バンクのメンバー。左から2人目が代表取締役の兼CEOの光本勇介氏
オンラインストア作成サービス「STORES.jp」をはじめとしたサービスを提供するブラケットの創業者である光本勇介氏。同氏が今年2月に立ち上げた新会社「バンク」の第1弾となるサービス、「CASH(キャッシュ)」が6月28日にリリースされた。App Storeより無料でダウンロードできる。
CASHは、“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュ(現金)に変えられる”をうたうレンディングアプリだ。アプリをダウンロードし、SMS認証を行えば準備完了。あとはアプリ下部のメニューから「キャッシュ」を選択、現金化したいアイテム(当初はアパレルを中心としたファッションアイテム)のブランドや商品を選択し、写真を撮れば完了。アプリには査定額が表示され、その額で納得した場合、その金額のキャッシュ(仮想通貨)が瞬時にアプリにチャージされる。SMS認証以上の審査や手続は必要ない。
チャージされたキャッシュは銀行やコンビニで受け取り(ローソンのみ)で現金として出金可能。そしてユーザーはキャッシュを2カ月以内に返金(手数料15%がかかる)するか、返金をせずに、写真を撮ったアイテムをCASHに送付する必要がある(集荷依頼票が表示されるので記入すると、ヤマト運輸が引き取りに来る)。言ってみれば現代版の「質屋」的なサービスだ。質草を入れて(写真を撮って)お金を借り、利子を付けて返済するか、もしくは質草を処分して返済するか——ということをスマートフォン上で実現しているのだ。
ただ普通の質屋や消費者金融と違うのは、CASHでは次のようなスキームを用いていること。これによって貸金業法や質屋営業法といった法律を回避してサービスを提供するのだという。
まずアプリ上でキャッシュにするという処理を行うタイミングで、CASHがユーザーからアイテムの買い取りを行う。そのために、買取アイテムのキャッシュを即座に支払いする。実際の買い取りまでには2カ月の猶予を置いており、その期間内に商品を送る(キャッシュを返さない)か、買取をキャンセル(手数料をつけてキャッシュを返す)するか、ということなのだという。このスキームを実現するために、バンクは古物商許可を取得している。
このスキームについて「監督省庁とは話していない」(バンク)そうだが、弁護士とも法律上問題ないことを確認した上でサービスを提供しているという。このあたりは、AnyPayの割り勘アプリ「paymo」が、資金決済法の制限を受ける「個人間送金」ではなく、割り勘という行為で「個人間の弁済」としたのと同じような印象を受けた。
FinTechをより簡単に
「CASH」のスクリーンショット
「FinTechという言葉をよく聞くようになりましたが、まだちょっと小難しくて、固い印象があります。ですがFinTechなんて言葉が分からない人達にとっても、もっとカジュアルに利用できる金融サービスは必要です。STORES.jpを立ち上げたときもそう、当時ECサイトを作るというのは難しいことでした。だからこそECのど素人のためのサービスを作った。そこに意味がありました」バンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏はサービス提供の経緯についてこう語る。
ソーシャルレンディングに再び注目が集まり、一方ではAIを使った与信サービスの開発といった話題を耳にすることも増えたが、現状レンディングに関わる多くのサービスはB向け、つまり法人ニーズを満たすためのものがほとんど。一方でコンシューマー向けのレンディングサービスといえば、銀行ローンに消費者金融と、新しい動きはあまり起きていない。この領域に変化を起こすことこそがバンクのチャレンジだという。
「借金」のイメージを変える
「そもそも『借金』というとイメージが良くありません。ですが、お金を借りるということ自体は、必ずしも悪ではありません。この領域のイメージを変えられればと思っています」(光本氏)
光本氏は、レンディングの意味について、バングラディシュのグラミン銀行を例に語る。グラミン銀行は、貧困層向けに低金利、無担保で少額の融資を行い、彼らがビジネスを興すきっかけを作り、その生活の向上を支援している。2006年には、ノーベル平和賞も受賞した。「(グラミン銀行は)少額をマスに貸して、小さな一歩のための手助けをしています。少額を貸すというニーズはある」(光本氏)。
もちろん消費者金融的なレンディングサービスとソーシャルビジネスに近いグラミン銀行を同じように考えていいのかというとまた違うだろうし、2カ月で15%という金利(正確には、CASHにおける買取キャンセルの手数料)の是非もあるだろう。気軽にお金を借りられるというところには負の側面がないとは限らない。だが、光本氏は批判が起こることも想定している、とした上でこう語る。
「とある雑誌のQ&Aコーナーで『ウェブデザイナーになるために、アルバイトで1年お金を貯めてPCを買う』という相談者に対して、『もしお金を借りてでも今すぐPCや参考書を買って、ウェブデザインを学べば、1年後にはPCを買う以上のお金を稼げる、そんな成長機会が得られるのではないか』という回答がありました。例えば奨学金だって借金のひとつ。瞬間的なお金のニーズを満たすことで、小さな一歩を踏み出すことができればいい。僕たちは質屋をやりたいわけでなありません。資金需要を解決したいのです」
CASHは統計学、性善説のビジネス
バンクがCASHで狙うのは、1万〜3万円程度の少額のレンディングだ。これまでの消費者金融や銀行ローンなどで求められていた与信を人力で行わずアプリ化して工数を下げることで、少額でもスケールするレンディングサービスの構築ができると判断した。
だが逆に言えば、与信を取らないことで貸倒率が上がるのであれば、ビジネスとして成立しなくなるのではないだろうか? 光本氏はそれに同意した上で、「CASHは統計学、性善説のビジネスだ」と語る。
「お金を提供して、一定の割合がきっちりと返してくれれば儲かるモデル。悪い人がブラックリストに入っていくが、返せる金額だからこそ、ブラックリストに入るくらいなら返す方がメリットがある。サービスとして“攻めている“ものだし、我々がリスクも取っている。だがこれが仮にビジネスになれば、相当大きなモノになると思っている」(光本氏)。そんな話を聞くと、ある意味ではイグジットした起業家による、壮大な社会実験のようにも見えてくる。ちなみに、その貸倒率の“一定の割合”やアイテムの返送率の想定は非公開。
バンクでは今後、CASH以外にも身近な資金ニーズを解決するサービスを提供していくという。すでに第2弾として、給与の前借りを実現するレンディングサービス「Payday」のティザーサイトを公開している。
最近ではオンラインメディアにとどまらず、テレビをはじめとした各種媒体でも紹介さているCASH。ここ数日はAppStoreの無料総合ランキングでもトップ10に入っていたので、毎日数万人単位の新規ユーザーが流入していたのではないかといった声も聞こえてくる。
お知らせにも「1日で用意しているキャッシュ上限にすぐに達してしまい、CASHをご利用いただける方が限られてしまう状況が続いておりました」と記載があるが、急激にこれまで以上のCASH化が発生したことも考えられる。