Space Perspectiveが気球による成層圏への旅行を計画、費用は1人約1430万円

Blue Origin(ブルー・オリジン)、SpaceX(スペースX)、Virgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)が商業打ち上げに成功したことで、正式に宇宙旅行の新時代が到来した。しかし、ロケットスペースプレーンを使って人々を宇宙に連れて行くことを計画しているこれらの企業とは異なり、2年前に設立されたSpace Perspective(スペース・パースペクティブ)という企業は、別の方法を採っている。

開発に莫大な費用がかかり、すべての顧客が受け入れられるとは限らないロケットで宇宙に行く代わりに、このスタートアップ企業は、大きな気球に取り付けられたカプセルを使って成層圏に行く旅行の提供を計画している。この計画は投資家の関心を集めており、同社は米国時間10月14日、2024年後半に予定されている最初の商業飛行に向けて、4000万ドル(約45億6000万円)のシリーズA資金調達を実施したと発表した。

Space Perspectiveは、すでに475件の予約を集めており、顧客は1万ドル(約114万円)から2万5千ドル(約285万円)の保証金(搭乗を希望する時期がどれだけ早いかによって異なる)を支払うことでその予約を確保している。最終的に支払う費用の総額は、1人当たり12万5000ドル(約1430万円)となる予定だ。

ロケットに乗らないということは、それによるトレードオフがある。気球に乗る方がはるかに安く、リスクを避けたい顧客には魅力的かもしれない。しかし、大気圏のそれほど高い位置まで行くことはできず、無重力も体験できない。国際的に認知されてはいるが実際には目に見えない「宇宙」の境界線であるカルマンライン(海抜高度100キロメートル)を超えることはなく、同社の成層圏気球では地球上の約30キロメートルの高さまでしか行くことはできない(とはいえ、せいぜい高度1万2000メートルほどにしか達しない民間航空機と比べたらはるかに高いが)。

それでもSpace Perspectiveは、同社の提供する6時間の飛行で、特に地球の丸さや宇宙の黒さなど、すばらしい景色を楽しむことができると約束している。計画では、スペースバルーンは時速20キロメートルほどの速さで2時間かけて徐々に上昇した後、2時間かけて遠地点を滑空し、最後の数時間で徐々に下降していく。カプセルは海に着水し、8人の乗客と1人のパイロットは船で回収される。これは、NASAやSpaceXが乗員用カプセルを回収する方法と同じだ。

それほど高い場所に行かない代わりに、他の利点がある。同社の説明によると、Space Perspectiveの気球に乗ることは、宇宙飛行士の打ち上げというよりも、大手航空会社のファーストクラスのフライトに近い感覚で楽しめるという。乗客はカプセルの中で、Wi-Fiやバーさえも利用できるようだ。事前に特別なトレーニングも必要ない。同社の広報担当者の話では、飛行前の安全に関する説明は、現在の民間航空会社で客室乗務員が行っているものと変わらないという。

この会社はすでに重要なマイルストーンに達している。6月にはフロリダ州のスペースコースト宇宙港から、無人の加圧されていない実物大カプセルシミュレーターを、目標高度まで打ち上げることに成功した。次の一連のテストフライトも無人で行った後、2023年に最初のパイロット搭乗テストフライトが行われる予定だ。

Space Perspectiveは、夫婦で共同CEOを務めるJane Poynter(ジェーン・ポインター)氏とTaber MacCallum(テーバー・マッカラム)氏によって設立された。2人は、閉鎖空間で地球の状態を再現するという野心的で風変わりなプロジェクト「Biosphere 2(バイオスフィア2)」のクルーだった。その後、彼らは宇宙飛行士の生命維持装置を開発するParagon Space Development Corporation(パラゴン・スペース・ディベロップメント・コーポレーション)と、リモートセンシング用の成層圏気球を開発するWorld View Enterprises(ワールド・ヴュー・エンタープライゼス)を設立した。2021年10月初めには、World Viewも、2024年までに成層圏へ気球で行く旅を提供すると発表した。こちらの料金は5万ドル(約570万円)とさらにお手頃だ。

今回実施されたSpace PerspectiveのシリーズA資金調達は、Prime Movers Lab(プライム・ムーバーズ・ラボ)が主導し、新たな投資家としてLightShed Ventures(ライトシェド・ベンチャーズ)、Explorer 1 Fund(エクスプローラー・ワン・ファンド)、Yamauchi no.10 Family Office(ヤマウチ・ナンバー10ファミリー・オフィス)が参加。他にもTony Robbins(トニー・ロビンズ)氏や、VC企業のE2MCとSpaceFund(スペースファンド)、Kirenaga Partners(キレナガ・パートナーズ)、Base Ventures(ベース・ベンチャーズ)、1517 Fund(1517ファンド)などが出資している。

画像クレジット:Space Perspective

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

アルファベットが気球ネット企業Loonの特許を一部ソフトバンクに譲渡、飛行データはオープンソース化

Alphabet(アルファベット)のLoonは、高高度気球を飛ばして対象地域にセルラーネットワークを提供するという、成層圏でのムーンショットだった。このプロジェクトは、気球が自律的に航行し、1つのエリアに長時間とどまることができる技術を開発するなど、多くの新境地を開拓したが、最終的には終了した。現在、AlphabetはLoonのアセットを分割しており、その多くは業界の他の企業に無料で提供されたり、重要なパートナーや戦略的投資家に引き渡されたりしている。

ソフトバンクはこのプロセスで、知的財産を手にする企業の1つとなる。日本のテレコム大手である同社は、Loonが保有する成層圏での通信、サービス、オペレーション、航空機に関する約200件の特許を取得し、自社の高高度プラットフォームステーション(HAPS)事業の開発に活用するという。ソフトバンクはかつて、Loonのパートナーとして「HAPSアライアンス」を設立し、業界の発展に貢献してきた経緯がある。ソフトバンクのHAPS事業は自律型グライダーを中心に展開していたが、通信用のペイロードをLoonの気球にも搭載できるように適応させた。ソフトバンクはLoonの投資家でもあり、2019年にはAlphabet傘下にあった同社に1億2500万ドル(約139億2000万円)を出資している。

Loonの閉鎖によって、ある種の利益を得ることになったもう1つの企業がRavenだ。Ravenはもう1つのパートナーであり、Loonが運用していた高高度気球の製造に特化した企業だ。同社は、気球の製造に特化した特許を取得する。

落雷がLoonのハードウェアに与える影響を実験室で検証(画像クレジット:Alphabet)

Loonの残りの研究内容の大部分は、成層圏の科学と産業の技術水準を向上させるために一般に公開される。Alphabetは、GPSやセンサーのデータを含む、Loonの約7000万kmの飛行データをオープンソースとして提供している。また、気球の打ち上げ、飛行中のナビゲーション、気球の管理など、270件の特許および特許出願について、権利を主張しないことを表明している。成層圏気球の専門家を目指す人々や一般大衆のために、Loonは同社の経験をまとめた本を出版した。この本は以下に埋め込まれた無料のPDFから入手できる。

このプロジェクトをICARUSと比較して論じたくなるところだが、Alphabetのムーンショットには最初から一定レベル以上の失敗の可能性が織り込まれているため、それほど適切な比較ではない。また、これらのIPやデータがすべて公開されることは、科学界にとっても非常に良い結果となるだろう。

画像クレジット:Alphabet

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Aya Nakazato)

気球を使って地理空間インテリジェンスのデータを取得するNear Space Labs

打ち上げコスト低減などの技術革新から、地理空間インテリジェンスのルネッサンスが起こり、複数のスタートアップ企業が、これまでよりも高品質で頻繁な地球の画像の撮影を目指している。

これらのスタートアップ企業の多くは、衛星を使ってデータを収集することに注力しているが、創業4年目のNear Space Labs(ニア・スペース・ラブズ)は、気象観測用の気球に取り付けられた風力発電で駆動する自動制御の小型ロボットを使って、成層圏から地理空間インテリジェンスを収集することを目指している。「Swifty(スウィフティ)」と名付けられた同社のプラットフォームは、1回のフライトで高度6万〜8万5千フィート(18.3〜25.9キロメートル)に達し、400〜1000平方キロメートルの画像を撮影することができる。

この会社は2017年に、Rema Matevosyan(レマ・マテヴォシャン)氏、Ignasi Lluch(イグナシ・ルッチ)氏、Albert Caubet(アルバート・クベ)氏によって設立された。マテヴォシャン氏は応用数学者としての教育を受け、以前はプログラマーとして働いていたが、モスクワで修士号を取得。そこで彼女は航空宇宙システムにおけるシステムエンジニアリングの研究を開始し、航空宇宙機器のテストのために気象観測用の気球を飛ばした。そして「気球を商業的に飛ばすことによって、他のどんな方法よりもはるかに優れた体験を顧客に提供できるのではないかとひらめきました」と、彼女はTechCrunchによる最近のインタビューで語っている。

創設から4年が経過したNear Space Labsは、シリーズAの資金調達を1300万ドル(約14億2500万円)で完了した。このラウンドはCrosslink Capital(クロスリンク・キャピタル)が主導し、Toyota Ventures(トヨタ・ベンチャーズ)の他、既存投資家のLeadout Capital(リードアウト・キャピタル)とWireframe Ventures(ワイヤーフレーム・ベンチャーズ)も参加した。また、Near Space LabsはCrosslinkのパートナーであるPhil Boyer(フィル・ボワイエ)氏を同社の取締役に迎えたことも発表した。

ブルックリンとスペインのバルセロナに本社を置くNear Spaceは、主に変化の激しい都市部に焦点を合わせている。気球に取り付けるロボット式装置は、ブルックリンにある同社の工房で製造され、全国の発射場に送られる。同社のCTO(最高技術責任者)とチーフエンジニアがバルセロナを拠点としているため、ハードウェアの研究開発はバルセロナで行っていると、マテヴォシャン氏は説明する。

同社は現在、8基のSwiftyを運用しており、収集したデータを販売すると同時に、APIを開発して、顧客がサブスクリプション方式でデータにアクセスできるようにもしている。マテヴォシャン氏によると、Swiftyは「いつでもどこでも」発射できるため、特定の発射場所を確保する必要はないが、同社は米連邦航空局や航空管制と連携しているという。

マテヴォシャン氏によると、人工衛星と比較したSwiftyの主な価値提案は、解像度の高さであるという。同社は成層圏から「衛星から得られるものの50倍以上の解像度」を取得することができるため「大都市圏を含め、変化の激しい関心のある地域を、継続的かつほぼリアルタイムでカバーすることができます」と、同氏はいう。それに加え、すでに軌道上にある衛星に新たなセンサーを追加することは容易ではないが、Near SpaceのSwiftyは、いわゆる「プラグ&プレイ」方式を採用しているため、技術の更新を迅速に行うことができるという。

Near Space Labsの創立者たち。左からイグナシ・ルッチ氏、レマ・マテヴォシャン氏、アルバート・クベ氏(画像クレジット:Near Space Labs

Near Spaceは、2022年までに540回を超えるフライトの予約を受けている。顧客はフライト料を支払うが、各フライトから生成されるデータは非独占的なものなので、データを何度でも販売することができる。今回調達した資金を使って、同社は今後、事業展開の地理的な範囲を拡大するとともに、新たに多くの従業員を雇用する予定だ。マテヴォシャン氏によると、同社の目標は、地理空間インテリジェンスへのアクセスを民主化することだという。それは顧客だけでなく、開発者側に向けても、という意味だ。「私たちの信念は、航空宇宙と地球画像観測の分野において、多様で、平等で、開かれた機会が得られるようにすることです」と、同氏は語っている。

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画像クレジット:Near Space Labs

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

グーグルの気球Loonの遺産、ワイヤレス光通信でコンゴ川を挟み高速インターネットを届けるアルファベットのProject Taar

Google(グーグル)の親会社であるAlphabet(アルファベット)は2021年初めにProject Loonを終了したが、インターネットアクセスを提供する気球から学んだことは無駄にはならなかった。Loonで開発された高速無線光リンク技術は、現在、Taaraプロジェクトという別のムーンショットに使用されている。TaaraのエンジニアリングディレクターであるBaris Erkmen(バリス・エルクメン)氏は、新しいブログ記事の中で、このプロジェクトのワイヤレス光通信(WOC、wireless optical communications)リンクがコンゴ川を越えて高速接続を実現していると明らかにした。

関連記事:Alphabetが成層圏気球によるインターネット接続プロジェクトLoonを閉鎖

Taaraの構想は、LoonチームがWOCを使って100km以上離れたLoonの気球間でのデータ転送に成功したことから始まった。チームは、この技術を地上でどのように利用できるかを検討した。WOCの応用可能性を探る一環として、彼らはコンゴ共和国の首都ブラザビルとコンゴ民主共和国の首都キンシャサの間に存在する接続性のギャップを埋めることに取り組んだ。

これら2つの場所はコンゴ川を挟んで、わずか4.8kmしか離れていない。しかし、キンシャサでは、川を囲む400kmの範囲に光ファイバーを敷設しなければならないため、インターネット接続のコストがはるかに高くなってしまう。Project Taaraは、ブラザビルからキンシャサまで、川を挟んで高速通信が可能なリンクを設置した。同プロジェクトは20日以内に、99.9%の稼働率を実現し、約700TBのデータを提供した。

Project Taaraでの光ビーミング接続の仕組み

TaaraのWOCリンクは、お互いを探し出して光のビームを結ぶことにより高速インターネット接続を実現している。霧の多い場所での使用には適していないが、Taaraプロジェクトでは、天候などのさまざまな要因に基づいてWOCの利用可能性を推定できるネットワーク計画ツールを開発した。将来的にはそれらのツールを使って、Taaraの技術が最も効果的に機能する場所を計画することができるようになる。

Taaraのエンジニアリングディレクターであるエルクメン氏はブログ記事でこう述べた。

追跡精度の向上、環境対応の自動化、計画ツールの改善により、Taaraのリンクは、ファイバーが届かない場所に信頼性の高い高速帯域幅を提供し、従来の接続方法から切り離されたコミュニティを接続するのに役立っています。我々はこれらの進歩に非常に興奮しており、Taaraの機能の開発と改良を続ける中で、これらの進歩を積み重ねていくことを楽しみにしています。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Mariella Moon(マリエラ・ムーン)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

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(文:Mariella Moon、翻訳:Aya Nakazato)