2021年のF1に注目していた人なら、Netflix(ネットフリックス)のドキュメンタリー「Formula 1:Drive To Survive(Formula 1:栄光のグランプリ)」の最新シーズンはきっとすごいことになると知っている。
うれしいことに、もう間もなくだ。「栄光のグランプリ」シーズン4が3月11日に公開される。Netflixは米国時間3月9日に予告編を公開した。
さて、話はここからだ。
「栄光のグランプリ」はF1に大きな影響を与えた。スポーツに同じぐらいの影響を与える番組は、もしあるとしてもごくわずかだ。
The Guardianによれば、2021年にF1の総合視聴率は40%以上上昇し、米国でこれまでに最も多くF1が視聴された年になった。同サイトによれば、2021年にF1ファンは世界で7300万人増えたと推計されている。
米国人にとってモータースポーツといえばNASCARだったが、2022年にはマイアミがF1のカレンダーに追加され米国で2レースが開催されるほどの熱狂となっている。まさにマイアミらしく、コースレイアウト付近にはビーチクラブもあるようだ。
NetflixのドキュメンタリーシリーズとF1人気を短絡的には語れない。ただ、因果関係ではないにしても、少なくとも相関関係があることはまちがいないだろう。
しかし、このコインには裏面がある。私自身はNetflixのドキュメンタリーシリーズに引っぱられた新米のF1ファンだが、古くからのF1ファンに共通する思いがあることに気づいた。Netflixの番組がF1をダメにしている、というのだ。
Has @netflix ruined @F1 ? The drama seemed a bit manufactured and race decisions seemed swayed to keeping the season close
— Mark J (@WendellRuns) December 12, 2021
Netflix ruined F1. More like a soap now a days. It's happened now, we wait till march 20th now.
— Kyle Snape (SGT_UK_GBR) (@Kyle_Snape98) December 12, 2021
説明のために、2021シーズンを簡単に振り返ろう。
メルセデスAMG・ペトロナスはここ10年近くF1の覇者だ。このチームは2020年まで7年連続でコンストラクターズ・ワールド・チャンピオンシップ(チームとしての成績)とドライバーズ・ワールド・チャンピオンシップ(ドライバーごとの成績)の両方でタイトルを獲得した。
予定されている大幅なレギュレーション変更に備え、メルセデスはリソースとエネルギーの大半を2022年シーズンに集中させることを決め、ライバルであるレッドブル・レーシング・ホンダがタイトル争いに加わる余地が生まれた。そして実際にそうなった。
レッドブルのファーストドライバーでF1界の悪ガキとも呼ばれるMax Verstappen(マックス・フェルスタッペン)と、ドライバーズチャンピオンのタイトルを7回獲得し多くの記録を保持するメルセデスのSir Lewis Hamilton(サー・ルイス・ハミルトン)はシーズンを通して互角に戦い、多くのレースで1位と2位を分け合った。
最後の4レースを残してハミルトンはドライバーズポイントで遅れをとっていたが、まずはそのうちの3レースで勝った。2021年ドライバーズタイトルの行方は最終戦のアブダビに持ち越された。F1でここまでもつれるシーズンはまれで、ことにメルセデスが絶対王者となってからはそうだった。
最終戦のほとんどの時間帯でハミルトンが先行するが、レッドブルでフェルスタッペンのチームメイトであるCheco Perez(セルジオ・ペレス、愛称が「チェコ」)がハミルトンの頭を押さえ、フェルスタッペンがオーバーテイクするチャンスを作る。セーフティカーが2回入り(1回はバーチャル、もう1回はリアル)、フェルスタッペンはフレッシュタイヤに交換、一方のハミルトンとメルセデスはトップを維持するために古いタイヤのままコースにとどまる選択をした。
(セーフティカーはコース上の障害物などのアクシデントが解決するまでの間に導入される。セーフティカーが入っている間、ドライバーはスピードを落とさなくてはならず、オーバーテイクは禁止されている)
ここで驚きの展開となった。
2回目のセーフティカーはクラッシュによるものだった。規則では、セーフティカーが入っている間に周回遅れの車はセーフティカーを追い越し、実際の順位の通りに並ぶことになっている(周回遅れやタイヤ交換のピットインのために順番が入り乱れることはよくある)。さらに規則では、周回遅れの車がすべて正しい順位に並んでからセーフティカーは次の周回の終了時点まで走り、レース再開となる。
FIAレースディレクターのMichael Masi(マイケル・マシ)はこのルールを無視し、トップのハミルトンと2位のフェルスタッペンの間にいる車にだけアンラップを指示した。さらに、1周早くセーフティカーを退かせた。
つまり、レースはセーフティカー先導のまま終わるべきだった。その終わり方は興ざめではあるが規則通りだ。しかし、そうはならなかった。
フレッシュタイヤを履いたフェルスタッペンは最終ラップでやすやすとハミルトンを抜き去ってこのレースに勝ち、そしてドライバーズタイトルを獲得した。
Netflixから入った新しいファンをとどめておくために運営が演出したのだと感じるF1ファンがたくさんいても不思議ではない。さらにいうと、ハミルトンとフェルスタッペンを拮抗させるためであるかのように思われる「疑問のある」判断は2021シーズンでこれが初めてではなかった。
何であれスポーツの公平性への干渉をうかがわせることがあれば、古くからのファンが動揺するのはもっともだ。
レッドブル・レーシングのChristian Horner(クリスチャン・ホーナー)代表(ちなみに妻はスパイス・ガールズのジンジャー・スパイス)といった人々は、せいぜいが見当違い、ひどい場合には女性に対して嫌悪感を持ちつつも、Netflix効果を享受しているようだ。
前述したように私は「栄光のグランプリ」がきっかけとなったまさに新しいF1ファンなので、確かに見方は偏っている。しかし私はF1が魅力的で複雑でアドレナリンが出るスポーツであることを知った。そういうふうにオーディエンスを魅了するものは、おそらく良いものだと思う。
私はストーリーをおもしろくするためにルールを調整したり曲げたりするのが正しいと考えているのか。断じてそれはない。私はそんなことが確かに起きたと言っているのか。それについてはまったく手がかりを持っていない。
私はただ、3月11日に始まる「栄光のグランプリ」最新シーズンを大量に摂取し、そのエネルギーを2022年のF1にそのまま注ぎ込むつもりだ。ご一緒にいかがですか?
画像クレジット:Netflix
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(文:Jordan Crook、翻訳:Kaori Koyama)