持続可能なマイクログリッドがクリーンエネルギーの未来を作る

気候変動や日常化しつつある自然災害に対抗するために必要不可欠なツールとして、持続可能なマイクログリッドが米国中に作られ始めている。ハリケーン、地震、山火事に襲われた多くの地域では、従来型の電力網による電力供給の維持が難しくなり、停電が発生すれば地域経済は停滞し、究極的には人の命が危険にさらされる。

マイクログリッド(災害時には広域の電力網から独立して運用できるように設計された電力供給設備)が生まれて数十年になるが、21世紀に入るまで発電はもっぱら化石燃料に頼っていた。ソーラーパネルとバッテリー容量のコストが十分に下がって持続可能なマイクログリッドが経済的な現実味を帯びるようになるまでに、そこから20年を要した。しかし、このところの注目度の高まりや設置件数の増加を見るにそれは変曲点に達し、未来のクリーンエネルギーとしての可能性が大いに高まったと言える。

サンタバーバラの例を見てみよう。同郡では、全学校に設置できるマイクログリッドの研究と設計のために50万ドル(約5400万円)を割り当てることについて、11月に統一学区が全員一致で賛成票を投じた。Clean Coalition(クリーン・コーリション)は、予備調査で18の学校の敷地には太陽光で15MW(メガワット)以上を発電できる可能性を割り出している。

こうしたソーラーパネルとバッテリーを組み合わせた「ソーラー・プラス・ストレージ」型のマイクログリッドを適切な学校に設置すれば、自然災害や、昨年10月に数十万人もの住民に損害を与えたカリフォルニアの電力会社PG&Gの停電事故のようなときに、地域社会に貢献できる。こうしたサイトは、重要な緊急援助サービス、痛みやすい食料の保存、照明、電気、インターネット絶続を非常時に供給する場にもなる。

マイクログリッド設置の実現性の調査は6月に完了する。最終的な費用は4000万ドル(約43億円)ほどと見積もられているが、長期の電力販売契約(PPA)を結ぶことで、学区はサイトを無料で設置し、通常の電気料金と同じ形で料金を長期支払いにできる(価格は電力会社の電気よりも安い)。このような契約は、ここ数年の間に再生可能エネルギーの発電コストが継続的に低下し、経済的な有効性が認められて初めて可能となった。そしてこれが、マイクログリッド・ブームの中心的な牽引力になっている。

1月末に、Scale Microgrid Solutions(スケール・マイクログリッド・ソリューションズ)は、投資会社のWarburg Pincus(ウォーバーグ・ピンカス)から3億ドル(約320億円)の投資を受けた。現在のマイクログリッドは、個々の顧客の特別な状況に合わせて設計され設置されるのが普通だ。だがScale Microgrid Solutionsは、運送用のコンテナの中にソーラーパネル、バッテリー、制御装置、バックアップ用のガス発電機を組み込んだモジュール式のマイクログリッド・インフラストラクチャーを提供している。

このモジュールは素早く設置でき、1500万ドル(約16億円)程度の予算でマイクログリッドの設備が欲しいと考える顧客や施設に適したオプションだ。最初のモジュール型マイクログリッドは、2019年5月、高度なクリーンエネルギー技術への投資に特化した金融会社であるGenerate Capital(ジェネレート・キャピタル)の資金援助で設置されている。

一方、米国の反対側、米国自治連邦区プエルトリコでは、自然災害の連続によりソーラー・プラス・ストレージ型マイクログリッドの有効性が証明されている。2017年にハリケーン・マリアがこの地の集中型の電力網に壊滅的な被害を加え、大勢の人たちが1年以上もの期間にわたって電気のない生活を強いられていた。

Rocky Mountain Institute(ロッキーマウンテン研究所)、Save the Children(セーブ・ザ・チルドレン)、Kinesis Foundation(キネシス財団)は、プエルトリコの中心地である山岳地帯の10の学校にソーラー・プラス・ストレージ型マイクログリッドを設置した。学校内の図書館、厨房、水道ポンプが停電の間、無期限で使えるように作られている。設置は2019年12月に完了した。ただでさえ経済復興が停滞していたプエルトリコを危機にさらした1月の群発地震発生の直前だ。ロッキーマウンテン研究所の島しょ緊急事態プログラムが専門情報サイトMicrogrid Knowledge(マイクログリッド・ナレッジ)に話したところによると、いくつもの学校で電力網の電気が止まったが、マイクログリッドは見事に機能し続け、重要なサービスを提供できたという。

マイクログリッドの利用は学校に留まらない。いくつかの地域社会では、自宅に設置したソーラー・アンド・ストレージ・システムをリンクさせているところもある。インバーターや制御装置は、この2年ほどで効率が向上し、電力網を補完して、またはそこから独立して参加者同士で電気を融通し合う「コミュニティー・マイクログリッド」の構築コストが、ようやく手の届く範囲になってきたという。

1月、オーストラリアのスタートアップであるRelectrify(リレクトリファイ)は、バッテリーの寿命を最大で30%も延ばし、同時に運用コストも削減するというインバーターとバッテリーの管理技術の継続的な改善にシリーズA投資450万ドル(約4億8000万円)を獲得した。Relectrifyの技術はまた、電気自動車に使われていたが、自動車用としての安定性が低下しすぎたバッテリー(Teslaの大人気の製品も含む)を再利用することもできる。これにより、需要が高まるマイクログリッドに大量の中古バッテリーを転用する道が開かれる。

これらの事業が魅力的に感じられるのは、電力網の回復力や電力網からの独立が化石燃料に依存することが多かったからでもあるが、エネルギー消費者にとって、どんどんコストが下がる安価なオプションになってきたという理由もある。プエルトリコの家庭用電力の価格は、2019年時点で1キロワット毎時(kWh)あたり27セント(約29円)と高額だ。これに対して、家庭用のソーラー・アンド・ストレージ・システムの価格は、条件がよければ24セント(約26円)まで下がる。

ソーラーパネルの設置費用は、調査会社Wood Mackenzie(ウッド・マッケンジー)の調べでは、この10年間で90%も下落した。同時に、地球温暖化とそれに起因する自然災害による早期の影響が、それでなくとも通常の維持管理や高まる需要の対応に苦しんでいる米国のエネルギーインフラに負担をかけ始めている。多くの大手電力会社が老朽化する集中型の電力網に依存する天然ガスやその他の部分的なソリューションに目を向ける中、災厄を経験した社会はすでにマイクログリッドの価値を実感し、競って導入するようになっているのだ。

これらの初期型のサステナブルなマイクログリッドが与える最大のインパクトは、近隣住民に電力を届ける非常用電源としての役割を超える。発電方法と電気の使い方に関する地域社会とエネルギー消費者の考え方を劇的に変化させるきっかけが、そこにはある。地域社会のマイクログリッド・システムでは、住民は電力源との間に具体的で明確なつながりを持つことができ、需要に対して十分な電力が行き渡るように友人や近所の人たちと協力し合うことが求められる。

このようなシステムは、あるかないかの社会的または技術的な制約のために、ピーク需要に合わせて環境にもっとも悪い燃料を常に燃やし続けるよう発電所に要求する現在の電力網とは、まったく対照的だ。持続可能なマイクログリッドは、ついに完全に誰の手にも届く価格にまでなってきた。そしていつの間にかマイクログリッドは、エネルギー消費と復元力に対する私たちの考え方を変え始めた。

【編集部注】著者のAlex Behrens(アレックス・ベレンズ)は、運輸、エネルギー、自動化、分散化における未来のテクノロジーを専門とする調査分析家でありブロガー。Fortune 500に選ばれた企業や技術系スタートアップでのデータおよび運用業務を経験。Seeking Alpha、Spend Matters、Metal Minerといったパブリッシャーのレギュラー寄稿者。

画像クレジット:Will Lester/Inland Valley Daily Bulletin (opens in a new window)/ Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

小型商用核融合炉を開発するボストンのスタートアップが約54億円を調達

25年間におよぶ研究の末、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、核融合商用化への扉の鍵を手に入れたようだ。

Commonwealth Fusion Systemsは、その研究の成果だ。消費者にクリーンで安定した電力を届けるために太陽のパワーを制御するという、数十年間にわたる研究開発の上にこのスタートアップは成り立っている。彼らはこのほど、米国で最も資金力のある民間投資家たちから、商用化を推し進めるための5000万ドル(約54億円)の追加投資を受けた。

同社はその技術を発表し、イタリアのエネルギー企業Eni、世界でもっとも裕福な男女によって設立された投資コンソーシアムであるBreakthrough Energy Ventures、そしてMIT自身の未開拓分野の技術を対象とした投資手段The Engineから、最初に6400万ドルの資金を集めている。

今回は、Steve Jurvetsonが創設した投資企業Future Ventures、Khosla Ventures、Chris SaccaのLowercase Capital、Moore Strategic Ventures、Safar Partners、Schooner Capital、 Starlight Venturesが参加している。

Commonwealth Fusion Systemsは2014年、核融合の経費削減を目指す学生の課題として始まった。このクラスは、当時MITのPlasma Science and Fusion Center(プラズマ科学および融合センター)主任だったDennis Whyteが教鞭を執っていたのだが、そこでARC(Affordable、Robust、Compact:手頃な価格で頑丈でコンパクトの略)と彼らが呼ぶ新しい融合炉技術が考案された。それでも数十億ドルという値札が付く、投資家も尻込みしたくなる規模の技術だった。

そこで彼らは製図台に戻り、エネルギー利得を生む(投入したエネルギーより出力されるエネルギーが上回る)必要最低限の核融合炉の検討を始めた。

エネルギー利得は、ほとんどの核融合炉技術において、もっとも難しい課題となっている。核融合を成功させた研究所やプロジェクトはいくつかあるが、それを維持しつつ、投入エネルギーよりも多くのエネルギーを引き出すことは、難題のまま残されている。

欧州のITER核融合炉は、200億ドル(約2兆1500億円)をかけた多国籍プロジェクトだが、2045年に達成予定の発電量の、いまだ60パーセントのあたりに留まっている。北米に目を戻すと、TAE TechnologiesとGeneral Fusionの2社が核融合パワーを安価に生み出す研究を行っている。イギリスでは、First Light FusionとTokamak Energyがそれぞれ独自の方法で核融合発電に取り組んでいる。

Commonwealth Fusion Systems(CFS)の最高責任者であるBob Mumgaard(ボブ・マムガード)氏の目からはかは、すべてが計画通りに進んでいるように見えている。順調だ。「CFSは民間核融合を実現させ、本質的に安全で、世界的にスケーラブルで、カーボンフリーで、無限のエネルギー源を供給するための軌道に乗っています」と彼は声明の中で述べている。

CFSの専門家たちは、可能なかぎり小型の核融合炉を2025年までに完成させることにしてるが、それは核融合反応を閉じ込めておくためのMITが独自に行ってきた磁石技術の研究によるところが大きい。実際、資金の大半は、CFSが核融合反応を閉じ込める完全な磁石技術の構築に向けられている。最終目標は、熱として、または蒸気でタービンを回して発電して、50メガワットを生み出させることだ。

環境に多大なリスクのある原子炉と違い、核融合発電所は、通常の工業施設とほぼ同じ区分になるだろうとMumgaardは言う。「核融合度のハザードプロファイルは、これからも工業施設(のカテゴリー)に留まります。法律はありますが、核融合炉を実際に作った人がまだいないので、前例がないのです」

マムガード氏は、200メガワット級の融合炉も思い描いている。それなら、風力発電ファームや太陽光発電所に置き換えることができる。

「前進と、何を目指すのかの両方を対比させて、常に監視しておく必要があります」と彼はいう。「電力網において二酸化炭素排出量を劇的に減らせる手段をまだ手にしていないというのが、一般の人々のほぼ一致した意見です。再生可能エネルギーも含め、最大の利得を生むものとは、実用規模で最も利得の高いものとは、1カ所につき数百メガワットの電力を生み出せる方式を意味します」。

マムガード氏によれば、再生可能エネルギーだけでは現代の大都市圏の需要を満たすことはできないという。「現代のライフスタイルを支えるための電力として、凝縮されたエネルギー源を求める声が強いのです」。

この問題に対する人々の意見は、次第に分かれつつある。とりわけ、エネルギー政策を考える団体の中で噂されていたグリーン・ニューディール政策を支持するサンライズ・ムーブメントの賛同者で、核エネルギーに反対する人たちの間にも分裂が起きている。しかし、エネルギーの専門家の大半は、混合型のアプローチを提唱し、ゼロエミッションを実現するためには(それが科学コミュニティの最終ゴールでもあるが)、核エネルギーをそこに加える必要があると指摘している。

「私たちは、この20年間、核融合に適切なクリーンエネルギーへの投資機会を探ってきました」と、Future Venturesの最高責任者であるSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベンソン)氏は声明の中で述べている。「核融合をビジネスに転換できる企業を求めいましたが、ついにCommonwealth Fusion Systemsと出会いました。彼らのアプローチを支えるハードサイエンスは、彼ら自身と加えてこの分野の世界中のリーダーたちによって実証されています。高度なエンジニアリングによって、CFSは太陽周期のパワーを制御する力を得ようとしています。それは世界を変え、あらゆる問題が改善されるクリーンなベースロード電力の時代を招くものです」

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(翻訳:金井哲夫)

オークション形式で電力の最安値が分かる「エネオク」開始

日本では、2016年4月より電力小売事業への新規参入の全面自由化が始まった。経済産業省の発表によれば、自由化が始まった当時の事業者数は291社。しかし、この自由化により2019年1月末時点で事業者数はその約2倍の559件にまで拡大した。

消費者にとってもメリットがある電力小売事業の自由化だが、その一方で、事業者数の急増や電力プランの乱立により、消費者がどの事業者を選べばいいか分からないなどの課題も生まれている。

そんな中、エネルギー領域のスタートアップであるエナーバンクは1月30日、電力コストの削減や「新電力」と呼ばれる新しい小売事業者への切り替えを望む法人向けに、電力のリバースオークションサービス「エネオク」をリリースした。

エネオクは、オフィスビルなどの施設情報と直近12ヶ月の電力使用明細をアップロードするだけで、複数の電力事業者による入札で決定した電力プランの「最安値」が分かるリバースオークションサービスだ。通常、電気情報の入力から約2週間で最安の事業者が見つかるという。

また、エネオクには電力事業者側の担当者と直接やりとりができるチャット機能もあるため、法人ユーザーはエネオクを通して担当者に質問したり、料金交渉などを行うことも可能だ。法人ユーザーは同サービスを無料で利用することができ、最安値が決定したあとも電気プラン切り替えの義務はない。エナーバンクは契約の切り替えが成立したときに、電気事業者から成果報酬を受け取るというモデルだ。

経済産業省「電力小売全面自由化の進捗状況について」(2018年11月8日発表)より

エネオクは電気事業者、特に新電力の課題解決にもつながる。経済産業省が2018年11月に発表した資料によれば、自由化以降、全販売電力量における新電力のシェアは増加傾向にあるものの、現時点ではまだ15.5%程度と低い。これは、新電力がもつ「営業パイプ」が大手事業者に比べてまだ少ないことが理由の1つとして考えられるだろう。

しかし、そうした新電力の事業者がエネオクを利用することで、入札条件次第ではこれまで接点がなかった法人との営業窓口を作ることができるようになる。エナーバンク代表取締役の村中健一氏は、「エネオクではいわゆる『新電力』と呼ばれる事業者 からの利用もある。それらの事業者がエネオクを利用することで、これまでは接点がなかった法人と自社をつなぐ窓口を作ることができる」と同サービスが事業者側に与えるメリットを説明した。

エナーバンクは2018年7月に創業したばかりのスタートアップ。同年10月にはエネオクのベータ版をリリースしている。本日の正式リリース時点では、エネオクを利用する小売電気事業者の数は十数社ほど。リバースオークションサイトとして本当の意味での「最安値」を提示するためにも、まずはこの数を増やすことが同社にとって喫緊の課題だと言えるだろう。

エネチェンジがケンブリッジ発の電力ベンチャーと経営統合、電力ビッグデータ解析事業に本格参入

電力価格の比較サービスを提供するエネチェンジは、6月30日付で英国のスマートメーターデータ解析ベンチャーSMAP ENERGYとの経営統合に合意したことを明らかにした。経営統合に伴い、SMAP ENERGY共同創業者・CEOで、エネチェンジ創業メンバーの1人でもある城口洋平氏が新たにエネチェンジの代表取締役会長に就任し、現・代表取締役社長の有田一平氏との共同代表制へと移行する。

写真(左)代表取締役社長 有田一平氏 (右)代表取締役会長 城口洋平氏

エネチェンジでは個人向けの電力・ガス価格比較サイト「エネチェンジ」や、法人向けの電力切り替えサービス「エネチェンジBiz」などを提供。2016年2月からはSMAP ENERGYと業務提携して、同社が提供するスマートメーターの電力データ解析サービス「SMAP(Smart-Meter Analytics Platform)」の日本での独占販売権を取得し、電力データの見える化支援サービスなどを提供してきた。

2015年創業のエネチェンジも、ルーツはSMAP ENERGYと同じ英国発のスタートアップだ。サービス開始を紹介する記事でも説明されているとおり、エプコ代表取締役 グループCEOの岩崎辰之氏や、英・ケンブリッジ大学の卒業生らが2013年に英国で設立した、電力関連の技術を研究する「Cambridge Energy Data Lab(ケンブリッジエナジーデータラボ)」が母体となっている。そこから価格比較サービスを切り出す形で、同ラボの創業メンバーである有田氏が日本で設立したのがエネチェンジだ。

一方のSMAP ENERGYは、城口氏のケンブリッジ大学工学部博士課程のスマートメーターデータ解析に関する研究成果をもとに、ケンブリッジ大学とケンブリッジエナジーデータラボが共同で2016年に設立した産学連携ベンチャー。電力データ解析サービスSMAPを電力会社向けに展開し、日本のほか欧州・中東の電力会社への導入実績があるという。

今回の経営統合では、同じ母体からスピンアウトした、いわば兄弟にあたるスタートアップ同士が、再び一つに寄り添う形となる。エネチェンジは経営統合について「日本でのスマートメーターの導入率が2016年12月時点で30%に達し、2023年には沖縄を除く全世帯への設置完了が予定されている状況を受け、電力ビッグデータ事業への本格参入を決定した」としている。SMAP ENERGYの持つ電力ビッグデータ解析の技術や知見を統合することで、電力比較サイトへの活用に加え、電力会社への電力データ解析サービスも充実させたい考えだ。また、共同代表取締役制により、城口氏がこれらデータ解析事業のほか、海外事業も管掌していくという。

城口氏はリリースで「日本の電力市場は、自由化された18兆円市場として世界最大の規模を誇る魅力的な市場。加えて、スマートメーターの普及やデータ活用は、イギリスをはじめとする欧州諸国よりも進んでいる先進的な市場環境がある。エネチェンジが有する消費者や電力会社との強い関係性との相乗効果が高いと判断し、今回の経営統合に合意した。この統合を活用し、世界の電力会社と取り組みを行っているSMAPならではのデータ解析力と世界レベルでのノウハウで、スマートメーターデータの世界NO.1プラットフォームに挑戦していきたい」とコメントしている。

また、有田氏は「これまで電力比較サービスを主軸として事業を展開してきたが、エネチェンジは電力自由化、ガス自由化に続く第三の矢としてスマートメーター設置を捉えており、比較サービスの精緻化、マーケティング、料金プラン開発等へ応用していくことにより日本の電力市場の発展に繋げることができれば幸いだ」とリリースで述べている。

エネチェンジは2015年の設立以来、2016年2月に約4億円を調達2017年1月に5億円を調達2017年3月に5000万円を追加調達しており、これまでに総額約9.5億円の資金調達を行っている。

エネチェンジがみずほキャピタルより5000万円を追加調達、法人向けサービス展開を強化

電力価格の比較サービスを展開するエネチェンジは、みずほキャピタルの運営ファンドを引受先とする5000万円の第三者割当増資を実施したことを発表した。エネチェンジは今年1月にオプトベンチャーズ、IMJ Investment Partners Japan LLPから総額5億円を調達しているが、今回の増資はこのラウンドにおける追加調達という位置付けだ。

エネチェンジは電力の価格比較サイト「エネチェンジ」やスマートメーターのデータ解析サービスなどを提供している。2016年5月には、法人向けの電力切替サービス「エネチェンジBiz」をローンチした。

エネチェンジBizはスーパーや町工場、病院、クリニック、福祉施設といった高圧法人の利用を想定しているという。電力価格の削減効果について広報担当者は、その法人が現在契約している電力会社や料金プランによって異なり、すべての法人で削減が期待できるというわけではないが、エネチェンジBizを利用した法人は平均7%ほど削減できていると話す。エネチェンジBizでの相談実績は8000件を超えたそうだ。

今回の資金調達は、主にこのエネチェンジBizのサービス展開を推し進めることが目的だという。みずほキャピタルの協力を得ることで、彼らの持つ顧客基盤にエネチェンジBizを訴求していきたい考えだ。

エネチェンジ代表取締役社長の有田一平氏はリリースで以下のようにコメントしている。

高圧市場での電力切り替えは、急速に進むと見ているため、新たな顧客との接点を持つことが急務と考えています。エネチェンジが強みを持つオンラインでのリード獲得を補完する目的で、今後銀行ネットワークを活用したオフラインでのリード獲得をサポートして頂けるとのことで、みずほキャピタル様のご支援に期待をしております。

2015年4月に創業したエネチェンジは、2016年2月の調達ラウンドで4億円を調達している。今回の追加調達でこれまでに総額9.5億円ほど調達した計算となる。

電力自由化ビジネスに挑む「エネチェンジ」が5億円を調達ーーマーケティングの強化と海外事業展開を推進

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2016年4月、電力の小売が全面自由化された。規制緩和によって新規の事業者が参入する市場が生まれており、電力ではすでにソフトバンクをはじめとした通信キャリアや楽天などのネット企業も参入している。そんな新市場にチャンスを見い出したスタートアップの1社がエネチェンジだ。同社は2017年1月23日、オプトベンチャーズ、IMJ Investment Partners Japan LLPから総額5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

電力自由化を見越して、2015年4月に創業したエネチェンジ。同年9月には電力の価格比較サイト「エネチェンジ」をリリースした。電力自由化が開始される直前の2016年2月には4億円の資金調達を実施。さらに創業メンバーである城口氏も関わるケンブリッジ大学の産学連携ベンチャーで、AIを活用した電力データ解析サービスを開発する「SMAP Energy」と組み、海外へも電力事業を展開している

現在は電力比較サイトエネチェンジを中心に事業展開を行う一方で、法人向けの電力切替サービス「エネチェンジBiz」、格安SIM比較サイト「SIMチェンジ」を展開している。

調達した資金はマーケティング予算に投下

エネチェンジでは、今回調達した資金をもとにテレビコマーシャルを中心としたマス広告を展開する。ウェブ中心の集客から、より大きなインパクトを目指すために予算を投じていく。テレビコマーシャルは1月25日より関西エリアで開始する。

また、電力使用量をデジタル計測する「スマートメーター」の普及を見据え、AI(人工知能)技術を利用した電力消費量の研究及び海外での事業展開を本格化。すでにイギリス、ドバイなどで電力サービス事業展開をステルスで展開中だ。ケンブリッジ大学で電力データ解析の研究を行う、創業メンバーの城口氏は「2週間に1度はイギリスに行ったり帰ったり」(エネチェンジ)し、海外での開発、事業展開を行っている。

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写真左から)IMJIP 千葉貴史氏、エネチェンジ 有田一平、オプトベンチャーズ 細野尚孝氏

2016年2月時点で電力価格比較サイトのエネチェンジは月間180万UUと回答していたが、現在は170万UUとやや減少している。「2016年2月は電力自由化の波があり、3月、4月をピークに増加していましたが、今はやや落ち着いています。夏場や冬場で電力消費が多くなるタイミングに比例して、申し込みが増加する傾向があります」(エネチェンジ)

同時期にサービスを開始した法人向けサービスのエネチェンジ Bizに関しては「個人の電力自由化の注目が法人向けサービスにも影響を与えています。当初は申し込みも少なかったのですが、自由化直後の2016年4月から2016年8月にかけて申し込みが増え、当該期間で売り上げベースで1200%の成長を果たしました。現在は営業、コールセンターも設けて本格稼働をしています」(エネチェンジ)と語った。

電力比較サイトと同様の仕組みで展開する格安SIM比較サイトのSIMチェンジは月間140万UU程度。格安SIM比較サイトの中での月間UU数は1位(エネチェンジ調べ、2016年9月時点)だ。

今後は主力サービスのエネチェンジのマーケティングを強化しつつ、海外での電力事業展開に資金の一部を投下していく。また、1月16日より都市ガス比較のサービスをエネチェンジ内で開始。同18日には関西電力出身で元大阪府副知事の木村愼作(きむらしんさく)氏が顧問に就任。今後は電力・ガス自由化普及に向けた講演活動、メディアへの出演をメインに活動するとしている。