ベンチャーキャピタルはなぜ大型化に向かうのか?

(編集部)この記事の筆者はNGP Capitalのマネージング・パートナーPaul Asel氏。同氏はテクノロジー分野の投資家として25年以上の経験がある。

SoftBankとAndreesen Horowitz(a16z)の両社は最近ベンチャーキャピタルの投資規模を拡大するような発表を行っている。Reutersの記事によれば、SoftBank関係者はVision Fundの上場を検討していると述べたという。実現すればベンチャーキャピタルとして初の株式公開となる。 一方、Andreesen Horowitzはアーリー・ステージ向けの7.5億ドルとグロース・ステージ向け20億ドルの2つのファンドの組成を発表した

A16zは過去1年半でバイオと暗号通貨に特化したファンドなどなど一連のファンドを組成しており、総額は35億ドルだ。ファンドにはAndreesen Horowitzに加えてGGVLightspeedSequoia などの著名ベンチャーキャピタルが加わっている。これらのVCは投資先のステージ、地域、専門分野などに応じたファンドを組成してきた。ここ1年半でSequoiaは9つのファンドを組成し、総額は90億ドルに近い。Lightspeedは4つのファンドで合計30億ドル、GGVも4つのファンドで18億ドルをコミットしている。

こうした大型ファンドが多数生まれていることはベンチャーキャピタルの大きく地図を塗り替えるものだ。ベンチャーキャピタルはもはや毎週月曜の朝に何人かのパートナーが小さなテーブルを囲んで次はどの会社に投資すべきか議論するようなコテージ・インダストリーではなくなった。

以前のベンチャーキャピタリストはいってみれば歯科クリニックのような個人営業に近かった。ベンチャーキャピタルはいまや人事、広報、金融、法務、営業などの部門を擁する大企業となり、社内にはバイオ、ロボット、暗号など各投資分野の専門家の大群を抱えている。SoftBank、Sequoia、GGVなどはほんの数名のパートナーでスタートしたが、現在はまたたくまに数百人のチームに成長した。

スタートアップへの投資は本質的にローカルビジネスだ

投資銀行の発達の歴史はベンチャーキャピタルの今後を占う上で役立つだろう。有力な投資銀行や非上場企業に投資するプライベート・エクイティ・ファームは何十年もの間結束は固いが小さな産業分野だった。それが投資規模の拡大によって一般的な企業の構造を備えるようになった。メリル・リンチは1914年に株式ブローカーとしてスタートした。当初は閉鎖的な投資銀行業界への新参者という扱いを受けた。当時はゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン、クーン・ローブなどの古参投資銀行が市場を支配して高い利益率を誇っていたが、株式市場から潤沢な資金が流入するにつれてメリル・リンチなどの新しい投資銀行が追い上げていった。

やがて投資銀行業界にM&Aの波が押し寄せ、それまでのパートナーシップに代わって近代的大企業の枠組みが主流となる。1854年創立のリーマンは1977年にクーン・ローブを買収し、次に1984年に自身がアメリカン・エキスプレスに買収された。リーマンの投資銀行業務はシアソン・ハットン・リーマンに移管され、1994年にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスとしてニューヨーク証券取引所に上場される。投資銀行の大型上場ではモルガン・スタンレーが1993年に、ゴールドマン・サックスが1999年にそれぞれ実現している。

プライベート・エクイティ・ファームもすぐにこのトレンドに続いた。投資銀行同様、当初は小規模なパートナーシップで出発したが、活発なM&Aを支えるために貪欲に資金を求めていた。この資金需要を満たすには上場して株式市場から調達するのが近道だった。現在プライベート・エクイティ・ファームのトップ5社はすべて上場企業だ。ポートフォリオ2500億ドルのApollo Global Managementは2004年に、4700億ドルのBlackstoneは2007年に上場しており、Carlyle、KKR、Aresもすぐに続いた。

長らくベンチャーキャピタルは投資銀行とプライベート・エクイティ・ファームに訪れた巨大化とM&Aの波から隔離されていた。 スタートアップへの投資は本質的に相手をよく知っていなければならないローカルビジネスだ。テクノロジーの革新は歴史的にみて「早いもの勝ち」だ。MicrosoftOracleの例をみても、こうしたリーダー企業の資金効率は非常に高かった。多くの場合、上場以前の資金調達は総額で2000万ドル以下に過ぎなかった。ベンチャー企業は本質的にリスクが高く、不安定なビジネスだ。利益は企業ごとに大きく異なり、失敗の率も高く波も大きい。

イノベーションにはますます金がかかり、起業家はVCにますます多くを求めるようになった

しかし投資銀行やプライベート・エクイティ・ファーム同様、ベンチャーキャピタルも資金量が勝負となってきた。イノベーションを起こすには金がかかる。起業家も投資家もビジネスの着実な成長より一発勝負の革命を求めるようになる。既存のライバルの脅威を退けるためにはいわば衛星軌道に入れる地球脱出速度が求められる。スタートアップは次第に成長するにつれて有力な既存大企業と競争を強いられる。起業家としては資本効率の高い「リーン・スタートアップ」がトレンドだが、ベンチャーキャピタル側からみるとスタートアップをサポートするためのサービスづくりは決してリーンではない。特に財務、法務、マーケティングなど成長を加速するために必須の部門に人材を確保するには多額の資本を必要とする。現在大手ベンチャーキャピタルでは直接投資に携わるスタッフよりもサポート部門の人員のほうが多くなっている。

ベンチャーキャピタルは多様化、分断化が著しい業界だ。シリコンバレーだけでも200社以上のベンチャーキャピタルがひしめきあっている。これまでテクノロジーのイノベーションとは無縁と思われていたような地域、国々に数百のベンチャーキャピタルが生まれている。しかしベンチャーキャピタルへの需要が高まるにつれ、大量の資金を動かせる大型ベンチャーキャピタルが有利になる。今後10年程度で群小ベンチャーキャピタルの統合が進むのは間違いない。

大型化するベンチャーキャピタルの攻勢に耐えて一部の業種に特化したブティック型の投資銀行やプライベート・エクイティも生き残っている。同様に小規模なエンジェル投資、シード投資もSoftBank式の組織的な投資方式に対抗している。特定のテクノロジーや特定の地域、またそこで活動する起業家を熟知したベンチャーキャピタルは継続的に高いリターンを得ている。しかしながら、資本の集中度合が強まっているのが現実のトレンドだ。周辺には能力の高いエンジェル投資家、シード投資家が残るとしてもベンチャーキャピタル業界は投資銀行と同様、最終的には少数の巨大なグローバル企業が寡占するる世界になるだろう。

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滑川海彦@Facebook

ベン・ホロウィッツがDisrupt SFに登場する

HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうかThe Hard Thing About Hard Things〕が出版されてから4年になる。われわれTechCrunchの編集部を含め、多くの読者にとってこの本は今でももっとも権威がありもっとも率直に書かれたビジネス書の一冊となっている。これほど役立つ経営書は他に例を見ない。そこでAndreessen Horowitzの共同ファウンダーであり、この本の著者であるベン・ホロウィッツが9月のTechCrunch Disruptに登場することが決まったことを発表できるのはたいへん嬉しい。

他のベンチャーキャピタリストが書いた類書に比べて、われわれがホロウィッツの会社経営に関するアドバイスを真剣に受け止める理由はどこにあるのだろう? 簡単にいえば、ホロウィッツの現実の経営経験だろう。この本ではその体験が率直に語られている。たとえばホロウィッツはクラウドビジネスのパイオニアであるOpsware(元LoudCloud)の共同ファウンダー、CEOであり、2007年には同社をヒューレット・パッカードに16億ドルで売却することに成功している。しかしそれまでにホロウィッツは何度も窮状を詳しく報じられてきた。ドットコム・バブルの破裂で最大の顧客が倒産するなど、Opswareは一度ならず危機に襲われている。

Netscape Communicationsはマーク・アンドリーセンが創立した後、わずか16ヶ月で上場を果たした。ホロウィッツはそこでいくつかの事業部の責任者を務めた。エキサイティングな経験だったが、ホロウィッツはここでも若きアンドリーセンとの間で緊張した関係があったことを率直に書いている。ホロウィッツらが準備していた株式上場にについてアンドリーセンがメディアに情報を漏らしすぎると不満を述べたところ、アンドリーセンから「この次はお前が取材を受けてみろ、バカ野郎」という意味の答えが返ってきた。

今となってはユーモラスなエピソードだが、当時ホロウィッツは(すでに結婚して3人の子供がいた)は真剣に新しい職を探さねばならないと考えたという。

ホロウィッツの本の魅力は著者が実際に体験したことを書いている点にある。彼は自分が何を言っているか熟知している。 決してものごとをオブラートに包んだりしない。しかし多くの経営コンサルタントや彼らの本は抽象的、理論的すぎる。どうともとれるあいまいな表現も多い。ホロウィッツは本質をずばりと突く。CEOにとって困難なのは社員の降格や解雇、昇給の時期やタイミグなどの問題であり、往々にしてここで失敗するという。起業家が必ず学ばねばならない重要なコンセプトは、なにごとを決定するのでもきわめて広い視点を持たねばならないという点だとホロウィッツはアドバイスする。つまりその決定によって直接の影響を被る人間の視点だけでなしに、それが会社にとってどういう意味を持つのかを意識しなければならないわけだ。

企業のトップは意思決定にあたって非常に大きな圧力にさらされるのが常だから、これを実行するのは容易でないとホロウィッツも認めている。しかし会社の視点で判断するというのは決定的に重要だ。組織を健全に保つ上で最重要なポイントといえるだろう。

この秋、ホロウィッツから直接に話を聞けることになり楽しみにしている。Adreessen Horowitzは創立後9年でシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルとなったが、その経緯、これにともなう起業家精神の深化についても聞けるものと期待している。

読者がスタートアップのファウンダーか、またはそれを目指しているなら、このチャンスを逃すべきではないだろう。Disrupt SFは来る9月5日から7日までサンフランシスコで開催される。チケットはこちらから

〔日本版〕『HARD THINGS』は高橋、滑川が翻訳を担当した。刊行に先立ってTechCrunchでも紹介している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

リキッドバイオプシーのFreenome、アンドリーセン・ホロウィッツから6500万ドル調達

2017-03-02-freenome

Freenomeは創業以來2年のスタートアップで、バイオプシーという血液サンプルのDNA解析によるガンの早期発見を目指している。このほど同社は巨額のシリーズAラウンドを成功させた。Andreessen Horowitzをリーダーとするベンチャー・キャピタルのグループが6500万ドルを投資した。このグループは昨年6月に550万ドルの シード資金を投じている

Andreessen Horowitz以外の投資家はGV、Polaris Partners、Innovation Endeavors、Spectrum 28、Asset Management Ventures、Charles River Ventures、AME Cloud Ventures、Allen and Companyに加えて、さらに最初期からの支援者であるData Collective、Founders Fundだ。

ラウンドAの金額はFreenomeのビジネスが直面する可能性と同時に激しい競争を物語っている。最近、大学や研究機関からリキッドバイオプシーのスタートアップが数多く現れた。こうした会社は患者の組織を採取するのではなく、血液のDNA解析でガンを発見しようとしている。しかしこうした検査は、まだガンの部位、脅威の程度、治療に対する反応などを正確に指摘することができない。

研究者は努力しているし、膨大な資金注ぎぎ込まれているにもかかわらず、リキッドバイオプシーのスタートアップはこうした問題に直面している。

カリフォルニア州Redwood Shoresの創立以來4年になるGuardant Healthではリキッドバイオプシーによる非侵襲的遺伝子解析によるガンの検査に小さい試験管2本分の血液しか必要としない。このGuardant HealthはOribMed Advisors、Khosla Ventures、Sequoia Capitaなどの投資家からこれまでに1億9000万ドルの資金を得ている。

これも創立4年になるカリフォルニア州ベニスのGrailもガンの早期スクリーニングを目的とするスタートアップで、DNA解析の大手、Illuminaからのスピンアウトだ。こちらは17億ドルを調達しようとしているという。この資金はは大規模な臨床試験をスタートするために用いられるらしい(同社は昨年1月にシリーズAのラウンドでIllumina、Microsoftの共同ファウンダー、ビル・ゲイツ、Amazonのファウンダー、ジェフ・ベゾス、それにGVから1億ドルを調達している)。

Freenomeの共同ファウンダー、CEOのGabe Otteは昨年TechCrunchが取材した際に、「われわれわれのテクノロジーは〔ライバルに比べて〕さらに正確な答えを出せる点が大きな違いだ。このテクノロジーは生化学的に〔ライバルとは〕別の部分に着目している。ガンがあるかないかだけでなく、良性か悪性か、どの部位にあるのかについても答えようとしている。つまりガンに関係することが知られている特定の遺伝子の変異だけでなく〔血液中に漂う〕あらゆる遺伝子を担うサンプルを解析する」と述べた。

われわれが取材したとき、 Otteは「Freenomeの検査は数百の例で有効性が確認されている。ただし1億ドルのベンチャー資金を導入するのはテクノロジーが疑問の余地なく証明されてからだ」と述べた。

今回のラウンドAをみれば、Freenomeはテクノロジーの成果に自信を得たようだ。実際、社員25人の小さい会社はであるものの、数千件に上る血液生検を実施し、前立腺ガン、乳ガン、結腸ガン、肺ガンという4分野に関して現行のスクリーニングより優れた結果を得たという。

今後Freenomeは医療としての実用化を目指して大規模なテストに入る。研究のパートナー25組織にはカリフォルニア大学サンディエゴ校、サンフランシスコ校などが含まれる。【略】

Otteによれば、Freenomeは向こう1年間に自社内および提携研究機関で最大1万件の血液生検を実施する予定だという。順調に進めば、その後規制当局に承認を求める手はずとなる。Freenomeではこのテクノロジーがライバルに先んじて、病院に導入される最初のリキッドバイオプシーとなることを期待している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Twitterを去ったMarc Andreessen曰く: “おかげで50ポンド体重が減った感じだ”

SAN FRANCISCO, CA - SEPTEMBER 13:  Entrepreneur Marc Andreessen speaks onstage during TechCrunch Disrupt SF 2016 at Pier 48 on September 13, 2016 in San Francisco, California.  (Photo by Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch)

パロアルトで行われたイベントStrictly VCで、著名なVCのMarc Andreessenが、突然Twitterを去り、過去の全ツイートを削除した理由を述べた。

“体重が50ポンド減った気がするな。鳥になったみたいだよ”、と冗談っぽく言うが、‘鳥’とはTwitterのロゴのことだろう。

彼はTwitterで非常に熱心にツイートしていたから、彼の離脱を意外に思う人たちもいる。Andreessennは彼のいわゆる“tweetstorms”(ツイート嵐)で、政治に関する意見(彼はTrumpが嫌い)から、シリコンバレーに影響を与える最新ニュースに対する見解に至るまで、あらゆる発言をシェアした。

しかし彼のその率直さは、ときどき彼をトラブルに巻き込んだ。今年のはじめにはインドに関する物議を醸す意見を述べ、そのことをFacebookに嫌われた。彼は、Facebookの取締役だ。

Andreessenはまた、テクノロジー企業のIPOが最近ますます難しくなっている、と主張した。“20年前に比べると上場はものすごく困難だ”、と述べ、最近は投資家による詮索がますます厳しくて、それはまるで一種の“刑罰だ”とまで言った。企業が四半期の成績ばかり気にするようになると、“長期的な目標は視界から消えてしまう”、と嘆いた。

しかし投資家としての彼自身は、自分のポートフォリオに関してはきわめて楽観的で、A16zの後期段階の企業の多くがIPO近し、を匂わせた。スタートアップというものは、“最終的には上場企業になるしかないんだ”、と彼は言う。

Andreessenは、きわめて活発だったM&A環境についても語った。彼によるとそれは、“これまでとは違う買い手による新しい現象”であり、Under ArmourやGMのようなテクノロジー系でない企業がVCに支えられたスタートアップを買っていることを挙げた。

また彼は、Andreessen Horowitzの途上的(in-progress)投資と、Sequoiaのような完成(completed)投資のリターンを比較した最近のWSJの記事についても述べている。彼はA16z型の投資を擁護するが、それでも、“世界で最良のベンチャーキャピタリストでさえ、ほとんどの案件が空振り三振アウトだ。それがVCという生き物の、ふつうの生態だ”、と認める。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

書評:ベン・ホロウィッツの『HARD THINGS 』―「戦時の組織のリーダー」の必読書

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TechCrunchの読者にはベン・ホロウィッツはシリコンバレー最強のベンチャーキャピタルリストの一人としてよく知られているだろう。ホロウィッツは起業家向けコラムのライターとしても人気があり、ブログの延べ読者は1000万人近い。TechCrunchにもたびたびコラムを寄稿している。例えば、翻訳したものだと「銀の弾よりも鉛の弾–戦わずにすむ奇手妙手を探すなかれ」とか「リーダーシップに関する覚書:お手本は、スティーブ・ジョブズ、、、、ウィリアム・キャンベル、そしてアンディー・グローヴ」、「アンドリーセン・ホロウィツのベン・ホロウィッツ、「投資すべきは大学中退の若者のビジネスモデルがゼロのとっぴょうしもないアイディア」」などがある。未翻訳ながらも、公開時に話題になったコラムだと「The Struggle」がある。

投資関連だと、「Ben Horowitz、「Andreessen Horowitzはたった3週間で15億ドルの資金を調達した」」、「Andreessen Horowitz、Instagramへの投資25万ドルが7800万ドルになった」や、最近の事例だと「評価額25億ドルのLyftは、楽天を筆頭に5億3000万ドルをシリーズEで調達」がある。

そのホロウィッツが昨年出版したThe Hard Thingsの日本版が明日(5月18日)、日経BP社から発売となるのでご紹介したい。

邦題は『 HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか 』。翻訳はTechCrunch翻訳チームの同僚、高橋信夫氏と私が担当した。企画・編集は『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』、『フェイスブック 若き天才の野望』、『沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』などシリコンバレーのホットなノンフィクションをたてつづけにベストセラー化している日経BP出版局の中川ヒロミ部長。YJキャピタル取締役COOでエンジェル投資家でもある小澤隆生氏には日本版序文をいただいた(Amazonの紙版はこちらKindle版Kobo版も発売中。
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ベン・ホロウィッツといえば、共同ファウンダー、ゼネラル・パートナーを務めるアンドリーセン・ホロウィッツがベンチャーキャピタルとして驚異的な成績を挙げていることがまず頭に浮かぶ。2009年の創立直後のSkypeへの大胆な投資によってわずか1年半で1億ドル以上のリターンを得てシリコンバレーを驚かせたのを皮切りに、ポートフォリオからはFacebook(上場)、Twitter(上場)、Groupon(上場)、Zynga(上場)、Instagram〔買収)、と大型エグジットが続いた。現在のポートフォリオにはLyftやLytroのような有望スタートアップが並び、さらにAirbnb(評価額200億ドルで新ラウンド準備中)のような超大型スタートアップも含まれる。

これだけ見ればベン・ホロウィッツもマーク・アンドリーセンも順風満帆のシリコンバレーの成功者に思えるが、実はここまでの道のりは平坦ではなかった。というより阿鼻叫喚、修羅場の連続だったことが詳しく本書で語られている。実はホロウィッツが本書を書こうとした動機がそこにあった。冒頭でホロウィッツはこう書いている。

本書は分類すれば起業家向けの経営書ということになるのだろうが、内容は大いに異色だ。そもそもこの本を書こうとした理由をホロウィッツが冒頭で述べている。

マネジメントについての自己啓発書を読むたびに、私は「なるほど。しかし、本当に難しいのはそこじゃないんだ」と感じ続けてきた。本当に難しいのは、大きく夢見ることではない。その夢が悪夢に変わり、冷や汗を流しながら深夜に目覚めるときが本当につらいのだ。…会社が失敗のどん底に落ち込んだときに、社員の士気を取り戻すためのマニュアルはない。〔会社経営という〕困難なことの中でももっとも困難なことには、一般に適用できるマニュアルなんてないのだ。

これは誇張ではない。本書の前半ではホロウィッツがくぐり抜けてきた修羅場が詳しく語られる。

大学院を出た若きホロウィッツは5歳も年下の天才マーク・アンドリーセンに心酔し、当時日の出の勢いだったネットスケープに参加するが、そのとたんにマイクロソフトがIEをバンドルして叩き潰され、AOLに買収される。アンドリーセンと共にAOLを離れて世界最初のクラウドコンピューティングサービスのLoudCloudを起業して勢いが出たとたん、今度はドットコムバブルが破裂する。ベンチャー資金が枯渇して倒産が目前に迫る。そこで乾坤一擲、上場による資金調達を図る。2週間に2時間しか眠らないロードショーのおかげで上場に成功するが、またまた大口顧客が倒産して巨額の貸し倒れ。ドットコムバブルも長引き、倒産の危機が再燃する。そこでクラウド事業をEDSに売却してOpsWareというクラウドソフトのプロバイダーに転身するというピボットを図る。これで一息ついたとたん、最大顧客のEDSが契約破棄を要求。60日の猶予を取り付けて突貫作業でソフトを書き直し…最後にHPに16億ドルで売却の運びになる。ところが調印寸前に会計監査を担当していたプライスウォーターハウスにとんでもない言いがかりをつけられ、一転して交渉は破談寸前に…。

ホロウィッツのCEOとしての8年は、「このままでいけば私は470人の社員を路頭に迷わせることになる。投資家の金を失い、顧客を大混乱に落とし入れる。冷や汗をかいた。泣いた。気分が悪くなって吐いた」の繰り返しだった。恐怖のジェットコースター生活だ。このあたりは読んでいるだけで手に汗を握る。

ホロウィッツは「会社が本当の危機に直面したときにはレモネードのスタンドも経営したことがないような評論家の経営書など何の役にも立たない」と言う。本書で論じられるのは組織のリーダーの多くが直面するきわめて具体的な「困難な問題」であり、ホロウィッツが自らの体験から割り出した対応のヒントだ。

本書で取り上げられているテーマはたとえば次のようなものだ。

人を正しく解雇する方法
幹部を解雇する準備
親友を降格させるとき
なぜ部下を教育すべきなのか
友達の会社から採用してもよいか
大企業の幹部が小さな会社で活躍できない理由
社員が幹部を誤解するとき
経営的負債とは何か
経営の品質管理が必要だ
社内政治を最小限にする方法
正しい野心と間違った野心
肩書と昇進―2つの考え方
優秀な人材が最悪の社員になる場合
個人面談は人事管理の最重要ツール
企業文化を構築する
会社を急速に拡大(スケーリング)させる秘訣
成長を予測して人材を評価する誤り
「ワン」型CEOと「ツー」型CEO
平時のCEOと戦時のCEO
CEOを評価する基準

社員のレイオフや幹部の解雇にページが割かれているのはアメリカ企業らしいが、日本でも終身雇用制は急速にくずれつつある。特にIT企業、スタートアップ企業ではいずれ避けられない事態になりそうだ。備えあれば憂いなしで、そうした事態になったときリーダーは何をしなければならないのか、心構えを学んでおくのは必要だろう。

個人的には「戦時のCEO」というテーマが興味深く感じた。ホロウィッツは会社が存立そのものを脅かされるような危機に直面していることを「戦時」と表現する。

ビジネスにおける「平時」とは、会社がコア事業でライバルに対して十分な優位を確保しており、かつその市場が拡大しているような状況を指す。平時の企業は市場のサイズと自社の優位性の拡大にもっぱら注力していればよい。これに対して「戦時」は、会社の存立に関わる危機が差し迫っている状態だ。そうした脅威にはライバルの出現、マクロの経済環境の激変、市場の変質、サプライチェーンの変化などさまざまな原因が考えられる。

戦時のCEOはたったひとつの誤った判断、あるいは判断の遅れだけで会社を潰すことになる。ホロウィッツは半導体メモリー市場で敗北し倒産の危機にあったIntelをCPUメーカーとして再生したアンディー・グローブを戦時のCEOの理想としている。グローブは部下を気絶するほど容赦なく叱責した。ホロウィッツによれば、戦時のCEOは罵り言葉を使い大声で怒鳴るのも止むを得ないという。

会社にすでに弾丸が一発しか残っていない状況では、その一発に必中を期するしかない。戦時には社員が任務を死守し、厳格に遂行できるかどうかに会社の生き残りがかかることになる。戦時のCEOは偏執的だ。平時のCEOは野卑な罵ののしり言葉を使わずに済む。戦時のCEOは意識して罵り言葉を使う場合がある。

部外者はとかく独裁的CEOを「ブラック企業のボス」よばわりするが、本書は容赦ない独裁だけが会社を救える場合があることを具体例で示している。ただし、こうした「戦時」の独裁はあくまで会社を救うことが目的であって、自分のエゴのためであってはならない。この点については「正しい野心と間違った野心」というテーマで詳しく論じられている。

本書ではベン・ホロウィッツのバークレーでの生い立ちや美しい妻、フェリシアとの出会いが詳しく語られて興味深い。父のデビッド・ホロウィッツも重要な脇役として登場する。若いベンが妻子をかかえて先行きの見込みのない会社で安い給料で苦闘しているところに父デビッドがやってきて「安いものはなんだか知っているか?」と尋ねる。ベンが知らないと答えると「花さ」という。デビッドは「それじゃ高いものはなんだか知っているか? 高いものは離婚さ」と続ける。ホロウィッツははっとして家庭を優先させなければならないことを悟り、まともな給料を払う会社に転職する。デビッドは元リベラル派で現在は保守派の有力評論家だが、ベンの生き生きとした文章は父親譲りかもしれない。またマーク・アンドリーセンも全面的に編集、推敲を手伝ったという。

『フェイスブック 若き天才の野望』が夢のようなシンデラレ・ストーリーなら、『HARD THINGS』は魔女、悪竜、邪悪な小人の群れなどにくりかえし絶対絶命の瀬戸際に追いやられながらついにグループを率いて無事に目的地に達するリーダーの冒険物語かもしれない。経営書ということを抜きにしても十分に楽しめる本だと思う。こういう優れた著作の翻訳が翻訳できたことはうれしい。TechCrunch読者の皆さんに自信をもってお勧めできる一冊だ。

滑川海彦@Facebook Google+

多様な非定型データの分析サービスを提供するSensaiがAndreessen Horowitzらから$900Kを調達

データ分析は帳票などの定型的なデータを対象とすることが多い。しかし企業のペーパーレス化が進み、電子化されたドキュメントが増えるに伴って、非定型的なデータが多くなり、それまでの技術では分析が難しくなる。PalantirやIBM(のWatson)は、非定型的なテキストデータを容易にクェリできる方法を提供しようとしている。そしてこの分野の新人選手Sensaiが今日(米国時間3/31)、ステルスを脱して正式にローンチする。

同社は今日さらに、Andreessen HorowitzとFormation8、Chris Kelly、ValueStream Labsなどからの90万ドルのシード資金の獲得を発表した。ビッグデータ関連のインキュベータData Eliteから巣立った同社は、年内にシリーズAの資金調達を行う予定だ。

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Sensaiは、料金の安さと、データサイエンティストたちにとっての使いやすさで勝負したい、と言っている。月額料金は5000ドルからだが、顧客のニーズに応じて利用プランをカスタマイズできる。また使いやすさの面では、顧客企業の一般社員でも使えるようにする、という。Sensaiは非定型的なデータの分析を得意とするが、競合他社はどちらかというと、それぞれの企業独自の定型的データを扱うところが多い、と同社は主張している。

対象データは内部のファイルやソーシャルメディア、Web上の記事、オンラインの公開ドキュメントなどさまざまだが、それらに対するクェリをユーザがセットアップすると、結果はリアルタイムでSensaiのダッシュボードに現れる。またユーザがカスタマイズした報告書への出力や、APIからの結果取得も可能だ。Sensaiはクラウドサービスとしても、あるいはオンプレミスの展開でも、どちらでも利用できる。

同社によると、そのサービスは人工知能と深層学習(deep learning)の技術を駆使して、ユーザのクェリを非定型ドキュメントの集積に対して適用する。結果はきわめて正確で、またそのシステムは顧客の利用歴から学んでどんどん進化するという。

サービスのクォリティに関する同社の主張を、実際に確認することはできなかったが、でも顧客の中にはSiemensや金融サービスのUBS、資産管理のWorldQuantなどがいる。SiemensはこのサービスをITの監査に利用し、UBSは同社のEvidence Labの調査に利用している。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

IFTTTがシリーズBで$30M、新しい高度な機能を有料化していきたい、と

IFTTT(If This Then That)が3000万ドルのシリーズBラウンドを終了したことを今日(米国時間8/29)発表した。ラウンドの幹事会社はNorwest Venture Partners、これにこれまでの投資家A16Z*が参加した。Norwestの社員パートナーJosh GoldmanがIFTTTの取締役会に加わった。CrunchBaseによると、彼はほかにも15社の取締役会で顧問役を務めている。〔*: A16Z, Andreessen Horowitz.〕

IFTTTは、インターネット上の各種サービスやユーザのデバイスが互いにコミュニケーションできるようにしてくれる。そのためにユーザは、とても単純な文、If this, then that(もしもこれ、ならあれ)を書く。

たとえばTwitterというサービスと、天気予報やカレンダーのサービスをコミュニケーションさせて、「もし明日晴れなら(or夜の10時になったら)ナニナニとツイートせよ」とプログラムできる。「会社のオフィスに入ったら、電話の呼び出し音が鳴らないようにせよ」、というプログラムも可能だ。あるいは天候や置き場所によって、Nestのサーモスタットを動作させることもできる。

サービスでなくデバイスなどの物がプログラムの対象のときは、IFTTTはIoT(物のインターネット)を見事に先取りしている、とも言える。

ファウンダのLinden Tibbetsはこう言う: “この会社を始めたときは、すごく長期的なことを考えていた。今のIFTTTにあるサービスは、氷山の一角にすぎないね。IoT的なことも、最初から考えていたが、Kickstarterなんかのおかげで、この1年ぐらいで急激に関心や機会がふくらんだね”。

IFTTTがローンチしたのは2010年だが、当時はかなりベアボーンなプロダクトで、それが今では125以上のチャネル(サービスやデバイス間の組み合わせ)があり、Nike、Square、ESPN、Nest、Jawbone、eBay、Microsoftなどの有名企業も利用している。個人が作ったレシピ(IFTTTのプログラムのこと)が1400万以上あり、1日に1500万回、レシピがトリガされている。

GoogleがやっとNestをものにし、そしてSamsungがついにSmartThingsをつかまえたというこのときに、IFTTTはそのずっと先を行っているのだ。

Tibbetsは話を続ける: “今回のラウンドを契機に、売上の計上を真剣に考えたい。まあ、有料アカウントだろうね、その手段は。有料のお客さんには、これまでのIFTTTではできなかったことを、やらせてあげたい。そんな高度な有料機能の要望は、毎日のように飛び込んでくるよ。たとえば、同時に複数のTwitterやInstagramのアカウントをオープンしたい、とかね”。

IFTTTのこれまでの調達総額は3900万ドルだ。そして投資家はLerer Ventures、Betaworks、BoxGroup、SV Angel、Founder Collectiveなどなどと多彩だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))