ウェアラブルデバイス「Telepathy Jumper」発表、だがそれは想像とちょっと違った

SXSW 2013にて「Telepathy One」が発表されてから1年半、2014年6月には創業者であり代表を務めていた井口尊仁氏の退任騒動も起こった(現在井口氏は同社のフェローという肩書で活動している)が、Telepathyがその製品の詳細を発表した。Telepathyの日本法人であるテレパシージャパンは12月18日、ウェアラブルデバイス「Telepathy Jumper」を発表した。同日よりデベロッパー向けの申し込みも受け付ける

Telepathy Jumperはこれまでのデモ機やモックアップにあったように、メガネ状(厳密には耳から後頭部、反対側の耳までをぐるっと回りこむデザインになっている)のウェアブルデバイスではない。カメラやディスプレイ、マイクを備える「ディスプレイユニット」と、バッテリーや操作ボタンを備えた「パワーユニット」をケーブルでつなげた形状で、ケーブル部を首にかけて使うのだという。医者が首からかけている聴診器をイメージすると分かりやすいかもしれない。

ちなみにモニタ部を目の前に固定する場合、専用のアタッチメントが必要となる。アタッチメントのデータはオープンソースとして公開。自身の頭部のサイズに合わせてデータを加工した上で、3Dプリンターで打ち出して利用する。

アタッチメントをつけてTelepathy Jumperを耳にかけたところ

ディスプレイユニットには、qHD(960×540)のディスプレイ、500万画素・オートフォーカスのカメラ、2つのノイズキャンセリング機能付きマイクなどを備える。パワーユニットには操作用のボタンのほか、1000mAhのバッテリー、8GBのメモリなどを備える。OSはAndroid 4.2で、ネットワークはBluetoothとWiFiを利用できる。実際にデモ機を使用させてもらったところ、ディスプレイは非常に明瞭。周辺の光が強い環境でもはっきり見ることができた。ただ、デモ機はモニターに映像を流しているだけだったので、聴診器型(便宜上こう呼んでおく)であるメリットがイマイチ分からなかった。2015年3月に法人向けに販売を開始し、来夏をめどに一般向けの販売を進める。なお価格は未定。

一般向けの販売に合わせて提供予定のアプリケーションも2つ紹介した。1つは、他のユーザーが見ている(カメラで撮影している)景色をあたかも目の前の景色のように閲覧できる「Eye Connect」、もう1つはユーザーが持っている特技などを、Telepathyを使って他のユーザーに教えたり共有したりできる「Talent Buzz」だ。Telepathy Jumperは「共創」をテーマにしているとのことで、そのテーマに沿ったアプリとなる。また仕様の詳細などは明らかにされなかったが、サードパーティーによるアプリケーション開発も検討する。

「以前から開発していた」という聴診器型デバイス

これまでのデモ機でメガネをイメージしていたこともあって、その形状には驚いたのだけれど、テレパシージャパン代表取締役の鈴木健一氏によると、「ユーザーテストで分かったのは、常にディスプレイが目の前に必要ではないこと」なのだそう。このような気付きから、これまでもメガネ型のデバイスと並行して聴診器型のデバイスも研究・開発していたそうだ。

実はTelepathy Jumperのバッテリーの容量は現在主流となっているスマートフォンの半分程度。そう考えると素人目にもメガネに仕込むにはちょっと大きいように感じる。実際以前にも複数の関係者から「メガネサイズでバッテリーの容量を確保するのは難しいのではないか」という話を聞いていた(が、今回の形は想像していなかったのでびっくりした)。なので、バッテリーの容量確保のためにメガネの形状を諦めたのではないかとも鈴木氏に聞いたが、あくまでメガネという形状での不便を解決するために現状の形になったという説明だった。たしかに普段使うメガネの上に、さらにメガネ型デバイスはつけていられない。

テレパシージャパン代表取締役の鈴木健一氏

すでに日立ソリューションズなど複数社での試験利用も始まっている。両手が自由に使えるウェアラブルデバイスは、工事や建築から製造、病院など、さまざまなビジネス現場でニーズがあるのではないかという話は各所で聞く。「聴診器型」である必要性はさておき、Telepathy Jumperのニーズもそこにあるはずだ。

また、鈴木氏は同日の会見でのプレゼンの中で「利用シーン」として東京ディズニーランドの写真を使用しており、質疑では同施設との関係について記者から質問が飛んだのだけれども、「数社とどのようにビジネスが構築できるか話をしている。ディズニーランドはまた後日ということでお願いしたい。(対応は)広報に任せます」(鈴木氏)とだけ回答していた。

ともかく、かつて代表だった井口氏が語った「2014年に届けたい」というスケジュールにはギリギリ間に合わなかったが、少なくとも2014年中にその姿が明らかにされた。この発表について井口氏がどう思っているかも鈴木氏に聞いたが、「海外にいて、ここ(会見)に来る前には話をしていないので心境は分からない」とのことだった(ただし、Telepathyのミーティングなどには参加しており、西海岸の情報などを共有してくれているそうだ)。


日本はすでに代表が交代、米国はCEO未確定–井口氏退任に揺れるTelepathy

ウェアラブルデバイス「Telepathy One(テレパシー・ワン)」を開発中のTelepathyから、CEOの井口尊仁氏が退任するというエントリーを掲載したが、その続報をお届けする。

TechCrunch Japanでは、第1報を公開後、井口氏に替わって日本法人であるテレパシージャパン(Telepathyは米国法人が親会社であり、日本法人が子会社)の代表を務める鈴木健一氏とのアポイントを取り付けたため、東京・人形町の同社に向かった。だが同社に到着する直前で、「急な対応が必要な用件ができた」とのことで連絡もつかなくなり、当日の取材ができなくなった(同氏とは本記事公開前に連絡がついている。今後しかるべきタイミングで改めて取材を依頼したいと思っている)。だがその後、同社広報などを通じて一部の情報を確認することができた。なお井口氏自身からは「広報を通じて回答する」という旨の連絡をもらっている。

すでに日本法人の代表は交代

まず日本法人だが、前述の通りですでに4月28日をもって井口氏から鈴木氏に代表取締役が変更されている。鈴木氏はこれまで同社のCTOも務めていた人物だ。米国法人に関しては、今日時点で解散の事実はないそうだ。一部の業界関係者からは「法人自体は存在しているが、すでに人が居ない」という証言も得ていたが、同社によると「そういう状況ではない」とのこと。また井口氏が務めていた米国法人CEOついては「正式に確定していない」のだという。

こういった状況ではあるが、井口氏の進退とあわせて気になるのは、やはり井口氏がその構想を語ってくれたTelepathy Oneが登場するか否かではないだろうか。イベント「TechCrunch Tokyo 2013」で井口氏は、2014年内の発売を目指していると語っていたが、現時点での公式な回答は「開発は進んでおり、マーケティング戦略でベストタイミングを探っているので今年中かは未定」というものだった。エンジニアは今も開発を続けている。

ハードウェアスタートアップはトラブルが起こりやすい

僕はあるハードウェアスタートアップの代表と話をしていたときに、「ウェアラブルデバイスを含めてハードウェアの分野は、開発しながら提供するということもできないので時間もかかるし、利害関係者も多くなる。だから(サービスを作るより)トラブルが起こりやすいものだ」と語っていたのが忘れられない。正直なところTelepathyに関しては——デバイスの形状から資金繰り、ビジネスの方向性、協力会社との関係、果てには井口氏の性格まで。さらにここ数日は同氏の進退についても——ただの噂か真実かはさておき、ありとあらゆる話が聞こえてくる。正式なプロダクトの姿すらお披露目されていない状況にもかかわらず、ここまで多くの話が聞こえてくるスタートアップはあまりない。それだけ同社に注目が集まっていることの表れでもあるのだろう。そのうち一部の内容に関しては関係者の証言を得ることができたが、Telepathyではその内容を否定している。

井口氏はあるインタビューで「世界で勝負するにはハッタリが必要」という話をしていたが、僕もスタートアップには自分たちの現状のリソースで実現できる以上の大きなビジョン、ハッタリは必要だと思っている。新しいプロダクトを生み出すには、そりゃ当然今の常識を越えていかないといけないだろう。だからこそ、Telepathyに関してもプロダクトを早く見たいと思ってしまう。

ともかく、「代表」という意味で井口氏がTelepahtyから退任した(厳密には米国についてはCEOは未定だ)が、会社としてはプロダクトの開発を引き続き進めるという。Telepathyの「顔」だった人物が離れ、同氏を支えてきた鈴木氏やエンジニアチームは果たしてどのようなプロダクトを我々に見せてくれるのだろうか。


Telepathy CEOの井口尊仁氏が退任–詳細は続報にて

数日前から関係者の間では噂になっていたのだが、ウェアラブルデバイス「Telepathy One」を開発中の米Telepathy CEOである井口尊仁氏が退任したことが、関係各社への取材で分かった。

井口氏はTechCrunch Japanが手がけるスタートアップ向けイベント「TechCrunch Tokyo 2013」(当時僕はまだスタッフではなかったのだけど)にも登壇して、2014年内にもデバイスの提供を目指していると語ってくれていた。

TechCrunch Japanでは現在、日本にいるTelepathyのメンバーへのコンタクトをしている。詳細については追ってレポートする。


ウェアラブルなんてバズワードだ、まずはモノを作って出すべき–古参ハードウェアベンチャーの提言

ウェアラブルなんてテクノロジーの進化の一部を切り取ったバズワードでしかない。ハードウェアベンチャーはまず自らプロダクトを作って世に出して、そしてのノウハウを共有していって欲しい——2008年創業で、すでに古参のハードウェアベンチャーとなったCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏は、イベントの壇上でこう語った。

これは、3月25日から26日にかけて開催されたイベント「Wearable Technology Expo in Tokyo 2014」での一幕。25日の午後に開催されたTelepathy CEO の井口尊仁氏と岩佐氏のセッションでの話だ。

ウェアラブルはバズワード

イベントのテーマでもあるウェアラブル。セッションの冒頭、井口氏にこの定義について尋ねられた岩佐氏は、この言葉を「あくまでバズワードに過ぎないのではないか」と語る。「NikeのFuelBandやJAWBONEのUP、Google Glassなどが出てきたということをウェアラブルと総称しているだけ。IoT(Internet of Things)もバズワードでしかない」(岩佐氏)。この流れの本質は、「モノ作りのハードルが以前に比べて下がった」ということにこそあるという。

iPhoneアプリを制作するように手軽にとはいかないが、ハードウェアの製造は5年前に比べれば格段にやりやすくなったと説明する岩佐氏。Bluetooth4.0 LEや省電力WiFiといった技術が出てくるという中で、一部の事象だけを切り取った見方が「どうやらウェアラブルが盛り上がってきた」という状況ではないかと続ける。

Cerevoが活動を始めたのは2008年。当時はまだクリス・アンダーソン氏が「MAKERS」を出版していなければ、ウェラブルデバイスも登場していない時代。岩佐氏はなぜハードウェアベンチャーを立ち上げたのか? その一番のきっかけはインターネットとの出会いだったという。

「インターネットに触れて後頭部をガーンと殴られるようなショックを受けて、世界や生活を変えたいと思った。だがもう楽天もヤフーも存在していたし、(スマホ)アプリでも、欲しいと思ったアプリは探せば見つかるような状況。でもハードウェアだとそうでもなかった。僕はネット連動の傘立てとかがあれば便利じゃないかとずっと言ってきた。雨の予報があれば青く光るとか。そんなものはまだ世の中にない。画面で完結しないことのほうがインターネットには多い」(岩佐氏)

「モノを作った人」こそが語るべき

モノ作りのハードルが下がったとはいえ、デバイスの種類によってはその難易度は異なる。たとえばTelepathyのようなアイウェアであれば、Cerevoで受託開発を請け負っても5000万円以上の規模になるという(ただしここは井口氏と岩佐氏の間で見解が違っており、井口氏は「1億円でも難しい」と語る一方で、岩佐氏は最初井口氏に構想を聞いた時点で「8000万円でできる」と語ったと主張していた)。

だがMoffやFuelBandのような、Bluetoothや簡素な液晶の組み合わせであれば、数千万円前半でも製造が可能になってきている。岩佐氏は「実際にはやらないが、仮に『今からFuel Bandのコピー品を作って欲しい』と言われた場合、千何百万円の資金と半年の期間で作れるのではないか。その金額ならエンジェルインベスターからのファイナンスだけでも実現できる」とも語る(なお、セッション後に岩佐氏に確認したところ、前述の金額はあくまで開発費であり、在庫品を抱えるコストなどは別であると付け加えられた)。

ではモノを作ればそれだけでいいのか? 井口氏は「ハードウェアは製品開発だけではなく、製造流通、販売のディストリビューションという課題がある」と指摘する。岩佐氏も、「無給でもいいからアプリ作るというスタートアップと(ハードウェアの製造が)違うのは、金型でも何でも外に出て行くお金がある。そうなるとベンチャーキャピタルやエンジェルからのファイナンスはどうしても必要。身も蓋もないが、1にお金が必要だ」と語る。

岩佐氏は、投資家から資金を獲得する際に聞かれることは、「プロダクトを作れるのか」そして「そのプロダクトは売れるのか」の2つだけだと続ける。「後者に関しては、『分かってくれ』と説得するのは無理なので、ケースバイケースで実証するしかない」と語る岩佐氏。たとえばCerevoは、その売り上げの半数以上が海外なのだが、それは自分たちしか作れないものを作っているからだという。「みんなが『売れる』と思うものものはみんなが作る」(岩佐氏)

だからこそ重要になるのは、もう1つの課題である「作れるのか」をいかに解決するかだという。どこの工場の品質が高い、どこのメーカーのチップが安価か——部品や工場、資金繰りといった泥臭いことにどこまでこだわれるかが大事だという。岩佐氏は「結局はものを作って出せた人だけが話せる。ウェアラブルはバズっている。『未来だ』とも言われるが、ちゃんと商品にして出して、手に持って語るのが大事」と語った。

ノウハウを共有してグローバルで戦え

井口氏は「正直に言うが、ログバー(のRing)だってTelepathyだって、最初に『これをやるぞ』と言ったときは誰も作れなかった。そこで事業計画を書いて、製品計画を書いて、(VCに)持ち込むのはある意味気違いざたではないか」と岩佐氏に尋ねる。

岩佐氏は「自分たちも最初はそうだった」と振り返るが、プロダクトを出した今となっては、「そのノウハウを教えるので、みんな来て欲しい」と語る。井口氏によると、岩佐氏はTelepathyを創業する際に相談した人物の1人であり「貸し借りで言うとめちゃくちゃ借りてる関係」(井口氏)とのことだが、岩佐氏はその“借り”を自分に返すのではなく、「井口さんもプロダクトを出して、プレーヤーになって欲しい」と続けた。

井口氏は、先日米テキサス州オースティンで開催されたSouth by Southwest(SXSW)でも岩佐氏と「グローバルで日本人がどう戦うのか? という点では情報を融通していくべき」と語りあったと振り返る。そしてまた、工場やチップメーカーとの接点作りの難しさにも言及。ベンチャーと彼らがつながることで、より優れた製品が生まれるとした。

早く見たいのはTelepathyのプロダクト

このセッションで一番で印象深かったのは、岩佐氏が「結局はものを作って出せた人だけが話せる」と発言したくだりだった。チップや工場の価格にまで言及した際、井口氏はセッションの趣旨に沿って会話の軌道修正をすべく「カッティングエッジなカンファレンスで、売り掛けとか工場とか資金繰りといった泥臭い話が——」と発言したが、岩佐氏はそれを遮るかたちで「(泥臭い話が)大事です」と断言し、前述の「ものを作って出せた人だけが…」という話をはじめたのだった。

正直なところ、僕はTelepathyがプロトタイプの制作にあたっていくつかのトラブルを抱えている、と複数人の業界関係者から聞いていた。直近のSXSWでのデモも非常にクローズドな形で実施されたとのことだし、今回のセッションでもプロダクトが披露されることはなかった。実はTelepathyについては、ここ最近の開発状況も、井口氏の“泥臭い”努力、苦労も聞けずじまいでいる。

周囲からの話ばかりが聞こえてくる状況だからこそ、きっちりプロダクトを完成させてみんなの前に披露してくれるのを楽しみしている。ビジョンについて語るだけでなく、日本人が手がけたウェアラブルデバイスが本当に世界を席巻するさまを見たい。2013年11月に開催された「TechCrunch Tokyo 2013」で2014年内にプロダクトを発売すると語ってくれたTelepathyの今後を追いかけていきたいと思う。もちろんCerevoも、これから登場するハードウェアベンチャーも同様だ。


「井口さん、Telepathyは本当に作れるんですか?」TechCrunch Japan編集長が自社イベントで切り込む

スタートアップに関する日本最大規模のイベント「TechCrunch Tokyo 2013」が11月11日から12日にかけて開催された。2日目のオープニングセッションに登場したのはメガネ型ウェアラブルデバイス「Telepathy One」を開発するベンチャー、Telepathy創業者の井口尊仁氏と、同社に投資したFirsthand Capital Managementの最高投資責任者であるKevin Landis氏だ。

Telepathyというデバイスが実現する世界観について、そしてウェアラブルデバイスの未来について、TechCrunch Japanの西村賢編集長が切り込んだ。

Telepathy Oneは「Google Glass対抗」としても注目を集めるウェアラブルデバイスで、井口氏いわく、コミュニケーションにフォーカスした設計が特徴とのこと。言ってみれば「コミュニケーショントースター」というべき存在なのだという。「トースターというのはそれを見たときに、何に使うものなんだろう?と迷う人がいない」と井口氏は語った。Telepathyもコミュニケーションというシンプルな目的のために使われるデバイスになるようだ。

井口氏は現在のスマートフォンについて次のような課題を感じている。「スマホの大部分はコミュニケーションやシェアのために使われているが、たとえばFacebookで写真を撮って、アップロードして、シェアするのに12〜13ステップくらいかかっている」。だがTelepathyを使えば、これらのステップを限りなくゼロに近づけられるという。

「何かを伝えて、わかりあう。そういう日々行っていることをゼロステップに近づけて、まさにテレパシーのような体験を作りたい」。Telepathyはこうした井口氏の思想が盛り込まれた製品だそうだ。

ただし、その製品自体のスペックについては多くが語られることはなかった。常に身につけてネットに常時接続するにはバッテリの課題があるが、それについては「どのようにバッテリをマネージメントするか頑張っているところ」と話すにとどめた。Telepathyを操作するUIはどのようなものになるかを聞かれると、「たくさん話したいが広報から止められている(笑)」。

アイウェア型デバイスは腕時計とは違う。メガネをかける習慣のない人が朝起きて、それを装着するのはかなりのハードルではないだろうか。

井口氏は「それを考えると夜も眠れないし、朝も起きれない」と漏らした。「モーニングプロブレムとイブニングプロブレムという2つの課題がある。モーニングは朝それを持って出掛けてもらうこと。イブニングは電源をチャージしてもらうこと。それをクリアするためにはデザインもテクノロジーもアプリもUIも全部優れていないといけない。それを考えるとなかなか大変な開発だ」

途方もないチャレンジのように感じられる。西村編集長も堪らず聞いた。「井口さん、これ本当に作れるんですか?いつ出るんですか?」

井口氏はこう切り返した。

「我々はスタートアップなので誰もが容易にできることにチャレンジする必要はないし、そこにイノベーションはない。開発が大変でよかった。厳しいチャレンジに挑戦することができてよかった。」

決して強がりではないようだ。「ウェアラブルデバイスは誰にとっても大変なものだ。キラーアプリとそれを気持ちよく使えるようにするUI、バッテリコントロール、アプリを動かすチップセット、ディスプレイの機能、それらを含めて決して簡単ではない。でも簡単ではないからこそやっている」と言い切る。

そんな井口氏に投資するKevin Landis氏は、当然ウェアラブルデバイスの未来に大きな可能性を感じている。「携帯電話がスマートフォンに移り変わり、いまやスマートフォンは電話以上の存在になった。この薄い板のようなデバイスで何でもできる。ウェアラブルデバイスはその次の拡張になるだろう」(Kevin)。

Kevin氏はすでに世に出ているウェアラブルデバイスのうち、FitbitやJAWBONEも成功するとみている。「IPOもうまくいくだろう。2014年から15年にはできる」と予想した。その理由は彼らが「健康」という1つのユースケースに絞った上で、大きな市場を狙っているからだという。

「同じようにTelepathyもフォーカスしている。Facetimeを使うときに、お互いがデバイスを覗きこまなくても済むようになり、体験を共有し、より感情をコミュニケーションに入れられる。人が製品を意識しなくなり、製品が消える。それがもっとも美しい姿だ。」(Kevin)

しかし、何でもできるスマートフォンはかなり汎用的な機器として成功したのではないか? 西村編集長は聞いた。

そんなことはないと井口氏は言う。「たぶん皆さん、相当記憶の彼方に忘れていると思うが、iPhoneの最初のキラーアプリはiPodだった。あれだってウェアラブルデバイスだ。それまでデジタルとつながっていなかったミュージックプレイヤーをネットにつなぎ、1000曲をポケットに入れた。そこに音楽をデリバリーするiTunes。それがエコシステムの土台になっている。我々もそういうものを作ろうとしている。ウェアする価値のある、デイリーに必要な、かつウェアラブルじゃないとできないような体験性を、まさにiPodが音楽の聴き方を変えたような形で提供したい」

ところで2013年に入って腕時計型デバイスが出揃ってきた。SamsungやSonyが製品を発売し、Appleも「iWatch」なるものを開発しているとされる。なぜTelepathyは腕時計型ではなく、アイウェア型なのだろうか。

「大きなチャレンジだが、ウェアラブルに最適化された最高なUIを実現したいからだ。Google Glassもそこに大きな予算と高いR&D能力をつぎ込んでいる。コンピュータが使われる新しいスタイル、OS、アプリケーション、エコシステムを、一度にパラダイムシフトとしてやれるチャンスが、いま目の前にある」(井口氏)

もう一度聞きたい。いつ出るのだろうかーー。

井口氏は答えた。「2015年になると競争のチャンスがなくなる。2014年に届けたい。まずは米国のマーケットに向けて出す」。