HRBrain創業者で代表取締役社長の堀浩輝氏
人事評価クラウドサービス「HRBrain」を提供する株式会社HRBrainは10月9日、三谷産業、サイバーエージェント(藤田ファンド)、みずほキャピタル、JA三井リースを引受先とした第三者割当増資により、シリーズBラウンドで約4億円を調達したことを明らかにした。
2017年1月リリースの同サービスは現在約550社に導入されるまでに拡大。今回の調達によりプロダクトの機能拡充と組織体制の強化を行い、さらなる事業成長を目指す計画だ。
なおHRBrainは2016年3月の創業で、TechCrunch Tokyo 2017のスタートアップバトルにも登壇した経験を持つスタートアップ。2017年12月のシリーズAラウンドではジェネシア・ベンチャーズ、BEENEXT、KSK Angel Fund、みずほキャピタルなどから2億円を調達しており、累計の調達額は約6億円となる。
人事評価をクラウド化「従来よりもシンプルでカンタンに」
HRBrainは従来エクセルやスプレッドシートなどで行われていたような「人事評価」をクラウド化し、より効果的かつ効率的に管理できるようにするサービスだ。
詳しくは後述するが「豊富なテンプレート」「面談/目標シートへのアクセス性の高さ」「集計作業の自動化」といった機能や仕組みが大きな特徴。これらに加えて約10名ほどのカスタマーサクセスチームによる顧客サポートを武器に事業を拡大してきた。
HRBrainのウリの1つは定番のMBOやOKRを始め、1on1やWill Can Mustなど幅広い目標管理フレークワークをテンプレートに落とし込んで提供していること。社内で目標管理制度が整備されていなくても、他社で成果に繋がっているテンプレートを活用すればすぐにスタートすることが可能だ。
OKRのフォーマット。各目標管理手法ごとにフォーマットが用意されているので、初めてのものでもすぐに使い始めることができる
当初は創業者である堀浩輝氏が前職のサイバーエージェント時代にやっていた手法をクラウド化するような形で始まったサービスだが、ローンチ以降対応できるフォーマットを着々と増やしてきたそう。近年IT企業だけでなく病院や出版社、飲食店、ガソリンスタンド、結婚式場など多様な業界で導入されるようになったのも「世の中の大抵のフォーマットに対応できるようになった」のが大きいという。
このようなフォーマットに沿って目標を設定した後は定期的に振り返りをすることになるが、「目標シートに紐付けて1on1のログを残せる仕組み」は導入企業の約7割が使う人気機能になっている。
メンバーと上司の間で毎回の面談の記録を残していき、いつでも簡単に検索してアクセスできる設計。これを基に期末の人事評価が行われれば、従来はブラックボックスになりがちだった各メンバーへの評価やフィードバックが透明化されることにも繋がるため、納得度もあがる。
これをエクセルやスプレッドシートなどで行うと閲覧権限の管理なども含めて手間がかかるが、HRBrainの場合は権限の付与などもスムーズなため導入企業からは評判が良いそうだ。
エクセルやスプレッドシートだと工数がかかってしまうのは集計作業も同様。こちらについては完全に自動化することですぐに社員全体の評価を可視化できるのはもちろん、人事担当者が創造的な仕事により多くの時間を使えるようにもなる。
このような一連の仕組みをSaaSとして月額3万9800円からまるっと提供するというのがHRBrainのビジネスモデルだ(従業員数に応じた従量課金制)。
導入企業は550社超え、ホリゾンタルSaaSとして拡大
前回のシリーズAから約2年。核となる機能は大きく変わらないものの、細かいアップデートに加えてカスタマーサクセス体制を強化することで着実に基盤を固めてきた。今年に入ってからはフルリニューアルも実施。カスタマイズ性やテンプレートを拡張するとともに、エンタープライズ向けとしてセキュリティやログイン管理機能の強化にも取り組んだ。
結果として幅広い業界に使われるホリゾンタルSaaSとして拡大し、導入企業数はすでに550社を突破している。
「日本中の企業で目標の設定や評価は行われているが、多くの企業ではもっと効率化できる余地がある。プロダクトを磨き込む中でシンプルではあるが深いものが作れているという手応えはある」(堀氏)
堀氏の話では顧客のタイプは大きく2パターンに分かれるそう。1つはまだ「これといった目標管理制度が社内に根付いていない」企業で、優れた目標管理制度を導入するための最短コースとして、テンプレートなどの機能やシステムの使い勝手、サポート体制などを理由にHRBrainを導入するケースが多い。
そしてもう1パターンがすでに目標管理制度を自社で導入しているものの、煩雑なオペレーションに課題を感じて効率化したいという企業。特に従業員数が数百名〜数千名規模の会社が典型例だ。
「社内に目標管理制度がない企業の場合、そもそも目標設定の考え方からセットでサポートすることで自社に合った手法を設計するところから伴走する。一方ですでに何らかの管理制度がある企業の場合、規模が大きくなるほど既存のフローを変えたくないという力学が働く。業界ごとの特徴なども押さえた上で、いかにHRBrainでも同様の形を再現できるか、ここ1〜2年はそのシステムやサポート体制を作り込んできた」(堀氏)
目標管理サービスの領域にはHRBrainの他にも複数のプレイヤーが存在する。たとえば過去に紹介したカオナビやOKRに特化したResilyなども近しい使い方ができるサービスだ。
ただ堀氏いわく「最大の競合はエクセル」。特にそれまでエクセルを使っていたエンタープライズの顧客にHRBrainを使ってもらうのはなかなかハードルが高く「オンボーディングが非常に重要。勉強会をやったり、管理者向けのサポートをこまめにやったり。運用開始に至るまでのプロセスを丁寧に、地道に進めることが成果として現れてきている」という。
今後は人事データベースなどサービス拡張進める
HRBrainでは次の打ち手として人事データベースの準備を進めている
この2年間だけでもエクセルからの乗り換え事例は何社もあり、その手応えは掴めているそう。今回の資金調達は「プロダクトが売れる市場がわかってきたタイミングで、それを一気に加速させるためのもの」(堀氏)だ。
新たに投資家とした参画した3社のうち、サイバーエージェントはHRBrainのメイン顧客の1社。AbemaTVなどサイバーエージェントグループの事業部やグループ企業などで積極的に同サービスを活用しているヘビーユーザーだ。
三谷産業とJA三井リースについては一緒にプロダクトを広げていく構想があり、三谷産業は販売代理店としてHRBrainの拡大をサポート。JA三井リースもファイナンス機能の提供や全国に拡がる顧客網を活かした営業協力などを通じてHRBrainを後押しするという。
このバックアップ体制の下、より多くの顧客への導入を目指していくというのがHRBrainの今後の打ち手の1つ。そして既存プロダクトと並行して関連するHRTechツールの開発にも着手する。
最初のターゲットとなるのは「人事データベース」だ。従業員情報や組織情報をシンプルに一元管理できるだけでなく、従来のHRBrainに蓄積されたデータと連携することで「パフォーマンスデータを経営のヒントとして使える」ような仕組みを考えているようだ。
「(目標管理データと連動することで)自分たちだからこそ実現できるサービスを提供できると考えている。データベースについては特にエンタープライズ企業から以前から要望が多かったもの。これがあれば顧客の対象が増え、成約率が上がることもわかっているので、少しでも早くリリースしたい」(堀氏)
堀氏の話では今後予定している人事データベースを皮切りに、HRBrainシリーズのプロダクトを増やしていく計画とのこと。最終的には人事評価を軸とした「タレントマネジメントプラットフォーム」を見据えているという。