オープンソースコミュニティの大多数の人びとにとって、コードとテクノロジーは「フリー」(「自由」という意味と「無償」という意味を兼ねている)なものとして捉えられている。より良い現在と未来を追求するために、人類すべてと共有されるべきものなのだ。しかし、政府の視点はそれとは異なっている。彼らの心の中では、テクノロジーは他の国に対して競争優位をもたらす戦略的資産なのだ。これらの資産は富と雇用、そして最終的には国内の平穏へとつながるのだ。
米国はテクノロジーリーダーであり、自身の競争上の優位性を守るための、強力な経済戦争ツールを所有しているのだ。そうしたツールの1つが、CFIUS、またの名を対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States)という組織である。おそらく読者は最近その名前をニュースで耳にしたことがあるかもしれない。例えばBroadcomからQualcommへ行われた巨額の買収提案の影響に関するニュースや、海外からのスタートアップへの投資を規制するために、議会が条項の強化を検討しているといったニュースだ。
そして最近CFIUSは、ある一国のためにますますその重要性が増している。それは中国だ。世界の超大国としての中国の継続的な拡大よりも、基本的な経済的ストーリーは、ほとんど考えることができない。1980年代初頭の控え目な資本主義に対する実験から、今日の巨大な存在に至るまで、中国の経済的な発展はまさに驚異的なものだった。その成長を支えてきたのはテクノロジーとサイエンス研究に対する貪欲さであり、最初は海外の大学を通して、そして今では自前の開発を通して追求が行われている。
中国の富が増えるに連れ、世界で最も先進的なテクノロジー企業を所有したいという欲求も高まってきた。それがCFIUSの介入につながるのだ。米国の最新の国家安全保障戦略(National Security Strategy)の中では、中国を「戦略的な競合相手(strategic competitor)」と呼んでいる。緊張が高まるにつれて、CFIUSは技術業界を最終的に支配するのは誰か、という闘いの中心に鎮座することになった。
要するにどういうことなのか?
CFIUSについて詳しく説明する前に、例を挙げて説明しよう。あなたはテクノロジー企業の創業者であり、AIスタートアップ(AIは皆スタートアップなのだからこの表現は冗長だが)を、控え目な段階から世界レベルのユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未公開企業)へと育て上げた。あなたのスタートアップの名声が世界に轟く中で、シリコンバレーの主要なテクノロジー企業たちからの買収提案が入り始める。
しかし、その中に中国企業からの買収提案が混ざっているのだが、その内容が桁外れなのだ。それは国内企業からの提案よりもはるかに高額なもので、さらに素晴らしいことに、中国企業はいかなる意味でも介入は行わないと約束してくれる。これまで会社に心血を注いできたときと同様に、会社の成長には完全な自由を与えるというのだ。
あなたは彼らと契約を結ぶ…だが、やがてあなたの顧問弁護士がやって来てこう告げるのだ「大変です。CFIUSが介入してきました」。
結局CFIUSとは何か?
CFIUSは、外国企業による経済取引(合併や買収など)を調査し、国家安全保障を守る政府委員会だ。財務長官が同委員会にの議長を務め、そのメンバーには司法省、国土安全保障省、商務省、国防省、国務省、エネルギー省の長官、そして米国貿易代表部、ホワイトハウスの科学技術政策局長が含まれている。
CFIUSには膨大な数の関連する法律、手続、そして規制があり、高度に専門化された弁護士たちが、関係する手続きを扱っている。「対象取引」のみがCFIUSの審査を受ける必要があるのだが、何が国家安全保障上の懸案事項とみなされるか否かはすべて解釈次第である。
通常この審査プロセスは、2社が取引を行うことを決定し、CFIUSが関与する可能性が高いと考えたときに開始される。両社は共同で委員会に対して自発的に届出を行い、その取引や会社の歴史、ならびに規則によって要求される他の情報の説明を行うことになる。そしてCFIUSは、30日以内に取引に対する裁定を行う(これはさらに45日延長することができる)。 稀に、大統領の判断に委ねられる場合もある。
関与する企業にとって最善の決定は、CFIUSが介入を行わないという決定(”safe harbor”という名前で知られる)を下す場合である。しかし、もしCFIUSが国家安全保障上の懸念があると考えたならば、関係者に対して様々なものを要求することができる。完全に取引を中止させることもできれば、承認するための特別な条件を取引に付加することも可能だ。当事者たちは、それに従って取引を完了させるか、さもなくば破談となる。
CFIUSが実際に取引を中止させたことはあるのか?
ある。しかしこの質問に正確に答えるのは難しい。なぜなら参加者たちは多くの場合、委員会の命令に従う形ではなく、自発的に取引を中止するからだ。もともとCFIUSは1950年の国防産業法の成立を受けて設立されたものであり、議会調査局が指摘するように、その運営はほとんど「詳細不明」な形で行われていた。
だがその形態は、近年2つの理由で変化を遂げた。1つは海外企業による米国企業の買収に伴う緊張の高まりによるもので、特に2005年に起きた、Dubai Ports Worldによる米国の6つの港の運用管理権の獲得の動き以降、顕著となってきたものだ。第2に、グローバリゼーションによって、世界中の企業がパートナーシップと買収目標を追求し、世界的なM&A取引量を大幅に増やしているからだ。
Dubai Ports World論争の頃、2005年には、CFIUSに対して合計64の届出が行われた。その数字は2007年には138へ増加し、その後の大不況の際には減少したものの、2014年には新たなピークとなる147の届出が行われた。
さらに重要なのは、CFIUS調査の数が増えたことだ。ブッシュ政権の終わりである2005年から2007年の間に、委員会に届いた313件の届出のうち、実際に調査されたのはわずか14件(およそ4.5%)に過ぎない。しかし2009年から2015年の間に委員会に届いた770件の届出に関しては、310件が調査され、その比率は40.3%となっている。
中国が関わる件数はますます増加している。2005年から2007年にかけての、中国関連の取引は、313件の届出のうち、わずか4件(1.3%)だけだった。しかし、2013年から2015年の間では、中国の関与は387件中74件となり、全ての届出の19.1%を占めるようになった。これは大規模な増加であり、中国企業の経済的影響力の増大を示すと同時に、中国企業によるアメリカ企業の買収(特にテクノロジー分野での買収)に対する米国政府の懸念の増大を示唆している。その権力の一例として、CFIUSはAnt FinancialによるMoneyGramの買収を中止させた。Ant FinancialはJack Maならびに他のAlibabaの幹部たちを通じて、中国のAlibabaと密接に関連している企業だ。
CFIUSはより強力になりつつあるのか?
それはほぼ確実だ。CFIUSによる規制は、過去10年の間に劇的に変化してきた。海外の企業に対してさらなる精査が行われるようになったのだ。特に海外の国家が所有する企業がアメリカの企業を買収しようとする際にそれは顕著である。現在、議会はCFIUSをさらに強化するための様々な法案を検討している。
回覧された提案の1つには、スタートアップベンチャーキャピタル投資をCFIUSの監督下に置こうとするものがあった。現在委員会は、企業の統治を完全にあるいは大部分海外に移管してしまうような取引に対して、監視の目を広げようとしている。また提案されている法律では、重要な技術分野においては、過半数の株式の取得を規制するような変更が行われるだろう。
もしこのような法案が可決されれば、シリコンバレーのスタートアップに投資する海外のベンチャーキャピタルたちに、冷水を浴びせることになる。CFIUSのレビューが、特に初期段階のベンチャーキャピタルに対して及ぼす更なる問題は、創業者たちに出資の受け入れを思いとどまらせ、何週間にもわたるはっきりしないCFIUSの意思決定プロセスに付き合わせるということだ。
この改革法案はテキサス州の上院議員John Cornynと下院議員のRobert Pittengerによって提案されている。また、カリフォルニア州上院議員のDianne Feinsteinを含む、超党派の立法者グループもこの法案に加わった。法案に対する審議は上院で行われており、法案の最終的な文言はまだ調整中であるが、成立の可能性は高い。
この議会の動きとは別に、シンガポール人が所有するBroadcomがQualcommを買収しようとした試みが、何らかの動きにつながる可能性もある。Qualcommは、トランプ政権が国家安全保障上の優先事項と名付けた、5G通信規格で争うことのできる技術を持つ、唯一の米国企業なのだ。
CFIUSの改革を上院でリードしているJohn Cornynは、BroadcommとQualcommの双方が自発的に届出を行う前に、先んじて取引をレビューするように委員会に要請した 。これは標準的な慣行ではない。もしCFIUSがそもそも取引が合意される前に、一方的にそれを中止させたなら、これまであまり知られて居なかったこの組織にとって大きな転換点になるだろう。この先数ヶ月のうちに、CFIUSが頻繁に見られるようになることを期待しよう。
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(翻訳:sako)
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