HomePod Miniが数年前に登場していたらスマートスピーカーマーケットはかなり違うものになっていたかもしれない、という気がしてならない。見たところこのデバイスはさほど革新的ではないが、Apple(アップル)が約3年前のオリジナルモデルの立ち上げ時とかなり異なるアプローチをとっていることを否定するのは不可能だ。
アップルは、ハードウェアのコストに敏感な企業ではない。「アップル税」というような言葉は何もないところから湧き出しはしない。しかしここ数年で同社は、クリエイティブ系のプロという同社が従来得意としてきた顧客以外のユーザーにアピールしようと、そのアプローチを軟化させてきた。iPhoneやApple Watchでは、エントリーレベルのユーザーに積極的にアピールしてきた。そしてスマートスピーカーでもその路線を踏襲したまでのことだ。
Echo DotとGoogle / Nest Home miniが、それらを展開している各社にとってよく売れているスマートスピーカーであるという事実を踏まえ、HomePod Miniの発売はほとんど不可避のものだった。そしていま、アップルは世界のスマートスピーカーマーケットの一角を取り込もうとしている。現在はAmazon(アマゾン)とGoogle(グーグル)がそれぞれ40%のシェアを持っている。HomePodにとっては苦戦となるが、Miniはこれまでで最も強いプッシュとなる製品だ。
2018年初めに(遅れて)発売されたHomePodは多機能だった。しかし安いという人は皆無だ。349ドル(約3万6500円)という価格はアマゾンとグーグルの最も高いモデルよりも数百ドル高かった(日本では現在、税別3万2800円)。HomePodはプレミアムデバイスで、まさしくそれが売りだった。音楽は常にアップルの哲学の基礎であり、そしてHomePodはそれを表現する、同社の手抜きなしの製品だった。
画像クレジット:Brian Heater
Matthew(マシュー)は David Foster Wallacesqueの「4行」レビューに「アップルのHomePodは明らかにこれまでで最高のサウンドのスマートスピーカーだ。このクラスのどのスピーカーより、セパレーションやベースのレスポンスが改善され、7年間におよぶアップルの努力に報いるニュアンスと繊細さを備えている」と書いた。
マシューは限定的なSiriの機能を嘆く一方で、「驚くほど多機能で、徹底して感動的だ」とした。概して、HomePodはそうあるべきという点で素晴らしいものに仕上がった。しかし世界で最も売れているスマートスピーカーになる、ということは決してなかった。この価格では無理だ。その代わり、単にスマートアシスタントを利用できるようにするデバイスではなく、全体としてスマートスピーカーはどうあるべきかを業界に示すことになった。したがって、アマゾンとグーグルの直近のプロダクトにおける最大の関心事はサウンドだ。
主にアマゾンとグーグルはよりサウンドにフォーカスするようになり、アップルは価格を気にするようになった。しかし企業がどこかで妥協したといっているのではない。単純に「Apple Echo Dot」という話でもない。HomePod Miniはそれでも多くの点でユニークなアップル製品だ。その価格にしては比較的プレミアムな体験を提供するのにフォーカスしている。
99ドル(日本では税別1万800円)という価格もポイントだ。どちらかというと懐に優しいタイプより、スタンダードのAmazon EchoとGoogle Nestと競合する。Amazon EchoとGoogle Nestはおおよそ半分の値段で、いずれも頻繁に、そしてかなり割引される。実際、それらデバイスのカテゴリーはリーダー不在に近い状態となりそうだ。スマートスピーカーは、スマートアシスタントをユーザーの家庭に送り込むすごく安い方法だ。アップルはそうしたアプローチにさほど関心はないようだ。少なくとも当面はそうだ。アップルはいいスピーカーを売りたいのだ。
HomePod Miniは驚くほどいいスピーカーだ。価格においてだけではなく、サイズ的にもそうなのだ。Miniは新しいEcho Dotとほぼ同じ大きさで、おおよそソフトボール大だ。ただし、この2つのスピーカーのデザインにはいくつかの鍵となる違いがある。まず最初に、アマゾンは完全円球デザインを邪魔しないように、Echoのステータスリングをデバイスの底に移した。一方、アップルは単純にトップ部分を切り落とした。このデザインが何を連想させるか考え、浮かんだのがネットを被せられたリンゴだ。
画像クレジット:Brian Heater
このMiniのデザインは、オリジナルHomePodの流れを汲んでいる。Siriが起動しているときは上部のライトがオーロラの光を放つ。また、タッチ操作できる音量ボタンがあり、表面をタップして音楽の再生・一時停止操作もできる。グーグルやアマゾンのここ数世代のプロダクトで主流だったファブリックスタイルの表面ではなく、MiniはフルサイズのHomePodと同様、オーディオ伝導性のあるメッシュ状の素材で覆われている。
他のスマートスピーカーと異なり、Miniのカラーは白とグレーで、目立たせるというより調和する感じだ。もちろんHomePodよりずいぶん小さいことで、用途をかなり広げている。筆者はアップルが送ってきた2つのMiniの1つを自宅の机に置いて使ってきたが、理想的なサイズだ。硬いプラスティックでできている底にはアップルのロゴが入っている。
Miniには取り外し不可の長いファブリックケーブルがついている。ユーザーがコードを取り外すことができ、必要に応じて交換できればよかったのだが。しかしケーブルの端子はUSB-Cで、かなり便利だ。また20W電源アダプターも付いてくる。AUX端子が搭載されていないのは残念だが、驚くことではない。スタンダードのHomePodにもない。
画像クレジット:Brian Heater
アマゾンは新しいEchoを前向きスピーカーに変更した一方で、アップルは360度サウンドを継続している。どちらを好むかはスピーカーをどこに置くかにもよるが、このモデルはより万能型だ。特に1日中、スピーカーの前に座っているわけではない場合はそうだろう。筆者はこれまでさまざまなスマートスピーカーを使ってきたが、アップルが3.3インチのデバイスで可能にしたサウンドに本当に感激している。
このサイズにしては完全でクリア、そして驚くほどパワフルだ。もちろんステレオペアを作れば、その性能は倍になる。箱から出して、ペアリングするのは簡単だ。2台のデバイスを家の中の同じ部屋でセットアップすると、ペアリングしたいか聞いてくる。その後は、どちらが右チャンネル、あるいは左チャンネルを担当するのかを決める。もし音楽を広範に流したいのなら、それぞれのスピーカーを異なる部屋に配置することでマルチルームオーディオになる。そしてあなたは「Hey SIri、キッチンで音楽を流して」「Hey SIri、あらゆるところで音楽を」などというだけでいい。想像できただろうか。
実際、iPhoneを使ってのセットアップ作業はかなりシンプルだ。AirPodsのペアリングとよく似ている。スピーカーの近くにスマホを置くと、セットアップ作業の間、お馴染みの白いポップアップが部屋の選択や音声認識をオンにするなどの操作を案内する。
Miniは結構大きな音を出す。しかしクリアサウンドと本当に大きな音量を求めているなら、オリジナルのHomePodのような大型の(そして値段の高い)ものを検討することを強くすお勧めする。ただ、クイーンズにある筆者のワンベッドルームの家のリビングにはMiniはバッチリで、部屋のどの角度からも素晴らしい音が聴ける。
スマートアシスタントに関しては、Siriはベーシックなタスクをこなす。アップル独自のエコシステムを使えるようにするいくつかの仕掛けもある。例えばSiriに画像をiPhoneに送るよう頼むと、SiriはBingの結果を使って対応する。ただし、実際のところ、スマートホームアシスタントに関してはアマゾンとグーグルがかなり先に進んでいて、アップルはまだ遅れをとっている。
画像クレジット:Brian Heater
しかしながら、最新の重要な進歩もいくつかある。特に Home / HomeKitに関してだ。直近のiOSアップデートではいくつかのスマートホーム更新があった。14.1ではHomePods用のインターコム機が加わり、14.2では同機能が他のデバイスでも使えるようになった。なので、「Hey SIri、みんなにインターコム。夕食の用意ができた」というと、その言葉がさまざまなデバイスに送られる。この機能はアマゾンとグーグルが提供しているものと似ているが、事前録音されたユーザーの声のスニペットをデバイスに送ることで幅広いアップル製品で使えるようになっている。
このシステムはHomeKit対応のデバイスで使える。AlexaとGoogleアシスタント対応のものに比べるとその数は少ないが、増えつつある。対応するスマートホームデバイスのリストはここでチェックできる。
画像クレジット:Brian Heater
音楽が大音量で流れていても音声認識の音声への反応はかなりいい。Siri以外にもデバイスとやりとりする方法はいくつかある。音楽を再生・一時停止するにはトップ部分を1回タップする。トラックを進めるにはダブルタップ、前のトラックに戻るにはトリプルタップだ。しばらくタッチすることでSiriを起動できる。他のスマートスピーカーと異なり、マイクをオフにする物理的ボタンはない。オフにするようSiriに頼むこともできない。デバイスは「Hey SIri」というトリガーだけを聞いていて、オーディオは保存されない。しかし、さらなる安心感を得るのにスピーカーオフの機能があればいい。
またAirPlay 2を使ってiPhoneから音楽を操作することもできる。これは筆者の好きな方法だ。というのも、筆者は音楽のことになるとややうるさい。音楽操作のためにはAirPlayボタンを押す必要がある。それか、U1チップ(iPhone11以降)を使っているハンドオフ機能を最大限活かすために単にHomePod Miniの近くでiOSデバイスを持つこともできる。これはすてきな小技だ。
しかし、Apple MusicよりもSpotifyに慣れている人間として筆者が少しつまずいたのは、HomePodに音楽を流すように命令すると、1つのストリームとしてすべてのApple Musicリスニングセッションを扱うのではなく、最後に声で再生をリクエストしたものを選ぶようになっていることだ。筆者はこの点では、Spotifyの統一されたクロスデバイスアプローチを好む。
画像クレジット:Brian Heater
とはいえ、iOS 14.2の追加でユーザーの集められたリスリング履歴(アップルのポッドキャストと音楽)を、HomeアプリにあるHomePodを長押ししてアクセスできる1つのストリームに持ってこれる。すると、アルバムやポッドキャストを自動的にスマートスピーカーに送るためにタップできるようになる。
結局、筆者はこの小さなスマートスピーカーとの時間をかなり楽しんだ。前述したように、もしアップルが最初のHomePodとともにMiniを立ち上げていたらどうなっていただろうと考えずにはいられない。アップルがマーケットシェアを独占するには至っていなかっただろうが、Miniはアマゾンとグーグルのリード分を取り込んでいたかもしれない。アップルは、おそらく正しい製品にするために、時間をかけた。それはもちろん理解できることだ。同社はこれまで、急いで商品化に走るタイプの企業では決してなかった。だからこそHomePod Miniは素晴らしいものになっている。
関連記事:2021年のスマートスピーカー市場は21%成長の予想、安価なHomePod miniがアップルの市場拡大に貢献か
画像クレジット:Brian Heater
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)