現代自動車、メタバースにボストンダイナミクスのロボット「Spot」を送り込む

現代自動車(Hyundai)がロボット開発に壮大な野心を抱いていることは確かだ。これまで現代自動車は積極的に資金を投入していて、特にロボットのパイオニアであるBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の買収には10億ドル(約1160億円)以上を費やした。

今週開催される同社のCESにおけるプレゼンテーションでは、予想どおり、ロボットが中心的な役割を果たしている。2021年12月、現代自動車は、4輪モジュラーモビリティプラットフォームのスニークプレビューをMobile Eccentric Droid(モバイル・エキセントリック・ドロイド)という形で公開した。そして米国時間1月4日は、新しい「メタモビリティ」コンセプトに基づいて、将来に向けたより幅広い計画を発表した。

現代自動車は今後、その戦略についてより多くの情報を公開する予定であり、私たちは実際にどのようなものになるのかを知るために、何人かの幹部に話を聞くことを予定している。とりあえず、今回は「Expanding Human Reach」(人間の手の届く範囲を拡大する)という表題のもとに、バーチャルリアリティのメタバースにおけるモビリティとロボティクスの役割を模索するという大枠のアイデアが提示された。この早期の段階では、宣伝用コンセプトと実用性を切り離すのは難しいが、主な要素は、VRインタラクションの世界でハードウェアに現実世界へのプロキシのような役割を果たさせることようだ。

画像クレジット:現代自動車

現段階では、ずっとVRアプリケーションの根本的な問題となっていた、タンジビリティー(可触知性、実際に触った感覚を得ること)の欠如に関係する大きな成果がありそうだと言っておこう。現代自動車グループのChang Song(チャン・ソン)社長はこう語る。

「メタモビリティ」の考え方は、空間、時間、距離がすべて無意味なものになるというものです。ロボットをメタバースに接続することで、私たちは現実世界と仮想現実の間を自由に行き来できるようになります。メタバースが提供する「そこにいる」ような没入型の体験からさらに一歩進んで、ロボットが人間の身体感覚の延長となりメタモビリティによって日常生活を再構築し、豊かにすることができるようになります。

近い将来には、このような技術を利用して遠隔操作で製造ロボットを制御することが十分考えられる。これは、トヨタが以前から取り組んでいる「T-HR3」というシステム探求しているものだ。現代自動車によると、Microsoft Cloud for Manufacturing(マイクロソフト・クラウド・フォー・マニュファクチャリング)は、このような遠隔操作のためのゲートウェイとして利用することが可能で、このような実用的な機能を果たすシステムを想像するのは難しくないという。

画像クレジット:現代自動車

他のアプリケーションは、まだ先のことになる。現代自動車のプレスリリースによると「例えばユーザーが外出先からメタバース上の自宅のデジタルツインにアクセスすることで、アバターロボットを使って韓国にいるペットに餌をあげたり、抱きしめたりすることができるようになります。これにより、ユーザーはVRを通じて現実世界の体験を楽しむことができます」とのことだ。

このような考えは現時点ではほとんど概念的なもののようだが、現代自動車は今週開催されるCESで、最終的にはどのように見えるかのデモを提供している。新型コロナウイルスが急増する中で、TechCrunchだけでなく多くの人たちがバーチャルで展示会に参加していることを考えると、少なくとも将来的にリモートオペレーションがどのように役立つかを想像するのは簡単だ。

無生物や移動にロボットを導入する

現代自動車は、CESですべての時間をメタバースに費やしたわけではない。また「New Mobility of Things」(ニューモビリティオブシングス、モノの新しい移動方式)と題して、ロボットを使って大小の無生物を自律的に移動させるコンセプトを紹介した。

この「New Mobility of Things」のコンセプトのもとに発表されたのが「Plug & Drive」(プラグアンドドライブ、PnD)という製品だ。この一輪ユニットには、インテリジェントなステアリング、ブレーキ、インホイール電気駆動機構、サスペンションのハードウェアに加えて、物体を検知して周囲を移動するためのLiDARとカメラのセンサーが搭載されている。

このPnDモジュールは、例えばオフィスのテーブルのようなものに取り付けられるようになっている。ユーザーは、こうしたテーブルに対して自分の近くに移動するように命令したり、オフィスでより多くのスペースを必要とする特定の時間にそのテーブルを移動するようにスケジュールすることができる。

現代自動車の副社長でロボット研究所長のDong Jin Hyun(ドン・ジン・ヒョン)氏は「PnDモジュールは、人間のニーズに合わせて適応・拡張が可能です。というのも、これからの世界では、あなたがモノを動かすのではなく、モノがあなたの周りを動き回るようになるからです」と語る。「PnDは、通常は動かない無生物をモバイル化します。この能力があるからこそ、実質的にあらゆる空間を変えることができるのです。必要に応じて空間を構成することができます」。

現代自動車は、待っているバスへ人を運ぶためのパーソナルトランスポートシステムなど、PnDのさまざまな応用例を紹介した。4つの5.5インチ(約14センチ)PnDモジュールを搭載したこのポッドは、そのままこの「マザーシャトル」に合体する。

画像クレジット:現代自動車

理論的には、バスが止まると、(中に座っている人間を乗せた)ポッドが目的地までの最後の移動を行うことになる。

現代自動車がビデオで紹介したアイデアは、高齢の女性がポッドに乗り込んで待っているバスに移動する前に、1台のPnDが杖を彼女に届けるというもので、高齢者を直接ターゲットにしている。しかし、もしこれが仮に実現したとすれば、車道に1人乗りの大きな車を大量に増やすことなく、ファーストマイルとラストマイルの公共交通機関を提供するために使用することができる。

また現代自動車は「Drive & Lift」(ドライブアンドリフト、DnL)と呼ばれる、モノを持ち上げるためのモジュールも披露した。現代自動車は、DnLをそのMobED(Mobile Eccentric Droid)というロボットと組み合わせた。DnLはModEDの各ホイールに取り付けられており、上下に持ち上げることができ、ロボットが段差やスピードバンプなどの低い障害物上を移動しても水平を保つことができる。

画像クレジット:Hyundai

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

世界初、Boston Dynamicsロボット犬によるローリング・ストーンズの名曲MVカバー

Spotは、よく働き、よく遊ぶ。最新のビデオでBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は、ローリング・ストーンズのアルバム「Tattoo You(刺青の男 )」の40周年を記念して、4足歩行ロボットがジャガーさながらの動きを見せる様子を披露した。「Spot Me Up 」では、Spotロボットのカルテットが、1981年にリリースされた「Start Me Up(スタート・ミー・アップ)」のミュージックビデオを全力で真似ている。

もちろん、バイラルビデオはBoston Dynamicsの重要なマーケティングツールであり、ロボットがより洗練されたものになればなるほど、そのパフォーマンスはより印象的なものになっている。ストーンズもまた、テクノロジーマーケティングに昔から関わってきた。実際にストーンズは、90年代半ばにWindows 95のキャンペーンで「Start Me Up」の使用をライセンス契約している。

分割画面では、ロボットがビデオの再生に合わせてそれぞれ動き、ストーンズは最高のスパンデックス姿で登場している(RIP、チャーリー・ワッツは常にベストドレッサーだった)。「Start Me Up」は、ストーンズが6時間かけてレコーディングしたと言われているが、ローリング・スポットの振り付けにどれだけの時間がかかったかは不明だ。しかし、これまで見てきたように、ミックのように動くかどうかに関わらず、1分半のビデオには多くの準備が必要とされる

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このビデオは、自律型ロボットシステムがより厳しい目で見守られている中で公開された。

画像クレジット:Boston Dynamics

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

MSCHFがSpotにリモコン式ペイントボール銃搭載、ボストン・ダイナミクスは嫌な顔

筆者はSpotをさまざまな設定で操作したことがある。数年前に開催されたTechCrunchのロボティクスイベントで初めてSpotを操る機会があり、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)本社の障害物コースでSpotを走り回らせた。つい最近は、新しいリモートインターフェイスのテストとして、ウェブブラウザでSpotを操作した。

しかし最近実施されたテスト走行はこれとは話が違う。ボストン・ダイナミクスから正式に認可を受けたものではなかったことが、1つの理由として挙げられる。もちろん、この高度に洗練された四足歩行ロボットはしばらく前から市場に出回っており、一部の進歩的な企業がサンフランシスコの通りでSpotのリモート歩行体験の提供を始めている。

MSCHFの最新プロジェクトがそうしたものでないことは、もちろん驚くには当たらない。ブルックリンを拠点とするこの企業はそれほど単純でないからだ。MSCHFといえば「海賊放送」のストリーミングサービスAll The Streams.FMや、あのおもしろいAmazon Echoの超音波ジャマーを提供した企業である。何よりも同社のイベントは、プライバシーや消費者主義に対する批評や、今回のケースでは、ロボット工学がどうなるかという一種の陰鬱な伏線を示すものとなっている。

世間と同様、MSCHFはボストン・ダイナミクスがSpotを売り出したとき、非常に興味を持った。しかし私たちの大半と異なったのは、7万5000ドル(約818万円)を集めて実際にSpotを購入したことだ。

そして、その背中にペイントボール銃を搭載した。

画像クレジット:MSCHF

米国時間2月24日から、ユーザーはMSCHFのサイトからSpotを操縦し、閉鎖された環境でペイントボール銃を発射することができるようになる。同社はこれを「Spot’s Rampage(Spotの大暴れ)」と呼んでいる。

MSCHFのDaniel Greenberg(ダニエル・グリーンバーグ)氏は「2月24日の午後1時(東部標準時)に配信を開始します。4台のカメラでライブ配信を行います。スマートフォンでサイトに接続している間は、Spotを操作できるチャンスが均等にあり、操縦者は2分ごとに交代します。配信は数時間続く予定です」とTechCrunchに話した。

Spotのウェブポータル立ち上げに先立ち、同社はSpotのSDKとSpotの背中に搭載されたペイントボール銃の両方をリモート操作するAPIを構築した。ボストン・ダイナミクスがこの設定にとりわけ不快感を示すのも無理はない。Black Mirror(ブラックミラー)のような警鐘を鳴らすSF小説が伝える負の結末に長年取り組んできた企業にとって、サードパーティーによって銃が搭載されるということは、たとえ塗料を噴射するものであっても、理想的とはいえない。

ボストン・ダイナミクスの担当者によれば、同社は早い段階でMSCHFとの連携に興味を持っていたという。

「MSCHFは、Spotを使って創造的なプロジェクトを行うというアイデアを持ちかけてきました。MSCHFは、多くの創造的なことを手がけてきたクリエイティブ集団です。私たちは話し合いの中で、MSCHFが私たちと連携する場合は、人に危害を加えるような仕方でSpotを使用しないことを明確にしておきたいことを伝えました」。

ボストン・ダイナミクスはペイントボール銃が話題に上ると難色を示し、2月19日にTwitterを通じて以下の声明を発表した。

本日当社は、あるアートグループが当社の産業用ロボットSpotの挑発的な使い方に注目を集めるイベントを計画しているという情報を入手しました。誤解のないように申し上げますが、当社は、暴力や危害、脅迫を助長するような方法で当社の技術を表現することを非難します。当社の使命は、社会に刺激と喜び、プラスの影響を与える、非常に高性能なロボットを創造し、提供することです。当社は、お客様が当社のロボットを合法的に使用する意思があることを確認することに細心の注意を払っています。また、販売を許可する前に、すべての購入依頼を米国政府の取引禁止対象者リストと照合しています。

さらに、購入者は当社の販売条件に同意する必要があります。販売条件には、当社の製品を法律に準拠したかたちで使用する必要があること、人や動物に危害を加えたり脅したりするために使用できないことが明記されています。販売条件に違反すると、製品保証が自動的に無効になり、ロボットの更新、保守、修理、交換ができなくなります。挑発的なアートは、私たちの日常生活におけるテクノロジーの役割について有益な対話を促すものとなる一方で、このアートは、Spotと私たちの日常生活におけるそのメリットを根本的に誤って伝えるものです。

この声明は、Spotを使って違法なことをしたり、人を脅迫したり傷つけたりすることを禁止するSpotの契約書の文言と一致している。ボストン・ダイナミクスによれば、同社は見込み客に対して経歴調査などの「デューデリジェンス」を行っているようだ。

画像クレジット:MSCHF

ボストン・ダイナミクスにとって、この妥当性はいくぶん判断しにくい領域にある。同社はMSCHFにアイデアを持ちかけられたのだが、そのアイデアが四足歩行ロボットの使命に沿ったものではないと考え、難色を示した。Spot’s Rampageの公式サイトには以下の記載がある。

当社はボストン・ダイナミクスと話し合いましたが、当社のアイデアは極めて受け入れ難いものとされました。銃を搭載しなければSpotを無料であと2台提供することを提案されたことで、銃を搭載しようという当社の意思はさらに強まりました。もし当社のSpotが動かなくなれば、この小さなロボットの1つ1つに秘密の無効化機能が仕込まれていたということになります。

ボストン・ダイナミクスによれば、MSCHFの「このやり取りに関する理解」は「間違っている」という。

そしてこう付け加えた。「当社には、すばらしい魅力的な体験を創出するマーケティングチャンスが常に舞い込んできます。1台のロボットを販売することにそれほどおもしろさはありませんが、インタラクティブな優れた体験を創出することは非常に魅力的です。MSCHFが当社に提案したものの1つはインタラクティブなアイデアでした。Spotは高価なロボットですが、MSCHFはSpotを誰もが操作できるインタラクティブな体験を作り出したいと考えていました。当社はその考えが非常にかっこよく魅力的なものだと感じました」。

ボストン・ダイナミクスによると、MSCHFは、ペイントボール銃ではなく、Spotのロボットアームを使って、物理的空間にブラシで絵を描くというアイデアを提案した。同社は、ストリーミング配信中にロボットを保守する技術者を現場に派遣し、いくつかのモデルをバックアップとして提供することも提案した。

MSCHFがペイントボール銃を搭載したのは、結局のところ、キャンバスに絵を描くためだけではない。銃を搭載したロボットのイメージは、たとえ塗料を発射するだけであっても脅威的である。これがポイントなのだ。

「こうしたロボットが踊ったりはしゃぎまわったりするのを見ると、ある程度の知性を持つ、かわいい小さな友達だと思います」とグリーンバーグ氏は言い、こう続ける。「失敗して転ぶ姿が親しみやすさを感じます。私たちは、『おっちょこちょい』というシナリオを作り上げて、Spotのシナリオに虚飾を張りました。しかし、Spotの大型版(大型犬)は明らかに軍用の小型車両であり、市当局や法執行機関によって配置されることが多いということは、覚えておく価値があります。結局のところSpotは陸上版の無人航空機なのです。このロボットを操縦して引き金を引くスリルを体験する人は、アドレナリンが急上昇しますが、数分後には独特の寒気を感じて欲しいと願っています。正しい心を持つ人なら誰もが、この小さなかわいいロボットが遅かれ早かれ人を殺すことになることに気づくことでしょう」。

実際、ボストン・ダイナミクスの初期のロボットは、輸送用車両として使用するためにDARPAから資金提供を受けていたのだが、同社はほんのわずかな不気味なイメージさえも即座に遠ざける。ボストン・ダイナミクスは、TechCrunchのロボットイベントで行われたマサチューセッツ州警察の訓練でSpotが使われている映像を公開した後、ACLUから批判を受けた。

画像クレジット:MSCHF

同社はこのとき、TechCrunchに次のように語った。

現在当社は、自ら連携するパートナーを選定し、そのパートナーが同様の展望を持ち、人を物理的に傷つけたり威嚇したりするような用途でロボットを使用しないなど、ロボットの用途に対する同様のビジョンを持っていることを確認できる規模にあります。ただしロボットができることと、してはいけないことに対して、現実的な見方も持っています。

MSCHFはイベントの準備を進めているが、この考えには同意している。

ボストン・ダイナミクスはTechCrunchにこう話す。「当社はお化け屋敷にSpotを使いたいというお客様をお断りました。当社のテクノロジーを使って人を怖がらせるという意味で、その用途は当社の使用条件に合っていませんでしたし、当社が描く、人のためになるものではなかったので販売をお断りしたのです。MSCHFとの初めての販売会議においてこのコンセプトが提示されていたら、当社は『Arduinoの四足歩行ロボットならご希望の機能を簡単に搭載できるので、そちらを使ってはどうですか。ご提示になった機能は、当社が示すテクノロジーの使用方法とは異なります』と言ったでしょう」。

画像クレジット:MSCHF

しかし、ライセンスを取り消せるかどうかという問題が残っている。利用規約に違反した場合、同社はライセンスを更新しないことを選択できる。それにより、次回ファームウェアの更新時にはライセンスが事実上無効になる。その他のケースにおいては、実質的に保証を無効にすることができる。つまり、保守を提供しないという選択肢もある。

閉鎖された空間で発射されるペイントボール銃は、危害や脅迫、違法行為に該当しないと思われる。したがって、ボストン・ダイナミクスがこの件に関して直接的な行動方針を持っているかどうかは完全にはわからない。

ボストン・ダイナミクスは「現在、この特定のユースケースについて評価中です。当社にはロボットを危険な状態にする改造に関して、他にも利用規約があります。私たちはどのような影響があるのかを確認しようとしています」と話す。

ボストン・ダイナミクス(同社の現代自動車への売却は2021年6月に完了予定)は、危険な場所での日常点検から、最近の口コミ動画での複雑なダンスの動きまで、ロボットができるさまざまなタスクを紹介することに多くの時間を費やしてきた。MSCHFの主な(そして実際には唯一の)用途はインタラクティブなアート作品である。

グリーンバーグ氏は「正直なところ、ロボットに関してはこれ以上の計画はありません。ボストン・ダイナミクスと連携することはもうないでしょう。私たちは同じことは繰り返しません。真の創造力を発揮する必要があります。次に作るのは携帯用カップホルダーかもしれません」と話した。

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Boston DynamicsがSpotを遠隔操作するインターフェース「Scout」発表、リモートでドアを開けられるように

カテゴリー:ロボティクス
タグ:SpotBoston DynamicsMSCHF

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

Boston DynamicsがSpotを遠隔操作するインターフェース「Scout」発表、リモートでドアを開けられるように

Spot(スポット)が工場施設の階段を上っていくところを見るのは何かしっくりこない。何年もの間、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)のロボットたちによる美的で印象的なパフォーマンスビデオを見続けてきた後では、この四足歩行ロボットが、ロボット研究者たちが好んで口にする退屈で、汚れがちで、危険な仕事をしているところは興味を引かないのだ。

しかし、同社がSpotの販売を開始してから6カ月半が過ぎ(Boston Dynamicsによれば400台以上が売れたという)、購入した企業はそれらの先進的な機械を、いくつかの極めて地味なシーンへと投入している。米国時間2月1日の朝、私はそうしたロボットの1台を、自分の机からくつろいだ態勢で操縦できる機会を得ることができた。

今週、Hyundai(現代、ヒュンダイ)が所有するロボットのパイオニアBoston Dynamicsが、ロボットを遠隔操作するためのブラウザベースのインターフェースScout(スカウト)を発表した。またこの発表には続いて、セルフ充電式の「エンタープライズ」版や、すでに発表されていたSpot Arm(スポットアーム)も加わる予定だ。すべての新しいハードウェアは、すでにBoston Dynamics社のサイトから入手可能で(価格は「見積依頼」形式だが)、Scoutはどのバージョンのロボットとも互換性がある。

画像クレジット:Boston Dynamics

とはいえ、同社はセルフドッキング型のエンタープライズ版とのペアリングを推奨している。結局のところ、ロボットの1回の充電あたりの動作時間は約90分なので、人間の介入なしに、状況監視でロボットを使うのであればおそらくそうする方がよいだろう。

実際に何度かSpotを直接操作してみたが、ご想像の通り多少は練習する必要がある。Boston Dynamicsの見積もりでは、完全にスピードを上げるのには約15分かかるとのことだったが、1~2分後には、私はロボットにBoston Dynamicso本社の階段を昇り降りさせることができていた。ありがたいことに、この7万5000ドル(約788万円)のロボットには、カメラや他のセンサーがたくさん内蔵されていて、本当にバカなことはできないようにしてくれている。

画像クレジット:Boston Dynamics

システムはBluetoothゲーミングコントローラーでも動作するが、私はキーボードを使うことにした。もしこれまでPCゲームやったことあるなら、きっとおなじみの基本的なWASD式の操作を行うことができる。一方、矢印キーを使えば、4つのカメラを切り替えて四方を見ることができる。ロボットを上方から見下ろしたような景色を見せてくれる、terrain(地形)モードなどのいくつかの追加ビューが用意されている。それはおそらく、目の前の障害物すべてを表示するための最良の方法だが、それでもさまざまなビューを一度に見るためにピクチャー・イン・ピクチャーを行うこともできる。

私自身は「クリックして進む」を多用していることに気がついた。その動作は基本的には言葉が示しているとおりだ。地面上の地点をクリックするとSpotがその場所に向かって歩いて行く。この機能は主に接続に問題がある場面を想定して設計されている。たとえばどこかの石油採掘基地に、かわいそうなSpotが投入されたところを想像してほしい。

画像クレジット:Boston Dynamics

「ある発電所で、設備故障が疑われた事例がありました。もし本当に故障していたとしたら、人間の検査担当者にとっては危険だった設備を、ロボットを使うことで、繰り返し検査することができました」と、SpotのチーフエンジニアであるZack Jackowski(ザック・ジャコウスキー)氏はTechCrunchに語った。「つまりシステムを使い、何回もパイプを検査することで、高くつくシステム停止を回避することができたのです」。階段を上り下りさせるためにロボットを配置する「階段モード」もある。この機能は手動でオンオフを切り替える必要があるのだが、ロボットは通常モードでも階段を上ることができるはずだ(私はデモの最中にこれを行ったが、スタッフは誰も心臓発作を起こすことはなかったようだ)。当面の間、この遠隔操作機能は視覚情報の収集に限定される。ジャコウスキー氏は「建物の規模へ拡張できる、いろいろとすごい計画を立てていますが、まず最初に提供したいのは視野を提供することです」と付け加えた。

エンタープライズ版では、ロボットの底部に新しいドッキングコネクタを装備したほか、CPUを強化しワイヤレス接続性を向上させている。ドックとの同梱か単体での出荷となる。

残念ながら、新しいアームを実際に回転させることはできなかったが、ジャコウスキー氏はその機能について、詳細をいくつか教えてくれた。「アームコマンドは、『アームをここへ動かせ』とか『この物体を持ち上げろ』とか『このバルブを回せ』といったかたちで出すことができます。するとロボットは『もしこのバルブを回すのなら、まずあそこに立つ必要があって、次に重心をどのように移動して、バルブを動かすためにどのような部品を腕に装着している必要があるのかを判断する必要がある』ということを自分で考えるのです」。

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

Boston Dynamicsは早ければ来年にも物流ロボットの計画を実現へ

Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は、四足歩行ロボット「Spot」で大規模なロボットを構築する能力を証明した後、同社が最初に参入を目指している本格的な物流分野へのアプローチを発表するまであと数カ月となった。同社の新CEOであるRobert Playter(ロバート・プレイター)氏は、数十年におよぶ実験を経て、同社が独自の道を歩むことになると見ている。

Disrupt 2020のバーチャルメインステージでインタビューに応じたプレイター氏は、長年のCEOであり創業者でもあるMarc Raibert(マーク・ライベール)氏が研究開発に専念するために身を引いた後、プレイター氏も長年務めてきたCOOからCEOに昇進したばかりだ。今回の就任後、プレイター氏は初めての公の場でのスピーチに臨んだが、同氏がBoston Dynamicsとともに大きな計画を持っていることは明らかだろう。

有名なBigDog(ビッグ・ドッグ)の遠縁にあたる四足歩行ロボットであるSpotの最近の商品化は、プレイター氏と会社にとって、その需要がどこにあるのか完全にはわからないにしても、彼らが提供するものには大きな需要があることを示している。

「ターゲットとなる市場がどのようなものになるのか正確にはわからなかった」と同氏は認めたが、どうやら顧客たちは、どちらとも言えなかったようだ。この7万5000ドル(約784万円)のロボットは複数の顧客によって約260台が購入され、現在はSpotプラットフォーム向けに独自のアドオンや業界固有のツールを積極的に開発している。ちなみに「その価格は抑止力にはなっていない」と同氏。「産業ツールとしてこれは実際にかなり手ごろです。私たちはこれらを手ごろな価格で生産する方法を構築するために、非常に積極的に大量の資金を投下してきました。そして、すでにコストを削減する方法に取り組んでいます」と付け加えた。

TC Sessions: Robotics + AI at UC Berkeley on April 18, 2019(画像クレジット:TechCrunch)

世界的な新型コロナウイルスの大流行は、手作業に代わるものとしてのロボットへの必要性を生み出すのにも役立っている。

プレイター氏は「人々は自分自身の物理的な代理者を持つこと、遠隔地にいることが以前に想像していた以上に重要であることに気付いています。私たちはロボットが危険な場所に行けると考えてきましたが、新型コロナウイルスの影響で危険性が少し再定義されました」と説明する。新型コロナウイルスの感染蔓延は緊急性を加速させており、おそらくこの技術を使って探索するアプリケーションの種類が増えることになるでしょう」と続けた。

新型コロナウイルスに特化したアプリケーションとしては同社は、入院患者の遠隔監視や、Spotを使用して施設内にエアゾールスプレーを運ぶ自動消毒などの共同作業の依頼を受けている。「これが今後大きな市場になるかどうかはわかりませんが、依頼を受けたときに対応できることが重要だと考えまそた」と同氏は語る。「ここで正しいことをしなければならないという地域社会への義務感もありました」と。

MITの遠隔バイタル測定プログラム「Dr Spot」(画像クレジット:MIT)

最も早くから成功した応用例の1つはもちろん物流で、Amazon(アマゾン)のような企業が生産性を高め、人件費を削減する方法としてロボット工学を採用している。Boston Dynamicsは、現在実用的な「自律パレット」方式とはまったく異なる方法で、箱や箱のようなものを移動させるのを助けるロボットで市場に参入しようとしている。

「私たちは物流の分野で大きな計画を持っています。今後2年間で、いくつかのエキサイティングな新しい物流製品が出てくるでしょう」とプレイター氏は明かしてくれた。「現在、顧客が概念実証試験を進めていて、2021年に何かを発表し、2022年には製品を提供できるようになるでしょう」と続けた。

同社はすでに、より伝統的な固定式のアイテムピッキングシステムであるPickを提供しているが、次のバージョンのHandleも開発中だ。この機動性によって輸送用コンテナやトラックなどの限られたスペースや予測不可能な場所でも、荷物を降ろすことができるようになる。

インタビュー中に公開されたビデオでは、既製のパレットロボットとHandleが協働している様子が映し出されている。プレイター氏は、このような協力関係の必要性を強調する。「我々はロボットが一緒に作業できるようなソフトウェアを提供します。今は、すべてのロボットを作る必要はありません。しかし最終的には、これらの作業のいくつかを行うにはロボットのチームが必要になりますが、私たちは異種のロボットを使って作業できるようになることを期待しています」と語る。

このように優しく、穏やかで、業界に優しいBoston Dynamicsは、2018年に同社を買収したソフトバンクからの意思決定の産物であることはほぼ間違いないが、世界をリードするロボット研究開発会社を何もせずに運営することはできないという単純な現実もある。しかし、プレイター氏は、日本の大手テック企業が「過去20年間に行ってきた高度な能力の開発という過去の仕事があったからこそ、今の位置にいるのであってそれを続けていかなければならない」と理解していることに注目していた。

すぐに実際の仕事をすることはなさそうなのが、同社の驚くほど機敏なヒューマノイドロボットAtlasだ。今のところ実用的ではないが、一種のプレステージプロジェクトのような役割を果たしており、常に視野を上方に向けて調整する必要がある。

実際に仕事をしている姿を目にすることはないが、Atlasは驚くほど俊敏な人型ロボットだ。まだ実用的ではないが、同社では一種の威信をかけたプロジェクトのような役割を果たしており、常に上を目指して調整を続けている。

ヒューマノイドロボットAtlas(画像クレジット:Boston Dynamics)

「このように複雑なロボットで、多くのことができ、そうでなければできないようなツールを作らざるを得ません。そして、人々はそれを愛しています。

「これは非常に複雑なロボットであり、非常に多くのことができるため、ほかでは不可能なツールを作らざるを得ない。人々はそれを愛しています。それは野心的で、才能を引きつけます。」とプレイター氏は語る。

彼自身も例外ではない。かつて体操選手だったプレイター氏はAtlasの跳躍を見て「懐かしい瞬間」を思い出したそうだ。「マークをはじめとする当社の社員の多くは、人や動物の運動能力からインスピレーションを得ています。そのDNAは当社に深く根付いています」と締めくくった。

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画像クレジット:Boston Dynamics

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(翻訳:TechCrunch Japan)