Senti Biosciencesは、ライフサイエンス分野の世界的企業であるBayer(バイエル)がリードした資金調達ラウンドで1億500万ドル(約109億円)を調達したことを発表した。同社はプログラム可能なバイオプラットフォームによって新しいガン治療法の開発を行っている。
同社は新しい計算生物学的手法を用いて人体の特定細胞を正確に標的とする細胞・遺伝子治療法を開発している。
ハーバード医学部の出身でMITで准教授を務めたSenti BiosciencesのCEOであるTim Lu(ティム・ルー)氏は、同社のテクノロジーを伝統的な手続き型プログラミングとオブジェクト指向プログラミングの違いにたとえてこう述べている。「『Helloworld』を表示するだけのプログラムでは意味がありません。オブジェクト指向ならifステートメントを駆使したプログラミングができます」という。
Senti Biosciencesでは複数の受容体を標的とする遺伝物質を合成することで体内の遺伝物質を識別し、病変部に正確に薬剤を到達させること目標としている。「細胞の単一受容体ではなく【略】我々は2つの受容体を対象にできます」とルー氏は述べた。
同社は当初、遺伝子回路テクノロジーのプラットフォーム上に体内のガン細胞を標的にしてそれらを駆逐する「キメラ抗原受容体ナチュラルキラー(CAR-NK)」細胞を合成する治療法を開発している。現在の細胞・遺伝子治療は、ナチュラルキラーT細胞を利用している。これは、体内の白血球内に存在し、人体に有害なウイルスや細菌などの異物を排除する免疫プロセスで重要な役割を果たす。
ところがT細胞を利用したの治療法は、患者に毒性をもたらす可能性がある。極めて危険な免疫暴走を誘発するをリスクだ。CAR-NK細胞を利用すれば同様の効果を得ながら免疫暴走という副作用を大きく低減できる。
ルー氏によれば「我々の治療法は遺伝子回路とは独立のものですす。遺伝子回路は個人に特異的です。【略】CAR-T細胞またはCAR-NK細胞を使った治療では【略】(ガン細胞という)標的を発見して薬剤を送り届け他の正常な細胞に影響を与えないようにします。我々は遺伝子回路にロジックを組み込み、CAR-NK細胞が1つではなく2つの標的を識別できるようにします」という。
Senti Bioがターゲティング能力を強化するのは、抗ガン剤が体内の病変細胞だけに作用し、変異していない健康な細胞が破壊されることを防ぐためだという。
共同ファウンダーのルー氏、MITの同僚であるJim Collins(ジム・コリンズ)教授、ボストン大学のWilson Wong(ウィルソン・ウォン)教授、また合成生物学の専門家であるPhillip Lee(フィリップ・リー)氏らの数十年にわたる研究の集大成がSenti Biosciencesに結実したという。
ルー氏は遺伝子回路テクノロジー開発の現状をこう解説する。
遺伝子治療の現状は、半導体素子開発の初期と比較できます。研究段階ではさまざまな要素技術が開発されていました。しかし世界に影響を与えるためには産業として成立する規模が実現される必要がありました。
そこでルー氏ら共同ファウンダーはMIT、ボストン大学、スタンフォード大学からのライセンスを受け、開発作業を研究室レベルから産業レベルにアップすべくスタートアップを設立した。
「(Seinti Bioを)創立したとき、我々が持っていたのはいくつかのツールとノウハウでした」とルー氏はいう。それはまだ完成したプラットフォームには遠かった。
バイエル他の投資家による資金投入により、同社は新しい制ガン療法の商業化に進む準備ができた。
同社は声明で「最初の製品は急性骨髄性白血病、肝細胞ガン、その他の詳細はまだ明かせないが、各種の固形腫瘍を対象とした治療法になる」と述べている。バイエルのベンチャーキャピタル、Leaps by Bayerの責任者Juergen Eckhardt(ユルゲン・エックハルト)医学博士はこう述べている。
Leaps by Bayerの使命は、何百万人もの人々の生活をより良い方向に変える可能性のある画期的なテクノロジーに投資することです。合成生物学は次世代の細胞・遺伝子治療の重要な柱になると信じています。遺伝子回路設計と最適化におけるSenti Bioのリーダーシップは、ガンの予防と治療、また失われた組織機能再生という我々の目標に理想的に適合します。
ルー氏ら共同ファウンダーは、同社のプラットフォームをガンだけでなく他の疾病治療その他の用途のための細胞療法を開発するために有効と考えている。これについては(バイエル以外の)製薬会社とも提携して製品化を進めるつもりだという。ルー氏は声明でこう述べている。
過去2年間、Senti Biosciencesのチームは信頼性の高い薬剤製造ラインを開発するために何千もの高度な遺伝子回路を設計、構築、テストしてきました。現在まで治療が困難な液状および固体腫瘍に適応するる同種異系CAR-NK細胞療法に焦点を当ててきました。今後、2021年にはIND(新薬臨床試験)申請の準備を開始するなど、プラットフォームテクノロジーと製造パイプラインのさらなる進歩が達成できるものと期待しています。
今回のラウンドによりSenti Biosciencesの資本は1億6000万ドル(約166億円)弱となった。ルー氏は「この資金は製造プロセスを強化し、大手製薬会社との提携作業を加速するために用いられます」と述べた。
現在のスケジュールでは2022年後半から2023年初頭に新薬臨床試験開始申請を行い、2023年中に実際の臨床試験を開始する計画だ。
遺伝子回路開発は急成長中の分野だ。Cell Design Labsは2017年にGilead Sciencesが5億6700万ドル(約588億円)で買収した。この分野に取り組んでいる他の企業にはCRISPRテクノロジーを利用したCRISPR Therapeutics、Intellius、Editasなどがある。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)