EUは米国時間12月17日、Google(グーグル)がウェアラブルメーカー、Fitbit(フィットビット)を21億ドル(約2173億7000万円)で買収するプランを承認した。数カ月間にわたる規制上の審査(未訳記事)続いて、膨大な量のユーザー健康データをグーグルがむさぼり食うことに関する競争上の懸念を縮小させることを意図した、いくつかの条件を適用する。
グーグルがFitbitを買収するプランを発表したのは1年以上前のことだが、欧州委員会に取引を通知したのは2020年6月15日になってからだった。これはEUから、暫定的にゴーサインが出るまで半年かかったことを意味する。同社はまた現在、本拠地である米国で複数の角度(未訳記事)から、公的な独占禁止法違反容疑に直面している(これらはFitbitには関連していない)。
「Gitbit」誕生にあたりEUの承認を得る条件の下、グーグルは10年間、欧州経済地域内ユーザーのFitbitデータを広告ターゲティング目的のために使用しないことを約束した。
同社は、Fitbitウェアラブルを介して収集された健康データは、グーグルの他のデータから技術的に分離し、別のデータサイロに維持すると述べている。
また、EU地域のユーザーが、GoogleアカウントまたはFitbitアカウントに保存された健康データの使用をグーグルが提供する他のサービスに許可するか否か「実行選択肢(effective choice)」を持っていることを保証する、と同社は約束している。その中にはGoogle検索、Googleマップ、Googleアシスタント、YouTubeなどが含まれる。しかしそれが実施されるにあたり、どれだけ腹黒いパターン設計が適用されるのか、興味深いところだ。
興味深いことに、EUはそのような延長を正当化できる場合、10年の広告誓約をさらに10年、期間延長を決定するかもしれないとしている。
さらに同委員会は、取引が完了する前に任命されなければならない監視トラスティによって、措置の実施状況が監視されることが承認の条件であることにも言及している。
このまだ任命されていない人物は、「グーグルの記録、人材、施設、技術情報」へのアクセスを含む、欧州委員会が「広範な権限」と見なしているものを持つことになる。
EU規制当局は、このビッグテック合併の強圧に対し、「信用するが検証はする」という姿勢で臨んでいるといえるだろう。
さらに、競合に焦点を当てた誓約もある。
グーグルは、サードパーティ開発者がWeb APIを介してFitbitユーザーのデータに無料でアクセスできる機能を維持することに合意した(もちろん、ユーザーの同意を条件としている)。
また同社は、ウェアラブルメーカー競合相手のAndroid APIへのアクセスに関する誓約の数々にも合意している。スマートフォンの中で支配的なOSであるAndroidに競合するデバイスが接続する必要がある場合、すべてのコア機能において無料ライセンスを継続するという。
委員会によると、この合意は、デバイスの機能性改善を配慮したものだ。競合ウェアラブルメーカーがより良い、より有能なデバイスを開発する際、それらがAndroidエコシステムからシャットアウトされるリスクなしに技術革新を行えるようにすることを意図している。
また、グーグルは、Androidオープンソースプロジェクト(AOSP)版のモバイルプラットフォームのAPIサポートを維持しなければならない。
ここ半年間の審査と交渉の間に、欧州委員会がグーグルから引き出したもう1つの譲歩は、ユーザーエクスペリエンスの低下(警告やエラーメッセージの表示など)によって、APIを介してAndroidにアクセスするライバルのキットをサポートするための要求を回避しようとしないということだ。
率直にいって、規制当局が認可のためにそのような警告を送らなければならないとすれば、かなりの機能不全と見てとれる。そしてそれは、グーグルのビジネスがどのように運営されているかについて、蓄積された不信感のレベルを明らかにしている。
そしてこれは、グーグル・Fitbitに屈服し、合併が先に進むことを許したEU規制当局の存在に関する疑問を引き起こす。案の定、欧州委員会のPRは多少守りに入っているように聞こえる。EUの議員は、決定が「最近提案されたデジタル市場法(Digital Markets Act、DMA)を通じて、デジタル分野における公正で競争力のある市場を確保するための欧州委員会の努力を損なうものではない」としている。
また、前述の監視トラスティは同委員会に提供する報告書を、グーグルのデータ保護監督機関であるIrish Data Protection Commission(IDPC、アイルランドデータ保護委員会)と共有する権利があることにも言及している(とはいえ、グーグルの事業の他の要素に関する多数の調査を含む、膨大なビッグテック関連の案件が委員会のデスクに山積みになっていることを考えれば、グーグル側が眠れない夜を過ごす原因にはならないだろう)。
欧州委員会はまた、グーグルとの誓約には「サードパーティが行使できる迅速な紛争解決メカニズム」が含まれているとも述べている。つまり、グーグルがすでに大幅に支配している消費者向けデジタルサービス分野でのさらなる統合を正当化するために、明らかに余計なことをしようとしているのだ。しかも、米国の議員らが正反対の方向に向かっている時に、である。
ヨーロッパの市民社会(とそれ以上)は発表以来、グーグルのFitbit買収について激しく抗議の声を上げていた(未訳記事)。人権の保護を保証できない限り(未訳記事)、ビッグテックがFitbitの所有する健康データをむさぼるのを止めるよう、規制当局に働きかけてきたのだ。
12月17日、委員会はこれらのより広範な権利に関する懸念を回避した。
ひいき目に見て10年後、長くても20年後に議論を先送りしただけだろう。そして2030年(または2040年)までには、グーグルのようなデジタルゲートキーパーに制約を加えるために提案したばかりの規則が、将来の悪用を抑制できる立場にあること(未訳記事)を期待しているのだ。
よくいわれるEUの優先傾向は、巨大テクノロジー企業を規制することで、その帝国を分割することではないというが、さらなる帝国の拡大を邪魔するのも好みではないらしい。
欧州委員会の上級副委員長であるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は、次のように述べている。「合意した誓約により、ウェアラブルと新興のデジタルヘルス分野の市場がオープンで競争力のあるままであることを保証できるため、グーグルによるFitbitの買収案を承認できます。これらの誓約は、グーグルが収集したデータを広告目的でどのように使用できるか、競合するウェアラブルとAndroid間の相互運用性をどのように保護するか、そしてユーザーが選択した場合には、健康データを共有し続けることができるかを定めています。」
先に(未訳記事)欧州議会の委員会で質問を受けたベステアー氏は、Gitbitの承認が間近に迫っていることを示唆し、市場を支配するテック企業に対処するためのアプローチが米国と欧州では異なると述べた。「ヨーロッパでは独占を禁止していません」とベステアー氏は欧州議員たちに語った。「米国では法的根拠が違います。我々の場合、成功することは大歓迎だが、成功には責任がともなう、という見方です。そのために、連合条約の第102条があるのです」(条約第102条は、市場で支配的な地位を占める事業者がその地位を悪用することを防ぐことが目的)。
欧州委員会が、デジタル市場における競争法施行を強化するための新しい規制を提案する必要性を感じているのもこのためだ。しかし、DMAが施行されるまでには何年もかかるだろう。
そして、その間にEU規制当局は、グーグルがFitbitの宝庫から人々の健康データをわしづかみにし、個人情報の支配を拡大するのを許すことになる。後でやってくる完全な搾取のために。
いずれにしても、ハーバード大学のShoshana Zuboff(ショシャナ・ズボフ)教授が先に警告した(未訳記事)ように、監視資本主義のビジネスの野望は今や単なるターゲット広告をはるかに超えた規模になっている。目標は「確実性に近づくにつれてより儲かる予測のために」データを使用することだ、と彼女は警鐘を鳴らす。社会は、巨大テック企業の「認識論的クーデター」に歯止めをかけるために、公共の利益のために介入しなければならない、とも。
健康データから生成された正確な予測が、グーグルにとって非常に有益になる可能性があるのは確かだ(同社は近年、健康部門への投資を拡大している)。
それが最終的に人類にとって、善になるか悪になるかは今のところわからない。しかし、規制当局が簡単にサイコロを振って良い類のギャンブルではない。欧州委員会は競争法施行のために便利なバイパスをビッグテックに与えている一方で、道端をいじくり回しているだけだという向きも多い。
この戦いに参加してくれたすべての人に感謝しています。正当で誠実な戦いだと思いました。
個人的には大きな敗北です。大局的な見地から言えば、世界的に禁止されたビッグテックの合併は今のところ0(ゼロ)のままです(合併の総数は1000、増え続けています)。
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画像クレジット:Fitbit
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(翻訳:Nakazato)