消費者相手の企業を立ち上げようと考えている人には、中国人留学生は最高に魅力的なターゲットだろう。若いし、高度な教育を受けているし、ママとパパの銀行口座から金が引き出せる。
数多くの中国人家族が、西側諸国で勉強する子どもたちに毎年送金しているため、彼らは大変にアクセスしやすいオーディエンスとなっている。留学には金がかかる。米国の一流大学に留学すれば、学費と生活費の合計は年間5万ドルにものぼる。米国と中国の間に緊張感が増している今でも、留学先として米国を好む中国人は多い。
中国人留学生は金持ちだという印象は必ずしも当たらない。中国では、海外の「より良い」教育を子どもが受けられるように、生活水準を落としてまでして金を工面する中流家庭が増えている。とにかく海外に暮らして学ぶには、本国で学ぶよりもずっと多くの金がかかるのだ。名門北京大学ですら、年間の学費は1000ドルに満たない。
このような大金を使わざるを得ない人たちを取り込もうと、ある中国出身者が立ち上げたスタートアップがEasy Transferだ。2013年、当時19歳だったTony Gao氏が共同創設した企業で、その名が示すとおり、海外で学ぶ中国人留学生への送金に絡む面倒な手続きを手伝ってくれる。IDGが支援するこのスタートアップは、2018年の取引高が7億7600万ドル(約850億円)という驚異的な額を突破した。採算が取れるようになったのと同じ年だと、Gao氏は先日のTechCrunchのインタビューで語っていた。
複雑な手続きをシンプルにする
これまで、留学生が学費を支払うときは、電信送金、サードパーティーの決済業者、クレジットカードを使うのが普通だった。クレジットカードは高額な手数料を取られるため、前者の2つに頼ることになる。しかし、電信送金には面倒が付きまとう。学生もその両親も、それに地元の小さな銀行も、海外に学費を送った経験は少なく、言うまでもなく、外国為替に関する中国の規制をクリアしたり、銀行の書類を英語で記入するといった経験も乏しい。
Gao氏も、サウスカリフォルニア大学の最初の学費を母親から送ってもらうときに、この厄介な手続きに苦労させられた。簡単なお願いのはずが、面倒な手続きにイライラを募らせることとなり、最終的にそれが、彼にもうひとつの選択肢を取らせることになった。スタートアップの起業だ。
「私たちは、便利で低価格な、海外への学費の支払いサービスを目指しました」と、25歳になった中国人創設はは話していた。
Easy Transferは、Western UnionやPeerTransferを始めとする過剰とも言える数のサードパーティー決済業者と競合しながら世界中に学費を送金しているが、中国人に的を絞ることで米国の同業者との差別化を図っている。この企業の優位性は、基本的に情報の非対称性にある。両親がEasy Transferのウェブサイトにログオンし、リストから学校を選択すれば、銀行口座からの送金、またはUnionPayデビットカードでの支払いができる。Easy Transferは、それに伴う書類作成や、中国の外国為替を扱い役所での手続きなどを代行する。
世界中に大金を送る仕事はストレスが溜まる。そこでEasy Transferでは、顧客の要望や質問に対処する専門のサービススタッフ70名を内部に抱えている。新規ユーザー獲得のために、新入生とその両親をネットワークで結ぶイベントを開催したり、ボランティアの「カレッジ・アンバサダー」を募り、サービスの宣伝を行うなどしている。ここで重要なのは、Gao氏が数年間をかけて築いてきた、世界27カ国1900の学校を結ぶネットワークだ。それが、80の提携銀行と交渉する際のパワーを彼に与えている。
海外での学費の払い込みは「中国のどの銀行でも、海外との取り引きとしては小さなものではありません。大口の送金は、小口のものよりも儲けが多いため、銀行は私たちとの取り引きを望み、手数料も優遇してくれます」とGao氏は主張する。「銀行は、私たちのサービスを通して中国の富裕層を取り込もうと躍起になっているのです」
Gao氏は、Easy Transferの今年の総取引高は、10万件を超える支払いにより26億ドル(約2850億円)に達すると予測している。同社は、すべての取り引きに対して顧客から手数料を受け取り、提携銀行の内部為替差額の配分も行っている。昨年、Easy Transferは、2つの中国の銀行を共同で独自のクレジットカードを発行し、収益の流れを拡大した。海外に暮らす学生たちに信用スコアを積み重ねてもらい、中国に帰国してからローンやその他の金融サービスを受けられやすくするというGao氏の作戦だ。
この戦略には、20万人の比較的裕福な登録ユーザーを、大学を卒業して仕事に就いてからもつなぎとめておく狙いがある。クレジットカードはスタート地点に過ぎない。学費の支払いが目的の今のユーザーベースを、アパートの家賃や携帯電話のプランなど、幅広い海外サービスの顧客に転換できる可能性を秘めている。
奇妙なことに、貿易戦争の影響で中国人学生に対するドナルド・トランプ大統領の敵意が強まっているが(すでにハイテク分野の学生へのビザの発給が厳しくなっている)、Easy Transferの最大の市場である米国での事業には、まだ急激な落ち込みは見られない。だがGao氏によると、イギリス、オーストラリア、カナダとの取引額がここ数カ月間急増しているとのことで、それには現在の政治情勢が関連しているようだ。
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(翻訳:金井哲夫)