MovesはギグワーカーにUber、Lyft、DoorDash、Grubhubの株式を提供しようと取り組む

トロントを拠点とするギグエコノミーフィンテックのスタートアップMovesは、ギグワーカーらが所属する企業の株式を、ギグワーカーへの報酬として提供できるようにしたいと考えている。Moves Collectiveと名付けられた同サービス。第一弾として木曜日にはUberの株式を提供し、その後すぐにLyft、DoorDash、Grubhubの株式を提供する予定だとMovesのCEOであるMatt Spoke(マット・スポーク)氏は話している。

ギグワーカーたちが株主になれば、彼らが働くプラットフォームと彼ら自身の経済的なつながりをより強く感じてもらうことができるかもしれない、というのがMovesの考えである。さらにMoves Collectiveを通じて十分な数の労働者がこれら企業の株式を保有すれば、将来的には議決権を持つ集団を形成して企業の意思決定に実際に影響を与えることができるかもしれないと考えているのである。Movesによると、Moves Collectiveはすでにこれらの企業の「かなりの株式」を保有しており、そのすべてが議決権付きの普通株式だという。

この1年間、ギグエコノミーワーカーの劣悪な労働条件が労働者の抗議行動を引き起こし、カリフォルニア州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州ではギグワーカーを従業員として見直し、ヘルスケアや休暇手当、有給病気休暇などの基本的な権利を与えようとする試みが行われてきた。Uber、Lyft、DoorDash、Instacartなどの企業は、カリフォルニア州で進行中の「Proposition(プロポジション) 22」をめぐる騒動に反撃し、マサチューセッツ州ではギグワーカーを独立した契約者として分類する提案を2022年11月の投票にかけるための連合体を結成している。

「ギグワーカーはギグエコノミーに膨大な価値をもたらしていますが、貢献した結果としての経済的リターンはまったく得られていません。私たちが解決しようとしているのは、ギグワーカーのみなさんが働いている企業の成功には、彼らが経済的に関与しているのだと感じられるようにすることです」とスポーク氏はTechCrunchに話している。

すでに同社のプラットフォームを利用しているギグワーカーは、Collectiveに登録して株式という形で報酬を受け取ることが可能だ(ギグワーカーはさまざまな企業からの金を追跡および管理し、毎月の支出口座や最大1000ドル(約11万4000円)までの即時ビジネスキャッシングを利用できる)。「3人の友人を紹介する」や「ユーザーアンケートに参加する」など一連のタスクをこなすことで、ギグワーカーは無料の株式や株式の一部を受け取ることができ、その株式はMovesが開設したユーザー自身の証券口座に入るという仕組みになっている。

「Moves Collective」という名の通り、長期的には莫大な数のギグワーカーを結集させて企業のガバナンス決定に反映させられるだけの声を生み出すことを目的としている同社。ギグワーカーの利益を確実に反映させるために、これら大手プラットフォームの年次株主総会で委任状資料の提出を提案する予定だとスポーク氏は話している。

ギグワーカーがMovesカードを使って買い物をするたびに蓄積されるインターチェンジレートがMovesの主な収益源となっており、またその収益がMovesからワーカーに還元される株式の原資となっている。

「新規顧客を獲得し、その顧客を維持するために、収益を効率的にトレードしていると言えるでしょう。ギグワーカーの当座預金の利用で我々が得た収益を商品に還元し、株式建ての報酬の資金を調達しているのです」とスポーク氏は説明する。

現時点では同プログラムは招待制になっており、株式報酬プログラムであるBumped Financialとの提携により株が蓄積されている。スポーク氏によるとMovesはInstacartの株購入を見据えて同社のIPOにも注目しているという。またFlexの配達員にはAmazonの株を、Shiptの作業員にはTargetの株をサポートすることも検討しているという。

アプリを使ったギグエコノミー企業はどこも「同じ問題」を抱えているとスポーク氏はいう。「ドライバーや作業員の離職率が非常に高く、作業をしてくれる人が定着しないのです。彼らは他のギグアプリに移るか、ギグエコノミーから完全に離れてしまうため、これらの企業は何千万ドル、何億ドルもの費用をかけて常に労働者を入れ替えているのです」。

参考:Uberがドライバーを取り戻すためにインセンティブとして2億5千万ドル(約285億円)を費やした結果、第2四半期に大規模な損失が発生

UberとLyftは株式公開前、ドライバーの定着率を高めて、労働者のロイヤルティを生み出す仕組みとしてドライバーに株式を発行することを検討したものの、規制上の問題が両社の真摯な取り組みを阻んだ。最終的に両社は一部のより活動的なドライバーに対して一度限りの現金を支給し、株式を購入するオプションを与えることにした。Uberはドライバーに向けて全体の3%にあたる普通株540万株を用意したが、ドライバーによって買い占められなかった場合は一般に提供すると伝えている。

参考までに書くが、株式公開時に8.6%の株式を保有していたUberの創業者兼CEOのTravis Kalanick(トラビス・カラニック)氏は、その持ち株で約50億ドル(約5691億円)を得ている。また5.2%の株式を保有していたAlphabetは約32億ドル(約3643億円)を獲得。当時、米国を拠点とするドライバーは、最大1万ドル(約114万円)相当の自社株を購入できる現金ボーナスを利用することができたのである。

ギグエコノミーに依存している企業が労働者にストックオプションを提供する際の規制は、非常に厳しいものとなっている。SEC Rule 701は、企業が従業員、コンサルタント、アドバイザーに報酬としての株式を発行する際に、詳細な財務記録を提出する必要がないことを認めているが、ギグカンパニーにはこの適用除外がうまく当てはまらない。2018年、SECは働き方の変化に適応するためにルールを拡張するとした場合の、可能な方法についてコメントを要求した。Uberは締め切り日を過ぎたものの回答を提出し「パートナーに会社の成長を共有することで、パートナーとその先の世代の収入と貯蓄の機会を強化」できようにするためにSECがルールを改定するよう要求している。

現在の法律では、UberやLyftがドライバーに株式でインセンティブを与えようとすれば、雇用者のテリトリーを侵害することになりかねない。しかし、UberやLyftのこれまでの姿勢を見ると、このようなサービスは将来的に外部に委託することになるのではないだろうか。

「Uber、Lyft、DoorDash、Instacartの4社がProp 22のような課題で一致団結し、新たな規制に反対するロビー活動を行っていることもあり、彼らはこれが業界にとって全般的にプラスになるとは考えていないでしょう」とスポーク氏。「最終的に我々は彼らと経済効果を共有する方法を模索することになると思います。1年後、2年後には、弊社が提供できる具体的な利益についてUberと話し合い、『Uber株を発行されたドライバーは、より長く働く可能性がX%高いためこの資金調達に一部参加すべきだ』などと提案することになるでしょう」。

Movesによると、現在全米50州で約1万人のユーザーが同社のプラットフォームを利用しているという。ライドヘイリング業界がパンデミックで大打撃を受ける直前の2020年2月に設立され、2021年4月から市場に進出した同社。来年前半には再び資金調達を開始する予定だが、スポーク氏によるとMovesは事業のシナリオにおけるユニットエコノミクスを洗練させ、Moves Collectiveのユースケースが出来上がるまでは、資金調達を行いたくないと考えている。

「Uberがドライバーを大切にしていないわけではないのですが、ドライバーは彼らの主要なステークホルダーではありません」とスポーク氏。「Uberの主なステークホルダーは消費者です。彼らは消費者側の市場価値を革新するために全力を尽くしており、労働者は後回しにされていることが多いのです」。

画像クレジット:Moves

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

ニューヨーク市でデリバリーアプリワーカーの待遇改善法案が可決、トイレに行ってもいいよ!

ニューヨーク市議会で米国時間9月23日成立した条例により、GrubhubやDoorDash、Uber Eatsなどのアプリで配達をしているギグワーカーの最低賃金が決まり、労働条件が改善される。具体的には、デリバリーワーカーはレストランのトイレを使用でき、配達の最長距離を指定でき、1回の配達における最低賃金を設定でき、チップは確実にワーカーが入手できるようになる。米国の大都市がこのような法制を敷くのはこれが初めてであり、フードデリバリー企業とその何千名にものぼる契約労働者との関係に対する、行政の介入の前例となる。

一連の条例は、ニューヨーク市のNPO法人Workers Justice Projectから生まれた、主に移民のデリバリーワーカー団体であるLos Deliveristas Unidos(LDU)からの要望や陳情に基づいて起草された。同団体はパンデミックの間に労働条件の改善を求めて抗議活動を行い、4月にはニューヨーク市の最大のサービス労働者の組合であるSEIU Local 32BJに正式に加入している

Workers Justice ProjectのLigia Guallpaが、デリバリーワーカーを支援する市議会の票決に先駆けてスピーチしている。

LDUのウェブサイトには「実際にはフードデリバリーワーカーの多くが、複数のフードサービスアプリのために、1日に12時間以上、寒さと雨の中でも働き、それでも家族を養える収入を得ていない」とある。

LDUの幹部の1人は、VICEで次のように語っている。「ギグワーカーを金で釣って雨や雪でも仕事をさせているため、危険な天候が高収入を得る機会になる。今月、ニューヨーク市で13名が死んだハリケーンIDAのときも、デリバリーワーカーは食べ物を運び、洪水の最中でも注文に応えていた。DoorDashはマンハッタンでサービスを中止し、Grubhubもニューヨーク市内の一部でサービスを中断したが、それでも多くのギグワーカーがボーナスやインセンティブを求めて、身を危険にさらしながら仕事を続けました」。

こんな天候の中で、Grubhubのデリバリーはまだあなたのディナーの配達をしている。

ハリケーンIDAのこのような状況は、何年間も自明だった真実を照らし出している。デリバリーアプリの契約労働者は生活費を得るために苦労しているため、高額な賃金に釣られて自らを危険にさらす。それと同時にDoorDashやUber EatsやGrubhubのような企業は、パンデミックの間でありながら仕事が増えても、お金は儲からない

LDUはニューヨーク市の500名あまりの、アプリを利用する配達人を調査し、12.21ドル(約1349円)という時給をはじき出した。それは、市が定めている15ドル(約1657円)の最低賃金より少ない。それだけでなく、デリバリーワーカーは、交通費を自分で負担しなければならない。ニューヨーク市の場合その交通手段は主に電動自転車だ。また、デリバリーワーカーは窃盗に遭いやすい。さらに、今回の調査の回答者の49%が配達時に事件や事故に遭い、75%が医療費を自前で払ったと回答している。しかしDoorDashはTechCrunchに対して、マンハッタンでは1時間に33ドル(約3645円)稼いでいると述べている。

DoorDashはTechCrunch宛の声明で次のように述べている。「ニューヨーク市のデリバリーワーカーが特殊であることは私たちも十分理解しており、彼らのためになるポリシーの発見に労使協調して努めています。そのため2020年は、ワーカーの安全を守り収入を上げ、トイレへのアクセスを広げる業界初の取り組みを発表した。市議会も含め、すべてのステークホルダーとの協調は今後も継続すべきであり、予期せざる結果にならないよう十分注意しながら、ニューヨーク市のすべてのデリバリーワーカーを支援する方法を見つけなければなりません」。

DoorDashは今回の条例への懸念として、トイレの利用に際していちいちレストランの許可を必要なのはおかしい、と述べている。DoorDashでは最初の契約時に、デリバリーワーカーによるトイレの利用を契約条項に含めている。

画期的だ!おめでとう。LDUの@workersjusticepは歴史的な市条例を勝ち取り、デリバリーワーカーにトイレの利用と賃上げとチップの透明性と、さらにそれ以上のものを与えた。エッセンシャルワーカーのための闘争を、ともに続けよう!

Grubhubも条例の支持を表明している。同社はTechCrunch宛の声明で「これらの条例は、ニューヨークのレストランと住民のために毎日厳しい労働をしているデリバリーワーカーを支援する常識的なステップである。彼らが確実に生活給を付与されトイレにアクセスできることは、単なる名案ではなく、当然やるべきことだ」。

その他のアプリのギグワーカーもデリバリーと同様の問題を抱えている。今週初めにInstacartの契約労働者1万3000名を擁する団体Gig Workers Collectiveは、賃上げや労働条件の改善など5つの要求にInstacartが応じるまではアプリを削除するよう顧客に求めた。これらのアプリのワーカーは従業員(正社員)ではなく契約労働者となっているため、最低時給をはじめ保護が少ない。Instacartは過去に、ワーカーのチップを賞与額に含めていた。

ニューヨーク市の約8万名のデリバリーワーカーにとっては、今日の条例が前向きな変化となる。しかしテクノロジー企業が実際にその最低賃金を支払い、労働者のニーズの充足を保証するかは、まだわからない。

画像クレジット:撮影Tomohiro Ohsumi/Getty Images/Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Uber Eats、Grubhub、DoorDashが配達手数料制限を法制化したNY市を提訴

アプリがレストランのサービス利用に対して請求できる手数料の金額を恒久的に制限する法律をめぐり、フード注文・デリバリープラットフォームのDoorDash(ドアダッシュ)、Caviar(キャビア)、Grubhub(グラブハブ)、Seamless(シームレス)、Postmates(ポストメイツ)、Uber Eats(ウーバーイーツ)がニューヨーク市提訴で結束した。

これらの企業が米国9月9日夜に連邦裁判所に訴訟を起こし、NY市の法律の施行、不特定の金銭的損害、陪審員による裁判を回避する差止命令を模索している、とウォールストリートジャーナル紙が最初に報じた。

ニューヨーク市議会は2020年、パンデミックによるロックダウンで苦境に陥ったレストラン業界の負担を軽減しようと、サードパーティのフードデリバリーサービスがレストランにデリバリー注文1回につき15%超を、マーケティングと他のデリバリー以外のサービスに対して5%超を課金するのを禁じる時限立法を導入した。NY市を提訴した企業は、クイーンズ区選出の市議会議員Francisco Moya(フランシスコ・モヤ)氏が6月に提出した法案のもとで8月に恒久化された手数料の制限が、すでに数億ドルの損害を生じさせた、と主張している。

「新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、原告のようなサードパーティのプラットフォームはレストランの経営や食産業労働者の雇用の継続の助けになりました。ここには地域のレストラン向けのコロナ救済活動への何百万ドルという資金提供も含まれます」と訴状にはある。「にもかかわらずニューヨーク市は、民間の極めて競争が激しい産業、つまりサードパーティのラットフォームを通じたフード注文・デリバリーの促進に恒久的な価格統制を課すという異常な手段を取りました。そうした恒久的な価格統制は原告に対してだけでなく、市が奉仕を約束している地域密着のレストランの活性化にもに害を及ぼします」。

他の自治体もまたパンデミックの間に似たような手数料上限を設けたが、パンデミックが落ち着き、レストランが店内営業を始められるようになったのにともない、大半はそうした措置をなくした。サンフランシスコ市は、恒久的な15%上限を導入することを決めたひと握りの自治体の1つで、アプリベースの企業はサンフランシスコでも訴訟を起こしている。高ければ注文1件あたり30%にもなる手数料の制限の延長は「公衆衛生の非常事態とまったく関係がなく」、随意契約に干渉し、また「ダイナミックな産業の運営に経済的条件」を指示しているため、違憲だと主張している。

暫定法では、上限を破った場合、レストラン1軒につき1日あたり最大1000ドル(約11万円)の罰金が科される。新しい法律によりレストランと契約を結び直す必要に迫られるばかりか、消費者への価格をあげて配達員の稼ぐ力を損なうことになる、と原告企業は述べた。

また、NY市が地域のレストランの収益性を改善したければ、配達サービスの手数料を抑制する代わりに、減税したり市の懐から助成金を出したりすることができるはずだ、とも主張している。

「しかしそうした合法的なオプションの1つを取るのではなく、NY市はサードパーティプラットフォームに対して敵意丸出しの不合理な法律を導入しました」と原告企業は述べた。その際、マヨ氏が配達料金にかかる手数料を10%を上限とする法案を提出した後の同氏のツイート「NYCの地域のレストランは新型コロナが直撃するずっと前から、GrubHubのようなサードパーティサービスの配達料金に10%の上限を必要としていました。レストランは今そうした上限を心底求めています」を引用した。

今回の法制化は、消費者のためにコストを安く抑えようとしてレストランとギグワーカーの両方に負担を強いていると批判されているアプリベースの配達企業に対してますます厳しい目が向けられている中でのものでもる。直近では、カリフォリニアの上位裁判所が、そうした企業が引き続き労働者を従業員ではなく独立請負人として分類できるようにするProposition 22は違憲とする判決を下した。この判決を受けて、DoorDashの労働者は先に、賃金アップとチップに関するさらなる透明性を求めてDoorDashのCEO、Tony Xu(トニー・シュー)氏の自宅の外で抗議活動を行った。一方、マサチューセッツ州ではProp 22同様の法律について、2022年11月に投票が行われることになった。

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「レストランは手数料を通じて配達などさまざまなサービスの代金をアプリベースの配達会社に払っています」とNY市を相手取った訴訟で匿名の配達員は述べた。「こうした手数料に上限を設けることは私のような人の収入が少なくなることを意味します。手数料の上限はまた、私が届ける顧客にとって配達サービスがより高価なものになり、ひいては私への配達依頼が少なくなることにつながるかもしれません」。

画像クレジット:Tomohiro Ohsumi/Getty Images / Getty Images

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】即日配送サービスがパンデミック後に生き残るためにはスピードだけでは不十分

スピードと利便性を中心としたまったく新しいeコマースの時代が到来した。ビジネスリーダーたちは、より迅速な配送サービスのため、配送能力の強化を優先事項とする必要に迫られている。

PwC(ピー・ダブリュー・シー)が2021年6月、8500人以上の消費者を対象に実施した「世界の消費者意識調査」では、オンラインショッピングの最も重要な要素として「迅速で信頼できる配送」を挙げており、eコマースの世界では配送サービスがますます重要になっていくことが明らかになった。

消費者が即日配送(および同時間配送)サービスモデルに慣れてきた今、配送オプションに対する消費者の期待は高まる一方だ。

実際、モバイルアプリのインテリジェンスプラットフォームであるSensorTower(センサータワー)の最新レポートによると、2021年1月と2月、上位のフード配送アプリは成長を続け、インストール数は前年同期比で14%増加した。しかし、DoorDash(ドアダッシュ)、Uber Eats(ウーバーイーツ)、GrubHub(グラブハブ)は、ユーザー数が増加しているにもかかわらず、利益が出ていない。では、ビジネスリーダーは、どうすれば消費者の期待に応えるスピードと高い収益性を兼ね備えた配送モデルを構築できるのだろうか。

課題:配送アプリが収益性を高めるには、スピード以外の何かが必要だ

競争力を維持するために、配送アプリはサービスを見直し、提供するサービスの幅を広げている。

Uberの食料品・新分野担当グローバルヘッドのRaj Beri(ラジ・ベリ)氏は「アマゾンは『ネクストデーデリバリー(翌日配送)』を推進している。当社は、『ネクストアワーコマース(1時間商取引)』を推進する」と5月に述べている

しかし、配送プロセスの高速化が、必ずしも収益につながるとは限らない。さらに重要なことは、迅速な高速配送を実現しても、宅配サービス全体として優れた顧客体験を提供できなければ顧客のロイヤルティは獲得できないということだ。

配送アプリや、配送サービスを提供しようとしているeコマース企業が直面している主な課題は、顧客にとってのスピードや利便性だけでなく、顧客体験におけるすべての側面を考慮した基盤を構築することだ。例えば、食品を配送する場合、配送を担当する業者は、食品を安全に取り扱い、汚すことなく配送しなければならない。温かいもの、冷たいものにかかわらず、配送中の温度を維持し、注文どおりのものを届ける必要がある。

ソリューション:即日配送には高度なテクノロジープラットフォームが不可欠

あらゆるものが「Uber化」し、消費者の期待が劇的に高まっている昨今、配送ビジネスで利益を上げるためには、配送アプリとドライバーの集団だけでは不十分だ。即日配送サービスを確実に遂行するためには、注文を受けてから顧客の手元に届くまでの間に、いくつものステップが滞りなく行われなければならない。また、商品が複雑であればあるほど、配送プロセスも困難なものとなる。

即日配送サービスを実現すると同時に収益性を高めるためには、顧客の期待に応えるためのテクノロジーを考慮した配送アプリが必要となる。それは、単にユーザー数を増やすためにアプリをデザインするだけではない。優れた顧客体験を提供する即日配送モデルが真に成功するためには、カスタマージャーニーにおけるさまざまな側面を一元的に管理し、顧客の視点でシームレスに見せることができる高度なソフトウェアプラットフォームが必要だ。

収益性の高い配送サービスは、人工知能システムとロボット工学を駆使した自動化システムによって構築される。そのためには、アプリのデザインやユーザー数の増加よりも、まずテクノロジーが重要となる。それ以外の配送ビジネスモデルでは、本末転倒となってしまう。

Domino’s Pizza(ドミノ・ピザ)は、テクノロジーをビジネスモデルの中核に据えることで、配送プロセスを完成させ、全体的な顧客体験を大幅に向上させたブランドだ。その転機となったのは、同社が自らを「ピザを販売するeコマース企業」と定義した時だった。同社は、データ活用に力を入れ、ロボット工学テクノロジーに基づくプラットフォームを導入し、配送プロセスにスピードと効率をもたらす電子配送システムを実現した。そして2021年4月には、ヒューストンの一部の顧客を対象に、ロボットカーNuro(ニューロ)による配送サービスを開始した。

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ロシアYandexの自動運転部門がGrubHubと提携、米国の大学キャンパスにロボット配達を展開

グラブハブもまた、ロボット機能を配送プロセスに組み込むための取り組みを行っている。最近の報道によると、同社は、ドローンのようなロボットを配備した自動運転ユニットを導入し、大学生に食品を配送することを発表した。このプログラムは、今秋に米国の特定の大学キャンパスで展開される予定で、配送時間の短縮と、できればコストの削減を目指している。

このようにテクノロジーを重視することは、配送アプリの世界ではもちろんのこと、新たに台頭してきた「ネクストアワーコマース」の領域で競争しなければならない企業にとっても重要だ。アプリを開いて商品をクリックし、決済を行って配送の予約をするまで、そしてさらにその先まで、カスタマージャーニーのすべての要素をつなぐことができるテクノロジープラットフォームに投資することが、収益性の高いビジネスモデルを成功させる鍵となる。

即日配送:これから目指すところ

誰もが携帯電話でアプリを開き、何でも欲しいものを1時間以内に届けてもらいたいと願う世の中では、ビジネスリーダーは、自社開発であれ、他社との提携であれ、配送アプリそのものに注目したくなるものだ。しかし、アプリだけに注目するのは、即日配送モデルに対する近視眼的な見方といえる。

その代わりに、ビジネスリーダーは広い視野で、カスタマージャーニーのあらゆる側面を考慮する必要がある。顧客はどのように自社のビジネスに関わっているのか。顧客はどのように自社の商品を探し、どのように見つけているのか。注文を完了するには何が必要で、注文を届けるためにはどのような条件が満たされる必要があるのか。また、注文がスムーズに行われ、顧客の満足を得るためには、注文後に何が必要なのか。

配送アプリとの提携に成功している企業もあるが、これには自社のブランドの評判を、顧客と接する最前線の従業員の役割を果たす他社に委ねるというリスクがともなう。また、既存のeコマースモデルに配送サービスのオプションを追加している企業もある。その場合、既存のテクノロジースタックに統合できるサードパーティのソフトウェアを利用する。残念ながら、この方法には限界があり、複数のコンポーネントを含む規制対象のビジネスには適用できない。

即日配送サービスでシームレスな顧客体験を実現する唯一の方法は、テクノロジーをビジネスの中心に据えた独自のソフトウェアプラットフォームを構築することだ。そうすることで、主要なプロセスを自動化し、配送モデルにスピードと利便性を持たせることができる。また、注文を迅速化するロボットシステムの統合、ビジネスの成長を促進する人工知能プロトコルの組み込み、ビジネスの拡大に合わせた配送モデルのスケーリングも可能となる。

新時代のeコマースで成功するために

「ネクストアワーデリバリー」というキャッチーなフレーズが消費者の支持を得ることは間違いないが、それが利益の向上につながるかどうかは不透明だ。即日配送サービスを中心に収益性の高いビジネスモデルを構築してきた企業のCEOである筆者は、配送システムを支えるテクノロジーに自動化、人工知能、あるいはロボット工学が欠けている場合「ネクストアワーデリバリー」というサービスが収益を向上させるかどうかについては懐疑的だ。

確かに、企業は即日配送での競争を余儀なくされるだろう。しかし、パンデミック以降に明らかになったもう1つの確かな事実は、この新しいeコマースの時代には、スピードだけでは満たされない、消費者の期待の高まりがあるということだ。顧客の満足度は、アプリで注文した商品が顧客のもとに届くまでの時間だけで決まるものではない。

配送サービス市場で成功するには、ビジネスリーダーはいくつかの観点で自問自答してみることだ。即日配送を実現するためには、自社のビジネスのどの部分が必要か。注文方法は直感的か。顧客は注文や配送の状況を確認できるか。届けた商品が正しいことを確認できるか。顧客の期待に応えているか。

そして、最も重要なことは、そのビジネスが、商品の検索、購入から即日配送、さらにその先まで、カスタマージャーニーと配送モデル全体をサポートできるテクノロジープラットフォームの上に構築されているかということだ。これらの質問に「イエス」と答えたビジネスこそが、パンデミック後の世界で成功すると信じている。

編集部注:Cary Breese(ケアリー・ブリーズ)氏は、デジタル薬局NowRxのCEO兼共同創業者。

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画像クレジット:Henrik Sorensen / Getty Images

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(文:Cary Breese、翻訳:Dragonfly)

ロシアYandexの自動運転部門がGrubHubと提携、米国の大学キャンパスにロボット配達を展開

ロシアの大手ハイテク企業であるYandex(ヤンデックス)の自動運転部門としてスピンオフしたYandex Self-Driving Group(ヤンデックス・セルフドライビング・グループ)は、フードデリバリーサービスのGrubHub(グラブハブ)と提携し、米国の大学キャンパスで複数年にわたりロボットによる配達を行うと発表した。Yandex Self-DrivingのDmitry Polishchuk(ドミトリー・ポリシュチュク)CEOからの発表によると、同社はこのパートナーシップの期間中に250以上のキャンパスにサービスを提供したいと考えており、まずは今秋に数十台のロボットを導入することから始めるという。

Yandexの自動運転部門は、2020年9月にUber(ウーバー)との合弁会社からスピンオフした。2021年5月には、自動運転で合計700万マイル(約1100万キロメートル)の走行距離を記録し、当時のWaymo(ウェイモ)を上回ったと発表している。Yandexは2017年よりフルサイズの自律走行車を開発しており、イスラエルのテルアビブやミシガン州のアナーバー、ロシアのイノポリスで、ロボットタクシーを使ったテストを行っている。2020年4月には、ロシアのスコルコボで、同社の自律走行車と同じ自動運転技術スタックを搭載した重量約68キログラムの6輪自動走行ロボット「Yandex.Rover(ヤンデックス・ローバー)」による商業配達を初めて開始した。

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「技術は確かに非常に複雑ですが、小さな町や大都市の特定の地区では、配送ロボットやロボットタクシーの形で導入を開始できるレベルに達しています」と、同社の広報担当者はTechCrunchに語り、次のように続けた。「3~4年後には、モスクワやニューヨークのような都市の中心部における渋滞時間帯に、経験豊富な人間のドライバーと同じように、安全かつ効率的に運転できるレベルに到達すると、私たちは確信しています」。

Yandexの商業化へのアプローチは独特だ。自動車用の自律走行技術を開発している多くの企業の中でも、Yandexはまずロボットで市場に出ようとしており「それは非常に効率的な方法のように思えます」と、広報担当者は語っている。「2018年6月に始まった配達用ロボットを作るというアイデアから、このようなきちんとした商業契約を結ぶまでに2年を要しました」。

Yandex.Roverは、ロシアではすでにフード配達プラットフォーム「Yandex.Eats(ヤンデックス・イーツ)」と食料品速達プラットフォーム「Yandex.Lavka(ヤンデックス・ラフカ)」で商用テストを行っている。同社の発表によると、Yandex.Roverは、時速5〜8キロメートルで移動し、歩道、歩行者エリア、横断歩道を自律的に運行できる。自動車が通行不可のキャンパスエリアには適したアイディアだ。このサービスはすでにGrubHubのアプリに完全に統合されている。ユーザーエクスペリエンスの面では、ローバーが目的地に到着すると、顧客はプッシュ通知を受け取り、外に出てアプリでロボットのハッチを開けることができる。

Yandexによると、同社の配送ロボットは、昼夜を問わず、雨天時や雪天時にも、信号機付きあるいは信号機のない横断歩道でも、運行させることができるという。ローバーはほとんどの場合、自律的に運行可能だが、同社の広報担当者によると、酔っぱらった大学生に乗られるなど、困難な状況に陥った場合には、遠隔支援のリクエストを送信することがあるとのことだ。

同社では、まだGrubhubとの提携を反映したロボットのブランド化は行っていないとTechCrunchに語っているが、今秋に数十台の車両を送り出すという目標が、無理なく達成できることを期待していると述べている。

「Yandexと協力して、大学生のフードデリバリー体験を変えていきます」と、Grubhubの法人・大学パートナー担当バイスプレジデントであるBrian Madigan(ブライアン・マディガン)氏は語っている。「私たちは、学生たちのユニークな食事のニーズに対応しようとしている全国の大学に、費用対効果が高く、拡張性があり、迅速なフードの注文 / 配達機能を提供できることをうれしく思います。大学のキャンパスは、特にフードデリバリーにおいて、自動車の乗り入れが難しいことで知られていますが、Yandexのロボットは、自動車が通行できないキャンパスの一部にも簡単にアクセスすることができます。これは大学が新しいテクノロジーを導入する際に直面する大きなハードルを効果的に取り除くことになります」。

問題は、新型コロナウイルス収束後の秋の新学期が始まる頃、酔っ払った男子学生がロボットを破壊したり盗んだりしようとする危険を掻い潜って、それらのロボットのうち何台がYandexに戻って来られるかということだ。

Yandexは、ロボットタクシーサービスの開発も継続して事業の商用化を進め、同社の自動運転技術をさまざまな場面で活用していきたいと述べている。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:YandexGrubHub自動運転ロボット配達フードデリバリー

画像クレジット:Yandex Self-Driving Group

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)