KDDIが手がけるスタートアップ・エンジニア向けアクセラレータプログラム「KDDI∞Labo」。通算第11期を数えるこのプログラムのデモデイが、5月18日に開催された。
本デモデイでは、第11期プログラムに採択された4チーム、第10期から継続して活動中の4チーム、そしてKDDIが全国で展開するピッチ大会「KDDI MeetUP!」から選抜された3チームの合計11社がプレゼンテーションを行った。その様子をお伝えしよう。
第11期チーム
1.AMI
AMI代表の小川晋平氏
AMIが開発する医療デバイスの「超聴診器」は、従来の聴診器に自動診断アシスト機能などを加えたハイスペック聴診器だ。AMI代表の小川晋平氏は「200年前にフランスで開発された聴診器は、その後ほとんど進歩していない」と話す。
超聴診器の特徴は大きく3つある。1つ目は、音の解析に心筋活動電位の発生タイミングと聴診音を合成して精度の高い解析を可能にした”自動診断アシスト機能”。震災地などでの利用も可能なように小型化された”携帯性”。そして、遠隔地の医師も接触を感知できる機能などを追加した”遠隔医療への対応”だ。
2.TeNKYU
TeNKYU代表の管英規氏
TeNKYUは、インターネットから得た情報をユーザーに光で伝える電球型IoTデバイス。本体には人感センサーとカラーLED、WiFiが搭載され、ユーザーがデバイスに近づくだけで欲しい情報を教えてくれる。例えば、玄関などに置いておき、その日の天気を自動で知ることなどが可能だ。
TeNKYUが伝える情報はアプリで切り替え可能。天気だけでなく、花粉量、気温、その日のラッキカラーなどの情報が用意されている。TeNKYU代表の管英規氏は「誰もがTeNKYUのアプリを作れるような環境を整える」と話し、今後はサードパーティーが利用できるアプリストアを展開するとした。プラットフォーム型デバイスとなることを目指す。
3.VRize
VRize代表の正田英之氏
VRスタートアップのVRizeが展開するサービスは2つある。
1つ目が、高機能・マルチデバイス対応のVR動画アプリを洗練されたUI/UXで製作できるCMSサービスの「VRize Video」だ。同サービスの特徴は、Oculus、Steam、PlayStation VRなどすべてのVRプラットフォームに対応している点だ。VRize代表の正田英之氏は「VR動画製作にかかるほとんどの工程を自動化しているため、時間と費用をそれぞれ10分の1にまで削減可能」と話す。
2つ目のサービスは、VRアプリ内に広告を挿入できるアドネットワークの「VRize Ad」だ。本サービスでは、例えば、仮想現実に置かれた大画面のテレビに既存のCMを流したりすることができる。また、正田氏は「この技術はVRだけでなくARにも活用可能だ」と主張する。
VRizeは2017年6月から代理店販売を開始。同年12月からはグローバル展開を始めるとしている。
4.WATCHA
WATCHAのイ・ジュオク氏
韓国発のスタートアップが手がける「WATCHA」は、人工知能による動画リコメンドサービスだ。ユーザーがつけた1〜5段階のレーティング、そして映画のあらすじから抽出したタグを分析することにより、ユーザーの好みにあった作品をオススメしてくれる。
同社はプレゼンテーションの中で、「WATCHAの強みは独自のパーソナライズ・レコメンド技術」だと話し、平均二乗誤差(RMSE, Root Mean Squared Error)を測定基準とすると、「あの世界最高の動画ストリーミング企業であるN社よりも高い精度を誇る」と主張している。まあ、N社はおそらくNetflixを指しているんだろう。
韓国発のWATCHAはすでに本国で260万人のユーザを獲得。それらのユーザーから既に3億件の映画評価データを集め、2015年9月から正式サービスを開始した日本でも約800万件のデータを収集済みだという。
同社は今後、映画から書籍や音楽へとレコメンドの領域を拡大し、グローバル展開を目指すとしている。
10期継続チーム
1. アクセルスペース
アクセルスペースのプレゼンテーター
アクセルスペースが展開する「AxelGlobe」は、小型衛生を利用した衛星画像データサービスだ。地球の軌道上に打ち出された50機の小型衛星が、世界中を毎日観測する。そのため、顧客から撮影リクエストを受けることなく、画像データやそれに基づく分析データを提供可能だ。
アクセルスペースはすでに他企業との実証実験を開始している。その例として、三井物産との実証実験では衛星画像データから駐車場建設の候補地を選定したり、その周辺環境から駐車場の料金設定を行うなどしている。
2.XSHELL
XSHELL代表の瀬戸山七海氏
XSHELLが手がける「isaax」は、LinuxベースのIoTデバイス開発を簡易化するためのIoT SaaSだ。開発、検証、そしてローンチ後のアップデートを3ステップで完結することができる。
XSHELL代表の瀬戸山七海氏は、「isaaxを利用したロボットアームがドイツの展示会に出展した際、バグが発生した。しかし、isaaxの遠隔アップデート機能を利用することで日本からバグを即座に修正することができた」と語る。
XSHELLはTechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトル参加企業。TechCrunch Japanでは以前にもisaaxを取り上げたことがあるので、そちらの記事も参考にしていただきたい。
3.笑農和
笑農和代表の下村豪徳氏
笑農和が展開する「paditch」は、水田で課題といわれる水管理をITを活用して簡易化するスマート水田サービスだ。同社はプログラム期間中にIoT水門デバイス「PaditchGate 01」を開発。これにより、田植え後の水管理をスマートフォンを通して遠隔から行うことができる。水位や時間などでの開閉指示も可能だ。
同社はJA三井リースと共同で、農家専用リースを活用したデバイス販売も開始している。これにより、デバイスに動産保険が適用されたり、収穫期の一括払いに対応するなどしている。
4.MAMORIO
MAMORIO代表の増木大己氏
「MAMORIO」は財布などの貴重品に取り付けて使用する紛失防止IoTデバイス。縦35.5mm、横19mm、厚さ3.4mmの超小型デバイスだ。
事前にペアリングしたスマートフォンと、MAMORIOを取り付けた財布などの貴重品が一定距離以上離れると、スマートフォンに通知が送られる仕組みだ。万が一、貴重品を紛失してしまった場合も、それがある場所を地図で確認することができる。
MAMORIOの最大の特徴が「クラウドトラッキング」と呼ばれる機能。これは、MAMORIOを利用する他のユーザーが紛失物の近くを通ったとき、その所有者に場所を通知するという機能だ。
同社はこれまでに、au損保と共同で年1000円の損害保険の提供を開始。また、他のアプリにMAMORIOの機能を追加できる開発ツール「MAMORIO SDK」の提供を開始している。
MeetUp!選抜チーム
本デモデイでは、アクセラレータプログラム参加企業の他にも、KDDI MeetUp!から選抜された3チームがプレゼンを発表した。
1.KidsCodeClub:子供が遊びながら学べるSTEAM教育プラットフォームの開発
2.Warrantee:スマホなどの保証書を電子化し、一括管理ができるアプリの開発
3.Portable:水産業者間の水産物マーケットプレイスの提供
以上の計11社がプレゼンテーションを行った結果、「超聴診器」のAMIがKDDI∞Labo賞を獲得した。また、聴衆が選ぶオーディエンス賞は保証書電子管理のWarranteeが獲得した。
現在、「KDDI∞Labo」アクセラーレータプログラムは第12期プログラムの参加企業を募集中だ。応募は同プログラムのエントリーページから行うことが可能。募集期間は一次募集が2017年5月18日〜6月20日まで。それ以降も、プログラムに途中参加する企業を通年で募集している。
第12期の活動テーマは、IoT、BIGDATA、ドローン、AR/VR、ヘルスケアの5分野だという。
ちなみに、第12期プログラムの実施期間は2017年8月〜2018年7月末の約1年間を予定していて、これまでは3ヶ月間だったプログラム期間が延長されている。その理由は、KDDI∞Laboは今後、単なるインキュベーションプログラムではなく、パートナー企業との実証実験なども含めた「事業共創プラットフォーム」を目指しており、それには従来の3ヶ月間という期間では足りないという判断がされたそう。
実際、第11期プログラム期間中には11件の実証実験と、同じく11件の事業連携が生まれている。
KDDI 代表取締役執行役員副社長の髙橋誠氏
XSHELL、及びTelexistenceへの出資を発表
KDDIは本デモデイのなかで、同社のCVCであるKDDI Open Innovation Fundを通してプログラム参加中のXSHELLへ出資することを発表した。アクセラレータプログラムの期間中に同社が参加チームに出資するのはこれが初めてだ。金額などの詳細は明らかにされていない。
また、KDDIはロボティクスおよびクラウド・データサービスを開発・販売するTelexistenceへの出資も同時に発表している。Telexistenceは、遠隔地にあるロボットを、自分の分身のように扱う”テレイグジスタンス技術”を活用したロボティクス開発ベンチャーだ。