[筆者: Alison Derbenwick Miller]
編集者注記: Alison Derbenwick MillerはOracle AcademyのVPで、彼女のチームは生徒の興味とスキルを高めることによる高度なコンピュータ科学教育を推進している。それにより同校は、生徒の性別や社会経済的な背景(人種など)を問わず、次世代のイノベータとビジネスリーダーを育てようとしている。
コンピュータ科学教育の拡大と普及を阻む頑迷固陋なイメージの問題が存在することが、このところますます明らかになってきた。しかし、この問題をこれ以上放置することは許されない。
個人のモバイルデバイスから、会社の自動化人事管理システム、電力会社のスマートグリッドなどなどに至るまで、情報技術は今日の世界のあらゆる部分に浸透し、それと共にコンピュータ科学の必要性も増している。しかし多くの指標は、その需要と供給のあいだに大きなギャップがあることを示している。たとえば合衆国労働統計局のデータでは、2020年にコンピュータ科学関連の新たな求人は140万件ある。これに対し現在の教育者の数と大学の容量から推計すると、2020年に新たに社会に供給できるコンピュータ科学履修者はわずかに40万人である。
コンピュータ科学者のニーズが増え続けているだけでなく、社会のあらゆる分野で今では、コンピュータ科学の基礎的なリテラシーがますます必要とされている。企業のマーケティングも、地方の行政も、それに保健医療の分野も、意思決定がデータに依存しつつある今日では、コンピュータと情報処理の基礎知識や、コンピュータプログラミングとデータ分析の初歩的知識や技能が、どの職場でも必要とされる。今日そうでないところでも、明日はそうなる。
しかし今の中学校のカリキュラムには、コンピュータ科学のコースやそれに相当する学科がほとんどない。高校ではわずか10%の高校にコンピュータ科学のコースがあるだけで、高校全体としては、初等コンピュータ科学のコースは2005年に比べて17%減少している(College Board*のデータによる)。〔*: College Board, 日本の大学入試センターにやや似ているが、民間機関。〕
このような需給ギャップの拡大傾向がこのまま続けば、深刻な経済不安と社会的な不正義(貧富の格差など)を招きかねない。したがって、どんなに困難な問題であっても、コンピュータの知識と技能に関する持てる者と持たざる者とのギャップを縮小する現実性のある努力を、われわれは今日にでも開始しなければならない。学校と教師と親と行政と産業界の全員が、その努力の担い手でなければならない。
コンピュータ科学は、本質的に難しい学科だ。そのためそれは、多くの生徒をびびらせてしまい、コードを書くという機械的な作業の向こう側に、モバイルのゲームから医療の個人化に至るまで、コンピュータ科学の実際的ですばらしい応用〜アプリケーションが、生活とコミュニティのあらゆる部分に浸透していることを、なかなか理解しないし、実感できない。生徒たちは、試験でAを取ることが勉強の目標だ、と教えられる。しかしコンピュータ科学は、試行錯誤を繰り返しながら成功を実現する過程だ。
生徒たちは、試験でAを取ることが勉強の目的だ、と教えられる。しかしコンピュータ科学は、試行錯誤を繰り返しながら成功を実現する過程だ。
しかも生徒たちの多くは、コンピュータ科学の知識と技能が開く多様な進路や職業を、実際に見たり触れたり理解したりする機会に恵まれていない。コンピュータ科学とは、単純にコマンドラインを操作することではなく、よりエネルギー効率の良いビルを建てたり、ホームレスのペットに新しい家族を見つけてあげたり、顕微鏡手術を行うロボットを開発することなのだ。
教師の絶対的な不足も、大きな問題だ。College Boardによると、合衆国の約42000の高校のうち、コンピュータ科学の初等APコースがあるのは9%にすぎない(2013年)。
このような趨勢を変えるためには、何をすべきか?
コンピュータ科学をK-12カリキュラムの必須科目にする コンピュータ科学者を作るためには、25年以上かかる。問題を分析できて、その解を設計でき、それを流暢なプログラミング言語で実装できるようになるまでには、それぐらいの年月を要する。したがってコンピュータ科学の基礎教育はK-12から始める必要がある。
低学年には、コンピュータそのものだけでなく、コラボレーションによる問題解決や、批判的な思考力、数学において現実的な問題を創造的に解く能力、科学と言葉によるアート、などの能力を涵養する必要がある。高学年ではAlliceやGreenfoot(ビデオ)などを使って実際のプログラミングに挑戦する…絵本の一シーンをアニメにしたり、習ったばかりの数学の知識を応用したゲームを作るなど…。これらはすべて、コンピュータ科学の基礎を子どもたちの脳内に形作る過程であり、高校で本格的なプログラミングのコースを、びびらずに自然に取れるようにする。
気軽でとっつきやすいコンピュータ科学 教師や親や学校管理者などは、多くの生徒がコンピュータ科学はおもしろい、と思えるような方法で、この学科への関心を喚起できる。日常の思わぬところにコンピュータ科学がある、ということに生徒たちが気づくようにしよう。クラス分けをするとき、コンピュータがどんな役に立っているのか。携帯電話の重要な機能を、コンピュータがどうやって支えているのか。Webの広告はあなたに見せる広告をどうやって選んでいるのか、などなど、現実の中から話題を拾うとよい。
現状では、コンピュータ科学を選んだ生徒学生たちに多様性が少なくて、そのことも、企業等が求める才能と技能の需給ギャップの拡大に貢献している。2013年ではコンピュータ科学のAPを取った高校生のうち、女性は20%弱、アフリカ系アメリカ人はわずか3%、ヒスパニックは約8%だった(College Boardによる)。
成功が学校/教室の外にあることを理解する コンピュータ科学を勉強したらコンピュータの専門家になる、という通念はもはや昔の話だ。今はまったく逆で、どんな仕事をするにもコンピュータ科学の知識技能がある程度は必要だ。だからコンピュータ科学を、進路の多様性と結びつけながら教えていこう。それによって、女性やマイノリティの人たちが、より多くコンピュータに関心を持つだろう。産業界と高等教育の分野がどちらも既存の役割モデルに光をあて、コミュニティのレベルでのメンターシップ(いわゆる“実践的社会教育”)に力を入れるべきだ。学校は、実際にコンピュータを仕事に役立たせている父兄を招待して、コンピュータ科学と職業的現実との結びつきを生徒に理解させるとよい。
企業と協力する 学校と産業界が常時オープンな連携関係を維持して、生徒たちが、今勉強していることが現実世界で何の役に立つのか、将来的にどのような技能が求められているのかを、つねに理解していることが必要だ。学校は、ちょっと高度な実験や、モデルづくりや、コラボレーション事業になると、資金や時間や知識がなくてなかなか取り組めないことが多い。それらに関しては、地元の企業にぜひスポンサーになってもらおう。もちろんこれは、企業の社会貢献の一環になる。企業はこれまでにも、さまざまな分野で、教師や生徒の教育に協力し貢献してきた。〔余計な訳注: 単純な工場見学などは、事前に学産共同でプログラムを練らないと、おもしろいもの、教育効果の高いものにはなりにくい。〕
コンピュータ科学を全国の教室に実装することは、一朝一夕でできることではない。しかし、上記の深刻な需給ギャップをなるべく早期に填めるためには、教師、学校管理者、国、地方行政、そして産業界が協力して長期的な実践プランを作り、明日必要な人材が明日になったら確実にいる、という状態をなんとしてでも作り出さなければならない。
コンピュータがもはやコンピュータの専門家のものではない今日および未来は、生徒たちに確実に正しい知識とスキルを身につけてもらうために、コンピュータ科学がもたらす多様な可能性に生徒たちを今から触れさせることが重要であり、そしてそのためには、企業が必要とするスキルに関して、教育者と雇用者がオープンな対話を定常的に継続することが重要だ。これによって公的教育に投じられる資金も増え、人種や性別を問わずすべての生徒に、コンピュータ科学を学んだことにより、より良い就業機会を与える。それは、コンピュータ科学者になることだけでなく、公務員、保健医療プロバイダ、ミュージシャン、などなど、何であっても、コンピュータの知識と技能がその職業に力を与える。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))