医療スタートアップLinc’wellが女性のウェルネスのためのクリニカルブランド「sai+」を発表、など

【1/20〜1/26 Weekly FemTech & BeatyTech】

1月20日から1月26日の1週間に発表された、FemTechやBeatyTechを中心とした領域における、特に注目すべきニュースをまとめて紹介する。

女性のウェルネスのためのブランドが誕生、サプリメントや低用量ピルをサブスクで提供へ

医療スタートアップLinc’well(リンクウェル)は1月22日、女性のウェルネスのためのクリニカルブランド「sai+」を発表した。同社は、ITを徹底活用したスマートクリニック、クリニックフォアをプロデュース。同社は自社開発のクリニック向けSaaSや患者、消費者向けオンラインプラットフォームなどの提供を通じて、クリニックにおける、「予約が取れない」、「長い待ち時間」、「現金のみ決済」、「薬局でも待ち時間」といった課題の解決を目指している。

この新ブランドsai+では、クリニックとの連携を活かし、サプリメントや低用量ピルなどの処方薬までを、自社ECサイトからサブスクリプションできるサービスを提供していく。処方薬に関しては、一度クリニックフォアグループでの受診が必要となる。Linc’wellは同日、クラウドファンディングサービス「Makuake」を通じて、第一弾の商品の先行予約販売の受付も開始している。

今後の展開について、Linc’wellは、生理周期に合わせたリズムスキンケア商品や、PMSと同じように、個人の差がありデリケートな問題である、妊娠期のウェルネスの問題へアプローチする製品ラインを開発中であることを明かしている。

Linc’wellは2018年1月に設立された。2019年5月に3.5億円の資金調達を実施を発表。2019年12月には男性向けのD2Cメディカルブランド「Sui+」を立ち上げ、頭皮ケアやエイジングケアなど、男性の幅広い悩みに対応する製品を揃えている。

【編集部】同社はTechCrunch Japanが2019年11月に開催したスタートアップや最新テクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2019」におけるピッチバトル「スタートアップバトル」のファイナリスト。ファイナルラウンドに進出し、freee賞 、トヨタコネクティッド賞、FUJITSU ACCELERATOR賞、Ballooon賞を受賞した。

花嫁プラットフォームの「ウェディングニュース」が2.8億円の資金調達を発表

花嫁プラットフォーム「ウェディングニュース」を運営するオリジナルライフは1月20日、2.8億円を調達したことを発表。同社の累積資金調達額は4.7億円となった。今後はプロダクト開発、マーケティングを強化していく。TechCrunch Japanによる取材記事はこちら

ウェディングニュースは、結婚式をあげた“卒花嫁”の熱量高い実例レポをメインコンテンツとした「花嫁プラットフォーム」。同サービスでは約5000人の先輩花嫁による結婚式の実例レポのほか、ネット上に公開されているクチコミ、情報コンテンツなどを集めてユーザーに提供。月間ユーザー数は80万人を超える。

地球環境に優しい“ラボグロウンダイヤモンド”を使用、D2Cジュエリーブランド「PRMAL」がローンチ

プライマルは1月22日、地球環境に優しい「ラボグロウンダイヤモンド」のみを採用したD2Cジュエリーブランド「PRMAL(プライマル)」を発表した。2月1日より公式WEBサイト上で販売開始される。

  1. sub3

  2. sub5

  3. sub4

  4. sub6

プライマルによると、ラボグロウンダイヤモンドは近年、天然ダイヤモンドと同一成分の新素材として注目を集めている。天然のダイヤモンドは、採掘する際の環境破壊や採掘労働者の労働環境が守られていないなどの課題が問題になっていたが、ラボグロウンダイヤモンドは環境、社会問題を生み出さず、エシカルかつサステイナブルに供給できることから、社会問題への意識が高いセレブなどを中心に支持されているという。

プライマルは「天然ダイヤモンドは、採掘時に大量の土を掘り起こす必要があり、良質な1グラムのダイヤを得るために1トン以上もの土砂を掘り起こすとも言われている」、「天然ダイヤによって生まれる利益が、紛争を支援する裏組織の資金源となっているケースがあり、問題視されている」、「採掘労働者の健康、労働環境の安全が守られていない、児童労働、公正な賃金が支払われないなど、採掘現場における労働者からの搾取が問題となっている」などと指摘している。

(文・橋本岬)

TechCrunch Tokyo 2019スタートアップバトルのファイナル進出6社が決定

11月14日、15日に開催されるスタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2019」。その中の目玉企画は、なんといってもスタートアップバトル。設立3年未満、正式ローンチが1年未満のプロダクト/サービスを持つスタートアップ企業が競うピッチコンテストだ。今年は過去最多となる約130社の応募があり、最終的に20社がファイナリストに決定。そして初日のファーストラウンドで6社が勝ち残った。

ファーストラウンド通過の順位はまだ明かせないが、実は審査員の総得点では、同得点で3位が3社、さらに同得点で6位が3社、そして2位から9位まで3点差というかなり熾烈な戦いだった。まず審査員の総得点でファイナル進出を決める5社は、1位、2位、3位3社の計5社で確定、残すは会場投票の1社。その会場投票でファイナル進出を勝ち取ったのは、同得点で6位に並んでいた3社の中の1社だった。結果的には、上位6社が選ばれたので順当な結果ともいえる。以下、ファイナルラウンド進出の6社を、ファイナルラウンドのピッチ順に紹介する。

チケット購入はこちらから

Linc’well

Linc’wellがプロデュースする診療所であるクリニックフォア田町では、オンライン予約システムやAIを取り入れた問診システムの活用、院内のオペレーションを効率化する電子カルテの導入などを通じて、患者の体験向上とクリニックの経営効率化を目指す。患者は、診断は公式サイトからスマホやPCを通じてオンラインで予約できる。具体的には、希望する診断内容を選択した後にカレンダーから空いている時間帯をチェックして希望の日時を選べばいい。診察時間は15分単位で事前にスケジューリングしているため、具合の悪い人がいる場合などに多少のズレはあったとしても、長時間待たされることはほとんどない。診察後の会計はキャッシュレスに対応している。

関連記事:元マッキンゼーの医師起業家が“次世代クリニック”で医療現場の変革へ、Linc’wellが3.5億円を調達

オーティファイ

AIを活用してソフトウェアテストを自動化するプラットフォームを開発。現在、開発サイクルを素早く回す「アジャイル開発」という手法が普及してきたが、その際に問題になるのがソフトウェアの検証作業だ。人手に頼ると時間が掛かりすぎ、早期リリースのボトルネックとなる。同社のサービスを利用すると、非エンジニアでも簡単にウェブアプリの検証作業を自動化できるほか、AIがアプリケーションコードの変更を監視し、検証シナリオの修正を自動で行うため、メンテナンスコストを大幅にカットできるとのこと。
関連記事:AIでソフトウェアテストを自動化する「Autify」が約2.6億円の資金調達、公式グローバルローンチへ

SE4

VRシミュレーターを使用し、通常では実現が難しい遠距離、もしくは通信遅延が発生するような環境での操作を可能にするロボット遠隔操作技術を開発。将来的には、AIとVRを組み合わせて地球外でのロボット主導産業の実現へ貢献することを目標とする。孫 泰蔵率いるMistletoe(ミスルトウ)から出資を受けている。

関連記事:AIでソフトウェアテストを自動化する「Autify」が約2.6億円の資金調達、公式グローバルローンチへ

RevComm

電話営業や顧客対応を可視化する音声解析AI搭載型クラウドIP電話サービス「MiiTel」(ミーテル)を提供。電話営業や電話での顧客対応の内容をAIがリアルタイムで解析することで、成約率を上げつつ、解約率と教育コストの低下を目指す。顧客管理システムとの連携も可能で、顧客名をクリックするだけで簡単に発信できるほか、着信時に顧客情報を自動表示するいった機能もある。電話での会話内容は顧客情報に紐付けてクラウド上に自動録音されるため、すぐにアクセスできる。一部を抜粋して共有することも可能だ。

関連記事:B Dash Camp 2019 SpringのPitch Arena優勝はAI搭載型クラウドIP電話サービスのRevcomm

KAICO

昆虫のカイコでバイオ医薬品・ワクチンをどこよりも早く大量生産する技術を擁する。現代は世界中の人・物の移動が頻繁に行われており、疫病などが世界中に蔓延するのも一瞬。未知の疫病が発生した時には、人々は感染恐怖にさらされる。そのときの人々が願うのは、治療薬でありまた予防のワクチン。同社の生産プラットフォームは、ほかの方法よりいち早くワクチンを大量に生産可能で、人々を感染の恐怖から救える。

Basset

仮想通貨交換業者や行政機関向けに、ブロックチェーン取引の分析・監視ソリューションを開発するスタートアップ。具体的には、暗号資産のマネーロンダリングを防止するためのデータ分析サービスで、ブロックチェーンデータを分析することで資金の流れを追うプロダクトだ。BTC(ビットコイン)やETH(イーサリアム)をはじめ、金融庁のホワイトリストで指定された暗号資産のリスク検知・評価とマネーロンダリング対策に対応していく予定だ。

関連記事:暗号資産取引のリスク検知でマネロン対策を支援するBassetが5000万円を調達

関連記事
TC Tokyo 2019スタートアップバトル・グループA出場5社を発表
TC Tokyo 2019スタートアップバトル・グループC出場5社を発表
TC Tokyo 2019スタートアップバトル・グループD出場5社を発表

チケット購入はこちらから

ICC KYOTO 2019スタートアップ・カタパルトの優勝は保険適用の夜間診察クリニックのファストドクター

優勝はファストドクター(YouTubeのLIVE中継をキャプチャ)

9月2日~5日かけて京都で開催されているICCサミット KYOTO 2019。9月3日にはスタートアップ企業のピッチイベント「スタートアップ・カタパルト」が開催された。

ICC(Industry Co-Creation)サミットは、B Dash CampIVS(Infinity Ventures Summit)などと同様に、ベンチャーキャピタルや投資家、大企業に向けての重要な露出の機会となるスタートアップの祭典だ。ICCサミットは毎年2回開催されており、2019年は2月18日~21日の福岡に続き、京都は2回目となる。

ICCサミット KYOTO 2019のスタートアップ・カタパルトの本戦出場を決めたスタートアップ企業は以下の15社だ。最終審査で、6位はシルタス、5位はLinc’well、4位はRevComm、2位は2社あり、データグリッドとガラパゴス、1位はファストドクターという順位となった。

RevComm

2017年7月設立。AI搭載型クラウドIP電話「MiiTel」(ミーテル)のサービスを提供する。5月に開始されたB Dash Camp 2019 Spring in Sapporoのピッチコンテスト「Pitch Arena」で優勝を勝ち取ったスタートアップだ。

関連記事:B Dash Camp 2019 SpringのPitch Arena優勝はAI搭載型クラウドIP電話サービスのRevcomm

With The World

2018年4月設立。モニター通信授業による少人数のディスカッションや交換留学によって、社会問題について世界の学生たちと解決策を提案・実施する機会を創り、次世代のリーダーを育成するサービスを提供する。

ファミワン

2015年6月設立。LINEを利用した妊活コンシェルジュサービス「ファミワン」を提供。チェックシートへ回答することで、必要なアドバイスを受けられるのが特徴。妊活の専門家に病院選びを相談することもできる(初回無料)。

関連記事:エムスリー出身のファミワン、無料診断と生活習慣のサポートで“妊活”を支援する「FLIPP」をローンチ

エナジード

2012年10月設立。中高生向けの学習教材「ENAGEED」を開発・提供。現在、同志社中学校や東京都立高島高等学校などの学校や学習塾で100校以上で実際に使われている。国内だけでなく、フィリピン・ガーナ・ボリビアでも展開。そのほか、企業向け人材育成ツール「ENAGEED for Biz」の開発も手がけている。

関連記事:決められた正解がなく思考プロセスを重視、中学・高校生向け補助教材のエナジードがWiLから4.4億円調達

オリジナルライフ

2015年4月設立。結婚準備の情報を集めたポータルサイト「WeddingNews」を運営。結婚式に向けたメイクやネイル、スタイリンのほか、ウェルカムボードや席札のデザイン、人気のウェディングケーキなど結婚式にまつわるさまざまな情報を集約。キャンペーンやクーポンなどのお得情報も掲載する。

関連記事:ウェディング情報アプリ運営のオリジナルライフが1.2億円調達、花嫁と共同で商品プロデュースも

Elaly

2018年5月設立。家具の月額レンタルサービス「AirRoom」を運営。約20ブランドが販売する500〜600品目の家具を月額定額で利用できるサービス。ユーザーはそれらの家具を月額500円から借りることができ、1カ月単位で自由に家具の入れ替えられる。高い料金のものでも月額5000円程度で家具を使うことができる。

関連記事:家具サブスクの「airRoom」が約1億円を資金調達しパーソナライズを強化、C2C展開も視野に

データグリッド

2017年7月設立。GANと呼ばれる技術を活用した「アイドル生成AI」「全身モデル自動生成AI」などを開発・運営。アイドル生成AIでは、実在のアイドルの顔画像を学習させることによって、架空のアイドルの顔画像を自動生成するサービスで注目された。全身モデル自動生成AIの場合は、実在しない人物の全身画像を自動生成可能なので、アパレルや広告などの業界で活用が期待される。

関連記事:自分やアイドルの顔と声から抽出した人工遺伝子で「自分だけのアイドル」を作るゲームがあるらしい

シルタス

2016年11月設立。スーパーのポイントカードを登録するだけで、購入した食材などの栄養素を解析してくれるサービス「SIRU+」(シルタス)を提供。をリリース。神戸市内のスーパーでの実証実験を経て、今年7月からはダイエーの都内2店舗でもサービスが試験導入されている。

関連記事:スーパーの買い物情報から不足栄養素をスマホが指摘、神戸市内のダイエーで実証実験

Linc’well

2018年4月設立。クリニック向けのSaaSを開発・運営。患者の体験向上、およびクリニックの経営管理効率化のためのサービスで、ウェブやLINEを使った診察予約、 事前のウェブ・iPad問診、決済などの機能を備える。電子カルテとの連携なども可能だ。患者・消費者向けオンラインプラットフォームや院内オペレーションを最適化するためのサービスも提供している。

関連記事:元マッキンゼーの医師起業家が次世代クリニックで医療現場の変革へ、Linc’wellが3.5億円を調達

YACYBER

2015年6月設立。近くの農園や直売所を探せるメディア「YACYBER」を運営。位置情報を利用して、現在位置から10km以内の野菜の直売所を見つけ出せる。同社は、食育やレシピなどの情報を集めたメディア「やさコレ」も立ち上げている。

Eco-Pork

2017年11月設立。モバイル養豚経営支援システム「Porker」を開発・販売。スマートフォンなどのモバイル端末を用いて農場現場で発生するさまざまなデータを現場で入力することで、繁殖や肥育の状況把握から経営分析までを可能にするシステム。2018年9月から提供を開始しており、2019年3月現在で全国20農家、母豚規模で3万5000頭ぶんの農場で稼働中とのこと。同社はTechCrunch Japanが2018年11月に開催した「TechCrunch Tokyo 2018」のピッチイベント「スタートアップバトル」のファイナリストだ。

関連記事:クラウド養豚システムのEco-Porkがユーグレナやリバネス、田中衡機工業所と提携

ファストドクター

2016年7月設立。夜間・休日に特化した救急往診を手配できるサービス「ファストドクター」を運営。保険適用可能で提携医療機関の医師がユーザーの自宅まで出向いて診察してくれる。対応エリアは東京23区。料金は、成人3割負担の場合で診察料が4950円~、往診にかかる交通費は実費(1000円程度)となる。往診可能時間は、月~金曜は19時~翌6時、土曜は18時~翌6時、日曜は朝6時~翌朝6時。

ギバーテイクオール

2017年2月設立。住宅・不動産業界向けのサービスを開発・運営。2018年2月に、LINEを使って住宅アドバイザーに家づくりについて相談できるサービス「auka」(アウカ)事業を立ち上げ。aukaでは、工務店の選定や住宅ローンを含む資金計画などもサポートしてくれる。

ガラパゴス

2009年3月設立。デザイナー向けAI「AIR Design」を開発・運営。AIを活用することで高品質なクリエイティブが短期間で制作でき、A/Bテスト実施を前提として計画からレポーティングまでワンストップで提供できる。

Tsunagu.AI

2017年4月設立。ウェブサイト開発プロセスをAI化して開発効率を高める「FRONT-END.AI」のクローズドベータ版をリリース。FRONT-END.AIは、複数のディープラーニングのモデルを独自に結合し、フロントエンド開発に特化した学習を行ったAIサービス。ページ全体のデザインカンプとウェブ用素材をアップロードするだけで、HTMLの構造および、デザイン要素の分析・自動でコーディングが可能。

元マッキンゼーの医師起業家が“次世代クリニック”で医療現場の変革へ、Linc’wellが3.5億円を調達

Linc’well(リンクウェル)のメンバー。中央が代表取締役の金子和真氏

多くの課題を抱える“レガシーな業界”は、スタートアップにとって大きなビジネスチャンスだ。

金融、人材、不動産、建設、法務などあげればキリがないけれど、従来はアナログの要素が多かった大きな市場が近年テクノロジーの台頭によってどんどんアップデートされ始めている。

今回取り上げる「医療」もまさに大きな可能性を秘めた領域。遠隔医療や電子カルテを始め様々なプレイヤーが業界の課題解決に取り組むが、未だに紙の診察券やカルテ、電話での予約などが主流で、テクノロジーの活用が十分には進んでいない。

そんな業界の現状に対して「非効率な医療現場をテクノロジーで効率化し、患者さんの利便性や医療の質自体の向上を目指したい」と自ら会社を興した“医師起業家”がいる。

2018年創業の医療スタートアップLinc’well(リンクウェル)の代表取締役、金子和真氏だ。

金子氏は臨床医として東京大学医学部附属病院を中心に医療現場で8年間働いた後、マッキンゼーに7年間勤めていたという経歴の持ち主。医療現場の課題解決に向けて、マッキンゼー時代にヘルスケア領域で共に働いていた山本遼佑氏とリンクウェルを立ち上げた。

現在はITをフル活用した“次世代クリニック”ブランドの「クリニックフォア」を展開。昨年10月に自社プロデュースの第一号店舗として田町にオープンしたクリニックには、半年間で2万人を超える患者が受診に訪れたという。

そのリンクウェルは5月27日、さらなる事業拡大に向けて第三者割当増資により総額約3.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはDCM Ventures、Sony Innovation Fund、インキュベイトファンドの3社。昨年4月にもシードラウンドでインキュベイトファンドとヤフー常務執行役員の小澤隆生氏から約7000万円を調達済みで、累計の調達額は約4.2億円となる。

リンクウェルでは調達した資金を活用してクリニックの複数店舗展開を進めるほか、クリニック内で活用するシステムの開発や、今後予定しているオンラインヘルスサポート事業への投資を強化していく計画だ。

スマホ1台で十分な次世代クリニックを社会インフラへ

「オンラインで予約ができず、実際に病院に行けば長時間待たされることも珍しくない。そもそも普段忙しいビジネスパーソンは平日の日中に行くことすら難しい。特に若い世代、働いている世代が診察を気軽に受けられない現状に大きな課題を感じていた」

金子氏がこの状況を改善するべく着手したのが、ITを徹底活用したクリニックの展開だ。

リンクウェルがプロデュースするクリニックフォアでは、オンライン予約システムやAIを取り入れた問診システムの活用、院内のオペレーションを効率化する電子カルテの導入などを通じて、患者の体験向上とクリニックの経営効率化にコミットする。

同社ではパートナーとなる医師に対して、上述したようなオペレーションシステムとともに、経営やマーケティング、スタッフの採用・教育などクリニックの運営に必要なサポートを提供。こうして立ち上がったクリニックを複数店舗展開し、社会インフラとして根付かせることが目標だ。

では実際にクリニックフォアで診断を受けるユーザーはどのようなフローをたどるのだろうか。

まず診断日程の予約は公式サイトからスマホやPCを通じてオンラインで行う。希望する診断内容を選択した後、カレンダーから空いている時間帯をチェックして希望の日時を選べば良い。

画面を見てもらうとわかるが新幹線などの予約画面にも近い感覚だ。予約時に簡単なオンライン問診も実施することで、当日の診察をよりスムーズにする。

クリニックに訪れた際は、受付で来院の声かけをした後、細かい問診票を記入する。この工程については現在自社でシステムを開発していて、今後オンライン化が進んでいくそうだ。

診察時間は15分単位で事前にスケジューリングしているため、具合の悪い人がいる場合などに多少のズレはあったとしても、長時間待たされることはほとんどない。

診察後の会計はキャッシュレス対応。クレジットカードや交通系ICカードのほか、QRコード決済サービスも使える。薬についても「全てではないものの出来るだけ院内で渡せるようにしていて、なるべく薬局に行く手間がかからないような設計をしている」(金子氏)という。

オフラインの診察券も用意しているが、受付時にスマホから予約IDを確認して伝えればいいそうなので“スマホ1台あれば”予約から当日の会計までスムーズに済ませられるのが特徴だ。

海外に目を向けると、米国ではOne Medical GroupがITを活用したクリニックチェーンを展開していたり、中国では平安好医生が医療におけるオンラインとオフラインの融合を進めている。一方で日本の場合はクリニックの95%以上が個人経営であることなども影響してか、テクノロジーがそこまで浸透していない状況だ。

クリニックフォアでは様々なITツールが絡んでくるが、リンクウェルがその全てを自社で開発しているわけではなく、他社ツールを組み合わせているのもポイント。予約システムや問診システムは自社で作りつつ、すでに複数社が取り組んでいる電子カルテなどは他社のプロダクトを活用している。

「自分たちがやっているのは検査やカルテ、処方など膨大なパッケージを用意して現場で使いやすいように最適化すること。(電子カルテシステムを)箱だけ提供しても、誰もがすぐに使えるわけではない。ExcelやWordの作業を便利にするテンプレートのように、電子カルテを使いやすくする大量のテンプレートを組み込んで提供している」(金子氏)

現場のニーズや実態に基づいてプロダクト開発ができるのは同社の強みだ。金子氏が医師として現場経験が豊富なことに加え、10月にオープンしたクリニックフォア田町はオフィスのすぐ下にあるため、すぐに現場を確認できる。

時には糖尿病の専門医である金子氏が直接現場で患者や医師とコミュニケーションを取ることもあるそうで、そこから得られたフィードバックをクリニックの運営やシステム開発に活かせるという。

週7日開院、働く世代を中心に患者の約85%が50歳以下

そのクリニックフォア田町では忙しいビジネスパーソンでも利用しやすいように、平日は9時30分から21時まで、土日祝日も9時から18時まで診療を行う。

そういった“使い勝手の良さ”が受け、設立後から半年で延べ2万人の患者が来院。そのうち8割がオンライン予約を活用する。直近ではゴールデンウィークの最終日に1日で200人以上が訪れるなど、金子氏も「(既存のクリニックではカバーできない)明確なニーズがあることが証明されてきている」と話す。

クリニックフォアの特徴は「患者の年齢層」にも現れている。平均的なクリニックでは年配の患者が大半を占め、実に75%が50歳以上なのだそう。一方クリニックフォア田町の場合、約85%が50歳以下の患者だ。

特に10代〜30代の患者が60%以上を占める(平均のクリニックは22%ほど)ことからも、来院する層に大きな違いがあることがわかるだろう。

「テクノロジーの導入については規制の問題もあるが、(高齢の患者が多いようなクリニックでは)現場に変えるメリットがないことが大きい。特に若い世代のペインを解消するには、システムを提供するのみではなく、現場一体となって変えていくしかないと思った。実際に口コミやアンケートを見ても、オンライン予約や待ち時間の少なさ、夜や土日の対応などに価値を感じてもらえている」(金子氏)

医師にとっても新しい選択肢に

クリニックフォアの仕組みは患者にだけでなく、医師にとっても新しい選択肢を提供する。

これまで医師の職業については人命に関わるという特性上、残業時間が多くなりがちで、かつそこに対する規制が一般的な労働者に比べて進んでこなかった。近年は「医師の働き方改革に関する検討会」を中心に残業時間の上限規制を始めとした議論がされているが、クリニックや病院の仕組み自体をアップデートすることも重要だ。

クリニックフォアの場合は週7日、平日に関しては朝から夜まで開院しているため、最初から複数の医師によるワークシェアを前提としている。結果的に通常の病院で働くよりも個々の状況に応じて、柔軟な働き方ができるという。

田町のクリニックにも、家庭の事情で時短勤務を選択したい医師や週3日だけ現場で働きたいという医師、大学院で研究をしながら土日や夜だけ現場に出たいという医師などがいるそうだ。

また医師のキャリアパスにおいて「開業医」という選択肢のハードルを下げる効果もある。

「今まで患者さんを診断することしか経験していない人がほとんど。経営や組織づくり、採用などのプロではなく、そこで苦戦する人は多い」と金子氏も話すように、自分でクリニックを立ち上げるには膨大なイニシャルコストのほか、診断以外の経営業務にも対応しなければならない。

クリニックフォアはシステムの提供だけでなく、経営のナレッジ共有やスタッフの採用・育成サポートを通じて「医師が患者さんを診ることに集中できる環境を整える」(金子氏)ことで、開業の後押しをするとともに、その後の経営の支援もする。

田町の店舗でも細かい月商などは非公開だが「支援の結果、半年にして平均的なクリニックの2〜3倍程度の収益を達成している」そうだ。

オンラインとオフラインの融合による次世代ヘルスケア基盤構築へ

リンクウェルは今後もクリニックフォアブランドのクリニックを各地に広げていく計画。すでに都内数カ所で新店舗を予定しているほか、将来的には都市部を中心に数百規模のクリニックのプロデュースしていく構想だという。

このオフラインの取り組みと並行して、今後はオンラインヘルスサポート事業の開発にも取り組む。軸となるのは「メディカルサプリのEC」と「オンライン診断」だ。

ECに関してはサプリやヘアケア、スキンケアといった商品をサブスクリプションモデルで提供する予定で、キーワードは「パーソナライズ」と「エビデンス」。ユーザーのデータと専門医のエビデンスに基づきパーソナライズされた商品を届けるECを目指していて、長期的にはD2Cのように製造工程から関わる可能性もある。

またクリニックでのオンライン診療や法人向けのオンライン健康診断なども準備するそう。オンラインとオフラインを融合しながら、患者のニーズや状態に合わせて「バーティカルに、エンド to エンドで最適なサポートを提供したい」という。

「最終的に目指すのは『1つの社会インフラ』。自分自身も医者をやっていて、医療は社会に不可欠なインフラだと思っているし、医者もそのために必死で働いている。ただこれから先、高齢化が進み患者さんの数が増えてくる中で、テクノロジーの活用を進めていかない限り持続的なインフラを作るのは難しい。日本の医療が破綻する前に、少しでも医療の現場を効率化しながら、質の高い医療を提供できるための仕組みを作って業界に貢献していきたい」(金子氏)