価値の高いビジネスデータを共有、MSとアドビ、SAPがOpen Data Initiativeを拡大

昨年のMicrosoft Igniteカンファレンスでは、Microsoft、Adobe、SAPのCEOが一緒にステージに上り、Open Data Initiativeの立ち上げを発表した。この取り組みが目指すのは、それぞれの顧客が、お互いのサービス間でデータをやり取りしやすくすること。そのために、共通のデータフォーマットを標準化し、データをそれぞれのサイロから取り出して、顧客が選択した単一のデータレイクに移動できるようにする。今週開かれているAdobe Summitで米国時間の3月27日、3社はこのプログラムを拡大する計画を発表した。さらにパートナーを追加することも視野に入れている。

「私たちが力を合わせて取り組むのは、それぞれの顧客に共通の問題を解決するためです。その問題は、ずっと以前から言われ続けているもので、価値の高いビジネスデータほど、さまざまなアプリケーションの内側にサイロ化されているというものです」と、Microsoftのビジネスアプリケーションおよびグローバルインダストリ担当副社長のAlysa Taylor氏は語った。「データを取り出して、そのフォーマットを類推し、データに秘された情報を収集することは、非常にコストがかかり、手動の作業も必要で時間がかかるものなのです」。

このアライアンスの基本理念は、データは顧客のものであって、顧客はそこから可能な限り最大限の価値を引き出すことができなければならない、というもの。理想的には、共通のデータスキーマを持つことには大きな意味がある。つまり、顧客はベンダーから得たデータを変換する方法を考え出す必要もなく、そのすべてを簡単に1つのデータレイクに流し込むことができるようになる。それにより、そのデータを、さまざまな分析サービス、機械学習システム、さらに他の会社が提供するツールによって活用できる。

今回のAdobe Summitで、この3社連合は最初の顧客のユースケースを示した。それは、Unileverが、この共通のデータ標準をどのように利用しているかを明らかにするものだ。彼らが強調したかったさらに重要なポイントは、Open Data Initiativeは、当然ながら他の会社に対してもオープンになっているということ。その最初のステップとして同連合は、パートナー諮問委員会を設立することも米国時間3月27日に発表した。

「これが基本的に意味しているのは、このエコシステムを担っている主要な会社にも、ODIの取り組みに参加してもらえるように拡張した、ということです」と、Adobeのエコシステム開発担当副社長、Amit Ahuja氏は述べた。「私たちが始めようとしているのは、2つあるパートナーの大きなグループに焦点を合わせることです。そのうちの1つめは、この種のコアデータを多く持っている、本当に興味深いISVです。私たちは、そうした会社を、1つに統一された視野の中に確実に取り込みたいと考えています。そして2つめのグループは、自分たちのエンタープライズ向けアーキテクチャの中で、顧客を手助けしようとしている大手の事業者です」。

この新しい委員会に加わった最初の12のパートナーは、Accenture、Amadeus、Capgemini、Change Healthcare、Cognizant、EY、Finastra、Genesys、Hootsuite、Inmobi、Sprinklr、そしてWPPの各社だ。しかし、これはまだ最初のステップに過ぎない。やがて、このグループは、これら最初のパートナーをはるかに超えて拡大し、さらに多くの関係各社を巻き込んでいくはずだ。

「私たちは、本当にこれを広めたいと強く望んでいます。それにより、すばやく進歩し、私たちが話していることを実際にデモで示したいのです。コンセプトの段階でも、間違いなく顧客の利益になるものであることが分かってもらえるはずです」と、SAPのグローバルビジネス開発&エコシステム担当副社長、Abhay Kumar氏は述べた。このアライアンスが把握しているユースケースは、市場情報、販売情報、そしてサービス情報に重点を置いたものとなっていると、彼は付け加えた。

今日、企業は何十もの異なるシステムからデータを取り込む機会も多く、それらの情報をすべて理解するのはかなり困難となっている。そして、その段階に到達するだけでも、まずデータを変換して、利用可能な状態にする必要がある。そうするためには、データを解きほぐす、別のアプリケーションをいくつも動員しなければならない。「私も、そのために15から20ものアプリケーションを購入したくはありません」とAhuja氏は言う。「投資を身のあるものにして、すでに購入したアプリケーションへの投資を回収したいのです」。

この取り組みは、エンジニアリング、セールス、製品マーケティングの各グループにまたがるものであり、協力関係が非常に重要であると、3社は口を揃えて強調している。

(関連記事:Microsoft, SAP and Adobe take on Salesforce with their new Open Data Initiative for customer data

画像クレジット:Microsoft

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

Unileverが10億ドルでDollar Shave Clubを買収した理由

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【編集部注】執筆者のRyan Caldbeckは、消費財・小売企業の投資プラットフォームCircleUpの設立者兼CEO。

また新たな巨大消費財企業が、イノベーションではなく買収を頼りに成功を目論むという、デジャヴのような出来事だった。

今週、Unileverが設立5年のDollar Shave Clubを10億ドルで買収するというニュースが舞い込んできたのだ。先週は、設立から100年近く経っているDanoneによるWhiteWave Foodsの買収が発表された。Oreoを生産するMondelezHersheyCadburyの入札に参加するなど、今四半期だけとは言わずとも、今年中にはさらに同様のニュースを耳にすることになるだろう。

パーソナルケア用品、食料品、飲料品と、次々と異なるカテゴリーで同じパターンの現象が起きており、その様子はR&D機能をシステマチックに市場へアウトソースしているように映る。このモデルは、特に製薬業界でハッキリと見られ、The Economistが最近指摘していたように、大企業は自分たちで新薬の開発を行わず、他の企業を買収し、ディストリビューションや規制対応、統合処理などを行っている。

コスト削減:崩壊したシステムへの絆創膏

利益を生み出すためのコスト削減の分かりやすい例として、ブラジルでプライベート・エクイティ事業を行う投資会社3G Capital Partners LLPが、2013年にHeinzを買収し、その後HeinzがさらにKraftを490億ドルで買収していた。

昨年のHeinzによるKraftの買収以後、Kraft Heinzは15億ドル規模のコスト削減活動として、5000人以上の人員削減を行い、複数の工場を閉鎖したのだ。現在、3GはGeneral Millsの買収を目論んでいるとも噂されている。そして、Anheuser-Busch InBev NVがSABMiller Plcに対して行った買収提案も前進している。これらの企業は、成長ではなく、コスト削減による株主価値の最大化を狙っているのだ。

確かに、合併や統合によってコストを削減することで、短期的には株主価値が向上する。しかし、一度無駄を削減し終わったら、株主の手元には何が残るだろうか?そこには、イノベーションの欠如によるマーケットシェアの縮小という、買収や合併のきっかけと同じ問題が残り続けることになるのだ。株主価値の創造における重要な違いは、削減できるコストには(当然)限りがあるが、イノベーションには制限がない。

消費財・小売業界の大企業がイノベーションを生み出せていない状況は、Walmart対Amazonの戦いにハッキリと見てとれる。

Amazonは、今日の消費者のニーズをうまく満たすイノベーションで急成長を遂げている。洗濯用洗剤やコーヒーなどの商品を、文字通りボタンを押すだけで購入することができるDashがその好例だ。

一方Walmartは、低価格量販店のリーダーとしての歴史的な地位を保持するのに苦しんでおり、品質を落としたり、統合プロセスを省略したりと、既に削減されたコストをさらに削減しようとしている。例えば、最近Walmartはコストを減らすために、バタークリームアイシングの廃棄量を削減した

巨額買収:生み出せない企業が買いに走る

コスト削減の主な代替手段としての人気が増しているのが、イノベーションでの不利を埋め合わせるため、ダイナミックな新製品を持つ、設立間もない企業を買収するという戦略だ。この戦略は、実質的にR&D機能やイノベーションの創造を、リスクのとれる小さな企業へアウトソースしていることと同じだ。ここでのリスクとは、新製品を市場でテストすることや、ディストリビューション、パッケージを含めたブランドエクスペリエンス全体に関する面白いアイディアを考えだすことなどを指す。

短期間で株主利益を生み出さなければならないと企業にプレッシャーをかけている短期主義のせいで、単純に大企業にはリスクをとって失敗する余裕がないのだ。

現在いくつかの大企業は、アーリーステージでの投資を行うことでより良い道を模索している。

昨年6月末にKellogg Companyが、ベンチャーファンドを利用した大戦略の流行にのって、自社のベンチャー部門となるeighteen94を設立し、革新的な製品の取り込みのため、スタートアップへの投資活動を行っているのにもそのような背景がある。

他社もバランスのよい製品ラインナップのための買収を行っているが、往々にして買収額は高くついてしまう。最近の例としては、Coca-Colaによる持続可能な乳製品を製造するFair Oaks Farmsへの投資CampbellによるPlum Organicsの買収、Post Holdings Inc.による高タンパク飲料・食品の製造を行うPremier Nutrition Corp.の買収、そしてSteve MaddenによるDolce Vita Holdings Inc.の買収などがあげられる。

大企業:時間を稼いでいるだけ

イノベーションを生み出せずにいる消費財・小売大手企業のマーケットシェアは年々下がってきている。投資銀行Jefferiesの発表した調査レポート「Food: The Curse of the Large Brand」によると、過去5年間で54種類の主要食品カテゴリーのうち、42種類で大企業が小企業にマーケットシェアを奪われていた。同時に、Boston Consulting Groupは、2009年から2013年の間に消費財を扱う大企業のマーケットシェアが2.3%低下したとの推計を発表している。

巨大消費財企業は、日々変化する消費者の趣向に沿って市場の求める製品を生み出している革新的なスタートアップによってマーケットシェアを奪われていっているのだ。

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この背景には、人間が食べられるレベルのペットフードや、オーガニック製品、手軽で健康的なお菓子など、消費者がもっと自分にあった製品を求める中、新しい企業によって次々と製品カテゴリーが変化しているということがある。ヨーグルトを例にあげると、2008年から2013年の間に、Chobaniなどの新興企業が大企業からマーケットシェアの19%を奪いとっていた。

同様に、大手コーヒーブランドが7%ものマーケットシェアを失う一方、Blue BottleやArtisといった新しいコーヒーブランドが11%に及ぶマーケットシェアを獲得した。おふろ用品を見ると、大手企業のシェア低下幅と、The Seaweed Bath Co.やRock Your Hairなどの新興企業のシェア増加幅はそれぞれ3%だった。別の例が、Meridian Capitalの最近のレポートに掲載されていたScrub Daddyだ。Scrub Daddyは新しい種類のキッチン用スポンジを製造しており、人気番組Shark Tankへの出演の影響もあって、設立直後の状態から売上3500万ドルに到達するまで1年しかかからなかった。

大手消費財企業の経営数字を見ると、その真実が見えてくる。消費財業界における小企業にイノベーションの追い風が吹く中、Pepsicoは24億ドルをマーケティングに投入したものの、R&Dへの投資額はたった7億5400万ドルだった(2015年の数値)。Dollar Shave Clubのニュースを覚えているだろうか?2015年にUnileverは、80億ドルをマーケティングに投じた一方、R&Dへの投資額は10億ドルだったのだ。新鮮味に欠ける旧来の製品のマーケティングに、新しい製品の開発にかける金額の8倍ものお金を使っていることの意味を考えてみてほしい。新しくて快適な製品を生み出すということの優先順位が、単純に彼らの中で低かったのだ。

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そのため、マーケットシェアが減り、短期的な結果を求められ、イノベーションの創出に苦しんでいる消費財・小売大企業は、度重なるコスト削減やイノベーションの代替としての買収という危険な習慣に陥ってしまったのだ。

しかし、消費財業界でのディスラプションはまだはじまったばかりだ。コスト削減や巨額買収で時間を稼ぐことができたとしても、消費財・小売大企業は、本当の意味での成功を勝ち取るためには、イノベーションこそが前に進むための道だと気付かなければならない。

次回は、買収した企業のブランド価値を損なわずに統合していく方法について考えてみたい。ブランド価値の保護は、多くの上場企業において決定的な資産となるだろう。つまり、ブランド価値を上手く保てた企業が、市場全体のトップとしての地位も保つことができるのだ。詳しくは新しい記事に記していきたい。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

全米卵協議会、無卵マヨネーズ代替品 “Just Mayo” のHampton Creekに陰謀を企てた疑い

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American Egg Board[全米卵協議会(AEB)]は、連邦法に反して公的資金を使い、Hampton Creekの卵不使用マヨネーズ代替品 “Just Mayo” の販売を阻止しようとした疑いがある。USDA[米農務省]が調査を開始した。

Hampton CreekはAEBを、Whole Foods食料品チェーンでの販売行為を妨害しようと企てたとして訴え、情報公開法(FOIA)に基づきAEB幹部間で交わされた決定的証拠となる一連のメールを入手した。AEBのCEO Joanne Ivyは、同スタートアップについて「危機的状態であり重大な脅威」と指摘するメールを、AEBのPR会社であるEdelmanに送った。メールには、AEBが危機と認識する状況への対応についてPR会社の協力を求めていることも書かれていた。

やりとりは数年の期間にわたっており、Hampton Creekが最初の製品を発売する前にも遡る。AEBは独立請負人を通じてWhole Foodsと接触し、Hampton Creekの製品を発売前から販売しないよう工作したと見られている。

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「Whole Foodsがわれわれの側についた場合のPR効果を想像してほしい」、とマーケティングディレクターのElisa Malobertiは、2013年12月に他の役員へのメールに嬉々として書いた。結局Whole Foodsは “Just Mayo” を販売した。

このところHampton Creekに好意的に報道はなく、ここで一種の「ダビデ対ゴリアテ」的物語が必要になったように思われる。TechCrunchを含め、多くの人々がこのスタートアップ内のデータとプロセスに疑問を呈している。FDAは最近Hampton Creekに対して、同社が “Just Mayo” 製品を心臓に良くコレステロールを含まないという事実と異なるブランディングを行ったと指摘した。

しかしきな臭い話もある ― AEBはFDAに密告し、定義上マヨネーズではない製品に “myao” と名付けているとHampton Creekを訴えた(そして負けた)Unileverとも手を組んでいた可能性がある。AEBが送ったメールの一通は、Hampton Creekの “Just Mayo” のラベルについてFDAに異議を申し立てており、別の一通にはAEBがUnileverを助ける隠謀について書かれている。

Hampton Creekのファウンダー、Josh TetrickはこれらのメールをThe Guardianに持ち込み、AEBを監督するUSDAに調査を要求した。ユタ州選出のMike Lee上院議院も、報告書を見てUSDAのTom Vilsak長官に調査を依頼した。

「全米卵協議会が、シリコンバレー拠点の食品会社、Hampton Creekの人気菜食主義者向けマヨネーズ代替製品、’Just Mayo’ の市場需要を減少させるキャンペーンを取りまとめるという反競争的行為を犯し、連邦法に違反している疑いがあることがわかった」とLeeはVilsack宛に書いた。

USDAはこれらの申し立ての調査に着手した。同省は、AEBのメールとは距離を置いてきたことをTechCrunch宛のレターで語った。

法律に基づき、USDAはあらゆる研究推進プログラムを監督し、全米卵協議会もその一つだ。USDAの農業マーケティングサービス(AMS)は各団体を日々監視し、会計説明責任、プログラムの完全性、および利害関係者の公正な扱いの保全に務めている。AMSは協議会の大量の資料および議事録を承認しているが、協議会員あるいは事務員、その他USDA職員の全Eメールの内容を事前に承認することはない。

AMSは全米卵協議会に関わる問題について綿密な不服審査を遂行している。そこには大量の資料が関与しているため、AMSは迅速に審査を完了する予定ではあるが、完全な審査にはしばらく時間がかかるだろう。AMSは協議会の人事問題についてはコメントしない。

USDAは農業を強く支援しており、適切な規則の範囲内で製品の宣伝も行い、あらゆる適切な農業活動を保護、推進する公平な環境を確立することに尽力している。AMSは、商業的製品の競争を限定するいかなる行為も許容しない。 ― UADA広報官

一連のメールが一部の怒りを買ったのは間違いない。Josh Tetrickを「消せ」というジョークまで飛びだしたほどだ。

卵協議会のCEOは調査後に辞任した。Ivyは今年末に離職す予定だが、USDAは彼女が早期退職を選んだと説明している。それはUSDA監査が理由なのか? AEBはコメントしていない。質問はすべてUSDAに振り向けられた。

USDAのSam Jones広報官は、Joanne Ivyが早期退職したことしか認めていないが、「理由はよくわからない」と語った。Jonesはさらに、USDAは協議会の人事問題にはコメントしない、と付け加えた。

Hampton Creekの規定違反を指摘しようとするあまり、AEBは自らの規則を踏み外したのかもしれない ― 公的資金についても。卵協議会の設立を認めた法律には、「卵協議会が収集した資金は、いかなる形であれ、政府の方策あるいは行動に影響を与える目的で使ってはならない」と書かれている。

AEBのメールは現在USDAが審査中であり、後日追加情報が得られるはずだとJonesは言っている。情報公開法によって入手されたメール全文はここをクリックすれば読める。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook