トランプ大統領が就任して以来、いくつかのテック大企業が大統領の攻撃の対象となっているが、これまでのところGoogle への攻撃は最も長期にわたるものとなっている。トランプ大統領はワシントンD.C時間で午前5時半までにいくつかツイートした。その内容とは、“Trump News”とタイプしての検索結果にアルゴリズム的偏りが見られる、というものだ。
いや、大統領は“algorithmic(アルゴリズム的)”という4音節の言葉は使っていない。しかしおそらくツイート時点ではまだその日最初のコーラは飲んでいなかっただろう。
怒りに満ちたツイートでトランプは「“Trump News”と検索をかけた結果の96%は全国展開する左翼メディアのものだ」と、根拠となるソースを明らかにしないまま具体的に主張している。続けて「Googleなどは保守派の声を抑圧し、情報や良いニュースは隠している」と、根拠のない主張を展開した。
Guardianは、96%という数字はPJ Mediaのウェブサイトに週末に掲載された記事からきているのだろう、とみている。その記事とは、“Trump” という言葉でGoogle検索をかけた結果トップ100の“非科学的”調査では、“右翼寄りのコンテンツに対し偏りパターンが認められる、というものだ。
トランプは“こうした状況に対処する”という警告でツイートを締めている。ただし、具体的に何をするつもりなのか示してはいない。Twitter で怒りながら方針を示すというこのやり方は、トランプのトレードマークとなっている。弾劾のささやきが聞かれるようになり、政治的背景が広がりをみせる中で、トランプに関する否定的なヘッドラインに対して自ら批判を展開するというのは、最近彼の周りで起こりつつある法的な問題から注意をそらすための試みといえる。しかし、それが何だというのだろう。
怒りに満ちたツイートは下記の通りだ。
“Trump News”とGoogleで検索すると、フェイクニュースメディアの映像やレポートばかりが出てくる。言い換えると、Googleは私にとってほとんどのニュースが悪いものになるよう操作している。フェイクCNNが圧倒的に多い。共和党や保守派、公正なメディアは締め出されている。違法なのでは?
— ドナルド J. トランプ (@realDonaldTrump) August 28, 2018
“Trump News”という言葉でのGoogle検索の96%が全国展開する左翼メディアのもので、これはかなり危険だ。Googleなどは保守派の声を抑圧し、情報や良いニュースは隠している。彼らは、我々が見ることができるもの、できないものをコントロールしている。これは非常に深刻な問題で、対処する!
— ドナルド J. トランプ (@realDonaldTrump) August 28, 2018
TechCrunchはGoogleにコメントを求めた(アップデート:GoogleはTechCrunchに対し電子メールで、政治的思想を反映させるために検索結果が歪められたり、操作されたりしているという考えに真っ向から反論する声明を明らかにした。
Googleの広報は下記のように述べている。
ユーザーがGoogle検索バーに調べたいことをタイプするにあたり、我々のゴールはユーザーが最も関係のある答えをものの数秒で得ることができるようにすることだ。検索は政治アジェンダを設定するために使われるものではなく、検索結果が特定の政治的イデオロギーに偏ることはない。ユーザーの質問に対し高品質のコンテンツを網羅できるよう、我々は毎年、アルゴリズムに何百もの改善を加えている。我々は引き続き、Google検索を改良し、政治情勢を操作するために検索結果に順位をつけたりするようなことは決して行わない。
皮肉にも、トランプのGoogle攻撃ツイートの後に“Trump News”で検索をかけてみたら以下のような結果が表示された。トップストーリー欄に、右翼系ニュース組織として知られるFox Newsがきている。つまり…
Googleの検索結果が個人の検索動向に左右されるということをトランプが知っているかは定かではない。そして、トランプが自身についてのニュースを検索するとき、もし自身についてのたくさんの悪いニュースを目にするとしたら、フロイドなら、トランプが絶えず嫌いだと明言し“フェイク”だと主張しているニュースソースと自己陶酔妄想のつながりを解くのはたやすいことだろう。しかし、繰り返しになるが、それが何だというのだろう。
もちろん、トランプがここで主張していることの大部分は紛れもなくナンセンスだ。特に彼の“がん”となっている’キャッチフレーズ’フェイクニュース’は、真実かどうかは関係なく、トランプの意に沿わないもの全てに使われている。
しかし、トランプの主張の中で一つだけ真実のものがある。Googleが西洋諸国において検索分野で圧倒的シェアを誇っている(欧州では非常に優勢である)ことを考慮したとき、Googleがおそらく“見るもの、見えないものをコントロールしている”ということだ。そして、ほとんどのインターネットユーザーが、Googleの検索結果ページなしにクリックすることはないだろう。もしくは、トップニュースの結果をブラウズさえするのではないか。
ゆえに、必然的にGoogleのアルゴリズムが作り出す情報のヒエラルキーは、情報を浮上させたり定着させたりすることができる。別の言葉に言い換えれば、Googleの最初のページに登場しなければ、そのまま残り続けるということはできない。
見るもの、見えないもののコントロールについてのGoogleの影響力に関し、もう一ついい例がある。近年ヨーロッパにおいて、Googleは個人に関係する特定の検索結果を、要求があれば索引から外している(要求をレビューしたのにちに決定している)。これは欧州の最高裁判所が定める法に則るためだ(いわゆる、忘れられる権利だ)。これにより、公の人ではない個人に関する特定のデータスポットが多くの人の目にさらされる、ということが起こりにくくなっている。
一つの企業が、情報の入手をめぐり影響力を持つ(そして世論を形成する可能性もある)のは懸念材料だ。
特にGoogleのアルゴリズムを活用した検索エンジンは独占状態のブラックボックスで、情報の精査がフェアなものなのか、あるいは適切なものなのか外部は知る由もない。(繰り返しになるが、欧州ではGoogleは買い物検索でライバル社のものより自社の製品を多く宣伝したとして、罰金を科せられている。その後、Googleは独占禁止のルールに従って検索結果を変更した。論争の余地は残るものの、法律的には議員にアピールするようなものとなっている)。
なので、Googleが情報回復プラットフォームでの人気度を使って奇妙な力を作用させることは可能である、という点でトランプは正しい。
トランプが独断で選び、自己本位で物事を考えた主張ー例えば、96%が偏っているとしたことーには全体的に根拠がない。この96%という数字は、米国の保守系ニュースブログが実施した、非科学的な調査に基づいている。そのあたりを適切に判断しなければならない。
それにも増して、西洋社会において一つの営利目的の企業がGoogleのように独占的かつメーンストリームにあると、ユーザーの大多数にとってさほど有益でないものにするために故意的にそして体系的に政治的偏見をそのアルゴリズムに組み込むという考え方は、正直馬鹿げている。
もしそうだとしたら、テック企業のプラットフォームが全く逆の問題を抱えているだろう。プラットフォームが個人向けにカスタマイズされたものだけを提供し、人々に1つの政治的思想しか与えなければ、ユーザーのイデオロギーの視野は狭くなってしまう(脇道にそれるが、こうした手法はトランプ現象そのものを説明するのに使えるものだ)。
にもかかわらず、大統領はテック企業をツイッター上でのサンドバッグとし続けている。例えば、先月、彼は共和党ユーザーを“シャドーバン”にしたとしてTwitterを非難している。Twitterがすぐさま出した否定する声明では、「我々はシャドーバンはしない。ユーザーはいつでもフォローするアカウントのツイートを閲覧できる(そうしたツイートを閲覧するためには、直接彼らのプロフィールにいくなどしなければならないが)。そして当然のことながら、我々は政治的な考え方やイデオロギーに基づいてシャドーバンすることもない」。
確かなのは、トランプが己の怒りを自ら悪化させたというニュースは今後ますます大きなものになり、ツイートは確実に拡散するだろう。
アップデート:The Hillによると、ホワイトハウス経済アドバイザーのLarry Kudlowは記者団にトランプのツイートの真意について尋ねられ、Google取り締まりの可能性を“調査する”と述べた。
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)