大手インターネット・プラットフォームは、欧州立法府が来月提出予定の法案が通れば、規制当局の監視下でそのアルゴリズムの開示が要請されることになる。
欧州委員会上級副委員長Margrethe Vestager(マルグレーテ・ベスタエアー)氏が10月30日に行ったスピーチ(欧州委員会報告)で、間もなく発表されるデジタルパッケージ法案の重要な柱はアルゴリズムの説明責任だと示唆した。これには、「おすすめ」システムの仕組みの解説と、ユーザーにより多くの権限を与えることをプラットフォームに求める規制案も含まれる。
「私たちが準備を進めている規制案は、あらゆるデジタルサービスに規制当局と協力する義務を課すものです。大手プラットフォームは、規制当局の要請があれば、そのアルゴリズムの仕組みに関する詳しい情報を提出しなければなりません」
Facebook(フェイスブック)などのソーシャルメディア・プラットフォームは、規制当局の要請を受けるより早く広告アーカイブを立ち上げたが、その情報の構成方法について、さらに独立系の研究者のアクセス権またはアクセスできない点(未訳記事)について、第三者の研究者からは苦情が絶えない。
また、広告ターゲティングに関するユーザーのための情報も、拡大を要求する計画がある。これには、コンテンツのモデレーションにおける判断基準を説明する報告義務の強化も伴うと、ベスタエアー氏は言う。さらに同氏は、デジタルサービス法案とデジタルマーケティング法案がどのような形になるか、その概要を先週の初め(未訳記事)に示している。
欧州立法府は、弱い立場の個人やグループへの差別や偏った虐待的なターゲティングなどのリスクを冒しつつ、彼らがどのようにデータ処理を行い、情報を分類しランク付けしているのか、という疑問から生じた、「ブラックボック」化したアルゴリズムの個人と社会に与える破壊的な影響への懸念に対処しようとしている。
委員会は現在、ビッグテックを対象とした強制力のある透明化ルールを整備しているという。ビッグテックがそのプラットフォームで増幅し収益化しているコンテンツに、もっと大きな責任を持たせることを目指している。その要求と効果的な執行方法は、どちらも慎重な細部の詰めを誤ると台無しになる恐れがあるが、原案作りの期間は1カ月ほどしかない。
「12月に提出予定のデジタルサービス法案の大きな目標のひとつは、これらのプラットフォームがアルゴリズムの仕組みを確実に透明化し、さらに彼らの意志決定に対する説明責任を強めて、民主主義を守ることです」とベスタエアー氏は、30日、非営利研究支援団体主催のイベントに登壇し述べた。
「私たちが取り組んでいる提案は、つまりは、おすすめシステムが表示するコンテンツをどのようにして決めているかをプラットフォームは私たちに明らかにせよということです。そうすることで、彼らが私たちにもたらす、またはもたさない未来の展望を、より簡単に判断できるようになります」
この法案の下では、もっとも強力なインターネット・プラットフォーム(欧州議会は「ゲートキーパー」と呼んでいる)は、「彼らが使用するコンテンツのモデレーション手段、およびそれらの手段の精度と結果」に関して定期的に報告するようになるとベスタエアー氏は言い加えた。
また、広告ターゲティングに関しては、より具体的な情報開示要求も行われる。Facebookなどのプラットフォームがすでに(「特定の広告が表示される理由」などを通じて)提示している今の曖昧な情報公開よりも高度なものだ。
「より高度な情報」が提供されなければならないと彼女は言う。「誰がその広告を出したか、なぜ自分がターゲットになったのか」をプラットフォームからユーザーに伝えるなどだ。全体の目標は、そうしたプラットフォームのユーザーが、「誰が私たちに影響を与えようとしているのかに関する高度な情報と、アルゴリズムが私たちを差別したときに広告を停止できる高度な手段」を確実に得られるようにすることにある。
10月30日、AlgorithmWatch(アルゴリズミックウォッチ)主導により46の市民社会団体の連合は、提出予定の法案に織り込まれる透明化要請を確実に「意味あるもの」(AlgorithmWatch勧告書)にするよう欧州委員会に促し、プラットフォームに説明責任を果たさせるのに必要な手段を監視団体に提供し、ジャーナリスト、学者、市民社会が「権力に対抗し監視できる」ようにする「総合的なデータアクセスの枠組み」を要求した。
同連合の勧告は、支配的な立場のプラットフォームの技術的機能に基づく法的拘束力のある情報開示義務、「データへのアクセスを可能にし、透明化義務を課す明確な法的命令」が出せる単独のEU機関の設置、EUのデータ保護規制に準拠したデータ収集のための規定を要求している。
データマイニングを続ける巨大なプラットフォームと、彼らにトラッキングされプロファイリングされターゲットされる個人の力を均衡させるためのバンランス調整の方法には、この他に、ユーザーが望むときにアルゴリズムによるフィードを完全に遮断できる手段の要求を含ませることも考えられる。データ駆動による区別や操作の可能性から自分自身を切り離すというものだ。しかし、今回提出予定の法案で、EU立法府がそこまで踏み込むかどうかは、まだわからない。
ただひとつ、この件に関してベスタエアー氏は、法案は「ユーザーにもっと大きな力を与え、私たちが何を見るか、何を見ないかの決定権をアルゴリズムに渡さない」ものになると示唆している。
さらにプラットフォームは、ユーザーに「私たちに代わっておすすめシステムが行う選択に影響を与える能力」も与えるという。
それに続き彼女は、コンテンツのモデレーションと削除に関して、デジタルサービスに求められる報告の内容はさらに細かくなると断言した。いつコンテンツを削除したかをユーザーに知らせ、「削除に関する異議申立ができる実効性のある権利」を与えなければならないという。巨大デジタル企業のためのルールブックの再起動には、EU全土からの広い支持があるものの、その一方では、アップロードフィルターを適用したり、論争を呼ぶコンテンツを正当な理由もなく削除することで規制のリスクは小さくできるとプラットフォームに促すような形で、規制当局がインターネットの言論の自由を侵害すべきではないという根強い意見もある。
この法案には、EU加盟国、欧州委員会、欧州議会で選出された代表の支持が必要になる。
欧州議会は、すでに広告ターゲティングのルールの厳格化を投票で決めている。欧州議会議員はまた、アップロードフィルターと、いかなる形においても有害なまたは不法なコンテンツの事前管理を拒否するよう欧州委員会に求めている。コンテンツが合法か不法かの最終判断は、個別の裁判で決めることとしている。
同時に欧州委員会は、人工知能を使ったアプリケーションに的を絞ったルール作りにも取り組んでいる。だがその法案は、来年にならなければ提出されない。
ベスタエアー氏は、2021年初頭に、「信頼のAIエコシステム」の構築を目指して提出される予定だと明言していた。
画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch
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(翻訳:金井哲夫)