メッセージが送られてくると、そのすべてに応答していた。しかしそうした振る舞いも過去のものとなるのかもしれない。Messengerの受信通知があっても、それが友だちからなのか、ボットからなのかわからない時代になろうとしているからだ。チャイムがなっても、鳴らした相手が友だちなのかそれともボットからの新しい通知が来ただけなのか悩まなければいけなくなる。受信通知がまるで、ある種のチューリングテストのようにすら思えてしまう。
思い起こしてみると、これは「いつか来た道」なのではなかろうか。私たちが「電子メール」に注意を払わなくなったきっかけもこうしたことだったと思うのだ。初期は電子メールといえば仲間たちと重大な研究成果などのやり取りをするために使われていた。それがいつの間にかメールマガジン、レシート、あるいは数千ないし数百万人を対象に送られるにも関わらず、特定の個人に送られているかのように偽装する商用メールが多くなってしまったのだった。
Messenger上での会話はどうなっていくのだろう?
Messenger上にはボットによる「デイリー・ダイジェスト」が増えていく。
Facebookが、今になるまでボットの活用を待っていたのには理由があるように思う。ほんの1年前まで、Messengerを使う人は現在の半分程度に過ぎず、コミュニケーションツールとしての地位を獲得していなかったのだ。メッセージのやりとりにはさまざまなアプリケーションが用いられていて、その中でも一般的だったのはSMSだった。
いまやMessengerは10億人に利用されるプラットフォームとなり、新しいことに取り組む余裕も出てきたというわけだ。欧米におけるナンバーワンのモバイルメッセージングツールとなり、WhatsAppも中国などを除く世界中で広い人気を集めている。
Facebookは自社プラットフォームが世界中に広まったのを見て、人がメッセージのやり取りをしなくても金を稼ぎだす仕組みはないかと考え始めたのだ。Messangerのトップを務めるDavid Marcusは1ヶ月前、Messengerは「あらゆるコミュニケーションのハブとなり、さまざまなサービスやビジネスが提供される場所として発展していく可能性があるのです。そしてますます人を集めるプラットフォームとして拡大していくこととなるでしょう」と語っていた。
Facebookのプラン通りに進むこととなれば、カスタマーサービスや電子商取引に関わるさまざまなやり取りをMessenger上でやりとりするようになり、またニュースやマーケティングなどにも活用されるようになり、友人同士を結ぶプラットフォームという役割を超えていくことになるだろう。電話、メール、RSSフィーダー、さらにウェブの機能を統合したようなサービスを展開することになるかもしれない。
それらの機能は、実はMessenger上でこそ使い勝手が良いものになる可能性もある。
たとえば多くのカスタマーサービスなどでは、プッシュフォンのダイヤルによるメニュー選択を行わせている。メニューを選択できるようになるまでの待ち時間を含めて、これを不便と感じない人はいないだろう。Messengerを使えば、航空会社や商店とコンタクトするのがずっと容易になることだろう。さらに一定の業務については非同期(相手側は人間が対処する必要もない)で行えるようにもなる。また、レシートも複数のメールに小分けにして送られるのではなく、Messenger内のひとつのスレッドにまとめられることになって便利だ。AIと連動するようになり、使い勝手が向上すれば、今の時代からは想像もできない効率的なインタフェースが生まれてくることも必然とすら言えるかもしれない。
ただし危険な側面も。
しかしリスクも高いように思う。たとえば、ちょっとした空き時間にメールをチェックすると、目に入るのはスパムばかりということもある。Messenger上にスパムが進出してくれば、スパムがまるで友だちのようなふりをしてメッセージ受信通知を鳴らすことになるのだ。SMSマーケティングの対象となってしまった経験を持つ人は、そのうるささをご理解いただけることだろう。これまでのスパムメールのように「流す」だけでなく、直接に「コンタクト」してくる感じになるのだ。自分の時間を引っ掻き回されるリスクは十分に高いと言えよう。
Facebookのゲームスパムがニュースフィードを台無しにしたこともあった。[Image via Thoughtpick]
「いいね」をして、サービスやブランドなどと積極的に繋がる人もいる。しかしそれはあくまでもフィード上での交流だ。いきなり直接のメッセージが送られてくることもなかったし、また表示されるメッセージに何のアクションもしなければ、ランキングアルゴリズムのおかげでいつの間にかフィードに流れないようにもなったものだった。
しかし2010年を思い出してほしい。スパムがニュースフィードをめちゃくちゃにしてしまうと問題視されたことがあった。Zyngaなどが積極的にソーシャルゲームとしての機能を充実させ、そのために友だちのフィードを汚してしまうことに繋がったのだった。マーク・ザッカーバーグも、Facebook上でのエクスペリエンスを汚染しているもののひとつがゲームであると認めていた。そしてFacebookはFarmVilleなどに関わる投稿を激減させることにしたのだった。
こうした動きにより、ある意味で利用者の「世界」が狭まってしまうこととなった。ひとびとはゲームをしたり、その結果をFacebookに投稿することにためらいを感じるようになった。開発者側にとっても問題は重大で、これまで利用していたプラットフォームがりようできなくなった。ソーシャルゲームに注力していたZyngaなどは利用者数を大いに減らし、企業価値をも大きく低減させることとなってしまった。
Facebookはチャットボットを導入することで、Messenger上でも同種の失敗を繰り返そうとしているのではないだろうか。チャットボットといったん繋がりができてしまえば、利用者は毎日アラートをならされることになるのではないだろうか。
最初に登場してきたチャットボットたちが大失敗であったことも、Messengerサービス上へのボットの投入を妨げるものとはならないだろう。たとえばCNNのチャットボットは「U.S.」のニュースを教えてくれと言われると、見出しに「U.S.」の文字が含まれているものだけを通知した。Springのコマースロボットは、初期の価格設定よりも高いものを売りつけようと執拗だった。そしてPonchoだ。天気予報ネコのPonchoは、天気についてのごく簡単な質問すら理解してはくれなかった。
天気予報ネコのPonchoに苛ついた人は大いにちながいない。
さらにFacebookはMessenger上でスポンサード・メッセージの実験も行なっている。Messengerで繋がったことがある利用者に対して、通知を送ることができる仕組みだ。Facebookはいまや1四半期に15億ドルもの利益をあげている。しかしそれだけに飽きたらず、Messengerを使った商機拡大を狙いつつ、実は大きなリスクを抱え込もうとしているようにも思える。
Facebookの動きは、Messenger上に膨大なノイズを流すことになりはしないか。ロボット発のノイズが増えることで、利用者が他のアプリケーションに乗り換えてしまったり、あるいは友だちからメッセージがきても放置してしまうようになることはあり得ることだと思う。
Facebookに対策はあるのだろうか?
こうした点について、F8の際にMarcusにも尋ねてみた。「防御のための究極の仕組みがあります。すなわちメンバーに送るメッセージの数や内容について制限することができるのです。メールの場合にはそうしたコントロールは不可能でしたから、Messengerがメールのようになるというのは言い過ぎではないかと思います」とのことだった。
もちろんそうだ。Facebookはスパマーの利用を停止させてしまうことができる。また利用者も特定の相手を簡単にブロックすることができる。しかしそうは言いつつも、Facebookは現在チャットボットをなんとか導入したいと積極的になっているところだ。たとえばビデオゲームのCall Of Dutyのボットなどにも注目を集めようとしている。チャットの世界で支配的な地位を築くためには、こうしたチャットボットの普及発展が欠かせないのだ。
ビデオゲーム「Call Of Duty」に登場するキャラクターのMessenger用ボット
「私たちの方も十分に気を配っていることはご理解いただけると思います。メッセージが送られるたびに通知されることはありません。ただしスレッドは更新され、メッセージを送ったボットがリストの上位に表示されるようにはなります」。Facebookには、スパムやエンゲージメントレベルについて、ぜひとも注意深く解析するようにして欲しいものだ。スパムの可能性があればボットの動作を制限して欲しい。
あるいはこちらからコンタクトをとったボットであっても、定期的に送られてくるメッセージにこちらが数日にわたって反応していないことを検知すれば、ぜひとも通知をオフにして欲しいと思う。あるいはボットの動作を制限した方が良いケースもあるかもしれない。Facebook上でのフィードの内容は、こちらのアクションにより変化するようになっている。Messengerでもそうあるべきだと思うのだ。利用者の様子を詳細に分析できチャットボットを、開発者やブランドに提供するようにして欲しいと思う。そうなれば、サービスにボットを活用しようとする側で、より適切な運用スタイルを構築することができるようになるだろう。
Messengerにチャットボットが導入するにあたっては、十分に慎重でなければサービス自体の価値を低めてしまう可能性もある。
たとえば、ボットから送られたメッセージだからとMessengerのスレッドを放置するようになり、さらに通知もそのまま放置しておくようになるかもしれない。その次には「人」からなのか「ボット」からなのかの区別も面倒になり、そもそもMessengerを開かなくなるようなこともあり得る。そうなってしまえば時代はSMSに逆行してしまうというようなこともあろう。Messenger風の最新機能はないが、それだけにスパムに埋もれてしまうこともないという安心感が魅力になるわけだ。
Facebookがこの問題をつぼみのうちに解決しなければ、利用者の関心を失わないためにボットの利用そのものをあきらめざるを得ないようなことになる可能性もあるだろう。
Marcusは「日常生活に訪れる通知などのインタラプションは、すべて重要なものごとに関わるものである必要があると考えています。Facebook利用者する人のすべてにその原則を間違いなく提供するというのは難しいことではあります。しかし手段がないわけではないと思うのです。それが可能であってこそ、チャットボットを含むトータルなサービスが提供できるようになるのだと考えています」。
Facebookの「コミュニケーション戦略」が成功するのかどうか、ここにかかっていると言っても良さそうだ。
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(翻訳:Maeda, H)