スマート畜産の普及を目指すNTT東日本の通信環境実証実験にAI家畜管理サービスPIGIが協力、IEEE802.11ah活用

養豚プラントの設計施工や畜産のDXを推進するコーンテックは2月9日、AI家畜管理サービス「PIGI」(ピギ)について、NTT東日本による「スマート畜産」普及に向けた通信環境実証実験に提供することを発表した。

この実証実験は、NTT東日本が、NTTアクセスサービス研究所と連携し、神奈川県の畜産業者臼井農産の養豚場を実験場として行われるもの。畜産現場でのプラチナバンド(700〜900MHzの周波数帯域)のIoT向けWi-Fi「IEEE802.11ah」が活用可能かどうかを確かめことを目的としている。同通信規格を試す理由は、従来のWi-Fiに比べてカバーエリアが広く、中継器や無線LANの親機を減らすことができ、カメラやセンサーの台数を増やせるなどのメリットがあるためだ。

ここで、コーンテックのPIGIがデータを提供することになる。PIGIは、豚の頭数・体重をカメラで撮影した画像から解析するというシステム。通常は、大人の男性2名が3分間以上をかけて行う作業を10秒程度で済ませられるという。勘と経験に頼らず、人の介在も減らして、効率的に管理が行えるだけでなく、最適な体重での出荷を可能にし、収益率を上げられるとしている。

コーンテックは2021年、NTT東日本、臼井農産とPIGIを使って、豚の体重・体格・肉質を計測する実証実験を行っている。今後もこの取り組みで蓄積されたデータを活用して、臼井農産は「最高品質の豚肉の提供」を目指し、NTT東日本とコーンテックは、神奈川県内の養豚業へのIoTサービス導入の支援と、養豚業の発展に向けた新たな仕組み作りを検討してゆくとしている。

独自品種のニワトリを生み出し健康な「チキン」を育てるCooks Ventureが知財保護のために57.8億円調達

チキンは米国だけでなく世界で最も多く消費されている食肉だ。しかしチキンを繁殖し、エサを与えて育てるシステムは、私たちの全体的な幸福にとって信じられないほど有害なものだ。というのも、トウモロコシと大豆を中心とする従来の農業の仕組みを支え、しかも消費者が手にいれるチキンの大半が必然的に近親交配され、遺伝的多様性を欠くシステムを助長している。

小規模だと味の薄い肉になることがあり、しかも、米国におけるチキンの供給がウイルスにやられることは防げない。

Blue Apronの共同創業者であるMatt Wadiak(マット・ワディアック)氏が立ち上げたCooks Ventureは、既存のシステムの段階的な解体を目指し、最初はチキンそのものからスタートした。

Cooks Ventureはまず、10年ほどニワトリの遺伝的性質を研究して、独自の品種系統「Pioneer(パイオニア)」にたどり着いた。同種は選択的育種により、ゆっくりと育ち、強力な免疫系と健康な消化器を持っている。ワディアック氏によると味も良いが、それはこの品種にとっての唯一、あるいは最も重要な長所ではない。

胃腸が強いのでこの品種は生涯一種類の配合飼料で育つ。通常のブロイラーは一生に3種類か5種類の配合飼料を必要とし、そのすべてがトウモロコシと大豆のミックスだ。そのため、雛の群れが生まれるたびに、運送業の大きな負荷が生じることになる。

さらに、Cooks Ventureのニワトリは非常に多様なエサを食べる。これにより全米の農地の97%を耕作している農家に、大豆とトウモロコシ以外の作物を育てる余力が生まれる。

Cooksには自家農場があって、独自のチキン加工工場もあり、少数の小売企業とパートナーしてそのチキンを消費者に販売している。Cooks Ventureのウェブサイトでも購入できる。

Cooksはいずれ、ニワトリの飼料を生産する農家に再生農業に関するIPをライセンスし、より生物多様性に富んだ作物の栽培を請け負い、最終的にCooks Ventureのニワトリのエサにしたいと考えている。一方、収益面では、Cooks Ventureの遺伝子系統の増殖に関心を持つ企業や農家と協力する機会があると考えている。

これらのニワトリは、より多様なエサに対応でき、より強い免疫システムを持ち暑さにも強いため、Cooksは暑い地域や食料不足の地域の農家と提携することができる。

関連記事:農業を根本から考え直すCooks Ventureが約13億円を調達

Cooksはこの度、成長中の技術系企業の知的財産を担保に債務を保証するPIUSから、5000万ドル(約57億8000万円)の債務融資を受けたことを発表した。

同社のチキンは多様な原料の食餌を受け入れるし、免疫系も強いから、熱帯や食糧不足の地域の農家ともパートナーできる。

画像クレジット:Cooks Venture

原文へ

(文:Jordan Crook、翻訳:Hiroshi Iwatani)

NTTテクノクロスが撮影するだけで繁殖に適した母豚の体重管理ができるシステムを販売

NTTテクノクロスが撮影するだけで繁殖に適した母豚の体重管理ができるシステムを販売

NTTテクノクロスは10月11日、母豚(ぼとん)を撮影するだけで繁殖に最適な増体(体重の増減)を管理できるシステム「any-condition」(エニコンディション)を2021年10月26日から発売する。

豚の繁殖においては、適正な給餌と給水の管理による母豚の増体管理が決め手となる。しかし、母豚は通常、体重が200kgを超えるため、体重測定には大変なコストと労力を要する。専用の体重計も高価なため、多くの養豚業者では目視や触診による推定や、超音波による背脂肪厚の測定などが採り入れられているが、いずれも熟練の技術が求められ、誤差も生じやすい。

NTTテクノクロスは、山形県養豚研究所と伊藤忠飼料との2年間の共同研究により、母豚の胸囲が増体変化に大きく関わっていることを突き止めた。また、NTTテクノクロスが開発した、撮影するだけで肉豚の体重が推定できる小型端末「デジタル目勘(めかん)」の技術を応用し、「any-condition」を開発した。

「any-condition」の主な特徴は次の3つ。

  • 非接触で簡単計測:母豚の背中を撮影し胸囲を推定。従来の測定作業と比べて手軽に素早く計測ができる
  • 給餌管理に活用:推定した胸囲から母豚の太り具合を自動評価。増体推移はグラフでも確認でき、熟練の知識や勘がなくても給餌量の調整が可能。繁殖に最適な増体管理を実現し、飼料コストの最適化も図れる
  • 繁殖成績の見える化・分析に活用:データの蓄積により品種や飼養環境に合わせた農場ごとの増体推移曲線を作成可能。増体変化と繁殖成績の紐づけにより、繁殖傾向の見える化や分析が行え、繁殖成績の改善をサポートする

導入価格は母豚の頭数によるが、100頭以上の場合、初期導入費は7万2000円から。年間ライセンス料は2万8000円から。1000頭以上の場合は、初期導入費が60万円。年間ライセンス料は24万円となっている。これとは別に、スマートフォン、深度センサーなどの機材一式(10万円程度)が必要となる。

世界の食糧難に対処するためBeta Hatchは家畜の飼料となるミールワームを生産

筆者がこの前、香港に行ったとき、あるスタートアップ企業がおやつにミールワームの瓶をくれた。見た目は少々奇妙だが、食べるとパリパリとしている(焼いた幼虫の入った瓶から想像するとおり)。だが、味はあまりしないので、自分で調味料を用意したほうがいいかもしれない。

持続可能な社会を実現するために、人間やその他の生物にとっての代替タンパク源には、大きな関心が寄せられている。Beta Hatch(ベータハッチ)という会社は、明らかにその後者、つまり家畜やペットを主要な対象とし「実質的に廃棄物を出さない」農法に取り組んでいる。

セントルイスを拠点とする同社は米国時間8月18日、Lewis & Clark AgriFood(ルイス&クラーク・アグリフード)が主導するラウンドで1000万ドル(約11億円)の資金を調達したと発表した。この投資ラウンドには、以前から出資していたCavallo Ventures(カヴァロ・ベンチャーズ)とInnova Memphis(イノーヴァ・メンフィス)も参加した。Beta Hatchは、ワシントン州カシミアにある旗艦農場の拡大を視野に入れ、今回の資金調達を実施したという。

「私たちは、ワシントン州の農業コミュニティの一員として、農業の未来を築く一翼を担えることを誇りに思います」と、創業者でCEOのVirginia Emery(バージニア・エメリー)氏は、リリースで述べている。「増加する世界の人口に食糧を供給するために、私たちはこれらのコミュニティの人々を雇用し、協力し合うことで、米国の農村における私たちの存在感が高まることを期待しています」。

同社によると、この新しい施設は北米で最大規模のものであり、Beta Hatchの生産量を今後1年間で現在の10倍に増やす計画に貢献するという。この施設は現在、再生可能エネルギーで運営されている。

ミールワームは、2019年にフランスのŸnsect(インセクト)という企業が1億2500万ドル(約137億円)もの資金を調達したことでも証明されたように、食糧供給源の食糧供給源として(つまり家畜の飼料として)興味深いことが認められている。

関連記事
1度の飛行で2ヘクタールの團場に農薬散布できる16リットルタンク搭載ドローン「ヘリオスアグリ16」販売開始
農業機械大手ジョンディアが自動運転トラクター開発Bear Flag Roboticsを約276億円で買収、労働力不足解決を目指す
農家のための恋活・婚活アプリ「あぐりマッチ」が農業女子と就農希望男性をつなぐサービスを開始
画像クレジット:Beta Hatch

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

牧場経営者のCO2排出量削減を支援、家畜用の新しい環境アセスメントサービス

持続可能な畜産 / 農業において、測定作業は、食糧システムを炭素排出源から炭素吸収源へと転換するプロセスの、最初のそして時には最も困難なステップだ。

そこで、農業を中心とした食糧システムに科学的に注力するDSMと、持続可能性のためのデータ分析を行うコンサルティング会社Blonk(ブロンク)が共同開発したのがSustell(サステル)だ。これは、牧場主が自らの農場経営の持続可能性を理解し、改善するための、ソフトウェアと実践的なサービスを組み合わせたものだ。

持続可能で再生可能な農業の定義は統一されていいないが、通常、土壌中の炭素をより多く回収するための土地管理方法の工夫、より環境に優しい家畜飼料の使用、トラクターなどの農機具による化石燃料使用量の削減など、さまざまな変更が行われる。目標は、温室効果ガスの約14.5%にあたる、畜産業から排出される7.1ギガトンのCO2を削減することだ。

DSMのサステナビリティ&ビジネスソリューション担当副社長のDavid Nickell(デビッド・ニッケル)氏は「動物生産の状況を個々の農場レベルまで正確に把握することが強く求められています」という。「もちろん個々の農場の状況は極めて異なっています。そして、実際の農場のデータを使用して、その農場の正確な姿を把握できるシステムが必要なのです」。

このシステムは気候変動、資源利用、水不足、流出、オゾン層破壊など、19種類のカテゴリーについて、対象の農場の活動が環境に与える影響を分析する。農家は飼料の成分や使用量、糞尿の管理方法、動物の死亡率、電力システムなどのインフラ、輸送ロジスティックス、ガス浄化装置や余熱循環システムなどの緩和技術などの、日々のオペレーションに関するデータを提供するが、場合によってはそれらはソフトウェアにパッケージングされる。

そして、Blonkの環境フットプリント技術は農場のライフサイクルアセスメントを作成する。これは、家畜の飼育開始から農場のゲートを出るまでの環境影響を分析するものである。DSMとBlonkは、鶏、豚、乳製品や卵の生産など、ほとんどの陸上の農場家畜用にSustellモジュールを作成しており、今後は牛や水産養殖にも拡大していく予定だ。

Blonk Consultants(ブロンク・コンサルタンツ)ならびにBlonk Sustainability Tools(ブロンク・サステナビリティ・ツールス)のCEOであるHans Blonk(ハンス・ブロンク)氏は「本当に重要なのは、これまで開発されてきた方法論や基準の流れの上に乗せることができたことです」と語る。

関連記事:気候変動と戦うための測量技術を提供するYard Stick

Blonkは、国連食糧農業機関や欧州委員会などの農業環境基準を1つにまとめ、そのソフトウェアが有用で実用的な洞察を得るために必要な、基礎データの膨大なライブラリを作成した。

「現在のお客さまは、ご自身が何をしているのかを理解したいと思っていらっしゃいます」とニッケル氏はいう。「ご自身のベースライン(フットプリント)を理解し、それをランク付けしたいと考えていらっしゃるのです。何が良くて、何が良くないのかを理解なさりたいということです。お客さまは、国や業界のベンチマークなど、他のベンチマークと比較して自分たちがどのような評価を受けているのかを知りたがっていらっしゃいます」。

Sustellソフトウェアによって農場の排出量が明らかになると、農家は改善すべき点を特定し、DSMは排出量を削減する方法の実施を支援します。これにより、顧客にエンド・ツー・エンドのサービスを提供し、地球に良い影響を与えることができるのだ。

「実践的な介入によって、変化を起こすことができます」とニッケル氏はいう。「私たちは、家畜製品生産のフットプリントを削減する技術に投資してきました。サービスの内容は測定であり、それを変化を生み出すソリューションと結びつけることです。これこそが、この切実な変化を実現するための完全なソリューションなのです」。

しかし、Sustellがその変化を生み出すためには、広く採用され、競合他社との間で学びを共有する必要がある。現在のDSMや、ある意味では資本主義のシステムは、それに対応できるようには作られていない。

ニッケル氏によれば、DSMはまず、Sustellを大手総合畜産会社に持ち込むことに焦点を当てている。これは、革新的な新しい環境技術が、資金や資源のある大手農業コングロマリットや協同組合に採用されて、小規模な家族経営の農場は取り残されてしまうという普遍的な課題となる。しかし、ニッケル氏は、Sustellを小規模な農場にも対応できるようにしたいと考えている。

2つ目の問題は、データの共有だ。ニッケル氏は、Sustellがデータのプライバシーや所有権に関する規則を遵守することを明確に述べているが(これは通常良いことだ)、実際、本当に意味のある環境変化を起こすためには、透明性が重要だ。競合他社同士は、その排出量削減のための最良の方法を、皆が採用して地球を救うために共有する必要があるが、多くの企業はデータを強く囲い込んでいる。

「データ共有は、時間の経過とともに進んでいくと思います」とニッケル氏はいう。「まだその段階には達していないのです。おそらく、より多くのお客様がフットプリントとその報告についての透明性を高められることで、そうしたレベルになるのかもしれません」。

関連記事
衛星データで耕作放棄地の把握や土壌解析を行い農業課題解決に取り組むサグリが約1.55億円調達
タイヤ交換だけで農業用一輪車・ねこ車を電動化する「E-Cat Kit」が広島県JA尾道市で販売開始
田んぼの自動抑草ロボットを開発する有機米デザインが2億円を調達し実用化を加速

カテゴリー:EnviroTech
タグ:農業畜産二酸化炭素持続可能性カーボンフットプリント

画像クレジット:NitiChuysakul Photography / Getty Images
原文へ

(文:Jesse Klein、翻訳:sako)