遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

遠隔操作・AIロボットの開発・事業を手がけるTelexistence(テレイグジスタンス。TX)は3月4日、独自AIシステムによる自動制御と人による遠隔操作のハイブリッド制御ロボット技術を核とした新たな物流オペレーションの開発を目的に、実証実験を開始した。

実証実験を行うのは、低温物流のニチレイロジグループ本社と、物流事業を展開するセンコーの2社。第1弾として、ニチレイロジグループの物流施設にある冷蔵エリアにおいて、遠隔操作ロボットがカゴ台車にさまざまな荷物を積み込む(混載積み付け)実験を行った。2022年秋には、センコーの大手小売業向け物流施設にて実験を行う予定だ。

実験に使用されたロボットは、協働用ロボットアーム、自律走行搬送ロボット(AGV)、エンドエフェクター、遠隔操作機構で構成されたもの(協働用ロボットアームとAGVは他社製を採用)。

パレットへの積み付けや積み下ろし(パレタイズ、デパレタイズ)を行うロボットは、一般には床に固定される。そのため稼働範囲が限定され、ロボット作業の前後の工程にその他の移動用機器(マテハン機器)を準備する必要がある。これに対してTX製ロボットは、電源を搭載しているため移動をともなう作業にも対応し、また時間帯に応じて作業場所を変えるなどの柔軟性がある。同時に、オペレーターが遠隔で荷物や積み付け場所を目視で確認するため、保冷カバー付きのカゴ台車への積み付けのような複雑な作業を要する場面でも、最適な形で効率よく荷物を扱うことができる。

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

段ボールを側面から把持した状態でのカゴ台車への積み付け

遠隔操作・AIロのTelexistence、物流施設の低温エリアなどで自律制御・遠隔操作による新型ハイブリッドロボの実証実験

遠隔操作オペレーターとコックピットビュー

この実証実験は、「労働者からすべての身体的労働作業を解放する」というミッションに合致するものだとTXは話す。これは、身体への負担が大きい冷蔵エリアでの作業や重たいケースの運搬をロボットに代替させ、労働環境の改善と生産性の向上を目指す実験だとしている。

またニチレイロジグループは、人手不足への対応や作業者の負担軽減、さらには現場作業の「誰でもできる化」を目的とした業務革新に注力。人間と機械の双方の特性を活かした最適な作業体制の構築を進めている。冷蔵エリアの作業を人が事務所から遠隔で行うことで、「物流センター作業におけるリモートワークとストレスフリーな作業環境構築の可能性」を検証するという。

秋に実証実験を予定しているセンコーは、すでに2014年にパレタイズアームロボットを導入し、その後もAGVや省人化、省力化機器の導入を積極的に進めているが、TX製ロボットに期待するのは、その移動性だ。

時間帯や業務の都合に合わせて移動できるため「ロボットの稼働時間が飛躍的にアップする」という。また遠隔操作で人が常時監視するため、トラブル発生時に迅速な対応が可能になる点も挙げている。夏場の作業などをロボットに担わせ、「ワークライフバランスを図りながら、時間や場所に限定されない働き方をより多くの人々に提供すること」を目指すということだ。

現代自動車、メタバースにボストンダイナミクスのロボット「Spot」を送り込む

現代自動車(Hyundai)がロボット開発に壮大な野心を抱いていることは確かだ。これまで現代自動車は積極的に資金を投入していて、特にロボットのパイオニアであるBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の買収には10億ドル(約1160億円)以上を費やした。

今週開催される同社のCESにおけるプレゼンテーションでは、予想どおり、ロボットが中心的な役割を果たしている。2021年12月、現代自動車は、4輪モジュラーモビリティプラットフォームのスニークプレビューをMobile Eccentric Droid(モバイル・エキセントリック・ドロイド)という形で公開した。そして米国時間1月4日は、新しい「メタモビリティ」コンセプトに基づいて、将来に向けたより幅広い計画を発表した。

現代自動車は今後、その戦略についてより多くの情報を公開する予定であり、私たちは実際にどのようなものになるのかを知るために、何人かの幹部に話を聞くことを予定している。とりあえず、今回は「Expanding Human Reach」(人間の手の届く範囲を拡大する)という表題のもとに、バーチャルリアリティのメタバースにおけるモビリティとロボティクスの役割を模索するという大枠のアイデアが提示された。この早期の段階では、宣伝用コンセプトと実用性を切り離すのは難しいが、主な要素は、VRインタラクションの世界でハードウェアに現実世界へのプロキシのような役割を果たさせることようだ。

画像クレジット:現代自動車

現段階では、ずっとVRアプリケーションの根本的な問題となっていた、タンジビリティー(可触知性、実際に触った感覚を得ること)の欠如に関係する大きな成果がありそうだと言っておこう。現代自動車グループのChang Song(チャン・ソン)社長はこう語る。

「メタモビリティ」の考え方は、空間、時間、距離がすべて無意味なものになるというものです。ロボットをメタバースに接続することで、私たちは現実世界と仮想現実の間を自由に行き来できるようになります。メタバースが提供する「そこにいる」ような没入型の体験からさらに一歩進んで、ロボットが人間の身体感覚の延長となりメタモビリティによって日常生活を再構築し、豊かにすることができるようになります。

近い将来には、このような技術を利用して遠隔操作で製造ロボットを制御することが十分考えられる。これは、トヨタが以前から取り組んでいる「T-HR3」というシステム探求しているものだ。現代自動車によると、Microsoft Cloud for Manufacturing(マイクロソフト・クラウド・フォー・マニュファクチャリング)は、このような遠隔操作のためのゲートウェイとして利用することが可能で、このような実用的な機能を果たすシステムを想像するのは難しくないという。

画像クレジット:現代自動車

他のアプリケーションは、まだ先のことになる。現代自動車のプレスリリースによると「例えばユーザーが外出先からメタバース上の自宅のデジタルツインにアクセスすることで、アバターロボットを使って韓国にいるペットに餌をあげたり、抱きしめたりすることができるようになります。これにより、ユーザーはVRを通じて現実世界の体験を楽しむことができます」とのことだ。

このような考えは現時点ではほとんど概念的なもののようだが、現代自動車は今週開催されるCESで、最終的にはどのように見えるかのデモを提供している。新型コロナウイルスが急増する中で、TechCrunchだけでなく多くの人たちがバーチャルで展示会に参加していることを考えると、少なくとも将来的にリモートオペレーションがどのように役立つかを想像するのは簡単だ。

無生物や移動にロボットを導入する

現代自動車は、CESですべての時間をメタバースに費やしたわけではない。また「New Mobility of Things」(ニューモビリティオブシングス、モノの新しい移動方式)と題して、ロボットを使って大小の無生物を自律的に移動させるコンセプトを紹介した。

この「New Mobility of Things」のコンセプトのもとに発表されたのが「Plug & Drive」(プラグアンドドライブ、PnD)という製品だ。この一輪ユニットには、インテリジェントなステアリング、ブレーキ、インホイール電気駆動機構、サスペンションのハードウェアに加えて、物体を検知して周囲を移動するためのLiDARとカメラのセンサーが搭載されている。

このPnDモジュールは、例えばオフィスのテーブルのようなものに取り付けられるようになっている。ユーザーは、こうしたテーブルに対して自分の近くに移動するように命令したり、オフィスでより多くのスペースを必要とする特定の時間にそのテーブルを移動するようにスケジュールすることができる。

現代自動車の副社長でロボット研究所長のDong Jin Hyun(ドン・ジン・ヒョン)氏は「PnDモジュールは、人間のニーズに合わせて適応・拡張が可能です。というのも、これからの世界では、あなたがモノを動かすのではなく、モノがあなたの周りを動き回るようになるからです」と語る。「PnDは、通常は動かない無生物をモバイル化します。この能力があるからこそ、実質的にあらゆる空間を変えることができるのです。必要に応じて空間を構成することができます」。

現代自動車は、待っているバスへ人を運ぶためのパーソナルトランスポートシステムなど、PnDのさまざまな応用例を紹介した。4つの5.5インチ(約14センチ)PnDモジュールを搭載したこのポッドは、そのままこの「マザーシャトル」に合体する。

画像クレジット:現代自動車

理論的には、バスが止まると、(中に座っている人間を乗せた)ポッドが目的地までの最後の移動を行うことになる。

現代自動車がビデオで紹介したアイデアは、高齢の女性がポッドに乗り込んで待っているバスに移動する前に、1台のPnDが杖を彼女に届けるというもので、高齢者を直接ターゲットにしている。しかし、もしこれが仮に実現したとすれば、車道に1人乗りの大きな車を大量に増やすことなく、ファーストマイルとラストマイルの公共交通機関を提供するために使用することができる。

また現代自動車は「Drive & Lift」(ドライブアンドリフト、DnL)と呼ばれる、モノを持ち上げるためのモジュールも披露した。現代自動車は、DnLをそのMobED(Mobile Eccentric Droid)というロボットと組み合わせた。DnLはModEDの各ホイールに取り付けられており、上下に持ち上げることができ、ロボットが段差やスピードバンプなどの低い障害物上を移動しても水平を保つことができる。

画像クレジット:Hyundai

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

分身ロボット「OriHime」開発者が「テレワークで肉体労働」に挑戦したワケ

オリィ研究所所長吉藤オリィ氏

OriHimeは病気や子育て、単身赴任などで行きたいところに行けない人が使う「分身ロボット」だ。最近では、カフェでの接客・運搬や展示会の案内に適したOriHime Porterがモスバーガーの実証実験で導入され、接客用OriHime Dを活用した実験カフェ「分身カフェDAWN version β」がアップデートを重ね、初めて常設店としてオープンしている。OriHimeのパイロット(操作者)には自室から出ることが難しいALS患者などがおり、障がい者雇用の観点からも注目されている。ロボットを使ったテレワークは働き方をどう変えるのか。どんな可能性が生まれるのか。OriHimeを開発、運用するオリィ研究所 所長 吉藤オリィ氏に話を聞いた。

オリィ研究所は「ロボットの会社」なのか?

OriHimeはオリィ研究所が開発した分身ロボットだ。リモートワークに適したOriHime Biz、カフェでの接客、展示会の説明、受付 / 誘導に適したOriHime PorterやOriHime Dなどがある。

OriHime Biz

OriHimeの操作者はパイロットと呼ばれる。パイロットは自宅などの遠隔地からiPad / iPhoneを通して職場にあるOriHimeを操作する。OriHimeにはカメラがついており、パイロットは職場の状況を見ながら、職場で働く同僚とマイクを使って話すことができる。

「遠隔で話す」というと、最近ではオンライン会議システムをイメージする人も多いだろうが、OriHimeはオンライン会議システムと違い、パイロット側の顔や動作を見ることはできない。その代わり、パイロットはOriHimeを操作してOriHimeの顔や手を動かし、ボディランゲージを伝える。

ここまで読んで「オリィ研究所はロボットの会社だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、吉藤氏は「当社はロボット会社ではありません。孤独を解消するためのツールを提供し、研究する会社です」と断言する。

吉藤氏は自身が小・中学校で不登校を経験し、子どもの頃には入院も経験した。「孤独」を感じることが多く「孤独」は「人生の問い」のようなものだったという。

「不登校や入院の状態にある時、多くの人は『自分の居場所がない』と感じます。自分の居場所がないと、誰かとコミュニケーションをとったり、誰かの役に立つこともありません。人の役に立てなければ自己肯定感も湧きませんわきません。人は孤独になると死にたくなることだってあります。でも孤独な人はコミュニケーションが苦手だったり、何らかの理由でコミュニケーション自体が難しいわけです。目が悪い人には眼鏡があります。足の悪い人には車椅子があります。コミュニケーションが難しい人にはどんなツールが必要でしょうか?この問いから、私はOriHimeを開発しました」と吉藤氏は語る。

吉藤氏は「OriHimeは着ぐるみのようなもの。だからこそパイロットはコミュニケーションに前向きになれる」ともいう。

OriHimeのパイロットにはALS(筋萎縮性側索硬化症)、筋ジストロフィー、SMA(脊髄性筋萎縮症)、脊髄損傷などの重度障害を持つ寝たきりの人もいる。そうした人が初対面の初めて会う人と対面で話したり、逆に寝たきりの人に慣れていない人が寝たきりの人と対面でコミュニケーションをとると、お互いに構えてしまうところがある。しかし、OriHimeを通すと、パイロットは自分の姿を直接見られない。「自分がどう見えているのか」を気にせずコミュニケーションをとることができる。パイロットではない方は、パイロットのバックグラウンドを気にせず、パイロットとのコミュニケーションの内容そのものに集中できる。

「いつも真面目に怖い顔をしている人でも、かわいいキャラクターの着ぐるみに入ってしまえば、やたらとかわいい仕草ができたりしますよね。それと同じで、OriHimeを通すと自分のいろいろなブレーキを外してコミュニケーションがとれるんです」と吉藤氏は説明する。

ここまで読んでわかるように、OriHimeはあくまで「外側」「分身の体」だ。OriHimeの中身は人間、つまりパイロットでなければいけない。これは最近のデータ活用やAI活用といった「情報を活用してコンテンツを作り、ビジネスを行う」流れとは異なるように見える。

吉藤氏は「OriHimeはコミュニケーションを補助し、人と繋がり、孤独を解消するためのロボットです。確かに、AI技術がものすごく進化すればAIと友達になって孤独を解消できるかもしれません。あるいは、AIを介して人間と友達になれるかもしれない。でも、それは現段階ではできないことです。今AIに褒められてもうれしくないし、自己肯定感には繋がりません。だからOriHimeの中身は人間でなければいけないのです」と人間の重要性を強調した。

遠隔で働くのに「体」は必要なのか?

「遠隔で働く」だけなら、オンライン会議システム、チャット、メール、電話など、さまざまな方法がある。OriHimeのような「物理的な分身」「アバター」を職場に置く必要はない。分身が職場にあると何が変わるのだろうか。

吉藤氏は「『体が同じ空間にある』ということは『一緒に何かをする』という感覚と密接に結びついています」という。

OriHime D

例えばある人が1人でショッピングに行って、その間ずっとショッピングの状況をスマホで撮影しながら実況し、家で寝ている病気の家族と話ことができる。しかし、その人がOriHimeと一緒にショッピングに行って、病気の家族がパイロットとして同行したらどうだろう。おそらくこちらの方が「一緒にショッピングをしている」感覚が強くなる。

実は、物理的な分身にはもう1つの側面もある。就業のハードルを下げることだ。

障がい者、特にOriHimeのパイロットに多い寝たきりの人は、移動が難しい。「それならテレワークをすればいい」と考える人もいるだろう。しかしテレワークは基本的にデスクワークだ。多くのデスクワークには一定の学校教育のバックグラウンドとコミュニケーション能力が必要だ。

しかし、寝たきりの人にはそもそも教育へのアクセスに限りがある。小学校、中学校、高校、大学など「学校に通う」「教室を移動する」ことが難しい。さらに、コロナ禍の今でこそオンライン教育は珍しくなくなったが、それまでは選択肢が限られていた。つまり、寝たきりの人は、教育にアクセスするハードルが高いため、デスクワークに必要な教育を受けてこられなかった人もいるのだ。

OriHime Porter

また、学校や部活動、アルバイト、職場で得られるコミュニケーション経験も得ることが難しい。教育やコミュニケーション経験が少ない人はデスクワークの就業が難しく、したがってテレワークで働くことが非常に難しいのだ。

「当社で秘書として働いていた番田という者がいるのですが、彼がまさにそういう状況でした。デスクワークをしたいが、それに必要な教育やコミュニケーションの場にアクセスできなかったんです。そこで番田と考えたところ、肉体労働であれば就業のハードルが低いのではないかという結論に至りました。『テレワークで肉体労働ができないか?』その問いから、接客や食べ物・飲み物を運ぶ仕事をOriHime PorterやOriHime Dなど、大型のOriHimeでテレワーク化することに繋げました」と吉藤氏は振り返る。

「人助け」ではなく「一緒にミッションを背負う」

吉藤氏は「OriHimeプロジェクトは障がい者とのとの共創で進んできた」と語る。OriHimeの開発、改善のプロセスで障がい者のある友人とコミュニケーションをとり、彼らが困っていることの解決に努めたからだ。

「OriHimeのビジネスは『人助け』に見えるかもしれませんが、そうではありません。まず最初に、OriHimeは私自身の孤独の問題に対する1つの答えです。孤独に苦しんだ自分が、かつて苦しんだ自分を救うために作ったものです。そして私はOriHimeという選択肢を次世代に残したいのです」と吉藤氏は強調する。

さらに、OriHimeは「障がい者を助けるためのプロジェクト」でもないという。

吉藤氏は「寝たきりの人たちは、人と繋がるための最初のステップのサポートを必要としているかもしれません。ですが、それは『いつまでもずっと助けて欲しい』という意味ではありません。多くの障害のある人たちは自立したいのです。それはOriHimeの開発過程でも同じでした。OriHimeの開発に関わった障害のある友人たちは、次の世代の自分と似た境遇にいる人々を助けるために私と一緒に研究をしてくれました。ALS患者の友人は『こういう体に生まれてきたからこそ残せるものがあるなら、私の人生に意味がある』と言っていました。私は『OriHimeで障がい者を助けている』のではなく、『OriHimeという共通のミッションを障がいのある友人たちと背負っている』のです」と話す。

脱「機能」、脱「効率」で経済的自立へ

オリィ研究所は6月から日本橋に「分身カフェDAWN version β」(以下、分身カフェ)を常設で開いている。これはALSなどの難病や障害で外出困難な人々がパイロットとしてOriHime、OriHime-Dを遠隔操作し、スタッフとして働く実験カフェだ。元々は期間限定の実験としてスタートし、これまで4回開催されてきた。今回は常設店として初の開店となる。

分身カフェDAWN version β

その他にも、群馬県庁にあるカフェ「YAMATOYA COFFEE32」でOriHimeが、モスバーガー大崎店ではOriHime Porterが期間限定であるが活用されている。

外出が難しい人々の就業の機会創出の手段としてOriHimeが活用されているわけだが、パイロットはこうしたカフェで経済的に自立できるのだろうか。

吉藤氏は「パイロットの経済的自立は重要なテーマです。オリィ研究所が直接マネジメントする分身ロボットカフェでは東京都の最低時給以上を出せています。ただ、これまでは3週間程度のイベントでこの水準を保ってきました。次の課題は常設カフェとして同じ結果を出せるかどうかです」と力を込める。

分身ロボットカフェでの利益追求には戦略が重要になる。遠隔操作のOriHimeを使う時点で「安さ」「速さ」での戦いは不可能だからだ。

「分身ロボットカフェでは、効率と機能を追求しているわけではありません。食べ物・飲み物を速く安く提供するのであれば、自動販売機やファストフードと競合しないといけません。ですが、私たちが目指すのは『パイロットと話す体験』というエンターテインメントです」と吉藤氏は説明する。

実は、分身カフェには思わぬ効果もあった。接客に当たっていたパイロットが客として来ていた有名企業の人事担当者にヘッドハンティングされたのだ。

「障がい者雇用促進法は、企業に障がい者を雇用することを義務付けていますが、法定雇用率に達していない企業も数多くあります。このような企業にとって、分身カフェは障害を持つOriHimeのパイロットと出会う接点になり得ることがわかりました」と吉藤氏は振り返る。

また、島根県に住むあるパイロットは、障害が重く、部屋から出られない。しかし、大阪のチーズケーキ店でOriHimeパイロットとして販売に従事。さらに東京の分身カフェでもOriHimeを使って働いている。ある日、このパイロットと仲良くなった東京の顧客が大阪のチーズケーキ店を訪れ、そこでチーズケーキを買ったという。

「店員が客のいる店に来て働くのではなく、客が店員のいる店に行くというおもしろい流れが生まれました」と吉藤氏。

障害者雇用の可能性を各方面で広めているOriHimeだが、吉藤氏は今後どんな展開を目指しているのか。

「これまで部屋を出られなかった人たちは『オンラインで勉強すればいい』『遠隔で働けばいい』と言われてきました。ですが、今、コロナを経験し、『その場にいること』『その人と一緒にいること』の大切さがわかった人も増えたと思います。部屋を出られない寝たきりの人たちは、ある意味でニューノーマルの大先輩だったわけです。部屋から一歩も出られなくなった時、『OriHimeを使って外で働きたい』と思ってもらえるようにすること。分身ロボットカフェを常設にして長期運用し、パイロットが継続的に働けるようにすることが直近の目標です。コロナが終わったら、OriHimeを使ったスナックも挑戦したいです。部屋の中から、ベッドの上で、目や指を使ってパイロットがOriHimeを通して接客することを、もっと身近にしたいですね」。

吉藤氏はそう語り、インタビューを後にした。

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ファミマの商品陳列を自宅から、遠隔操作ロボット開発のTelexistenceが目指す人とロボットの新たな働き方

私たちにとって、いまや「リモートワーク」は特別なことではなくなった。世界中どこにいてもインターネットにさえ接続すれば仕事ができる。一方で、エッセンシャルワーカーともいわれるコンビニやスーパーで働く人たちは、当然ながら「その場」にいなければ仕事ができない。

この現状を変えることを目指すスタートアップがTelexistence(テレイグジスタンス)だ。「遠隔操作ロボット」を開発する同社は、2021年6月15日モノフルのグループ会社などから約22億円を調達したと発表した。

ターゲットは日本全国のコンビニ

「これまで不可能だったブルーカラーのリモートワークを実現する」と話すのは、同社CEOの富岡仁氏。VRヘッドセットとグローブを装着すると、インターネットを経由して遠く離れた場所にいるロボットを「自分の体のように」操作できる。「自分が左手を動かすと、ロボットの左手も同時に動く」という感覚はまるで、離れた場所にいるロボットへ自分が「憑依」するかのようだ。

上記動画のロボット「Model-T」は、2020年10月より「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」に導入され、飲料(ペットボトル、缶、紙パック)をバックヤードから補充、食品(サンドイッチ、弁当、おにぎり)を並べるといった業務を行っている。合計22の関節を持ち、5つのパターンに変化する手を持つこの人型ロボットは、約200形状・約2200SKUにおよぶ商品を「しっかりと掴んで、任意の場所に置く」ことが可能。このModel-Tを遠隔操作することで、従業員は商品陳列作業を自宅からでもできてしまえるのは、なんとも不思議な感覚だ。

また同社は、Model-Tの改善点を踏まえてより機能を向上させたロボットを開発。2021年10月から「ファミリーマート経済産業省店」に導入し、回転率の高い飲料を中心に商品陳列を行っていく。富岡氏は「基本的に、日本のコンビニは店舗フォーマットが決まっていて、扱っている商品も似通っている。つまり1店舗でも問題を解決できれば、日本全国にあるコンビニ5万6000店舗の問題も解決できるというスケーラビリティがある」という。同社は2024年度までに2000店舗に2000台の同社ロボットを導入することを目指している。

マニラから日本のコンビニで作業する

遠隔操作ロボットの登場は、店舗運営の効率化だけでなく、労働市場にも大きな影響を及ぼすかもしれない。「2022年の夏からは、フィリピンのマニラにいる従業員がロボットを操作して、日本のコンビニの商品陳列作業を行っていく予定」と富岡氏。当然、日本のスタッフに比べるとマニラのスタッフは人材コストが低いため、企業にとっては大きなメリットといえる。このように今後、労働力の移転が「小売業のスタッフ」にまで広がっていく可能性を考えると、遠隔操作ロボットのインパクトの大きさは計り知れない。

また同社は陳列什器メーカー大手のオカムラと提携し「ロボットの動きに最適化された什器」の開発にも着手。「例えば、棚の奥までロボットの手が届かない場合は、棚に少し傾斜をつけ商品が滑り落ちるようにするなど工夫をする。こうすることで、大きなコストをかけずにロボットを店舗運営に導入できるようになる」と富岡氏はいう。

同社ロボットの活用場面は店舗での商品陳列にとどまらない。今回の資金調達先であるモノフルと提携し、物流業者向けにもサービスを展開。物流施設内の業務に携わる労働者がロボットを遠隔操作することで、倉庫にいなくても商品の積み下ろしができるようになる。

一方で「人間が遠隔操作するのは私たちが目指す最終型ではない」と富岡氏。同社のロボットはすでに、コンピュータビジョンを活用することで商品陳列作業の約8割を自動的に行うことが可能。また同時に、人が遠隔操作するモーションデータをクラウドに蓄積し、これを教師データとしてロボットに機械学習させている。これらにより、いずれは人の操作さえも必要としない「完全にオートマティックなロボット」を完成させることが狙いだ。

画像クレジット:Telexistence

自動化の恩恵を「個人」へ

テレイグジスタンスが掲げるビジョンは「世界に存在するすべての物理的な物体を、我々の『手』で1つ残らず把持(はじ、しっかり掴むこと)する」こと。「これが実現すると、世の中のあらゆる物理的な仕事をロボットが代替できるようになる」と富岡氏はいう。

しかし同社は、ただ企業の業務効率を上げることのみを目指しているわけではないという。同氏は「これまで産業用ロボットによるFA(工場自動化)の恩恵は、現場で働く労働者ではなく、ロボットを所有する大企業の株主が得ていました。しかし私たちは、究極的には企業ではなく『個人』がロボットを所有する未来を実現したい」と話す。

つまり同氏が目指すのは、労働者である個人がテレイグジスタンスのロボットを所有し、さまざまな現場に派遣して遠隔操作(あるいは自動化)しながら金を稼ぐという未来。同社はハードウェアからソフトウェア、自動化技術までを自社で一貫して開発する稀有なスタートアップだが、その「ビジネスモデル」も既存のものには当てはまらないようだ。

自分は旅行でニューヨークまで来ているけれど、ロボットは東京にいて代わりに仕事をしてくれている……そんな世界はすぐそこに来ているのだろうか。テレイグジスタンスが「掴む」ことを目指す未来に、思わずワクワクしてしまうのは私だけではないはずだ。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:Telexistence遠隔操作資金調達コンビニエンスストア日本エッセンシャルワーカーテレイグジスタンス

画像クレジット:Telexistencem