産総研・大阪大学・JST・日本電子、電子顕微鏡を使い同位体を原子1個から4個のレベルで識別・可視化することに成功

単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡(日本電子製TripleC二号機)

単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡(日本電子製TripleC二号機)

産業技術総合研究所(産総研)は、原子1個から4個というごく微量の同位体炭素を透過電子顕微鏡で検出する技術を開発した。これは、光やイオンを用いた既存の同位体検出技術よりも1桁から2桁以上高い空間分解能であり、原子レベルの同位体分析によって材料開発や創薬研究に貢献するという。

同位体とは、原子番号が同じで質量(中性子の数)だけが異なる原子のことを言う。生体反応や化学反応の追跡用標識(同位体標識)として利用されるほか、鉱物や化石の年代測定など、幅広い分野で使われている。しかし、貴重な美術品や微化石の分析や、同位体標識を使った化学反応、原子拡散、材料成長過程などの詳細な追跡といった用途では、原子数個分というレベルでの測定が求められる。既存の同位体検出技術の空間分解能は数十から数百ナノメートル程度が一般的であり、原子や分子ひとつだけを分析することは困難だった。

産総研ナノ材料研究部門電子顕微鏡グループ、大阪大学産業科学研究所科学技術振興機構日本電子からなる研究グループは、透過電子顕微鏡の高性能化に取り組んできたが、電子線のエネルギーをそろえる「単色化電子源」を開発し、電子線が試料を通過する際に失うエネルギーを計測して元素や電子の状態を調べる手法「電子エネルギー損失分光」のエネルギー分解能を大幅に向上させたことで、原子の振動エネルギーを直接検出できるようになった。そして今回、その原子の振動エネルギーから同位体を識別する技術の開発に成功した。

この研究では、単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡を使用している。従来の透過電子顕微鏡では、電荷をも持たない中性子の数が像に反映されず、同位体の区別ができなかった。研究グループは、単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡を使うことで、中性子ひとつ分の重さの違いを振動エネルギーの差として検出し、同位体の識別と原子レベルで可視化することができた。また、電子エネルギー損失分光の測定方法には「暗視野法」を用いた。電子が試料を通過したときに大きな角度で散乱した電子を分光する方式だ。これに対して小さな角度で散乱した電子を分光する方式を「明視野法」と呼ぶ。これまで電子エネルギー損失分光で同位体を検出できたという報告例では、すべて明視野法が使われていたが、空間分解能は数百ナノメートルであり、原子間の電荷の偏り(極性)を検出する方式であるため極性を持つ材料にしか使えない。一方、暗視野法には、ひとつの原子の中に生じる電荷の揺らぎを計測するため、電荷のない材料でも振動エネルギーを計測できるという利点がある。

電子線分光によるグラフェン中の炭素同位体識別のイメージ図

電子線分光によるグラフェン中の炭素同位体識別のイメージ図

研究グループは、原子ひとつ分の厚みの炭素原子のシート「グラフェン」の2つの安定同位体、12Cと13Cを測定した。これらは、中性子の数がそれぞれ6個と7個という違いがある。これらを測定した結果、エネルギー損失のピーク時に中性子ひとつ分の差が確認され、12Cと13Cの区別ができた。この計測の空中分解能は約0.3ナノメートル。グラフェンの炭素原子4個分に相当する。この4個のうちのいずれか、またはすべてが同位体で置き換わったときの振動エネルギーの差が検出できることから、測定感度は同位体1個から4個ということになる。

実験手法と実際に得られた12Cおよび13Cグラフェンの格子振動スペクトル

実験手法と実際に得られた12Cと13Cグラフェンの格子振動スペクトル

今後はこの手法を他の元素や材料に応用し、検出元素や適用材料の幅を広げると研究グループは話す。また、これまで実現し得なかったナノスケール以下での同位体標識法を確立するという。将来的に、エネルギー分解能と空間分解能、さらに検出効率を向上させることで、原子ひとつひとつの振動状態をより高い精度で高速な測定を可能にし、「化学反応や材料成長における単原子・単分子同位体標識のリアルタイム追跡を実現させ、同位体を標識に用いる創薬研究などでの応用」を目指すとしている。

エネルギー効率1000倍・ノイズ100分の1に改善、高感度で広帯域な計測が可能な低消費電力磁気センサーを開発

エネルギー効率1000倍・ノイズ100分の1に改善、高感度で広帯域な計測が可能な低消費電力磁気センサーを開発

(a)MI素子の概要図。(b)開発した磁気センサーのブロック図。(c)MI素子向け計測用ASICのチップ写真

産業技術総合研究所(産総研)は2月19日、低ノイズ、広帯域な磁気センサーを開発したと発表した。従来の方式であるフラックスゲート型磁気センサーと比較して、アナログ回路の動作エネルギー効率を示す性能指標「正規化エネルギー」が1000倍改善され、正規化エネルギーの低い(電気効率が高い)集積化フラックスゲート型磁気センサーに比べて、ノイズは1/100を実現した。生体磁気計測や産業用計測における、小型、高感度、低消費電力のセンシングシステムが期待できるという。

これは、産総研デバイス技術研究部門先端集積回路研究グループ(秋田一平氏)と愛知製鋼との共同研究。低ノイズで広帯域な磁気センサーは、脳磁図、筋磁図などの生体磁気、自動運転、非破壊検査、電流センシングといった多くの分野で求められているが、これまで使われてきた集積化フラックスゲート型の磁気センサーはチップサイズと小型ながら磁気ノイズが大きい。また、低ノイズな磁気センサーはサイズや駆動電流が大きくなるという難点がある。

エネルギー効率1000倍・ノイズ100分の1に改善、高感度で広帯域な計測が可能な低消費電力磁気センサーを開発

開発した磁気センサーの性能比較

そこで研究グループは、低ノイズ化、低消費電力化、小型化を同時に実現するものとして、愛知製鋼が開発した磁気インピーダンス素子(MI素子)に着目した。この素子を、産総研が研究してきた低消費電力で高精度な計測用のアナログ特定用途向け集積回路(ASIC)の知見を応用して実装したのが、今回開発された磁気センサーだ。

MI素子は、アモルファス合金ワイヤーの周りにコイルを形成したもの。このワイヤーに電流パルスを通すと、ワイヤー表層で外部磁気に比例した磁束が生じる。この磁束の変化をコイルを通じて誘導電圧として検出する。この誘導電圧は、適切なタイミングでサンプリングされた後、信号処理回路により増幅され、出力される。低ノイズ化を行おうとすると、信号処理回路に多くの電流が流れることになるが、回路構成と動作を最適化することで、低ノイズを低消費電力とを両立させることに成功した。

また、低ノイズ化と広帯域化のためには、誘導電圧のサンプリング処理をナノ秒単位で制御する必要がある。このサンプリングのタイミングが狂えば、MI素子の感度が低下し、ノイズや帯域にも影響が出る。そこでデジタル自動補正技術を開発し、高い時間分解能でサンプリングのタイミングを調整できるようにした。

今後は、さらなる高感度化と電力効率を向上させ、製品として組み込むための開発を進めるということだ。

DRP創薬を手がける産総研技術移転ベンチャーVeneno Technologiesが2億円のシード調達

DRP創薬を手がける産総研技術移転ベンチャーVeneno Technologiesが2億円のシード調達

Veneno Technologies(ベネイノテクノロジーズ)は1月24日、シードラウンドとして、第三者割当増資による2億円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、SBIインベストメント、筑波総研、SBI地域活性化支援。

調達した資金は、採用・組織体制の強化、同社独自のペプチド創薬プラットフォーム技術のさらなる発展と、DRP機能性ペプチドを基盤分子とする自社創薬パイプラインの研究開発に投資し、DRP創薬を推進する。DRPは、ジスルフィドリッチペプチド(Disulfide-Rich Peptide)の略称。分子内に3つ以上のジスルフィド結合を有し特徴的な構造を持つ、20から60アミノ酸残基程度のペプチドの総称したもの。

Veneno TechnologiesのVeneno Suiteは、独自のDRP創薬一気通貫技術により、天然のDRPを鋳型に人工的に加速進化させ作成される巨大な遺伝子ライブラリーと、そのライブラリーから目的とするDRPを高速・効率的に探索できるスクリーニングシステムという。また多様なDRPを短期間で効率よく製造できる技術からなるとしている。

同社は、これまで創薬困難とされてきた膜たんぱく質などの標的や、それに関与する難治性疾患に対し新たな薬剤を提供することで、医療の進歩に少しでも貢献することをミッションとして掲げており、DRP創薬の新たな展開に向けて、調達した資金により以下の点を中心に強化するという。

・DRP創薬を進める高度な研究員の登用、研究所の新規開設
・DRP焦点化ライブラリー(DRP Space)の拡充
・DRP高速探索システム(PERISSTM)の強化とパイプライン拡充(共同研究の推進)
・DRP製造技術(Super Secrete)の開発(高効率な少量多品種製造技術の確立)
・DRP分析技術の開発

Veneno Technologiesは、DRP機能性ペプチドの研究開発を加速し、先進的で持続可能な医療と社会への貢献を目指し、2020年7月に設立。産業技術総合研究所(産総研)で長年研究されてきた革新的なDRP探索技術と、現在研究開発を進めているDRP製造技術の統合により、新薬や研究試薬、農薬、バイオスティミュラントなど、様々なDRP創薬の研究開発をリードするとしている。

また産総研による技術移転措置により、特許実施許諾契約を締結し、産総研技術移転ベンチャーの称号を付与されている。

産総研が強磁場発生装置を用いない量子抵抗標準素子の開発に成功、国家計量標準と同等精度の電気測定が手軽に

産総研が強磁場発生装置を用いない量子抵抗標準素子の開発に成功、国家計量標準と同等精度の電気測定が手軽に

産業技術総合研究所は12月14日、強磁場発生装置を使わずに、電気抵抗の精密測定ができる新しい量子抵抗標準素子を開発したことを発表した。新材料「トポロジカル絶縁体」によって発現する「量子異常ホール効果」を応用したもので、ホームセンターでも購入できる安価な材料を使い、国家計量標準と同等の8桁の精度を持つ量子抵抗標準素子を作り上げた。

電気抵抗は、超低温の強磁場下では量子ホール効果という現象を生じる。そのときの抵抗値は常に一定(量子化抵抗値)であるため、国際的な抵抗値の基準に使われている。そうした量子ホール効果を生む量子ホール素子を使った電気抵抗の測定には強磁場が必要で、超伝導磁石などで使われる大型の強磁場発生装置を用いなければならない。

そこで産業技術総合研究所物理計測標準研究部門は、理化学研究所創発物性科学研究センター東京大学大学院工学系研究科東北大学金属材料研究所と共同で、強磁場発生装置を必要としない電気抵抗の精密測定を可能にする新しい量子抵抗標準素子を開発した。

これは、2016年にノーベル物理学賞を受賞したトポロジカル絶縁体の研究が下地になっている。研究グループは、トポロジカル絶縁体によって発現する「量子異常ホール効果」という現象に着目した。量子異常ホール効果は、量子ホール効果と同じ量子ホール素子の電気抵抗値が量子化抵抗値となる物理現象だが、一般的に使われる普通の磁石程度の磁力で発現するというものだ。世界中で研究が進められているが、電流を流すと量子抵抗値がずれてしまうという不安定さがあり、現在のところ電気抵抗値の基準としては使えていない。

不安定さの原因は、トポロジカル絶縁体を構成するビスマス、アンチモン、テルル、クロムの4つの元素の濃度の不均一さにある。研究グループは、こららの元素の比率、素子構造、製作時の温度などの条件を最適化することで不均一さを低減した。これにより、測定電流が2μA(マイクロアンペア)以下での量子異常ホール効果のずれがゼロに近づき、強磁場発生装置を使わずとも国家標準と同等の精度の抵抗標準を実現することができた。

画像左:トポロジカル絶縁体を用いて作製した量子抵抗標準素子。画像右:抵抗値の量子化抵抗値からのずれ(相対値)の測定電流依存性

画像左:トポロジカル絶縁体を用いて作製した量子抵抗標準素子。画像右:抵抗値の量子化抵抗値からのずれ(相対値)の測定電流依存性

今後は、さらに品質改良を行い、利便性と信頼性を高めるとしている。また、この新型抵抗標準素子を搭載した小型軽量の精密電気測定装置の開発にも取り組むとのことだ。

産総研、シリコンを超えるGaNとSiCを一体化したハイブリッド型トランジスターの動作実証に成功

産総研、シリコンを超えるGaNとSiCを一体化したハイブリッド型トランジスターの動作実証に成功

産業技術総合研究所(産総研)は12月12日、窒化ガリウム(GaN)を用いた高電子移動度トランジスターと、炭化ケイ素(SiC)を用いたPNダイオードを一体化したハイブリッド型トランジスターの製作と動作実証に、世界で初めて成功したことを発表した。これは、産総研先進パワーエレクトロニクス研究センターパワーデバイスチームの中島昭主任研究員と原田信介研究チーム長の研究によるもの。

これは、電力エネルギーの変換や制御を行う電力変換器に使用されるパワートランジスターの一種。パワートランジスターは電気的スイッチとして用いられるため、次の3つの性能が求められる。

  1. 高効率な電力変換を実現するための、スイッチオン状態における導通損失を減らす低いオン抵抗
  2. スイッチング損失を減らすための、オンとオフの高速な切り替え性能
  3. 電力変換回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収源としての役割

現在の主流になっているシリコン(Si)トランジスターは、この3つの性能がほぼ限界に達していることから、効率の高いGaNトランジスターの研究が行われてきた。シリコントランジスターには、構造的にソースとドレインという2つの電極がPN接合されているため、本来的にダイオードの性質を持っている。ところが、GaNトランジスターにはそれがない。ダイオードは本来、片方向にだけ電流を流す性質があるが、パワートランジスターに含まれるダイオードには、過電圧がかかったときに一次的に逆方向に電流を逃して(アパランシェ降伏)、熱として消散させ、ノイズエネルギーを吸収する役割を果たす。つまりGaNトランジスターでは、求められる性質の3つ目である、異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収が行われない。それが、普及の妨げになっていた。

産総研は、そこにSiCダイオードを追加して一体化することで、アパランシェ降伏動作を得ることができた。さらに、このハイブリッドトランジスターでは、GaNトランジスターのオン抵抗が低く、SiCダイオードの熱伝導率はシリコンの3倍と高いことが認められた。そのことから、次世代電力変換器の高効率化と信頼性向上が期待される。

今回開発したハイブリッド型トランジスターの構造

今回開発したハイブリッド型トランジスターの構造

今回製作されたのは、定格電流20mA(ミリアンペア)程度の小さなものだが、今後は10A(アンペア)程度の大きなものの動作実証に取り組むとのこと。また、GaNとSiCの融合技術は、ハイブリッドトランジスターの他にも多くの可能性が期待されるという。

産総研がミリ波電波を高効率で特定方向に反射する140GHz帯サーフェス反射板開発、基地局増設せずポスト5G・6Gエリア拡大

産総研がミリ波電波を高効率で特定方向に反射する140GHz帯サーフェス反射板開発、基地局増設せずポスト5G・6Gエリア拡大可能に

産総研は11月26日、大阪大学大学院基礎工学研究科と共同で、次世代通信規格となるいわゆる「ポスト5G/6G」時代に利用が予定されている140GHzというミリ波帯の電波を特定方向に高効率で反射させる「メタサーフェス」反射板を世界で初めて開発したと発表した。これを利用すれば、基地局を増設しなくとも反射板を設置するだけで通信エリアの拡大が期待される。

メタサーフェスとは、波長よりも小さな構造体を周期的に並べて、電磁波を任意の方向に反射させることができるメタマテリアル(人工媒質)のこと。不要な反射をなくし、特定の方向だけに反射させる(異常反射)が可能なため、電磁波を高効率に伝搬できる。これまで、100GHzを超えるミリ波に対応したメタサーフェス反射板は、その効果の計測が困難であったため世界的に開発や実証は行われてこなかったのだが、産総研はミリ波帯の高精度の材料計測技術を活かしてこれを克服した。産総研がミリ波電波を高効率で特定方向に反射する140GHz帯サーフェス反射板開発、基地局増設せずポスト5G・6Gエリア拡大可能に

ポスト5G/6Gで活用されるミリ波は、高速で大容量の電波帯域として期待されている反面、障害物によって簡単に遮蔽されてしまう問題がある。これを解決するには基地局を増やして高密度化するという方法があるが、それでは消費エネルギーやコストが増大してしまう。メタサーフェス反射板なら、電源を必要としない。設置免許もいらず、ビルの窓などに設置できるので、街の景観を損なうこともない。これで、障害物の影になる地域でも通信が可能になる。

産総研が開発したメタサーフェス反射板は、理論的な反射効率が99%以上に達した。また、反射板の素材損失を除いた実測値でも最大88%という高効率が実証された。今後は、300GHzまでの高周波化や反射方向の動的制御、マルチバンド動作などの高効率化を目指すという。

PETボトルを常温で分解し原料を高純度で回収する方式を産総研が開発、原料化温度を従来の200度以上から常温まで低下

産業技術総合研究所(産総研)は11月8日、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を常温で効率的に分解し、再利用を可能にする技術の開発を発表した。環境負荷やエネルギーコストが大幅に削減され、ペットボトルから新しい高品質なペットボトルを再生産する道が拓かれる。

PETボトルの再生方法には、熱で溶かして再成形する「マテリアルリサイクル」と、化学的に低分子化合物に分解して新たに製品化する「ケミカルリサイクル」とがある。マテリアルリサイクルは、回収されたPETボトルを分別して熱で溶解するが、不純物が混じり込むことが多く、溶解前の製品と同品質にすることが難しい。また、ケミカルリサイクルでは、一般に大量の薬剤や高温処理が必要であったため、コストも高く環境負荷も大きい。

PETボトルからまたPETボトルを作る「ボトルtoボトル」を実現するには、高純度な原料を高効率で回収できなければならない。それが可能なのはケミカルリサイクルだ。ケミカルリサイクルでは、PET樹脂はテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとに分解される。しかし、この2つの原料は分解時と同じ条件で再び結合してPET樹脂に戻ってしまう。そのため、この2つを反応させないための工夫が必要となる。その反応を止めるには、大量の反応剤を投入する方法と、200度という高熱をかけてエチレングリコールを取り除く方法とがあるが、どちらも非効率だ。

今回、産総研が開発した方式はケミカルリサイクルだが、大量の薬剤も高温処理も必要としない。市販の飲料用PETボトルをフレーク状に粉砕した試料に、メタノール、炭酸ジメチル、アルカリ触媒であるリチウムメトキシドを適切な比率で混合し3時間ほど室温に置くことで90%以上が分解できるというものだ。反応温度を50度にすると、すべてのPETが分解した。この方法では、テレフタル酸ジメチルは簡単な精製によって99%以上が分離できる。また、エチレングリコールは炭酸ジメチルに捕捉され、高い割合で回収ができる。PETボトルを常温で分解し原料を高純度で回収する方式を産総研が開発、原料化温度を従来の200度以上から常温まで低下

分離したテレフタル酸ジメチルはPET樹脂に加工でき、テレフタル酸ジメチルはリチウムイオン電池の電解液などに再利用できる。リチウムメトキシドは反応後は不溶物として沈殿するため、簡単に分離、回収ができる。

今後は、このリサイクル方法の社会実装を目指し、触媒の改良、反応のスケールアップ、PET含有製品への適用可能性を検討するとしている。

産総研が地震計データからコロナ禍における人間活動の観測に成功、経済・余暇活動の縮小を可視化

産業技術総合研究所(産総研)は、首都圏に設置された地震計のデータから、新型コロナウイルス感染症が感染拡大した時期に人の社会活動が低下したことを明らかにした。これにより、地震計は地震動だけでなく、人間活動のモニタリングにも応用できることが示された。

産総研活断層・火山研究部門地震災害予測研究グループの二宮啓研究員と、九州大学地球資源システム工学部門の辻健教授、池田達紀助教による研究チームは、首都圏地震観測網の101台の地震計で得られた4年分のデータから新型コロナ発生後の変動を調べた。調査では、観測点ごとに振動の強さを示すパワースペクトル密度(PSD。Power Spectral Density)を計算した。それにより、次のことがわかった。

101台の地震計の設置場所と池袋の観測点(E.IKBM)

101台の地震計の設置場所と池袋の観測点(E.IKBM)

2020年4月、1回目の緊急事態宣言が出されたとき、PSDがもっとも大きく低下した。緊急事態制限が解除されると、平日のPSDは回復し始めたものの、日曜日はしばらく低いままだった。Go Toトラベルキャンペーンが始まって、平日、日曜日ともに例年の水準に戻った。第3波の到来で、日曜日のPSDは再び減少したが、2回目の緊急事態宣言時は、平日の日中のPSDは減少しなかった。そして2回目の緊急事態宣言が解除される前から、平日、日曜日ともにPSDが増加に転じた。

つまり、最初の緊急事態宣言の直後は、経済活動はすぐに回復したものの日曜日は余暇活動を控える人が多く、Go Toトラベル中も日曜日は多くの人が余暇活動を自粛していたと想像される。しかし2回目の緊急事態宣言時には、新規感染者数が減少したことからPSDが増加し、社会意識に変化が表れたと産総研では推測している。

地震計が観測する振動は、地震のような大きな揺れの他、風や海の波などの自然現象による振動や人の活動によるものもある。自然の振動は1秒に1回程度とゆっくりなのに対して、人間の活動に由来するものは1秒あたりの振動数が多いのが特徴だ。そのような人為的な振動は、地震観測の際には不要なノイズとして除去されるのだが、これを逆に活用しようという、今回のような研究も各方面で行われているとのこと。

人の活動由来の振動は、交通機関や工場などさまざまな要素が混在しているため、振動源の特定が難しい。また、曜日や季節による変動があるため、そうした要素の影響を取り除かなければ詳細なPSDの変化が掴めない。この研究でも、2017年4月から2019年3月までのデータで曜日と時間帯別にPSDの季節変動を計算し、それをコロナ禍の期間のデータから差し引いている。

ただ人為的な振動は局所的なものなので、狭い範囲を観測することで振動源が特定できる。産総研ではそれを応用して、「振動情報を用いた防犯システムや交通量調査など、人為的な振動を利用したモニタリングや物理探査」を進めるとしている。

Hmcommと岡本工業がAI異音検知プラットフォームFAST-D応用し多軸自動旋盤のドリル破損を音で検知するシステム開発

Hmcommと岡本工業がAI異音検知FAST-Dを応用し多軸自動旋盤のドリル破損を音で検知するシステム開発

産業技術総合研究所(産総研)発スタートアップとして音声処理技術の研究開発を行うHmcomm(エイチエムコム)は10月20日、ビル配管工事や金属旋削加工などを手がける岡本工業と共同で、精密金属加工に使用する多軸自動旋盤のドリルの破損を、AI異音検知プラットフォーム「FAST-D」で検知するシステムの自社内導入を目的とした開発と、金属加工業者向け販売を目指したセンシングシステム開発の開始を発表した。

これまで岡本工業では、精密金属加工事業で使用する多軸自動旋盤機のドリルの破損を、振動や画像で検知する試みを重ねてきたが、なかなかうまくいかなかった。そこで、Hmcommのノイズ処理技術や音響処理技術を使ったところ、初めて有用なデータが取得できたという。そこで使用された「FAST-D」は、AI異音検知の学習モデルの作成や管理が自動的に行えるHmcommのクラウドサービス。Hmcommの知見をもとにした機械学習アルゴリズムにより、短期間に異音検知を現場導入できるというものだ。

Hmcommと岡本工業がAI異音検知FAST-Dを応用し多軸自動旋盤のドリル破損を音で検知するシステム開発

今後はこのシステムにIoTを組み合わせ、ドリルの破損が検知されるとPLC経由で停止信号を発して速やかに機械を停止させる仕組みを構築し、2022年春には製品化して販売することを目指し、実証実験を行うとしている。

AI異音検知とは、機械やモノ、生物が正常稼働している場合の音と、異常な状態になっている場合の発する音を機械学習させることで、安定的なモニタリング、異常発見、予兆検知などに役立てる技術。人が音を聞いて正常か異常かを判断する場合は、判断基準があいまいでバラツキが発生するケースや、熟練の技が必要になるなどの課題があるが、異音検知により人手によらない定量的な分析が可能となる。

音による異音検知は、工場インフラの異常検知、機械音検知、非破壊検査をはじめ、足音や防犯、ヒトの発する音や動物の鳴き声など、幅広い業種・業態で利用可能という。

Hmcommと岡本工業がAI異音検知FAST-Dを応用し多軸自動旋盤のドリル破損を音で検知するシステム開発

重金属廃水をがもみがら・米ぬか・微生物を利用し低環境負荷・低コストで浄化、産総研とJOGMEC開発

産総研がもみがら・米ぬか・微生物による低環境負荷の重金属廃水の浄化方法を開発

産業技術総合研究所(産総研)は、9月9日、鉱山廃水など重金属を含む廃水を、もみがら、米ぬか、微生物を使って安定的に浄化する処理装置の運転管理技術を、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との共同研究により確立したと発表した。

日本に多く存在する鉱山跡地には、環境に有害な重金属を含む「鉱山廃水」が流れ出ているところがある。そうした場所では、化学薬品で廃水を中和処理する設備が可動しているが、化学薬品の使用は環境に負荷がかかるため、微生物を利用した低コストで低環境負荷の浄水方式(パッシブトリートメント)に注目が集まっているという。

JOGMECでは、農業廃棄物であるもみがらと米ぬかを、微生物の担体(微生物を保持する材料)と栄養源に使い、硫酸還元菌を活性化させて重金属を沈殿除去する装置を研究してきた。だが、装置内でどの微生物が働いているかが未解明であったため、装置の安定的な維持管理が難しかった。そこでJOGMECは産総研と協力し、処理に不可欠な微生物の特定と、装置の運転条件の最適化に取り組み、一部の硫酸還元菌だけが突出して有用であること、そしてその活性を維持することで安定的に廃水処理が行えることを突き止めたというわけだ。

JOGMECの装置は、基本的に2種類の微生物が働いている。ひとつは米ぬかの高分子有機物を、他の微生物の餌となる低分子有機物に分解する分解菌。もうひとつは、その低分子有機物を餌にして、硫酸を硫化物イオンに変換する硫酸還元反応を行う硫酸還元菌だ。硫化物イオンは、重金属と反応して金属硫化物となり、装置内に沈殿する。これを除去することで廃水が浄化される。

今回の研究では、JOGMECの装置を、廃水流量、米ぬかの量、運転準備期間の条件を7通りに設定して200日間運転し、廃水処理能力を比較した。その結果、装置内の硫酸還元菌の種類を制御できれば、長期的な安定運転が可能であることが判明したという。

現在は、今回開発した装置を大規模化した実証実験が行われている。そこで産総研とJOGMECは微生物の解析を行い、米ぬか以外の有機物を使った装置を開発し、鉱山廃水のみならず、産業廃水など、さまざまな条件の廃水への適用を進めるとのことだ。

異音検知プラットフォームや議事録自動作成システムを手がける音声認識AIスタートアップ「Hmcomm」が4.2億円調達

異音検知プラットフォームや議事録自動作成システムを手がける音声認識AIスタートアップ「Hmcomm」が4.2億円調達

Hmcomm(エイチエムコム)は8月10日、シリーズC追加ラウンドとしての第三者割当増資と金融機関からの融資による合計4億2000万円の資金調達を発表した。引受先は、J&TC Frontier、協和、芙蓉総合リース。

Hmcommは、「音から価値を創出し、革新的なサービスを提供することにより社会に貢献する」との企業理念の下「音のIoTソリューションの社会実装」を目指す、産業技術総合研究所(産総研)発のスタートアップ。その社名は、「Human Machine Communication」(人と機械のコミュニケーション)に由来する。主なサービスに、音で異常を検知する異音検知プラットフォーム「FAST-D」、AI音声による自動応答を行う「Terry」、議事録自動作成システム「ZMEETING」などがある。また、通話内容を自動的に要約してオペレーター業務の可視化し、AIが対応の分析を行うコールセンター業務の効率化や高度化を実現するサービスも行っている。

今回調達した資金は、業容拡大に向けたAI人材の確保、開発環境の充実、研究開発の推進、さらには基盤技術の深耕、新サービス開発のための先行投資にあてるとのこと。

関連記事
マイクロソフトが過去2番目規模で文字起こし大手Nuance Communications買収、ヘルスケア分野のクラウドを強化
AI翻訳機「ポケトーク」が音声を翻訳し本体とウェブブラウザーに文字表示を行う「ハンズフリー翻訳(β版)」を新搭載
AI利用のリアルタイム英語音声文字起こし「Otter. ai」とNTTドコモが日本向け法人プラン独占販売契約
議事録自動作成用AIツール26種類をまとめた「議事録作成AIカオスマップ」が公開

日本語に特化したAI文字起こしサービス「Rimo Voice」が登場、1時間の保存音声を最短5分でテキスト化
会議や講演の音声をAIで自動的に文字起こしする「Smart書記」が8500万円を調達
“音”を元にスマホで3分で設備機器の異常を診断、スカイディスクの「スマート聴診棒」ベータ版

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:音声認識 / Voice Recognition(用語)産総研 / AIST(組織)Hmcomm(企業)文字起こし / Transcribe(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

空気中の湿度変化で発電する「湿度変動電池」を産総研が開発

産総研が空気中の湿度変化で発電する「湿度変動電池」を開発

産業技術総合研究所(産総研)センシングシステム研究センターと、同センターが兼務する人間拡張研究センターは6月2日、空気中の湿度変化を利用して発電を行える「湿度変動電池」を開発したと発表した。「潮解性材料と塩分濃度差発電を組み合わせた新しい原理」により実用的な電流を連続的に取り出すことが可能となった。

原理はこうだ。

湿度変動電池は、大気に開放された開放槽と密閉された閉鎖槽からなり、2つの槽には水と潮解性を有するリチウム塩からなる電解液が封入されている。この電池が低湿度環境にさらされると、開放槽からは水分が蒸発して濃度が上昇する一方、閉鎖槽は密閉されているため濃度変化は生じない。これによって開放槽と閉鎖槽間で濃度差が生じ、電極間に電圧が発生する。高湿度環境にさらされた場合は、逆に開放槽内の水溶液が空気中の水分を吸収して濃度が減少する。これにより先程とは逆向きの濃度差が発生し、逆向きの電圧が発生する。

潮解性とは、化合物が空気中の水分を吸収して水溶液になる性質のこと。湿度の変化が繰り返される限り、理論的には半永久的に電気エネルギーを取り出せるという。

これまでも、熱電素子、太陽光発電、振動発電など環境中の微小なエネルギーを利用した「環境発電」の研究が進んでいるが、熱・光・振動が存在する場所は限られており、どこでも使えるものではなかった。それに対して空気中の水分の利用する発電方法なら、地球上のほぼすべての場所で使うことができる。ただし、これまで研究が行われてきた吸湿時に電圧を発生する酸化グラフェンなどを利用した発電素子では、取り出せる電流はナノアンペア(nA)からマイクロアンペア(μA)程度と小さく実用性に欠けていた。

一方、産総研が開発した湿度変動電池はmA(ミリアンペア)レベルの電流が得られるため、昼夜の湿度差にさらされるIoT機器などへの極低電力電源としての応用が期待される。

産総研では、実際に湿度変動電池を作り、湿度30%と90%の環境に2時間ごとに繰り返し置く実験を行ったところ、湿度30%時の電圧は22〜25mV(ミリボルト)程度、90%時には-17mV(マイナス17ミリボルト)程度が得られた。最大電圧時に負荷を接続して出力測定を行うと、最大で30μW(マイクロワット)が得られた。短絡電流は5mA。「1mA以上の電流を1時間以上継続して出力することもできた。湿度を用いたこれまでの発電技術では、これほど大きな電流を長時間継続して出力できるものは報告されておらず、同素子は非常に高い電流供給能力を有していると言える」と産総研は話している。

湿度を20〜30%に保った密閉容器に湿度変動電池を入れ、微小な電力で回転する特別なモーターを回す実験では、モーターを2時間半にわたり回転させることができた。

今後は、出力と長時間使用時の耐久性を向上させ、実用化に向けた研究を行ってゆくとのこと。この技術の詳細は、英国王立化学会の学術誌「Sustainable Energy & Fuels」に2021年6月2日付で掲載される予定。

関連記事
豊田中央研究所が36cm角実用サイズ人工光合成セルで世界最高の太陽光変換効率7.2%を実現

カテゴリー:EnviroTech
タグ:IoT(用語)環境発電 / エネルギーハーベスティング(用語)産総研 / AIST(組織)バッテリー(用語)日本(国・地域)