【マイク編】自宅のテレビ会議環境を最大限に活用する方法

サウンドがリモートの世界を動かす

在宅勤務がすぐに無くなってしまうことはない。そして多くの企業が、リモートワークの実践を、延長または永続化するための、長期的な取り組みを発表している。ということは、現在の自宅のビデオ会議環境を、さらに改善する絶好のチャンスだと捉える人もいるということだ。そこで私たちは、様々な基本要素を詳しく眺めて、読者の方々ビデオ会議やライブ放送の改善に役立つものは何かという探求を始めた。今回取り上げるのは、オーディオに関するものだ。

マイクの基本

前回の特集では、MacまたはPCが単体で生み出すものよりも優れた音を得ることができる、素晴らしい入門レベルのアドオンマイクにスポットを当てた。その中の1つに挙げられたのが、USBを介して直接接続することが可能で、カスタマイズを必要とせずに素晴らしいフルボディのサウンドを得ることができる、ロングセラーのSamson Meteor Mic(サムソン・メテオ・マイク)だ。

また、シンプルで安価なワイヤレスマイクキットのRode Wireless GO(ロード・ワイヤレス・ゴー)も挙げられる。これは単体で使用することもできるし、Rode Lavalier GO(ロード・ラベリア・ゴー)などの小型マイクロホンと組み合わせて多少音質を向上させることもできる。Rodeはまた、Meteor Micと同様に、優れたUSBマイクも提供している、素直に動作して100ドル(約1万800円)程度の価格で売られているRode NT-USB Miniだ。Meteor Micと比較すると、特定の環境での利用をより柔軟にするための、マグネット式デスクスタンドのようなデザイン上の特徴を持っている。そして生み出すサウンドもまた素晴らしいものだ。

Rode Wireless GOの環境をより改善するために、もしく有線小型ウェアラブルマイクをコンピュータやオーディオインターフェースに直接接続して使うために、Sennheiser(ゼンハイザー)から優れた選択肢がいくつか提供されている。それは、たとえどのような使い方をしたとしても、わずかながらもはっきりと認識できる音質の向上をもたらす。

Sennheiser MKE Essential Omni(ゼンハイザー・MKE・エッセンシャル・オムニ)は、舞台制作やその他のプロフェッショナルな現場でよく使用される優れたピンマイクで、その小ささによって、付属のクリップを使用して衣服や髪の毛にさえ簡単に隠すことができる。あるいはイヤーセットホルダーに装着して、口に近い頬の位置に置くこともできる。装着方法によって若干異なるサウンド特性が得られることになるが、大抵の場合は素晴らしく温かみのあるサウンドが得られる。またコストも200ドル(約2万1500円)程度であり(サウンド機器の相対的価格としては)それほど高価ではない。

SennheiserのME 2-IIも、優れた結果を得られるまた別の低コストオプション(129.95ドル、約1万4000円)で、Rode Wireless GOなどのワイヤレストランスミッターと一緒に使うことができるが、MKE Essentialに比べると温かみや存在感がやや劣る。

サウンドに真剣に取り組む

ハイエンドの装着型小型マイクは、その時点で既に高額な領域に入り始めるが、ほとんどのオーディオ機器と同様に上をみたらきりがない。これは、ショットガンマイクにも当てはまる。これは、最高のサウンドを求めるためのまた別のオプションであり、画面の中に見苦しいマイクを写したり、(ピンマイクなどの)物理的に非常に小さなマイクを使うことによるある程度の音質トレードオフを受け容れたり、といった妥協を排することができる。

前回の投稿では、Rode VideoMic NTGをオプションの1つとして利用することについて説明した。これは、実際に試してみるのに最適なミドルレベルのショットガンマイクだ。そして内蔵バッテリー、コンパクトなサイズ、そして最新のさまざまなカメラとのインテリジェントな互換性によって、野外でカメラと組み合わせて利用する際の様々な利便性も備えている。

しかし、ホームスタジオで使用する場合に限れば、その用途にはるかに適したショットガンマイクがある。Rode NTG3が個人的なお気に入りだ。そしてそれは正当な評価によって、放送および映画業界でも人気のある標準だ。NTG3は、標準XLR出力を備え、48Vファンタム電源を必要とする筒状のマイクであり、カメラが固定位置に置かれ演者もどちらかといえば固定位置にとどまっているようなケース(すなわち大多数のひとの自宅作業環境)の動画撮影時には完璧だ。

とはいえ、Rode NTG3は多少お値段が張る ―― 699ドル(約7万5000円)だ。これは非常に高品質な標準のポッドキャスティングマイクよりも高価である。だがその価格に見合うだけのことはある、(必要があればだが)屋外での撮影用に向く耐湿性を備えた非常に高品質のハードウェアを手に入る。そしてカメラの視野から離れたところに設置されていてもそのサウンドは非常に優れたものだ。

また、そのピックアップパターンは超単一指向性だ。つまり、直接正面のサウンドを拾うことに関しては優れているが、側方からのサウンドはあまり拾わないということだ。これは、ロケ地での映画撮影と同じように、ほとんどの共有ホームオフィス空間では有利な性質である。

人気が高くより低価格で入手可能な、別のおすすめオプションは、Sennheiser MKE 600だ。価格はNTG3の約半分の価格である約330ドル(3万6000円)で、外に持ち出してカメラに接続したい場合に備えて、バッテリーが内蔵されている。ただしこれもXLRを使用しているため、コンピューターと一緒に動作させるためには、Focusrite 2i2や、最近リリースされたAudient EVO 4など(もしくは私のようにBlackmagic ATEM Miniのような機材を使っているならiRig Preなど)のプリアンプが必要だ。

MKE 600からのサウンドもトップクラスには違いないが、NTG3が持っているような自己ノイズの排除や、より深い声に適した深く豊かなトーンをキャプチャする能力には劣る。下のビデオでは、両方のショットガンマイクとSennheiser MKE Essentialを比較したものを確認できる。

 

また別のオプションは、一般にはポッドキャスターやラジオのパーソナリティが使っているところを見ることができる、ポールまたはブームに取り付けられたマイクを使用することだ。こうしたオプションには、Shure SM7Bなどの人気機種が存在している(その特徴的な形状からすぐに気がつくだろう)。私はオーディオポッドキャストの 自宅録音の一部をShure Beta 87A超単一指向性マイクで行っているが、下のビデオでもわかるように、無調整のままでも非常に優れたサウンドを提供してくれるにもかかわらず、ライブのビデオ会議やミーティング、そしてイベントなどでこのマイクを使うことをためらわせる理由がある。

 

もちろん、他にもさまざまなオプションがある。RodeとSennheiserの両方に価格の異なるオプションがあり、それらのほとんどは、支払った費用に見合う優れた品質を提供してくれる。オーディオの性質は、高音域、低音域、バランスのとれた音など、好みが分かれる非常に個人的なものだ。そのため自分に合うものを見つけるためには、多くの比較を行い、サンプルを聴く必要がある。

まとめ

結局のところ、映画やビデオ業界で定評のある質の高いブランドにこだわることが、自宅環境を最大限に活用するための優れた方法だ。上記で私が使用しているようなマイクには、さらに物理的な防音措置を施すメリットがある。例えばカーペットやタオルを敷くといった極めて簡単なものから、気泡パッドのような防音素材を買って壁に貼り付けるなどの手段だ。

サウンド はおそらく、ビデオ会議や仮想イベントの設定の中でも最も問題が発生しやすい部分だ。これは科学であると同時にアートでもあり、特にライブ環境では、最高の機器を使用しても制御が難しい変数がたくさんある。しかし、そこをさらに先に進んで行くことで、洗練されたプロフェッショナルに見えるのか、準備不足にみえるのかの違いが現れることになる。そのことはこの先増えて行く仮想フェイス・トゥ・フェイスワールドで差をつけることになるだろう。

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(翻訳:sako)

リモートワークは「自宅監禁」から柔軟性のある「どこでも勤務」に変わっていくべき

私は先週の金曜日(5月15日)、同僚とともに「在宅勤務」とリモートワークの未来に関する見解を記事にまとめたが、その分析情報を信じるならば、かなりの人たちの共感を得たようだ。

「オフィス」で知的作業に専念することが中心のハイテク業界においては、特に珍しくもないことだが、ミニキッチンに置かれているアイスクリームのサイズが小さくなったことなどの「ちょっとした頭痛の種」から、オープンオフィスで難解なMLアルゴリズムについて頭を絞っている側で、同僚たちがオモチャの銃を撃ち合って遊んでいることなどの「もっと大きな不満」までが、オフィス環境で過ごす時間が長くなるほど、過大に深刻化していく気がしてしまう。

多くの人が強要されている「在宅勤務」の状況が理想的でないことははっきりしている。学校は閉鎖され、子どもたちが家にいる。みんな家にいるからインターネットが重い。犬の世話を頼んだ人は来ないし、避難できるカフェもやってない。だから、例えTwitterのような巨大ハイテク企業が在宅勤務のオプションを恒久化するなどと宣言したところで、在宅勤務というヤツにみんなが同様の嫌悪感と反発を抱いていることは容易に想像がつく。

関連記事:Twtterが社員の在宅勤務を期限なしに認める措置を発表

だがそれは、これから現実に起きることの空売りだ。「在宅勤務」というネーミングが悪い。なぜなら、その新たな方針から得られる基本的な自由がそこに謳われていないからだ。その目的は自宅監禁ではないはずだ。みんながそれぞれ、最も生産的になれる場所で考えたり働いたりできるようにすることだろう。

もちろん、新型コロナウイルス(COVID-19)のお陰で、ほとんどの人たちが小さな家の中に隔離されていることは理解している。しかし長い目で見れば、「在宅勤務」はどこからでも仕事ができる柔軟性を提供することが最も重要だ。それは自宅かもしれないし、カフェでも、家族が入院している病院でも、ビーチでも、友だちの家でも、ホテルでも構わない。ここでいう柔軟性の要点は、スケジュールとそこから受けるストレスから解放され、好きなところで仕事ができる状態にすることだ。

家で仕事をすることを選ぶ人は多い。また私たちには自宅以外でも、毎日同じ仕事環境に行って仕事をしたがる習性がある。それは結構なことだ。柔軟性とは、常に場所を変えろという意味ではない。場所を変えたくなったときや、変える必要が出たときに変えられるのが柔軟性だ。

「在宅勤務」の方針には、ひとつ大きな疑問が浮かび上がる。オフィスが好きで、同僚と会議をするなどの社会生活が好きな人はどうするかだ。ここにまた、言葉の定義の幅を狭めてしまう問題がある。「どこでも勤務」とは、文字どおり「どこでも」だ。普段通勤しているオフィスもそこに含まれる。

柔軟性とは、スケジュールと場所を自分が行いたい知的作業に適応させることだ。いくつものプロジェクトを調整する会議に追われる日もある。社会から自らを隔絶して小説の執筆や新しいアルゴリズムの開発に没頭したり、来週の全体会議のための大きなプレゼンテーションの準備をしたい日もある。それらをまとめてやりたい日もある。家でくつろいだり、同僚に癒してほしい日もある。

端的にいえば「どこでも勤務」とは、スケジュールが許す限りの自由とダイナミズムをカプセル化したものだ。企業にとっては、本当の「どこでも勤務」の文化をどのように実現するか課題となる。それは、オフィスか家かの2択を超えるものだ。従業員が家で仕事ができるよう必要な機材(モニターや持ち帰り用のコンピューターなど)に予算を付けたり、自宅のインターネット環境を整えるための補助金を出す企業はすでに増えている。

だが「どこでも勤務」の場合、従業員がカフェで飲んだコーヒー代やWi-Fiの接続料を会社が負担するべきなのか?コワーキングスペースでのWi-Fiの利用料はどうか?従業員が気分転換のために別の街やいろいろな場所に移動する費用を企業は負うべきなのか?遠く離れた従業員に、直接会うための制度を提供するべきなのか?

残念ながら、今のところ企業幹部たちが気にしているのはコストだ(これは驚きだ!)。オフィスには金がかかる。この5年間で1人あたりのオフィス面積は、コスト削減のために小さくなっている。ドア付きの個室オフィスの代わりにオープンオフィスの使用が強要される原因はそこにもある。これなら協力体制が強化されて同時に経費も削減できる。「在宅勤務」が人気になったのは、ブロードバンドのインターネットが普及したことと、企業がさらなる経費削減の方策を模索するようになってからのことだ。

「どこでも勤務」は、企業の経費削減にはまったくつながらない。かつては大きなオフィスビルを使っていた企業は、小さなスペースで済むようになるかもしれないが、家賃で節約できた分以上の経費が、旅費や食費で消える。この新しい職場環境の柔軟化は、経費を削るためのものではない。長期にわたる社会的距離の確保のためでもない。結果的にこれは、従業員の福利と生産性、そして究極的には収益性への投資なのだ。

画像クレジット:Maskot / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

新型コロナ後、スタートアップはどうやって職場復帰するかを米国で調査開始

世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの中で、スタートアップの働き方が将来どうなっていくかに関する総合的な調査を、英国の非営利団体であるFounders Forum(ファウンダーズ・フォーラム)が実施する。この研究は、多くの企業が長期にわたるオフィス閉鎖や「Work From Home(WFH、在宅勤務)」の方針を打ち出していることを受けて行われる。

同グループは、COVID-19 Workplace Survey(COVID-19職場調査)がスタートアップコミュニティーの今後の行動に役立つデータを提供することで、経営者は職場復帰戦略の重要な決定を下し、サービス提供者(アクセラレーター、コワーキングスペース、投資家など)は、「ポスト新型コロナ」世界のスタートアップを最大限支援できるために役立てることを期待している。

このプロジェクトはFounders Forum(ファウンダーズ・フォーラム)、Founders Factory(ファウンダーズ・ファクトリー)、およびfirstminute capital(ファーストミニット・キャピタル)の共同ファウンダー・エグゼクティブ・チェアマンであるBrent Hoberman(ブレント・ホバーマン)氏が設立した。

ホバーマン氏はTechCrunchのインタビューに対して「ファウンダーは職場復帰に関わる重要な決定を孤独に下さなくてはならない」と語っている。研究の目的は「早期ステージのスタートアップが、オフィススペースやリモートワークに関する戦略について現在実施している方策」を調査することだとホバーマン氏はいう。そしてこの調査結果は「ファウンダーと支援サービスを提供する人たちの両方に関して、スタートアップやその社員たちの置かれた状況を改善するために何ができるかを導いていく」と述べている。

COVID-19 Workplace Surveyでは、回答者が以下のような基本的質問に匿名で回答する。

  • スタートアップはオフィスを再開するのか?
  • しない場合は、いつ再開する予定か?
  • 英国政府が安全であることを通知したらすぐに?
  • 今年? 来年?
  • そのために講じる安全施策は?
  • それ以外に、COVID-19によってリモートワークポリシーに対する考え方がどう変わったか?

「ファウンダーには『他のファウンダーは職場戦略をどう変えているのか』の回答を知って欲しいと思っている」とホバーマン氏は説明した。

さらに同氏は、社員各個人のリモートワーク環境が今後のリモートワークポリシーに対する意見に影響を与えることをファウンダーは理解する必要がある、なぜなら万人向けのソリューションはないからだ、と付け加えた。「さまざまな層がどんなリモートワーク環境を望んでいるかを考えるべきだ」。

コワーキングスペースなどのサービス提供者も、ポストロックダウン環境でスタートアップがどんな作業場所を求めているか(フレキシブルなデスクスペース、共用ミーティングルームなど)を、研究結果から知ることができる

調査は10日間実施され、結果はTechCrunchで公表される。

画像クレジット:Amy Galbraith

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Twtterが社員の在宅勤務を期限なしに認める措置を発表

Twitter(ツイッター)のJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は5月12日、在宅勤務がうまくいっていると従業員が感じている限りそのまま続けられるようにするとの電子メールを従業員に送った。ドーシー氏は、同社が在宅勤務モデルをいち早く取り入れたと記したが、他の企業と同様、そうした取り組みは新型コロナウイルス(COVID-19)による外出禁止によって加速した。

同社はTechCrunchへのメールで在宅勤務措置を無期限とする決定を認め、次のように述べた。

「労働力の分散と、どこからでも働ける労力配分のサポートに力点を置いてきたため、当社は在宅勤務に素早く対応できた。在宅勤務が機能することはこの数カ月で証明された。よって、従業員が在宅勤務が可能なポジションにあり、この先ずっと在宅勤務を続けたいと思っているなら、それを認める。もし在宅勤務を希望しない場合、以前の状態に戻っても安全だと感じるようになった時に、追加のコロナ対策を取った上でオフィスで歓迎する」。

加えて同社は、出社を希望する人のために直接顔を合わせての勤務やミーティングを再開する計画の概要も示した。サンフランシスコのLondon Breed(ロンドン・ブリード)市長は4月27日に、同市が外出禁止令を5月末まで延長すると発表した。その一方でGavin Newsom(ギャビン・ニューサム)州知事はすでに規制の一部を緩和する方針を示している。

たとえそうにしても、Twitterは当然のことながら出社再開に向けて注意深いアプローチを取っているようだ。HR責任者のJennifer Christie(ジェニファー・クリスティー)氏はTwitterの計画を以下のように示した。

  • オフィスの再開は社が決める。オフィスに戻るかどうか、戻る場合のその時期は従業員が決める
  • ごく少数の例外はあるが、オフィスは9月まで閉鎖する。オフィスを再開する場合、以前の状態に速やかに戻すことはない。注意深く、意図的に、少しずつ戻す。
  • ごくわずかな例外を除き、9月まで出張はない。直接顔を合わせる社内イベントは年内は行わない。2021年のイベントに関しては今年後半に判断する。

もちろん状況によって物事は変わるが、Twitterの言葉からするに、計画にある措置を継続することは大いにあり得るようだ。Faceboo(フェイスブック)やGoogle(グーグル)を含む他のテック大企業は在宅勤務措置を年末まで延長した。Twitterのアプローチは同社のサイズに合っているようだ。しかしサンフランシスコの本社や他のロケーションのオフィスが将来どうなるかははっきりしていない。

“新型コロナウイルス

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(翻訳:Mizoguchi

テクノロジーで私たちの住む場所が変わる

High Angle View Of Modern Cityscape During Sunset

【編集部注】執筆者のDan Laufer氏は、RentLingo.comの共同設立者。

カリフォルニア州知事のJerry Brown氏は、最近提出した法案をもとに、同州中で大規模都市開発を行うための道筋を整備しようとしている。同法案は、サンフランシスコで増加中の住宅供給量に大きな影響を与える可能性がある。具体的には、デベロッパーに対して事前に行われる冗長なレビュープロセスや、NIMBY(Not In My Back Yard)主義者から反対を受けているようなプロジェクトにその影響が及ぶと考えられている。

同法案が成立すれば、住宅の供給量増加に拍車がかかり、家賃上昇を抑えることができる。それ自体は良いことなのだが、結局のところはあまり関係がないのかもしれない。あと5年もすれば新たな技術革新で、人が居住地として選ぶ地域に大きな変化が起こり、嬉しい副産物として、法律とは無関係にサンフランシスコの住宅危機を解消することが見込まれているからだ。

まず歴史的な文脈から考えてみたい。1900年にはアメリカ人の30%が都市部に住んでいたが、2010年までにその数は81%へと増加した。1900年当時は、農家が労働力の40%を占めていたにも関わらず、今日ではその数が2%へと減少しており、人は仕事を求めて都市部へ移動してきたことがわかる。明らかに仕事が都市部へと移っていったことで、人口集中のサイクルが出来上がり、既に都市部に住んでいる人に対してサービスを提供する人員(レジ担当、ウェイターなど)が必要となった。そして人は職場の近くに住みたがる。問題はサンフランシスコで生活できる人口にも限界があるということだ。

しかし、もしもサンフランシスコに住む恩恵を全て受けられて、さらには海辺の家で目を覚まし、都市部と比べて半分の家賃で済むとすると、ほとんどの人が悩むことなくその選択肢をとるだろう。これはCraigslist上の詐欺広告ではないし、まだ選択肢としては存在していない。それでも、そのうちすぐに私たち全員が正にその選択をできるようになる。ある3つのテクノロジーが、私たちの不動産に対する見方を完全に変え、この理想的なシナリオを実現してくれるのだ。そのテクノロジーとは、自動運転車、ハイパーループ、そして仮想現実(VR)だ。

今後はテクノロジーの力を利用して、人はそれぞれ散らばって住むようになる。

自動運転車が早くも実現しようとしている。大手自動車メーカー各社は、2020年までの自動運転車実用化を公約しており、TeslaやGoogleにいたってはそれ以前に実用化を達成しようとしている。普及曲線に関してあれこれ言うこともできるが、それよりも私自身は、必要なときに目的地まで自分を運んでもらいたいと同時に、自分で運転するよりも安く抑えたい。これは恐らく私に限ったことではないだろう。

自動運転車の普及で2つの大きな変化が予想される。それは、1)駐車場のスペースを大規模に減らしてもっと有意義なことに使えるようになること、そして、2)「運転手」が効率的になり、さらには道路上を走る車の数が減ることで車詰まりや事故が解消され、結果的に交通渋滞が無くなるということだ。

アメリカの都市部のほとんどで、駐車場が地表面積の少なくとも25%を占めると言われている。そのうち全てのスペースが新たな開発に使えるわけではないし、開発自体にももちろん時間がかかるため、すぐにはその影響が現れないだろう。しかし、現在ある駐車場の4分の1だけでも、2〜3年の間に利用可能となれば、住宅供給量が急速に増加する要因となるだろう。もっと重要なのが渋滞の解消だ。学校や職場への移動、また、あるひとの社会的役割に応じた「便利な」場所という定義自体が、今日に比べて今後劇的に広がっていく。

例えばハーフムーンベイ(Half Moon Bay)は素晴らしい街ではあるが、現状の通勤の不便さから、シリコンバレーで働く人の中で真剣に引っ越しを考える人はほとんどいない。だが、もしもドア・ツー・ドアで30分しかかからず、さらには移動中に本を読んだり、テレビを見たりできるとなれば事情は変わってくるだろう。実際のところ、自分の活動の中心地から40マイル(65km)内にある場所であれば、どの場所でも理想的な居住地候補となり得る。それに伴って、住宅需要がもっと広いエリアに散らばり、中心から離れたハーフムーンベイやナパ(Napa)などの地域では家賃上昇が予想されるが、同時にサンフランシスコまたはシリコンバレー中心部の家賃が下がることとなる。

次の技術的なブレイクスルーが、ハイパーループだ。馴染みがない人向けに説明すると、ハイパーループは、銀行のドライブスルーに設置してあるチューブを等身大の大きさにしたもので、これを使うと最高時速700マイル(時速1100km)で移動できると言われている。もしもハイパーループの技術が実用化されれば、サンフランシスコからロサンゼルスまで約30分で移動できるようになる。

まだまだ実用化に向けて様々なハードルが残っているものの、誕生間もないプレイヤーのひとつであるHyperloop Oneもハイパーループの建設に挑戦している。Hyperloop Oneは、最近ラスベガス郊外でそのコンセプトを証明し、2021年までに人を運べるようにするというゴールを掲げている。

サンフランシスコで生活できる人口にも限界がある。

ハイパーループを自分の思いのままに動かせる自動運転車と組み合わせることで、シリコンバレーで働きつつも、「便利な」場所と呼べる地域をさらに広げることができる。その結果、住む場所が活動の中心地から半径40マイル以内にある必要はなくなり、活動地に繋がるハイパーループのいずれかの乗口から40マイル圏内に住めばよくなる。そうすると実質的に、太平洋沿岸地域のどこにでも住めるようになり、ハイパーループと自動運転車を使うことで、現在サンフランシスコからサンノゼに車で向かうよりも短い時間でドア・ツー・ドアの移動ができるようになる。その上、移動時間を全て運転以外の活動に使うことができるのだ。

うっとりするような街並みのエンシニータス(Encinitas)であれば、サンフランシスコ市内の家賃の60%で住むことができるし、デル・マー(Del Mar)であれば約半分で済む。高級住宅地のラホヤ(La Jolla)にだってサンフランシスコと同じ家賃で住むことができ、シリコンバレーへの通勤も今に比べると快適になるだろう。

最後に、VRの登場が生活のイメージを一変させ、恐らく通勤という概念自体を昔のものにしてしまうだろう。FacebookがOculusを20億ドルで買収したのには理由がある。Facebookは、未来の社会的交流はVRを介して行われると考えているのだ。Microsoftは既に関連デモを発表しており、デモビデオの中では、物理的に全く異なる地点にいる人同士がホログラムのように現れて違和感なく交流する姿が、若干気味悪くも素晴らしく映しだされている。(Microsoftはその様子をホロポーテーションとピッタリの名前で呼んでいる)

Gallupによれば、在宅勤務を断続的に行う人の割合は、1995年に9%だったのが、2015年までに37%へと増加した。しかし現在のテクノロジーを利用した場合、在宅勤務には欠点がある。一般的に、在宅勤務よりも同じ部屋で同僚と仕事をした方が何かと便利なのだ。その状況をVRは変えようとしており、在宅勤務者の割合は今後劇的に増えることが予想される。

恐らく同僚との友情を深めるために(バーチャルビールを一緒に飲むというのはそんなに楽しくないだろうし)、パートタイムでオフィスに居たいと思い続ける人もいるだろうが、週5日の通勤は被雇用者にとっても、雇用者にとっても望ましいものではない。雇用者にしてみれば、通勤をなくすことで優位な採用条件を提示できるようになり、被雇用者の就業可能時間も増えることとなる。

今日のように人口が密集した都市で生活する代わりに、今後はテクノロジーの力を利用して、人はそれぞれ散らばった場所にずっと安く住めるようになる。そして、サンフランシスコだけでなく全ての大都市で不動産価格にも変化が出てくるだろう。結果的に、普遍的な魅力(海辺や山の麓など)を持つ地域にもっと多くの人が移り住むようになるのだ。

Jerry Brown知事の法案に関しては、家の数が増えること自体は良いことだし、可決されてほしいと考えている。将来どのようなことが起きるか分からないし、手頃な家は、遠い将来ではなくすぐに必要になる。しかし、私は向こう10年のうちに今の状況を振り返って、結局法案自体は関係無かったよねと言うことになると信じている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter