気候変動と戦うための測量技術を提供するYard Stick

著者のJesse Klein(ジェシー・クライン)氏は科学、アウトドア、ビジネス分野のジャーナリスト。New Scientist、GreenBiz、The New York Times、WIREDに執筆している。ベイエリアのスタートアップで働いていたこともあり、明日のビジネスが直面する喫緊の課題に精通している。

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世界の気候変動問題を解決する鍵は、我々の足の下にあるかも知れない。土壌には、大気の3倍以上もの炭素吸収能力がある。だが地球上の土壌のおよそ45パーセントが農業に使われており、その農地のほとんどで、持続性のない土地管理慣習により最大30パーセントもの炭素が放出されている。

農地を、盛んに炭素を吸収できる場所に変えるには、農家は耕うんの削減、計画的な被覆作物の導入、輪作の拡大、生物多様性の強化といった再生可能な農業実践法に切り替え、炭素吸収力を管理できるようにする必要がある。とはいえ、計測ができなければ、何事も適切に管理することはできない。そこでYard Stick(ヤード・スティック)の出番となる。

「土壌炭素隔離は、大変に有効な炭素除去技術になり得ます」とYard StickのCEO、Chris Tolles(クリス・トールズ)氏はいう。「ただし、それを測定できる本当に高度な科学とテクノロジーがあればの話です」

再生可能な農業を定量化するのは難しい。土壌中の炭素量の測定も例外ではない。昔ながらの乾式燃焼法は大変な労力を要する。研究者たちは何エーカーもの土地を歩き回りながら土壌サンプルを掘り出し、遠く離れた研究室にそれを郵送する。研究室では、その土を燃やして炭素量を計る。

「見てのとおりの理由から、規模を拡大できません」とトールズ氏。「そうしたボトルネックをなくしてくれる測定技術が必要なのです」。

Yard Stickは、その提供者になりたいと考えている。同社の製品は、片手で扱える土壌用プローブで、その場で炭素量を計ることができる。マサチューセッツを拠点とするこのスタートアップは、米国エネルギー省のエネルギー高等研究計画局からの助成金325万ドル(約3億4400万円)を元手に非営利団体Soil Health Institute(土壌健康研究所)によって創設された。この助成金は、社会性のある技術的ソリューションの市場投入を特に目的としている。

Soil Health Instituteの最高科学責任者Christine Morgan(クリスティン・モーガン)博士、工学および電気エンジニアで炭素除去スタートアップCharm Industrial(チャーム・インダストリアル)の創設者であり元CTOのKevin Meissner(ケビン・マイスナー)氏、ネブラスカ大学助教授のYufeng Ge(ユーフェン・ジー)氏、シドニー大学のAlex McBratney(アレックス・マクブラットニー)氏という4人の土壌専門家がそれぞれの研究と専門知識を合わせて、スペクトル解析、抵抗センサー、機械学習、農業統計を活用し、その場で土壌の炭素量を測定し計算できるプローブを開発した。トールズ氏はこの製品を学界と商業市場に紹介する役割を担っている。

プローブはハンドドリルに装着して使用する。先端に取りつけられたカメラは、可視近赤外分光法を使って有機炭素から反射する特定の光の波長を捕らえられるよう調整されている。抵抗センサーは、地面にプローブをにねじ込む際にかかった力から土壌の密度を割り出す。この2つのインプットに、いくつか複雑なアルゴリズムと統計分析を加えることで、Yard Stickは土中の炭素量を、サンプルを掘り出すこともなく、それを研究所に送るという面倒もなく測定できる。

画像クレジット:Yard Stick

「1つ、サンプルをずっと早く採取できる。2つ、コストは劇的に低い」とトールズ氏。「そしてそれが意味するものが3つ目。私たちのテクノロジーは非常に安価で簡単で、サンプリング密度を劇的に高められるため、炭素貯蔵量のより正確な計測が可能になります」。

Yard Stickは現在、大手食品企業数社と協力して、米国中の農場で再生可能な農業の試験プログラムを実施している。Yard Stickは、農家に直接製品を販売する予定はなく、こうした企業のようなプロジェクト開発業者と提携している。それらのコネクションを利用して、Yard Stickは従来の王道であった土壌の炭素量測定法と同等の信頼性があることを実証し、そのコネクションを通じて農家に製品とサービスを販売したいと考えている。ハードウェアそのものではなく、データ測定サービスを販売するというのが同社の方針だ。

「分光計を所有したいという顧客はいません」とトールズ氏。「めちゃくちゃシンプルなものを作ったとしても、それで何をすればいいのか、わからないでしょう」。

Yard Stickでは人員を派遣して測定を行い、その後、データを意味の通じるかたちにした報告書を、農家やその他利害関係者に送る。料金はエーカーごとに可算される。トールズ氏は、プローブはいずれ、少し訓練するだけで誰にでも使える簡単なものになると予想しているため、従業員の数が律速要因になるとは考えていない。

2022年までに、Yard Stickは、数千台のプローブで20万エーカー(約8万ヘクタール)を測定したいと考えている。

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もっと多くのデータと、同程度に重要な、もっと多くのデータ共有があって、私たちは気候変動を回避する方向へ舵を切ることができる。しかし、データはセンシティブなビジネスであるため、参入が難しい。

「共有を好まない傾向にあるレイターステージの投資家の世界観には、限界があることを認識してほしいのです」とトールズ氏はいう。「そこには実に悲劇的なリスクがあります。情報は大変に価値が高いため、誰もが自分だけのものにしたがります。なので、土壌炭素市場の利益は、ずっと前から情報を独占してきた工業と農業の巨大企業に集中する一方です」。

土壌炭素市場の開放を目指すアーリーステージのスタートアップは、農地ではなく研究所で活動するLaserAg(レーザーアグ)、衛星を使って土壌の健康を遠隔測定するCloudAgronomics(クラウドアグロノミクス)など、他にも数社ある。しかし、Yard Stickの主要なライバルは、炭素貯蓄量の測定も管理もしていないすべての農場だ。トールズ氏によれば、それは全体の99.9パーセントだという。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Yard Stick気候変動農業二酸化炭素

画像クレジット:Yard Stick

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(文:ゲストライター、翻訳:金井哲夫)

米運輸省が初めて気候変動と環境正義プロジェクトに予算を配分

米運輸省による助成事業Infrastructure for Rebuilding America(米国を再建するためのインフラストラクチャ、INFRA)の一環として同省は初めて、総予算8億8900万ドル(約939億8000万円)の一部を気候変動と環境正義を対象とするプロジェクトに対し切り分ける。

助成採否の基準は、そのプロジェクトが、気候変動に対する総合的な戦略の一環であったり、無公害車の普及のためのインフラストラクチャや、交通や旅程の方法の変更などにより温室効果ガスの排出を削減する戦略を支援していることだ。

運輸長官のPete Buttigieg(ピート・ブティジェグ)氏が声明でこう述べている。「このかつてなく壊滅的なパンデミックから回復するために今こそ、わが国のインフラストラクチャに永続的な投資を行わなければならない。我々が本気で取り組むべきは老朽インフラストラクチャの再建だけでなく、米国人のコミュニティを未来の成功に導く道を再構築することである。それにより高給の雇用を作り出し、経済を活性化し、公平を確保し、気候の危機と戦うべきである。INFRAの補助事業は、これらの目標を達成するためのすばらしい好機である」。

同省の発表によると、人種的公正にも配慮される。その要求には、公平をベースとする福祉サービスと、行政サービスが十分に行き届かないコミュニティの受益、および近隣社会の好機と活性化と将来性を目指すプロジェクトが含まれている。

この新しい気候変動対策事業は、自動車などの電動化を目指しているスタートアップに意外に早く国の金が下りることを示しているとともに、すでに電気自動車産業を前進させている追い風にも、さらなる力を与える。さらに付随して、充電ネットワークも前進させる。

運輸省によると、助成事業のうち、大規模なインフラプロジェクトには2500万ドル(約26億4000万円)以上、承認要件を満たした小規模事業には500万ドル(約5億3000万円)以上が下りる。

助成の対象となるプロジェクトは再建、復興、不動産の取得(プロジェクトに関連する土地や土地改良のための土地など)、環境修復、機器取得、システムの性能に直結した運用方式の改善などとなる。

助成の申請は3月19日が締め切りだ

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タグ:米運輸省気候変動環境正義電気自動車

画像クレジット:DrAfter123/Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hiroshi Iwatani)

中国が企業間の炭素排出量取引制度の運用開始、気候変動にポジティブな影響の可能性

中国は現地時間2月1日、全国規模の炭素取引マーケットを立ち上げた。このマーケットが効果的に機能すれば、2021年における温室効果ガスを削減するための最も大きな取り組みになるかもしれない

中国は世界最大の温室効果ガス排出国で、世界の排出量に占める中国の割合は右肩上がりだ。

中国政府は環境への影響を抑えようと取り組んでおり、炭素取引システムのような政策は新テクノロジーの浸透、国内スタートアップや世界中のテック企業の商品やサービスに対する需要増を呼び起こすかもしれない。

米国では一部で、そして欧州では広範に導入されている炭素市場は産業からの炭素排出に価格をつけ、大気から同量の温室効果ガスを取り除くプロジェクトに投資することでそうした炭素排出を相殺するよう企業に促す。

これは2015年のパリ協定の重要な構成要素であるが、議論も呼んでいる。というのも、Carbon Markets Watchの政策担当官Gilles Dufrasne(ジレス・デュフラン)氏が2020年にタイム誌に語ったように、十分に実行され効果的に管理されなければ排出企業の「大きな抜け穴」になり得るからだ。

これは中国には特に当てはまる。中国では腐敗が繰り返されており同国は長い間、環境政策と経済成長の管理を犠牲にしてきた。こうしたことは中国だけではないが、他のどの国(米国を除く)よりも大規模な制度の運用が決定された。

政策の有効性はまた、中国共産党の官僚主義内に存在するヒエラルキーの影響を受ける。ChinaDialogueが指摘したように、中国国家発展改革委員会(NDRC)よりも弱い法的権限を持つ生態環境省によって政策は出された。NDRCは中国全土のマクロ経済政策と同国の主要経済イニシアチブの監督を行っている主要政府機関だ。

世界の温室効果ガスの28%を占めるという最大の排出国である中国ほど、大規模な排出取引マーケットを導入した国は他にない。

全国人民代表大会(NPC)の閉会式で演説する習近平国家主席、2018年3月、中国・北京(画像クレジット:Lintao Zhang/Getty Images)

中国はまず2011年に深セン、上海、北京、広東、天津、湖北、重慶、福建で排出ガス取引システムのテストを開始した。絶対的な排出上限値よりも炭素集約度(GDPユニットあたりの排出)に基づいた排出の上限を設けたシステムを使って政府は電力部門や他の産業でこうしたパイロットの展開を開始した。

2018年の構造改革後に、NDRCの後援の元に起草された計画は生態環境部に投げ渡された。排出上限・取引プログラムの移譲は、ちょうど米国がDonald Trump(ドナルド・トランプ)政権下で気候規制やイニシアチブを捨ててパリ協定から脱退する最中でのものだった。

中国の排出スキームは当初2020年に取引シミュレーションで開始するはずだったが、新型コロナウイルスパンデミックで妨げられ、2021年2月1日の実行まで半年後ろ倒しになった。

差し当たって排出取引は中国の電力産業と約2000の発電所施設をカバーしている。ChinaDialogueによると、これだけで中国の総排出量の30%を占め、今後取引システムはセメントや鉄鋼、アルミニウム、化学、石油・ガスといった重工業にもおよぶ。

当面、政府は無料の排出枠を割り当て、「状況に応じて適切な時期に」オークション枠を開始する。

そうした表現、それから炭素価格が利益と貸し出しリスクにもたらし得る効果について注意喚起している国有企業や金融サービス企業が提起した懸念は、中国政府がまだ産業成長にともなう環境的コストよりも経済的利益を重視していることを示している。

ChinaDialogueが引用したマーケット参加者の調査では、二酸化炭素1トンあたりの価格は41元(約670円)から始まり、2025年には66元(約1070円)に上昇すると予想されている。中国における二酸化炭素の価格は2030年までに77元(約1250円)になると見込まれている。

一方、経済学者Joseph Stiglitz(ジョセフ・スティグリッツ)氏とNicholas Stern(ニコラス・スターン)氏が提唱した炭素価格にかかるコミッションが2017年にできた。両氏はマーケットと価格が行動に影響を与えるとすれば、二酸化炭素は2020年までに40〜80ドル(約4200〜8400円)、2030年までに50〜100ドル(約5200〜1万400円)のレンジになる必要があるとの考えを示した。

そうした価格をつけている国はない。しかし欧州連合はかなり近く、その結果、温室効果ガスを最も削減している。

それでも中国政府の計画には、検証済みの企業レベルの排出量についての公開報告要件が含まれている。そして、もし政府が実際の価格をつけることを決めた場合、マーケットの存在は炭素排出を追跡するための技術を開発しているモニター・管理機器のスタートアップにとって大きな恩恵となり得る。

ChinaDialogueのアナリストは以下のように記している。

カーボンプライシング(炭素の排出量に価格づけを行うこと)の最も困難な部分は往々にして開始時にあります。中国政府が国家の排出量取引制度(ETS)で目標を高く設定すると決めることは可能です。メカニズムが今、動き出し、習国家主席の気候分野における野心による勢いと政治的意思が衰えなければ、加速するかもしれません。数年のうちに、これは上限の低下、多くの部門のカバー、透明性のあるデータ提供、効果的な政府間の調整につながるかもしれません。ETSを縄張りへの脅威としてではなく、政策目標のために大きなコベネフィットをともなう方策としてとらえる必要があるエネルギー・産業当局においては特にそうです。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:中国二酸化炭素二酸化炭素排出量気候変動

画像クレジット:大杨 / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Jonathan Shiber、翻訳:Nariko Mizoguchi)

アクセラレーターUrbanーXは世界がその環境思想に追いついてきたこの機に次期コホートを決定

ベンチャー投資ファンドUrban US(アーバン・アス)とBMWの子会社であるMINI(ミニ)が、持続可能で回復力のある未来の都市居住問題に第一義的に取り組む企業を支援する目的で立ち上げたアクセラレーターのUrban-X(アーバンエックス)の新しいコホートが決まった。

第9期となる今回の参加企業は、Urban-Xとその親会社が長年取り組んできたUrban-Xの使命に世界最大手の投資会社が賛同し始めたこの時期に、市場展開することとなる。早い話が、気候が変動しているため、変化した環境に人が適応できるよにする技術的ソリューションが求められているということだ。

「2014年の気候テック投資家として、2021年にいられてよかった」とUrban USの共同創設者Stonly Baptiste Blue(ストーンリー・バプティース・ブルー)氏はいう。「持続可能性と気候変動に対処するスタートアップが今ほど追い風に恵まれた時期はないと、納得されると思います」。

もちろんUrban−Xの仕事は、単に気候変動と復興に対処するだけではない。今後数年で資金を調達し投資者に大きなリターンをもたらすであろう企業として、この分野のスタートアップが目立つようになってきた。

「私たちが見ているのは、気候市場の数百兆ドル(数京円)という資金の波です」とバプティース・ブルー氏。「今が気候の10年であることを示す証拠はたくさんあります」

そして、バプティース・ブルー氏が将来に期待するように、野心的な起業家が大きな新ビジネスを立ち上げる機会はまだまだたくさんある。

「物事がますます厄介になり、災害が日常のものとなる中、復元力を備え、人と人とのコミュニケーションを保つために、災害リスクから情報遮断対策、コミュニティ構築と、この気候テック投資の第2波で私たちがカバーしようとしてる課題は数多くあります」とバプティース・ブルー氏は話す。

今回の新しい講座でUrban−Xが支援する企業には、その条件にぴったり一致するものがある。ソーラー電力の交直変換を集中管理する装置を展開するDomatic(ドマティック)、復元プラットフォームのためのコミュニケーションプラットフォームを構築するOneRoof(ワンルーフ)、災害リスクを軽減する機械学習プラットフォームDorothy(ドロシー)などがそうだ。

TechCrunchの調べでは、現在、同アクセラレーターの内部利益率はおよそ29%だ。

今回参加するコホート企業は以下のとおり。

  • Builders Patch(ビルダーズ・パッチ):安価で複数世帯が暮らせる住居のためのデータプラットフォームおよびマーケットプレイス
  • Domatic(ドマティック):交流主体のソーラー電力供給の普及を目指す集中型の交直変換装置を販売
  • Dorothy(ドロシー):宅地単位で高度な災害リスクの分析が行える機械学習プラットフォーム
  • OneRoof(ワンルーフ):コミュニティ住宅と復元コミュニケーションプラットフォーム
  • Oonee(ウーニー):安全な自転車置き場の管理とマイクロモビリティ関連サービスのためのeコマース・プラットフォーム
  • Origen Hydrogen(オリジェン・ハイドロジェン):大型車両、工業、長期バックアップ電源のための環境にやさしい水素を製造する低価格のハードウェア
  • Singularity(シンギュラリティー):AIとデータを駆使した炭素排出情報と予測のためのプラットフォーム
  • Urbio(アービオ):都市や公共施設のエネルギー革命のための計画とデザインを支援するソフトウェア。
カテゴリー:EnviroTech
タグ:Urban-Xアクセラレータープログラム気候変動持続可能性

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)