災害地域で高速通信回線を確保するための移動基地局車「THOR」をベライゾンが発表

世界各地を襲う猛烈な暑さが、世界中で災害の数、規模、複雑さを加速させている。この数週間だけで、米国の太平洋岸北西部では、記録的な暑さのために数百人もの死者が出ており、今後もさらなる猛暑が予想されている。

熱波、山火事、ハリケーン、台風をはじめとするさまざまな気象災害は、エネルギー事業や通信事業などのインフラ事業者に大きな難題をもたらしている。これらの事業者は、人類がこれまでに経験したことのないような厳しい環境の中でも、顧客のために稼働率を可能な限り100%に近づけなければならない。

そのために、Verizon(ベライゾン、念の為に書き添えておくと、同社は今のところ、TechCrunchの最上位の親会社だ)は米国時間7月6日「Tactical Humanitarian Operations Response(戦術的人道主義活動対応)」のために作られた「THOR(トール)」と呼ばれる車両の最初のデモ機を発表した。Ford(フォード)の「F650」ピックアップトラックの車台をベースに設計されたTHORは、5G Ultra Wideband(超広帯域無線通信)や衛星アップリンクなどの無線技術を用いて、最前線の緊急対応要員や市民に、機動性と耐障害性に優れた通信回線を提供することを目的としている。

ベライゾンのTHORは、5Gや衛星アップリンクなどの無線技術を展開し、最前線のレスポンダーに通信回線を迅速に提供することができる(画像クレジット:Verizon)

ベライゾンは、国防総省のNavalX(ネーヴァルエックス)およびSoCal Tech Bridge(南カリフォルニア・テック・ブリッジ)と共同でプロトタイプを開発し、先週サンディエゴの北に位置するMarine Corps Air Station Miramar(海兵隊ミラマー空軍基地)で公開した。

THORは、無線通信に加えて、さまざまなドローン機能を展開できる可能性も備えている。例えば、捜索・救助活動のためにドローンを配備したり、時間とともに拡大する山火事の状況を把握して消防士を支援したりすることができるだろう。

数週間前にもご紹介したように、ベライゾン、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)などの通信事業者は、モバイルワイヤレス機器の迅速な設置から、AT&TのLTE基地局として機能する飛行船「FirstNet One」のような斬新なソリューションまで、さまざまなレジリエンス(災害復旧力)施策への支出を増やしている。

政府、民間企業、保険会社、そして個人が、世界的に激化する自然災害に直面し、対応を求められる中「DisasterTech(災害テクノロジー)」は規模を問わず多くの投資家や企業から注目を集めている。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Hirokazu Kusakabe)a

テクノロジーと災害対応の未来4「トレーニング・メンタルヘルス・クラウドソーシング、人を中心に考えた災害対応スタートアップ」

災害がすべて人災というわけではないが、災害に対応するのはいつも人間である。対応する緊急事態の規模が小さいとしても、さまざまなスキルと専門性が必要となる。防災計画や災害後の復旧時に必要となるスキルを除いたとしても、必要なスキルや専門性は多岐にわたる。ほとんどの人にとって割に合う仕事ではないし、ストレスからくる精神的な影響が数十年にわたって続くこともある。それでも、この終わりなき戦いへと多くの人が立ち向かい続けるのは、最も必要とされているときに人を助けるという、この仕事の究極の使命があるからこそだろう。

テクノロジーと災害対応の未来に関するこのシリーズでは、3回にわたってテクノロジーを中心に取り上げてきた。具体的には、新製品の販売サイクルモノのインターネット(IoT)が全面的に普及することによるデータの急増データをどこにでも拡散できる接続性について考えた。一方で、それに関わる人たちという側面についてはあまり触れてこなかった。つまり、災害に実際に対応する人たち、そうした人たちが直面している課題、およびそうした課題をテクノロジーで解決する方法といった点だ。

そこで、シリーズ4回目で最終回となるこの記事では、災害対応時に人とテクノロジーが交差する4つの分野(トレーニングと開発、メンタルヘルス、クラウドソーシングによる災害対応、非常に複雑な緊急事態が発生する可能性)と、この市場の今後の可能性を取り上げる。

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災害に対応するためのトレーニング

大半の分野では、トレーニングに対して線形的なアプローチをとる。ソフトウェアのエンジニアになるには、コンピューターサイエンス理論を学び、プログラミングの実践練習をすればよい(個人差はあるが)。医師になるには、学部のカリキュラムに加えて生物学や化学を履修し、医学部で本格的な解剖学などのクラスを2年間みっちりこなしてから、臨床研修ローテーション、研修医、必要に応じて研究職などを経験する。

では、緊急事態に対応する要員をトレーニングするには、どうすればよいか。

緊急電話対応オペレーター、EMT(緊急医療チーム)、救急救命士、緊急時計画策定者、さらには現場で災害対応を行う緊急救助隊員などが任務を適切に実行するために必要なスキルは数え切れない。ハードスキルに含まれるような、緊急隊員派遣用ソフトウェアの使い方や災害現場からの動画のアップロード方法に関する知識だけでなく、正確に意思を伝達する能力、冷静さ、高い敏捷性、臨機応変な対応と一貫性のバランスといったソフトスキルも極めて重要だ。一貫性がないという要素も非常に重要である。1つとして同じような災害は発生しないので、情報を入手することが難しく、極度のプレッシャーがかかる状況でも、これらのスキルを直感的に組み合わせて発揮する必要がある。

こうしたニーズに応えるのが「EdTech」と呼ばれるサービスだ。しかも、EdTechが役立つのは緊急事態の対応時だけではない。

コミュニケーションには、チーム内で意思の疎通を図ることに加えて、さまざまな地域でコミュニケーションを取ることも含まれる。RAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「このようなスキルは、ほとんどがソーシャルスキルです。さまざまな背景の人たちと、文化的にも社会的にも適切な方法でやり取りできるスキルです」と説明する。同氏によると、緊急時管理の分野ではこの問題に対する関心が近年高まっており「我々が必要としているスキルとは、災害発生現場に存在しているコミュニティとやり取りするためのもの」だという。

ここ数年のテック業界でも見られることだが、異文化とコミュニケーションを図るスキルは乏しい。経験を積むことでこのようなスキルを習得することは可能だが、共感するスキルや理解力を育むために、ソフトウェアを使ったトレーニングは可能だろうか。あらゆる条件下でコミュニケーションを効果的に取る方法について、緊急時対応要員(に限らずあらゆる人たち)を教育するために、効果的で良い方法を開発できないか。スタートアップにとっては、この問いに挑むことが大きなビジネスチャンスとなる。

緊急時対応は、キャリアパスとしても十分に成長している。「この分野の歴史は大変興味深く、今や専門性が高まっており、さまざまな認定資格も用意されている」とクラークギンズバーグ氏はいう。こうした職業化によって「緊急時対応が標準化されたため、さまざまな資格を取得することで、習得したスキルと知識の範囲が明確になる」という。認定資格を取得すると特定のスキルを証明することになるが、全体的な評価にはならい。そのため、新しいスタートアップにとっては、より良い評価を行う機会を提供するビジネスチャンスとなる。

誰にでも経験があることだが、緊急時対応要員は何度も繰り返して作業することで慣れてしまっているため、新しいスキルの習得がさらに困難でなる。緊急時データ管理プラットフォームRapidSOS(ラピッド・エス・オー・エス)のMichael Martin(マイケル・マーチン)氏によると、緊急電話対応オペレーターは作業を体で覚えてしまっているため「新しいシステムに切り替えるのはリスクが高い」という。インターフェイスがどんなにお粗末な既存ソフトウェアでも、新しいソフトウェアに変更すると個別対応が遅くなるだけでなく、エラーが発生する危険性も高まる。ラピッド・エス・オー・エスが年間25000時間のトレーニングやサポート、インテグレーションを提供している理由もそこにある。スタッフのトレーニングやソフトウェアの切り替えに関連するサービスの需要は依然として非常に高く、個別に提供されていることが多い。

このようなニッチ市場は別として、この分野では教育の抜本的な見直しが全面的に必要である。私の同僚のNatasha Mascarenhas(ナターシャ・マスカレーナス)は先に、Duolingo EC-1(デュオリンゴ・イー・シー・ワン)というアプリに関する記事を公開した。このアプリは、第2外国語の学習に関心がある学生がゲーム感覚で参加できるように設計されており、非常に魅力的なサービスである。初期対応救助員が取り組めるような、このようなトレーニングシステムはない。

Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、災害発生時の救助隊員を志望する退役軍人のチームを構成している非営利団体Team Rubicon(チーム・ルビコン)のCOO兼社長である。同氏の組織はこの問題について、これまでより多くの時間を割いて考えるようになったという。「災害復旧に不可欠な要素は、教育に加えて情報にアクセスできることです。我々は、このギャップを埋めていけるように取り組みます。(学習管理システムよりも)シンプルに情報を提示する方法を考えています」と同氏は説明し、定期的に新しい知識を提供すると同時に既存の考え方もテストする「フラッシュカードのような短期集中型の訓練」が救助隊員には必要だとする。

また、ベストプラクティスを世界中に急いで拡大する必要もある。Tom Cotter(トム・コッター)氏は、被災地や貧困地域の医療従事者をバックアップする非営利団体Project Hope(プロジェクト・ホープ)の緊急時対応準備担当ディレクターを務めるが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況では「さまざまな教育が(まず初期段階に)必要でした。臨床レベルで大きな情報格差があり、情報をコミュニティ全体に伝える方法を教える必要がありました」と話す。プロジェクト・ホープはBrown University(ブラウン大学のWatson Institute(ワトソン研究所)と、パワーポイント形式の対話型カリキュラムを開発した。このカリキュラムにより、最終的に新型ウイルスについて10万人の医療従事者を教育するために使用されたという。

利用できるさまざまなEdTech製品について考えると、1つ特殊なことに気づく。製品の対象が非常に狭いことだ。アプリには言語学習用、数学学習用、読み書き能力開発用などがある。医学生に人気のAnki(アンキ)などのフラッシュカードアプリ、よりインタラクティブなアプローチとしてLabster for science experiments(科学実験用ラブスター)Sketchy for learning anatomy(解剖学の学習用スケッチー)などもある。

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しかし、シリコンバレーで提供されているさまざまな短期集中トレーニングでも、本物の新入隊員訓練プログラムのような方法で学生を根本から訓練するようなEdTech企業は存在しない。ハードスキルを習得しながら、ストレスに対処するスキル、急速に変化する環境に対応するために必要な適応性、共感を持ってコミュニケーションを図るスキルも習得できるプログラムを提供するスタートアップは、いまだかつて存在したことがない。

こういう訓練は、ソフトウェアでは不可能なのかもしれない。あるいは、教育に対する考え方に革新を起こす気概をもって、全力で取り組む創業者がまだ現れていないのかもしれない。必要とされているのは、次世代の緊急時対応管理プロフェッショナルの教育、また最前線の作業員と同じくらい民間企業でストレスに対処するための教育、すばやく決断する必要があるすべての社員の教育を抜本的に変える方法である。

公的安全企業Responder Corp(レスポンダー・コープ)の社長兼共同創業者Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏が考えているのは、まさにその点だ。「私が個人的に気にいっている分野は、VRによるトレーニング空間です」と同氏はいう。消火活動などの「大きなストレスがかかる現場の環境を再現するのは非常に難しい」が、新しいテクノロジーを使えば「トレーニングで心拍数の上昇を体験することができる」。同氏は「VRの世界は大きなインパクトを与えることができる」と結論づける。

災害後の癒やし

トラウマという点では、緊急時対応の現場ほど大きなトラウマに直面する分野はあまりない。緊急時の現場では、想像し得る最悪の悲惨な光景に、作業員は直面せざるを得ない。死と破壊は当たり前だが、忘れられがちなのが、初期対応救助員がしばしば経験する、自分ではどうしてよいか分からない状況だ。例えば家族を救助できないため、最後の慰めの言葉をいうしかない緊急電話対応オペレーターや、現場に到着したものの必要な機器がないため、対応できない救急救命士などだ。

心的外傷後ストレスは、初期対応救助員が直面する精神異常として、おそらく最もよく知られた一般的なものだが、精神面に現れる異常はそれだけではない。こうした異常を改善し、場合によっては治療するサービスは投資対象となる急成長分野で、多くのスタートアップや投資家が事業を拡大している。

例えばRisk & Return(リスク&リターン)は、メンタルヘルスおよび社員の一般的なパフォーマンス改善に取り組む企業に特化したベンチャー企業だ。私が先に書いた同社の紹介記事で、代表取締役社長Jeff Eggers(ジェフ・エガーズ)氏は次のように語っている。「私はこの種のテクノロジーが気に入っています。というのは、現場の初期対応救助員に役立つだけでなく、コミュニティにもメリットがあるからです」。

リスク&リターンのポートフォリオ企業から、このカテゴリーで異なる成長経路をたどった2社を紹介しよう。まず、Alto Neuroscience(アルト・ニューロサイエンス)を紹介する。この会社は、Stanford(スタンフォード)大学で神経科学者および精神科医として学際的研究を行っているAmit Etkin(アミット・エトキン)氏によって創業された。水面下で活動してきたスタートアップで、脳波データに基づいて心的外傷後ストレスやその他の症状を治療する臨床治療法を新たに開発している。治療法に注力しているため、治験や規制当局による承認はおそらく数年先になると思われるが、これはイノベーションの最先端を行く研究である。

2つ目の会社は、アプリを使って患者のメンタルヘルスを改善するソフトウェアスタートアップNeuroFlow(ニューロフロー)だ。この会社のツールは、継続してアンケートやテストを実施し、開業医との協力を得ることで、精神面の健康をよりアクティブに監視し、最も複雑なケースでも症状や再発を特定する。ニューロフローのツールはどちらかというと臨床に近いが、近年はHeadspace(ヘッドスペース)Calm(カーム)などのメンタルウェルネス関連のスタートアップも頭角を現している。

治療法やソフトウェア以外の分野では、メンタルヘルスの最前線としてサイケデリックスのようなまったく新しい分野もある。これは、筆者が2021年始め、2020年の投資対象の上位5つとして挙げたトレンドの1つであり、この考えは今も変わっていない。また、サイケデリックスを重視した患者管理臨床プラットフォームであるOsmind(オスミンド)というスタートアップについても記事を掲載している

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リスク&リターン社はサイケデリックス分野に投資していないが、同社の取締役会長で9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は「政府機関がサイケデリックス分野に投資するのは難しいですが、民間企業であれば簡単に投資できます」という。

EdTech同様、メンタルヘルス系スタートアップは最初は初期対応救助員のコミュニティをターゲットにしているものの、対象を限定しているわけではない。心的外傷後ストレスやその他のメンタルヘルス疾患は、世界中で多くの人を悩ませる症状であり、あるコミュニティで効果があった治療法を別のコミュニティにも幅広く適用できる可能性は大いにある。市場規模は非常に大きく、大勢の人たちの生活が大幅に改善される可能性を秘めている。

話を進める前に、興味深い分野をもう1つ挙げておきたい。それは、治療に大きな影響を及ぼすコミュニティの構築だ。初期対応救助員や退役軍人たちは、現役時に使命感や仲間意識を感じることができるが、再就職後や社会復帰前の回復期には、そうした感覚が欠落してしまうことが多い。チーム・ルビコンのデラクルーズ氏によると、退役軍人を被災地の救援活動に参加させる目的の1つは、彼らがアイデンティティを取り戻し、コミュニティとの関わりを取り戻してもらうことであり、国に奉仕したこうした人たちはとても貴重な人材であると指摘する。患者ごとに1つの治療法を見つけるだけでは十分ではない。大抵の場合、目をさまざまな人たちに向けて、精神面の健康を損なう要因を確認する必要がある。

そのような人たちが目的を見つけるのを支援するのは、スタートアップが簡単に解決できる問題ではないかもしれないが、多くの人にとって重要な問題であることは間違いない。ソーシャルネットワークの評価がどん底まで落ちた今、この分野に新しいアプローチが次々と芽生えている。

クラウドソーシングによる災害対応

近年、テクノロジーの世界では分散化が主流となっている。TechCrunchの記事でブロックチェーンという単語に言及しただけで、トイレの染みに関する最新のNFTに関するPRメールが少なくとも50通は届く。さまざまな情報が混在していることは明らかだが、災害対応の分野でも分散化が役立つ。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが証明したものがあるとすれば、それはインターネットの強みだ。インターネットには、データを収集して、データを検証し、ダッシュボードを構築して、複雑な情報を分かりやすく効果的に視覚化し、専門家と一般向けに配信できるという強みがある。このようなサービスは、世界中の人たちが自宅でくつろいでいる時に開発しており、問題が発生したときに対応できる腕を持つユーザーをクラウド上で迅速に集めることができることを実証している。

Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「新型コロナウイルスは、我々の想像をはるかに上回る最悪の事態をもたらした」と話す。しかし、オンラインで共同作業するさまざまな方法を利用できるようになったことについては「大変ワクワクしているし、実践的で非常に役に立っている」と指摘する。

ランドのクラークギンズバーグ氏は、この状況を「災害管理の次世代フロンティア」と呼んでいる。同氏は「テクノロジーを使って災害管理や災害対応に参加できる人数を増やせるなら」、災害に効果的に対応する革新的な方法を確立できるだろうと語る。「プロの現場作業員の形式的な体制が強化されることで人命が救われ、リソースを節約できているものの、一般人の緊急時対応要員を活用する方法については、まだまだ取り組むべき余地が残されています」と主張する。

クラウドソーシングによるさまざまな取り組みを支えているツールの多くは、災害対応を目的としていない。シュリー氏は、リモートで活動する一般人の初期対応救助員が使用しているツールの例として、Tableau(タブロー)とデータ視覚化ツールプラットフォームFlourish(フローリッシュ)を挙げる。表形式データを扱う極めて堅牢なツールはあるが、危機発生時に必要となるデータのマッピングを処理するツールの開発はまだ初期段階だ。筆者が2021年初めに紹介したUnfolded.ai(アンフォールデッド・アイ)は、ブラウザ上で動作するスケーラブルな地理空間分析ツールの構築に取り組んでいる。他にもさまざまなツールが開発途上だ。

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新型コロナに苦しむ人を救う開発者の卵が作ったDevelop for Goodが学生と非営利団体を繋ぐ

多くの場合、コーディネーターをまとめるにはさまざまな方法がある。筆者が2020年注目したDevelop for Good(デベロップ・フォー・グッド)という非営利団体は、野心のあるコンピューターサイエンス専攻の学生と、パンデミックで人手が不足している非営利団体および政府機関のソフトウェアプロジェクトやデータプロジェクトと結びつけることを目的としている。こうしたコーディネーターが非営利団体の場合もあれば、Twitter(ツイッター)のアクティブなユーザーの場合もある。分散的な方法でさまざまな取り組みを調整しながら、プロの初期対応救助員や公的機関と関わり合う方法については、試験的な取り組みが続いている。

分散化と言えば、災害対応や危機対応にブロックチェーンが役立つことさえある。ブロックチェーンを証拠の収集や本人確認に使用できる場合がある。たとえば今週始め、TechCrunchの寄稿者Leigh Cuen(リー・クエン)氏は、Leda Health(レダ・ヘルス)が開発した家庭内性的暴行の証拠収集キットについて詳しく報告している。このキットではブロックチェーンを使用して、サンプルが収集された正確な時刻を確認できる。

クラウドソーシングと分散化を利用する方法には他にもいろいろな可能性があるが、そうしたプロジェクトの多くは、災害管理自体とはまったく異なるさまざまな応用事例がある。これらのツールは実際の問題を解決するだけでなく、災害自体とはほとんど無縁だが他者を助ける活動に参加することには熱心な人たちのために、本物のコミュニティを作ることも可能だ。

未曾有の災害に備える

スタートアップに関して筆者が紹介した3つの市場(トレーニングの質の向上、メンタルヘルスの向上、クラウドソーシングによる(データ関連の)コラボレーションツールの向上)は、創業者にとって価値があるだけでなく、ユーザーの生活の質を向上させることができるため、極めて魅力的な市場となっている。

Charles Perrow(チャールズ・ペロー)氏は著書「Normal Accidents(普通の事故)」の中で、複雑さと癒着度が高まる現代の技術システムにおいては、災害が確実に発生するであろうと述べている。さらに、温暖化と毎年発生する災害の大きさ、頻度、異変性を考えると、人類はこれまでに対応したことがないまったく新しい形の緊急災害に直面する可能性が高い。最近では、テキサスの大寒波で送電網が弱体化し、数時間にわたって州全体が停電する事態となり、一部の地域では数日間続いた。

クラークギンズバーグ氏は「我々が目にしているこうしたリスクは、単なる典型的な山火事のようなものではありません。通常の災害であれば対応体制も整っており、容易に準備して危機を管理できます。よく発生する災害管理にはノウハウがあります。しかし最近では、これまでに経験したことがないような緊急事態が発生することが多くなっており、そうした事態に対応する体制を構築するのに苦戦しています。パンデミックはまさにそうした例の1つです」と説明する。

同氏はこうした問題を「境界線を越えたリスク管理」と呼んでいる。つまり、役所、専門性、社会性、行動や手段といった境界を越えた災害のことだ。「こうした災害に対応するには、敏捷性、迅速に行動する能力、お役所体制にとらわれずに作業する力が必要となります。これは大きな問題です」。

災害とその対応に必要となる個々の問題に対しては解決策を立てられるようになってきたものの、こうした緊急事態によって表面化する体系的な取り組みが無視されている現状を見逃すことはできない。最大の効果をあげる画期的な方法で人材を迅速に集めると同時に、ニーズに応える最善のツールを柔軟かつすぐに提供する方法を考える時期にきている。スタートアップ企業がこの問題を解決するというより、利用可能な情報を用いて斬新な災害対応を構築するという考え方が必要だろう。

Natural Resources Defense Council(天然資源保護協議会)の政策アナリストAmanda Levin(アマンダ・レヴィン)氏は次のように語っている。「温室効果ガスを削減したとしても、地球温暖化から受ける圧力と影響は極めて大きいものがあります。温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、その影響は続きます」。筆者がインタビューした政府関係者の1人は匿名を条件に、災害対応について「常に何か物足りない結果に終わっています」と語った。問題は難しくなる一方だ。人類は自分たちが作り上げてしまったこの試練に対応するために、今よりはるかに優れたツールを必要としている。それは、今後100年間の厳しい時代の課題であると同時に、試練を克服するチャンスでもある。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

新興EVメーカーFiskerは2027年までに気候変動に影響を与えないEVの製造を目指す

電気自動車メーカーのFisker Inc(フィスカー)は、2027年までに同社初のクライメイトニュートラルな(気候変動に影響を与えない)自動車を作り上げるというムーンショット目標を掲げている。

フィスカーはまだ実際にクルマを販売していない(クライメイトニュートラルであろうとなかろうと)ので、この目標は野心的と言える。「Fisker Ocean(フィスカー・オーシャン)」と名づけられた完全電気自動車のSUVは、2022年11月の生産開始を目指していまだ開発が続けられている途中にあるが、クライメイトニュートラルになるのはこのクルマではなく、Henrik Fisker(ヘンリック・フィスカー)CEOによれば、まだ発表されていない別のクルマになるという。同氏は米国時間6月8日、投資家向け報告の中でこの目標を明らかにした。

ヘンリック・フィスカー氏は、Aston Martin V8 Vantage(アストン マーティンV8ヴァンテージ)や、Aston Martin DB9(アストン マーティンDB9)、BMW Z8など、印象的なクルマのデザイナーとして有名になったシリアルアントレプレナーだ。同氏は投資家向けオンライン会見で、他にもいくつかの最新情報を提供した。フィスカー・オーシャンの航続距離は、これまで推定されていた300マイル(約483キロメートル)を超え、最大350マイル(約563キロメートル)になるという。株主に配布された年次報告書によると、オーシャンには3月の時点で1万4000件以上の予約が入っているとのことだ。

2020年10月に特別買収目的会社のApollo Global Management (アポロ・グローバル・マネジメント)との合併により29億ドル(約3170億円)の評価額で上場したフィスカーは、2025年までに4台の新型車を市場に投入することを目指している。そのうちの1台は、同社のFM29プラットフォーム・アーキテクチャーを採用した「UFO」と呼ばれる高級車になる可能性があると、フィスカーは火曜日に示唆した。

フィスカーのカーボンニュートラル計画

これまでさまざまな業界で多くの企業が、カーボンニュートラルの実現という公約を掲げてきた。ヘンリック・フィスカー氏は、そのクライメイトニュートラルという目標を達成するために、カーボンオフセットを購入するつもりはないことを、投資家に強調した。カーボンオフセットとは、企業がプロジェクトや製品でCO2削減を「主張」するために購入できるクレジットのことだ。代わりにフィスカーでは、サプライヤーと協力して、気候変動に影響を与えない材料や製造プロセスを開発すると述べている。

同社のウェブサイトでは、提案している戦略の一部が紹介されている。そこでは自動車のライフサイクルを「調達」「製造・組立」「物流」「使用段階」「廃車」という5つの段階に分け、それぞれの段階でいくつかのポイントを上げている。例えば「製造の現地化」とか「100%再生可能エネルギーの使用」などだ。しかし、このような計画を立てても、自動車生産においてクライメイトニュートラルを実現することは非常に難しい。例えば、自動車には脱炭素化が困難なことで知られる鉄鋼などの素材や部品が使われているからだ。

フィスカーによると、同社の製造パートナーはそれぞれにクライメイトニュートラルを目標として掲げており、それは自動車の受託生産会社であるMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)にも当てはまる。欧州でフィスカー・オーシャンを独占的に製造する契約を結んでいる同社は、欧州では2025年までに、グローバルでも2030年までにクライメイトニュートラルを実現する目標を立てている。また「Project PEAR(プロジェクト・ペアー)」と呼ばれるフィスカーが2番目に発売予定のより低価格なクルマで主要なパートナーとなるFoxconn(フォックスコン)も、今世紀半ばまでにゼロエミッションの実現を目指している。

このようなムーンショット目標は、製造プロセスの革新を促進し、他の自動車メーカーやサプライヤーが同じ目標を目指すことを助長する可能性がある。他の自動車メーカーのPolestar(ポールスター)やPorsche (ポルシェ)は、いずれも2030年を期限とするカーボンニュートラルを約束しており、Mercedes(メルセデス)はその目標を2039年に設定している。

フィスカーは、EV用バッテリーが使用できなくなった際のリサイクルや再利用の方法も考えているようだ。同社は推定15年とされる車両の寿命の全期間に渡るリースプログラムの拡張を計画しており、これが実際に導入されれば、理論上では、寿命を迎えた多くの車両をフィスカーが所有することになる。

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カテゴリー:モビリティ
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画像クレジット:Fisker

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

日本全体での防災・減災の強化を目指すOne ConcernがSOMPOと複数年の戦略的パートナーシップ締結

気候変動は世界各地で深刻化しているが、日本はその中でも特にチャレンジングなケースといえる。日本は大断層の上に位置するだけでなく、海面上昇により列島の浸水が進み、災害が発生しやすくなっている。10年前、東北地方太平洋沖地震と津波は数十億ドル(数千億円)の被害をもたらしたが、この悲劇からの復興は今でも国際関係の大きな火種となっている。

昨今、災害対策技術はベンチャーキャピタルの投資対象として重要な分野となっているが、新たなスタートアップがRaaS(Resilience-as-a-Service、サービスとしてのレジリエンス)分野に登場し、成長市場として幅広い関心が寄せられていることが証明された。

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地震、洪水、その他の自然災害に対するコミュニティの回復力と対応をモデル化し、シミュレーションするプラットフォームを構築しているOne Concern(ワンコンサーン)は米国時間6月3日、日本最大の保険会社の1つであるSOMPOのベンチャー部門SOMPOホールディングスから4500万ドル(約49億6000万円)を調達したと発表した。この投資はOne Concernの災害レジリエンスプラットフォームを日本市場に投入するための、総額1億ドル(約110億3000万円)の複数年契約の一部だ。

日本はここ数年のOne Concernの市場開発において、ある種宝石のような存在となっている。同スタートアップは、2019年末に秋元比斗志氏を日本法人代表取締役社長として採用した後、2020年2月に日本への進出を正式に発表した。2020年8月にはSOMPOとの戦略的パートナーシップを発表し、同保険会社のベンチャー部門が1500万ドル(約16億5000万円)を投資した。今回の契約は、そのパートナーシップをさらに拡大するものだ。

プレスリリースによると、One Concernはこの提携の一環として、日本で6つ以上の都市に同社のプラットフォームを販売するという。

CrunchbaseとSECファイリングによると、これまでOne Concernは、2015年10月のシードラウンド、2017年にNEAが主導した3300万ドル(約36億4000万円)のシリーズAラウンド、同じくNEAが共同で主導した3700万ドル(約40億8000万円)のラウンドと、3回の資金調達を行っていた。One Concernは、2015年に設立された。

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衛星コンステレーションから地球上の山火事の端緒を見つけ警告するOroraTech

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画像クレジット:Carl Court / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Aya Nakazato)

テクノロジーと災害対応の未来3「接続性、地球が滅びてもインターネットは不滅」

インターネットは、神経系のように世界中で情報伝達を司っている。ストリーミングやショッピング、動画視聴や「いいね!」といった活動が絶えずオンラインで行われており、インターネットがない日常は考えられない。世界全体に広がるこの情報網は思考や感情の信号を絶え間なく送出しており、私たちの思考活動に不可欠なものとなっている。

では機械が停止したらどうなるだろうか。

この疑問は、1世紀以上前にE.M. Forster(E・M・フォースター)が短編小説で追求したテーマである。奇しくも「The Machine Stops(機械は止まる)」と題されたその小説は、すべて機械に繋がれた社会においてある日突然、機械が停止したときのことを描いている。

こうした停止の恐怖はもはやSFの中だけの話ではない。通信の途絶は単に人気のTikTok動画を見逃したというだけでは済まされない問題だ。接続性が保たれなければ、病院も警察も政府も民間企業も、文明を支える人間の組織は今やすべて機能しなくなっている。

災害対応においても世界は劇的に変化している。数十年前は災害時の対応といえば、人命救助と被害緩和がほぼすべてだった。被害を抑えながら、ただ救える人を救えばよかったとも言える。しかし現在は人命救助と被害緩和以外に、インターネットアクセスの確保が非常に重要視されるようになっているが、これにはもっともな理由がある。それは市民だけでなく、現場のファーストレスポンダー(初動対応要員)も、身の安全を確保したり、ミッション目的を随時把握したり、地上観測データをリアルタイムで取得して危険な地域や救援が必要な地域を割り出すため、インターネット接続を必要とすることが増えているからだ。

パート1で指摘したように、災害ビジネスの営業は骨が折れるものかもしれない。またパート2で見たように、この分野では従来細々と行われていたデータ活用がようやく本格化してきたばかりだ。しかし、そもそも接続が確保されない限り、どちらも現実的には意味をなさない。そこで「テクノロジーと災害対策の未来」シリーズ第3弾となる今回は、帯域幅と接続性の変遷ならびに災害対応との関係を分析し、気候変動対策と並行してネットワークのレジリエンス(災害復旧力)を向上させようとする通信事業者の取り組みや、接続の確保を活動内容に組み入れようとするファーストレスポンダーの試みを検証するとともに、5Gや衛星インターネット接続サービスなどの新たな技術がこうした重要な活動に与える影響を探ることとする。

地球温暖化とワイヤレスレジリエンス

気候変動は世界中で気象パターンの極端な変化を招いている。事業を行うために安定した環境を必要とする業界では、二次的・三次的影響も出ている。しかし、こうした状況の変化に関し、通信事業者ほどダイナミックな対応が求められる業界はほぼないだろう。通信事業者は、これまでも暴風雨によって何度も有線・無線インフラを破壊されている。こうしたネットワークのレジリエンスは顧客のために必要とされるだけではない。災害発生後の初期対応において被害を緩和し、ネットワークの復旧に努める者にとっても絶対的に必要なものである。

当然ながら、電力アクセスは通信事業者にとって最も頭を悩ませる問題だ。電気がなければ電波を届けることもできない。米国三大通信事業者のVerizon(ベライゾン、TechCrunchの親会社のVerizon Mediaを傘下に擁していたが、近く売却することを発表している)、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)も近年、ワイヤレスニーズに応えるとともに、増え続ける気象災害の被害に対処するため、レジリエンス向上の取り組みを大幅に増強している。

Tモバイルにおいて国内テクノロジーサービス事業戦略を担当するJay Naillon(ジェイ・ナイロン)シニアディレクターによれば、同社は近年、レジリエンスをネットワーク構築の中心に据え、電力会社からの給電が停止した場合に備えて基地局に発電機を設置している。「ハリケーンの多い地域や電力供給が不安定な地域に設備投資を集中させている」という。

通信3社すべてに共通することだが、Tモバイルも災害の発生に備えて機器を事前に配備している。大西洋上でハリケーンが発生すると、停電の可能性に備えて戦略的に可搬型発電機や移動式基地局を運び入れている。「その年のストーム予報を見て、さまざまな予防計画を立てている」とナイロン氏は説明する。さらに、非常事態管理者と協力して「さまざまな訓練を一緒に行い、効果的に共同対応や連携」を図ることで、災害が発生した場合に被害を受ける可能性が最も高いネットワークを特定しているという。また、気象影響を正確に予測するため、2020年からStormGeo(ストームジオ)とも提携している。

災害予測AIはAT&Tでも重要となっている。公共部門と連携したAT&TのFirstNetファーストレスポンダーネットワークを指揮するJason Porter(ジェイソン・ポーター)氏によれば、AT&Tはアルゴンヌ国立研究所と提携し、今後30年にわたって基地局が「洪水、ハリケーン、干ばつ、森林火災」に対処するための方策と基地局の配置を評価する気候変動分析ツールを開発したという。「開発したアルゴリズムの予測に基づいて社内の開発計画を見直した」とポーター氏は述べ、少なくとも一定の気象条件に耐えられるよう「架台」に設置された1.2~2.4メートル高の脆弱な基地局を分析して補強していると語った。こうした取り組みによって「ある程度被害を緩和できるようになった」という。

またAT&Tは、気候変動によって不確実性が増す中で信頼性を高めるという、より複雑な問題にも対処している。近年の「設備展開の多くが気象関連現象に起因していることが判明するのにそれほど時間はかからなかった」とポーター氏は述べ、AT&Tが「この数年、発電機の設置範囲を拡大することに注力」していると説明した。また可搬式のインフラ構築も重点的に行っているという。「データセンターは実質すべて車両に搭載し、中央司令室を構築できるようにしている」とポーター氏は述べ、AT&T全国災害復旧チームが2020年、数千回出動したと付け加えた。

さらに、FirstNetサービスに関し、被災地の帯域幅を早急に確保する観点から、AT&Tは2種類の技術開発を進めている。1つは空から無線サービスを提供するドローンだ。2020年、記録的な風速を観測したハリケーン・ローラがルイジアナ州を通過した後、AT&Tの「基地局はリサイクルされたアルミ缶のように捻じ曲がってしまったため、持続可能なソリューションを展開することになった」とポーター氏は語る。そして導入されたのがFirstNet Oneと呼ばれる飛行船タイプの基地局だ。この「飛行船は車両タイプの基地局の2倍の範囲をカバーする。1時間弱の燃料補給で空に上がり、文字通り数週間空中に待機するため、長期的かつ持続可能なサービスエリアを提供できる」という。

ファーストレスポンダーのため空からインターネット通信サービスを提供するAT&TのFirstNet One(画像クレジット:AT&T/FirstNet)

AT&Tが開発を進めるもう1つの技術は、FirstNet MegaRangeと呼ばれるハイパワーワイヤレス機器である。2021年に入って発表されたこの機器は、沖合に停泊する船など、数キロメートル離れた場所からシグナルを発信でき、非常に被害の大きい被災地のファーストレスポンダーにも安定した接続を提供できる。

インターネットが日常生活に浸透していくにつれ、ネットワークレジリエンスの基準も非常に厳しくなっている。ちょっとした途絶であっても、ファーストレスポンダーだけでなく、オンライン授業を受ける子どもや遠隔手術を行う医師にとっては混乱の元となる。設置型・可搬型発電機から移動式基地局や空中基地局の即応配備に至るまで、通信事業者はネットワークの継続性を確保するために多額の資金を投資している。

さらに、こうした取り組みにかかる費用は、温暖化の進む世界に立ち向かう通信事業者が最終的に負担している。三大通信事業者の他、災害対応分野のサービスプロバイダーにインタビューしたところ、気候変動が進む世界において、ユーティリティ事業は自己完結型を目指さざるを得ない状況になっているという共通認識が見られた。例えば、先頃のテキサス大停電に示唆されるように、送配電網自体の信頼性が確保できなくなっていることから、基地局に独自の発電機を設置しなければならなくなっている。またインターネットアクセスの停止が必ずしも防げない以上、重要なソフトはオフラインでも機能するようにしておかなければならない。日頃動いている機械が停まることもあるのだ。

最前線のトレンドはデータライン

消費者である私たちはインターネットどっぷりの生活を送っているかもしれないが、災害対応要員はインターネットに接続されたサービスへの完全移行に対し、私たちよりもずっと慎重な姿勢を取っている。確かに、トルネードで基地局が倒れてしまったら、印刷版の地図を持っていればよかったと思うだろう。現場では、紙やペン、コンパスなど、サバイバル映画に出てくる昔ながらの道具が今も数十年前と変わらず重宝されている。

それでも、ソフトウェアやインターネットによって緊急対応に顕著な改善が見られる中、現場の通信の仕組みやテクノロジーの利用度合いの見直しが進んでいる。最前線からのデータは非常に有益だ。最前線からデータを伝達できれば、活動計画能力が向上し、安全かつ効率的な対応が可能となる。

AT&Tもベライゾンも、ファーストレスポンダー特有のニーズに直接対処するサービスに多額の投資を行っている。特にAT&Tに関してはFirstNetネットワークが注目に値する。これは商務省のファーストレスポンダーネットワーク局との官民連携を通して独自に運営されるもので、災害対応要員限定のネットワークを構築する代わりに政府から特別帯域免許(Band 14)を獲得している。これは、悲惨な同時多発テロの日、ファーストレスポンダーが互いに連絡を取れていなかったことが判明し、9.11委員会(同時多発テロに関する国家調査委員会)の重要提言としてまとめられた内容を踏まえた措置だ。AT&Tのポーター氏によれば、777万平方キロメートルをカバーするネットワークが「9割方完成」しているという。

なぜファーストレスポンダーばかり注目されるのだろうか。通信事業者の投資が集中する理由は、ファーストレスポンダーがいろいろな意味でテクノロジーの最前線にいるためだ。ファーストレスポンダーはエッジコンピューティング、AIや機械学習を活用した迅速な意思決定、5Gによる帯域幅やレイテンシー(遅延)の改善(後述)、高い信頼性を必要としており、利益性のかなり高い顧客なのだ。言い換えれば、ファーストレスポンダーが現在必要としていることは将来、一般の消費者も必要とすることなのだ。

ベライゾンで公共安全戦略・危機対応部長を務めるCory Davis(コリー・デイビス)氏は「ファーストレスポンダーによる災害出動・人命救助においてテクノロジーを利用する割合が高まっている」と説明する。同氏とともに働く公共部門向け製品管理責任者のNick Nilan(ニック・二ラン)氏も「社名がベライゾンに変わった当時、実際に重要だったのは音声通話だったが、この5年間でデータ通信の重要性が大きく変化した」と述べ、状況把握や地図作成など、現場で標準化しつつあるツールを例に挙げた。ファーストレスポンダーの活動はつまるところ「ネットワークに集約される。必要な場所でインターネットが使えるか、万一の時にネットワークにアクセスできるかが重要となっている」という。

通信事業者にとって頭の痛い問題は、災害発生時というネットワーク資源が最も枯渇する瞬間にすべての人がネットワークにアクセスしようとすることだ。ファーストレスポンダーが現場チームあるいは司令センターと連絡しようとしているとき、被災者も友人に無事を知らせようとしており(中には単に避難するクルマの中でテレビ番組の最新エピソードを見ているだけの者もいるかもしれない)、ネットワークが圧迫されることになる。

こうした接続の集中を考えれば、ファーストレスポンダーに専用帯域を割り当てるFirstNetのような完全分離型ネットワークの必要性も頷ける。「リモート授業やリモートワーク、日常的な回線の混雑」に対応する中で、通信事業者をはじめとするサービスプロバイダーは顧客の需要に圧倒されてきたとポーター氏はいう。そして「幸い、当社はFirstNetを通して、20MHzの帯域をファーストレスポンダーに確保している」と述べ、そのおかげで優先度の高い通信を確保しやすくなっていると指摘する。

FirstNetは専用帯域に重点を置いているが、これはファーストレスポンダーに常時かつ即時無線接続を確保する大きな戦略の1つに過ぎない。AT&Tとベライゾンは近年、優先順位付け機能と優先接続機能をネットワーク運営の中心に据えている。優先順位付け機能は公共安全部門の利用者に優先的にネットワークアクセスを提供する機能である。一方、優先接続機能には優先度の低い利用者を積極的にネットワークから排除することでファーストレスポンダーが即時アクセスできるようにする機能が含まれる。

ベライゾンのニラン氏は「ネットワークはすべての人のためのものだが、特定の状況においてネットワークアクセスが絶対に必要な人は誰かと考えるようになると、ファーストレスポンダーを優先することになる」と語る。ベライゾンは優先順位付け機能と優先接続機能に加え、現在はネットワークセグメント化機能も導入している。これは「一般利用者のトラフィックと分離する」ことで災害時に帯域が圧迫されてもファーストレスポンダーの通信が阻害されないようにするものだという。ニラン氏は、これら3つのアプローチが2018年以降すべて実用化されている上、2021年3月にはVerizon Frontline(ベライゾン・フロントライン)という新ブランドにおいてファーストレスポンダー専用の帯域とソフトウェアを組み合わせたパッケージが発売されていると話す。

帯域幅の信頼性が高まったことを受け、10年前には思いもよらなかった方法でインターネットを利用するファーストレスポンダーが増えている。タブレット、センサー、接続デバイスやツールなど、機材もマニュアルからデジタルへと移行している。

インフラも構築され、さまざまな可能性が広がっている。今回のインタビューで挙げられた例だけでも、対応チームの動きをGPSや5Gで分散制御するもの、最新のリスク分析によって災害の進展を予測し、リアルタイムで地図を更新するもの、随時変化する避難経路を探索するもの、復旧作業の開始前からAIを活用して被害評価を行うものなど、さまざまな用途が生まれている。実際、アイディアの熟成に関して言えば、これまで大げさな宣伝文句や技術的見込みでしかなかった可能性の多くが今後何年かのうちに実現することになるだろう。

5Gについて

5Gについては何年も前から話題になっている。ときには6Gの話が出てレポーターたちにショックを与えることさえある。では、災害対応の観点から見た場合、5Gはどんな意味を持つだろうか。何年もの憶測を経て、今ようやくその答えが見えてきている。

Tモバイルのナイロン氏は、5Gの最大の利点は標準規格で一部利用されている低周波数帯を利用することで「カバレッジエリアが拡大できること」だと力説する。とはいえ「緊急対応の観点からは、実用化のレベルはまだそこまで達していない」という。

一方、AT&Tのポーター氏は「5Gの特長に関し、私たちはスピードよりもレイテンシーに注目している」と語った。消費者向けのマーケティングでは帯域幅の大きさを喧伝することが多いが、ファーストレスポンダーの間ではレイテンシーやエッジコンピューティングといった特徴が歓迎される傾向にある。例えば、基幹ワイヤレスネットワークへのバックホールがなくとも、前線のデバイス同士で動画をリレーできるようになる。また、画像データのオンボード処理は、1秒を争う環境において迅速な意思決定を可能とする。

こうした柔軟性によって、災害対応分野における5Gの実用用途が大幅に広がっている。「AT&Tの5G展開の使用例は人々の度胆を抜くだろう。すでに(国防省と協力して)パイロットプログラムの一部をローンチしている」とポーター氏は述べ、一例として「爆弾解体や検査、復旧を行うロボット犬」を挙げた。

ベライゾンは、革新的応用を戦略的目標に掲げるとともに、5Gの登場という岐路において生まれる新世代のスタートアップを指導する5G First Responders Lab(5Gファーストレスポンダーラボ)をローンチした。ベライゾンのニラン氏によれば、育成プログラムには20社以上が参加し、4つの集団に分かれてVR(仮想現実)の教育環境や消防隊員のために「壁の透視」を可能とするAR(拡張現実)の適用など、さまざまな課題に取り組んでいるという。同社のデイビス氏も「AIはどんどん進化し続けている」と話す。

5Gファーストレスポンダーラボの第1集団に参加したBlueforce(ブルーフォース)は、最新のデータに基づき、できるかぎり適切な判断を下せるようファーストレスポンダーをサポートするため、5Gを利用してセンサーとデバイスを接続している。創業者であるMichael Helfrich(マイケル・ヘルフリッチ)CEOは「この新しいネットワークがあれば、指揮者は車を離れて現場に行っても、情報の信頼性を確保できる」と話す。従来、こうした信頼できる情報は司令センターでなければ受け取ることができなかった。ブルーフォースでは、従来のユーザーインターフェース以外にも、災害対応者に情報を提示する新たな方法を模索しているとヘルフリッチ氏は強調する。「もはやスクリーンを見る必要はない。音声、振動、ヘッドアップディスプレイといった認知手法を検討している」という。

5Gは、災害対応を改善するための新たな手段を数多く提供してくれるだろう。そうはいっても、現在の4Gネットワークが消えてなくなるわけではない。デイビス氏によれば、現場のセンサーの大半は5Gのレイテンシーや帯域幅を必要とするわけではないという。同氏は、IoTデバイス向けのLTE-M規格を活用するハードやソフトは将来にわたってこの分野で重要な要素になると指摘し「LTEの利用はこのさき何年も続くだろう」と述べた。

イーロン・マスクよ、星につないでくれ

緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドSOS)社のMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は、災害対応市場において「根本的な問題を解決する新たなうねりが起きていると感じる」といい、これを「イーロン・マスク効果」と呼んでいる。接続性に関しては、SpaceX(スペースX、正式名称はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)のブロードバンドコンステレーションプロジェクト「Starlink(スターリンク)」が稼働し始めていることからも、その効果は確かに存在することがわかる。

衛星通信はこれまでレイテンシーと帯域幅に大きな制約があり、災害対応で使用することは困難だった。また、災害の種類によっては、地上の状況から衛星通信接続が極めて困難だと判断せざるを得ないこともあった。しかし、こうした問題はスターリンクによって解決される可能性が高い。スターリンクの導入により、接続が容易になり、帯域幅とレイテンシーが改善され、全世界でサービスが利用できるようになるとされている。いずれも世界のファーストレスポンダーが切望していることだ。スターリンクのネットワークはいまだ鋭意構築中のため、災害対応市場にもたらす影響を現時点で正確に予測するのは難しい。しかし、スターリンクが期待通りに成功すれば、今世紀の災害対応の方法を根本的に変える可能性がある。今後数年の動きに注目していきたいと思う。

もっとも、スターリンクを抜きにしても、災害対応は今後10年で革命的に変化するだろう。接続性の高度化とレジリエンス強化が進み、旧式のツールに頼り切っていたファーストレスポンダーも今後はますます発展するデジタルコンピューティングを取り入れていくだろう。もはや機械が止まることはないのだ。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候テック自然災害気候変動アメリカ地球温暖化ネットワーク電力5Gイーロン・マスクStarlink衛星コンステレーション

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーと災害対応の未来2「データとAI」

データが10年以上も次世代の石油として評価されてきたきた経緯については、さまざまなメディアで取り上げられており、特定の分野ではまさにデータが重要な要素となっている。今やほとんどの民間企業で、マーケティング、物流、金融、製造、意思決定などのあらゆるレベルでデータが欠かせない(これが間違っているなら、私は履歴書を書いてすぐにでも転職した方がよい)。

データを使用することにより、多くの被災者が苦しめられるような災害に対する対応を根本から変えられる可能性があるが、この10年間に発生した緊急時対応にデータがほとんど活用されていないと聞くと、少し驚くかもしれない。災害対応機関と民間の組織は長年にわたり、災害対応用として入力するデータの範囲を広げ、処理するデータの量を増やしてきたが、結果はあまり芳しくなく、データを活用するには程遠い。

しかし、モノのインターネット(IoT)の普及により、このような現状も変わりつつある。災害の最前線で作業する危機管理マネージャーは、回復、対応、復興のサイクルにわたって必要なデータを入手し、的確な判断を下せるようになってきている。ドローンからの航空撮影、災害想定状況の可視化、AI誘発型の災害のシミュレーションなど、最前線で活用されている技術は最高レベルに達していない。これは、2020年代の災害対応における変革の幕開けに過ぎない。

膨大な量の災害データをついに入手

緊急時対応は、先の見えない不安と刻々と迫る時間との戦いである。山火事やハリケーンの現場では、数秒ですべてが変わる場合がある。注意を怠れば一瞬で事態が急変することさえある。避難者を輸送するはずの安全な道路に山火事が広がって突然通れなくなることや、避難チームが再編成を繰り返して広範囲に広がり過ぎること、また予想外の状況が急に発生することで、救助活動が立ち行かなくなってしまうといったことがよくある。情報を完全に掌握していたオペレーションセンターに、突如として地上検証データがまったく入らなくなってしまうこともある。

残念ながら、災害前や災害発生時に未処理データを取得することが極めて難しいことさえある。ビジネスの世界でこれまでに発生したデータ革命を振り返ってみると、初期の成功があったのは、企業が常にデータに大きく依存しながら、自社の活動を進めていたという事実によるところが大きい。今もそうだが重要なのはデジタル化である。つまり、放置されている未処理データをパソコンで解析可能な形式に変換するために、業務を書類からパソコンに移行することだった。ビジネスの世界でこれまでの10年間は、いわばバージョン1からバージョン2へのアップグレード期間だったといえる。

緊急対応管理について考えてみると、多くの対応機関がバージョン0からバージョンアップしていない。洪水を例にとると、洪水の発生源と水の流れをどのように把握するのか。つい最近まで、洪水の発生場所と水の流れに関する総合的なデータすら存在していなかった。山火事の場合は、世界中に点在する樹木の場所や可燃性に関するデータセットが管理されていなかった。電線や携帯電話の基地局といったインフラ設備でさえ、デジタル世界との接点がまったくないことが多かった。そのため、ユーザーがそうした設備を判別できなければ、そうした設備があっても、設備側からユーザーを認識することもできなかった。

洪水モデルは、災害防止計画と災害対応の最先端だ(画像クレジット:CHANDAN KHANNA/AFP/Getty Images)

モデルやシミュレーション、予測、分析には、未処理データが不可欠である。災害対応の分野には、これまで詳細なデータは存在しなかった。

モノのインターネット(IoT)がかなり浸透してきた今では、ありとあらゆるモノがインターネットに接続されるようになり、米国や世界中の至るところにIoTセンサーが設置されている。温度、気圧、水位、湿度、大気汚染、電力、その他のセンサーが広範に配備され、データウェアハウスに定常的に送信されるデータが分析されている。

例として米国西部の山火事を挙げよう。連邦政府と州の消防庁が火災の発生場所を把握できないというのは、そんなに昔の話ではない。消防には「100年の歴史があるが、その伝統が技術進歩に妨げられることはない」と、米国農務省林野部で10年間消防局長を務め、現在はCornea(コルネア)の最高消防責任者であるTom Harbour(トム・ハーバー)氏はいう。

彼のいうことは正しい。消火活動というのは理屈抜きの活動なのだ。消防隊員には炎が見える。炎の熱風を自分の肌で感じることさえある。広大な土地が広がり、帯状に都市が点在しているような米国西部では、データは役に立たなかった。衛星で大火災を発見することはできるが、茂みでくすぶっている小火を地理空間情報局から確認することはまず不可能だ。だが、小さい火事を発見できなくても、カリフォルニア一帯には煙が充満していることがある。では、このような貴重な情報を、地上の消防隊員はどのように処理すればよいのだろうか。

これまで10年にわたってIoTセンサーの成功が謳われてきたが、ここへきてようやく障害となっていた多くの問題が解決されつつある。回復力のあるコミュニティについて調査しているRAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「非常に安価で使いやすい」大気質センサーを使うと、大気汚染に関する詳細な情報(山火事の重要な徴候など)を入手できるため、このセンサーがいたるところに設置されていると説明する。同氏は、最近のテクノロジーの可能性を示すものとして、センサーの製造だけでなく、人気のある消費者向け大気質マップも作成しているPurple Air(パープルエアー)を挙げた。

災害時にデータを扱う際には、マップが重要なツールとなる。大半の災害防止計画チームや災害対応チームは地理空間情報システム(GIS)をベースに活動しているが、この分野で随一のマップ制作量を誇っているのが非公開企業のEsri(エスリ)だ。同社の公安ソリューション担当部長Ryan Lanclos(ライアン・ランクロス)氏は、水位センサーの数が増えたことにより、特定の災害に対する対応が劇的に変化したという。「洪水センサーは常に稼働状態にあります」と同氏はいう。「連邦政府が作成している全米洪水予報モデル」により、研究者はGIS分析を使用して、洪水が各コミュニティに及ぼす影響をかつてないほど正確に予測できるようになったと指摘する。

デジタルマップとGISシステムは災害防止計画と災害対応にますます不可欠な存在となっているが、印刷版のマップも依然として好まれている(画像クレジット:Paul Kitagaki Jr. — Pool/Getty Images)

Verizon(ベライゾン)(Verizon MediaはTechCrunchの親会社であるため、ベライゾンは当社の最終的な所有会社)の公安戦略および危機対応担当ディレクターCory Davis(コリー・デイビス)氏によると、このようなセンサーのおかげで、同社の作業員がインフラを管理するために行う作業が変わってきたという。「送電線にセンサーを設置した電力会社を想像してみてください。センサーがあれば、障害が発生した場所にすぐに駆け付け、問題を解決して、復旧させることができます」。

同氏はセンサーのバッテリー寿命が延びたことで、この分野で使用されているセンサーがこの数年で大きく進歩したという。超低電力のワイヤレスチップやバッテリー性能、エネルギー管理システムが絶えず改善されているおかげで、荒れ地に設置したセンサーをメンテナンスしなくても、非常に長い期間使用できるようになった。「バッテリー寿命が10年というデバイスもある」と同氏はいう。これは重要だ。最前線の送電網にセンサーを接続することなどできないからだ。

同じ考え方がT-Mobile(ティー・モバイル)にも当てはまる。防災計画に関して、電話会社の全米技術サービスオペレーション戦略上級ディレクターJay Naillon(ジェイ・ナイロン)氏は次のように話す。「価値が向上し続けているタイプのデータとして、高潮データがあります。このデータのおかげで、設備が正常に稼働していることを容易に確認できます」。高潮データは洪水センサーから送信されるため、全米の防災計画策定者に警報をリアルテイムに送ることができる。

災害関連のセンサーやその他のデータストリームの採用を進めるためには、電話会社の関心やビジネス面での関心を惹くことが必要不可欠だった。洪水や山火事のデータを必要とするエンドユーザーは政府ではあるが、このようなデータの可視性に関心があるのは政府だけではない。Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「こうした情報を必要としているのはほとんどの場合、民間企業です」と話す。「気候変動などの新しいタイプのリスクが、企業の収益に影響を与えるようになっています」と同氏はいい、センサーデータに対するビジネス面での関心が、債権格付けや保険の引受などの分野で高まっていると指摘する。

センサーはどこにでも設置できるわけではないが、緊急対応管理者がこれまで確認できなかったような、現場のあいまいな状況を見通すのに役立ってきた。

最後に、世界中の至るところで利用されるようになったモバイル機器には、膨大なデータセットが存在する。例えばFacebook(フェイスブック)のData for Good(データ・フォー・グッド)プロジェクトでは、接続に関するデータレイヤーを利用できる。ある場所から接続していたユーザーが別の場所で接続したら、移動したと推測できる。フェイスブックや電話会社が提供するこのようなデータを使うことで、緊急対応計画を策定するスタッフは、人の移動をリアルタイムに把握することができる。

氾濫するデータとAIの可能性

データが乏しかった過去と比べると今は情報が溢れているが、世界中の都市で発生している洪水のように、データの氾濫に対応する時期が近づいている。データウェアハウスやビジネスインテリジェンスツールなどのITスタックによって、過剰なまでのビッグデータが収集されている。

災害データが簡単に処理できさえすればよいのだが、現実はそう簡単ではない。民間企業や公的機関、非営利団体などさまざまな組織が災害関連データを保持しているため、データを相互に運用する面で大きな障害がある。分散しているデータを統合して知見を得られたとしても、最前線で対応するスタッフが現場で意思決定に役立てられるようにまとめるのは困難だ。そのため、防災計画以外の用途でAIを売り込むのは今でも難しい。ベライゾンのデイビス氏は次のように話す。「過剰なまでのデータをどのように活用すればよいのかという点に関して、多くの都市や政府機関が苦慮しています」。

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残念ながら、あらゆるレベルでの標準化が課題だ。世界的にみると標準化が徐々に進んではいるものの、各国間の相互運用性はほとんど実現されていない。緊急電話対応プラットフォームCarbyne(カーバイン)の創業者兼CEOのAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は「テクノロジーと標準化の両面で、国ごとに大きな隔たりがあります」と語り、ある国のプロトコルを別の国で使用するには、まったく別のものに作り直す必要があることが多いと指摘する。

ヘルスケア災害対応組織Project HOPE(プロジェクト・ホープ)の緊急対応準備担当ディレクターTom Cotter(トム・コッター)氏は、国際的な環境では、対応するスタッフ同士でコミュニケーションを確立することさえ難しいと話す。「ある国では複数のプラットフォームを使用できるのに対し、別の国では使用が許可されていないということがあり、状況は常に変化しています。基本的には、テクノロジーコミュニケーションプラットフォームを国ごとに別々に用意している状態です」。

連邦政府の緊急管理部門のある上級担当者は、テクノロジーの調達契約ではデータの互換性がますます重要になっていることを認め、政府は自前のソフトウェアを使用するのではなく、市販の製品を購入する必要性を認識していると話す。こうしたメッセージはエスリなどの企業にも届いている。ランクロス氏は「当社の中核となる使命はオープンであることです。作成したデータを一般公開して共有するか、オープンな基準に基づいてセキュリティ保護したうえで共有するというのが当社の考え方です」。

相互運用性が欠如しているというのはマイナス面がいくつもあるが、皮肉なことにイノベーションの際にはプラスに作用することがある。エリチャイ氏は「標準化されていないということは利点になります。従来の標準に合わせる必要がなくなるからです」と指摘する。標準化されていない状況では、最新のデータワークフローを前提とした、質の高いプロトコルを構築できることもある。

相互運用性が確保されたとしても、その後にはデータ選別の問題が控えている。災害関連データには危険も潜んでいる。センサーから発信されるデータストリームは検証したうえで別のデータセットと照合できるが、一般市民から発信される情報量が激増してきているため、初動対応するスタッフや一般向けに公開する前に安全性を精査する必要がある。

一般ユーザーがかつてないほどスマホにアクセスできるようになっているため、緊急対応計画を策定するスタッフが、アップロードされたデータを選別して検証し、使える状態にする必要がある(画像クレジット:TONY KARUMBA/AFP/Getty Images)

災害コミュニケーションプラットフォームPerimeter(ペリメーター)のCEO兼共同創業者Bailey Farren(ベイリー・ファレン)氏は「正確な最新情報を持っているのが一般市民である場合もあります。そうした貴重な情報を、初動対応するスタッフが作業を始める前に市民が政府担当者に伝えてくれればよいのですが」と話す。問題は、無益な情報や悪意のある情報から質の高い情報を選別する方法だ。自然災害の対応要員として有志の退役軍人チームを構成する非営利団体Team Rubico(チーム・ルビコン)のCIO Raj Kamachee(ラージ・カマチー)氏は、データの検証が必要不可欠であると述べ、同氏が2017年にチーム・ルビコンに参加して以来、組織で構築するインフラの重要な要素にデータの検証があると考えている。「当社のユーザーが増えているため、フィードバックのデータ量も増えています。結果として、セルフサービス型の非常にコラボレーション的なアプローチが形成されています」。

量と質が確保されれば、AIモデルを活用すべきだろうか。答えは、イエスでもありノーでもある。

コロンビア大学のシュリー氏は、一部で話題になっているような過剰な期待をAIにすべきではないと考えている。「注意が必要な点ですが、機械学習やビッグデータ関連のアプリケーションで何でもできるわけではありません。こうしたアプリケーションでさまざまな情報を大量に処理できますが、AIが具体的な解決策を教えてくれるわけではありません」と同氏はいう。「初動対応するスタッフはすでに大量の情報を処理しており」、それ以上のガイダンスを必ずしも必要としているわけでない。

災害分野では、防災計画や復旧にAIを利用することが増えている。シュリー氏は、防災計画プロセスでデータとAIを組み合わせた1つの例として、復旧計画プラットフォームOneConcern(ワン・コンサーン)を挙げる。また、さまざまなデータシグナルをいくつかのスカラー値にまとめて、緊急対応計画を策定するスタッフが危機管理計画を最適化できるようにする、CDC(米国疾病管理予防センター)の社会的脆弱性指標とFEMA(連邦危機管理庁)のリスクツールも挙げた。

とはいえ、筆者が話を聞いたほとんどの専門家は、AIを使用することについて懐疑的だった。災害に関する販売サイクルについて取り上げたこのシリーズのパート1で少し説明したように、データツールは、人命がかかっているときは特に信頼性が重要で、最新の情報に更新されていなければならない。チーム・ルビコンのカマチー氏は、ツールを選択する際にはそのツールの秀でているポイントではなく、各ベンダーの実用性だけに注目するという。「当社はハイテク機能も追求しますが、ローテクも用意しています」と同氏は語り、災害対応で重要なのが、変化する状況に機敏に対応できることであることを強調する。

カーバインのエリチャイ氏は、同社の販売実績にも同様のパターンがあると認識している。同氏は「市場には新しいテクノロジーに対する意識の高さと、採用を躊躇する慎重さの両方がある」ことを指摘するが「あるレベルに達すればAIが有益となることは間違いない」と認める。

同じように、ティー・モバイルのナイロン氏も経営者の観点から、ティー・モバイルの災害計画に「AIを最大限に活用できるとは思えない」と語る。ティー・モバイルはAIを頭脳として使う代わりに、単純にデータと予測モデリングを使用して装置の配置を最適化している。高度な敵対的生成ネットワークなど必要ないというわけだ。

AIは計画策定以外でも、災害後の復旧、特に損害査定に活用されている。災害の収束後にはインフラと私有財産の査定を行って、保険金を請求し、コミュニティを前進させる必要がある。チーム・ルビコンのCOO兼社長Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、テクノロジーとAIの普及によって、損害査定の作業が大幅に軽減されたと指摘する。チーム・ルビコンでは、復旧作業の過程でコミュニティの再構築を支援することが多いため、損害の重大度判定が対応戦略を効果的に進めるうえで不可欠だ。

太陽の光で将来は明るくなるが、その光でやけどする可能性もある

AIはこのように、回復計画と災害復旧の分野でいくらかの利用価値があるものの、緊急対応の分野ではあまり役に立っていない。とはいえ、災害対応サイクル全体では有効な場面も増えてくるだろう。ドローンの将来性には大いに期待が寄せられているし、現場で使用されるケースも増えている。しかし、長期的に考えると、AIとデータが解決策とならず、新たな問題を引き起こすのではないかという懸念がある。

災害対応の現場でドローンを使用することは、明らかに価値があるように思える。救援隊員が立ち入ることが困難な現場でも、ドローンを導入したチームは空からの映像や情報を入手できる。バハマでの任務遂行中に主要道路が閉鎖されたため、現場のチームがドローンを使って生存者を見つけたと、チーム・ルビコンのカマチー氏は話す。ドローンから撮影された画像がAI処理され、生存者を特定し避難させるのに役立った。同氏は、ドローンとその潜在能力について「とにかくすばらしいツールだ」と話してくれた。

ドローンから航空写真を撮影することで、災害対応チームが入手できるリアルタイム情報の質は大幅に向上する。地上からは近づけない現場ではなおさらだ(画像クレジット:Mario Tama/Getty Images)

プロジェクト・ホープのコッター氏もやはり、データ処理を高速化することで的確に対応できるようになると話す。「災害地で人命を救うのは、結局のところスピードです。対応をリモートから管理できるケースも増えたため、多数の要員を現地に送らずに済みます」と同氏はいう。これは、人員が限られている場所で活動する対応チームにとって、とても重要である。

「捜索や救助、航空写真などに、ドローンのテクノロジーを活用する緊急管理機関が増えています」とベライゾンのデイビス氏はいい「現場に機材を導入することが先決」という考え方の作業員が多いと指摘し、次のように続ける。「AIの性能は向上する一方であり、初動対応するスタッフはより効果的、効率的かつ安全に対応できるようになっています」。

センサーやドローンから送信される大量のデータを迅速に処理して検証できるようになれば、災害対応の質は向上するだろう。大自然が気まぐれに起こす大災害が増えているが、そうした現状にも対応できるかもしれない。しかし問題がある。AIのアルゴリズムが将来、新たな問題の原因となることはないのだろうか。

ランドでは典型的な代替分析を提供しているが、ランドのクラークギンズバーグ氏は、これらのソリューションで問題が発生する可能性があると話し「テクノロジーが引き金となって災害が発生し、テクノロジーの世界が災害を悪化させます」と指摘する。これらのシステムは破綻する可能性がある。間違いを犯すかもしれない。そして何より不気味なのは、システムを細工して大混乱と破壊を拡大させる可能性があるということだ。

筆者が最近紹介した災害対応VCファンド兼慈善活動組織のRisk & Return(リスク&リターン)社の取締役会長で、9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は、多くの対応現場でサイバーセキュリティが不確定要素となるケースが増えていると指摘する。「(調査委員会が業務を遂行していた)2004年当時は、ゼロデイなどという概念はありませんでした。もちろんゼロデイを取引する市場もありませんでしたが、今はその市場があります」。9/11の同時多発テロでは「テロリストたちは米国にやってきて、飛行機をハイジャックすることが必要でした。今はハイジャックしなくても米国を破壊することが可能です」と同氏はいい「ハッカーたちは、モスクワやテヘランや中国の仲間、もしかすると自宅に引きこもっている仲間と、家で座ったまま攻撃できます」と指摘する。

災害対応の分野でデータは注目を浴びているが、このような状況が原因で、これまで存在しなかった二次的な問題が引き起こされる可能性がある。与えられしものは奪われる。今は石油が湧き出ている井戸もいつか突然枯渇する。あるいは井戸に火が付くかもしれない。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーと災害対応の未来1「世界で最も悲惨な緊急事態管理関連の販売サイクル」

スタートアップが 自分たちは使命感を持っていると語るのをよく耳にする。しかし、その使命が節税対策のためにキャッシュフローを最適化することだとしたら、そのような言葉を真に受けてはならない。一方、新世代のスタートアップも登場してきている。世界規模の大きな課題に挑み、これまでのスタートアップと同様の起業家精神や卓越した運営能力、優れた技術力を、現実的な使命に生かそうとしている企業だ。こういった企業が何千人もの命を救う可能性がある。

気候テックは全般的に、新世代のスタートアップの登場というトレンドから大きな恩恵を受けているが、私が注目したのは災害対応という小規模な専門分野だ。この分野はソフトウェアサービスのカテゴリーで、何年も前からあちこちのスタートアップが参入しているが、今、新たな創業者たちが、これまでにない危機感や熱意を持ってこの分野の課題に取り組んでいる。

最初に触れたように、災害対応は急激に成長している。2020年は厳しい年だった。その理由は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行だけにとどまらない。この年、記録的な数のハリケーンが発生し、米国西部では過去最悪の山火事シーズンとなった。また、世界各地でメガストームも発生した。気候変動、都市化、人口増加、不十分な対応策などの要因が重なり、人類全体がこれまでに直面してきた中でもかなり危険な状況となっている。

私は、この10年間で災害対応市場がどのような状況になっているのかを把握すべく、過去数週間にわたりスタートアップの創業者、投資家、政府関係者、公益企業の幹部など30人以上にインタビューを行い、最新の状況とこれまでの変化を理解するに至った。4回にわたるシリーズで、テクノロジーと災害対応の未来をテーマに、災害対応市場の販売サイクル、ようやく災害対応にデータが活用されるようになったいきさつ、インターネットアクセス問題への公益企業や特に通信会社による対処法、そして地域社会における今後の災害対応の再定義について考えていく。

災害対応やレジリエンス(災害復旧力)におけるテクノロジーの発展を紹介する前に、次の基本的な質問について考えることが重要だ。テクノロジーを確立すれば、それは売れるのか。創業者や投資家、政府調達関係者からは「ノー」というシンプルな答えが返ってきた。

実際、今回のシリーズ用のインタビューでは、緊急事態管理関連の販売サイクルの厳しさが繰り返し話題にのぼり「世界のどの企業にとっても、緊急事態管理関連の売上を上げるのは最も難しいことかもしれない」と語る人も1人ではなかった。地方自治体、州政府、連邦政府、各国政府の調達予算を合計すると、あっという間に数百億ドル(数兆円)規模の市場になることを考えると、この見解は意外かもしれない。しかしこの後見ていくように、この市場には独特のメカニズムがあるため、従来の販売手法はほとんど役に立たない。

これは悲観的な見方だが、販売活動が不可能というわけではなく、いくつもの新しいスタートアップがこの市場への参入障壁を打ち破っている。現在、多くのスタートアップが突破口を開くために採用している販売戦略と製品戦略を見ていく。

厳しい状況での販売

政府機関相手の販売には困難が付き物であるが、それも驚くにはあたらない。これまで多くのGovTechスタートアップの創業者たちが学んできたことは、販売サイクルの遅さ、複雑な調達手続、厄介な検査やセキュリティ要件、契約担当者の全般的に消極的な態度などが、収益を上げるための戦いにおいて障害となっているということだ。現在、多くの政府機関がスタートアップに特化したプログラムを導入しているが、これは、新たなイノベーションが日の目を見ることがいかに難しいかを知っているからだ。

緊急事態管理関連の販売活動は、他の分野のGovTechスタートアップと同様の問題を抱えている。一方で、それに加えさらに6つほどの問題があるため、販売サイクルは疲弊し、かなり厳しい状態になっている。

まず第一に最も厳しいのは、緊急事態管理関連の販売活動が、著しく季節に依存することだ。季節的な災害(ハリケーン、山火事、冬の嵐など)に対応している機関の多くは、災害に対応する「活動」期間を経た後、その活動内容を評価し、次のシーズンに向けて必要な変更を判断して、災害対応要員の活動の効果を高めるために追加または廃止する災害対応用ツールを検討する「計画」期間に移行することが多い。

ここでは、先ごろ紹介した山火事対応分野のスタートアップであるCornea(コーニー)Perimeter(ペリメーター)を取り上げる。どちらの企業も、製品を継続して販売するためには、火災シーズンを考慮する必要があると語っている。ペリメーターのCEO兼共同創業者であるBailey Farren(ベイリー・ファーレン)氏は「解決すべき問題を適切な方法で解決するため、2回の火災シーズンをかけてテクノロジーのベータテストを行いました。そして、実は2019年にカリフォルニア州で起こったキンケード火災の際に、ベータテストの対象を変更しました」と述べている。

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こういった点について、防災テックとEdTechを比較することもできる。EdTechに関しては、学校がテクノロジーを購入する時期は、アカデミックカレンダーで決まることが多い。米国の教育システムでは、6月から8月までの期間を逃すと、スタートアップはその年に学校で販売する機会を失い、次の年まで待つことになる。

3カ月という短い期間に売り込まなければならないEdTechの方が、以前は状況が困難だったかもしれないが、年々、災害対応の販売活動の方が難しくなってきている。気候変動の影響により、あらゆる種類の災害の継続期間が長くなり、深刻さが増し、被害が悪化している。そのため、これまで災害対応機関には半年以上のオフシーズンがあり、その期間に次の計画を立てていたのだが、今では1年中、緊急事態対応の活動に追われていることもある。つまり、災害対応機関が新たに購入すべきソリューションを検討する時間はほとんどないということになる。

さらに言えば、標準化されたアカデミックカレンダーとは異なり、災害が起こる時期の予測が最近では難しくなっている。例えば、洪水や山火事のシーズンは以前は年間の特定の時期に比較的集中していた。しかし今は、このような緊急事態が1年中いつでも発生する可能性がある。この結果、災害対応機関は災害にいつでも対応する必要があるため、調達手続は急に開始されることもあれば急に凍結されることもある。

季節性は販売サイクルだけでなく、災害対応機関の予算にも影響を与える。災害が発生している間は市民や政治家の関心はそこに注がれるが、その後、次の大災害が発生するまで、私たちはそのことをすっかり忘れてしまう。他のテクノロジーへの政府支出が毎年安定している一方、防災テックの予算には増減がある場合が多い。

連邦政府の緊急事態管理機関のある高官(公に話す権限がないため名前は伏せるようにとのことだった)は「好天の日々」(災害のない期間など)には一定の予算の確保とそれを迅速に使用する条件が非常に限られており、同局のような機関は、連邦議会や州議会が追加資金を承認した場合に、補完的な災害資金をつなぎ合わせて使用しなければならないと説明した。主要な機関はテクノロジー関連のロードマップを用意しており、追加の資金が入ってきた時に、すぐにその資金を使って計画を実現できるようにしているが、すべての機関がそのような準備をするためのテクノロジー計画のリソースを持っているわけではない。

911(緊急通報)センターでの電話対応をサポートするクラウドネイティブプラットフォームであるCarbyne(カーバイン)のCEO兼共同創業者のAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は、災害対応への関心の波は2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で再び頂点に達し、それにより緊急対応能力に関する注目度と資金が大幅に増加したと述べた。「新型コロナウイルス感染症によって、政府の準備が不十分であるということが明らかになったのです」と同氏はいう。

驚くにはあたらないが、災害対応業界や災害対応要員が長年にわたって提唱してきた次世代の911サービス(一般的にNG911と呼ばれている)に対する大幅な資金強化が期待されている。バイデン大統領が提案したインフラ法案では、米国内の911の業務機能を強化するために150億ドル(約1兆6400億円)が追加される予定だが、この資金は過去10年間ほぼ毎年要請されてきた。2020年、120億ドル(約1兆3000億円)規模の同法案は、連邦下院議会を通過した後、上院で否決された

販売活動では、例えるならば客に鎮痛剤を提供する場合とビタミン剤を提供する場合がある。鎮痛剤には即効性が、ビタミン剤には遅効性がある。システムのアップグレードを検討している災害対応機関は、おおかた鎮痛剤を求めるだろうと予想される。恐怖感と危機的状況が災害対応機関とその活動を取り巻いているため、これらの機関は自分たちのニーズを直感的に意識するようだ。

しかし、このような恐怖感から、テクノロジーの組織的なアップグレードよりもその場しのぎの、いわば鎮痛剤のようなソリューションに注意が向いてしまい、実際は逆効果となる場合が多い。名前を伏せたあるGovTechのVCは「この世界が怖くて危険な場所だというイメージを与えないようにしています」と語った。そうすることがないよう「重要なのは、危険性よりも安全性に目を向けることです」。安全性の確保は、時々起こる緊急事態への対処より、はるかに広範で一貫したニーズだ。

最終的に資金が承認されれば、各機関は立法府からついに割り当てられた予算資金の用途として優先すべきことを見つけ出すためにすぐに行動しなければならない。スタートアップが適切なソリューションを提供していても、特定のサイクルでどの問題に資金が集まるのかを見極めるためには、すべての顧客にきめ細やかな意識を向ける必要がある。

スタートアップスタジオでありベンチャーファンドでもあるHangar(ハンガー)のマネージングパートナーであるJosh Mendelsohn(ジョシュ・メンデルゾーン)氏は「災害対応機関のお客様は常にさまざまなニーズを提示してくださいます。最も難しいのは、最も取り組む価値がある問題は何かを見極めることです」と述べた。その価値は、残念ながら、災害対応機関の任務の要件に応じて非常に急速に変化する。

すべての条件が揃っているとしよう。災害対応機関には購入する時間的余裕とニーズがあり、スタートアップは彼らが求めるソリューションを持っている。最終的に最も解決が困難だと思われる課題は、そもそも災害対応機関が新しいスタートアップを信頼していないということだ。

この数週間、緊急対応の関係者たちと話をしたが、当然のことながら信頼性の話が何度も持ち上がった。災害対応は極めて重要な仕事であり、現場でも司令センターでも決して中断することは許されない。一方、最前線の災害対応要員は、タブレットや携帯電話の代わりに今でも紙とペンを使っている。紙ならばバッテリー切れになることなく、どんな時でも使用できるからだ。シリコンバレーの「Move Fast and Break Things(すばやく動き、物事のマンネリを打破すべし)」という精神は、この市場とは根本的に相容れない。

季節性、資金の増減、注目度の低さ、調達の緊急性、信頼性の厳しい要件などのため、緊急事態管理関連の販売活動はスタートアップにとってかなり困難なものとなっている。これには、GovTechの典型的な課題は含まれていない。その課題とは、レガシーシステムとの統合、米国や世界各地に散在し、バラバラな状態となっている何千もの緊急対応機関、多くの機関の人々がそもそも変革にあまり興味を持っていないという事実などだ。ある関係者は、政府による緊急対応テクノロジーへの取り組みについて「多くの部署の人員が、テクノロジーの移行という困難な課題に取り組む前に、あわよくば定年を迎えられるかもしれないと考えています」と述べた。

不確実な状態から抜け出すための戦略

つまり、販売サイクルは厳しい状態なのだ。では、なぜVCはこの分野に資金を投入しているのか。数カ月前には、緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドエスオーエス)が8500万ドル(約93億円)を調達しており、これはCarbyneが2500万ドル(約27億3000万円)を調達したのとほぼ同時期だ。この他にもかなりのスタートアップが初期段階でプレシード投資やシード投資を調達した。

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この分野に携わるほぼ全員が同意している重要な論点は、創業者(およびその企業への投資家)は、民間企業に対する販売戦略を捨て、災害対応機関に特化して販売するために、アプローチを根本から再構築しなければならないということだ。つまり、収益を確保するためにまったく異なる戦略や戦術を立てなければならないということになる。

第一に最も重要なアプローチは、まず顧客となる機関を知ることではなく、この分野の人々が実際にどのような仕事をしているかを知ることだと言えるだろう。販売サイクルが示すように、災害対応は他の仕事とは異なる。混沌とした状況、急速に変化する環境、複数の分野にまたがるチームや省庁間の連携など、効果的に対応するにあたって行うべきことは、オフィスワークとはかなり違っている。ここで重要なことは共感だ。紙を使っている災害対応要員は、現場でデバイスが故障して危うく命を落とすところだったという経験があるかもしれない。911センターのオペレーターは、ソフトウェアのデータベースから適切な情報を見つけようと必死になっている間に、誰かが亡くなるのをリアルタイムで聞いたという経験があるかもしれない。

要するに、顧客の発見と開発だ。これは企業の世界とあまり変わりないが、緊急対応の業界関係者と多くの会話を交わす中で、そこからは忍耐の必要性が感じ取れた。構築すべきソリューションやソリューションを効果的に売る方法を確実に見いだすためには、とにかく長い時間、時には何シーズンもの時間が必要だ。企業向けのSaaS製品を繰り返し市場に出し、それが市場に受け入れられるまでの期間が6カ月だとすれば、政府機関ではそれと同等の段階に達するのに2~3年かかる可能性もある。

RapidSOSのMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は「公共サービス分野における顧客発見に近道はありません」と語った。同氏は「シリコンバレーの技術コミュニティの傲慢さと、公共安全に関わる課題の実態の間には、実に難しい問題があると思います」と述べ、スタートアップが成功を収めるためには、そうした問題を解決しなければならないと指摘した。一方、公共安全分野の企業であるResponder Corp(レスポンダー)の社長兼共同創業者、Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏はこう語る。「すべての課題を捉えるにはエンドユーザーについて考えるのが一番です。エンドユーザーにとって新しいテクノロジーを導入する上で満たす必要のある条件は何かを考えるのです」。

ハンガーのメンデルゾーン氏は、顧客発見のプロセスで創業者はいくつかの難しい質問に答えを見いだす必要があると述べている。「結局のところ、エントリーポイントは何かということです」と同氏はいう。「Corneaでは、顧客発見のプロセスを経る必要がありました。顧客にとってすべての要素が必要に思えたとしても、最小限の行動変化ですぐに効果があらわれる最適な解答を見つけ出す必要があるのです」。

確かに、顧客発見のプロセスは顧客の側からも評価されている。連邦政府の緊急事態管理機関の高官は「どの会社もソリューションを持っていましたが、誰も私の抱えている問題について質問することはありませんでした」と語った。質の高い製品を用意し、この市場で行われている特別な仕事に合わせてその製品をカスタマイズしていくことが鍵となる。

しかし、仮にすばらしい製品があったとしても、どうやって調達手続の難しい課題を解決できるのか。その答えはさまざまで、この問題へのアプローチ方法について各スタートアップが戦略を示している。

RapidSOSのマーティン氏は「問題解決のための新しいサービスを調達するうえで、政府には手本となる良いモデルがない」と述べる。そこで、同社は政府向けのサービスを無料にすることを決めた。「かつて当社の製品を使用している政府機関はゼロでしたが、3年であらゆる政府機関が当社の製品を使用するようになりました。手本となるモデルがないという調達の問題を解決したことが功を奏しました」と同氏は語る。同社のビジネスモデルが基盤としているのは、自社のデータを911センターに統合して自社の安全を確保したいと考える有料の企業パートナーを持つことだ。

これはMD Ally(エムディアリー)が採用しているモデルと同様のものだ。同社は先週、シードラウンドでGeneral Catalyst(ジェネラルカタリスト)から350万ドル(約3億8200万円)の資金を調達した。エムディアリーは、911通報システムに遠隔医療の紹介サービスを組み込んでいる。CEO兼共同創業者のShanel Fields(シャネル・フィールズ)氏は、政府調達を避け、医師や精神医療従事者側からの収益エンジンを作成することに活路を見いだしたと強調している。

「政府のロビンフッド」とでも呼ばれるようなもの(つまり無料で提供するサービス)以外に、別のアプローチもある。より有名で信頼できるブランドと連携して、スタートアップの革新性と既存プレイヤーの信頼性を兼ね備えた製品を提供するというものだ。レスポンダーのスタートン氏は「この分野で企業を立ち上げるには、資本金だけでは不十分であることをこの市場で学びました」と述べている。同氏は、民間企業とパートナーシップを構築して、政府に共同提案を行うことが効果的だと判断した。例えば、クラウドプロバイダーのAmazon Web Services(アマゾンウェブサービス)やVerizon(ベライゾン)は政府からの評判が良く、そのおかげでスタートアップが政府調達のハードルを越えやすくなっているという(TechCrunchはベライゾングループの一員であるVerizon Mediaが運営している)。

Carbyneのエリチャイ氏は、販売の大部分はインテグレーションパートナーを介して行っていると言い、その一例としてCenterSquare(センタースクエア)を挙げた。911サービスについては「米国の市場が最も細分化されていることは明らか」だ。だからこそパートナーを持つことで、同社は何千もの機関へ販売する労力を省くことができる。「通常、政府に直接販売することはありません」と同氏は述べた。

パートナーを持てば、緊急事態管理関連の調達における地元主義の問題に対処することもできる。多くの政府機関は実際に何を購入すべきかわからないため、地元地域の身近な企業が提供しているソフトウェアを購入する。パートナーは地元地域での存在感を示すと同時に、スタートアップが全国的にすばやく事業展開する後押しをしてくれる。

また、パートナーとして、経験豊富な退職した政府関係者との関係を構築することも考えられる。彼らの存在やネットワークを通してスタートアップへの信頼を勝ち得ることができる。政府関係者、特に緊急事態管理担当者の仕事は、企業における仕事以上に密接な連携が求められるため、お互いに協力し合い、信頼関係を築く必要がある。そのような連携を通して親しくなった関係者からの積極的な推薦があれば、商談の流れは簡単に変わる可能性がある。

最後に、緊急事態管理ソフトウェアは政府を対象にしているが、民間企業にとっても、自分たちの業務を守るために同じようなツールを検討する必要が増してきている。多くの企業は、従業員や現場チーム、守るべき物理的資産を分散して抱えており、政府と同様に災害に対応しなければならない場合が多い。スタートアップによっては、初期の段階では民間企業に売り込みながら、公的機関との関係を根気強く構築し続けることも可能だ。

要するに、スタートアップが政府の災害対応機関と関係を築くためには、長期的な顧客開発プログラムや良好なパートナーシップ、共同提案に加え、民間企業も大切にするというのが最善の道だ。

幸いなことに、こうした努力は報われる可能性がある。災害対応機関にはかなりの資金があるだけでなく、これらの機関自体が今より優れたテクノロジーが必要であることを認識している。Corneaの消防責任者であり、以前は米国森林局で火災対応責任者も務めていたTom Harbour(トム・ハーバー)氏は「私たちが費やす資金は数十億ドル(数千億円)にもなります。しかし、もっと効率を上げることができると考えています」と述べた。政府は効率性を高めることに必ずしも協力的ではないが、最後までやり遂げる意思のある創業者なら、影響力があり、収益性が高く、使命感を持った企業を作り上げることができるだろう。

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タグ:気候テック自然災害気候変動CorneaPerimeterCarbyneアメリカ

画像クレジット:Wes Frazer / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

気候問題専門の投資会社Congruent Venturesが約188億円調達、バイデン政権下で勢い

現在直面している気候の緊急事態を回避するためのテクノロジーとサービスを専門とするアーリーステージ投資会社のCongruent Ventures(コングルーエント・ベンチャーズ)が最新のラウンドで1億7500万ドル(約188億円)を調達した。

資産3億ドル(約323億円)を管理する同社はプレシード、シード、シリーズAラウンドの投資にフォーカスしており、Abe Yokell(アベ・ヨーケル)氏とJoshua Posamentier(ジョシュア・ポサメンティエ)氏によって創業された。2人は20年以上にわたって気候分野に投資してきた。

「インフラと気候に熱心な新政権の始動、そして緊急の気候変動をめぐるグローバルの問題への大幅に遅延していた資金の流入で、輸送やエネルギートランジッション、持続可能な生産と消費のための食料・農業などに取り組む36社超にわたるポートフォリオを当社はカバーしています」とヨーケル氏は声明で述べた。

ポートフォリオの企業には、菌糸体を使った肉のメーカーMeati、産直食料マーケットプレイスのMilk Run、効率的な製造のためのソフトウェアを開発しているPicoMES、電動自動走行トロッコのデベロッパーParallel Systems、アルミニウム添加剤メーカーAlloy Enterprises、自動の温室栽培システムを提供するHippo Harvest、ハードプレスされた廃棄物のリサイクルを行う組織の効率を改善するためのリサイクルロボットを展開しているAmp Roboticsなどが含まれる。

関連記事:マッシュルームでできた栄養価の高い代替肉をMeatiが2021年夏から展開

Congruent VenturesはMicrosoftのClimate Innovation Fund(気候イノベーション基金)、Prelude Venturesの系列会社、Jeremy and Hannelore Grantham Environmental Turst、Surdna Foundation、UC Investmentsのような著名なリミテッド・パートナーを抱える。

「つい最近まで、気候と持続可能性にフォーカスしているアーリーステージ資金は完全に不足していました」と共同創業者でマネージングパートナーのポサメンティエ氏は述べた。「当社は起業家が無数の落とし穴を回避するのをサポートできる最も初期の段階で投資し、起業家がたくましい企業に育て、追加の資金を調達するのを手伝います。その結果、世界最大の部門のいくつかにおける最も差し迫っている環境の問題に取り組んでいます」。

Congruentの企業の3分の1はエネルギーや公共インフラに直接取り組んでおり、米政府が提案するインフラ支出法案で莫大な利益を得るかもしれない。その上、Congruentのリミテッドパートナーには管理する資産が7000億ドル(約75兆5156億円)のインフラ投資家が含まれ、そうした投資家はCongruentのポートフォリオ企業によって開発されたテクノロジーの潜在顧客だ、とCongruentは声明で述べた。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Congruent Ventures気候変動持続可能性投資資金調達

画像クレジット:Teerawut Bunsom / EyeEm / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

産業や気候変動モニタリングで重要な赤外線と熱放射を観測する衛星画像のSatellite Vuが5.4億円調達、2022年に衛星打ち上げへ

地球観測の分野はますます競争が激しくなっているが、Satellite Vu(サテライトヴ)は産業や気候変動モニタリングにとって重要なものである赤外線と熱放射にフォーカスするという異なるアプローチを取っている。TechCrunchのStartup Battlefieldを経て、同社はシードラウンドで360万ポンド(約5億4000万円)を調達し、2022年に初の衛星を打ち上げる予定だ。

Satellite Vuのテックとマスタープランの基本はTechCrunchのSatellite Vu紹介記事にあるが、要旨はこうだ。Planetのような企業が地球の表面のほぼリアルタイムの画像を儲かる商売にした一方で、熱画像のようなニッチな部分は比較的開拓されていない。

建物や地上の特徴的なもの、あるいは人々の集まりから放射される熱は非常に興味深いデータポイントだ。オフィスビルや倉庫が使用されているのかどうか、温められているのか冷やされているのか、そのプロセスがどれくらい効率的かを示すことができる。地下水や送電線、熱影響を受ける他の物体の存在をうかがわせる温かい、あるいは冷たいエリアを見つけ出すことも可能だ。また、何人がコンサートあるいは就任式に参加しているかを推量することもできる。もちろん、夜でも使える。

たとえば発電所のどの部分がいつ稼働しているかを確認できる(画像クレジット:Satellite Vu)

汚染や他の物質の排出も簡単に特定して追跡でき、地球の赤外線観測を気候変動という観点から産業を監視するのに重要な役割を果たす。これこそがSatellite Vuが初の調達で現金を、それから英国政府からの140万ポンド(約2億円)の助成金、5億ポンド(約748億円)のインフラ基金の一部を引きつけたものだ。

「やはり我々の考えは正しかったのです」。創業者でCEOのAnthony Baker (アンソニー・ベイカー)氏は、同社がこの資金で初の衛星の製造を開始し、追加の資金のクロージング手続きを開始したと話した。

宇宙を専門とするVCファームのSeraphim Capitalは同社への助成金基金をマッチングし、その後の助成金と合わせて調達総額は目標の500万ドル(約5億4000万円)を超えた。Seraphim Capitalの最重要のベンチャーはおそらく合成開口衛星スタートアップICEYEだろう。

「Satellite Vuの魅力はいくつかあります。これについて我々は2020年いくつかの調査を発表しました。小型衛星コンステレーションを打ち上げる計画を持っている企業は180社以上です」とSeraphimのマネージングパートナーJames Bruegger(ジェームズ・ブルガー)氏は話した。しかし、赤外線あるいはサーマルの分野に目を向けている企業はかなり少数だと指摘した。「それで我々の好奇心がかき立てられました。なぜなら、赤外線はかなりのポテンシャルを持っていると常々考えていたからです。そして当社の2019年の宇宙アクセラレーターを通じてアンソニーとSatellite Vuを知っていました」。

Satellite Vuは資金を必要とする。衛星そのものはかなり安いように思える。衛星は合計1400万〜1500万ドル(約15億〜16億円)で、全体をカバーするのに衛星7基が必要となり、それだけで今後数年で1億ドル(約108億円)超はかかる。

画像クレジット:Satellite Vu

しかしSeraphimはひるんでいない。「宇宙を専門とする投資家として、当社は忍耐の価値を理解しています」とブルガー氏は話した。そしてSatellite Vuが同社のアプローチで「広告塔」になっていて、これによりSeraphimのアクセラレーターを通じてアーリステージの企業を導き、エグジットするまでサポートする、と付け加えた。

Seraphimはベイカー氏が関心のある企業から得られそうな収入について計算するのを手伝っている。あらゆるもののための資金を工面する必要があるからだ。「商業的なトラクションは最後に話したときから改善しました」とTechCrunchのDisrupt 2020 Startup Battlefieldでプレゼンする前にベイカー氏は話した。

同社は現在、26件の仮契約を抱えており、ベイカー氏の推定では1億ドルの事業になる。もちろん求められているサービスを提供できればの話だ。そのために同社は未来の軌道カメラを普通の飛行機に設置して飛ばし、衛星ネットワークから送られてくると予想するものに似せるために出力を修正してきた。

衛星からの画像に関心のある企業は現在、事前に撮影された画像を購入でき「本当の」プロダクトへの移行は比較的大変ではないはずだ。Satellite Vuのサイドでパイプラインを構築するのにも役立ち、テスト衛星やサービスは必要ない。

模擬の衛星画像の別例。同じカメラが軌道に設置されることになるが、遠くからの画像に似せるために質を低下させた(画像クレジット:Satellite Vu)

「我々はそれを疑似衛星データと呼んでいます。ほぼ実用最小限の製品です。顧客企業が必要とするフォーマットやスタッフについてともに取り組んでいます」とベイカー氏は話した。「次のステージとして、当社はグラスゴーのような都市全体をとらえてサーマルでマッピングする計画です。これに関心のある組織は多いのではないかと考えています」。

Satellite Vuのオペレーションや打ち上げはPlanetやStarlink、そして AmazonのKuiperのものに比べると小さいが、調達した資金、仮の収入、そして抱えている見込み客からするにSatellite Vuは注目を引く準備ができているようだ。2022年に仮予定されている初の打ち上げ後、残る6基の衛星を軌道に乗せるのに必要な打ち上げは2回で、ライドシェアの打ち上げロケットに1度に3基を載せる、とベイカー氏は話した。

しかし打ち上げ前にさらなる資金調達が行われ、おそらく早ければ数カ月内だろう。結局のところ、Satellite Vuが倹約的であっても、本格的に事業を展開するには巨額の現金が必要となる。

カテゴリー:宇宙
タグ:Satellite Vu気候変動赤外線人工衛星資金調達

画像クレジット:Satellite Vu

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

部品サプライヤーBoschが環境規制が強まる中、合成燃料と水素燃料電池に活路を見いだす

Bosch(ボッシュ)の経営幹部は米国時間4月22日、2025年までに内燃機関を禁止するというEUが提案した規制について、議員たちはそうした禁止が雇用にもたらす影響についての議論を「避けている」と批判した。

同社は新規事業、特に燃料電池事業で雇用を創出していると報告し、こうした雇用の90%超を内部でまかなっていると述べたが、電動輸送革命のすべてあるいは大半は雇用に影響するとも指摘した。格好の例として、ディーゼルのパワートレインシステムを作るのに従業員10人を要し、そしてガソリンのシステムでは3人を要するが、電動パワートレインの場合1人だけだと記者団に語った。

その代わり、Boschは電動化とともに再生可能な合成燃料と水素燃料電池に活路を見出している。水素から作られる再生可能な合成燃料は水素燃料電池とは異なるテクノロジーだ。燃料電池は電気を生み出すのに水素を使い、一方で水素由来の電池は改造された内燃機関(ICE)の中で燃焼する。

「もし再生可能な水素と二酸化炭素由来の合成燃料が道路交通で使用禁止のままであれば、機会は失われます」とBoschのCEOであるVolkmar Denner(フォルクマル・デナー)氏は述べた。

「気候変動に関する活動は内燃機関の終わりではありません。化石燃料の終わりなのです。電動モビリティと地球に優しい充電パワーが道路交通をカーボンニュートラルにし、再生可能燃料も同様です」。

電動ソリューションには、特に大型車を動かすという点で限界もある、とデナー氏は述べた。Boschは2021年4月初め、テストトラック70台の燃料電池パワートレインを作るために中国の自動車メーカーQingling Motors(慶鈴汽車)と合弁会社を設立した。

水素燃料電池と合成燃料に関するBoschの自信はバッテリー電動モビリティから除外されていない。自動車・産業部品の世界最大のサプライヤーの1社である同社は、社の電動モビリティ事業が約40%成長していると述べ、電動パワートレインの部品の年間売上高は2025年までに5倍の50億ユーロ(約6488億円)に増えると予想している。

しかしながらBoschは今後3年間で燃料電池パワートレインにも6億ユーロ(約778億円)投資するという「オプションを保留にしておく」と述べた。

「究極的には欧州は水素経済なしに気候中立を達成することはできないでしょう」とデナー氏は話した。

Boschは2021年も続いている世界的な半導体不足の影響を免れていない。取締役のStefan Asenkerschbaumer(シュテファン・アーセンケルシュバウマー)氏は、半導体不足が2021年「予測されていた回復を抑制する」リスクがあると警告した。台湾の半導体メーカーの幹部は2021年4月初めに、状況は2022年まで続くかもしれない、と投資家らに伝えた

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Bosch気候変動電気自動車水素燃料電池

画像クレジット:Krisztian Bocsi/Bloomberg / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

データセンターの膨大な電力需要を補うための液浸冷却技術にマイクロソフトが参入

LiquidStackもやっているSubmerもそうだ。どちらも地球を救うために、機密データを搭載したサーバーを液体に浸しているのだ。そしてついに、データセンターのエネルギー効率を向上させるため、世界最大級のハイテク企業であるMicrosoft(マイクロソフト)が液浸冷却市場に参入した。

マイクロソフトは、水の沸点よりも低い華氏122度(摂氏50度)で沸騰するように設計された自社開発の液体をヒートシンクとして使用し、サーバー内の温度を下げることで、オーバーヒートのリスクなしに、フルパワーで稼働できるようにしている。

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沸騰した液体の蒸気は、サーバーを貯蔵するタンクの蓋にある冷却されたコンデンサーと接触して、再び液体に戻る。

「当社は、本番環境で初めて二相浸漬冷却を行ったクラウドプロバイダーです」。ワシントン州レドモンドにあるマイクロソフトのデータセンター先進開発チームのプリンシパルハードウェアエンジニアであるHusam Alissa(フサム・アリッサ)氏は、同社の社内ブログでそう伝えている。

とはいえ、液冷は熱を移動させてシステムを作動させる方法としてはよく知られているものだ。自動車の場合にも、高速道路を走行する際にはモーターの回転を維持するために液冷が使われている。

テクノロジー企業がムーアの法則の物理的限界に直面する中、より高速で高性能なプロセッサーが求められているため、より多くの電力を処理できる新しいアーキテクチャーを設計する必要がある、と同社はブログ記事の中で述べている。中央演算処理装置に流れる電力は、1チップあたり150Wから300ワW以上に増加した他、ビットコインのマイニング、人工知能搭載アプリ、ハイエンドグラフィックスの多くを担うGPUは、それぞれ1チップあたり700W以上を消費する。

液体冷却をデータセンターに応用した最初のハイテク企業はマイクロソフトではないということ、そして同社が最初の「クラウドプロバイダー」という分類を使用していることが大きな意味を持つということを強調しておきたい。というのも、ビットコインのマイニングには何年も前からこの技術が使われているからだ。実際、LiquidStackは、液浸冷却技術を商品化して大衆に提供するために、ビットコインマイニング業者からスピンアウトしたものだ。

「空冷では不十分」

プロセッサーに流れる電力が増えれば、チップの温度が上がり、冷却を強化しなければチップが故障してしまう。

「空冷では不十分なのです」。レドモンドにあるマイクロソフトのデータセンター先進開発グループのヴァイス・プレジデントのChristian Belady(クリスチャン・ベラディ)氏は、社内ブログのインタビューで説明している。「それが、チップの表面を直接冷却する液浸冷却を導入した理由です」。

ベラディ氏は、液冷技術を使用することで、ムーアの法則の密度と圧縮をデータセンターレベルにまで高めることができるのだ。

エネルギー消費の観点から見た結果はすばらしいものだ。同社は、二相式液浸冷却を使用することで、サーバーの消費電力を5%から15%削減できることを発見した(少しではあるが、ちりも積もれば山となる)。

マイクロソフトが、AIなどのHPCアプリケーションのための冷却ソリューションとして液浸を調査した結果、二相式液浸冷却により、任意のサーバーの消費電力が5%から15%削減されることなどが明らかになった。

一方、Submerなどの企業は、エネルギー消費量を50%、水の使用量を99%削減し、85%の省スペース化を実現したと述べている。

マイクロソフトによれば、クラウドコンピューティング企業にとって、これらのサーバーをより多くの電力を消費する需要の急増時にも稼働させることができれば、柔軟性が増し、サーバーに負担がかかっても稼働率を確保することができる。

マイクロソフトのAzureチームのヴァイスプレジデントを務めるMarcus Fontoura(マルクス・フォントウラ)氏は、同社の社内ブログで「Teamsでは、1時や2時になると人々が同時に会議に参加するため、巨大な需要が発生することが分かっています。液浸冷却は、このような爆発的な作業負荷に対応するための柔軟性を提供してくれます」と述べている。

現在、データセンターはインターネットインフラに欠かすことのできない重要な構成要素となっており、世界はテクノロジーを駆使したほとんどすべてのサービスに依存している。しかし、このようなデータセンターへの依存は、環境面で大きな負担となっているのだ。

Norrsken VCの投資マネージャーを務めるAlexander Danielsson(アレクサンダー・ダニエルソン)氏は、2020年、同社がSubmerに投資したことについて「データセンターは人類の進歩の原動力です。基幹インフラとしての役割はこれまで以上に明らかになってきており、AIやIoTなどの新技術が今後もコンピューティングのニーズを牽引していくでしょう。しかし、この業界の環境負荷は驚くほどの速さで増大しています」と語っている。

海底のソリューション

実験的な液体にサーバーを沈めるというのが問題解決の1手段とされるなか、サーバーを海に沈めることにより、電力をあまり消費せずにデータセンターを冷却するという方法も存在する。

マイクロソフトはすでに過去2年間、海底データセンターを運用している。2020年、同社は実際に新型コロナウイルスのワクチンの過程を支援するための働きかけの一環として、この技術を持ち出している。

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同社によると、梱包済みの輸送用コンテナサイズのこのデータセンターは、必要に応じて回転させ、海面下の深いところで稼働させることができ、持続可能で高効率かつ強力な演算処理を行うことができるという。

この液冷プロジェクトは、マイクロソフトのProject Natickと共通している。Project Natickは、海底データセンターの可能性を探るもので、これは人が現場でメンテナンスをしなくても、潜水艦のような筒の中に密閉された海底で迅速に展開され、何年も稼働することができる。

これらのデータセンターでは、産業用流体の代わりに窒素空気を使用し、ファンと、密閉されたチューブに海水を送り込む熱交換器でサーバーを冷却する。

スタートアップの多くも、海上のクールなデータセンターを狙っている(「隣の海藻は青い」のである)。

例えば、Nautilus Data Technologiesは、1億ドル(約109億3200万円)以上の資金を調達し(Crunchbase調べ)、海底に点在するデータセンターを開発している。同社は現在、カリフォルニア州ストックトン近郊の支流で、持続可能なエネルギープロジェクトと同居するデータセンタープロジェクトを開発中だ。

この二相式液浸冷却により、マイクロソフトは海洋冷却技術の利点を陸地にもたらしたいと考えている。「データセンターを海底に置くのではなく、サーバーに海を運んできたのです」とマイクロソフトのアリッサ氏は同社の声明で述べている。

AzureのプリンシパルソフトウェアエンジニアIoannis Manousakis(イオアニス・マノサキス、左)氏と、Microsoftのデータセンター先進開発チームのプリンシパルハードウェアエンジニアのフサム・アリッサ氏(右)が、マイクロソフトのデータセンターで、二相式液浸冷却槽に入れられたコンピュータサーバーが作業負荷を処理しているコンテナの前を通る(画像クレジット:Gene Twedt for)

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:Microsoftデータセンター地球温暖化気候変動

画像クレジット:Gene Twedt for Microsoft. / Microsoft

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

野菜・果物など生ゴミ活用のオーガニックポリマー開発で水問題解決を目指すOIST発EF Polymerが4000万円調達

ビル&ミリンダ・ゲイツ財団も支援、生ゴミ活用のポリマー開発で水問題解決を目指すEF Polymerが4000万円を調達

野菜・果物の不可食部分の残渣など有機性廃棄物から開発したオーガニックポリマーを手がける「EF Polymer」(EFポリマー)は4月14日、シードラウンドにおいて、総額4000万円の資金調達を発表した。引受先は、MTG Ventures、Yosemite、Beyond Next Ventures、エンジェル投資家の鈴木達哉氏(Giftee代表取締役)。2018年から始まった沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスタートアップアクセラレータープログラムから生まれたスタートアップとしては、初めての大型資金調達事例となる。

EF Polymerは、OISTの2019年度スタートアップ・アクセラレーター・プログラムを通じ、当時22歳のインド人起業家兼CEOのNarayan Lal Gurjar(ナラヤン・ラル・グルジャール)氏らが設立。

生分解性廃棄物(生ゴミ)を新興国でも利用しやすい低コスト・持続可能な農業資材に変換することで、水不足など農業に関わるグローバルな環境問題を解決することをミッションとして掲示しており、野菜・果物の不可食部分の残渣をアップサイクルした環境に優しいオーガニックポリマーの開発を行っている。

EF Polymerが開発するオーガニックポリマーとは?

現在オムツなどに使われ一般的に流通しているポリマーは、アクリル系ポリマーなど化学合成されたものが大多数であり、生分解せず土壌を汚染することや、土壌成分と化学反応し吸水力を失うことから農業利用に適していないという。

これに対してEF Polymerのポリマーは、柑橘系の果物やバナナの皮、サトウキビのバガスなど有機性廃棄物を基に開発を行っているそうだ。このポリマーは、自重の80~100倍の水を保持でき、土壌投入すると保水力と肥料保持力が高まり、40%の節水と20%の肥料削減が期待できるという。また100%オーガニックのため6カ月で完全生分解される。

インドではすでに累計1700kgを販売しており、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの支援を受けながら、500人以上の農家の協力の下パイロットテストを実施しているそうだ。

農業用水不足などの「水問題」を、生ゴミを「資源」として活用し解決

今日の地球上に存在する水のうち人類が利用可能な淡水は約0.01%しかなく、そのうち約7割が農業セクターにおいて消費されているという。これに加え、気候変動や環境汚染などに起因する農業用水の不足など、農家が直面している「水問題」は乾燥地域では特に深刻な課題となっているそうだ。

また、膨大に生み出される生ゴミも社会問題化しており、世界では毎年約2~3億トンの生ゴミを排出しているという。この生ゴミは、全体の30~40%しか利活用が進んでおらず、焼却インフラの少ない新興国では土壌埋設処分による汚染問題を引き起こしている。

そこでEF Polymerは、世界が抱える「水」と「生ゴミ」における社会課題を同時に解決するべく、生ゴミを「資源」として活用することでオーガニックポリマーを開発した。

またナラヤン・ラル・グルジャールCEOは、現在日本の有機農園は0.5%ヘクタールの土地しかなく、農林水産省は今後30年間で25%にまで有機農園を増やそうとしている点を指摘。バイオ廃棄物をリサイクルし、有機農産物を変換する同社のアプローチは、これらオーガニック農業の促進に役立つという。同社のEF Polymerは、有機農園を増やすというプロジェクトに貢献し得る大きな可能性を秘めているとした。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:農業 / アグリテック(用語)EF Polymer(企業)沖縄科学技術大学院大学 / OIST(組織)資金調達(用語)気候変動(用語)ビル&メリンダ・ゲイツ財団(企業)水(用語)日本(国・地域)

気候変動重視の個人投資家向け投資アプリを発表したClim 8が7pc Venturesから8.8億円調達

エシカル(倫理的な)投資はいまだに混乱した迷路のようなもので、多くの「グリーンウォッシング」が行われている。一方で英国の新しいスタートアップが個人投資家向けの新しいアプリとプラットフォームをローンチすることで、この問題を解決しようとしている。

Clim8 Investhasは7pc Ventures(Facebookに買収されたOculusの初期の支援者)、British Business Bank Future Fund、そしてMoneseのMarcus Exall(マーカス・エグザル)氏、N26のMarcus Mosen(マーカス・モーセン)氏、Lego DigitalとMcKinseyのPaul Willmott(ポール・ウィルモット)氏、RedbrainのDoug Scott(ダグ・スコット)氏、Thought MachineのMatt Wilkins(マット・ウィルキンス)氏、SkyscannerのAndrew Cocker(アンドリュー・コッカー)氏、RedbrainのSteve Thomson(スティーブ・トムソン)氏、NeyberとGoldman SachsのMonica Kalia(モニカ・カリア)氏、AdzunaのDoug Monro(ダグ・モンロ)氏、LimejumpのErik Nygard(エリック・ナイガード)氏ら数多くのテクノロジー起業家やエグゼクティブから800万ドル(約8億8000万円)を調達した。

これにより、消費者は気候変動に取り組む企業やサプライチェーンに投資できるようになる。この分野で競合するスタートアップにはロンドンのTickr(Ada Venturesから300万ドル、約3億3000万円を調達)、パリのHelios、チューリッヒのYovaなどがある。

Clim 8のDuncan Grierson(ダンカン・グリアーソン)CEOは声明で「私たちは持続可能な投資にとって刺激的な時期にビジネスを立ち上げます。2020年は投資家が気候関連の投資機会に目を向けていたため、環境に焦点を当てた投資にとって例外的な年でした。新型コロナウイルス(COVID-19)の危機以降も持続可能な投資は市場を上回る成果を上げており、今後も継続すると考えています」と述べた。

グリアーソン氏は環境業界で20年の経験を持ち、EY Entrepreneur of Year Cleantech賞を受賞している。

Clim8はサステイナブルな投資ファンドの情報開示に関するEUの新しい高いルールを活用する。ユーザーは株式型ISA(2万ポンド、約300万円まで)、または課税対象となる一般投資口座のいずれかを選択できる。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Clim8気候変動資金調達

画像クレジット:Clim8 Invest

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(文:Mike Butcher、翻訳:塚本直樹 / Twitter

油井の排出メタン監視技術のAndiumが大手石油企業から巨額の資金を調達

油井やガス井の遠隔フィールドモニタリングに注力しているAndium(アンディウム)は、OGCI Climate Investments(石油・ガス気候変動イニシアチブ気候投資)が主導した投資ラウンドで、少なからぬ資金を調達した。

世界最大手のエネルギー企業で構成されるOGCIは、世界の温室効果ガス排出量を抑制するためのパリ協定で定められた目標を「支援」するために2014年に設立された。これまでに21のプロジェクトに投資している。

同イニシアチブに加盟する石油メジャー各社は、Citadel Securities(シタデル・セキュリティズ)や、Talis Capital(タリス・キャピタル)の元最高投資責任者であるTom Miglis(トム・ミグリス)氏などの既存の投資家とともに、天然ガスのフレア監視、タンクの遠隔測定、物体検知などの技術を開発している企業のAndiumを支援することになった。

同社は、石油・ガス会社に遠隔地からのリアルタイム情報を、他のソリューションに比べてはるかに低いコストで提供できるとしている。

センサーや監視装置と聞いてもあまり刺激的なテクノロジーとは思えないかもしれないが、温室効果ガス排出の流れを食い止めるために、これほど重要な技術サービスはないだろう。再生可能エネルギーに投資するEnergize(エナジャイズ)のパートナーであるMark Tomasovic(マーク・トマソビッチ)氏は、(筆者に向けて)次のようにツイートしている。「採掘中の石油・ガス井から排出されるメタンの監視と削減に取り組んでいる企業がいくつかあります。米国には100万以上の石油・ガス井があり、メタンは二酸化炭素の28倍もの温室効果があることを考えると、これらのスタートアップ企業はTesla(テスラ)よりも地球の気候変動に影響を与えていると言えるでしょう」。

Jon Shieber
Twitter(ツイッター)ユーザーのみなさん、全般的に言って、温室効果ガスの排出削減に最も影響を与えると思われる気候テクノロジー投資の新しいカテゴリーは何でしょうか(風力・太陽光以外で)?

Mark Tomasovic
採掘中の石油・ガス井から排出されるメタンの監視と削減に取り組んでいる企業がいくつかあります。米国には100万以上の石油・ガス井があり、メタンはCO2の28倍もの温室効果があることを考えると、これらのスタートアップ企業はテスラよりも地球の気候変動に影響を与えていると言えるでしょう。

AndiumのCEOであるJory Schwach(ジョリー・シュワッチ)氏は、声明で次のように述べている。「変革のリーダーシップと卓越したオペレーションには、可視性が最も重要であると我々は考えています。当社の遠隔監視技術は、企業が持続可能性の目標を達成するための迅速な道筋を提供するために、特に設計されたものです」。

シュワッチ氏は、太陽電池による全地球測位システムを開発したGlobalRim(グローバルリム)や、オフライン通信サービスのMeshMe(メッシュミー)などの事業を、これまでてがけてきたシリアルアントレプレナーで、当初は物流業界向けの電池式トラッキングシステムの開発を行っていた。

「私は2年間の大半を、長距離トレーラー用のバッテリー駆動のトラッキングソリューションを構築することに費やしました。それによって市場がブローカーに代わって『共有財産』を管理できるようになるからです。ハードウェアの開発には何度も失敗しましたが、本当の価値は、継続的に変わる製品要求の中にあり、それはソフトウェアの変更ではるかに簡単に解決できることに気づきました」と、シュワッチ氏はMedium(ミディアム)出版社のAuthority Magazine(オーソリティ・マガジン)に語っている。「ハードウェアとインフラをクライアントに代わって管理しながら、変化するユースケースに基づいて製品をカスタマイズするためにOSを活用するのであれば、小型デバイス用の新しいタイプのOSを構築することは大きなビジネスになると考えました」。

Andiumの技術は、市販のカメラやマイクに人工知能を重ね合わせて、あらゆる産業資産のリアルタイムなモニタリングを実現する。

「メタンを監視・測定することで生まれる透明性は、排出量の削減に不可欠です」と、OGCI Climate InvestmentsのCEOであるPratima Rangarajan(プラティマ・ランガラジャン)氏は語っている。「Andiumの低コストで革新的なソリューションは、あらゆる規模の事業者がベストプラクティスを採用・実施する障壁を低くするものであり、我々は彼らの成長を支援できることをうれしく思います」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Andium温室効果ガス資金調達気候変動メタン石油

画像クレジット:Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ロサンゼルスが気候変動対策でカーボンアカウンティングを導入

ロサンゼルス市は2021年3月初め、同市のカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)を把握する新たなソフトウェアとモニタリングのテクノロジーを展開するために、実行可能性調査の準備をさまざまな部門に課した最新の都市となった。

議員Paul Koretz(ポール・コレッツ)氏が主導したロサンゼルスの市議会イニシアチブは、カリフォルニア州の動きに続くものだ。同州は州内で事業展開する年間売上高が10億ドル(約1089億円)を超える全事業所に温室効果ガスの排出量を公開し、排出を減らすための科学ベースの目標を設定することを義務付けた。

カリフォルニア州はグローバル気候変動の破壊的な影響を実感している唯一の州ではないが、原因に取り組もうという試みにおいては最も積極的だ。その試みが電力供給から化石燃料を排除するかなりの努力なのか、気候変動への影響に対して事業所に責任を持たせる提案なのかはさておき、カリフォルニア州は気候変動の影響を和らげ、温室効果ガスの生産を反転させることができる新たなテクノロジーやサービスの受け入れを促進しているという点でリーダーだ。

ロサンゼルスは今回の取り組みで、そうした勢いに乗りたいと考えており、積極的にカーボンアカウンティング(事業活動における二酸化炭素の排出量や削減量を計算すること)でサポートを得られるテック企業を探している。

これは、CarbonChainPersefoniClimateViewSINAI Technologiesといった企業にとってはいい取り組みだ。これらの企業はカーボンアカウンティングとマネジメントをサポートするプロダクトを展開している。

これは、10億ドル規模の予算を持つ一部の大都市が、市民を脅かす気候変動にどれくらい関与しているかをこれまで以上にコントロールするのに必要なツールにその対価を支払うことを示している。

ロサンゼルスでは市議会が、同市のカーボンフットプリントの正確な把握を提供するテクノロジーの開発または購入の実行可能性を報告するよう、ロサンゼルス衛生局と主任立法分析官にタスクを課した。

「ロサンゼルス市は照明から市庁舎、施設、街灯の維持、道路の舗装、輸送車両の展開、送水、再生処理施設の運営に至るまで数多くのサービスを提供しています。これらはすべて環境負荷をともないます」と議員のコレッツ氏は2021年3月初めの声明で述べている。「もし我々が二酸化炭素削減の目標に真剣に取り組み、ロサンゼルス国際空港やロサンゼルス港の周辺の問題に直面しているコミュニティの暮らしに真の違いをもたらしたいのなら、より良い、そしてより一貫性があり、さらに透明性のある二酸化炭素排出のアカウンティングが必要です」。

ロサンゼルスは気候変動と気候に優しい政策を政治的な議論の中心に持ってこようと着実に取り組んできた。約2年前の2019年7月にロサンゼルスは気候非常事態の部署を設け、Eric Garcetti(エリック・ガーセッティ)市長は市民団体の指導者と市長室、市議会の活動を調整するために気候非常事態動員事務所を立ち上げた

説明責任の計画に予算は配分されなかったが、市議会の計画に詳しい人は2021〜2022年の予算から配分が始まると予想している。

ロサンゼルスは過去にカーボンフットプリントの解決を試みたが、それは成功しなかった。過去の排出量データを使って調査が行われ「スコープ3」排出量は含まなかった。スコープ3は市の事業向けのサービスプロバイダーが出している温室効果ガスに関連している。

ロサンゼルス市は気候変動への助長についての説明責任とメトリクスを提供する能力の改善に目を向けていて、ニューヨーク市が設定した基準を参考にするのも悪くない。ブルームバーグ政権下では、カーボンアカウンティングと復元性のある対策が最優先事項になった。ニューヨーク市が気候や天候関連の災害にかなりさらされていることをハリケーン「サンディ」が明白にした前のことだ。

2012年のハリケーン「サンディ」ではカリブ諸国からカナダにいたるまでの8カ国で700億ドル(約7兆6248億円)の被害をもたらし、233人が亡くなった。

この大災害によってニューヨーク市は気候変動対策に一段と積極的に取り組むと固く決心した。同市は市の事業から出る排出量のしっかりとしたアカウンティングプログラムを持っており、既存の環境、輸送、産業から排出される温室効果ガスを削減するために市全域に政策を適用して前に進めている。

「データは決定の原動力となり、データなしではゼロエミッションの未来に向けた道を描くことはできません」と議員のJoe Buscaino(ジョー・ブスカイノ)氏は述べた。「今日の世代のリーダーたちは引き続き緊急性を持って気候変動に取り組み、ロサンゼルスのために設定した目標に対して責任を持たなければなりません。そしてこの動きはそうした取り組みへと導きます」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:ロサンゼルス気候変動カーボンフットプリント

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

Energy Impact Partnersが気候変動対策関連企業の指標を作成、NASDAQ総合を大幅に上回る

気候変動に焦点を当てた企業が公開市場に溢れている中、誰が何をしているのか、どこで取引されているのか、どのように業績を上げているのか、把握するのは難しくなっている。そこでEnergy Impact Partners(エナジー・インパクト・パートナーズ)は、持続可能性やエネルギー効率、温室効果ガス排出量の削減に注力しているハイテク企業を追跡するインデックスを設定した。

世界最大級のエネルギー消費者や電力会社を投資家に持つ同社は、過去数カ月間、公開市場で取引されている代表的な気候変動対策技術を対象としたインデックスの設定に取り組んできた。その結果、これらの企業が市場全体と比較して大きなリターンを上げていることが判明した。

2020年に入ってから、EIP Climate Index(EPI環境指標)はNASDAQ(NASDAQ総合指数)を約2.8倍上回っており、NASDAQ総合の45%に対し、127%の上昇となっている。リストに掲載されている企業27社のうち約20社が公開後1年未満の新規上場で、その間にNASDAQ総合を上回った。中でも約16社は、その間に100%以上の上昇を見せている。それは、この指数全体が1月のピーク時から約20%下がった状況になっても変わらない。

このインデックスは、実際には株式投資のためではなく、何よりも教育的なツールとして考えられたものだが、気候関連のソリューションに取り組んでいる企業の幅広さと、これらの企業を支援したいという公開市場の投資家の圧倒的な意欲がそこには示されている。

「SPACに限らず、公開市場における気候変動関連技術の動向は、本当に信じられないほど好調です」と、Energy Impact PartnersのパートナーであるShayle Kann(シャイル・カン)氏は述べている。「この気候変動技術インデックスを作成した動機の1つは、どれだけ多様な企業を集められるかを、確認することでした」。

EIPのインデックスには、持続可能性の観点から注目を集めるBeyond Meat(ビヨンド・ミート)のような企業や、水素燃料電池のBallard Power(バラード・パワー)やBloom Energy(ブルーム・エナジー)のように、やや歴史が長い企業も含まれている。このインデックスに含まれる企業は、電力貯蔵、再生可能エネルギーの生産、電気自動車の充電とインフラ、代替タンパク質の提供など多岐にわたる。

「考え方としては、このような企業をすべて含めた場合、全体のパフォーマンスはどうかということでした。私たちはこのインデックスを作成し、包括的なものにしようとしました。その結果、市場全体を劇的に上回ることになったのです」。

EIPのリストは情報提供を目的としているが、誰かがこのインデックスを利用して、この業界のETF(上場投資信託)を作らない理由はない。現在市場にあるETFのほとんどは、エネルギー生産やインフラに焦点を絞ったものだが、EIPのインデックスは、気候変動の影響を緩和し、温室効果ガスの排出を削減することに焦点を当てた企業の幅広い多様性を追う初めての指標となる可能性が高い。

Desktop Metal(デスクトップ・メタル)のような3Dプリント(積層造形)の会社もあるが、カン氏によると、同社の技術には多大な気候変動要素が含まれているという。

「積層造形技術は、廃棄物の削減、輸送の削減、製造工程の電化など、かなり強力な気候変動対策になります」と、カン氏は語った。

また、この指標は、初期段階の個人投資家が注目するためのシグナルでもあるとカン氏はいう。

「公開市場への道筋が広がります。ここで株価が上昇する企業がわかります。これが我々やベンチャーキャピタルの世界にいるすべての人に示唆するのは、この指標が好調なときには、イグジットまでの道筋が好転するということです」と、同氏は述べている。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Energy Impact Partners気候変動持続可能性二酸化炭素燃料電池3Dプリント

画像クレジット:Energy Impact Partners

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

台湾の水不足でわかるテックへの気候変動の脅威

前代未聞の干ばつに直面している台湾のチップメーカーへの給水能力について台湾政府が週末に出した声明は、気候変動がテック産業の基盤にとって直接の脅威であることをはっきりと示している。

Bloombergが報じたように、台湾の蔡英文総統は現地時間3月7日、56年の歴史で最悪の干ばつに直面している市民や事業所への給水能力についてFacebookに投稿した

総統は台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)のような企業による半導体製造を停止させないだけの十分な貯水量は確保される、と述べた。

チップはテック産業の基礎であり、チップ製造の混乱は世界経済に悲惨な結果をもたらす可能性がある。チップ供給の逼迫はすでにGeneral Motors(ゼネラル・モーターズ)やVolkswagen(フォルクスワーゲン)といった自動車メーカーの生産停止を招き、チップ製造施設の稼働は限界に近づいている。

バイデン政権は、米国各地で製造プラント停止を引き起こしている現在も続くチップ不足を解決するために2021年2月に大統領令を出した際に、米国が半導体製造供給を強化する必要があると強調した。

「台湾の水不足、そして半導体への影響はあらゆるテクノロジー投資家、創業者、全ベンチャーエコシステムへの警鐘です。はっきりとした複雑性理論であり、産業マーケットで広く急速に展開されているスケーラブルでデータを活用しているソリューションはコース修正で唯一の望みであることを示しています」とエネルギー専門の投資会社Blue Bear Capitalのパートナー、Vaughn Blake(ヴォーン・ブレイク)氏は書いた。

台湾の水危機と半導体産業への大きな影響は目新しいものではない。そうした問題は2016年のハーバードビジネススクールのケーススタディ分析でも取り上げられた。そしてTSMCはすでに水の消費を解決するために取り組んでいる。

TSMCは2016年には水の浄化とリサイクルの改善に取り組んでいた。これは1日あたり200万〜900万ガロンの水を消費する産業にとっては必要不可欠だ(Intelだけで2015年に90億ガロンの水を使用した)。ハーバードのケーススタディによると、少なくともTSMCの製造施設の一部は90%という率で工業廃水リサイクルをなんとか達成した。

しかしムーアの法則によってそのサイズは小さくなり、製造工程におけるさらなる正確さとより少ない不純物に対する需要が増えるにつれ、製造施設での水使用は増えている。次世代チップはおそらく1.5倍の水を消費し、これは、増加分を埋め合わせるためにリサイクル改善が必要とされることを意味する。

スタートアップはコストを下げ、ますますエネルギー集約的になっている排水リサイクルと脱塩のパフォーマンスを改善する方策を探す必要がある。

一部の企業はそうした方策を実践している。量子ベースの水処理テクノロジーを開発したと主張している英国のBlue Bosonのような企業もある。同社の主張はサイエンスフィクションのように聞こえるが、同社ウェブサイトは世界で最も優れた研究だとうたっている。同じく英国企業である漏れ検知のFidoは水が浪費されている可能性がある箇所を追跡する。そしてPontic TechnologyとMicronicは水と液体の減菌システムを開発している米国企業だ。

浄水のスタートアップNumixは工業生産の要である重金属を排除することを目的としている。そしてロサンゼルスのDivining Labsは水使用のためにより多くのリソースを集めるため、雨水流出を予測・管理を向上させるのに人工知能を使っている。

「『その人の給料が理解していないことに基づくとき、その人に何かを理解させるのは難しい』とUpton Sinclair(アプトン・シンクレア)氏はいう」とブレイク氏は述べている。「さて、そこにいるすべての創業者と投資家のみなさん、当分の間、すべてのテクノロジーは気候対策のもののようだが、技術がまったくないということにならないように」。

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

バイデン政権下、米国防総省が気候変動対策で作業部会を設置

米国防総省が、気候変動に関する作業部会を立ち上げた

新しいグループはJoe Bryan(ジョー・ブライアン)氏が指揮する。彼は2021年初めに国防長官の気候問題担当特別補佐官に任命された。

これは、世界的な気候変動がもたらす危機への対策を求める議案を推進するためにバイデン政権が執った、いくつかの方策の1つだ。

声明によるとブライアン氏は、オバマ政権下で海軍長官のエネルギー問題担当副補佐官を務め、今回はバイデン氏の最近の大統領令とそれに次ぐ気候とエネルギーに関連した指示書に対する省としての対応をまとめるためにグループを指揮監督し、また気候とエネルギーに関する実際の対策措置とその進捗を点検する。

国防総省は数千億ドル(数十兆円)にも上る政府支出の財布のひもを握り、電力、石油・ガス、産業資材などを大量に消費している。サプライチェーンの効率を向上させ、車両の排出プロファイルを削減し、再生可能エネルギーを電力事業に利用するために同省がとるいかなる措置も、再生可能で持続可能な技術の商業化と温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献する可能性がある。

声明によると、国防総省はすでにリスク分析、戦略開発、計画ガイダンスに気候変動の安全保障上の影響を含めており、設置計画、モデリング、シミュレーション、戦争ゲーム、国防戦略にもこれらのリスク分析を含めている

「競合する物流環境における行動の自由を改善するためにプラットフォームの効率性を向上させることであれ、施設における主要な能力の回復力を強化するために新たなエネルギーソリューションを導入することであれ、我々の任務目標は気候目標と十分に整合している」と、Lloyd Austin(ロイド・オースティン)国防長官は声明で述べた。「国防省はその連携を活用して、軍の近代化、サプライチェーンの強化、同盟国やパートナーと緊密に協力する機会の特定、将来の成功に欠かせないエネルギー技術で中国と競争していきます」。

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hiroshi Iwatani)

エネルギー消費を抑制する電動モーター開発企業にロバート・ダウニー・Jr氏、ビル・ゲイツ氏が支援する企業が投資

とても小さなイノベーションが、グローバル気候変動を食い止めようとする世界の取り組みにかなり大きな影響を及ぼすことがある。間違いなく、これまでの気候変動対策における最大の貢献の1つがLEDライトへの転換だ。LEDライトはビル内のエネルギー消費を減らすことで数億トンもの二酸化炭素排出を減らした。

そしていま、Robert Downey Jr(ロバート・ダウニー・Jr)氏とBill Gates(ビル・ゲイツ)氏が支援する企業が、Amazon(アマゾン)やiPod発明者のTony Fadell(トニー・ファデル)氏のような投資家の仲間入りをしようとしている。グローバル気候変動を減速させるという世界の取り組みにおいて次のすばらしいイノベーションを持っていると確信している、Turntide Technologies(ターンタイド・テクノロジーズ)という会社に資金を注ぐためだ。そのイノベーションとは改良された電動モーターだ。

アーク反応器ほどに派手なものではないが、電球同様にモーターはユビキタスで、19世紀以来、基本的に同じように作動してきた完全に地味なテクノロジーだ。そして電球同様、アップグレードしようとしている。

「我々の地球を元の状態に戻すためのTurntideのテクノロジーとアプローチは、エネルギー消費を直接減らします」とFootPrint Coalitionの共同創業者Steve Levin(スティーブ・レビン)氏は述べた。

ビルのオペレーションは世界の二酸化炭素排出量の40%を占めている、とTurntideは声明に記した。また米エネルギー省によると、商業ビルで使用されるエネルギーの3分の1は無駄遣いだ。スマートビルディングテクノロジーはライトやエアコン、暖房、換気、他の重要なシステムを自動で効率的にコントロールすることでこうした無駄を省くインテリジェントなレイヤーを加えていて、Turntideの電動モーターではさらに節約できる。

だからこそ、投資家らは過去わずか6カ月でTurntideに1億ドル(約107億円)超を投資した。

iPod発明者でNestの創業者かつ元CEOのTony Fadell氏、2017年6月16日、フランス・パリ(画像クレジット:Christophe Morin/IP3/Getty Images)

CEOそして会長としてRyan Morris(ライアン・モリス)氏が率いるTurntideはイリノイ工科大学で最初に開発されたテクノロジーを商業化しようとしている。

Turntideの基本的なイノベーションはソフトウェアでコントロールするモーター、あるいスイッチリラクタンスモーターだ。これはコンスタントな電気の流れの代わりにエネルギーの正確なパルスを使っている。「従来のモーターでは、あなたが望むスピードで絶え間なくモーターに電流を流します」とモリス氏は話した。「我々はあなたがトルクを必要とするときだけ正確な電流量を流します。ソフトウェアで特徴づけられているハードウェアなのです」。

このテクノロジーの開発には11年かかった。モリス氏によると、システムを動かすための処理能力が存在しなかったためだ。

モリス氏は当初、2013年にテクノロジーを買収したMeson Capitalという投資会社に属していた。そしてモーターが実際にパイロット試験で機能できるようになるまでにさらに4年開発にかかった、と同氏はいう。同社は最後の3年を商業化戦略の検討と最初の市場での価値の提供に費やした。その価値とは、世界の気候変動につながっている二酸化炭素の排出の28%を占めている、ビルの暖房換気とクーリングシステムの改良だ。

「我々のミッションは世界中のモーターを取り替えることです」とモリス氏は述べた。

電動モーターが今日使われているところの95%にこのテクノロジーを応用できると同氏は推定しているが、まずはスマートビルディングに注力する。というのも、簡単に始めることができ、エネルギー使用量に対してすぐさま大きな影響を与えるところだからだ。

「我々が行っているカーボンインパクトはかなり巨大なものです」とモリス氏は2020年筆者に語った。「エネルギー削減量は平均で64%になります。もし米国のビルのすべてのモーターを取り替えることができたら、毎年3億トンの二酸化炭素隔離に相当します」。

だからこそロバード・ダウニー・Jr氏のFootprint Coalition、ゲイツ氏のBreakthrough Energy Ventures、そして不動産と建設を専門とするベンチャーファームFifth Wall VenturesはTurntideを支援すべく、 Amazon Climate Fund、ファデル氏のFuture Shape、BMWのiVenturesファンド、他の投資家に加わった。

Turntideは2020年10月にクローズし、米国時間3月3日に明らかになった8000万ドル(約85億6000万円)を含め、これまでに約1億8000万ドル(約192億7000万円)を調達した。

明らかにビルはTurntideが最も注力するところだ。同社は3月2日、カリフォルニア州サンタバーバラ拠点のRiptide IOという小さなビル管理ソフトウェアデベロッパーの買収を発表した。しかし他の大きな産業への応用がある。電気自動車だ。

「2年後、我々のテクノロジーは必ず電気自動車に使われています」とモリス氏は話した。

「我々のテクノロジーは電気自動車産業で大きなアドバンテージがあります。どのEVも電動モーターのパフォーマンスを高めるためにレアアースを使っています。レアアースは高価で、鉱山を破壊し、中国が世界のサプライチェーンの95%を握っています。当社は外国産の材料、レアアース、マグネットは一切使っていません。我々はそれをかなり高度なソフトウェアと計算で取り替えます。ムーアの法則がモーターに適用されるのは初めてです」とモリス氏は語った。

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タグ:Turntide気候変動投資電動モーターロバート・ダウニー・Jrビル・ゲイツ

画像クレジット:Chris Unger/Zuffa LLC / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

クレカ手数料の一部を植林に充てる英フィンテックTreeCardが5.4億円調達

木で作られたクレジットカードを提供し、生み出される手数料を通じて森林再生に資金を提供することを約束している、英国のフィンテックTreeCard(ツリーカード)がシードラウンドで510万ドル(約5億4000万円)を調達した。本ラウンドはEQT Venturesがリードし、SeedcampとEpisode 1が参加した。また、TreeCardのサービスはまだ立ち上がっていない、

GoCardless創業者のMatt Robinson(マット・ロビンソン)氏、Indeed創業者のPaul Forester(ポール・フォレスター)氏、ComplyAdvantage創業者のCharlie Delingpole(チャーリー・デリングポール)氏といったエンジェル投資家も出資している。調達した資金は人材採用、米国と「鍵となる欧州マーケット」への進出に使われる、とTreeCardは話した。

「主要なグリーンファイナンスブランド」になることを目的に、TreeCardはThielフェローのJamie Cox(ジェイミー・コックス)氏(Cashewの共同創業者)、Gary Wu(ゲイリー・ウー)氏、James Dugan(ジェームズ・デュガン)氏によって2020年8月に創業された。チームは社会的影響のあるフィンテックの原動力を生み出すために、ロイヤルティポイントやキャッシュバックを植林に交換するアイデアを思いついた。

サインアップすると、ユーザーはTreeCardアプリを現在持っている銀行口座にリンクし、Mastercardを搭載しているTreeCardを通じて支出のルーティングを開始できる。カードでの購入、具体的には支出により発生するカード決済手数料の一部が、環境に優しい検索エンジンでTreeCardのプレシード投資家でもあるEcosiaが運営する植林プロジェクトに送られる。

「高いレベルで気候危機は過去20万年で人類が直面している、人間を絶滅させる可能性のある最大の危機です。消費者のファイナンスの流れを導くことは変化を促す最もパワフルな方法だと信じています」とCEOのコックス氏は筆者に語った。「消費者が支出によってダメージの少ない行動をとるだけでなく、積極的に世界を改善できるようにするファイナンス会社を構築しています」。

「私たちは消費者が責任を持って使える限度額なしのカードを作っています。カードは消費者の支出に応じて植林するために手数料を使い、どうした支出が健全か、あるいは破壊的なものか消費者が特定できるよう、分析を洗練しました」。

英国や欧州における消費者カード手数料は、米国のものに比べてかなり安い。クレジットカードと口座の提供は、経費がかからないわけではない。そのためTreeCardがどのようにして持続可能になるのかは明らかではない。驚くことではないが、おそらく手数料が高い米国は、TreeCardにとってサービス立ち上げ時の主要なマーケットになると見られている。

「米国の手数料は欧州のものよりかなり高く、これは当社にとって植林投資を行い、マーケティング費用と管理費用をカバーするのに十分な売上高の機会となります」とコックス氏は説明した。「欧州では当社のバンキングインフラを無料で提供する既存のリテールバンクと提携するつもりです。これは、当社の手数料取り分が少なくても、欧州における費用を賄うのに十分なものになることを意味します。銀行名は間もなく発表します」。

一方、初期投資家のEcosiaについて同氏は「親」会社だと表現した。「Ecosiaは当社の最も近しいパートナーであり、成長にともなってEcosiaとかなり緊密に協業するでしょう」と話した。「Ecosiaが最初に小切手を切ってくれ、我々のために当社の植林を引き受けます。Ecosiaのマーケティングチームはかなり経験を積んでおり、今後数年間ユーザーを獲得するために彼らの検索エンジンをコアなチャンネルとして使うのをサポートしてくれます」。

EQT VenturesのディールパートナーであるTom Mendoza(トム・メンドーサ)氏のコメントは以下のとおりだ。「TreeCardは影響力のある財務管理のための実際のプラットフォームを構築するという他のブランドはやっていない分野に足を踏み入れ、主要なグリーンファイナンスブランドになる可能性を秘めています。EQT Venturesは環境と我々の投資が世界におよぼす影響をますます意識しています。地球にとってより良い未来をつくるために金融システムに積極的に取り組んでいるTreeCardのチームをサポートすることに非常に興奮しています」。

カテゴリー:フィンテック
タグ:TreeCard資金調達気候変動

画像クレジット:TreeCard

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(文:Steve O’Hear、翻訳:Nariko Mizoguchi