SoftBankが米国のヒスパニック系移民向けサービスに大型投資

ロサンゼルスを拠点とするスタートアップWelcome Techは移民コミュニティを対象とした大規模なデジタル・プラットフォームを構築中だ。このほどTTV Capital、Owl Ventures、SoftBank Groupが立ち上げた1億ドル(約107億9000万円)のSB OpportunityFundが共同でリードしたシリーズBのラウンドで3500万ドル(約37億8000万円)の資金を調調達した。

Crosscut Ventures、Mubadala Capital、Next Play Capital、Owl Capitalもラウンドに参加しており、2010年のWekcome Techの創立以来の調達総額は総額は5000万ドル(約53億9000万円)に達した。同社はテキサス州サンアントニオにもオフィスがあるが、2020年3月に800万ドル(約8億6000万円)のシリーズAラウンドを実施している。

移民によって、移民のために作られたWelcome Techは、その名が示すとおり、米国への移民を歓迎し社会に慣れることを助け、大きな成功を収めるために役立つプラットフォームとなることを目的としている。

こうしたサービスでは金融商品をリリースして移民の便宜を図り、その結果移民コミュニティの信頼を得ようとすることが多い。しかしWelcomeのアプローチは逆で、地域社会のニーズを理解するために全力を上げ、まずコミュニティの信頼を得ようと努力するという点で異なっている。

具体的には、Welcomeは設立後1年間「新しい国で成功するために必要な情報、サービス、教育リソース」を提供するプラットフォームの構築に注力してきた。当初の対象は米国におけるヒスパニック系コミュニティだった。

このプラットフォームはSABER es PODER(スペイン語で「知は力なり」)と名づけられた。目的はヒスパニック系コミュニティのメンバーに「広く認知されて信頼される」リソースとなることだった。

Welcome Techは、その後蓄積した知識、データを元に、半年前にバイリンガルで利用できるモバイルアプリとデビットカードを含む銀行サービスを開始した。さらに2021年1月には病院や歯科医院などのリソースを割引価格で利用できる月額制のサービスを開始している。

TTVキャピタルの共同ファウンダーでパートナーのGardiner Garrard(ガーディナー・ガラード)氏はヒスパニック市場は、人口6280万人という米国最大のマイノリティコミュニティだと指摘し、次のように述べた。

しかしヒスパニック系世帯の半数は銀行サービスをフルに利用できていません。口座を開設することができないためクレジカードやデビットカードなどのサービスを利用できない世帯が多数あるのです。これほど大きなコミュニティにサービスを提供していないのは記録的な失敗です。Welcome Techはこの問題に正面から取り組んでいます。

Welcomeの共同ファウンダーでCEOのAmir Hemmat(アミール・ヘマット)によれば、同社のプラットフォームには現在300万人弱のアクティブユーザーを持っているという最終的な目標は「デジタル・エリス島 」だという。ニューヨークの自由の女神の近くの小島、エリス島には移民局が置かれていたことがあり、米国社会において移民歓迎の象徴となっている。

ヘマット氏はTechCrunchの取材に対し「移民の成功を運任せにするやり方はバカげています。企業が魅力的な人材を確保しようとあらゆる努力を払っていることを考えてみましょう。国の場合はほとんど逆のことをしています」と語った。

画像クレジット:Welcome Tech

特に、ヘマット氏と共同ファンダーのRaul Lomeli-Azoubel(ラウル・ロメリ・アズベル)氏は移民の成功には金融サービスへのアクセスが不可欠だと以前から認識していた。

「我々は最終的な目的は移民のためのより良い未来とより幅広いプラットフォームの構築ですが、そのための基盤、第1歩は間違いなく金融サービスの提供です」とヘマット氏は述べた。

Welcomeはヒスパニック系コミュニティのために英語・スペイン語バイリンガルの無料の銀行口座を提供する。この口座は「コミュニティのニーズに合わせて高度にカスタマイズ」されているという。

最近、TomoCreditGreenwoodなど、ヒスパニック系コミュニティを対象とした新しいデジタル・バンキングが数多く登場している。Welcomeは、さらに広範囲なプラットフォームを提供することでライバルとの差別化をを図っている。月額10ドルのサービスをサブスクリプションすれば、医療の割引やテレビの無料のテレビチャンネルのなどのサービスを受けることができる。へマット氏はこう述べた。

この点を検討した結果、移民に対してはデータをコンピュータで処理した「お勧め」が十分提供されていないことがわかりました。多くの移民は試行錯誤や口コミに頼っており、こうした情報源は場合によっては詐欺的であったりするのです。移民が置かれているこうした厳しい状況を改善するには、これまでばらばらだった人々をプラットフォームに集約することが必要です。これがさまざまなカテゴリーの消費者により良いサービスや製品、有利な価格、優れた体験などを提供するための大きな一歩となると考えています。

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今回の大型ラウンドで得た資金は、こうした目的を実現するためにより多くのパートナーの確保すると同時にWelcomeの認知度を高めるために用いられるという。

SoftBankのOpportunity Fundで投資ディレクター、グロースステージ投資責任者を務めるGosia Karas(ゴシャ・カラス)氏は、TechCrunchの取材に対し「米国では、移民人口が急増しているにもかかわらず、十分にサービスは提供されていません。このギャップにより、新たな参入者が金融サービスを提供する絶好のチャンスが生まれています」と述べた。

SoftBankはターゲットとなる市場を真に理解し着実にデータを収集するWelcomeのアプローチにに特に魅力を感じたといいう。カラス氏はこう述べた。

フィンテックサービスの分野に飛び込む前にWelcomeのファウンダーたちは十分に準備を重ね、経験を積んでいました。何年もかけて、移民というオーディエンスに対する理解を深め、コミュニティにおける信頼関係を構築してきました。これによりターゲットを絞りこみ、そのニーズに適合したコンテンツの構築ができました。これはがバイリンガルの銀行アプリ、デビットカードなどのサービスを展開するための優れたバックボーンとなっているのです。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Welcome Tech移民SoftBank Group資金調達アメリカ

画像クレジット:Nattanitphoto / Shutterstock

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:滑川海彦@Facebook

移民農業労働者が米国で就労資格を得て法的に保護されるサービスをSESO Laborが提供

Biden(バイデン)政権が、米国の移民制度を改革する際によく見られる問題に対処する法案を議会に提出しようとしている一方で、SESO Labor(SESOレーバー)というカリフォルニア州の小さなスタートアップが450万ドル(約4億8000万円)を調達して、農場が合法的に移民労働者の手を借りることができるようにした。

SESOの創業者Mike Guirguis(マイク・ギルギス)氏は、Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)やNFX(エヌエフエックス)などの投資家から資金を調達している。Trulia(トゥルーリア)の創業者であるPete Flint(ピート・フリント)氏が同社の取締役に就任した。同社は12の農場と提携しており、現在46の農場とも交渉中である。もう1人の共同創業者、Jordan Taylor(ジョーダン・テイラー)氏はFarmer’s Business Network(ファーマーズビジネスネットワーク)で最初の製品担当者として勤務した経験があり、以前はDropboxに所属していた。

SESOは1986年から施行されている規制の枠組みの中で、H-2Aビザの取得プロセスを合理化・管理するサービスを開始した。このサービスを利用すると移民農業労働者は、法的保護を受けながら米国に一時的に滞在できる。

現時点でSESOはビザ手続きを自動化し、労働者が必要とする事務手続きを整備することで、申請手続きを円滑化している。同社は労働者1人あたり約1000ドル(約10万6000円)を請求しているが、労働者自身へのサービスを徐々に提供していくことにより、安定した収益源を確保することをギルギス氏は想定している。「最終的には、農業経営者と農場労働者の双方に総合的なサービスを提供したい」とのことだ。

SESOは現在、2021年に1000人の労働者の受け入れを見込んでおり、現段階では収益が発生する前の段階である。ギルギス氏によると、就労ビザを扱う最大の業界関係者は今のところ1年間に6000人の労働者を受け入れているため、SESOは市場シェアを獲得するためにしのぎを削らなければならない。

米国における移民と農業労働者の複雑な歴史

国内での労働者不足を見込む農業雇用主が、移民ではない外国人労働者を一時的または季節的に農場で雇用できるように設立されたのが、H-2Aプログラムだ。労働者には米国の賃金法や労災補償の他、医療保険改革法(オバマケア)に基づく医療の利用を含むその他の基準が適用される。

ビザプログラムを利用して労働者を雇用する雇用主は、出入国時の交通費を支払い、住居を無償または有償で提供し、労働者に食事を提供する必要がある(給与からの天引きが可能)。

1952年に移民国籍法の一環として、H-2ビザ発給が開始された。これにより主に北欧への移住を制限していた出身国別割当制度が強化されたが、1924年に移民法が制定されて以来初めて、アジア系移民に米国の国境が開かれた。1960年代には入管法がさらに緩和されたが、1986年の大規模な移民法改革によって移住が制限され、企業による不法就労者の雇用が違法になった。H-2Aビザは、不法就労者の雇用にともなう罰則を受けずに農場で移民労働者を雇用する手段にもなった。

スタンフォード大学を優秀な成績で卒業し、労働政策に関する卒業論文を書いたギルギス氏によると、一部の移民労働者にとってH-2Aビザは最後の切り札だという。

ギルギス氏は給与計算関連のビジネスを展開するGusto(ガスト)を引き合いに出しながら、同社の最終的な目標について次のように語っている。「私たちは、農場と農業関連ビジネスのための人材派遣ソリューションを用意しています。農業の分野でガストのようになり、人材派遣の包括的なソリューションで農場を強力にサポートしたいと思っています」。

ギルギス氏が指摘するように、農業に従事する労働者のほとんどは不法滞在者である。「これまで食い物にされてきた労働者にとって、H-2Aは法的に就労することを可能にするビザです。雇用主が労働力を確保できるように私たちは支援しており、農業経営者が農場を維持するためのソフトウェアを構築しています」

難しい状況が続く中でも国境を開放する

労働力不足を指摘する最新の数字が現状を反映しているのであれば、農場には人材が必要だが、ロイターの記事を見てみると、問題の主な原因はH-2Aビザの発給不足ではなさそうだ。

ロイターの記事によると、農業機械を操作する労働者に発行されたH-2Aビザの数は、2019年10月から3月にかけて1万798件に増加した。ロイターが引用した米国労働省のデータによると、これは前年比49%の増加である。

H-2Aビザを取得できないということが問題ではなく、米国に渡航できないということが問題なのだ。国境管理の強化、収束しない世界的なパンデミック、パンデミックにともなう移動制限などにより、移民労働者は自分の国から出国できなくなっている。

このような状況でも適切な手段があれば、多くの農場がH-2Aビザを進んで利用できるため、不法移民を減らし、米国人労働者がやりたがらないであろう厳しい農作業に従事してくれる労働者を増やすことができる、とギルギス氏は考えている。

画像クレジット:Brent Stirton/Getty Images

David Misener(デビッド・ミーゼナー)氏は、オクラホマ州を拠点として農作物を収穫するGreen Acres Enterprises(グリーン・エーカーズ・エンタープライズ)のオーナーだが、通常雇用している移民労働者の代わりとなるふさわしい労働者を見つけるのに苦労している。

ミーゼナー氏は雇用しようとした米国人労働者について「収穫する方法や、収穫作業を仕事にするということを理解できませんでした」とロイターに対して語った。

「移民労働者がH-2Aを利用すると、自国で受け取る賃金の10倍を上回る賃金を受け取ることができます。手取りが時給40ドル(約4200円)相当になるため、誰もがH-2Aを欲しがっているのです」とギルギス氏はいう。

ギルギス氏は、適切なインセンティブと、農業経営者が申請・承認プロセスを管理するための簡単な方法を用意すれば、H-2Aビザを利用する雇用主の数が、国内の農業労働力の30%から50%にまで増加する可能性があると考えている。つまり、移民労働者が応募できる求人数が30万件から150万件に増える可能性があり、移民労働者がビザを取得して就労しながら、米国人と同じようにさまざまな法的保護を受けられるということだ。

事務処理を改善して農業労働者を保護する

創業者のギルギス氏は、いとこが農場を立ち上げるのをサポートした経験から、農場労働者のつながりとそれを取り巻く問題に関心を持つようになった。月に数回ギルギス氏が週末に手伝いに行ってたときにいとこの夫から、不法就労者として渡米した際の話を聞いた。

H-2Aプログラムを利用する雇用主は、不法労働者を雇用することで逮捕されることにともなう法的責任を負う必要がなくなる。トランプ政権下で実施されていた不法労働者に対する取り締まりが、ますます増えているのだ。

それでもこのH-2Aプログラムのルーツが、米国の移民政策の暗い過去にあることを否定することはできない。一部の移民擁護者は、H-2Aの制度が専門技術者向けのH-1Bビザと同じように、構造的な問題があると主張している。

移民労働者の支援団体であるResilience Force(レジリエンス・フォース)の創設者Saket Soni(サケット・ソニ)氏は、次のように述べている。「H-2Aビザは、雇用主が労働者を農業分野で受け入れるために使用できる短期の一時ビザプログラムです。すでに時代遅れとなっている移民制度の一部であるため、修正が必要です。米国に滞在する1150万人に市民権を与えるべきです。他国から来た労働者は必要に応じて、国内に滞在できなければなりません。H-2A労働者には市民権を取得する手段がありません。労働者たちが職場での問題について声を上げることができず、私たちのところにやって来るのです。H-2Aは労働者にとってありがたい贈り物であるだけなく、悪用される可能性もあります」。

ソニ氏がいうには、労働者が置かれている状況は非常に不安定であり、解雇されてもどこにも行けないため、仕事の問題について声を上げにくくなっている。合法的にこの国に滞在できるかどうかは、雇用主にかかっているからだ。

「労働力が必要なら、労働者を1人の人間として受け入れなければならないという考えを、私たちは強く支持しています。労働者が足りなければ、滞在を認めるべきです。H-2Aは移民が利用できる時代遅れの制度です」とソニ氏は語る。

ギルギス氏はこの制度についてはっきりと異議を唱えている。そして、SESOのようなプラットフォームが、今後このようなビザで入国する労働者の利便性とサービスを向上させるだろうと述べた。

「最終的に、移民労働者がもっと多くの給料を稼げるようなサービスを検討しています。今後、送金業務と銀行業務を開始する予定です。私たちのサービスは、このプログラムに参加する雇用主と労働者双方に利益をもたらすもので、搾取されるようなことはないと認識してもらう必要があります」とギルギス氏はいう。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:SESO Laborビザアメリカ移民農業

画像クレジット:Brent Stirton / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

リモートワークが世界中に広がる中、分散型ワークフォース向け人事プラットフォームのOysterが約21億円調達

物理的なオフィス、または1つの国といった枠をはるかに超えてリモートワークが拡大し、こうした労働力を管理していく必要性が生まれる中、企業の人材管理支援に使用される人事テクノロジーにスポットライトが当てられている。急成長を遂げるHRスタートアップの1つが米国時間2月2日、事業を大きく拡大するための資金調達ラウンドを発表した。

Oysterは、人事サービスを提供するスタートアップで、「知識労働」分野の請負業者やフルタイムの従業員の雇用、新人研修、そして給与計算、福利厚生、給与管理といったプロセスを支援するプラットフォームを提供している。このOysterがシリーズAラウンドで2000万ドル(約21億円)を調達した。
同社はすでに100カ国で事業を展開しており、CEOのTony Jamous(トニー・ジャマウス)氏はインタビューで、市場を拡大するとともに、特に新興市場での人材採用に対処するための新サービスを導入する計画だと語った。ジャマウス氏はJack Mardack(ジャック・マーダック)氏と同社を共同設立している。

現在Oysterは、候補者の調達や面接、評価のプロセスをカバーしていない。それらは同社が独自の技術を構築したりパートナーと提携し、ワンストップサービスの一環として提供し得る分野と考えられる。同社は開拓可能な潜在要素として、バーチャルジョブフェアの開催を試みている。

「今後10年間で15億人の知識労働者が労働人口に加わりますが、そのほとんどは新興経済圏からの人々です。一方、先進国では約9000万人分の雇用が満たされない状態になります」とジャマウス氏はいう。「グローバルに分散した雇用形態をとることで強力な人材力を得ることができますが、その場合人事や給与システムに大きな課題を抱えることになります」。

資金調達を主導したのはB2BベンチャーキャピタルのEmergence Capitalで、同社はZoom、Salesforce、Bill.com、以前TechCrunchの姉妹メディアであったCrunchbaseなどを支援している。Slackの戦略的投資機関であるSlack Fundと、シードラウンドで同社を支援したロンドンのConnect Venturesも参加している。この投資はOysterの急成長を加速させ、人々がどこからでも仕事ができるようにするという同社の使命を支えるものとなるだろう。

Oysterの評価額は公表されていない。同社はこれまでに約2400万ドル(約25億円)を調達している。
世界的なパンデミックのため、旅行をはじめ地域活動までもが大幅に制限され、多くの人々が自宅での日常生活を余儀なくされていることで私たちの世界が縮小している一方、雇用の機会と組織の活動範囲が大幅に拡大しているのは皮肉なことである。

公衆衛生の危機から導入されたリモートワークは、企業が従業員をオフィスから切り離すことにつながり、その結果、場所を問わず最高の人材を発掘して活用する道が開かれた。

こうした傾向は2020年になって顕著になったと言えるかもしれないが、クラウドコンピューティングとグローバル化のトレンドの後押しを受けて、実はここ数年で徐々に注目を集めつつあった。ジャマウス氏は、Oysterのアイデアは何年も前から考えていたものだったが、同氏がその前に在籍していたスタートアップNexmo(2016年にVonageに約243億円で買収されたクラウドコミュニケーションプロバイダー)での経験の中でそれがより明確なものになったと語った。

「Nexmoでは優れた地域雇用者になることを目指していました。私たちは2つの国に拠点を置いていましたが、あらゆる場所で人材を必要としていました」 と同氏は続けた。「そのために何百万ドル(何億円)も費やして雇用インフラを構築し、フランスや韓国など各国の法律に関する知識を深めました」 。同氏はすぐにこれが極めて非効率的な仕事のやり方であることに気づいた。「私たちは複雑で多様な問題が発生することを想定していませんでした」。

Nexmoを去り、エンジェル投資(分散型の巨大企業Hopinなどを支援)を行った後、同氏は次のベンチャー事業として労働力の課題に取り組むことを選択した。

それは2019年半ば、パンデミック以前のことであった。あらゆる企業が分散型労働力の課題に対処する方法を模索するようになった現在、同氏の判断は時機を得たものとなった。

新興市場へのフォーカスはジャマウス氏の個人的背景と無関係ではない。同氏は17歳のときにレバノンからフランスに留学し、それ以来、基本的に海外で生活してきた。しかし先進国から新興市場に参入する多くの人々と同様、彼は母国の技術を持った人材はその国の住民や国自身が自らの生活を向上させるために活用し、発展させる価値があるものであることを認識していた。同氏はテクノロジーを活用することでそこに貢献できると考えていた。

このより広範な社会的ミッションを背景に、Oysterは現在B-Corporationとしての認定を受けようと申請中である。

個人的な経験に基づいて人材管理会社を設立したのはジャマウス氏だけではない。Turingの創業者たちはインドで育ち、遠く離れた場所の人々と働いていた自分自身のバックグラウンドをTuring設立の動機の一部として挙げている。Remoteの創業者はヨーロッパ出身だが、世界中にいる人材を活用するという同様の前提の下にGitLab(ここで彼は製品責任者を務めていた)を設立した。

実際、この事業に取り組んでいるのはOysterだけではない。分散型ワークの領域でADP社のような存在になることを目指しているHRスタートアップのリストにはDeelRemoteHibobPapaya GlobalPersonioFactorialLatticeTuringRipplingが名を連ねている。これらは2020年資金を調達したHRスタートアップのほんの一部であり、他にも数多くのスタートアップが存在する。

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Oysterの魅力は、サービスの提供方法がシンプルな点にあるように思われる。請負業者とフルタイム従業員に対するオプションがあり、また海外における人材配置の本格的な大規模展開も可能だ。必要に応じて従業員の福利厚生も追加できる。さらに、より大きな予算の中で雇用がどのように適合するかを見極めるためのツールや、各地域の市場での報酬についての指標を提供するツールも備えている。料金は請負業者を対象とする場合は1人あたり月額29ドル(約3千円)から、全従業員を対象とする場合は399ドル(約4万2千円)、より大規模な導入向けには他のパッケージも用意されている。

Oysterはローカルパートナーと協力してこれらのサービスの一部を提供しているが、プロセスをシームレスにするための技術を構築した。他のサービスと同様、同社は基本的に現地のプロバイダーとして顧客の代わりに雇用と給与を処理するが、企業自身のポリシーと現地の管轄区域のポリシー(休暇、解雇条件、産休などの領域で互いに大きく異なる場合がある)の整合性を確保した契約条件の適用が可能となっている。

「資金力のある競合企業もいくつか存在します。資金力があるということは大抵は適切なシグナルです」とOysterの投資を主導したEmergenceでパートナーを務めるJason Green(ジェイソン·グリーン)氏は語っている。「ですが、競争をリードする企業に賭けたいと思うなら、実行力に着目すべきです。今、私たちは実行力を発揮した実績のある企業に投資しています。ジャマウス氏は会社を設立し、それを売却した経験のある起業家です。彼は収益を生み出した実績があり、ビジネスを構築する方法に精通しています。しかしそれ以上に大切なのは、彼の仕事は使命感に支えられていることです。それはこの事業分野において、そして従業員にとって大きな意味を持つでしょう」。

カテゴリー:HRテック
タグ:Oyster資金調達リモートワーク移民

画像クレジット: Tara Schmidt / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

窮地の留学生を支援するテックコミュニティ「CFGI」

本稿の著者であるソフィー・アルコーンは、シリコンバレーにあるAlcorn Immigration Lawの創立者であり、2019年Global Law Expertsアワードの「カリフォルニア州アントレプレナー移民サービス年間最優秀法律事務所」を受賞している。アルコーン氏は、人生を広げる企業やチャンスに出会えるよう人々を助ける活動を行っている。

筆者は、2020年の初め頃からExtra Crunchに毎週「Dear Sophie」というコラム記事を投稿するというすばらしい機会に恵まれている。このコラム記事のアイデアがひらめいたのは昨年12月、TechCrunch Disruptでの講演を終えてベイエリアに戻った日だった。髪をとかしていた時に、ふとこのアイデアが浮かんできたのを覚えている。具体的な形はまだはっきりしなかったのに、筆者はこのアイデアのイメージがすでに心の中で段々と膨らんでいくのを感じた。

この3年半は、移民たちと移民弁護士にとって地獄のような日々だった。思いやりの気持ちを持つ多くの移民審査官もおそらく同じように感じてきたに違いない。政府と移民はある種の虐待関係にある。つまり、政府からひどい扱いを受け続けている移民は、完全に無力で、投票権を持たないため発言権もない。多くの移民たちは、口を開いて何かを言ったら報復を受けて本国送還されるかもしれないという恐れの中で生きている。今こそ新しいパラダイムが必要だ。

米国では、領事館の閉鎖、H-1Bビザの停止に続き、先週、高度なスキルを持つ移民にさらなる追い打ちをかけるような動きがあった。新型コロナウイルス感染症の影響で高等教育機関において全課程がオンライン授業となる留学生数十万人について、本国送還になる可能性が高くなるとの発表があったのだ。

ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ジョンズホプキンス大学などがこの措置に対して訴えを起こしており、学生たちの在籍登録を維持できるように資格コースを提供するプログラムもいくつか開設されているが、時間は押し迫っている。そのため、筆者が経営する法律事務所には現在、国内外を問わず、米国内に合法的にとどまる方法を模索する留学生からの依頼が殺到している。

また、実習ビザのOPTやSTEM OPTでの就労許可によって米国にそのまま滞在できるよう就職先を必死で探している学生たちもいる。最近多くの大学院生が利用しているH-1Bなどの就労ビザも停止される予定だ。多くの学生はこれまで何年間も本国送還になることを恐れてきたが、それが今、現実の問題となっている。

どうして本国に帰るのがそれほど難しいのだろうか。考えてみてほしい。移民も人間だ。あなたの友人や隣人でもある。あなたと同じなのだ。一部の大学院留学生は、最先端の研究のために10年近く米国に滞在しており、この地に根を下ろしている。妊娠している場合や米国国籍の子どもがいる場合もあるだろう。言うまでもなく、これまで何十年も働いてきていて、これから高給の仕事に就ける可能性がある者もいる。

さらに、このパンデミックの最中、国際線で米国を離れれば、途中で新型コロナウイルスに感染する危険もある。その上、本国が帰国者をすぐに受け入れていない場合もある。また、帰国する学生たちは、途方もなく高額な航空券を買うために長い順番待ちをする羽目になるかもしれない。そのため、米国および世界中の多くの留学生、家族、大学関係者たちが戦々恐々としている。

多くの移民たちが最善を尽くしているが、それでも、現政権下では果てしなく無駄なことをしているように思えてくる。いくら頑張っても不利な状況がたたみかけてくるため、きりがないからだ。

筆者は先週ずっと、Zoomに殺到する問い合わせを処理していた。「今、地獄にいる気分だ」と話す優秀なユーザーエクスペリエンスデザイナー、「米国は博士号を取得しても採用してくれない唯一の国だよ」と嘆く博士号修了者、自分のためにではなく、自分が創業した会社の全従業員とその家族を失望させないために特殊能力ビザが必要だと訴える才能豊かな女性実業家などからの問い合わせだった。

しかし同時に、何度も希望の光を目にしたし、私のクライアントに自分で決定するチャンスが与えられた場面を見ることもできた。また私自身も、移民はさまざまな選択肢、手段、戦略、希望を持つことができることを重要人物に伝える数多くの機会を持つことができた。

最も感動的だったのは、留学生や大学院生がビザを取得できるようサポートするためにスポンサーになることを申し出る経営者たちが次々と現れたことだ。これが5年前であれば、ビザ取得のためのスポンサーは単なる日常業務として必要なことで、予測可能かつ安全で障害もなく、大量の申請業務をただこなせばいいだけの仕事だった。それが今、団結して共に問題に立ち向かうために留学生のスポンサーになろうと意欲に燃える米国企業の経営者がいることに、筆者はとても感動している。これはとても勇気ある行為だと思う。

先週、あまりにも感動して涙が出そうになった出来事があった。筆者はその日、小学生の子どもたちを寝かしつけた後の夜遅い時間に仕方なくメイクアップをしていた。YouTubeライブ配信を行うためだ。そして、目をしょぼつかせながらF-1ビザの停止について留学生向けに長々と40分も説明するYouTubeライブ配信を行った。実はLinkedInで「In Sophie We Trust(ソフィアだけが頼りだ)」と何度も言われて、このライブ配信を引き受けたのだった(ちなみにこのスローガンのことはあまり気にしないでくださいね!)。ライブ配信中、Pranos.ai(プラノス)の創業者であるDavid Valverde(デイビッド・バルベルデ)氏から次のようなコメントが届いた。「私も留学生でした。私が創業したスタートアップは今、急成長しています。このスタートアップで留学生向けの求人を検討することを約束します」。

その週、デイビッドとはずっとLinkedInで連絡を取り合い、求職中のテック系留学生が途方にくれて連絡してくるたびに、私はデイビッドを紹介していた。金曜日になってようやくオンラインで話せた私たちは、この週末は自主的に2日半の「社会貢献ハッカソン」をやったらどうか、なんて互いにけしかけ合ったりした。

さて、その週末にはたしてどんな成果をあげることができたのだろうか。私たちは、Community for Global Innovation(CFGI)を発表する運びとなった。これは、世界中の企業と個人が留学生たちを支援し、誰もが成功する機会を与えられる資格があるという信念を実践するための取り組みだ。

CFGIには、一流のスタートアップ企業、VC、プロフェッショナル、非営利団体、留学生、大学院生などが参加している。私たちはこの取り組みを通して、留学生を支援し、現状を社会で広く認知してもらい、変化を起こすことを心に固く決意している。

このプラットフォームでは、どの企業も「あなたが留学生でも何の問題もない。当社のチームでは、すべての人にチャンスがある」というCFGIの誓いを立てて留学生を支援することになっている。

CFGIは米国有数の非営利団体Welcoming America(ウェルカミング・アメリカ)とも連携して、移民およびすべての在住者が米国で平等な機会を得られるようにするための寄付を受け付けている。

また、ボランティア、企業からの寄付金、コミュニティメンバー(今こそ体験を語るべき時だと感じているスタートアップの移民創業者など)による支援も積極的に募集中だ。

移民弁護士の娘そして移民として育った筆者は、イノベーションは本当にどこからでも生まれることを知っている。イノベーションにはダイバーシティが不可欠だ。

私たちが毎日利用しているテクノロジーの中には、自国を離れて新しい人生を始める勇気を持った人たち、つまり移民によって発明、創造されものが数多くある。グローバルにつながった経済へと移行する中で、こうしたテクノロジーにより世界中で継続的に雇用が生み出されており、私たちすべてがそれから恩恵を受けている。

人生はゼロサム・ゲームではない。多くの人が協力して1人の人を支え成功に導くことで、すべての人に利益がもたらされる。

すべての人はチャンスを与えられるべきである。

CFGI設立がきっかけでデイビッドの活動を知って、筆者は本当に感動した。そして、他の人がデイビッドの事業に貢献するのを見てワクワクしている。デイビッドの会社プラノスは、あらゆる窓を透明なデジタルHDディスプレイに変えてしまう革新的なマスメディアプラットフォームを開発している。彼は言う。

「特にアーリーステージのテクノロジー企業の場合、新しく採用する人すべてが会社の運命に大きな影響を与える。創業初期の段階で高度なスキルを備えたトップレベルの人材を採用することは、ギグ・エコノミーが拡大する中、プラノスが数百万とは言わないまでも数十万の仕事を世界中に創出するのに欠かせない条件となる」。

プラノスは、CFGI の誓いを立てた最初の会社となった。同社はすべての候補者に門戸を開き、在留資格に関係なく、その人の実績に基づいて採用を検討する。デイビッドは多様性のあるチームを作り、留学生たちを支援することに誇りを持っている。

Image Credits: pranos.ai

ここで、筆者が移民や留学生にここまで肩入れする理由について話しておきたい。

社会の「アウトサイダー」になるのがどういうことなのか、筆者はよく知っている。筆者はロースクールを卒業してすぐ移民弁護士として開業したが、2人の子どもの世話をするために何年間も仕事から離れていた。

産後うつを経験し、メンターでもあり友人でもあった父を突然亡くしてからは、あらゆる厄介ごとが雪だるま式に膨らんで襲ってきて、結婚生活も破綻した。プロフェッショナルの人脈を持たないシングルマザーがシリコンバレーで生き残れる方法なんてあるのだろうか、と考えていた。

さらに、劣等感や自信のなさによって自分が核心から大きく揺らぐのを感じた。また、起業したいとは思ったが、「コーディングについて何も知らない」等、起業できない理由ばかりを考えていた。

そこでまず、他の人に役立つことを何かやってみることに決めた。自宅のキッチンで移民法律事務所を開業し、クライアントとは、マウンテンビューのダウンタウン、カストロ通り(今はアパートが立ち並んでいる)にあるカフェPeet’s(ピーツ)で会うことにした。

そして、性別による迫害や家庭内暴力を経験してきた移民で、本国送還に直面している人たちに無料の移民サービスを提供し始めた。「他の人たちを支援することならできるのではないか」と考えたのだ。

しかし、自分ではまったく気づいていなかったが、実際はクライアントのほうが私を支えてくれていたのだった。おかげで、自分を信じて新しい人生を創り上げることができた。筆者は、移民たちが持つ驚くべき勇気と、自分の夢を追いかける勇気を持つ人たちの気概と粘り強さからエネルギーをもらっている。

困難なことはいろいろあったが、これまで「Dear Sophie」を通じて、情報や知識を広く伝えることができたことを、うれしく思っている。

そして今、CFGIを開設できた。企業はCFGIの誓いを立てることにより、純粋に実績に基づいて採否を判断していることを示せる。そのため、世界中の優秀な人材を引きつけることができるだろう。

次に何が起こるのか、楽しみで仕方がない。

一丸となって自らの隣人を愛し支援している皆さんに、この場を借りて心からの感謝を伝えたいと思う。宇宙から見れば青く美しい小さな点である地球の上では、皆が隣人である。地図にはいわば「壁」のように人々を分かつ境界線が描かれている。しかしその壁は、人間の精神、愛、思考、そしてウイルスさえも遮ることはできないことを私たちは痛感している。

世界は多くの困難とチャンスであふれている。移民を支援するこの戦いは、社会全体から見ればささやかな試みであることはわかっているが、もう元に戻ることはできないし、そのつもりもない。

シリコンバレーで生きていける私たちは、自分たちがいかに恵まれているかを認識している。未来はここから創られる。ここにはアイデアをすぐに実現できる環境がある。ここでは、頭で考えたことがあっという間に形になり、現実となる。

ここでは、皆が互いを対等に扱う。困難をチャンスだと考えて探し求める。そして、1つのことに集中する1人の人には、そうでない人が百万人集まってもかなわないパワーがあることを知っている。イノベーションはどこからでも生まれ、たった1人が世界を変える場合があることもわかっている。

サンアンドレアス断層と荒波の太平洋にはさまれた「シリコンバレー」という最先端の開拓前線で、私たちは今、以下のことを宣言したい。

私たちは、誰もが成功するチャンスを与えられるべきであると信じている。まずは力を合わせて、移民留学生と大学院生を、CFGIを通じて支援することから始めよう。1人を救うことがすべての人を救うことにつながる。この活動が勢いを増せば、移民拘置所の子どもたち、亡命希望者、不法移民者の子どもたち、そしてチャンスを与えられる資格のあるすべての人たちを支援できるようになるだろう。

なぜなら、神のご加護がなければ、自分が彼らの立場にいたかもしれないのだから。

CFGIの活動をこうして発表できることをうれしく思う。繰り返すが、人生はゼロサム・ゲームではない。皆が一丸となって1人を支援できれば、その波が広がって、すべての人が恩恵を受けることになる。

CFGIを通じて移民留学生に支援の手を。

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(翻訳:Dragonfly)