに予約が入る可能性もあるだろう。

一方で東京メトロは大抵が地下に路線があるので「東西線や千代田線沿線以外など一部の沿線以外はあまり土地を持っているわけではなく、(レンタルスペースとして使える)うまい場所をどれだけ発掘できるかが課題になる」(池沢氏)。

高架下のみならず、空いているテナントスペースをポップアップストアなどとして一時的に運用したり、“駅ナカ”のさらなる活用なども今後検討していくようだ。

あくまで個人的な感想ではあるけれど、東京メトロが富士ゼロックスと共同で実証実験をしている駅ナカのサテライトオフィスサービスなどはもっと広がってほしい。

実証実験中のサテライトオフィスサービス。現在は南北線 溜池山王駅や有楽町線 池袋駅、副都心線 新宿三丁目駅などにブースが設置されている

これは地下鉄の駅構内にある空きスペースに、電話ボックスのよう形でプライベートな個人オフィス空間を設置・提供するというもの。長時間ならカフェやシェアオフィスなどを探すのもありだけど、ちょっとした空き時間や打ち合わせの前後に少しだけ作業したいような場合、駅構内で集中して作業できる場所があれば嬉しい人は多いのではないだろうか。

あくまで一例ではあるけれど、このように鉄道会社だからこそ持っているスペースなども含め、今後両社の知見を持ち寄りながら遊休スペースの活用方法を模索していくという。

東京が陳腐化することを避けたい

冒頭でも触れた通り、東京メトロでは2016年よりアクセラレータープログラムを実施。出資という形ではないが、採択企業とは現在も業務面で連携をとっている例もある。

工藤氏によると初回採択企業のプログレステクノロジーズとは、視覚に障害のあるユーザー向けに音声で目的地までナビゲートする「shikAI」を共同で開発中とのこと。

体験シェアリングサービス「AND STORY」を展開するストーリーアンドカンパニーとは2018年に業務提携を締結。東京メトロの各駅ごとにその街やそこに関わる人の魅力をシェアする「旅するトーク」を実施しているそうだ。

視覚に障害のあるユーザー向けの、音声ナビアプリ「shikAI」

ストーリーアンドカンパニーと取り組む「東京、旅するトーク」

東京メトロでは今後もスタートアップとの連携を進めていく計画。現時点で「CVCを立ち上げ本格的にスタートアップ投資に踏み切る」というわけではないそうだが、今回のスペースマーケットのような直接投資やアクセラレータープログラムを通じた共創など、それぞれのケースに応じて最適な方法を模索していきたいという。

「東京メトロではグループ理念に『東京を走らせる力』を掲げている。だかからこそ自分としても『東京が陳腐化することを避けたい』という思いは強く、それに向けて何ができるかを追求することが、今後自分たちがやるべきことだと考えている」

「特に他の鉄道会社と比べても鉄道事業が占める割合が大きいからこそ、それ以外にどんなことができるのかを模索している段階。(スペースマーケットとは)豊富なネットワークやプロデュース力、PR力なども借りながら、自社の遊休資産を有効活用した取り組みにチャレンジしていきたい」(池沢氏)

東京メトロが初のスタートアップ出資、スペースマーケットと協業でスペースの有効活用へ

東京地下鉄(以下、東京メトロ)とスペースマーケットは4月11日、スペースの有効活用によって沿線地域を盛り上げることを目指し、資本業務提携を締結したことを明らかにした。

これまで東京メトロではアクセラレータープログラムを通じてスタートアップとコラボしてきたが、直接出資するのは今回が初めてとのこと。スペースマーケットが今年1月に発表していたシリーズCラウンドに参加したという(1月時点で非公開の事業会社とされていたうちの1社。出資額は明かされていない)。

東京メトロは中期経営計画の中で「東京の魅力・活力の共創」をキーワードにあげ、沿線地域と連携したにぎわいの創出、まちづくりとの連携、オープンイノベーションの推進などに取り組んでいる。オープンイノベーションの推進に関しては「“つながり”の創出を通じ、持続可能な地域社会形成に貢献する」というテーマを掲げていて、スペースマーケットとの協業もこれに該当するものだ。

東京メトロでは様々なスペースの“時間貸し”を進めてきたスペースマーケットとタッグを組み、自社で保有する物件やスペースをシェアすることで東京の魅力・活力の共創を目指していく計画。具体的な施策の第1弾として、本日オープンしたシェアリングスペース「むすべやメトロ綾瀬」をスペースマーケット上で展開する。

むすべやメトロ綾瀬の外観。千代田線高架下(千代田線綾瀬駅より徒歩2分の場所)にオープン

鉄道車両部品を取り入れた内装。パーティーや会議のほか、路面にあるレイアウト自由な空間によりワークショップやポップアップショップにも利用できるとのこと

なお今回の資本業務提携について、スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏からは以下のようにコメントしている。

「今後はより多角的な連携をしたいと考えているが、まずは第一弾として今回の取組みとなった。東京メトロの遊休スペースや遊休資産(車両部品のリサイクル)を活用しながら、まちの『ハブ』を一緒に創造していきたい。綾瀬のスペースは、是非鉄道ファンに楽しんでいただきたい。電車好きな子ども連れのパーティーなどでも人気がでるのではないかと考えている」(重松氏)

ドコモとスペースマーケットが協業、貸切空間でライブを楽しめる「プライベートビューイング」体験創出へ

NTTドコモスペースマーケットは2月6日、レンタルスペースを活用した新しいエンターテイメント体験の創出に向けて協業を進めていくことを明らかにした。今回の協業の実現に向け、12月にドコモの子会社であるNTTドコモ・ベンチャーズがスペースマーケットに出資済みだという(スペースマーケットでは1月にシリーズCラウンドで複数社から8.5億円を調達したことを明かしている)。

両社がこれから取り組むのは「ドコモが配信するスポーツやライブ映像を、仲間と一緒にレンタルスペースで楽しめる」という新しい体験型サービスの創出だ。

これまでドコモでは自社が保有する会員基盤やICT技術を用いながら多数のパートナーとタッグを組み、スポーツや映画、音楽といった幅広いエンタメコンテンツを提供してきた。一方のスペースマーケットには1万件を超えるバラエティ豊かなレンタルスペースが掲載され、仲間内でのパーティーやスポーツ観戦、花見などのイベントで利用されるケースも増えてきている。

このアセットを活かして、両社ではパブリックビューイングならぬ「プライベートビューイング」スタイルの確立を目指す計画。オシャレなレンタルスペースを貸し切って気の合う仲間と一緒にエンタメコンテンツを楽しめるだけでなく、直接ライブ会場へ行くのが難しいユーザーにとっての新たな選択肢になるかもしれない。

本協業の第1弾として、2月17日から3月3日にかけてアーティスト「moumoon」のライブの生配信・事後配信や、 アーカイブ映像などを視聴できるプライベートビューイング・トライアルイベントを実施するという。

場所の“時間貸し”普及へ、スペースマーケットが8.5億円を調達——東京建物やJTBらから

さまざまなスペースを1時間単位から貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」。同サービスを展開するスペースマーケットは1月23日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資により、総額8.5億円を調達したことを明らかにした。

今回は同社にとってシリーズCという位置付けで、11月に紹介した東京建物を含む複数社からの資金調達もこのラウンドに含まれる。参加した投資家は以下の通りだ。

  • 東京建物(新規)
  • JTB(新規)
  • 広域ちば地域活性化投資事業有限責任組合(広域ちば地域活性化ファンド / 新規)
  • XTech Ventures(新規)
  • マイナビ(既存)
  • オプトベンチャーズ(既存)
  • みずほキャピタル(既存)
  • SBIインベストメント(既存)
  • 千葉功太郎氏(既存)
  • その他社名非公開の事業会社数社と投資ファンド1社(いずれも新規)

2016年にオプトベンチャーズなどから4億円を調達した際に比べて、今回のラウンドでは東京建物やJTBなど事業会社の名が目立つ。

スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏によると「場所の時間貸しをもっと当たり前にしていくことを目指し、(特に新規の投資家については)親和性の高い事業会社と連携を深めることを重視した」とのこと。各事業会社とは資本面だけでなく業務面でもタッグを組み、サービスのさらなる拡大を目指していくという。

業界活性化に向けてCM実施、法人とのアライアンスも強化

スペースマーケットは2014年4月のローンチ。個人や企業が保有する遊休スペースを時間単位で貸し借りできるこのプラットフォームには現在1万件を超えるスペースが掲載されている。

スペースのジャンルもイベント会場や会議室から、撮影スタジオ、映画館、住宅など幅広く、借り手となるユーザーの用途も会社のイベントやプライベートの女子会、本格的なロケやCMの撮影スポットなど、どんどん多様化している状況だ。

特にここ1〜2年で様々な領域でシェアリングエコノミー関連のサービスが広がったこともあり、スペースマーケット内でも貸し借りのサイクルが回るようになってきたというのは11月に紹介した通り。一方で重松氏が「まだまだ認知度は低い」と話すように、直近では「スペースの時間貸し文化」自体をさらに広めるための取り組みを進めてきた。

実際に見かけたという人もいるかもしれないが、11月からはテレビCMを実施。マス向けにレンタルスペースの概念や利用シーンのイメージを訴求するとともに、並行して法人とのアライアンスにも力を入れてきた。

今回資本業務提携を締結した東京建物とJTBはその代表例だ。東京建物との連携については前回の記事で紹介しているので詳しくはそちらに譲るが、重松氏いわく「サプライサイドを強化する」ための取り組み。

簡単に説明すると東京建物が保有する遊休スペースをスペースマーケットで扱うことによって、魅力的なスペースを拡充するだけでなく、時間貸しが根付いていない不動産市場に変化を加えようという試みだった。

一方でJTBとの提携は「特に法人を軸にしたデマンドサイドを強化する」こと、つまりスペースマーケットに並ぶスペースの利用をより活性化させることが目的だという。

JTBとは大きく2つの軸で協業する計画。1つは法人営業連携によるビジネスシーンでの利用の拡大で、JTBが顧客のニーズに応じてスペースマーケット上の場所を提案するというものだ。

背景にあるのはJTBが日本全国のクライアントへ実施しているMICE支援(Meeting : 会議・研修、Incentive tour : 招待旅行、Conference : 国際会議・学術会議、Exhibition : 展示会)においてニーズが多様化していること。オフサイトミーティングや社内イベントの満足度を向上させるためにユニークなスペースを活用したいというエンドユーザーの要望と、法人の利用を促進したいというスペースマーケットの考えが一致した。

「スペースマーケットはもともと法人向けのサービスとして始まったが、近年は個人ユーザーの利用が急速に伸びてきている状況。一方で法人のニーズは十分に取りきれておらずポテンシャルはあるものの、自社だけでは取りこぼしてしまうような部分もあった。(JTBは)法人向けの営業が強く、今後強化しようとしていることもあり、自社にとっては力強いパートナーだ」(重松氏)

スペースマーケットには廃校や古民家など特徴的なスペースも多い。たまには気分を変える意味も込めて、このような場所で社内の行事やミーティングをやってみるのも面白そうだ

2つ目として地域交流事業における連携を通じた地方の遊休スペース活用も進める。JTBグループが展開する地域交流事業のメニュー内でスペースマーケットの時間貸しスキームを用い、短時間のイベントや会議時の場所としてスペースの提供を行っていく計画だ。

サービスの成長とともにスペースの活用方法も多様化

こうした枠組みに加えて、企業の商品サンプリングなどマーケティングやプロモーションの文脈で遊休スペースを活かそうという動きも加速している。

12月にはプロジェクターやスピーカー機能を搭載したスマートライトを開発するpopInとコラボし、全国20のスペース内で同社のライトを体験できるプロジェクトを実施。同様に独自のコンセプトで開発された家具や家電製品を扱う企業を中心に、自社製品を実際の生活に近しい環境の中で試してもらいたいというニーズが増えてきているという。

たとえば炊飯器やオーブンなどを探している場合、店頭では実際にご飯を炊いたり調理をして使い勝手を試してみるといったことは難しい。パブリックなスペースではなくプライベートな利用シーンに近い形で友人や家族と製品を手にとって試せる機会はこれまであまりなく、企業としても「体験」にフォーカスした新たな商品訴求の場となり得る。

このようにシェアされた遊休スペースを企業のブランディング用途で活用するという取り組みは、重松氏自身もサービスローンチ当初から明確に思い描いていたものではない。まさにスペースのシェアエコが少しずつ広がる中で、その利用方法もどんどんアップデートされていっているような形だ。

「会社としてはこの1月で5周年を迎えるが、立ち上げ当初は自分自身もこのマーケットが存在するのか、存在するとしても国内でレンタルスペースの活用が根付くのか不安もあった。ただここにきて時間貸しが徐々に一般化しつつある。『akippa』など周辺ビジネスも盛り上がってきているほか、大企業も巻き込めるようになり手応えも感じている。この流れを加速させ、時間貸しを当たり前の選択肢のひとつにできるように、さらなる事業拡大を目指したい」(重松氏)

不動産の“時間貸し”当たり前にーースペースマーケットが東京建物とタッグ、VCらからの調達も

写真左から、東京建物代表取締役社長執行役員の野村均氏、スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏、XTech Ventures共同創業者の西條晋一氏

「今までは“売買”と“賃貸”しかなかった不動産市場で、新しい選択肢として“タイムシェア(時間貸し)”の文化を作っていく。不動産の運用のあり方を根本から変えるようなチャレンジをしていきたい」

そう話すのはスペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏だ。同社では2014年4月より、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」を運営。現在は会議室や撮影スタジオ、映画館、住宅などバラエティ豊かなスペースが1万件以上も掲載され、個人・法人問わず幅広い“場所探し”のニーズに応えるサービスへと成長している。

そんなスペースマーケットが不動産の利活用にさらなら変革を起こすべく、業界の大物とタッグを組むというニュースが飛び込んできた。その相手は創立から120年を超える東京建物だ。

スペースマーケットは11月16日、東京建物と資本業務提携を締結したことを明らかにした。合わせてXTech Ventures、オプトベンチャーズ、みずほキャピタル、千葉功太郎氏を引受先とした第三者割当増資を実施したことも明かしている。

今回の資金調達は同社にとってシリーズCラウンドの一環という位置付け。具体的な調達額は公開されていないけれど、数億円規模になるという。

ローンチから4年半、幅広い用途で使われるプラットフォームに

TechCrunchで最初にスペースマーケットを紹介したのはサービスローンチ時の約4年半前のこと。当時は会議や研修、イベントなどのビジネス用途が多く“ビジネス向けのAirbnb”と紹介していたけれど、今ではパーティーやスポーツ、個展などプライベートでの利用も増えている。

重松氏の話では特にここ1〜2年で利用者の層や数も広がったそう。たとえば最近は働き方改革の波にも乗って、フリーランスや副業講師のレッスンやセミナーのスペースとして活用されるケースが増加。ヨガスタジオやトレーニングジム、多目的イベントスペースなどが人気だ。

背景にはそもそもユーザーが借りたいと思うスペースが増えたことがある。ローンチ時は“お寺”や“球場”などユニークなスペースを借りられるのがひとつのウリだったけれど、近年は幅広い用途で使えるおしゃれなクリエイティブスペースが集まってきた。

その結果として写真やロケ、CMの撮影場所として頻繁に使われるスペースも出てきているそうだ。

ここ数年で利用者の“シェアエコ”サービスに対する距離感も変わってきた。重松氏も「メルカリを始めさまざまなシェアリングサービスが登場し、他のユーザーと直接モノを売買したりシェアしたりすることへの抵抗感も減ってきているのではないか」とトレンドの変化が利用者層の拡大にも影響しているという。

そのような背景もあり、スペースマーケット自体もリリースから4年半の月日を重ねる中で“空きスペースのシェアリングプラットフォーム”としてのポジションを徐々に確立し、貸し借りのサイクルが回るようになってきた。

とはいえ重松氏が「自分の周りでも徐々に使われるになってきてはいるものの、認知度調査などを実施してみてもまだまだ認知度が低い」と話すように、世間一般で広く知られている状態にはまだ至っていない。

同社にとって今回の資金調達はこのサイクルをグッと加速させるためのものでもある。調達した資金を活用して今後大規模なマーケティング施策を実施する計画だ。

不動産大手にも広がる“シェアエコ”の波

ここ数年で変わってきたのは一般の消費者だけではなく、企業も同じ。特に大企業のシェアリングに対する考え方が一気に変わってきたというのが重松氏の見解だ。不動産関連では日本でも最近WeWorkの話題を耳にすることが増えてきたけれど、それに限らず大手ディベロッパーがコーワキングスペースを開設するなどシェアエコの波が広がり始めている。

冒頭でも触れた通り、従来の不動産市場においては売買と賃貸の二択が基本路線で、そこに時間貸しという概念が入ってくることはほとんどなかった。結果的にそのどちらも難しい場合は“遊休不動産”として使われずに放置されてしまっているのが現状だ。

時間貸しすることで有効活用できるポテンシャルがあるのは、遊休化したスペースに限らない。個人の自宅やオフィス、店舗などにも使われていない時間帯や空間が存在する。実際スペースマーケットではそのようなスペースの貸し借りが活発に行われてきた。

「ビッグプレイヤーが参入してきてこそ、この流れが本物になる。実は昔から大手のデベロッパーと話をしたりはしていたが、当時はなかなか具体的な話になるまでに至らなかった。(東京建物とタッグを組むことで)不動産の時間貸しをさらに加速させられると考えている」(重松氏)

東京建物が2018年10月20日にグランドオープンした「Brillia 品川南大井」のモデルルーム。今後このスペースをスペースマーケット上に掲載して貸し出す予定だ

不動産の時間貸しを当たり前にする挑戦

今回、東京建物側の担当者である古澤嘉一氏にも少し話を聞くことができたのだけれど、興味深かったのが「不動産の活用について“柔軟性”と“契約期間”の2軸でマトリクスを作って考えてみると、両社は真逆にいるようなプレイヤーだ」という考え方だ。

東京建物の場合は基本的にある程度長いスパンで顧客に不動産を提供し、従来からの伝統的なスタイルで顧客と関係性を築く。一方のスペースマーケットは登録されたスペースが1時間単位で、かつさまざまな用途で活用される。

「この間には不動産の活用方法に関する無数の選択肢がある。たとえばウィークリーマンションのようなものもそのひとつだし、ホテルに関しても家族が長期間宿泊することにフォーカスを当てたものがあってもいい。いろいろな答えを探っていくなら、完全に逆サイドのプレイヤーと組むのが1番おもしろいと考えた」(古澤氏)

ちなみに東京建物がスタートアップに直接出資を行うのは初めてのことなのだそう。両社では今後さまざまな角度から不動産活用の選択肢を模索していくようだけれど、まずは足元の取り組みとして東京建物の保有するアセットをスペースマーケット上で運用していく方針だ。

一例としてマンションのモデルルーム内のスペースを休業日に貸し出したり、再開発エリアにある未利用の開発用不動産を活用したりといったことから取り組む。賃貸不動産や商業施設などのシェアスペースを取り入れた空室活用や、シェアスペースを前提とした新しい不動産の開発も検討するという。

八重洲の再開発事業の対象エリアにあるヤエスメッグビル。同ビル内の地下音楽ホールもスペースマーケット上で有効活用する計画

「事例ができれば可能性も広がる。まずは事例を積み重ねて、業界の中でもシェアエコの話や不動産の時間貸しの話が普通に交わされるようにしていきたい。2〜3年後、“設計の段階からシェアすることを前提とした不動産”が作られるような段階が訪れた時に、いち早くその考え方を取り入れ業界を盛り上げていけるような存在になれれば」(古澤氏)

「自分たちの中では、これから不動産のタイムシェアが当たり前になると思って事業に取り組んでいる。歴史のある業界のガリバーと組んで、不動産業界を変えていくための第一歩にしたい」(重松氏)

「リピート利用360%増」スペースマーケットがポイント機能と直前割を開始、ナレッジを生かした新事業も

2014年4月にリリースされた、遊休スペースをシェアできるプラットフォーム「スペースマーケット」。お寺や古民家、映画館や個人の住宅まで多様なスペースをレンタルし、会議や撮影、イベントなどに利用できるというユニークなサービスだ。

現在取り扱いスペースは1万2000件を超え、月間で数千件のイベントを生み出すプラットフォームになったスペースマーケット。同サービスではさらなる満足度向上を図るため、10月24日より「ポイント機能」と「直前割引サービス」をスタートした。

リピート利用が前年比で360%増加、継続者増やす新機能リリース

スペースマーケットのユーザー数は対前年比で約300%増加しているが、なかでも順調に伸びているのがリピートユーザーだ。会議や撮影などの法人利用に加えパーティーなどの個人利用も増え、リピート利用が対前年比で約360%増加しているという(3ヶ月以内に2回以上利用したユーザー数)。

リピーターが多いのは会議利用のほか、開発合宿や経営会議など社外で行うオフサイトミーティング、プロモーション素材の撮影、フリーランスのセミナーなど。スペースマーケット企画ディレクション室の堀田遼人氏によると、用途や活用する企業の幅も広がってきているそうだ。

「オフサイトミーティングではこれまでベンチャー企業の利用が多かったが、最近では大企業の利用も増えている。ミーティングをした後でそのままバーベキューをするなど、1日合宿で使えるスペースが人気だ。また専用の撮影スタジオの代わりにスペースマーケットに登録された住宅をレンタルして、動画・写真撮影を行う事例も増えてきている」(堀田氏)

今後さらに継続利用を増やす目的で、スペースマーケットでは新たにポイント機能と直前割引サービスを始める。ポイント機能はスペース利用額の3%がすべてのゲストに付与され、1ポイント1円換算で利用できる仕組み。直前割引は利用日の直前5日間に予約した場合に割引が適用されるというものだ(割引率はスペースごとに異なるが、10%以上になるという)。

スペースマーケットでは以前から一部のスペースを対象に、ホストの承認なしに即時予約できる「今すぐ予約」機能を提供。多くの反響があり利用数の増加に繋がったこともあり、直前割引サービスの開始に至ったという。

また法人利用を増やすべく11月からは法人専用アカウントもリリースする。後払いやコーポレートカードによる決済に対応し経費精算の負担を削減するほか、法人ごとに社員の予約を一元管理できることで使いやすさの向上を図る。

蓄積した資産も活用しながら、法人顧客数の拡大へ

機能追加に加え、スペースマーケットでは蓄積してきた資産を活用した企業のマーケティング支援事業「Memorable Moment Creations」や、空きスペースの再生プロデュース事業も始めている。

「企業が一方的に価値観を発信するのではなく、ユーザーと一緒にストーリーを作っていく『共創』が今のマーケティングのトレンド。スペースマーケットでは記憶に残るスペースに加え、これまで蓄積してきたイベントのナレッジを活用してイベントのサポートを行っていく」(スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏)

ネスレ日本と実施した事例「とびっきりParty Market with PERRIER 」

どこで、いつ、どんなイベントが開催されるのか。スペースマーケットにはイベント開催者が気になるデータが蓄積されてきた。たとえばハロウィンなどプライベートのパーティー会場として活用される事例も増えてきているそうで、トレンドを踏まえて企業のマーケティング支援をできるのが強みだという。

空きスペースの再生プロデュース事業についても、不動産は保有しているがどのように運用するのがいいかわからないオーナーのスペース再生をサポートするというもの。これまでも「fika」というブランドで自社プロデュースのスペースを提供していたが、それを本格化する形でスペースの企画から運用までを行う。第一弾として大手不動産投資会社と提携し、池袋の地下空間をリノベーションしたFICTION池袋を10月にオープンしている。

引き続きスペースマーケットでは個人・法人双方に向けた施策を行っていく方針だが、特に重要視する指標のひとつとして、重松氏は「法人の会員数や顧客数」をあげる。プラットフォームの改善をしながら、イベントやスペースのマーケティング、プロデュースといった事業を強化し、法人顧客の拡大を目指していくという。

「このサービスを運営していると、働き方や遊び方の価値観が急速に変わってきていることを実感する。3年前だと少し早かった動きがちょうど普及してきたタイミング。自社でも事例を積極的に発信しながら、働き方や時間の使い方に関する価値観の変遷も伝えていきたい」(重松氏)

スペースマーケットでは2017年6月に成立した​民泊新法(住宅宿泊事業法)に基づき、宿泊事業に本格参入することも9月に発表している。民泊事業も含め、今後の同社の動向が気になるところだ。

スペースシェアの「スペースマーケット」が約4億円を調達して開発・営業を強化

space

球場からお寺からオフィスの会議室まで、空きスペースを1時間単位で貸し借りできるマーケットプレイス「スペースマーケット」。サービスを運営するスペースマーケットは8月29日、オプトベンチャーズ、リクルートストラテジックパートナーズ、みずほキャピタル、SBI インベストメント、オリックスを引受先とした約4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

スペースマーケットは2014年1月の設立で、同年4月にサービスを開始した。現在のスペース数は8500箇所で毎月順調に増加しているという。ユーザー数は対前年比で300%増加の3万人。これまでの成約件数は非公開だが、現在7割弱がパーティーでの会場探しに使われているという。それも首都圏で、15人未満の比較的小さな規模のものが中心だ。

また最近では、これまで提供してきたマーケットプライスに加えて、コンシェルジェが会場手配からイベント企画までをサポートするエンタープライズ向け事業も拡大。企業のサンプリングやマーケティング、リクルーティングのための場作りなどにも利用されているという。件数ベースではプラットフォーム経由での案件が7割程度を占めるが、現在はこのエンタープライズにも注力している。加えて直近ではピザハットベネフィットワンとも提携。利用用途や機能を拡大しているほか、民泊事業も開始。法制面の整備に合わせてサービスを拡大していく予定だ。

スペースマーケットでは、今回の調達を元にして開発および営業、マーケティング人材を強化。プラットフォームの利便性を高めると同時に、積極的なマーケティング施策を展開していく。具体的な開発内容としてはまず、AIを活用したレコメンド機能を開発するほか、ボットによる24時間体制のカスタマーサポート、最適なレンタル価格の提案機能、多言語・他通貨決済への対応などを進める(これは2020年の東京五輪や、将来的な海外展開を視野に入れたものだそう)。

これに加えて地方自治体などとの連携も強化する。「『入場料×365日×人数』しか売上を出せず、観光施設を生かしきれていない地域も少なくない。その体制を変えていく。各種パートナーと連携することで、企画や送客なども行っていく」(スペースマーケット)。同社では2019年時点で5万箇所のスペース提供を目指す。

民泊営業「年180日以下」が閣議決定、事業者に影響を聞いた

airbnb
政府の規制改革会議が6月2日、個人宅の空室を有料で貸し出す「民泊」について、営業日数の上限を「年間180日以下」とすることを条件に解禁する方針を閣議決定した。今後は所管省庁である厚生労働省と観光庁で営業日数の上限を確定し、2016年度中に法案を提出する。

法的にグレー、黒に近いグレーと言われつつも急速に普及する民泊。今回の閣議決定で個人宅の民泊が解禁される一方で、民泊事業者からは営業日数制限に反発の声が上がっている。どんな影響があるのか? まもなく民泊物件仲介を開始するスペースマーケットCEOの重松大輔氏に聞いた。

――民泊事業への影響は?

民泊事業の発展を阻害するものだと思っている。投資の回収が困難になることで参入事業者が減る可能性がある。営業日数を規制せずに、問題があれば上限を設定するアプローチを取ってほしかった。

――そのほかに問題点は?

住宅の提供者は通常、Airbnbをはじめ複数のサービスに登録して部屋を貸し出している。われわれ事業者としては、他のサービスを通じて貸し出した宿泊日数を把握するのは難しく、どこまで厳密に営業日数を管理できるか不透明な部分もある。

――スペースマーケットとしてはどう対応する?

法律が施行されれば、上限にのっとってサービスを提供する。弊社はスペースの一時貸しが本業なので、民泊施設を(宿泊させずに)会議やパーティーなどの用途で貸し出すことになるかもしれない。

――政府に対して何らかの行動を取る?

(重松氏が代表理事を務める)シェアリングエコノミー協会として意見をとりまとめ、反対意見を表明する予定だ。今までグレーな部分があった民泊が白になったのは大躍進ではあるが、やはり上限規制はよろしくない。

日本は旅館業法上、原則として宿泊業はホテルや旅館に限定されている。家主が不在にもかかわらず、不特定多数の人を対象に、継続的に宿泊費を徴収する場合、営業許可がなければ違法となる。

閣議決定では、住宅提供者や不動産業者がネットを通じて届け出をすれば、旅館業法上の許可なしで部屋を貸し出せるようにするとともに、宿泊者名簿の作成や衛生管理を義務付ける内容などを盛り込んだ。(2日に閣議決定した「規制改革実施計画」のPDF、民泊に関する記述は23〜24ページ)

日経新聞によれば、民泊の営業規制をめぐっては、シェアリングエコノミーを推進する新経済連盟の三木谷浩史代表理事も「過剰規制は不要だ」とコメント。その一方、ホテル・旅館業界からは「宿泊者の安全が担保されない」などと規制強化を求める声が上がっている。TechCrunch Japanが内閣府に確認したところによれば、営業日数の上限は年90日の英国、年60日のオランダなどの例を参考に調整を図るという。